説明

シートベルト用リトラクタ

【課題】車両緊急時等に回転停止される部分に対して巻取ドラムが回転し始めるタイミングの後に、衝撃吸収線状部材による衝撃吸収動作を開始させることができるようにすることを目的とする。
【解決手段】ウエビング12が巻回された巻取ドラム30と、回転可能な状態と回転規制された状態とで切替えられる回転規制部材としてのラチェットギヤ61と、巻取ドラム30及びラチェットギヤ61の双方に対して相対回転可能な中間回転部材82と、一端側が中間回転部材82に取付けられると共に他端側が巻取ドラム30(又はラチェットギヤ)に取付けられたワイヤー86とを備える。ワイヤー86はいずれか一方側の端部が固定端で、他方側の端部が引出可能とされている。ラチェットギヤ61(又は巻取ドラム)に、中間回転部材82が所定量相対回転すると当該中間回転部材82に当接して、その相対回転を規制するストッパ部69が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両緊急時等に乗員を拘束するシートベルト用リトラクタに関し、特に、ウエビングによる乗員への衝撃力を緩和するために、引出抵抗をかけながらウエビングを引出す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシートベルト用リトラクタとして、特許文献1及び2に開示のものがある。
【0003】
上記特許文献1及び2に開示されたシートベルト用リトラクタでは、ウエビングを巻取る巻取ドラムと、車両緊急時に回転が阻止されるプレート体との間にワイヤーが介在して設けられている。そして、車両緊急時等においてプレート体の回転が阻止された状態で、ワイヤーが徐々に引出されつつ、巻取ドラムが回転することによって、衝撃吸収動作が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−341474号公報
【特許文献2】特開2007−161001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシートベルト用リトラクタでは、回転が阻止されたプレート体に対して巻取ドラムが回転し始めるタイミングと、ワイヤーの引出による衝撃吸収動作が開始するタイミングとは同じであり、後者のタイミングを前者のタイミングより遅くすることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明は、車両緊急時等に回転停止される部分に対して巻取ドラムが回転し始めるタイミングの後に、衝撃吸収線状部材による衝撃吸収動作を開始させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の態様に係るシートベルト用リトラクタは、ウエビングが巻回された巻取ドラムと、前記巻取ドラムの回転軸と同軸上で回転可能な状態と、前記ウエビングの引出方向への回転を規制された状態とで切替えられる回転規制部材と、前記巻取ドラムと前記回転規制部材との間に設けられ、前記巻取ドラムと前記回転規制部材とに対して相対回転可能な中間回転部材と、所定荷重よりも小さい前記ウエビングの引出方向への荷重の状態では、前記巻取ドラムと前記回転規制部材とを相対回転不能に連結する第1衝撃吸収部材と、一端側が前記中間回転部材に取付けられると共に、他端側が前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の一方に取付けられ、前記一端側及び前記他端側のいずれか一方側が前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の一方又は前記中間回転部材に対して抵抗を付与しつつ引出可能に取付けられた第2衝撃吸収部材とを備え、前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に、前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に対して前記中間回転部材が所定量相対回転すると前記中間回転部材に当接して前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に対する前記中間回転部材の回転を規制するストッパ部が設けられている。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、第1衝撃吸収部材は、一端側が前記巻取ドラムに相対回転不能に連結されると共に、他端側が前記回転規制部材に相対回転不能に連結されたトーションバーとされている。
【0009】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記回転規制部材が前記巻取ドラムの側面に隣設され、前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に、前記中間回転部材及び前記第2衝撃吸収部材が設けられている。
【0010】
第4の態様は、第3の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記第2衝撃吸収部材は線状部材であり、前記巻取ドラムの側面の外周部に、前記衝撃吸収線状部材を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路が形成された周壁部が設けられ、前記中間回転部材は、前記周壁部内で回転可能に形成されると共に、その周方向の一部に前記衝撃吸収線状部材の前記一端側を固定可能な固定部を有し、前記衝撃吸収線状部材の一端側が前記固定部に固定されると共に、他端側が前記引出路に配設された状態で、前記衝撃吸収線状部材が前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に設けられている。
【0011】
第5の態様は、第4の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ストッパ部は、前記回転規制部材のうち前記巻取ドラム側の側面から前記固定部の回転移動経路の途中の位置で前記周壁部内に突出して設けられている。
【0012】
第6の態様は、第3の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記第2衝撃吸収部材は、線状に形成された衝撃吸収線状部材であり、前記回転規制部材のうち前記巻取ドラム側の側面の外周部に、前記衝撃吸収線状部材を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路が形成された周壁部が形成され、前記中間回転部材は、前記周壁部内で回転可能に形成されると共に、前記衝撃吸収線状部材の前記一端側を固定可能な固定部を有し、前記衝撃吸収線状部材の前記一端側が前記固定部に固定されると共に、前記他端側が前記引出路に配設された状態で、前記衝撃吸収線状部材が前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に設けられている。
【0013】
第7の態様は、第6の態様に係るシートベルト用リトラクタであって、前記ストッパ部は、前記巻取ドラムの側面から前記固定部の回転移動経路の途中の位置で前記周壁部内に突出して設けられている。
【0014】
第8の態様は、第1〜第7のいずれか1つの態様に係るシートベルト用リトラクタであって、通常状態では前記回転規制部材の回転を許容し、少なくとも緊急状態では前記ウエビングの引出方向への前記回転規制部材の回転を規制するロック機構をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様に係るシートベルト用リトラクタによると、回転規制部材の回転が停止された状態で、ウエビングが強い力で引出されると、回転規制部材に対して巻取ドラムが回転する。
【0016】
ここで、第2衝撃吸収部材の一端側が前記中間回転部材に取付けられると共に、他端側が巻取ドラムに取付けられている場合には、中間回転部材は巻取ドラムと一緒に回転する。そして、中間回転部材が回転規制部材に対して所定量相対回転すると、ストッパ部に当接して中間回転部材の回転が規制される。すると、第2衝撃吸収部材のいずれか一方側の端側が抵抗を付与されつつ引出され、これにより衝撃吸収を行うことができる。
【0017】
また、第2衝撃吸収部材の一端側が中間回転部材に取付けられると共に、他端側が回転規制部材に取付けられている場合には、中間回転部材は回転規制部材と同じく回転規制された状態となり、巻取ドラムは中間回転部材に対して相対回転する。そして、中間回転部材が巻取ドラムに対して所定量相対回転すると、ストッパ部に当接して巻取ドラムと共に回転される。すると、第2衝撃吸収部材のいずれか一方側の端側が抵抗を付与されつつ引出され、これにより衝撃吸収を行うことができる。
【0018】
従って、車両緊急時等に回転停止される部分に対して巻取ドラムが回転し始めるタイミングの後に、第2衝撃吸収部材による衝撃吸収動作を開始させることができる。
【0019】
第2の態様によると、回転規制部材に対して巻取ドラムが回転する場合には、まず、トーションバーが捩れる。このため、初期状態ではトーションバーによる衝撃吸収を行わせることでき、また、トーションバーによる衝撃吸収開始後に、第2衝撃吸収部材による衝撃吸収動作を開始させることができる。
【0020】
第3の態様によると、前記回転規制部材が前記巻取ドラムの側面に隣設され、前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に、前記中間回転部材及び第2衝撃吸収部材が設けられているため、構成のコンパクト化を図ることができる。
【0021】
第4の態様によると、衝撃吸収線状部材を取付け等するための構成を巻取ドラムの側面に形成された周壁部内にコンパクトに組込むことができる。また、衝撃吸収線状部材は、周壁部に形成された引出路を通って引出されるため、その引出長を長く設定できる。
【0022】
第5の態様によると、ストッパ部に簡易に形成することができる。
【0023】
第6の態様によると、衝撃吸収線状部材を取付け等するための構成を巻取ドラムの側面に形成された周壁部内にコンパクトに組込むことができる。また、衝撃吸収線状部材は、周壁部に形成された引出路を通って引出されるため、その引出長を長く設定できる。
【0024】
第7の態様によると、ストッパ部を簡易に形成することができる。
【0025】
第8の態様によると、少なくとも緊急状態では回転規制部材の回転を規制して、第1衝撃吸収部材による衝撃吸収動作を開始可能な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係るシートベルト用リトラクタの全体構成を示す斜視図である。
【図2】シートベルト用リトラクタを機能単位で分解した斜視図である。
【図3】シートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
【図4】シートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
【図5】シートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
【図6】プリテンショナー機構の内部構造を示す説明図である。
【図7】ロックパウルの動作を示す説明図である。
【図8】ロックパウルの動作を示す説明図である。
【図9】ウエビング感応部を概略的に示す説明図である。
【図10】シートベルト用リトラクタにおける衝撃吸収構成部分を示す分解斜視図である。
【図11】シートベルト用リトラクタにおける衝撃吸収構成部分を示す分解斜視図である。
【図12】同上の衝撃吸収構成部分の軸方向に沿った部分断面図である。
【図13】中間回転部材を示す側面図である。
【図14】巻取ドラムの部分拡大側面図である。
【図15】ワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図16】ワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図17】ワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図18】衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。
【図19】変形例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図20】変形例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図21】変形例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図22】変形例に係る衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。
【図23】参考例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図24】参考例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図25】参考例に係る衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。
【図26】他の変形例に係るワイヤー式荷重発生機構を示す概略断面図である。
【図27】図26のXXVII−XXVII線概略断面図である。
【図28】他の変形例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【図29】他の変形例に係るワイヤー式荷重発生機構の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<全体構成>
図1はシートベルト用リトラクタ10の全体構成を示す斜視図であり、図2はシートベルト用リトラクタ10を機能単位で分解した斜視図であり、図3及び図4はシートベルト用リトラクタ10をさらに細かく分解した斜視図である。図3は主として巻取ドラム30及びその一端側に組付けられる部品を示しており、図4は主として巻取ドラム30の他端側に組付けられる部品を示している。
【0028】
このシートベルト用リトラクタ10は、車両等の座席に備えられるシートベルト装置に適用されるものである。このシートベルト用リトラクタ10は、車両のセンターピラー下部等に組込まれており、通常状態では、シートベルトとしてのウエビング12を引出及び巻取可能に収容している。このシートベルト用リトラクタ10は、車両の加速時(減速時等を含む)の非通常状態時には、乗員を効果的に拘束するため、ウエビング12の引出を規制する。特に、車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時には、シートベルト用リトラクタ10は、弛みを除去するようにウエビング12を巻取り、その後、乗員に加わる衝撃を緩和するようにウエビング12を徐々に繰出すように構成されている。
【0029】
すなわち、シートベルト用リトラクタ10は、ハウジング20と、巻取ドラム30と、プリテンショナー機構40と、巻取機構100と、ロック機構60とを備えており、巻取ドラム30とロック機構60との間にワイヤー式荷重発生機構80が設けられている。巻取ドラム30は、ハウジング20内に収容されており、巻取ドラム30の一端側(図1の右側)にプリテンショナー機構40が組込まれ、巻取ドラム30の他端側(図1の左側)に巻取機構100及びロック機構60が組込まれている。そして、巻取機構100が巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向に付勢するように構成され、ロック機構60が車両の減速時等の非通常状態時(車両の衝突時或は急激な減速時等の緊急時を含む)に、ウエビング12の引出方向への巻取ドラム30の回転を規制するように構成される。さらに、プリテンショナー機構40は、車両緊急時等に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させるように構成されている。上記ワイヤー式荷重発生機構80は、プリテンショナー機構40が車両緊急時等にウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させた後、ウエビング12を徐々に繰出すように巻取ドラム30の回転を許容し、もって、急な減速によって車両前方に移動しようとする乗員の衝撃を緩和しつつ受止める役割を有している。
【0030】
<ハウジング及び巻取ドラムについて>
ハウジング20は、金属板等によって形成された部材であり、相対向して設けられた一対の側板部21、22と、当該側板部21、22の縁部同士を連結する複数の連結板部23、24とを備えている。側板部21、22には、巻取ドラム30の端部を外部に臨ませる開口21h、22hが形成されている。また、連結板部23は、側板部21、22の他の縁部(図1では上側の縁部)間の位置に延出する部分23aを有しており、この部分23aにウエビング12を外部に引出すための開口23ahが形成されている。ここでは、開口23ahには、ウエビング12を挿通可能なスリット状の開口が形成された樹脂製のガイド部材23bが装着されている。また、連結板部23の前記部分23aには、本シートベルト用リトラクタ10を車体等に取付けるためのねじ穴が形成されたねじ固定片23cが形成されている。
【0031】
そして、一対の側板部21、22間に巻取ドラム30を配設した状態で、一方の側板部21の外面にプリテンショナー機構40が取付けられると共に、他方の側板部22の外面にロック機構60が取付けられる。
【0032】
巻取ドラム30は、ウエビング12が巻回された状態でハウジング20内に回転可能に配設される部材である。具体的には、巻取ドラム30は、アルミニウム等により形成されており、円柱状の巻取ドラム本体部31と、その巻取ドラム本体部31の軸芯方向両端部に径方向に張出すように形成されたフランジ部32、34を有している。ウエビング12は、両フランジ部32、34間で巻取ドラム本体部31に巻回収容される。
【0033】
また、巻取ドラム30には、その中心軸に沿って軸孔部36が形成されている。軸孔部36は、巻取ドラム30の一端部側では非貫通であり、巻取ドラム30の他端部側では開口している。この軸孔部36には、トーションバー38が挿入されている。トーションバー38の一端部38aは、軸孔部36内部において巻取ドラム30に相対回転不能に結合されている。ここでは、トーションバー38の一端部38aを断面非円形形状(ここではスプライン形状)に形成し、この一端部38aが、軸孔部36の最奥部の嵌合穴に相対回転不能な態様で嵌め込まれている。また、トーションバー38の他端部38bは、巻取ドラム30の他端側から外部に突出しており、ロック機構60のラチェットギヤ61(後述する)と相対回転不能に結合される。ここでは、トーションバー38の他端部38bが断面非円形形状(ここでは歯車形状)に形成され、この他端部38bがラチェットギヤ61に形成された嵌合穴62aに相対回転不能な態様で嵌め込まれている。
【0034】
<プリテンショナー機構>
図5はシートベルト用リトラクタ10からプリテンショナー機構40を分解した状態を示す斜視図であり、図6はプリテンショナー機構40の内部構造を示す説明図である。図1〜図3、図5及び図6に示すように、プリテンショナー機構40は、車両の衝突時等の緊急時に、ウエビング12の巻取方向に巻取ドラム30を回転させることによって、ウエビング12の弛みを除去するための機構である。このように車両の衝突時等の緊急時において、ウエビング12の弛みを除去することによって、乗員をしっかりと座席に拘束することができる。
【0035】
より具体的には、プリテンショナー機構40は、ガス発生部材41と、パイプシリンダ42と、ピストン43と、ピニオンギヤ45と、クラッチ機構50とを備えている。
【0036】
ガス発生部材41は、火薬等のガス発生剤を有しており、衝撃検知センサ等の出力に応じて前記ガス発生剤を着火させてガスを発生させる構成とされている。
【0037】
パイプシリンダ42は、直線状のピストン案内筒部42aの一端部にガス導入部42bが連設されたL字状の筒部材に形成されている。このガス導入部42bに上記ガス発生部材41が装着されている。従って、ガス発生部材41により発生されたガスは、パイプシリンダ42のガス導入部42b側(図6等で下側)からピストン案内筒部42a内にガスが導入される。また、ピストン案内筒部42aの一側部における長手方向中間部には、開口部42ahが形成されている。この開口部42ahに、後述するピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aの一部分が配設される。
【0038】
このパイプシリンダ42は、側板部21側のベースプレート48aと外側のカバープレート48bとによって挟持されると共に、これらの間でベースブロック49とカバープレート48bとによって挟持された状態で、タッピングネジPIN1等を用いて側板部21の外面に取付固定される。
【0039】
なお、ピストン案内筒部42aの上端部には、プリテンショナー機構40をハウジング20に取付けるとともに、ピストン164の抜止及び、パイプシリンダ162の抜止、回転止として機能するストッパーピンPIN2を挿通可能な貫通孔42cが形成されている。
【0040】
ピストン43は、スチール材等で形成された部材であり、全体として長尺状の形状を有している。ピストン43の一側部には、ピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aに噛合うラック歯43aが形成されている。また、ピストン43の一端面(図6等で下端面)は、ピストン案内筒部42aの断面形状に応じた円形端面に形成されている。この円形端面に、ゴム等のエラストマーによって形成されたシールプレート42sが取付けられている。
【0041】
このピストン43は、プリテンショナー機構40動作前の待機状態では、ラック歯43aがピニオンギヤ歯45aに非噛合い状態となる位置まで、ピストン案内筒部42aの奥側に挿入配置される。
【0042】
ピニオンギヤ45は、スチール材等で形成された円柱状部材であり、その外周部にはラック歯43aに噛合い可能なピニオンギヤ歯45aが形成されている。また、ピニオンギヤ歯45aより外方に延出するようにして円筒状の支持部45bが形成されている。この支持部45bが側板部21の外面側に取付けられるカバープレート48bに形成された支持孔48hに回転可能に嵌め込まれる。このように支持部45bが支持孔48hに嵌め込まれた状態では、ピニオンギヤ歯45aの一部が、開口部42ahを通じてピストン案内筒部42aの開口部42ah内に配設される。そして、ピストン43が上記待機状態より上方に移動すると、ラック歯43aがピニオンギヤ歯45aに噛合って、ピニオンギヤ45が回転する。
【0043】
このピニオンギヤ45の回転は、クラッチ機構50を介して巻取ドラム30に伝達される。
【0044】
すなわち、上記ピニオンギヤ45の軸心方向の側板部21側の端部には、当該軸芯方向に沿って突出するボス部45dが形成されている。ボス部45dは、断面非円形状(ここでは、複数の突条部分を有するスプライン形状)に形成されている。このボス部45dは、ベースプレート48aに形成された開口を通って巻取ドラム側に突出配置される。
【0045】
また、クラッチ機構50は、通常時においてピニオンギヤ45に対して巻取ドラム30を自由回転させる状態(両者間の回転伝達経路を絶った状態)と、プリテンショナー機構40の作動時においてピニオンギヤ45の回転を巻取ドラム30に伝達する状態(両者間の回転伝達経路を確立した状態)とで切替え可能に構成されている。
【0046】
すなわち、クラッチ機構50は、スチール材等で形成されたパウルベース51と、スチール材等で形成された複数(ここでは3つ)のクラッチパウル52と、樹脂等で形成されたパウルガイド53とを備えている。
【0047】
パウルベース51の中央部には、上記ボス部45dが嵌め込まれる嵌合孔51hが形成されており、ボス部45dが本嵌合孔51hに嵌め込まれることによって、パウルベース51がピニオンギヤ45に対して相対回転不能に取付けられる。つまり、ピニオンギヤ45とパウルベース51とは一体回転する関係にある。また、このように、ボス部45dが嵌合孔51hに嵌め込まれた状態で、ボス部45dにベアリング54が嵌め入れられる。なお、ベアリング54には、巻取ドラム30の他方側面中央に形成された軸部32bが挿入される。
【0048】
このパウルベース51に、各クラッチパウル52が収容姿勢と係止姿勢との間で姿勢変更可能に支持されている。収容姿勢は、クラッチパウル52の全体をパウルベース51の外周縁部内に納めた姿勢であり、係止姿勢はクラッチパウル52の先端部をパウルベース51の外周縁部外方に突出させた姿勢である。
【0049】
パウルガイド53は、円環状の部材であり、上記パウルベース51に対して各クラッチパウル52を挟んで対向する位置に配設されている。このパウルガイド53の外側の側面には位置決突起(図示省略)が突設されており、この位置決突起がベースプレート48aの位置決孔48eに嵌め入れられることにより、待機状態において、パウルガイド53が回転不能な状態でベースプレート48aに取付固定される。また、パウルガイド53のうちパウルベース51側の面には、各クラッチパウル52に対応して姿勢変更用突起部53aが突設されている。そして、プリテンショナー機構40の動作によってパウルベース51とパウルガイド53とが相対回転すると、各クラッチパウル52が姿勢変更用突起部53aに当接して、収容姿勢から係止姿勢に姿勢変更されるようになっている。
【0050】
また、各クラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、巻取ドラム30に係合するようになる。より具体的には、巻取ドラム30の一方側面には、クラッチ機構50を配設可能な環状凹部32hが形成されている。この環状凹部32hの周壁には、クラッチギヤ32aが形成されており、クラッチパウル52の先端部は当該クラッチギヤ32aに対して係合可能とされている。そして、上記のようにクラッチパウル52が係止姿勢に姿勢変更すると、クラッチパウル52の先端部がクラッチギヤ32aに係合し、これにより、パウルベース51が巻取ドラム30を回転させるようになる。なお、クラッチパウル52とクラッチギヤ32aとの係合は、巻取ドラム30をウエビング12の巻取方向へ回転させる、一方向のみへの係合構造である。一度係合するとクラッチパウル52が互いの変形を伴ってクラッチギヤ32aに噛み込むので、係合後、巻取ドラム30がウエビング12引出方向に回転すると、ピニオンギヤ45を、プリテンショナー機構40が作動する際とは逆の方向に、クラッチ機構50を介して回転させ、ピストン43を作動方向とは逆方向に押し戻す。そして、ピストン43のラック歯43aと、ピニオンギヤ45のピニオンギヤ歯45aとの噛合いが外れる位置までピストン43が押し戻されると、ピニオンギヤ45はピストン43から外れるので、巻取ドラム30はピストン43に対して自由回転できるようになる。
【0051】
このプリテンショナー機構40の動作について説明する。
【0052】
すなわち、待機状態において(図6参照)、ガス発生部材41からガスが発生すると、発生したガスの圧力によってピストン43が押される。これにより、ピストン43がピストン案内筒部42aの上方に向けて移動すると共に、ラック歯43aと噛合ったピニオンギヤ歯45aを有するピニオンギヤ45が回転する(図6では左回転)。
【0053】
すると、ピニオンギヤ45と一緒にパウルベース51が回転する。この際、パウルガイド53に対してパウルベース51が相対回転することになるので、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aがクラッチパウル52に当接して、クラッチパウル52を係止姿勢に姿勢変更させる。これにより、クラッチパウル52は巻取ドラム30のクラッチギヤ32aに係合する。これにより、ピストン43が上方に移動しようとする力が、ピニオンギヤ45、パウルベース51、クラッチパウル52及びクラッチギヤ32aを介して巻取ドラム30に伝達され、巻取ドラム30がウエビング12の巻取方向に回転駆動され、ウエビング12が巻取ドラム30に巻取られる。
【0054】
なお、パウルガイド53に形成された姿勢変更用突起部53aはクラッチパウル52に当接した状態が維持されているため、パウルガイド53に対しても回転させようとする力が加わる。そして、この力によってパウルガイド53に形成された位置決突起が破壊されると、パウルガイド53はパウルベース51と共に回転することになる。
【0055】
そして、ピストン43がストッパーピンPIN2に当接するまで移動すると、ウエビング12の巻取動作が終了する。
【0056】
<ロック機構>
ロック機構60は、図2〜図4、図5及び図6に示すように、通常状態ではトーションバー38の他端部38bの回転を許容し、非通常状態ではウエビング12の引出方向へのトーションバー38の他端部38bの回転を規制するように構成されている。
【0057】
本実施形態では、ロック機構60は、ウエビング12の急な引出時と、車両の急な加速時又は減速時にトーションバー38の他端部38bの回転を規制するように構成されている。
【0058】
すなわち、ロック機構60は、ラチェットギヤ61と、ロックパウル64と、ロック側クラッチ66と、ロックカバー68と、ウエビング感応部70と、加速感応部74とを備えている。そして、ウエビング感応部70又は加速感応部74の感応動作に応じてロック側クラッチ66がロックパウル64を動かしてラチェットギヤ61に係合させ、もって、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。
【0059】
すなわち、上記トーションバー38の他端部38bに、ラチェットギヤ61が取付けられている。このラチェットギヤ61は、巻取ドラム30の他方側面に隣接して配設されており、通常状態では、巻取ドラム30と連動して回転し、車両緊急時等にはロック機構60によって回転停止される。つまり、ラチェットギヤ61は、ロック機構60の動作に応じて、巻取ドラム30の回転軸と同軸上で回転可能な状態と、ウエビング12の引出方向への回転を規制された状態とで切替えられる回転規制部材である。
【0060】
より具体的には、ラチェットギヤ61は、スチール材等で形成された部材であり、円板状のラチェットギヤ本体部61aと、ラチェットギヤ本体部61aの一方主面側より突出した軸部61cとを備えている。ラチェットギヤ本体部61aの外周部にはロックパウル64が係合可能なラチェットギヤ歯61bが形成されている。このラチェットギヤ本体部61aは、側板部22に形成された開口22hよりも(僅かに)小さく形成され、当該開口22h内に回転可能に配設される。軸部61cは断面非円形状(ここではその長手方向に沿った突条部を有するスプライン形状)に形成されており、この軸部61cが後述するロック回転部材71及びストッパ104に回り止状態で嵌め込まれる。
【0061】
また、ラチェットギヤ本体部61aの他方主面の中央部には、トーションバー38の他端部38bを嵌め込み可能な嵌合穴62aが形成されている(図10参照)。ここでは、ラチェットギヤ本体部61aの他方主面の中央部に、筒部62が突設され、その筒部62の内周部がトーションバー38の他端部38bに対応する断面非円形形状(ここでは歯車形状)に形成された嵌合穴62aに形成されている(図10参照)。そして、トーションバー38の他端部38bが嵌合穴62aに嵌込まれることで、トーションバー38の他端部38bとラチェットギヤ61とが相対回転不能に相互取付けされる。
【0062】
なお、このラチェットギヤ本体部61aの他方主面には、ワイヤー式荷重発生機構80を組込むための部分が形成されているが、これについては後述する。
【0063】
図7及び図8はロックパウル64の動作を示す説明図である。図2、図4、図7及び図8に示すように、ロックパウル64は、スチール材等で形成された部材である。ロックパウル64は、細長部材(ここでは、長円状部材)に形成され、その一端側部に上記ラチェットギヤ歯61bに係合可能な係合歯64aが形成されている。このロックパウル64は、側板部22に対してハウジング20に取付けられる巻取ドラム30の外周位置で、ピン部材64cを介して係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に取付けられる。係合姿勢は、係合歯64aを上記ラチェットギヤ歯61bに係合させる位置であり、非係合姿勢は係合歯64aをラチェットギヤ歯61bから離間させた位置である。また、ロックパウル64の一端部外向き面には、連結ピン64bが突設されており、この連結ピン64bは開口22hの周縁部の一部を切り欠くようにして形成された凹部22haを通って側板部22の外面側に突出している。
【0064】
また、ロックパウル64には、当該ロックパウル64を非係合位置に付勢する付勢部材としてリターンスプリング(図示せず)が装着されている。リターンスプリングの一端部はハウジング20等に固定され、リターンスプリングの他端部はロックパウル64の一端部に固定されており、リターンスプリングの弾性力によってロックパウル64を非係合位置に付勢している。
【0065】
そして、通常状態では、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64は非係合姿勢に維持されている(図7参照)。そして、後述するロック側クラッチ66によってロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更されると、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する(図8参照)。また、ロックパウル64を係合姿勢に姿勢変更する力が解除されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30はウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0066】
ロック側クラッチ66及びロックカバー68は樹脂等で形成された部材である。
【0067】
ロックカバー68は、クラッチ収容部68aと加速感応部収容部68bとを有している。クラッチ収容部68aは、ロック側クラッチ66を一定範囲内で回転可能に収容可能で、かつ、側板部22側に開口する収容空間を有するケース形状に形成されている。加速感応部収容部68bは、加速感応部74を収容可能で、かつ、クラッチ収容部68a内空間と連通する空間を有するケース形状に形成されている。そして、クラッチ収容部68aを巻取ドラム30の他方側のフランジ部34の外面に対応する位置に配設すると共に、その下方に加速感応部収容部68bを配設した状態で、ロックカバー68が側板部22の外面に取付けられる。ロックカバー68の取付は、ロックカバー68に形成した突起を側板部22に嵌め込むこと、その他ピン止、ねじ止等によって行うとよい。
【0068】
ロック側クラッチ66は、円板状の板部66pの一周面に内側周壁部66aと、外側周壁部67とが形成された構成とされている。
【0069】
板部66pの中央部には、軸部61cを挿通可能な挿通孔66ahが形成されており、ロック側クラッチ66はロックカバー68のクラッチ収容部68a内で一定の(ここでは僅かな一定の)回転範囲内で回転可能に収容される。
【0070】
上記内側周壁部66aは、挿通孔66ahを取囲む位置に形成されており、この内周面には後述する慣性アーム73の先端係合部73aが係止可能な内歯66bが形成されている。
【0071】
外側周壁部67は、内側周壁部66aを、間隔を介して取囲むように形成されている。この外側周壁部67の一部分には、上記ロックパウル64の連結ピン64bを嵌め込み可能な連結孔67hが形成されている。そして、このロック側クラッチ66が上記一定の回転範囲内で正逆両方向に回転することで、ロックパウル64が上記係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更される。なお、ロックパウル64はリターンスプリングの付勢力によって非係合姿勢に向けて付勢されているので、この付勢力によってロック側クラッチ66は、ロックパウル64の非係合姿勢に対応した回転姿勢に付勢されている。
【0072】
また、外側周壁部67の他の一部分には、後述するロックアーム78を姿勢変更可能に支持するロックアーム支軸部67bが設けられている。ここで、ロックアーム78は、ロック回転部材71の外歯71bに係合可能な係合部78aを有する長尺部材である。このロックアーム78の基端部が上記ロックアーム支軸部67bによって係合姿勢と非係合姿勢との間で姿勢変更可能に軸支されている。ロックアーム78の係合姿勢は、係合部78aを内周側に移動させてロック回転部材71の外歯71bに係合させた姿勢であり(図9参照)、その非係合姿勢は係合部78aを外周側に移動させて前記外歯71bから退避させた姿勢である。
【0073】
図9はウエビング感応部70を概略的に示す説明図である。図4及び図9に示すように、ウエビング感応部70は、ウエビング12の急激な引出時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、ロック回転部材71と、付勢部材としてのコイルバネ72と、慣性アーム73とを備えている。
【0074】
ロック回転部材71は、樹脂等で形成された部材であり、円板部分の一主面に周壁部71aが形成された円状部材に形成されている。周壁部71aは、上記内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設可能な径寸法に設定されており、当該周壁部71aを内側周壁部66aと外側周壁部67との間に配設した状態で、回転可能とされている。この周壁部71aの外周部には、ロックアーム78の係合部78aを係合可能な外歯71bが形成されている。
【0075】
また、ロック回転部材71の中央部には、ラチェットギヤ61の軸部61cを回り止状態で嵌め込み可能な嵌合貫通孔71hが形成されている。そして、軸部61cが嵌合貫通孔71hに貫通状態でかつ回り止状態で嵌め込まれる。
【0076】
慣性アーム73は、樹脂等で形成された部材であり、ロック回転部材71の外周縁部の内側に沿った弧状形状に形成されている。慣性アーム73の一端部は、上記内側周壁部66aの内歯66bに係合可能な先端係合部73aに形成されている。この慣性アーム73は、ロック回転部材71の中心から外れた位置で、支軸部71cを介して回転可能に支持されており、先端係合部73aを内周よりの位置に移動させた非係止姿勢(図9の実線参照)と先端係合部73aを外周よりの位置に移動させた係合姿勢(図9の2点鎖線参照)との間で姿勢変更可能とされている。また、慣性アーム73の他端部とロック回転部材71の止片71fとの間に、慣性アーム73を非係合姿勢に付勢する付勢部材としてのコイルバネ72が圧縮状態で介在されている。そして、通常状態では、コイルバネ72の付勢力によって慣性アーム73が退避姿勢に向けて付勢されている。この状態で、ウエビング12が引出されて巻取ドラム30が回転し、これに伴いロック回転部材71が回転すると(ウエビング12の引出方向の回転、図7の矢符参照)、慣性力によって慣性アーム73を係止姿勢に姿勢変更させる力が作用する。この際、ウエビング12の引出が急であると、前記慣性力が大きくなり、コイルバネ72の付勢力に抗して慣性アーム73が係合姿勢に姿勢変更する。これにより、慣性アーム73の先端係合部73aが内歯66bに係合して、ロック側クラッチ66を回転させるようになる。
【0077】
また、この状態で、ウエビング12を引張る力が解除されると、巻取ドラム30及びロック回転部材71が僅かに巻戻され、先端係合部73aと内歯66bとの係合が解除される。これにより、ロック側クラッチ66が元の回転位置に復帰回転するようになる。
【0078】
図4に示すように、加速感応部74は、車両の急激な加速時に巻取ドラム30の回転を規制するための部分であり、球体75と、中継伝達レバー76と、ロックアーム78とを備えている。なお、車両の急激な加速時は、加速度が“マイナス”である場合、即ち、減速時を含み、勿論、車両の衝突によって急激に減速する場合を含む。
【0079】
球体75は、金属球等であり、球体支持部75bによって載置状に支持されている。球体支持部75bは、球体75の下半分よりも小さい部分のみを支える部分を有している。従って、球体75に大きな慣性力が作用すると、球体75は、球体支持部75b内から脱しようとして上方に変位する。
【0080】
中継伝達レバー76は、球体75の上側部分に被さる皿状部76aを有しており、球体支持部75bに突設された支持柱部75cによって、球体75の上方で姿勢変更可能に支持されている。そして、球体75が球体支持部75b内に収っている場合には、中継伝達レバー76は当該球体75の上部に載置されている。この状態から、球体75が球体支持部75bから脱しようとして上方に変位すると、中継伝達レバー76も上方に持上げられる。
【0081】
これらの球体75、球体支持部75b及び中継伝達レバー76は、ロックカバー68の加速感応部収容部68b内に収容される。また、この状態で、加速感応部収容部68bの側板部22側開口は、蓋部77によって塞がれている。
【0082】
この状態で、中継伝達レバー76は、加速感応部収容部68bと蓋部77との上方間部分を通ってロックアーム78と接触可能な位置に配設されている。そして、中継伝達レバー76が上方に持上げられると、ロックアーム78の係合部78aが中継伝達レバー76によって上方に持上げられ、ロックアーム78が係合姿勢に姿勢変更されるようになっている。なお、ロック側クラッチ66の回転範囲はここでは僅かであるので、当該回転範囲内において中継伝達レバー76がロックアーム78を持上げている状態を維持できるようにすることができる。
【0083】
そして、通常状態では、球体75は、球体支持部75bの所定位置に収っており、ロックアーム78も自重によって非係合姿勢に維持されている。この状態で、車両が急激に加速(減速)されると、球体75が球体支持部75bの所定位置から外れて上方に変位する。すると、中継伝達レバー76が上方に持上げられ、さらに、ロックアーム78も係合位置に姿勢変更する。すると、ロックアーム78の係合部78aがロック回転部材71の周壁部71aの外歯71bに係合する。すると、ロック回転部材71の回転力がロックアーム78を介してロック側クラッチ66に伝達され、ロック側クラッチ66を回転させる。なお、ロックパウル64がラチェットギヤ歯61bに係合するまでロック側クラッチ66を回転させた後は、中継伝達レバー76がロックアーム78を持上げている状態は維持されてもよいし解除されてもよい。
【0084】
また、上記状態で、車両が安定状態(停止又は一定速度状態)になると、球体75が球体支持部75bの所定位置に収り、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、下方の元位置に復帰移動できるようになる。
【0085】
ロック機構60の動作について説明する。
【0086】
まず、ウエビング12が急に引出された場合、慣性力によって慣性アーム73が係止姿勢に姿勢変更し、その先端係合部73aが内歯66bに係合して、ロック側クラッチ66を回転させる。すると、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0087】
この状態で、ウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。また、コイルバネ72の付勢力によって慣性アーム73も非係止姿勢に姿勢変更する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転規制が解除され、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。つまり、トーションバー38は、所定荷重よりも小さいウエビング12の引出方向への荷重の状態では、巻取ドラム30と回転規制部材としてのラチェットギヤ61を相対回転不能に結合する第1衝撃吸収部材として用いられている。ここで、所定荷重とは、本シートベルト用リトラクタ10の通常の使用状態よって生じる荷重範囲(即ち、人手によるウエビング12の引出し、及び、通常走行上想定される減速によるウエビング12の引出しによって生じる荷重)と、車両の衝突等の緊急状態によって生じる荷重範囲との間の値である。
【0088】
また、車両の衝突或は急減速時等で、車両が急に加速された場合、球体75が球体支持部75bの所定位置から外れて上方に変位する。すると、中継伝達レバー76が上方に持上げられ、中継伝達レバー76によりロックアーム78も係合位置に姿勢変更される。これにより、ロックアーム78の係合部78aがロック回転部材71の周壁部71aの外歯71bに係合して、ロック回転部材71の回転力がロックアーム78を介してロック側クラッチ66に伝達されるようになり、ロック側クラッチ66が回転する。
【0089】
すると、上記と同様に、ロックパウル64が係合姿勢に姿勢変更され、ロックパウル64の係合歯64aがラチェットギヤ61のラチェットギヤ歯61bに係合して、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30の回転を規制する。これにより、トーションバー38の他端部38bの回転が規制され、ウエビング12の引出が規制される。
【0090】
この状態で、車両が安定状態(停止又は一定速度状態)になると、球体75が球体支持部75bの所定位置に収り、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、下方の元位置に復帰移動できるようになる。同時にウエビング12を引出す力が解除され、巻取ドラム30が僅かに巻戻されると、リターンスプリングの付勢力によってロックパウル64が非係合姿勢に姿勢変更されると共に、同リターンスプリングの付勢力を利用してロック側クラッチ66も元の回転姿勢に復帰する。同時に、中継伝達レバー76及びロックアーム78は、自重によって下方の元位置に復帰移動する。これにより、ラチェットギヤ61及び巻取ドラム30は通常状態に戻ってウエビング12を引出及び巻取動作できるようになる。
【0091】
このロック機構60によって、少なくとも緊急状態ではラチェットギヤ61の回転を規制して、次に説明するワイヤー86を利用した衝撃エネルギーの吸収動作を開始可能な状態にすることができる。
【0092】
なお、ここでは、ロック機構60が、ウエビング12の急な引出時及び車両の急な加速時にトーションバー38の他端部38bの回転を規制(停止)させる例で説明したが、これらはいずれか一方のみ採用されてもよいし、また、他の機構によってトーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であってもよい。また、プリテンショナー機構40の動作と連動してトーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であってもよい。即ち、ロック機構60としては、少なくとも、ウエビング12を引出つつ衝撃吸収すべき緊急状態において、トーションバー38の他端部38bの回転を規制する構成であればよい。
【0093】
<巻取機構>
巻取機構100は、図4に示すように、巻取ドラム30を、常時、巻取方向に付勢するように構成されている。ここでは、巻取機構100は、上記ロック機構60の外側に設けられており、渦巻バネ102と、ストッパ104とバネカバー106とを有している。
【0094】
ストッパ104は、上記ロック機構60の外側に突出する軸部61cの先端部に回り止状態で固定されると共に、渦巻バネ102の最内周端部に固定されている。渦巻バネ102は、ロック機構60の外側に配設された状態で、ロック機構60の外面に取付けられたバネカバー106内に収容されている。バネカバー106内で渦巻バネ102の外側端部は、当該バネカバー106内の一定位置に固定される。
【0095】
そして、渦巻バネ102の一方向の回転付勢力が、ラチェットギヤ61及びトーションバー38を介して巻取ドラム30に対して、巻取ドラム30を常時巻取方向に付勢する力として作用するようになっている。
【0096】
<ワイヤー式荷重発生機構>
図10及び図11はシートベルト用リトラクタ10における衝撃吸収部分を示す分解斜視図であり、図12は同衝撃吸収部分の軸方向に沿った部分断面図であり、図13は中間回転部材82を示す側面図であり、図14は巻取ドラム30の部分拡大側面図である。
【0097】
シートベルト用リトラクタ10は、上記トーションバー38の他端部38bの回転を規制した状態において、ウエビング12を徐々に繰出して衝撃を吸収するための機構として、第1荷重発生機構としての上記トーションバー38を備えると共に、第2荷重発生機構としてのワイヤー式荷重発生機構80を備えている。
【0098】
上記したようにトーションバー38は、その他端部38bの回転が規制された状態で、ウエビング12が大きな力で引張られて巻取ドラム30をウエビング12の引出方向に回転させる大きな力が作用すると、ねじれ変形する。このトーションバー38のねじれ変形によって巻取ドラム30がウエビング12の引出方向に回転し、ウエビング12が徐々に引出される。つまり、トーションバー38のねじれ変形によってウエビング12を急に引出そうとする力に抗する荷重が発生し、これにより、衝撃エネルギーが吸収される。
【0099】
図3、図10〜図14に示すように、ワイヤー式荷重発生機構80は、中間回転部材82と、衝撃吸収線状部材としてのワイヤー86とを備えている。
【0100】
中間回転部材82は、上記巻取ドラム30と回転規制部材としてのラチェットギヤ61との間に設けられており、巻取ドラム30及びラチェットギヤ61の双方に対して相対回転可能に配設されている。
【0101】
より具体的には、巻取ドラム30の他端部側の側面には、軸孔部36の開口を取囲むようにして筒部37が突設されている。上記ラチェットギヤ61の筒部62は、本筒部37内に相対回転可能に挿入された状態で、トーションバー38の他端部38bに対して相対回転不能に結合されている。また、巻取ドラム30の他端部側の側面における外周部には、筒部37を、間隔をあけて囲むようにして外周壁部38wが形成されている。外周壁部38wの一部分には、ワイヤー86を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路39が形成されている。ここでは、引出路39は、外周壁部38wの一部分を径方向外側に突出させた部分39aと当該部分39a内に間隔をあけて突設された三角柱状の突出部分39bとの間の溝形状によって形成されている。ここでは、引出路39は、径方向外側に向って突出するV字状の溝形状を呈する屈曲経路とされている。従って、ワイヤー86が本引出路39を通過する際には、少なくともV字状の頂点部分で屈曲変形されることになり、これにより、ワイヤー86に対して引出抵抗を付与している。
【0102】
勿論、引出路39の形状は上記例に限られず、屈曲部分を設け、或は、狭隘な部分を設ける等して、ワイヤー86に抵抗を付与しつつ引出すことができる形状であればよい。
【0103】
中間回転部材82は、上記外周壁部38w内で回転可能な環状に形成されると共に、その周方向の一部にワイヤー86の一端部を固定可能なワイヤー固定部84が設けられた構成とされている。より具体的には、中間回転部材82は、環状部83とワイヤー固定部84とを備えている。環状部83は、筒部37に外嵌め可能に形成されている。環状部83の内径は、筒部37の外径とほぼ一致し、筒部37に対してがたつき無く外嵌めできることが好ましい。また、環状部83の外径は、外周壁部38wの内径よりも小さい。ワイヤー固定部84は、環状部83の一部分より外方に突出するように形成されている。なお、巻取ドラム30の他方側面のうち本中間回転部材82が嵌め込まれる部分は、その周囲よりも一段深く凹んでいる。ワイヤー固定部84には、ワイヤー86の一端部を固定可能な溝が形成されている。ここでは、ワイヤー固定部84には、ワイヤー86の一端部を複数回屈曲させる屈曲固定路84aが形成されている。ワイヤー固定部84が、ワイヤー86の一端部を、ワイヤー86の他端部を上記引出路39から引出せる程度の保持力で固定できる。
【0104】
なお、中間回転部材82が上記形状であることは必須ではない。例えば、上記中間回転部材82において、環状部83が省略され、ワイヤー固定部84に相当する部分が、筒部37と巻取ドラム30側の外周壁部38wとの間の環状空間に回転移動可能に配設される構成であってもよい。
【0105】
ワイヤー86(第2衝撃吸収部材)は、スチール材等で形成された線状部材であり、その一端側である一端部が上記ワイヤー固定部84の屈曲固定路84aに応じた形状に屈曲され、当該屈曲固定路84a内に嵌込み固定されるようになっている。また、ワイヤー86の他端側であるワイヤー86の長手方向中間部が上記引出路39に応じた形状に屈曲され、当該引出路39内に嵌込み固定されるようになっている。なお、屈曲固定路84aには、ワイヤー86をより確実に保持するため、適宜突部84bが形成されている。また、ワイヤー86の他端部は、外周壁部38wの内側に沿って曲る弧状形状に形成されている。
【0106】
上記中間回転部材82及びワイヤー86は、次のようにして、巻取ドラム30の一方側面とラチェットギヤ61との間に組込まれる。
【0107】
すなわち、ワイヤー86の一端部が上記屈曲固定路84aに嵌込み固定される。そして、外周壁部38w周りにおいてワイヤー固定部84が引出路39の隣の位置に配設されるようにして、ワイヤー固定部84より延出するワイヤー86の長手方向中間部を引出路39に嵌め込み固定する。これにより、ワイヤー86の一端側が固定部84に固定されると共に、その他端側が引出路39に配設された状態で、ワイヤー86が巻取ドラム30の一方側面とラチェットギヤ61との間に配設される。
【0108】
また、ラチェットギヤ61には、ラチェットギヤ61に対して中間回転部材82が所定量回転するとその中間回転部材82に当接してラチェットギヤ61に対する中間回転部材82の回転を規制するストッパ部69が形成されている。
【0109】
ここでは、ラチェットギヤ61のうち巻取ドラム側の面であって、上記ワイヤー固定部84の回転移動経路の途中にストッパ部69が外周壁部38w内に突出形成されている。ワイヤー固定部84の回転移動経路において、どの位置にストッパ部69を形成するかについては、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30がどの程度回転した時点で、ワイヤー86による衝撃吸収動作を開始させるかという、衝撃吸収特性に応じて設定される。ここでは、待機状態において、ワイヤー固定部84に対して、ウエビング12が引出される際にワイヤー固定部84が回転する方向とは逆側に隣接してストッパ部69が配設されている(図15参照)。これにより、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30を比較的大きく回転させた後に、ワイヤー86による衝撃吸収動作を開始させることができる。
【0110】
本シートベルト用リトラクタ10における衝撃吸収動作について説明する。
【0111】
まず、待機状態では、図15に示すように、中間回転部材82のワイヤー固定部84とストッパ部69とは隣接した状態となっており、ワイヤー86の長手方向中間部が引出路39に配設されている。
【0112】
車両の衝突等によって急激な加速(減速)が生じた場合、上記プリテンショナー機構40によってウエビング12の巻取方向へ巻取ドラム30が回転すると共に、ロック機構60によってウエビング12の引出方向へのラチェットギヤ61の回転が規制される。
【0113】
車両衝突等が生じた場合には、慣性力によって乗員が車両に対して相対的に前に移動しようとするので、ウエビング12には大きな引出力が作用する。
【0114】
すると、まず、巻取ドラム30に連結固定されたトーションバー38の一端部とラチェットギヤ61に連結固定されたトーションバー38の他端部との間で、トーションバー38がねじれることによって、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し、ウエビング12が徐々に引出される。つまり、初期段階では、トーションバー38のねじれ変形によって生じる荷重によって、衝撃エネルギーが吸収される。
【0115】
すると、これに伴い、中間回転部材82もラチェットギヤ61のストッパ部69に対して相対回転する。巻取ドラム30が所定量回転すると、中間回転部材82のワイヤー固定部84がストッパ部69に上記待機状態とは反対側から当接する(図16参照)。巻取ドラム30が所定量回転すると、ストッパ部69が中間回転部材82のワイヤー固定部84に上記待機状態とは反対側から当接する(図16参照)。なお、図16に示す例では、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が250度回転した状態で、ワイヤー固定部84がストッパ部69に当接するようになっている。この後、続けてウエビング12が引出されると、ストッパ部69が中間回転部材82を巻取ドラム30に対して相対回転させる。すると、ワイヤー86の他端側が上記引出路39において引出抵抗を付与されつつ引出される(図17参照)。この際のワイヤー86の引出抵抗によって、ワイヤー86の引出抵抗が加重的に付与される。つまり、後半段階では、トーションバー38のねじれ変形によって生じる荷重とワイヤー86の引出抵抗による荷重とが合さって、衝撃エネルギーが吸収される。
【0116】
図18は、衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。同図に示すように、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転する初期段階では、トーションバー38のねじれ変形によって、衝撃吸収用の荷重が発生する。ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が所定量(ここでは、250度)回転し、ワイヤー固定部84がストッパ部69に当接すると、ワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収用の荷重が加重される。なお、ワイヤー86が引出路39から抜出てしまうと、トーションバー38のねじれ変形のみによって衝撃吸収用の荷重が発生している状態に戻る。
【0117】
なお、上記したように、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30がどの程度回転した時点がワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収を開始させるかについては、ラチェットギヤ61に対して中間回転部材82がどの程度回転した時点でワイヤー固定部84がストッパ部69に当接するか、即ち、ワイヤー固定部84の回転移動経路の途中におけるストッパ部69の位置に応じて設定することができる。
【0118】
例えば、図19に示す例では、待機状態において、ストッパ部69に対応するストッパ部69Bと、ワイヤー固定部84は、巻取ドラム30の軸芯周りで90度離れた位置に配設されている。そして、上記と同様に、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が90度回転すると、ワイヤー固定部84がストッパ部69に当接する(図20参照)。この後、続いて、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転すると、ワイヤー86が引出路39から引出され、引出抵抗による荷重が加重されて衝撃吸収がなされる(図21参照)。
【0119】
図22は、上記の場合衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。同図に示すように、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転する初期段階では、トーションバー38のねじれ変形によって、衝撃吸収用の荷重が発生する。ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が所定量(ここでは、90度)回転し、ワイヤー固定部84がストッパ部69に当接すると、ワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収用の荷重が加重される。つまり、本例では、ワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収用の荷重は、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し始めるタイミングより遅れて発生するが、図15〜図18に示す場合よりも早期に発生する。
【0120】
なお、参考までに.図23に示す例では、待機状態において、ストッパ部69に対応するストッパ部69Cと、ワイヤー固定部84は、巻取ドラム30の軸芯周りで互いに接触している。そして、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し始めるのと同時に、ワイヤー86が引出路39から引出され、引出抵抗による荷重が加重されて衝撃吸収がなされる(図24参照)。
【0121】
図25は、上記の場合衝撃吸収用の荷重発生特性例を示す図である。同図に示すように、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転する初期段階から、トーションバー38のねじれ変形による衝撃吸収用の荷重に、ワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収用の荷重が加重された状態となり、比較的早期にワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収用の荷重が無くなり、トーションバー38のねじれ変形のみによって衝撃吸収用の荷重が発生している状態に戻る。
【0122】
ストッパ部69をどの位置に形成するかについては、衝撃エネルギーを効果的に吸収できるように、実験的経験的に決定される。
【0123】
以上のように構成されたシートベルト用リトラクタ10によると、ラチェットギヤ61の回転が停止された状態で、ウエビング12が強い力で引出されると、ラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が中間回転部材82と共に回転する。そして、中間回転部材82がラチェットギヤ61に対して所定量相対回転すると、中間回転部材82のワイヤー固定部84がストッパ部69に当接して中間回転部材82の回転が規制される。すると、ワイヤー86の他端側が抵抗を付与されつつ引出され、これにより衝撃吸収を行うことができる。従って、車両緊急時等に回転停止される部分であるラチェットギヤ61に対して巻取ドラム30が回転し始めるタイミングの後に、ワイヤー86による衝撃吸収動作を開始させることができる。
【0124】
これにより、ウエビング12による衝撃吸収特性上好ましくなるように、衝撃吸収用の荷重発生特性例を調整設定することができる。
【0125】
特に、トーションバー38による衝撃吸収動作と組合わせて、初期段階ではトーションバー38による衝撃吸収を行わせ、後半ではこれにワイヤー86の引出抵抗による衝撃吸収動作を組合わせることができる。これにより、よりウエビング12による衝撃吸収特性上好ましくなるように、衝撃吸収用の荷重発生特性例を調整設定することができる。
【0126】
また、ラチェットギヤ61に対する巻取ドラム30の回転開始に遅れて衝撃吸収用の荷重を大きくすることができるため、ウエビング12の引出を停止させる力を徐々に大きくすることができ、衝撃吸収上好ましい特性を得やすい。例えば、巻取ドラム30が回転し始める際のトーションバー38による衝撃吸収荷重を体重の軽い乗員に合わせて低くし、巻取ドラム30が所定量回転してある程度衝撃吸収した後にワイヤー86による衝撃吸収動作を開始し、体重の重い乗員に合わせて衝撃吸収荷重を大きくするといった、衝撃吸収の特性を持たすことができる。
【0127】
また、ラチェットギヤ61が巻取ドラム30の一方側面に隣接され、巻取ドラム30の一方側面とラチェットギヤ61との間に、中間回転部材82及びワイヤー86が設けられているため、構成のコンパクト化を図ることができる。
【0128】
さらに、巻取ドラム30の一方側面の外周部に、引出路39が形成された外周壁部38wが形成され、中間回転部材82にワイヤー固定部84が形成されており、ワイヤー86の一端側がワイヤー固定部84に固定されると共に、他端側が引出路39に配設されているため、ワイヤー86及びワイヤー86を取付けるための構成を、外周壁部38w内にコンパクトに組込むことができる。また、ワイヤー86は、外周壁部38wに形成された引出路39を通って引出されるため、ワイヤー86の他端側を外周壁部38wに沿って配設でき、その引出量を長く設定できる。これにより、ワイヤー86による衝撃吸収を比較的長時間に亘って実現できる。
【0129】
尚、本実施形態では、ワイヤー86の一端側を中間回転部材82に固定し、ワイヤー86の他端側を巻取ドラム30に引出可能に取付けているが、逆に、ワイヤーの一端側を巻取ドラム側に固定し、ワイヤーの他端側を中間回転部材に引出可能に取付けてもよい。
【0130】
また、ストッパ部69は、ラチェットギヤ61のうち巻取ドラム30側の面から突出形成されているため、当該ストッパ部69を簡易に形成することができる。
【0131】
{変形例}
なお、上記実施形態において、ワイヤーが中間回転部材とラチェットギヤとの間に設けられ、ストッパ部が巻取ドラムに設けられていてもよい。
【0132】
この場合の変形例の一例について説明する。図26は本変形例を示す概略断面図であり、図27は図26のXXVII−XXVII線概略断面図である。
【0133】
すなわち、ラチェットギヤ261は、上記実施形態におけるラチェットギヤ61においてストッパ部69を省略した構成に相当するラチェットギヤ体262の外周部から巻取ドラム30側に突出するようにして環状の周壁部材264が取付けられた構成とされている。ラチェットギヤ体262と周壁部材264とは一体形成された構成であってもよい。ラチェットギヤ体262と周壁部材264との固定は、カシメ構造、嵌め込み構造等により実現できる。周壁部材264には、ワイヤー286の他端側を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路239が形成されている。ここでは、引出路239は、上記引出路39と同様構成とされている。
【0134】
また、中間回転部材82に対応する中間回転部材282は、環状部283とワイヤー固定部284とを備えている。環状部283は、上記周壁部材264の内側に嵌め込み可能な環状形状に形成されている。また、この環状部283の一部から内周側に突出するようにして、ワイヤー固定部284が形成されている。ワイヤー固定部284は、上記ワイヤー固定部284と同様構成にてワイヤー286の一端側を固定可能に構成されている。この中間回転部材282は、上記周壁部材264内でラチェットギヤ体262及び巻取ドラム30に対して相対回転可能に配設されている。
【0135】
なお、上記実施形態と同様に、中間回転部材282が上記形状であることは必須ではない。例えば、上記中間回転部材282において、環状部283が省略され、ワイヤー固定部284に相当する部分が、筒部37とラチェットギヤ体262側の周壁部材264との間の環状空間に回転移動可能に配設される構成であってもよい。
【0136】
ワイヤー86に対応するワイヤー286の一端側は上記ワイヤー固定部284に固定されている。また、ワイヤー286の他端側である長手方向中間部は引出路239内に配設されている。この状態で、ワイヤー286が、巻取ドラム30の他方側面とラチェットギヤ261との間に配設されている。
【0137】
また、巻取ドラム30の他方側面の筒部37にその径方向外側に突出するようにしてストッパ部269が突設されている。ストッパ部269は、上記ワイヤー固定部284の回転移動経路の途中位置で周壁部材264内に突出しており、ワイヤー固定部284が巻取ドラム30の他方に対して相対回転移動する途中でワイヤー固定部284に当接するようになっている。
【0138】
この変形例では、待機状態では、上記第1実施形態と同様に、ストッパ部269は、ワイヤー固定部284に対してウエビング12の引出方向に回転できるように、巻取ドラム30の軸周りに所定の回転角度をあけて配設されている(図26参照)。
【0139】
この状態で、ラチェットギヤ261が停止された状態で、ウエビング12が引出され、巻取ドラム30が回転すると、初期状態では、トーションバー38のねじれ変形による衝撃吸収が行われる(図28参照)。なお、この際には、中間回転部材282はラチェットギヤ261と共に回転停止された状態である。そして、ラチェットギヤ261及び中間回転部材282に対して相対的に巻取ドラム30が回転し、ストッパ部269がワイヤー固定部284に当接すると、ストッパ部269に押されて中間回転部材282が回転し始める。すると、ワイヤー286が引出路239から引出され、ワイヤー286の引出抵抗による衝撃吸収も行われるようになる。
【0140】
このため、上記実施形態と同様に、車両緊急時等に回転停止される部分であるラチェットギヤ261に対して巻取ドラム30が回転し始めたタイミングの後に、ワイヤー286による衝撃吸収動作を開始させることができる。これにより、上記実施形態と同様に、ウエビング12による衝撃吸収特性上好ましくなるように、衝撃吸収用の荷重発生特性例を調整設定することができる等の効果を得ることができる。
【0141】
また、ラチェットギヤ261のうち巻取ドラム30側の側面の外周部に、引出路239が形成された周壁部材264が形成され、中間回転部材282は、周壁部材264内で回転可能な環状に形成されると共に、その周方向の一部にワイヤー固定部284が設けられている。また、ワイヤー286の一端側が上記ワイヤー固定部284に固定されると共に、他端側が引出路239に配設された状態で、ワイヤー286が巻取ドラム30の他方側面とラチェットギヤ261との間に設けられている。従って、ワイヤー286及び中間回転部材282等の衝撃吸収用の構成を周壁部材264内にコンパクトに組込むことができる。また、ワイヤー286が周壁部材264に形成された引出路239に沿って引出され、ワイヤー86の他端側を周壁部材264に沿って配設することができるため、その引出長を長く設定して、ワイヤー286による衝撃吸収を比較的長時間に亘って実現できる。
【0142】
また、ストッパ部269は、巻取ドラム30の筒部37の外周部の一部を突出させた構成であるため、当該ストッパ部269を簡易に形成することができる。
【0143】
なお、本変形例では、ワイヤー286の一端側を中間回転部材282に固定し、ワイヤー86の他端側をラチェットギヤ261に引出可能に取付けているが、逆に、ワイヤーの一端側をラチェットギヤ側に固定し、ワイヤーの他端側を中間回転部材に引出可能に取付けてもよい。
【0144】
なお、上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【0145】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0146】
10 シートベルト用リトラクタ
30 巻取ドラム
38 トーションバー
38w 外周壁部
39、239 引出路
60 ロック機構
61、261 ラチェットギヤ
64 ロックパウル
69、69B、269 ストッパ部
70 ウエビング感応部
74 加速感応部
80 ワイヤー式荷重発生機構
82、282 中間回転部材
83、283 環状部
84、284 ワイヤー固定部
84a 屈曲固定路
86、286 ワイヤー
264 周壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエビングが巻回された巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの回転軸と同軸上で回転可能な状態と、前記ウエビングの引出方向への回転を規制された状態とで切替えられる回転規制部材と、
前記巻取ドラムと前記回転規制部材との間に設けられ、前記巻取ドラムと前記回転規制部材とに対して相対回転可能な中間回転部材と、
所定荷重よりも小さい前記ウエビングの引出方向への荷重の状態では、前記巻取ドラムと前記回転規制部材とを相対回転不能に連結する第1衝撃吸収部材と、
一端側が前記中間回転部材に取付けられると共に、他端側が前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の一方に取付けられ、前記一端側及び前記他端側のいずれか一方側が前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の一方又は前記中間回転部材に対して抵抗を付与しつつ引出可能に取付けられた第2衝撃吸収部材と、
を備え、
前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に、前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に対して前記中間回転部材が所定量相対回転すると前記中間回転部材に当接して前記巻取ドラム及び前記回転規制部材の他方に対する前記中間回転部材の回転を規制するストッパ部が設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
請求項1記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記第1衝撃吸収部材は、一端側が前記巻取ドラムに相対回転不能に連結されると共に、他端側が前記回転規制部材に相対回転不能に連結されたトーションバーである、シートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記回転規制部材が前記巻取ドラムの側面に隣設され、
前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に、前記中間回転部材及び前記第2衝撃吸収部材が設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
請求項3記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記第2衝撃吸収部材は、線状に形成された衝撃吸収線状部材であり、
前記巻取ドラムの側面の外周部に、前記衝撃吸収線状部材を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路が形成された周壁部が設けられ、
前記中間回転部材は、前記周壁部内で回転可能に形成されると共に、前記衝撃吸収線状部材の前記一端側を固定可能な固定部を有し、
前記衝撃吸収線状部材の前記一端側が前記固定部に固定されると共に、前記他端側が前記引出路に配設された状態で、前記衝撃吸収線状部材が前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
請求項4記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ストッパ部は、前記回転規制部材のうち前記巻取ドラム側の側面から前記固定部の回転移動経路の途中の位置で前記周壁部内に突出して設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
請求項3記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記第2衝撃吸収部材は、線状に形成された衝撃吸収線状部材であり、
前記回転規制部材のうち前記巻取ドラム側の側面の外周部に、前記衝撃吸収線状部材を、抵抗を付与しつつ引出可能な引出路が形成された周壁部が形成され、
前記中間回転部材は、前記周壁部内で回転可能に形成されると共に、前記衝撃吸収線状部材の前記一端側を固定可能な固定部を有し、
前記衝撃吸収線状部材の前記一端側が前記固定部に固定されると共に、前記他端側が前記引出路に配設された状態で、前記衝撃吸収線状部材が前記巻取ドラムの側面と前記回転規制部材との間に設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項7】
請求項6記載のシートベルト用リトラクタであって、
前記ストッパ部は、前記巻取ドラムの側面から前記固定部の回転移動経路の途中の位置で前記周壁部内に突出して設けられている、シートベルト用リトラクタ。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載のシートベルト用リトラクタであって、
通常状態では前記回転規制部材の回転を許容し、少なくとも緊急状態では前記ウエビングの引出方向への前記回転規制部材の回転を規制するロック機構をさらに備える、シートベルト用リトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−250627(P2012−250627A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124976(P2011−124976)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】