説明

シートベルト装置用タング及びシートベルト装置

【課題】ショルダ側からラップ側へのウェビングの移動を防止又は抑制でき、しかも、このような移動を防止又は抑制した状態でウェビングに対して局所的な荷重を作用させないシートベルト装置用タング及びシートベルト装置を得る。
【解決手段】車両急減速状態に乗員40の腰部に押圧されたラップウェビング44が可動プレート52の荷重受け部54を押圧すると、可動プレート52の押圧部56がショルダウェビング42をウェビング通過孔24の外側へ押し出す。これにより、ショルダウェビング42における押圧部56との圧接部分よりも基端側では、ショルダウェビング42が基端側貫通孔74の内周部に巻き付けられる。これにより、ウェビング34の通過経路が変更されると共に、タング10や可動プレート52においてウェビング34が巻き付いた部位でのウェビング34の屈曲角度の総和が増加し、ウェビング34とタング10との間の摩擦抵抗が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するシートベルト装置用タング及びこのようなタングを備えるシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたシートベルト装置用タング(特許文献1では「ベルト舌部」と称している)は、その本体部分(特許文献1では「舌部本体部」と称している)がウェビング(特許文献1では「ベルトウェッビング」と称している)の幅方向を軸方向とする軸周りに湾曲しており、その内側に湾曲した板状の曲げ及び締め付け要素が設けられている。
【0003】
車両が急減速することで乗員の身体がウェビングを前方に押圧し、これにより、ウェビングの張力が増加すると、この張力によって曲げ及び締め付け要素がタングの本体部分の内側を摺動する。このように摺動した曲げ及び締め付け要素は、ウェビングを厚さ方向一方の側から押圧し、これにより、曲げ及び締め付け要素がタングにおける本体部分の上バーとでウェビングをクランプする。このようにウェビングがクランプされることによって、タングよりもウェビングの基端側の部分がタングよりも先端側へ移動することを抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−525909の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ウェビングがクランプされた状態のままウェビングに張力が付与されると、ウェビングにおいてクランプされた部分に局所的な荷重が作用するため、このような荷重に耐えうるような強度を予めウェビングに付与しなくてはならない。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ショルダ側からラップ側へのウェビングの移動を防止又は抑制でき、しかも、このような移動を防止又は抑制した状態でウェビングに対して局所的な荷重を作用させないシートベルト装置用タング及びシートベルト装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングは、先端側からバックルに挿し込み可能な挿込部と、前記挿込部の基端側に設けられて、厚さ方向に貫通したウェビング通過孔が形成され、前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から前記厚さ方向他方の側へ通過したウェビングが前記厚さ方向他方の側で折り返されて再び前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側へ通過し、前記折り返し部分よりも長手方向基端側が乗員の胸部を拘束するショルダウェビングとされて前記折り返し部分よりも先端側が乗員の腰部を拘束するラップウェビングとされると共に、前記ウェビング通過孔の内周一部を含めて構成された掛回部に前記ショルダウェビングを掛け回し可能なタング本体と、前記ウェビング通過孔の前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動可能に前記タング本体に設けられ、前記ラップウェビングから受ける前記厚さ方向一方の側から他方の側への押圧力が所定の大きさ以上になった場合に前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動し、前記ショルダウェビングを前記厚さ方向他方の側へ押圧して前記ウェビングの通過経路を変更しつつ前記掛回部に前記ウェビングを掛け回すと共に、前記ウェビング通過孔の前記厚さ方向一方の側から他方の側への移動の前後及び移動途中において前記掛回部との間の間隔が前記ウェビングの厚さ寸法よりも大きく設定された通過経路変更手段と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングでは、バックルに挿し込まれる挿込部の基端側に設けられたタング本体にウェビング通過孔が形成される。このウェビング通過孔はウェビングの通過が可能に形成され、長尺帯状のウェビングがタング本体の厚さ方向一方の側から厚さ方向他方の側へウェビング通過孔を通過する。このウェビングは、タング本体の厚さ方向他方の側で折り返されて、ウェビングにおいてこの折り返し部分よりも先端側はウェビング通過孔を厚さ方向一方の側へ通過する。この折り返し部部分よりもウェビングの長手方向基端側は乗員の胸部を拘束するショルダウェビングとされ、この折り返し部分よりも先端側は乗員の腰部を拘束するラップウェビングとされる。
【0009】
車両急減速時に乗員の身体が車両前方へ慣性移動しようとすることで、ラップウェビングに所定の大きさ以上の張力が付与されると、ラップウェビングに通過経路変更手段が押圧されてウェビング通過孔におけるタング本体の厚さ方向一方の側から他方の側へ移動する。このように移動した通過経路変更手段はショルダウェビングを押圧してタング本体の厚さ方向他方の側へ移動させる。このように、ウェビングが通過経路変更手段に押圧されて移動することでウェビングの通過経路が変更される。
【0010】
このようにウェビングの通過経路が変更されることでショルダウェビングはウェビング通過孔の内周部を含めて構成される掛け回し部に掛け回される。ウェビングが掛回部に掛け回されることで、ウェビングは掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対して先端側がウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りに屈曲する。
【0011】
ここで、通過経路変更手段が作動する前の状態でウェビングが掛回部に掛け回されておらず、通過経路変更手段が作動することでウェビングが掛回部に掛け回される構成では通過経路変更手段の作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加したと言える。
【0012】
また、通過経路変更手段が作動する前の状態でウェビングが掛回部に掛け回されており、通過経路変更手段が作動することでウェビングが掛回部に更に掛け回される構成では通過経路変更手段が作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加したと言える。
【0013】
すなわち、本発明に係るシートベルト装置用タングでは、通過経路変更手段が作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加する。これによって、掛回部とウェビングとの間の摩擦が増加し、ショルダウェビングがウェビング通過孔をウェビングの先端側へ通過してラップウェビング側へ移動することを防止又は抑制できる。これにより、ラップウェビングの長さが増加することを防止又は抑制でき、ウェビングによって乗員の身体を効果的に拘束できる。
【0014】
ここで、本発明では、通過経路変更手段と上記の掛回部との間の間隔は、通過経路変更手段の移動の前後及び移動の途中においてウェビングの厚さ寸法よりも大きくなるように設定される。したがって、通過経路変更手段と掛回部とでウェビングをクランプすることがない。このため、通過経路変更手段が作動しても、ウェビングに局部的な荷重が付与されることをより一層効果的に防止できる。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングは、請求項1に記載の本発明において、前記タング本体の幅方向を軸方向とする軸周りに回動可能に前記通過経路変更手段を前記タング本体に設け、前記通過経路変更手段の回動半径方向先端側で前記ラップウェビングからの押圧力を受けると共に前記ショルダウェビングを押圧するように構成している。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングでは、通過経路変更手段がタング本体の幅方向を軸方向とする軸周りに回動可能にタング本体に設けられる。通過経路変更手段の回動半径方向先端側に所定の大きさ以上の押圧力がラップウェビングから付与されると、通過経路変更手段がタング本体の厚さ方向一方の側から他方の側へ回動する。このように回動した通過経路変更手段の回動半径方向先端側はショルダウェビングを押圧してタング本体の厚さ方向他方の側へ移動させ、これにより、ウェビングの通過経路が変更されると共に、ウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加する。
【0017】
なお、本発明において「タング本体の幅方向」とはタング本体における基端側(挿込部とは反対側)から先端側(挿込部側)への向きとタング本体の厚さ方向の双方に対して概ね直交する向きである。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記ショルダウェビングよりも前記厚さ方向一方の側に設けられて、前記厚さ方向他方の側へ移動することで前記ショルダウェビングを押圧して前記ウェビングの通過経路を変更する押圧部と、前記押圧部よりも前記厚さ方向一方の側に設けられると共に、弾性力により前記荷重受け部との間隔が維持されて、前記ラップウェビングによって前記厚さ方向一方の側へ押圧されて移動することにより前記荷重受け部を前記厚さ方向他方の側へ移動させると共に、前記所定の大きさよりも更に大きな特定の大きさ以上の押圧力が前記ラップウェビングから付与されることで前記弾性力に抗して前記荷重受け部へ接近する荷重受け部と、を含めて前記通過経路変更手段を構成している。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングでは、通過経路変更手段を構成する荷重受け部がラップウェビングからの所定の大きさ以上の押圧力を受けてタング本体の厚さ方向一方の側から他方の側へ移動すると、この荷重受け部と押圧部との間の間隔を維持する付勢力によって押圧部がタング本体の厚さ方向一方の側から他方の側へ移動する。このように押圧部が移動することでショルダウェビングが押圧部に押圧されて移動し、ウェビングの通過経路が変更される。
【0020】
一方、荷重受け部を移動させるために要する所定の大きさの押圧力よりも更に大きな特定の大きさの押圧力がラップウェビングから荷重受け部に付与されると、荷重受け部は弾性力に抗して押圧部に接近する。この状態では、ショルダウェビングがラップウェビング側へ移動することが防止又は抑制されているものの、押圧部側への荷重受け部の移動量分だけラップウェビングが車両前方側へ移動でき、これに応じて乗員の身体が車両前方側へ慣性移動できる。
【0021】
さらに、ラップウェビングが荷重受け部を押圧する力は、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がラップウェビングに付与する力である。このため、この力が荷重受け部を弾性力に抗して押圧部に接近させることにより、乗員の身体からラップウェビングに付与される力の少なくとも一部が吸収される。
【0022】
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングは、請求項3に記載の本発明において、中間部にて屈曲又は湾曲されて、当該屈曲部分又は湾曲部分よりも一方の先端側が押圧部とされて他方の先端側が荷重受け部とされ、弾性力に抗して前記屈曲部分又は湾曲部分よりも一方の先端側に対して他方の先端側が接近するように変形可能な弾性部材により前記通過経路変更手段を構成している。
【0023】
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置用タングでは、中間部にて屈曲又は湾曲した弾性部材によって通過経路変更手段が構成される。この弾性部材における屈曲部分又は湾曲部分よりも一方の先端側が押圧部とされ、他方の先端側が荷重受け部とされる。上述した所定の大きさよりも更に大きな特定の大きさの押圧力がラップウェビングから荷重受け部に付与されると、弾性部材の弾性力に抗して一方の先端側(すなわち、押圧部)に他方の先端側(すなわち、荷重受け部)が接近するように弾性部材が変形する。
【0024】
これによって、押圧部側への荷重受け部の移動量分だけラップウェビングが車両前方側へ移動できると共に、乗員の身体からラップウェビングに付与される力の少なくとも一部を吸収できる。しかも、通過経路変更手段における押圧部と荷重受け部とを1つの弾性部材で構成できるので、通過経路変更手段の構造を簡素化できる。
【0025】
請求項5に記載の本発明に係るシートベルト装置は、シートの側方に設けられたバックルと、前記バックルに装着可能な挿込部の基端側に形成されたタング本体に、その厚さ方向に貫通したウェビング通過孔が形成されたタングと、長手方向中間部よりも先端側が前記ウェビング通過孔を前記タングの厚さ方向一方の側から他方の側に通過して前記タングよりも前記厚さ方向他方の側で折り返され、当該折り返し部分よりも先端側が再び前記ウェビング通過孔を前記タングの厚さ方向一方へ向けて通過し、前記折り返し部分よりも長手方向基端側が乗員の胸部を拘束するショルダウェビングとされて、前記折り返し部分よりも長手方向先端側が乗員の腰部を拘束するラップウェビングとされるウェビングと、前記タングにおいて前記ウェビングの通過孔の内周部を含めて構成された掛回部との間で前記ウェビングの厚さ方向以上の間隔を保った状態のまま前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動可能に前記タングに設けられ、前記ラップウェビングから受ける前記厚さ方向一方の側から他方の側への所定の大きさ以上の押圧力によって前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動して前記ショルダウェビングを前記厚さ方向他方の側へ押圧して前記ショルダウェビングの通過経路を変更しつつ前記掛回部に掛け回された前記ウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りの前記ショルダウェビングの屈曲角度を増加させると共に、前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から他方の側への移動の途中及び当該移動が終了した状態で前記掛回部との間隔が前記ウェビングの厚さ寸法よりも大きく設定される通過経路変更手段と、を備えている。
【0026】
請求項5に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、ウェビングの長手方向中間部よりも先端側がウェビング通過孔をタングの厚さ方向一方の側から他方の側に通過している。このウェビングは、タングよりも厚さ方向他方の側で折り返され、この折り返し部分よりも先端側が再びウェビング通過孔をタングの厚さ方向一方へ向けて通過している。
【0027】
このようなタングがバックルに装着されることで乗員の身体にウェビングが装着される。この状態で、ウェビングにおいて上記の折り返し部分よりも長手方向基端側のショルダウェビングによって乗員の胸部が拘束され、折り返し部分よりも長手方向先端側のラップウェビングによって乗員の腰部が拘束される。
【0028】
車両急減速時に乗員の身体が車両前方へ慣性移動しようとすることで、ラップウェビングに所定の大きさ以上の張力が付与されると、ラップウェビングに通過経路変更手段が押圧されてウェビング通過孔におけるタングの厚さ方向一方の側から他方の側へ移動する。このように移動した通過経路変更手段はショルダウェビングを押圧してタングの厚さ方向他方の側へ移動させる。このように、ウェビングが通過経路変更手段に押圧されて移動することでウェビングの通過経路が変更される。
【0029】
このようにウェビングの通過経路が変更されることでショルダウェビングはウェビング通過孔の内周部を含めて構成される掛け回し部に掛け回される。ウェビングが掛回部に掛け回されることで、ウェビングは掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対して先端側がウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りに屈曲する。
【0030】
ここで、通過経路変更手段が作動する前の状態でウェビングが掛回部に掛け回されておらず、通過経路変更手段が作動することでウェビングが掛回部に掛け回される構成では通過経路変更手段の作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加したと言える。
【0031】
また、通過経路変更手段が作動する前の状態でウェビングが掛回部に掛け回されており、通過経路変更手段が作動することでウェビングが掛回部に更に掛け回される構成では通過経路変更手段が作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加したと言える。
【0032】
すなわち、本発明に係るシートベルト装置では、通過経路変更手段が作動することでウェビングの掛回部に掛け回された部分よりも基端側に対する先端側の屈曲角度が増加する。これによって、掛回部とウェビングとの間の摩擦が増加し、ショルダウェビングがウェビング通過孔をウェビングの先端側へ通過してラップウェビング側へ移動することを防止又は抑制できる。これにより、ラップウェビングの長さが増加することを防止又は抑制でき、ウェビングによって乗員の身体を効果的に拘束できる。
【0033】
ここで、本発明では、通過経路変更手段と上記の掛回部との間の間隔は、通過経路変更手段の移動の前後及び移動の途中においてウェビングの厚さ寸法よりも大きくなるように設定される。したがって、通過経路変更手段と掛回部とでウェビングをクランプすることがない。このため、通過経路変更手段が作動しても、ウェビングに局部的な荷重が付与されることをより一層効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0034】
以上、説明したように、本発明に係るシートベルト装置用タング及びシートベルト装置は、ショルダ側からラップ側へのウェビングの移動を防止又は抑制でき、しかも、このような移動を防止又は抑制した状態でウェビングに局所的な荷重が作用することを防止又は抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置用タングを適用したシートベルト装置の全体構成の概略とシートベルト装置用タングの断面を示す図である。
【図2】通過経路変更手段がウェビングの屈曲角度の総和を増加させた状態を示すシートベルト装置用タングの断面図である。
【図3】通過経路変更手段が変形した状態を示す図2に対応した断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置用タングの分解斜視図である。
【図5】本実施の形態とクランプによりウェビングの移動を抑制する構成とでウェビングに作用する荷重の変化を示す概略的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<本実施の形態の構成>
図4には本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置用タング10(以下、タング10と称する)の構成が分解斜視図により示されており、図1にはタング10を適用したシートベルト装置32の概略的な全体構成とタング10の断面図が示されている。
【0037】
これらの図に示されるように、タング10は金属平板を打ち抜くことで形成された芯金部14を備えている。芯金部14の先端側が挿込部15とされている。この挿込部15に対応して車両のシート16の幅方向側方にはバックル18が設けられており、芯金部14の挿込部15をその先端側からバックル18に挿し込むことができるようになっている。挿込部15には係合孔20が芯金部14の厚さ方向(すなわち、タング本体12の厚さ方向であり、タング10の厚さ方向)に貫通するように形成されており、バックル18に芯金部14を挿し込むと。バックル18のラッチが係合孔20に入り込むように係合する。これにより、バックル18に対するタング10の装着状態になる。
【0038】
芯金部14における挿込部15よりも基端側はタング本体12とされている。タング本体12はモールド部22を備えている。モールド部22は合成樹脂材により形成されており、芯金部14における挿込部15よりも基端側をモールド部22が被覆している。モールド部22には芯金部14の厚さ方向にモールド部22を貫通したウェビング通過孔24が形成されている。
【0039】
このウェビング通過孔24の内側にはストッパ26が設けられている。ストッパ26は長手方向が芯金部14の幅方向(すなわち、タング本体12の幅方向であり、タング10の幅方向)に沿った細幅板状に形成されており、ストッパ26の長手方向両端がストッパ26の内周部に繋がっている。このストッパ26によりウェビング通過孔24はその内幅方向に実質的に二分される。なお、以下、ウェビング通過孔24においてストッパ26よりも芯金部14の先端側を便宜上先端側通過孔28と称し、ストッパ26よりも芯金部14の基端側を便宜上基端側通過孔30と称する。
【0040】
このウェビング通過孔24にはシートベルト装置32を構成するウェビング34が通過する。ウェビング34の長手方向基端部は、シート16のバックル18が設けられた側とは反対側でシート16のフレームや車体に固定されたウェビング巻取装置36のスプールに係止され、ウェビング34の長手方向基端側はこのスプールに巻取られた状態で格納されている。
【0041】
ウェビング34はスプールから車両上方へ引き出され、例えば、車両のセンターピラーの上端部近傍に取り付けられたショルダアンカ38のスリット孔を通過して下方へ折り返されている。ショルダアンカ38のスリット孔を通過したウェビング34の先端は、シート16のバックル18が設けられた側とは反対側でシート16のフレームや車体に固定された図示しないアンカプレートに係止されている。
【0042】
このアンカプレートに係止されたウェビング34の先端とショルダアンカ38のスリット孔でのウェビング34の折り返し部分との間で、ウェビング34はモールド部22の厚さ方向一方の側(すなわち、タング本体の厚さ方向一方の側であり、タング10の厚さ方向一方の側)から基端側通過孔30を通過し、ストッパ26よりもモールド部22の厚さ方向他方の側を通過している。さらに、ウェビング34は、モールド部22の厚さ方向他方の側で折り返されて、モールド部22の厚さ方向他方の側から先端側通過孔28を通過している。
【0043】
このようにしてウェビング通過孔24を通過したウェビング34は、ショルダアンカ38のスリット孔とモールド部22の基端側通過孔30との間の部分が乗員40の肩部や胸部を拘束するショルダウェビング42となり、ウェビング34の先端(アンカプレートに係止された部分)と基端側通過孔30との間の部分が乗員40の腰部を拘束するラップウェビング44となる。
【0044】
また、ウェビング通過孔24の内側には弾性部材として通過経路変更手段としての可動プレート52が設けられている。可動プレート52は金属平板を全体的に略V字形状(又は略U字形状)に屈曲又は湾曲させることで形成されている。
【0045】
可動プレート52における屈曲部分(又は湾曲部分)から延びる一対の板片のうち、タング本体12の厚さ方向一方の側に位置する板片は荷重受け部54とされ、ラップウェビング44がタング本体12の厚さ方向一方の側から接する。これに対して、上記の一対の板片の他方は押圧部56とされている。可動プレート52は、これらの荷重受け部54と押圧部56との間を上記のストッパ26が通過するようにウェビング通過孔24の内側に配置されている。
【0046】
このように配置された可動プレート52の外側にウェビング34が通過しており、乗員40の身体にウェビング34が装着された状態で乗員40の身体が車両前方側へ移動しようとした際には荷重受け部54がラップウェビング44からの荷重を受ける。荷重受け部54がラップウェビング44からの荷重を受け、これによってストッパ26に接近するように可動プレート52が回動すると、押圧部56がウェビング通過孔24の外側へショルダウェビング42を押圧する。
【0047】
モールド部22おいてウェビング通過孔24の基端側の部分(モールド部22おいてウェビング通過孔24の挿し込み部15とは反対側の部分)は掛回部46とされている。図2や図3に示されるように、可動プレート52が所定の回動位置までモールド部22の厚さ方向他方の側へ回動し、可動プレート52の押圧部56にショルダウェビング42が押圧されてモールド部22の厚さ方向他方の側へ移動することで掛回部46にはショルダウェビング42が掛け回されるようになっている。
【0048】
なお、本実施の形態では、可動プレート52が厚さ方向他方の側へ回動していない状態(すなわち、初期位置に可動プレート52がある状態)で掛回部46にショルダウェビング42が掛け回されていない構成である。しかしながら、可動プレート52が厚さ方向他方の側へ回動することで更にショルダウェビング42が掛回部46に掛け回されるのであれば、可動プレート52が厚さ方向他方の側へ回動していない状態(すなわち、初期位置に可動プレート52がある状態)で既に掛回部46にショルダウェビング42が掛け回されている構成であってもよい。
【0049】
また、可動プレート52は所謂「板ばね」を構成しており、屈曲部分(又は湾曲部分)を中心に押圧部56に対して荷重受け部54が接離する向きに弾性変形可能である。このため、ショルダウェビング42の張力が押圧部56からの押圧力よりも大きいと、ラップウェビング44からの押圧力により荷重受け部54が押圧部56に接近するように可動プレート52が変形(弾性変形)する。
【0050】
また、芯金部14の幅方向に沿った可動プレート52の側方ではウェビング通過孔24の内周部にガイド片58が形成されている。ガイド片58は可動プレート52の形状に対応した扇形状に形成されており、可動プレート52に対して芯金部14の幅方向の荷重が作用した場合に、可動プレート52に干渉して荷重受け部54の変位や変形を規制する。
【0051】
さらに、これらのガイド片58の少なくとも一方には規制手段としてのストッパ60が形成されている。このストッパ60は、両ガイド片58の対向方向内方へ突出形成されており、荷重受け部54に干渉して荷重受け部54がウェビング通過孔24の内側へ向けて移動するような可動プレート52の移動を規制している。
【0052】
さらに、芯金部14の長手方向に沿った押圧部56の先端部と基端側通過孔30の内周部との間隔は、ウェビング34の厚さよりも大きくなるようにウェビング通過孔24の形状や、ストッパ26の形成位置、更には、押圧部56の長さ等が設定されている。
【0053】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0054】
本タング10では、芯金部14の先端側がバックル18に挿入されて係合孔20にバックル18のラッチが係合することでバックル18へのタング10の装着状態となる。この状態で乗員40の身体にウェビング34が掛け回されていれば、乗員40の身体に対するウェビング34の装着状態になり、ウェビング34により乗員40の身体が拘束される。
【0055】
この状態では、図2に示されるように、乗員40の身体に対するウェビング34の装着状態では、可動プレート52よりもウェビング34の長手方向基端側に対して、ウェビング34において可動プレート52の押圧部56に掛け回された部分の長手方向がθ1の角度で屈曲(又は湾曲)している。また、このウェビング34において可動プレート52の押圧部56に掛け回された部分の長手方向に対して、押圧部56に掛け回された部分よりも長手方向先端側がθ2の角度で屈曲(又は湾曲)している。
【0056】
この状態で、車両が急減速状態になると乗員40の身体は車両前方側へ慣性移動しようとする。車両前方側へ慣性移動しようとする乗員40の身体は、その腰部がウェビング34のラップウェビング44を車両前方側へ押圧し、胸部や肩部がウェビング34のショルダウェビング42を車両前方側へ押圧する。
【0057】
ここで、このような状態で乗員40の腰部がラップウェビング44を車両前方側へ押圧する力は、胸部や肩部がショルダウェビング42を車両前方側へ押圧する力よりも大きい。このため、ラップウェビング44が乗員40の腰部から付与された力を可動プレート52の荷重受け部54が受けると、V字の支点部分に相当する可動プレート52の屈曲部分(又は湾曲部分)を中心に可動プレート52が回動する。このように可動プレート52が回動すると、押圧部56がウェビング34のショルダウェビング42をウェビング通過孔24の外側へ押し出す。
【0058】
図2に示されるように、押圧部56にショルダウェビング42が押し出されると、それまでよりもショルダウェビング42の通過経路が湾曲し、ショルダウェビング42における荷重受け部54との圧接部分よりも基端側では、ショルダウェビング42が基端側通過孔30の内周部に巻き付けられる。
【0059】
これにより、先ず、ウェビング34における基端側通過孔30の内周部よりも基端側における長手方向に対し、ウェビング34における基端側通過孔30の内周部と押圧部56との間の部分の長手方向がθ3の角度で屈曲(又は湾曲)する。次に、ウェビング34における基端側通過孔30の内周部と押圧部56との間の部分の長手方向に対し、押圧部56に圧接されている部分の長手方向がθ4の角度で屈曲(又は湾曲)する。
【0060】
そして、ウェビング34において押圧部56に圧接されている部分の長手方向に対し、荷重受け部54を圧接している部分の長手方向がθ5の角度で屈曲(又は湾曲)し、このウェビング34において荷重受け部54を圧接している部分の長手方向に対し、荷重受け部54よりも先端側の部分の長手方向がθ6の角度で屈曲(又は湾曲)している。
【0061】
上記の屈曲角度θ3から屈曲角度θ6までの総和は、可動プレート52が回動する前の屈曲角度θ1と屈曲角度θ2との和よりも大きくなる。これにより、ウェビング34とタング10との間の摩擦抵抗が増加する。
【0062】
このように増加した摩擦抵抗は、ウェビング34がウェビング通過孔24を通過して、その長手方向へ移動することに対する抵抗になる。これにより、ウェビング34のショルダウェビング42側の部分がウェビング通過孔24を通過してラップウェビング44側へ移動することを抑制でき、ラップウェビング44で乗員40の腰部を効果的に拘束して、車両前方側への乗員40の慣性移動を効果的に抑制できる。
【0063】
しかも、芯金部14の長手方向に沿った押圧部56の先端部と基端側通過孔30の内周部との間隔は、ウェビング34の厚さよりも大きくなるようにウェビング通過孔24の形状や、ストッパ26の形成位置、更には、押圧部56の長さ等が設定されている。このため、本タング10では、上記のように可動プレート52が回動することでタング10でのウェビング34の摺接範囲が増加するものの、基端側通過孔30の内周部と押圧部56とがウェビング34をクランプすることがない。このため、ウェビング34をクランプしてウェビング34のショルダウェビング42側の部分がウェビング通過孔24を通過してラップウェビング44側へ移動することを抑制する構成とは異なり、ウェビング34に対して局所的に大きな荷重が付与されることがない。
【0064】
また、図5に示されるように、ウェビング34をクランプしてウェビング34のショルダウェビング42側の部分がウェビング通過孔24を通過してラップウェビング44側へ移動することを抑制する構成とは異なり、本タング10では、ショルダウェビング42が乗員40の胸部等に付与する荷重が少しずつ増加して、急激に増加することがない。これにより、乗員40の胸部に付与する負荷を軽減できる。
【0065】
さらに、上記の可動プレート52は所謂「板ばね」で構成されている。このため、可動プレート52そのものの弾性に抗して荷重受け部54と押圧部56とを互いに接離させるように可動プレート52を弾性変形させることができる。
【0066】
例えば、車両前方へ慣性移動しようとする乗員40の身体からショルダウェビング42に力が付与されるとショルダウェビング42の張力が増加する。この張力が押圧部56からの押圧力を上回ると、押圧部56はタング本体12の幅方向他方の側へ移動できない。
【0067】
この状態で可動プレート52の弾性力に抗する押圧力を荷重受け部54がラップウェビング44から受けると、図3に示されるように、荷重受け部54が押圧部56に接近するように可動プレート52が弾性変形する。この荷重受け部54が押圧部56に接近することによって、この荷重受け部54の移動量に応じてラップウェビング44が車両前方へ移動でき、このラップウェビング44の移動分だけ乗員40は車両前方へ慣性移動できる。
【0068】
また、車両前方へ慣性移動しようとする乗員40の身体がラップウェビング44に付与する力の一部を、上述したような可動プレート52の弾性変形によって吸収できる。
【0069】
さらに、本実施の形態では、通過経路変更手段を実質的に「板ばね」である可動プレート52で構成しているので、構成が簡素であり、安価なコストで実現が可能である。
【0070】
なお、本実施の形態では、可動プレート52の自体の弾性に抗することで荷重受け部54が押圧部56に接近するように可動プレート52が弾性変形する構成であった。しかしながら、荷重受け部54と押圧部56との間に圧縮コイルばねや、ゴム材等の可動プレート52とは別の第2弾性部材を介在させ、荷重受け部54を押圧部56へ接近させるために必要なラップウェビング44からの押圧力を増加させてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 シートベルト装置用タング
12 タング本体
16 シート
18 バックル
24 ウェビング通過孔
32 シートベルト装置
34 ウェビング
42 ショルダウェビング
44 ラップウェビング
52 可動プレート(通過経路変更手段)
54 荷重受け部
56 押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側からバックルに挿し込み可能な挿込部と、
前記挿込部の基端側に設けられて、厚さ方向に貫通したウェビング通過孔が形成され、前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から前記厚さ方向他方の側へ通過したウェビングが前記厚さ方向他方の側で折り返されて再び前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側へ通過し、前記折り返し部分よりも長手方向基端側が乗員の胸部を拘束するショルダウェビングとされて前記折り返し部分よりも先端側が乗員の腰部を拘束するラップウェビングとされると共に、前記ウェビング通過孔の内周一部を含めて構成された掛回部に前記ショルダウェビングを掛け回し可能なタング本体と、
前記ウェビング通過孔の前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動可能に前記タング本体に設けられ、前記ラップウェビングから受ける前記厚さ方向一方の側から他方の側への押圧力が所定の大きさ以上になった場合に前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動し、前記ショルダウェビングを前記厚さ方向他方の側へ押圧して前記ウェビングの通過経路を変更しつつ前記掛回部に前記ウェビングを掛け回すと共に、前記ウェビング通過孔の前記厚さ方向一方の側から他方の側への移動の前後及び移動途中において前記掛回部との間の間隔が前記ウェビングの厚さ寸法よりも大きく設定された通過経路変更手段と、
を備えるシートベルト装置用タング。
【請求項2】
前記タング本体の幅方向を軸方向とする軸周りに回動可能に前記通過経路変更手段を前記タング本体に設け、前記通過経路変更手段の回動半径方向先端側で前記ラップウェビングからの押圧力を受けると共に前記ショルダウェビングを押圧するように構成した請求項1に記載のシートベルト装置用タング。
【請求項3】
前記ショルダウェビングよりも前記厚さ方向一方の側に設けられて、前記厚さ方向他方の側へ移動することで前記ショルダウェビングを押圧して前記ウェビングの通過経路を変更する押圧部と、
前記押圧部よりも前記厚さ方向一方の側に設けられると共に、弾性力により前記荷重受け部との間隔が維持されて、前記ラップウェビングによって前記厚さ方向一方の側へ押圧されて移動することにより前記荷重受け部を前記厚さ方向他方の側へ移動させると共に、前記所定の大きさよりも更に大きな特定の大きさ以上の押圧力が前記ラップウェビングから付与されることで前記弾性力に抗して前記荷重受け部へ接近する荷重受け部と、
を含めて前記通過経路変更手段を構成した請求項1又は請求項2に記載のシートベルト装置用タング。
【請求項4】
中間部にて屈曲又は湾曲されて、当該屈曲部分又は湾曲部分よりも一方の先端側が押圧部とされて他方の先端側が荷重受け部とされ、弾性力に抗して前記屈曲部分又は湾曲部分よりも一方の先端側に対して他方の先端側が接近するように変形可能な弾性部材により前記通過経路変更手段を構成した請求項3に記載のシートベルト装置用タング。
【請求項5】
シートの側方に設けられたバックルと、
前記バックルに装着可能な挿込部の基端側に形成されたタング本体に、その厚さ方向に貫通したウェビング通過孔が形成されたタングと、
長手方向中間部よりも先端側が前記ウェビング通過孔を前記タングの厚さ方向一方の側から他方の側に通過して前記タングよりも前記厚さ方向他方の側で折り返され、当該折り返し部分よりも先端側が再び前記ウェビング通過孔を前記タングの厚さ方向一方へ向けて通過し、前記折り返し部分よりも長手方向基端側が乗員の胸部を拘束するショルダウェビングとされて、前記折り返し部分よりも長手方向先端側が乗員の腰部を拘束するラップウェビングとされるウェビングと、
前記タングにおいて前記ウェビングの通過孔の内周部を含めて構成された掛回部との間で前記ウェビングの厚さ方向以上の間隔を保った状態のまま前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動可能に前記タングに設けられ、前記ラップウェビングから受ける前記厚さ方向一方の側から他方の側への所定の大きさ以上の押圧力によって前記厚さ方向一方の側から他方の側へ移動して前記ショルダウェビングを前記厚さ方向他方の側へ押圧して前記ショルダウェビングの通過経路を変更しつつ前記掛回部に掛け回された前記ウェビングの幅方向を軸方向とする軸周りの前記ショルダウェビングの屈曲角度を増加させると共に、前記ウェビング通過孔を前記厚さ方向一方の側から他方の側への移動の途中及び当該移動が終了した状態で前記掛回部との間隔が前記ウェビングの厚さ寸法よりも大きく設定される通過経路変更手段と、
を備えるシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60111(P2013−60111A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199896(P2011−199896)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】