説明

ショートアーク型放電灯またはその電極

【課題】 放熱性が高くかつ軽量なショートアーク型放電灯用の電極を提供する。
【解決手段】 陽極1は、先端部近傍の本体部2、および放熱部3を有する。放熱部3は、小径タングステン棒で構成された12本の円柱フィン3a1〜3a12で構成されている。円柱フィン3a1〜3a12の直径は、本体部2よりも小さく、かつ、これらの軸は芯棒5の軸と平行である。これにより従来のように、本体部2を本体部の径のまま延長させた電極と比較すると、放熱効果も高く、軽量なショートアーク型放電灯用電極が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電灯の電極構造に関し、特に、放熱性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極における放熱対策として、陽極の容量を大きくすることが知られていた。しかし、陽極の容量を大きくすると、高融点材料であるタングステンの使用量が増加し、陽極重量が重くなる。その結果、リード棒を支持する石英ガラス部分が破損したり、輸送中に陽極を支えているリード棒が折れたりする問題があった。
【0003】
特許文献1には、陽極表面にタングステンおよびタンタルの混合物よりなる金属多孔質層が形成された陽極が開示されている。かかる金属多孔質を設けることにより、放熱効果を高くすることができる。
【0004】
また、特許文献2には、外周面に細かなフィンを設けて、陽極表面積を拡大し、陽極からの輻射効率を増大させた陽極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−256150号公報
【特許文献2】特開2002−117806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記、特許文献1,2はいずれも、陽極の表面積を広げることにより、放熱効果を高めることはできても、十分な放熱は行えなかった。さらに、陽極を軽量化するのに限界があった。
【0007】
この発明は、軽量かつ放熱効果の高いショートアーク型電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極は、1)本体部、2)前記本体部の後端の放熱部、を備えたショートアーク型放電灯用電極であって、3)前記放熱部は、電極の芯棒と平行に設けられた、前記本体部より小径の円柱放熱体を同心円状に相互に非接触状態で前記本端部の後端面に配置されており、4)前記放熱部として前記本体部の径のまま所定長まで延長した場合に当該延長した部分における放熱量よりも大きくなるよう、前記円柱放熱体の径、本数および長さを決定している。したがって、軽量かつ放熱効果の高い電極を提供することができる。
【0009】
(2)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極は、1)本体部、2)前記本体部の後端の放熱部、を備えたショートアーク型放電灯用電極であって、3)前記放熱部は、電極の芯棒と平行に設けられた複数の棒状放熱体で構成されている。したがって、軽量かつ放熱効果のある電極を提供することができる。
【0010】
(3)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記棒状放熱体は、円柱である。したがって、材料として丸棒を用いて放熱部を形成することができる。
【0011】
(4)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記放熱部として前記本体部の径のまま所定長まで延長した場合に当該延長した部分における放熱量よりも大きくなるよう、前記円柱放熱体の径、本数および長さを決定している。したがって、放熱効果の高い電極を提供することができる。
【0012】
(5)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記棒状放熱体の径は、前記本体部よりも小さい。したがって、小径の丸棒によって、前記放熱体を構成することができる。
【0013】
(6)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記棒状放熱体を同心円状に相互に非接触状態で前記本端部の後端面に配置させている。したがって前記芯棒を囲むよう前記棒状放熱体を配置することができる。
【0014】
かかる同心円状の配置としては、1重だけでなく多重配置するようにしてもよい。
【0015】
(7)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記棒状放熱体の長手方向の側面が、前記本体部の側面よりも内側に位置する。したがって、前記電極本体部の径方向に前記棒状放熱体が飛び出さないショートアーク型放電灯用電極を提供することができる。
【0016】
(8)本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極においては、前記棒状放熱体の一部または全部はセラミックで構成されている。したがって、より高い放熱効果をえることができる。
【0017】
本明細書において「棒状放熱体」は実施形態では、円柱フィン3a1〜3a12が該当する。また、棒状放熱体の形状については、円柱に限らない。また「径」とは、完全な円である場合はもちろん、楕円の長径、多角形における外接円の径を含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる陽極1の軸中心断面図である。
【図2】図1におけるA-A断面図である。
【図3】従来の電極における電極後半部の電極効率ηelを説明するための概念図である。
【図4】本件における電極後半部の円柱フィン部32のフィン効率ηfinを説明するための概念図である。
【図5】諸条件を変えた場合の面積Seff,fin を示す例である。
【図6】諸条件を変えた場合の面積Seff,elを示す例である。
【図7】諸条件を変えた場合の面積Seff,fin を示す例である。
【図8】諸条件を変えた場合の面積Seff,elを示す例である。
【図9】諸条件を変えた場合の面積Seff,fin を示す例である。
【図10】諸条件を変えた場合の面積Seff,elを示す例である。
【図11】変形実施形態を示す図である。
【図12】変形実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明における実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(1.第1実施形態)
図1に、本発明にかかるショートアーク型放電灯用電極である陽極1の断面図を示す。陽極1は、先端部近傍の本体部2、および放熱部3を有する。放熱部3は、小径タングステン棒で構成された複数の円柱フィン3a1〜3a12で構成されている。円柱フィン3a1〜3a12の軸は、芯棒5の軸と平行である。円柱フィン3a1〜3a12の直径は、本体部2よりも小さく、本体部2の後端面9に放射状に設けられた底付き穴に嵌合されている。
【0021】
本実施形態においては、図2に示すように、本体部2を直径35mmとしたので、直径6mm、長さ30mmの円柱フィン3a1〜3a12を12本、同心円状に配置するようにした。
【0022】
本実施形態においては、本体部2の後端部に円柱フィン3a1〜3a12を複数本、設けている。これにより従来のように、本体部2を本体部の径のまま延長させた電極と比較すると、放熱効果も高く、軽量な電極が得られる。以下、図3,4を用いて説明する。電極としての放熱能力は、先端からの距離と表面積によって決定される。必要な放熱能力に応じて、円柱フィンの本数、長さを決定すればよい。以下説明する。
【0023】
図3に示すように半径Rの円柱型電極を2分割して、電極先端から距離L1までの領域を電極先端部21、残りの長さL2部分を電極後半部22とする。電極先端が温度T0とし、電極先端部21と電極後半部22との境界面31(面積S1)の温度がT1であるとする。なお、実際は、円柱フィンの温度は一様ではなく、円柱フィンの表面からの放熱により円柱フィンの温度は軸方向に沿って低下する。一般的に、フィンの放熱効果を調べるためにはフィン効率が採用されており、本件でも以下のように定義するフィン効率ηelを採用する。以下では、放熱量の計算を容易にするために、フィン効率を用いて説明する。
【0024】
この場合、電極後半部22の電極効率ηelは、下記式(1)で定義される。
【0025】
ηel = 電極後半部22表面からの実際の放熱量/電極後半部22における全表面の温度がT1とした時の放熱量・・・式(1)
図4は、電極後半部22の代わりに、半径rの円柱フィンをN本で構成している。円柱フィン部32という。この場合も図3の場合と同様にして、円柱フィン部32のフィン効率ηfin は、式(2)で定義される。
【0026】
ηfin = 円柱フィン32表面からの実際の放熱量/円柱フィン32全面の温度がT1とした時の放熱量・・・式(2)
電極後半部22および円柱フィン32の全表面積をそれぞれSel、Sfinとすると、実質拡大した面積Sel,eff、Sfin,effは次のように定義される。
【0027】
Sel,eff = Sel×ηel ; Sel = 2πR×L2 + πR2・・・式(3)
Sfin,eff = Sfin×ηfin ; Sfin = 2πr×L2 + πr2 ・・・式(4)
面積Sel,effおよび面積Sfin,effは、温度T1である境界面の面積S1を実質拡大した面積分と考えることができる。すなわち、円柱形状の電極後半部22の場合、端面が面積Sel,eff に拡大され、円柱フィン32の場合は端面が面積Sfin,effに拡大されることとなる。拡大面積が大きくなるほど放熱量は増大する。各種Ni本の円柱フィンを取り付けた電極が、従来の円柱形状電極より放熱量が多くなる条件は次式で与えられる。
【0028】
【数1】

【0029】
諸条件を変えた場合の面積Seff,el およびSeff,fin を図5〜図10に示す。図5は、円柱フィン32の長さを変えた場合のフィン効率の変化を示す。図6は図3に示す従来の電極において電極後半部22の長さを変えた場合の電極効率の変化を示す。図5,図6から、たとえば、長さL2を同じく30mmとした場合、直径6mmの円柱フィンであれば、本数は7本以上設ければよいことがわかる。
【0030】
図7は、先端温度を変えた場合のフィン効率、図8は従来の電極において電極後半部22の長さを変えた場合の電極効率の変化を示す。この場合も、温度が高くなるにつれて円柱フィン部におけるフィンの数を増やすことにより、従来と同等の放熱効果を有する電極を提供することができる。
【0031】
図9は円柱フィン部における円柱フィンの直径を、先端温度を3パターン変えた場合の計算例である。図10の場合と比べて、軽量化した電極を得ることができる。また、同じ放熱効率を希望する場合、円柱フィンの直径および本数を変更すればよい。
【0032】
図5〜図10においては、比較するのに、長さL2が同じ場合について説明したが、円柱フィンの長さを長くすることにより、より高い放熱効果の電極を得ることができる。すなわち、円柱フィンの数、直径、および長さについては、所望の放熱能力を発揮できるように、適宜変更することができる。
【0033】
また、放熱効果がそれほど求められない場合でも、少なくとも軽量化を図ることもできる。
【0034】
2.他の実施形態
上記実施形態においては、電極本体部端面に円柱フィンを採用した場合について説明したが、図11に示すように、後端部へ向かうに従い、外直径が小さい(d1 > d2)テーパー形状フィン(または針状フィン)61a1〜61anとしてもよい。この実施形態においては、テーパー角は5°としたが、テーパー角は任意であり、例えば0°〜10°程度としてもよい。
【0035】
円柱フィンの全部または一部をセラミックスで構成してもよい。セラミックスとしては、たとえば、窒化アルミニウム(AlN)を採用する場合、タングステンと比べてランプ点灯時における熱伝導率、および熱放射率が高いので、フィン表面からの放射熱効果を高めることができる。また、熱膨張係数が近似しているので、接合させた場合に、割れたりすることを防止することができる。また、セラミックスとして、他の窒化物系セラミックスでもよく、また、炭化珪素(SiC)などの炭化物系セラミックスで構成してもよい。特に、1500℃以上の高温領域においても、熱伝導率が100〜120 W/mK、熱放射率が0.93(遠赤外線領域では0.98以上)、熱膨張率が4.5×10−6/度(摂氏)、密度3.32 kg/m3の窒化アルミニウムが好ましい。
【0036】
また、電極本体部2の形状については任意である。たとえば、図12に示すように、電極本体70の後半部が円錐形状であってもよい。緩やかな勾配の円錐形状の場合、その表面積は円錐底面の近くでは同じ径の円柱表面より大きくなる。底面の近くでは温度が高くて放射熱量が多いので、この近辺で表面積を大きくする事が出来る点は電極の放射冷却の観点から有利である。
【0037】
また、各フィンをセラミックスで構成する場合、全部をセラミックスで構成しても良いし、一部をセラミックスで構成しても良い。特に、電極先端に近づくほど高温となるので、セラミックスの耐用温度を考慮して、本体部2に近い部分はタングステンで構成してもよい。
【0038】
なお、本発明の電極は、直流点灯型放電ランプにおいて陽極を採用することが好ましいが、陰極に採用するようにしてもよい。また、陽極および陰極の双方に採用することもできる。また、交流点灯放電ランプにおいても採用できる。
【0039】
また、放電ランプの管軸を垂直方向に配置して点灯される、いわゆる垂直点灯型放電ランプにおいては、上側に配置される電極が高温化されやすい。したがって、本発明に係る電極構造は、上側に配置される電極が好ましい。しかしながら、垂直点灯放電型ランプにおいて、下側に配置する電極に採用することを否定するものではなく、下側に採用することもできる。
【0040】
さらに、本発明に係る電極構造は、管軸を水平に配置する水平点灯放電型ランプや斜めに配置する放電ランプにも、採用することができる。
【0041】
本実施形態においては、電極本体部2の後端面に底付き穴を形成して、底に嵌合させるようにしたが、放電プラズマ焼結法(SPS法:Spark Plasma Sintering)で電極本体部2の後端面に棒状放熱体を固定するようにしてもよい。
【0042】
本実施形態においては、放熱部を本体部よりも小径のタングステン棒で構成した。タングステンは径が大きくなるその分だけ高価になる。したがって、小径のタングステン棒を複数配置して、全体として表面積を確保することにより、全体としての製造コストも削減できる。また、かかる部品については使用済みの部品を表面研磨すれば再利用することもできる。
【0043】
本実施形態においては、セラミックス放熱部材を付加する場合、接合体の中間層としてチタン箔を採用したが、ジルコニウム等の活性金属かつ高融点金属が望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部、
前記本体部の後端の放熱部、
を備えたショートアーク型放電灯用電極であって、
前記放熱部は、電極の芯棒と平行に設けられた、前記本体部より小径の円柱放熱体を同心円状に相互に非接触状態で前記本端部の後端面に配置されており、
前記放熱部として前記本体部の径のまま所定長まで延長した場合に当該延長した部分における放熱量よりも大きくなるよう、前記円柱放熱体の径、本数および長さを決定したこと、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項2】
本体部、
前記本体部の後端の放熱部、
を備えたショートアーク型放電灯用電極であって、
前記放熱部は、電極の芯棒と平行に設けられた複数の棒状放熱体で構成されていること、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項3】
請求項2のショートアーク型放電灯用電極において、
前記棒状放熱体は、円柱であること、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項4】
請求項3のショートアーク型放電灯用電極において、
前記放熱部として前記本体部の径のまま所定長まで延長した場合に当該延長した部分における放熱量よりも大きくなるよう、前記円柱放熱体の径、本数および長さを決定したこと、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項5】
請求項2のショートアーク型放電灯用電極において、
前記棒状放熱体の径は、前記本体部よりも小さいこと、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項6】
請求項2のショートアーク型放電灯用電極において、
前記棒状放熱体を同心円状に相互に非接触状態で前記本端部の後端面に配置させたこと、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項7】
請求項2のショートアーク型放電灯用電極において、
前記棒状放熱体の長手方向の側面が、前記本体部の側面よりも内側に位置すること、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項8】
請求項2のショートアーク型放電灯用電極において、
前記棒状放熱体の一部または全部はセラミックで構成されていること、
を特徴とするショートアーク型放電灯用電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかのショートアーク型放電灯用電極を備えたショートアーク型放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−38675(P2012−38675A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180059(P2010−180059)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(599117211)株式会社ユメックス (22)
【Fターム(参考)】