説明

シートベルト巻き取りシステム

【課題】シートベルトの巻き取り未完了を確実に防止できるシートベルト巻き取りシステムを提供する。
【解決手段】車輌Sの座席6に着座した乗員25を拘束するシートベルト2と、このシートベルト2の一方側2aを引き出し可能に巻き取るリトラクター装置3と、このリトラクター装置3の当該巻き取り状態を検出するために、シートベルト2に設けられたボタンストッパSBと、車輌Sの車体側に設けられ、前記ボタンストッパSBに設けた磁性体を検出する巻き取りセンサーC2と、この巻き取りセンサーC2の検出結果に応じて、巻き取り状態に関する情報を報知する報知部30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトを巻き取るシートベルト巻き取りシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輛の衝突時に生じる加速度による乗員の急激な移動を拘束し、乗員の身体の安全を図る装置としてシートベルト装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このシートベルト装置は、シートベルトにトングを挿通して当該シートベルトの一端を車体に固定し、このシートベルトの他端をシートベルトリトラクタ装置(巻き取り装置)に巻取りし、かつ上記トングを車体に固定されたバックル装置に差し込んでシートベルトを懸吊支持する3点支持構造で構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−154008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のシートベルト装置は、エアバッグとともに用いることで、着座した乗員を拘束し、万一の衝突や横転事故などから乗員を安全に保護するものであり、車輛に乗車して着座した乗員は、車を運行させる前にショルダーアンカー通してリトラクタ装置からシートベルトを引出し、このシートベルトのトングを床面側のバックル装置に係合することで当該乗員の体の動きが拘束されている。車の運行が終了して乗員が降車するときは、上記バックルからトングを開放させることでシートベルトがリトラクタ装置により所定の待避位置まで自動的に巻き戻されるように構成されている。
【0006】
しかしながら、通常のシートベルト装置では、バックルから開放されたトングが正規の初期位置(ショルダーアンカーのシートベルト挿通口またはその近傍)まで戻されているかどうかは、自動巻き戻しを信じている乗員はその都度確認していないのが現状である。
【0007】
従って、乗員が降車する際にバックル装置からトングのロックが解除されたシートベルトが、何らかの障害で正規の待避位置(初期位置)まで巻き戻されない状態となった場合に、上記シートベルトの一部がドアに挟みこまれて半ドア状態となるか、運転席以外の座席においてもシートベルトのトングが正規の待避位置に巻き戻されずに、当該シートベルトの一部が車外に出たまま気付かずに運転者が車を発進させることがあった。
【0008】
本発明の目的は、シートベルトの巻き取りを確実に完了できるシートベルト巻き取りシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、車輌の座席に着座した乗員を拘束するシートベルトと、このシートベルトの一方側を引き出し可能に巻き取るリトラクター装置と、このリトラクター装置の当該巻き取り状態を検出するために、前記シートベルトに設けられた被検出部と、前記車輌の車体側に設けられ、前記被検出部を検出する巻き取り検出手段と、この巻き取り検出手段の検出結果に応じて、前記巻き取り状態に関する情報を報知する報知手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本願第1発明においては、車体側に設けた巻き取り検出手段がシートベルトに設けた被検出部を検出し、この検出結果に応じて巻き取り状態に関する情報を報知手段により乗員に報知する。これにより、シートベルトが何らかの障害で正規の待避位置(初期位置)まで巻き戻されない等、シートベルトが完全に巻き取られない場合にはその旨を乗員に報知できるので、乗員がこれを確認してシートベルトの巻き取りを確実に完了させることができる。
【0011】
第2の発明は、上記第1発明において、前記巻き取り検出手段を、前記車体を構成するピラーか、若しくは、前記車体に接続され前記シートベルトを挿通する挿通部材に設けたことを特徴とする。
【0012】
これにより、乗員の拘束が解除されてシートベルトが巻き戻される際に、ピラー若しくは車体に接続された挿通部材に設けた巻き取り検出手段により、例えば、挿通部材の直前または当該挿通部材の近傍までシートベルトの被検出部が巻き戻されていないことを検知することで、巻き取りが完了していないことを確実に報知することができる。
【0013】
第3の発明は、上記第1又は第2発明において、前記被検出部は、磁性体を備えており、前記巻き取り検出手段は、前記磁性体からの磁気を検出する磁気検出手段であることを特徴とする。
【0014】
これにより、シートベルトが巻き戻される際に、巻き取り検出手段により例えばシートベルトの被検出部が挿通部材の近傍まで巻き戻されていないことを磁気的に検知することで、巻き取りが完了していないことを確実に検出することができる。
【0015】
第4の発明は、上記第3発明において、前記磁性体は、1ミリガウス以上50ミリガウス以下の磁力を備えていることを特徴とする。
【0016】
これにより、巻き取り検出手段は、当該磁性体からの磁力を確実に検出できる超高感度の検出能力を備えることができる。
【0017】
第5の発明は、上記第1乃至第4発明のいずれか1つにおいて、前記被検出部を、前記シートベルトに挿通させたトングの動きを規制するために当該シートベルトに設けた規制部材に設けたことを特徴とする。
【0018】
これにより、乗員の拘束が解除されてシートベルトが巻き戻される際に、例えば巻き取り検出手段により規制部材が挿通部材の近傍まで復帰していないことを検知することで、巻き取りが完了していないことを確実に検出することができる。
【0019】
第6の発明は、上記第1乃至第5発明のいずれか1つにおいて、前記シートベルトに挿通させたトングと係合し前記シートベルトを搭乗者に装着させるバックル装置における当該係合状態を検出する係合検出手段を有し、前記報知手段は、前記巻き取り検出手段と前記係合検出手段との検出結果に応じて、前記報知を行うことを特徴とする。
【0020】
これにより、バックル装置とトングとの係合解除を確認した後に、巻き取り検出手段によりシートベルトの巻き取りが完了していないことを検出することができる。
【0021】
第7の発明は、上記第1乃至6発明のいずれか1つにおいて、前記報知手段による報知を停止させる停止手段を有することを特徴とする。
【0022】
これにより、報知手段による報知によりシートベルトの巻き取りが完了していない状態に気付いた乗員が、停止手段を直ちに操作することで、報知手段により継続して出力される音声などの報知を停止することができる。
【0023】
第8の発明は、上記第1乃至7発明のいずれか1つにおいて、前記報知手段は、前記報知として、所定の視覚的な警告表示を行うか若しくは所定の音声鳴動を行うことを特徴とする。
【0024】
これにより、シートベルトの巻き取りが完了していない場合に、所定の視覚的な警告表示、若しくは所定の音声鳴動による報知を行なうことで、乗員の視覚あるいは聴覚に訴えて確実に報知することができる。
【0025】
第9の発明は、上記第1乃至8発明のいずれか1つにおいて、前記シートベルトは、導電性を備えた導電繊維若しくは制電性を備えた制電繊維を備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、シートベルトに帯電する静電気を、導電性を備えた導電繊維(シートベルト表面に配置しても内部に配置しても良い)により例えば車体から車輪などの接地部に至る導通回路(アース回路)により連続的に散逸させ、シートベルトの電位を接地電位と同等まで低減するか(あるいは複数の導電繊維によるコロナ放電によってもよい)、または制電繊維による制電作用により静電気の帯電を防止することができる。
【0027】
第10の発明は、上記第9発明において、前記シートベルトの内部あるいは表面において導通回路を備えることを特徴とする。
【0028】
これにより、シートベルトに帯電する静電気を、導電繊維を介し導通回路により連続的に散逸させ、シートベルトの電位を接地電位と同等まで低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、シートベルトの巻き取りを確実に完了させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルト巻き取りシステムに採用されるシートベルト装置の全体構造を表す正面図であり、図2はその斜視図である。また図3は、シートベルト装置のショルダーアンカー部となる図1のA部拡大図である。
【0032】
これら図1〜図3において、シートベルト装置1は、車輌Sの座席6に着座した乗員25(後述)を拘束するウェビングであるシートベルト2と、このシートベルト2の一方側を引き出し可能に巻き取るリトラクター装置3と、シートベルト2に摺動可能に設けたトング5と、このトング5と係合するバックル装置7とを備えている。
【0033】
シートベルト2は、その一方側が上記リトラクター装置3により巻き取られると共に、その途中が車輛SのセンターピラーP内側上部に支持軸Rを介して揺動自在に支持されたショルダーアンカー4(挿通部材)の挿通口4a(図3参照)に通され、他方側端部が止め具8により例えば車体床面に回動可能に接続されている。またシートベルト2は、拘束された当該乗員25の下腹部を押える下腹部押えベルト部2bと胸部を抑える胸部押えベルト部2aとを有している。そして、上記下腹部押えベルト部2b側におけるトング5の挿通口5d近傍には、例えばカシメまたは熱溶着などでシートベルト2に突設状態で装着された規制部材としてのボタンストッパーSBが設けられている。
【0034】
ボタンストッパーSBは、例えばPP樹脂で直径12mm、厚さ3mm程度に形成されており、その内部には被検出部としての例えば10ミリガウスのフェライト製磁性体が埋設されている。なお、この被検出部は、ボタンストッパーSBとは分けて別途設けてもよく、バックル装置7に設けても良い。
【0035】
なお、シートベルト2は、その略長手方向に延設する経糸(第1繊維束)と、略幅方向に延設する緯糸(第2繊維束)とを製織した製織ベルト(ウェビング)で構成されており、このシートベルト2は、導電性を備えた導電繊維Dを備え、静電気の帯電(詳細は後述)を防止している。すなわち、合成繊維束に一部芯体に高電気導通物質としての数ミクロン単位よりも小さい微粒化炭化物或いは炭素繊維群を混繊させて導電繊維Dとするか、若しくは、体積固有抵抗値が10−5Ω―cm程度より小さい炭化物微粒子群などを混紡して導電繊維Dとして用いる。
【0036】
トング5は、図3に示すように、幅狭部5aと幅広部5bとで平面視略T字形状を呈する金属板から構成され、幅狭部5aにはバックル装置7と係合するためのラッチ孔5cが形成されている。幅広部5bには、その幅方向にシートベルト2が挿通される挿通口5dが形成されている。
【0037】
バックル装置7には、トング5のラッチ孔5cが係合したことを検知する公知の係合検出手段であるバックルセンサーC1(図示せず)が内装されており、その係合検出結果は後述のように例えば運転席のダッシュボードに表示されるようになっている。
【0038】
ショルダーアンカー4またはその近傍のセンターピラーPには、巻き取りセンサーC2(例えば磁気センサーとしての近接スイッチ)が装着されている。この巻き取りセンサーC2は、例えば超高感度のセンサーが使用され、ボタンストッパーSBに埋め込まれた磁性体(図示せず)の磁気(例えば1ミリガウス以上50ミリガウス以下程度)を検出する。なお、巻き取りセンサーC2の取り付け位置は、センターピラーに限らずショルダーアンカー自体、あるいは屋根やドア、床面等に設けても良い。またこの巻き取りセンサーC2は、磁気検出のみならず、光学検出、無線タグによる検出や機械的検出など、他の手法でもよい。
【0039】
図4は、リトラクター装置の全体概略構造の一例を表す縦断面図である。図4において、リトラクター装置3は、フレーム9と、シートベルト2を巻き取るスプール10と、捩れ変形可能な材料で構成されたトーションバー11と、緊急時に発生する大きな車両減速度を感知して作動する減速度感知手段12と、スプール10の少なくともベルト引出方向の回転を阻止するロック機構13と、渦巻ばねを備えたスプリング手段14と、緊急時に作動しベルト巻取りトルクを発生するプリテンショナー15と、プリテンショナー15のシートベルト巻き取りトルクをスプール10に伝達するブッシュ16とを有している。
【0040】
ロック機構13は、パウル17を揺動可能に保持するロッキングベース18と、ロックギヤ19とを備えている。ロックギヤ19は、公知の構成で足りるため詳細な構造の図示は省略するが、通常時はトーションバー11と一体回転する一方、緊急時は減速度感知手段12の作動で停止してトーションバー11との間に相対回転差を発生させ、これによってパウル17をフレーム9の側壁の内歯20に係合させる。この結果、ロッキングベース18(言い換えればスプール10)のシートベルト引出方向の回転が阻止されるようになっている。なお、このとき、詳細な図示を省略するが、シートベルト2の急激な引出し時にも、ロック機構13のロッキングベース18がロックギヤ19に対してシートベルト引出し方向に相対回転するようになっており、これによって上記と同様にしてシートベルト2の引き出しが阻止されるようになっている。
【0041】
トーションバー11は、スプール10の内周側(詳細には径方向中心側)に軸方向に貫通するように遊嵌配置されている。またこのトーションバー11は、その軸方向一方側(図4の左側)に位置しスプール10の軸方向他方側と相対回転不能に係合するトルク伝達部21と、その軸方向他方側(図4の右側)に位置しロッキングベース18と相対回転不能に係合される(言い換えればロッキングベース18に一体回転可能に支持される)トルク伝達部22とを備えており、スプール10とロック機構13とを回転的に連結する機能を果たす。
【0042】
スプール10は、シートベルト2の巻き取りを行う本体円筒部10aと、この本体円筒部10aより大きな外径を備えた大径円筒部10bとを備えており、フレーム9の両側壁間に回転可能に支持されている。またスプール10は、スプリング手段14の渦巻ばねのばね力によリ、ブッシュ23、トーションバー11、トーションバー11の第2トルク伝達部21、及びブッシュ16を介して常時シートベルト巻取方向に付勢されている。このような構造の結果、トーションバー11の軸方向一方側(図4の左側)はスプール10と一体回転可能に接続されている。また、プリテンショナー15の作動時には、プリテンショナー15で発生したベルト巻取りトルクがブッシュ16を介してスプール10に伝達され、これによりスプール10はシートベルト2を所定量巻き取るようになっている。
【0043】
なお、スプール10とロッキングベース18の軸部18aとの間には、環状の相対回転ロック部材24が配設されている。この相対回転ロック部材24は、内周面に雌ねじ(図示せず)が形成されてロッキングベース軸部18aに形成された雄ねじ(図示せず)に螺合されるとともに、スプール10の軸方向孔に相対回転不能にかつ軸方向移動可能に嵌合されている。そして、スプール10がロッキングベース18に対してベルト引き出し方向に相対回転すると、相対回転ロック部材24がスプール10と一体回転して図4中右方に移動するようになっている。
【0044】
図5は、本実施形態のシートベルト装置1の制御系を表す機能ブロック図である。
【0045】
図5において、この例では、報知手段としての報知部30と制御装置(コントローラ)28とが、運転席前面のダッシュボード26(あるいはハンドル等の他の適宜の箇所でもよい)などに設けられている。
【0046】
上記バックルセンサーC1及び巻き取りセンサーC2の検出信号は制御装置28に入力されて所定の演算処理が行われる。制御装置28は、その演算結果に基づき、報知部30へ駆動信号を出力し、報知部30はアラーム等の警告表示を行なう。なお、警告表示に代えて、音声報知でも良いし、所定の音声鳴動(いわゆる着メロを含む)などで報知を行なってもよい。
【0047】
このとき警告解除のための警告解除ボタン(停止手段)32が適宜の箇所(ダッシュボードやハンドル等)に設けられており、乗員25が押圧操作することでその操作信号が制御装置28に入力され、制御装置28は上記駆動信号を停止して報知部30による報知を停止できるようになっている。
【0048】
図6は、上記制御装置28が実行する制御手順を表すフローチャートである。
【0049】
例えば乗員25が車輛のエンジンを始動することで、図6に示す本発明のシートベルト巻き取りシステムのフローが実行される。
【0050】
まずステップST1において、上記バックルセンサーC1の検出信号が入力(識別)された後、ステップST2において、上記ステップST1で入力した検出信号に基づき、シートベルト2のトング5とバックル装置7との係合が開放されたか否かが判定される。バックル装置7の開放状態が検出されない場合は判定が満たされずステップST1に戻り、同様の手順を繰り返す。バックル装置7の開放状態が検出されると判定が満たされ、次のステップST3に移る。
【0051】
ステップST3では、上記巻き取りセンサーC2の検出信号を入力(識別)し、その後ステップST4において、上記ステップST3で入力した検出信号に基づき、シートベルト2の巻き取りが完了し、トング5がショルダーアンカー4の挿通口4a近傍または挿通口4aに当接する待避位置まで引上げられたか否かを判定する。この判定は、例えば上記の例では、巻き取りセンサーC2で検出したボタンストッパーSBの磁気が所定のしきい値以上となったかどうかで判定すれば足りる。
【0052】
シートベルト2が巻き取りが完了していれば上記判定が満たされ、このフローを終了する。
【0053】
一方、シートベルト2の巻き取りが完了していない場合はステップST4の判定が満たされず、ステップST5に移る。ステップST5では、上記報知部30に上記駆動信号が出力され、これによって報知部30による所定の警告報知(ランプの点滅、スピーカによるアラーム音や着メロなどの音声鳴動等)が行なわれる。
【0054】
その後、ステップST6において、上記解除ボタン32が操作されたかどうかが判定される。乗員25が警告報知に気付かずボタン32が操作されない間は判定が満たされずステップST5に戻って上記警告報知が継続実行される。解除ボタン32が押圧操作されると判定が満たされ、ステップST7に移り、報知部30への駆動信号出力を停止し、このフローが終了する。
【0055】
以上のように構成した本実施形態のシートベルト装置1においては、乗員25が車輌に乗り込み、自ら待避位置(ショルダーアンカー4近傍の位置)にあるトング5を引き下ろし、リトラクター装置3の巻き取り力に抗してシートベルト2を引き出し、トング5をバックル装置7に係合することで、シートベルト2が装着されて拘束される(図1中一点鎖線参照)。
【0056】
そして、降車時には、乗員25がバックル装置7の解除ボタンを押圧操作することでトング5がバックル装置7から開放され、シートベルト2がリトラクター装置3により巻き取られる。この結果、ボタンストッパーSBに係止されつつトング5が上昇する。
【0057】
この際、上記シートベルト2の巻き取りが完了し、ショルダーアンカー4の挿通口4a近傍または挿通口4aに当接するまでトング5が到達した場合には、ボタンストッパーSBの比較的大きな磁力によって巻き取りセンサーC2を介し検出され、ステップST4の判定が満たされ、特に警告報知が行われることはない。
【0058】
しかしながら、何らかの原因で上記シートベルト2の巻き取りが完了せず、ショルダーアンカー4の挿通口4a近傍または挿通口4aに当接するまでトング5が到達していない場合には、ステップST4の判定が満たされず、ステップST5にて上記がランプ表示や音声鳴動による警告報知が行なわれる。これにより、乗員25はシートベルト2の巻き取りが完了していないことを確実に認識することができる。したがって、直ちにシートベルトを再操作して巻き取りを確実に完了させるか、あるいは運転中であればこの報知を受けて焦ることなく安全な場所に車を停車させてから、シートベルト2の巻き取りを確実に完了させるようにしてもよい。これらの結果、車輛の安全が確保され安全に走行することができる。
【0059】
また、この実施形態では特に、乗員25が警告解除ボタン32を直ちに操作することで、継続して出力される音声などの報知を停止し周囲への騒音を防止できる効果もある。
【0060】
さらに、この実施形態では特に、巻き取りセンサーC2として磁気を利用する磁気センサーを用いることにより、非接触検出であることから検出物や検出装置の損傷を防止することができる。また無接点出力なので長寿命が図れるとともに油や水が飛散する環境下でも確実に検出することができ、早い応答速度を得ることができる。
【0061】
さらに、この実施形態では特に、シートベルト2が、導電性を備えた導電繊維(若しくは制電性を備えた制電繊維でもよい)Dを備えることにより、当該折畳み又は巻き込み方向に取り付けた導電繊維Dに金属部材或いはアース回路載置部材を接合させることで、これらを介し、シートベルトに帯電する静電気を、例えば車輪などの接地部に至るアース回路(図示省略)により連続的に散逸させ、シートベルト2の電位を接地電位と同等まで低減することができる。あるいは、複数の導電繊維Dからの導体の先端放電(コロナ放電)によってエネルギーの消費及びイオン化された空気が帯電電荷を中和する効果を得ることもでき、さらに制電繊維による制電作用により静電気の帯電を防止することもできる。
【0062】
このようなシートベルト2の静電気帯電防止効果を確認するために、本願発明者等は、帯電性試験を行った。以下、その試験内容について具体的に説明する。
【0063】
この帯電性試験は、JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)に基づきロータリスタチックテスタ(福井工業技術センター所有、興亜商会株式会社製)で実施した。
【0064】
図7は、この試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。図7において、このロータリスタチックテスタは、試験片(供試体)46を取付ける回転ドラム(定速回転体)34と、回転ドラム34の回転駆動力を発生するモータ40と、この駆動力回転ドラム34に伝達するVベルト42と、一端が固定されるとともに他端に荷重35を加えた静電気発生用の摩擦布(木綿布)36と、静電気測定用の受電部(検出器)38とを有している。
【0065】
試験では、金属ホルダー44を介し試験片(詳細は後述)46を回転ドラム34に取り付け、この回転ドラム34を回転させながら摩擦布(木綿布)36によって60秒間摩擦し、試験片46に発生した静電気の帯電圧を受電部38で測定した。そして、試験片46を測定温湿度状態にて24時間静置した。
【0066】
このときの試験室の上記測定温湿度状態は、原則として温度20℃、相対湿度(40±2)%RHとし、また、摩擦布36は、JIS L 0803(染色堅ろう度試験用添付白布)に規定された綿布を使用した。
【0067】
また試験片46は、以下のようにして作成したものを用いた。すなわち、通常にシートベルトウエビングに用いる合成繊維、縫製糸750デニールのものに、さらに高導電性を付与するために、単糸ポリマー成形段階で微粒子(1マイクロメーター単位)に粉砕された炭化物(電気抵抗値が10−3Ω―cm程度以下)を繊維中芯に5%まで練りこまれ通常の合成繊維材料と混紡され人為的に無撚糸としたものを専ら用いた。これらの高導電性を付与した繊維群及び縫製糸条により縫合して通常のシートベルトウエビングを作成し、それらから任意の方向に3水準で試験用の供試体を250×50mmのサイズで裁断した。また、縫合工程で高導電性加工を施したベルト取り付け孔の部位にアース回路を形成させた。その後、シートベルトウエビングを構成する所定位置に貫通孔を設けその部位に従来とは異なるPP樹脂製ボタンの凹部を形成し、タブレットの径12mm厚さ3mmのフェライト磁性体10ミリガウス特性を有するものを埋設させた。
【0068】
なおこのとき、図1や図2に示した本実施形態のシートベルト装置1と同様の構造の模擬試験装置を用いて、シートベルトのショルダー側アンカー部の近傍に磁気検出器を配置し、上記磁性体の磁気を介しシートベルトの巻き取りが完了していない場合には車内のフロントダッシュボードへの警告表示及び警告音を発するように構成するとともに、正常に磁性体の近接を感知した場合(正常な巻き取りが達成された場合)には警告スイッチを解除できるように回路を構築し、警告音の作動及び解除を評価した。
【0069】
図8は、(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例5)の合計8つの試験片についての上記ロータリスタチックテスタによる帯電性試験結果及びを表す表である。なお、帯電性試験は各試験片について5回実施し、その測定結果は最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用した。また各試験片の経糸方向の最大帯電圧と緯糸方向の最大帯電圧とをそれぞれ測定した。単位はボルト(V)である。測定結果が、50Vよりかなり小さい場合は◎で示し、50V以上の場合は×で示した。また警告作動試験では、正常に機能して警告を行うとともに、警告解除の検出を問題なく感知して警告音を遮断したものは◎で示した。
【0070】
帯電性試験結果は、福井工業技術センター所有の装置により250×50mmに裁断してJIS L1094に準拠して24時間20℃40%以下の環境に保持した検体を用いて5回の測定を繰り返して行い、その最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用して示す。
(実施例1)
ウエビングに高導電繊維束750デニールを使用したもので織り上げたもので自然乾燥させたものである。
(実施例2)
前記した条件と同様で900デニールで織り上げたものである。
(実施例3)
前記した条件に加えて900デニールで織り上げた後、200℃×150秒乾燥キュアを施したものである。
(比較例1)
従来のウエビングに際して導電繊維或いは帯電防止処理を施さずに通常に750デニールで織り上げた200℃×150秒乾燥キュアを施したものである。
(比較例2)
市販の安全ベルト用ウエビングを使用したものであり、高導電繊維からなる縫製糸条を用いず900デニールの縫製糸で縫い上げ加工して製品化されたものから裁断したものである。
(比較例3)
市販のシートベルトウエビングを使用したものであり、高導電繊維からなる縫製糸条を用いずに900デニールの縫製糸で本縫いで製品化されたものを用いたものである。
(比較例4)
市販のシートベルトウエビング製織法により織り上げられた後、200℃以上150秒の熱収縮安定化処理を施されているものから裁断し、900デニールの縫製糸で本縫いで製品化されたものを用いたものである。
(比較例5)
市販のシートベルトウエビングであり、洗濯処理を3回繰り返して自然乾燥したものを裁断し、900デニールの縫製糸で本縫いで縫い上げたものを用いたものである。
【0071】
上記図8において、実施例1では、試験片の経糸方向の最大帯電圧は25V、緯糸方向の最大帯電圧は15Vである。実施例2では、経糸方向の最大帯電圧は8V、緯糸方向の最大帯電圧は5Vであって、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。実施例3では経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は共に1Vより小さく、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。以上のように、実施例1〜3の経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は、50Vを大きく下回っていることが確認できた。
【0072】
一方、比較例1では試験片の経糸方向の最大帯電圧は10000V以上、緯糸方向の最大帯電圧は8000V、比較例2では、同様に4000V、5000V、比較例3では、同様に4900V、5500V、比較例4では、同様に7240V、6170V、比較例5では、同様に800V、750Vとなっており、実施例1〜3の経糸方向及び緯糸方向の最大帯電圧を大きく上回っていることが確認できた。すなわち、比較例の何れにおいても静電気の帯電圧量は満足できる50Vレベルを大きく上回る値を示しており、帯電性が強いことが明白である。
【0073】
上記の結果により、シートベルト2に上記のように導電繊維Dを用いた場合、経糸方向の最大帯電圧、及び緯糸方向の最大帯電圧がともに小さくなることが確認された。すなわち、本実施形態のシートベルト装置1では、シートベル2が導電繊維Dを備えることで、帯電防止対策としてコーティング等を必要とすることなく帯電性が著しく改善され、静電気の帯電を防止することができる。そして、この結果、上記巻き取りセンサーC2の検出動作、報知部30の報知動作、解除ボタン32の操作、制御装置28の各種制御等、さらには自動運転制御システムのCPU、またはナビゲーションシステム及びAV機器の誤動作に与える影響因子を小さくできる。また、車載TVオーディオシステムにノイズの発生も防止される。
【0074】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態のシートベルト巻き取りシステムに採用されるシートベルト装置の全体構造を表す正面図である。
【図2】図1に示すシートベルト装置の斜視図である。
【図3】図1に示すシートベルト装置のA部拡大図である。
【図4】リトラクター装置の全体概略構造の一例を表す縦断面図である。
【図5】制御装置の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【図6】制御装置が実行する制御手順を表すフローチャートである。
【図7】帯電性試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。
【図8】ロータリスタチックテスタによる帯電性試験結果を表す表である。
【符号の説明】
【0076】
1 シートベルト装置
2 シートベルト
3 リトラクター装置
4 ショルダーアンカー(挿通部材)
4a 挿通口
5 トング
6 座席
7 バックル装置
25 乗員
30 報知部(報知手段)
32 警告解除ボタン(停止手段)
C1 バックルセンサー(係合検出手段)
C2 巻き取りセンサー(巻き取り検出手段)
D 導電繊維
P センターピラー
S 車輛
SB ボタンストッパー(規制部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の座席に着座した乗員を拘束するシートベルトと、
このシートベルトの一方側を引き出し可能に巻き取るリトラクター装置と、
このリトラクター装置の当該巻き取り状態を検出するために、前記シートベルトに設けられた被検出部と、
前記車輌の車体側に設けられ、前記被検出部を検出する巻き取り検出手段と、
この巻き取り検出手段の検出結果に応じて、前記巻き取り状態に関する情報を報知する報知手段とを有することを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記巻き取り検出手段を、前記車体を構成するピラーか、若しくは、前記車体に接続され前記シートベルトを挿通する挿通部材に設けたことを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記被検出部は、磁性体を備えており、
前記巻き取り検出手段は、前記磁性体からの磁気を検出する磁気検出手段であることを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項4】
請求項3記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記磁性体は、1ミリガウス以上50ミリガウス以下の磁力を備えていることを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記被検出部を、前記シートベルトに挿通させたトングの動きを規制するために当該シートベルトに設けた規制部材に設けたことを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記シートベルトに挿通させたトングと係合し前記シートベルトを搭乗者に装着させるバックル装置における当該係合状態を検出する係合検出手段を有し、
前記報知手段は、前記巻き取り検出手段と前記係合検出手段との検出結果に応じて、前記報知を行うことを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記報知手段による報知を停止させる停止手段を有することを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記報知手段は、前記報知として、所定の視覚的な警告表示を行うか若しくは所定の音声鳴動を行うことを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記シートベルトは、導電性を備えた導電繊維若しくは制電性を備えた制電繊維を備えることを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。
【請求項10】
請求項9記載のシートベルト巻き取りシステムにおいて、
前記シートベルトの内部あるいは表面において導通回路を備えることを特徴とするシートベルト巻き取りシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−213075(P2006−213075A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24875(P2005−24875)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】