説明

シロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統

【課題】 染色体機能解析および人工染色体の開発に利用することができ、既知のミニ染色体とは由来・性質等の点で異なる新規ミニ染色体を保持するシロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統を作出・提供すること。
【解決手段】 シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持する系統Tr4SCo5にマーカー遺伝子を組み込んだベクターを導入したところ、新規なミニ染色体が出現した。解析の結果、この新規ミニ染色体2Sは第2番染色体の短腕に由来することが明らかになった。このミニ染色体2Sには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が含まれているため、このミニ染色体保持系統は、カナマイシンで選抜することができ、かつ、緑色の蛍光を発する。また、このミニ染色体が後代に2つ伝わると、カナマイシン耐性も緑色蛍光も消失する現象が観察された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロイヌナズナ第2番染色体由来のミニ染色体を保持する新規ミニ染色体保持系統に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統は、リサーチツールとして、染色体機能解析に有用なだけでなく、将来人工染色体を作り出す元材料にもなると考えられ、植物人工染色体の開発に利用可能である。
【0003】
本発明者は以前、シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持するミニ染色体保持系統を作出した。その詳細な内容については、下記特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−310263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に着目してなされたものであり、その目的は、染色体機能解析および人工染色体の開発に利用することができ、既知のミニ染色体とは由来・性質等の点で異なる新規ミニ染色体を保持するシロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統を作出・提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題に鑑み、シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持する系統Tr4SCo5(シロイヌナズナのコロンビア株)にマーカー遺伝子を組み込んだベクターを導入したところ、新規なミニ染色体が出現した。解析の結果、この新規ミニ染色体2Sは第2番染色体の短腕に由来することが明らかになった。このミニ染色体2Sには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が含まれているため、カナマイシンで選抜することができ、かつ、緑色の蛍光を発する。また、このミニ染色体が後代に2つ伝わると、カナマイシン耐性も緑色蛍光も消失するといったユニークな性質を有すること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記A)〜I)の発明を包含するものである。
A) シロイヌナズナ第2番染色体由来のミニ染色体を保持することを特徴とする、シロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統。
B) 上記ミニ染色体は、第2番染色体短腕由来のミニ染色体2Sである、上記A)記載のミニ染色体保持系統。
C) シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持する系統に、マーカー遺伝子を組み込んだベクターを導入することにより作出される、上記A)又はB)記載のミニ染色体保持系統。
D) 上記ベクターに組み込まれたマーカー遺伝子は、蛍光蛋白遺伝子および薬物耐性遺伝子である、上記C)記載のミニ染色体保持系統。
E) 上記蛍光蛋白遺伝子はGFP遺伝子であり、上記薬物耐性遺伝子はカナマイシン耐性遺伝子である、上記D)記載のミニ染色体保持系統。
F) 上記ミニ染色体2S上に、GFP遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子とが座乗することを特徴とする、上記B)記載のミニ染色体保持系統。
G) 上記C)記載のミニ染色体保持系統を正常の染色体数を有するシロイヌナズナと交配させることにより得られ、その染色体構成が通常の染色体数2n=10に加えてミニ染色体2Sを1つ余分に含む2n=10+1であることを特徴とする、ミニ染色体保持系統。
H) 上記G)記載のミニ染色体保持系統を自殖させることにより得られ、その染色体構成が通常の染色体数2n=10に加えてミニ染色体2Sを2つ余分に含む2n=10+2であることを特徴とする、ミニ染色体保持系統。
I) シロイヌナズナG40(18−5)系統(FERM AP−20191)
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統は、既知のミニ染色体とは由来・性質等の点で異なる新規ミニ染色体を保持するものであり、リサーチツールとして、セントロメア等の機能要素解析を含む植物の染色体機能解析に有用である。また、将来人工染色体を作り出す元材料にもなると考えられ、植物人工染色体の開発に利用可能である。
【0009】
さらに、後述のミニ染色体2Sgkを保持する本発明のミニ染色体保持系統は、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子がミニ染色体2Sgkに挿入されているため、選抜が容易であるという利点を持っている。このミニ染色体2Sgkが2つ伝わると、ジーンサイレンシングが引き起こされると考えられることから、本発明のミニ染色体保持系統は、この現象を解析するための材料としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の具体的態様等について更に詳しく説明する。
本発明に係るシロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統は、例えば、第2番染色体短腕由来のミニ染色体2Sを保持する。そして、このミニ染色体保持系統は、シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持するTr4SCo5個体(シロイヌナズナのコロンビア株)に、マーカー遺伝子を組み込んだベクターを導入することにより作出することができる。
【0011】
上記Tr4SCo5個体は、特開2003−310263号公報の記載にしたがって、エコタイプのLandberg erecta由来のTr4Sに、エコタイプ コロンビア(Columbia)の花粉をかけ、戻し交配することにより作出することができる。即ち、Tr4Sにエコタイプ コロンビア(Columbia)の花粉を交配し、得られた種子からの個体について自殖させ、ついで、得られた種子からの個体に、再度コロンビアの花粉をかけ、その後、5世代にわたってコロンビアの花粉をかけることにより、上記Tr4SCo5個体を得ることができる。
【0012】
また、上記マーカー遺伝子を組み込んだベクターは、後述のように、アグロバクテリウム形質転換用のpBI系バイナリーベクターであるpBI101ベクターにGFP遺伝子をサブクローニングすることにより作製することができる。図1には、実際に本発明のミニ染色体保持系統の作出に使用したpBGF101ベクター(T−DNA挿入ベクター)の構造が模式的に示される。図中、「NPTII(KanR)」はカナマイシン耐性遺伝子、「NOS−Pro」はアグロバクテリウム由来のプロモーター、「NOS−ter」はアグロバクテリウム由来のターミネーター、「CaMV35SΩ」はカリフラワーモザイクウイルス由来のプロモーター、「NOS3’」はアグロバクテリウム由来のターミネーター、「RB」「LB」はT−DNA両端の境界配列、「HindIII」「EcoRI」は制限酵素切断部位、をそれぞれ示す。また、「sGFP」はGFP遺伝子(S65T-type, Niwa et al., Plant J. 1999, 18(4):455-63.参照)を組み込んだものである。
【0013】
上記バイナリーベクターpBGF101は、アグロバクテリム法により上記Tr4SCo5に導入することができる。後述の実施例では、上記pBGF101をアグロバクテリム(C58Ci株)にエレクトロポレーション法で導入し、カナマイシン耐性を示すコロニーをスクリーニングした。そして、耐性菌を選抜後、増殖させ、in plant vacuum in filtration法で、Tr4SCo5個体の形質転換に使用した。尚、各実験手順は、通常のアグロバクテリウム法に従って行うことができる。
【0014】
上記の方法によりアグロバクテリウムを感染させた個体の自殖種子(T1)を集め、カナマイシン(50mg/L)を含む寒天培地に播種し、22度で発芽させたところ、数十個体のカナマイシン耐性植物が得られた。これらをさらに室内(22度)で生育させ、それらの花芽から染色体を調べた(方法は、Murata & Motoyoshi, 1995, Chromosoma 104:39-43参照)。蛍光 in situ ハイブリダイゼイション(FISH)法(Murata et al., 1997, Plant J. 12:31-37参照)による解析の結果、1個体(G40)に染色体の異常が発見された。この個体(G40)の染色体数は、2n=14であり(図2参照)、そのうちの一つの小さな染色体(図中矢印2S)は、GFP遺伝子を含むT−DNAが挿入されていた。
【0015】
解析の結果、上記ミニ染色体2Sは、シロイヌナズナ第2番染色体の短腕(2S)に由来することが明らかになった。また、上記個体(G40)は、(1)2本あるべき正常の2番染色体が1本しか存在しておらず、(2)ミニ染色体4S以外に、上記ミニ染色体2Sを含む新たな4つのミニ染色体を保持し、染色体構成は2n=9+1(4S)+4(2S等)となっており、(3)そのうち1つのミニ染色体(2L1)は、2番染色体の長腕から由来していると考えられる(図2(a)参照)。
【0016】
なお、上記個体(G40)については、シロイヌナズナG40(18−5)系統(受領番号FERM AP−20191)として特許生物寄託センターに寄託されている。
【0017】
このように、ミニ染色体保持系統である上記個体(G40)には、いろいろな染色体が混じっているため、この個体の自殖種子を集めた。幸いに、染色体の異常があるにもかかわらず、雌雄ともに稔性があった。得られた種子(T2世代)を播き、その染色体を調べたが、多くが親のG40とその構成が同じであった。
【0018】
そこで、いくつかの個体を選び、これらの花粉を正常のコロンビア株(Col−0)と交配した。その結果得られた種子(T3)について解析を行った結果、11本の染色体を持つ個体を得た(図3(a)参照)。即ち、この個体の染色体構成は、2n=10+1であり、余分な染色体は上記ミニ染色体2Sである。また、この2Sには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているため、このミニ染色体保持系統はカナマイシンで選抜することができるし、緑色の蛍光を発する。
【0019】
GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子を有する上記ミニ染色体2Sを、便宜上「2Sgk」と呼びことにした。そして、この2Sgkを1つ余分に含む上記個体を自殖させることにより、後代(T4)において、2Sgkを2つ余分に含む個体を得た(図3(b)参照)。即ち、この個体の染色体構成は、2n=10+2であり、通常の染色体数に加えてミニ染色体2Sgkを2つ余分に含む。このミニ染色体保持系統では、ジーンサイレンシングを受けるためか、カナマイシン耐性も緑色蛍光もなくなる。他方、上述のように、2Sgkを1つ余分に含むミニ染色体保持系統では、両遺伝子が働く。
【0020】
このように、上記ミニ染色体2Sgkには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているため、2Sgkを1つ余分に含む本発明のミニ染色体保持系統は、選抜が容易であるという利点を持っている。さらに、このミニ染色体2Sgkを2つ余分に含む本発明のミニ染色体保持系統では、ジーンサイレンシングが引き起こされることから、この現象を解析する良い材料ともなる。
【0021】
以上の方法により、本発明のミニ染色体保持系統を作出できるが、勿論、上記方法に種々の変更を加えて、本発明のミニ染色体保持系統を作出してもよい。例えば、ベクターに組み込まれる薬剤耐性遺伝子として、カナマイシン耐性遺伝子を使用したが、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの他の薬剤耐性遺伝子を使用してもよい。各遺伝子のプロモーターおよびターミネーターについても特に限定されるものではない。ベクターについても、上記pBGF101ベクターと同様に、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3などのpBI系バイナリーベクターに蛍光蛋白遺伝子を組み込んだベクターを作製し、これを使用して形質転換を行うことによって、本発明のミニ染色体保持系統を作出できると考えられる。
【0022】
本発明のミニ染色体保持系統は、上記のように、既知のミニ染色体とは由来・性質等の点で異なる新規ミニ染色体2Sgkを保持するものであり、このミニ染色体2Sgkの供給材料として有用であるほか、リサーチツールとして、セントロメア等の機能要素解析を含む植物の染色体機能解析に有用である。また、将来人工染色体を作り出す元材料にもなると考えられ、植物人工染色体の開発に利用可能である。
【0023】
本発明のミニ染色体保持系統は、シロイヌナズナ由来であり、シロイヌナズナはゲノムサイズが他の植物に比べて極めて小さいなどモデル植物として数多くの利点を有しているので、このような染色体機能解析、植物人工染色体の開発に好適な材料といえる。
【0024】
さらに、本発明のミニ染色体保持系統は、このような染色体機能解析における利用、植物人工染色体の開発における利用を通じて、作物の改良や新たな形質を持った植物の開発などに貢献し得るものである。
【0025】
なお、本発明の「ミニ染色体保持系統」の範疇には、植物個体のほか、根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官、各種組織、細胞、などが含まれ、さらにはプロトプラスト、スフェロプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫、なども含まれるものとする。
【実施例】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0027】
形質転換に用いたバイナリーベクターpBGF101の構造が図1に模式的に示される。このpBGF101は、GFP遺伝子(S65T-type, Niwa et al., Plant J. 1999, 18(4):455-63.参照)を、アグロバクテリウム形質転換用のpBI101ベクターにサブクローニングすることにより作製した。
【0028】
上記pBGF101をアグロバクテリム(C58Ci株)にエレクトロポレーション法で導入し、カナマイシン耐性を示すコロニーをスクリーニングした。耐性菌を選抜後、増殖させ、in plant vacuum in filtration法で、4S染色体を保持するTr4SCo5個体(シロイヌナズナのコロンビア株)の形質転換に使用した。アグロバクテリウムを感染させた個体の自殖種子(T1)を集め、カナマイシン(50mg/L)を含む寒天培地に播種し、22度で発芽させた。
【0029】
上記実験の結果、数十個体のカナマイシン耐性植物が得られたので、これらを室内(22度)で生育させ、それらの花芽から染色体を調べた(方法は、Murata & Motoyoshi, 1995, Chromosoma 104:39-43参照)。蛍光 in situ ハイブリダイゼイション(FISH)法(Murata et al., 1997, Plant J. 12:31-37参照)による解析の結果、1個体(G40)に染色体の異常が発見された。この個体(G40)の染色体数は、2n=14であり(図2参照)、そのうちの一つの小さな染色体(図中矢印2S)は、GFP遺伝子を含むT−DNAが挿入されていた。
【0030】
上記ミニ染色体2Sが、2番染色体の短腕(2S)に由来することは、図2(b)の結果からも推定された。何故ならミニ染色体2Sには、18S rDNAのシグナルが検出される一方、5S rDNAのシグナルは検出されなかったからである。即ち、18SリボソームRNA遺伝子(18S rDNA)クラスターは、2番と4番の染色体にしか座乗しておらず、4番染色体には、5SリボソームRNA(5S rDNA)も座乗しているため、このミニ染色体2Sは2番染色体由来と判断された。また、この個体(G40)には、2本あるべき正常の2番染色体が1本しか存在しなかった。さらに、このミニ染色体2Sが2番染色体短腕起源であることは、マーカーDNA(BACクローンなど)を用いても確かめられた。
【0031】
ミニ染色体保持系統である上記個体(G40)には、いろいろな染色体が混じっているため、この個体の自殖種子を集めた。幸いに、染色体の異常があるにもかかわらず、雌雄ともに稔性があった。得られた種子(T2世代)を播き、その染色体を調べたが、多くが親のG40とその構成が同じであった。
【0032】
そこで、いくつかの個体を選び、これらの花粉を正常のコロンビア株(Col−0)に交配した。その結果得られた種子(T3)について解析を行った結果、11本の染色体を持つ個体を得た(図3(a)参照)。即ち、この個体の染色体構成は、2n=10+1であり、余分な染色体は上記ミニ染色体2Sである。また、この2Sには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているため、このミニ染色体保持系統はカナマイシンで選抜することができるし、緑色の蛍光を発する。
【0033】
GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子を有する上記ミニ染色体2Sを、便宜上「2Sgk」と呼びことにした。そして、この2Sgkを1つ余分に含む上記個体を自殖させることにより、後代(T4)において、2Sgkを2つ余分に含む個体を得た(図3(b)参照)。即ち、この個体の染色体構成は、2n=10+2であり、通常の染色体数に加えてミニ染色体2Sgkを2つ余分に含む。このミニ染色体保持系統では、ジーンサイレンシングを受けるためか、カナマイシン耐性も緑色蛍光もなくなる。他方、上述のように、2Sgkを1つ余分に含むミニ染色体保持系統では、両遺伝子が働く。
【0034】
上記ミニ染色体2Sgkは、大きなリボソーム遺伝子クラスター(約3.5Mb)を含んでいるので、6−7Mbほどのサイズであると考えられる。セントロメア(180−bp反復配列ファミリー)のサイズについては、減数分裂パキテン期のFISHによる180−bp反復配列のシグナルを正常の染色体と比較すると、約2/5ほどであった(図3(c)参照)。正常染色体の180−bpコア領域は、約3Mbであると推定されているため、上記ミニ染色体2Sgkのセントロメア(180−bpクラスター)サイズは、1.2Mbほどであると考えられる。
【0035】
また、上記ミニ染色体2Sgkには、GFP遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているため、選抜が容易であるという利点を持っている。さらに、このミニ染色体2Sgkが2つ伝わると、ジーンサイレンシングが引き起こされることから、この現象を解析する良い材料ともなる。
【0036】
なお、前記個体(G40)には、上記ミニ染色体2Sgk以外にも、新たな3つのミニ染色体が存在したが、このうち1つのミニ染色体(2L1)は、2番染色体の長腕から由来していると考えられる(図2(a)参照)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明は、シロイヌナズナ由来の新規ミニ染色体保持系統に関するものであり、前述したとおり、リサーチツールとして、染色体機能解析に有用であるほか、将来人工染色体を作り出す元材料にもなると考えられ、植物人工染色体の開発に利用可能であるなど、種々の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ミニ染色体4Sを保持する系統(Tr4SCo5)の形質転換に用いたバイナリーベクターpBGF101の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)(b)は、上記pBGF101のT−DNAを導入したシロイヌナズナ(Tr4SCo5)T1個体の染色体を可視化した図である。原図はカラーであり、分図(a)では、FISH(蛍光 in situ ハイブリダイゼイション)シグナルにより、ベクターのT−DNAの挿入部位は緑色に、180−bp反復配列はピンク色に表示される。また、分図(b)では、FISHシグナルにより、18S rDNAは緑色に、5S rDNAはピンク色に表示される。4S染色体以外に、2Sおよび2L1を含む4つの小型染色体が観察された(それぞれ矢印で示される)。
【図3】(a)〜(c)は、本発明のミニ染色体保持系統における染色体を可視化した図である。原図はカラーであり、FISHシグナルにより、T−DNA挿入部位は赤色に、180−bp反復配列は緑色に、5S rDNAは紫色に、18S rDNAは赤色に表示される。(a)は、正常の染色体構成(2n=10)に加えて、ミニ染色体2Sgkを1つ余分に持つ個体の体細胞、(b)は、正常の染色体構成(2n=10)に加えて、ミニ染色体2Sgkを2つ余分に持つ個体の体細胞、(c)は、正常の染色体構成(2n=10)に加えて、ミニ染色体2Sgkを1つ余分に持つ個体の減数分裂パキテン期の細胞、をそれぞれ示す。各分図において、矢印はミニ染色体2Sgkの位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロイヌナズナ第2番染色体由来のミニ染色体を保持することを特徴とする、シロイヌナズナ由来のミニ染色体保持系統。
【請求項2】
上記ミニ染色体は、第2番染色体短腕由来のミニ染色体2Sである、請求項1記載のミニ染色体保持系統。
【請求項3】
シロイヌナズナ第4番染色体短腕由来のミニ染色体4Sを保持する系統に、マーカー遺伝子を組み込んだベクターを導入することにより作出される、請求項1又は2記載のミニ染色体保持系統。
【請求項4】
上記ベクターに組み込まれたマーカー遺伝子は、蛍光蛋白遺伝子および薬物耐性遺伝子である、請求項3記載のミニ染色体保持系統。
【請求項5】
上記蛍光蛋白遺伝子はGFP遺伝子であり、上記薬物耐性遺伝子はカナマイシン耐性遺伝子である、請求項4記載のミニ染色体保持系統。
【請求項6】
上記ミニ染色体2S上に、GFP遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子とが座乗することを特徴とする、請求項2記載のミニ染色体保持系統。
【請求項7】
請求項3記載のミニ染色体保持系統を正常の染色体数を有するシロイヌナズナと交配させることにより得られ、その染色体構成が通常の染色体数2n=10に加えてミニ染色体2Sを1つ余分に含む2n=10+1であることを特徴とする、ミニ染色体保持系統。
【請求項8】
請求項7記載のミニ染色体保持系統を自殖させることにより得られ、その染色体構成が通常の染色体数2n=10に加えてミニ染色体2Sを2つ余分に含む2n=10+2であることを特徴とする、ミニ染色体保持系統。
【請求項9】
シロイヌナズナG40(18−5)系統(FERM AP−20191)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−67821(P2006−67821A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252039(P2004−252039)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】