説明

シフト装置

【課題】シフトフォークの爪部の耐磨耗性を向上させるシフト装置を提供すること。
【解決手段】軸7上に遊嵌された変速ギヤ5と係合自在なスリーブ4と、円弧状に延在する腕部1a及び腕部1aの先端に形成されスリーブ4と摺動ないし係合する爪部1bを備えスリーブ4を軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォーク1と、を有するシフト装置において、爪部1b上に冷却フィン2が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト装置に関し、中でも、変速装置を操作するシフト装置に関し、特に、マニュアルトランスミッションの変速切替部に用いられるシフトフォークを有するシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シフトフォークは、マニュアルトランスミッションなどの変速切替部に使用され、スリーブを保持している。トランスミッションのシフト完了後、エンジントルクのスリーブへの伝達によって、スリーブをギヤ側(ギヤピース側)へ吸い込もうとする力、すなわち、吸い込み力が発生する。この吸い込み力によって、シフトフォークの爪部とスリーブの間に摩擦および発熱が生じる。
【0003】
このため、シフトフォークの材質には、耐摩耗性を考慮して、ADC14材が用いられることが多い。ADC14材は、潤滑油との間で熱交換をすることによって、耐摩耗性を発揮する。
【0004】
また、特許文献1には、トランスミッションの軸と一体回転すると共に軸線方向に沿ってシフト自在であり、該軸上に遊嵌された変速ギヤと回転方向に直接又は間接的に係合自在なスリーブと、円弧状に延在する腕部及び前記腕部の先端に形成され前記スリーブと摺動ないし係合する爪部を備え該スリーブを前記軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォークと、を有する、シフト装置であって、前記シフトフォークの前記爪部で開口するオイル穴と、前記シフトフォークの前記腕部ないし前記爪部の外周側に設けられたオイルポケットと、前記シフトフォークの内部に形成され前記オイル穴と前記オイルポケットを連通する油路と、を有する、ことを特徴とするトランスミッションのシフト装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−151184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シフト装置においては、シフトフォークの爪部とスリーブとの間の面圧Pと、両者間の摺動速度Vの積(PV)が大きくなり過ぎると、爪部が磨耗するおそれがある。
【0007】
中でも、シフトフォークの爪部が変速ギヤの上部に位置しているシフトリンク構成の場合、この位置にある爪部には、ギヤの回転によって跳ね上げられる潤滑油が到達しにくいため、この爪部が十分に冷却できずに爪部が発熱し、爪部の磨耗が促進されるおそれがある。
【0008】
本発明は、シフトフォークの爪部の耐磨耗性を向上させるシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の視点において、軸上に遊嵌された変速ギヤと係合自在なスリーブと、円弧状に延在する腕部及び前記腕部の先端に形成され前記スリーブと摺動ないし係合する爪部を備え該スリーブを軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォークと、を有する、シフト装置であって、前記爪部上に冷却フィンが設けられたシフト装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シフトフォークの爪部に冷却フィンを設けることによって、PVが上昇しても、爪部の十分な冷却を確保されるため、爪部の発熱が抑制されて、爪部の磨耗が防止され、さらにはギヤ抜けの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)及び(B)は、本発明の実施例1に係るシフト装置の説明図であって、(A)は、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図、(B)は、(A)のA矢視部分図である。
【図2】本発明の実施例2に係るシフト装置の説明図であって、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図である。
【図3】図2に示したシフト装置を変速ギヤの径方向から見た図である。
【図4】(A)及び(B)は、図2に示したシフト装置の機能を説明する図であって、(A)は、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図、(B)は、(A)のプレートを上方から見た部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施の形態に係るシフト装置は、軸上に遊嵌された変速ギヤと係合自在なスリーブと、円弧状に延在する腕部及び前記腕部の先端に形成され前記スリーブと摺動ないし係合する爪部を備え該スリーブを軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォークと、を有する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態に係るシフト装置は、前記ギヤの外周に沿って延在し、前記ギヤの回転に伴って生じる気流を前記冷却フィンに向かって誘導するプレートを有する。このプレートを設けることによって、プレート内周側と変速ギヤの間では、変速ギヤの回転に伴って生じる気流が冷却フィンを冷却し、プレート外周側では、変速ギヤの回転に伴って負圧による気流が発生し、この気流が、冷却フィンを冷却する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態に係るシフト装置は、前記プレートの一端に形成され、前記スリーブの可動範囲に応じた幅を備え、該スリーブ並びに前記爪部及び冷却フィンが挿入される切り欠きを有する。このようにプレートに所定の切り欠きによって、プレートとスリーブの干渉が防止されつつ、シフトフォークの爪部の冷却が改善できる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態に係るシフト装置は、爪部が、前記変速ギヤの上方に位置する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態に係るシフト装置は、爪部が、アルミニウム合金製である。アルミニウム合金は、良好な熱伝導性を有し安価である。したがって、アルミニウム合金を用いることによって、良い耐焼付け性を示すが高価でコストアップ要因となるスーパーエンジニアプラスチックを用いる場合と比較して、シフトフォークないしシフト装置のコストダウンが可能となる。なお、下記に種々の材料の熱伝導度、それと熱流失量の関係式を示す。
【0017】
J=−λ×ΔT/Δx
J:熱流失量
T:温度
x:距離
λ:熱伝導度(W/mK)
【0018】
種々の材料の熱伝導度
Cu 398
Al 236
Fe 84
エポキシ樹脂 0.21
【実施例1】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施例を説明する。図1(A)及び(B)は、本発明の実施例1に係るシフト装置の説明図であって、(A)は、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図、(B)は、(A)のA矢視部分図である。
【0020】
図1(A)及び(B)を参照すると、本発明の実施例1に係るシフト装置は、軸7上に遊嵌された変速ギヤ5と係合自在なスリーブ4と、円弧状に延在する腕部1a及び腕部1aの先端に形成されスリーブ4と摺動ないし係合する爪部1bを備えスリーブ4を軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォーク1と、を有している。
【0021】
シフト操作時、シフトフォーク1は、軸7の軸線方向にシフトされ、爪部1bは、スリーブ4と摺動しながらスリーブ4をシフトさせ、遊嵌されていた変速ギヤ5を軸7に回転方向に固定して同期回転させ、或いは、変速ギヤ5と軸7の同期を解除させる。
【0022】
特に、変速ギヤ5は、潤滑油レベルよりも上方に位置し、そして、変速ギヤ5の上方に位置している爪部1b上には、冷却フィン2が設けられている。この冷却フィン2によって、爪部1bの放熱性が向上される。したがって、潤滑油レベルよりも上方に位置し、さらに、ギヤの回転によって跳ね上げられる潤滑油が到達しにくい、変速ギヤ5の上方に位置している爪部1bの冷却性が改善される。また、冷却フィン2を設けることによって、その周辺のオイルミストによる冷却も期待できる。この結果、スリーブ4と爪部1bとの間の摺動に伴う発熱による、爪部1bの磨耗が防止される。
【実施例2】
【0023】
本実施例2においては、主として、前記実施例1との相違点について説明し、前記実施例1と同様の点については、前記実施例1の記載を参照するものとする。図2は、本発明の実施例2に係るシフト装置の説明図であって、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図である。図3は、図2に示したシフト装置を変速ギヤの径方向から見た図である。図4(A)及び(B)は、図2に示したシフト装置の機能を説明する図であって、(A)は、シフト装置を変速ギヤの軸方向から見た図、(B)は、(A)のプレートを上方から見た部分図である。
【0024】
図2及び図3を参照すると、軸7上に配置された同期機構は、スリーブ4と係合自在であって変速ギヤ5と一体のギヤピース6と、スリーブ4を軸7に回転方向に係合させるハブ8と、スリーブ4とギヤピース6の間で摩擦摺動して両者を同期させ係合可能とするコーン部材9と、を備えている。
【0025】
シフト操作時、シフトフォーク1は、軸7の軸線方向にシフトされ、爪部1bは、スリーブ4と摺動しながらスリーブ4をシフトさせ、遊嵌されていた変速ギヤ5を軸7に回転方向に固定して同期回転させ、或いは、変速ギヤ5と軸7の同期を解除させる。
【0026】
特に、変速ギヤ5は、潤滑油レベルよりも上方に位置し、そして、変速ギヤ5の上方に位置している爪部1b上には、冷却フィン2が設けられている。
【0027】
図3並びに図4(A)及び(B)を参照すると、さらに、本実施例2のシフト装置は、変速ギヤ5の外周に沿って延在し、変速ギヤ5の回転に伴って生じる気流を冷却フィン2に向かって誘導するプレート3を有している。プレート3の上端には、スリーブ4の可動範囲に応じた幅を備えた、切り欠き3aが形成されている。切り欠き3a内には、スリーブ4並びに爪部1b及び冷却フィン2が挿入されている。
【0028】
このプレート3は、下記のように、冷却フィン2による爪部1bの冷却性をさらに向上させる。
(1)プレート3の内周側と変速ギヤ5の間では、変速ギヤ5の回転に伴って生じる気流が、プレート3の内周面によって風向制御されて、主として、冷却フィン2の下部を冷却する。
(2)プレート3の外周側(プレート3の外周側とケース内壁との間)では、変速ギヤ5の回転に伴って負圧による気流が発生し、この気流が、主として、冷却フィン2の上部を冷却する。
【0029】
かくして、冷却フィン2とプレート3の相乗効果により、スリーブ4と爪部1bとの間の摺動に伴う発熱に起因する、爪部1bの磨耗がさらに防止される。
【0030】
なお、本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のシフト装置は、変速装置に利用され、又、本発明は、マニュアルトランスミッションの変速切替部に用いられるシフトフォークないし同期装置に好適に適用される。
【符号の説明】
【0032】
1 シフトフォーク
1a 腕部
1b 爪部
2 冷却フィン
3 プレート
3a 切り欠き
4 スリーブ
5 変速ギヤ
6 ギヤピース
7 軸(シャフト)
8 ハブ
9 コーン部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸上に遊嵌された変速ギヤと係合自在なスリーブと、円弧状に延在する腕部及び前記腕部の先端に形成され前記スリーブと摺動ないし係合する爪部を備え該スリーブを軸線方向に沿ってシフトさせるシフトフォークと、を有する、シフト装置であって、
前記爪部上に冷却フィンが設けられたことを特徴とするシフト装置。
【請求項2】
前記変速ギヤの外周に沿って延在し、前記変速ギヤの回転に伴って生じる気流を前記冷却フィンに向かって誘導するプレートを有することを特徴とする請求項1記載のシフト装置。
【請求項3】
前記プレートの一端に形成され、前記スリーブの可動範囲に応じた幅を備え、該スリーブ並びに前記爪部及び前記冷却フィンが挿入される切り欠きを有することを特徴とする請求項2記載のシフト装置。
【請求項4】
前記爪部が、前記変速ギヤの上方に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一記載のシフト装置。
【請求項5】
前記爪部が、アルミニウム合金製であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載のシフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96458(P2013−96458A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237887(P2011−237887)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】