説明

シート状味付け海苔、その製造法及び海苔巻きむすび

【課題】バインダー(接合剤)を全く用いることなく粉末醤油層を海苔生地に形成したシート状味付け海苔を得ること。また、海苔の焙焼香と醤油の焙焼香がいずれも非常に優れている味付け海苔を得ること。また、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈するむすびを得ること。
【解決手段】シート状海苔の片面を軽く水で濡らして該シート状を損なうことなく湿潤状態となし、この上から粉末醤油を散布し、押圧して、該片面に、粉末醤油層を形成した後速やかに焼成することによりシート状味付け海苔を得る。また、むすびと、シート状海苔の片面に粉末醤油層を形成してなるシート状味付け海苔とからなり、該むすびの表面に該粉末醤油層が当接するように、該むすびの表面を該味付け海苔で包んで海苔巻きむすびを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー(接合剤)を全く用いることなく粉末醤油層をシート状海苔に付着形成して得られるシート状味付け海苔に関する。本発明のシート状味付け海苔は、海苔の焙焼香と醤油の焙焼香がいずれも非常に優れており、むすびの表面に粉末醤油層が当接したとき、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈するむすびが得られる特徴を有する。なお本発明でいう粉末醤油層とは、粉末醤油が水分を吸収し湿潤した後薄膜状に固化した固形醤油を意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥海苔を加熱した後に、その表面に桂皮粉、食塩、芥子粉を、食用油を介して塗布し、焼成する方法(例えば、特許文献1参照)、食用油を介して食塩、こしょう、化学調味料を均一に塗布する方法(例えば、特許文献2参照)、食用油を介してワサビ、トウガラシ、ウメ等の粉末香辛料、食塩等の味付け層を形成する方法(例えば、特許文献3参照)及び食用油を介して食塩を塗布する方法(例えば、特許文献4参照)がそれぞれ知られている。また乾燥海苔の表面に食品用接着剤(天然多糖類プルラン)を介して乾燥具材(ごま、フリーズドライ食品)を形成する方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0003】
従来、このように乾燥海苔の片面に、食用油又は食品用接着剤を介して(バインダーとして利用して)、桂皮粉、芥子粉、食塩、こしょう、化学調味料、ワサビ、トウガラシ、ウメ等の粉末香辛料、ごま、フリーズドライ食品等の粉末調味料を形成し、味付け海苔を得る方法が知られているが、これらの粉末調味料は、それ自身、水と接触したとき、バインダーとしての機能を有しないため、粉末調味料層を海苔表面に形成する場合には食用油及び食品用接着剤の併用を余儀なくされる欠点を有する。食用油の併用は、海苔の風味を損なう危険性を有する。また食品用接着剤(天然多糖類プルラン)の併用は、風味を損なうものではないが、操作が煩雑となりまたコストが嵩む問題点を有する。
【0004】
一方、バラ乾燥した黒海苔材料に醤油を基礎味成分とする液体調味料を混合し、次いで粉末醤油を混合して、湿潤状態の味付け黒海苔を得ることが知られている(例えば、特許文献6参照)。すなわち、粉末醤油を用いて味付け海苔を得ることが知られている。
しかし、この方法は、バラに乾燥した海苔の味付け物を得ることを目的とするものであり、シート状の味付け海苔を得るものではない。また、粉末醤油を使用する目的も、湿潤した黒海苔表面の余分な水分を吸収させると同時に、醤油を基礎味成分とする液体調味料だけでは不足する醤油風味を強化するためであり、シート状海苔の表面に粉末醤油層を形成させるためのものではない。
【特許文献1】特開2002−51746号公報
【特許文献2】特開昭59−135863号公報
【特許文献3】特開平7−313114号公報
【特許文献4】特開昭59−169474号公報
【特許文献5】特開2004−33028号公報
【特許文献6】特許第3801724号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バインダー(接合剤)を全く用いることなく粉末醤油層をシート状海苔に付着形成して得られるシート状味付け海苔を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、シート状海苔の片面を軽く水で濡らして該海苔のシート性を損なうことなく湿潤状態となし、この上から粉末醤油を均一に散布し、押圧し、焼成したところ、シート状海苔の上面に粉末醤油層を、バインダー(接合剤)を全く用いることなく、付着形成できること、また該粉末醤油層は海苔の表面からは容易には剥離しないことを知った。また、このシート状味付け海苔は、海苔の焙焼香と醤油の焙焼香がいずれも非常に優れており、単独でも新規な珍味食品として美味しいものであることを知った。また、このシート状味付け海苔は、むすびの表面に粉末醤油層が当接したとき、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈するむすびが得られることを知った。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであって、以下のシート状味付け海苔、その製造法及び海苔巻きむすびである。
【0007】
(1)シート状海苔の片面に粉末醤油層を形成してなるシート状味付け海苔。
(2)味付け海苔が、むすび用味付け海苔である前記(1)に記載のシート状味付け海苔。
(3)シート状海苔の片面を水と接触して水滴を生じない湿潤状態となし、この上から粉末醤油を散布し、押圧して、該片面に、粉末醤油層を付着形成した後速やかに焼成することを特徴とするシート状味付け海苔の製造法。
(4)むすびと、シート状海苔の片面に粉末醤油層を付着形成してなるシート状味付け海苔とからなり、該むすびの表面に該粉末醤油層が当接するように、むすびの表面をシート状味付け海苔で包んでなる海苔巻きむすび。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バインダー(接合剤)を全く用いることなく粉末醤油層をシート状海苔に付着形成したシート状味付け海苔が得られる。また、海苔の焙焼香と醤油の焙焼香がいずれも非常に優れているシート状味付け海苔が得られる。また、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈するむすびが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いられるシート状海苔としては、通常のシート状海苔(板海苔ともいう)の製造法に従って製造される海苔が挙げられ、市販品を用いてもよい。
【0010】
本発明において用いられる粉末醤油としては、通常の粉末醤油の製造法に従って製造される粉末醤油が挙げられ、市販品を用いてもよい。
通常の粉末醤油の製造法により得られる粉末醤油としては、醤油(濃口醤油、溜醤油、減塩醤油、再仕込醤油等)に、賦形剤(デキストリン、水飴、ブドウ糖、果糖、ゼラチン、ガム等)を10〜50%(w/v)混和し、乾固物とした後粉砕するか、噴霧乾燥することにより得られた粉末醤油が挙げられる。上記噴霧乾燥は、公知の手段をそのまま採用することができ、例えば、圧力式ノズルを用いるか、回転円盤アトマイザーを用いて高温気流中に噴霧し、乾燥粉末化する方法等が挙げられる。回転円盤アトマイザーを用いる具体的な方法としては、モービルマイナー型噴霧乾燥機が挙げられるが、その噴霧乾燥条件は、熱風温度130〜180℃、排風温度90〜130℃、スプレードライ(SD)流量15〜40kg/時、アトマイザ回転数2,000〜15,000rpmが挙げられる。
【0011】
シート状海苔の片面を水と接触して水滴を生じない湿潤状態とする方法としては、シート状海苔の片面を水を含ませたガーゼ、布巾等で拭く方法、シート状海苔の片面に霧吹きする方法等任意の方法が挙げられる。
【0012】
接触させる水の量は、水滴が生じない湿潤状態となるように実施することが必要である。シート状海苔の片面に水滴又は水溜まり(以下、これらを水滴という)ができると、その部分がふやけて、穴が開いたり、撓んだりして、シート性が損なわれ粉末醤油を均一に散布することができなくなる欠点を生じる。また、粉末醤油が急激に吸水溶融し、固結し、塊状化する欠点を有する。
これに対し、シート状海苔の片面を水と接触して水滴を生じない湿潤状態とするときは、その後この海苔表面に粉末醤油を散布したとき、上記欠点が解消され上面に粉末醤油が付着する薄膜状の固形醤油の層を、海苔の片面に形成させることができるので好ましい。
【0013】
シート状海苔の片面に粉末醤油を散布し、その上から押圧する方法としては、板体(平坦面)を押付ける方法、回転する一対の挟圧ローラー間を通過させる方法等任意の方法が挙げられる。散布量は、シート状海苔に対して、10〜90%(w/w)が好ましく、20〜70%(w/w)がより好ましい。
【0014】
このように、シート状海苔の片面を水と接触して水滴を生じない湿潤状態となし、この上から粉末醤油を散布し、押圧すると、該片面に、粉末醤油層を容易に形成することができる。
この粉末醤油層は、薄膜状であって、シート状海苔の厚さに比べると1/2〜1/10の厚さを有するものが好ましい。
【0015】
なお、粉末醤油に対して、必要により水溶性の甘味料(砂糖、果糖、グルコース、粉末水飴)、化学調味料(グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等)を添加することもできる。
【0016】
粉末醤油層を付着形成した後は、海苔が焦げない程度に、乾熱器、高温加熱ガス、火炎、炭火等で焼成する。
この焼成により、シート状海苔の上面に粉末醤油層を、バインダー(接合剤)を全く用いることなく、結着させることができ、粉末醤油層はシート状海苔からは容易には剥離しないようになる。また、このシート状味付け海苔は、海苔の焙焼香と醤油の焙焼香がいずれも非常に優れたものとなる。また、このシート状味付け海苔は、むすびの表面に粉末醤油層が当接したとき、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈するむすびが得られる。さらにまた、それ自身海苔風味と醤油風味を濃厚に有し、美味しいので新規な珍味食品として利用可能なものとなる。
【0017】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
(シート状海苔の片面に粉末醤油層を付着形成してなるシート状味付け海苔の調製)
市販のシート状海苔1枚(3.5g)の片面を、濡れガーゼでひと拭きし、1分そのまま放置して、水滴を生じない、またシート状態が損なわれていない湿潤したシート状海苔(重さ4.5g)を調製した。
次いで、この上から粉末醤油をシート状海苔1枚当たり2gとなるように均一に散布し、その上に半紙を被せ、その上から手で押圧して、該片面に、粉末醤油層を形成した後速やかに、海苔が焦げない程度に炭火で炙り、一部付着することなく残存する粉末醤油は刷毛にて取り除き本発明のシート状味付け海苔(重さ4.8g)を得た。
<本発明で用いたシート状海苔、濡れガーゼ>
シート状海苔:縦20cm、横19cmの長方形シート状海苔、3.5g/枚
濡れガーゼ:縦22cm、横22cm、重さ3gのガーゼに水15gを滲み込ませたもの
【0019】
(比較例1)(粉末醤油以外の粉末調味料を用いたシート状味付け海苔の調製)
比較のため、上記本発明の味付け海苔の調製法において、粉末醤油に代えて、芥子粉、食塩、こしょう、グルタミン酸ソーダ、ワサビ、トウガラシ又は擂りごま(いずれもパウダー状に微細化したもの)を用いる以外は全く同様にしてシート状味付け海苔を調製した。その結果、上記粉末調味料のうち、食塩以外のものは、シート状海苔の片面に付着することなく、味付け海苔は得られなかった。また食塩は溶解消失し粉末調味料の層は形成されなかった。
【0020】
(効果の確認)
上記実施例1及び比較例1の結果から、芥子粉、食塩、こしょう、グルタミン酸ソーダ、ワサビ、トウガラシ又は擂りごまは、それぞれ、水と接触したとき、バインダーとしての機能を有しないため、粉末調味料層を海苔表面に形成できないことが判る。したがって、これらの粉末調味料層を海苔表面に形成する場合には食用油及び食品用接着剤の併用を余儀なくされることが判る。これに対し、本発明によればバインダー(接合剤)を全く用いることなく粉末醤油層を海苔生地に形成できることが判る。
【実施例2】
【0021】
(海苔巻きむすびの調製例)
炊き立ての炊飯米をむすび型に成型して、むすびの生地(略三角形をしたむすびで重さ100g)を調整した。
一方、実施例1と同様にして、シート状海苔の片面に粉末醤油層を形成してなるシート状味付け海苔を調製した。
次いで、該むすびの表面を該粉末醤油層が当接するように、上記むすびをシート状味付け海苔(縦20cm、横10cm、長方形)で包んで海苔巻きむすびを調製した。
このむすびは、食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香を濃厚に有し、上品でほど良い醤油味を呈する美味しいものであることが判明した。
【0022】
(比較例2)
(液体濃口醤油を用いたシート状味付け海苔の調製と、海苔巻きむすびの調製例)
炊き立ての炊飯米をむすび型に成型して、むすびの生地(略三角形をしたむすびで重さ100g)を調整した。
一方、比較のため、シート状海苔(縦20cm、横19cm、長方形、重さ3.5g)1枚の片面に濃口醤油2gをハケで軽く塗り(粉末醤油換算では1.3g/枚となる)、海苔が焦げない程度に炭火で炙り比較例のシート状味付け海苔を調製した。
次いで、上記むすびの表面を上記濃口醤油の味付け面が当接するように、比較例2で得られたシート状味付け海苔で包んで海苔巻きむすびを調製した。
このむすびは、むすびの生地に醤油味が移行することがなく、また食欲をそそる焼むすび風の甘い芳香はなく、上品でほど良い醤油味を呈したものではなかった。また、味付け海苔は食味が塩辛く感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状海苔の片面に粉末醤油層を付着形成してなるシート状味付け海苔。
【請求項2】
味付け海苔が、むすび用味付け海苔である請求項1に記載のシート状味付け海苔。
【請求項3】
シート状海苔の片面を水と接触して水滴を生じない湿潤状態となし、この上から粉末醤油を散布し、押圧して、該片面に、粉末醤油層を付着形成した後速やかに焼成することを特徴とするシート状味付け海苔の製造法。
【請求項4】
むすびと、シート状海苔の片面に粉末醤油層を付着形成してなるシート状味付け海苔とからなり、該むすびの表面に該粉末醤油層が当接するように、むすびの表面をシート状味付け海苔で包んでなる海苔巻きむすび。