説明

ジフルオロリン酸塩の製造方法

【課題】高純度なジフルオロリン酸塩を、簡便に製造する手法を提供する。
【解決手段】ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウム及びハロゲン化オニウムからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン化物と、ジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で、反応させることを特徴とする、ジフルオロリン酸塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロリン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池の応用分野が、携帯電話やパソコン、デジタルカメラ等の電子機器から車載にまで拡大していることに伴い、リチウム二次電池については、出力密度やエネルギー密度の向上、ならびに容量損失の抑制等、さらなる高性能化が進められている。特に車載用途は民生品用途よりも過酷な環境に晒されるおそれがあることから、サイクル寿命や保存性能の面において高い信頼性が要求されている。
【0003】
従来、リチウム二次電池の電解液には、有機溶媒にリチウム塩を溶解させてなる非水電解液が使用されている。こうした非水電解液の分解や副反応は、リチウム二次電池の性能に影響を及ぼすため、非水電解液に各種添加剤を混合することによって、サイクル寿命や保存性能を向上させる試みがなされてきた。
【0004】
そのような添加剤として、ジフルオロリン酸塩が有利であることが知られている。例えば、特許文献1には、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムのうち少なくとも一方を添加剤として含有する非水電解液を用いることによって、リチウム二次電池の正極及び負極に皮膜を形成することができ、これによって非水電解液と正極活物質及び負極活物質との接触に起因する電解液の分解を抑制し、自己放電の抑制、保存性能の向上が可能になることが開示されている。
【0005】
ところで、ジフルオロリン酸リチウムについては、例えば、非特許文献1〜4及び特許文献2〜7に、その製造方法が開示されている。非特許文献1には、五酸化二リンにフッ化アンモニウムや酸性フッ化ナトリウム等を作用させてジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法ではジフルオロリン酸塩の他にモノフルオロリン酸塩やリン酸塩、水が多く副生するため、その後の精製工程の負荷が重く効率的な手法とは言い難い。非特許文献2には、P(無水ジフルオロリン酸)を、LiOやLiOH等の酸化物や水酸化物を作用させてジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で用いる無水ジフルオロリン酸は非常に高価であり、加えて純度が高いものは入手困難であることから工業生産には不利である。非特許文献3には、ジフルオロリン酸と塩化リチウムとを反応させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。しかしながら、この方法は、モノフルオロリン酸を不純物として生成しやすく、高純度なジフルオロリン酸リチウムを得ることが困難である。非特許文献4には、尿素とリン酸ニ水素カリウムとフッ化アンモニウムを融解・反応させ、ジフルオロリン酸カリウムを得る手法が開示されている。しかしながら、この方法では、大量に副生するアンモニアガスの廃棄処理が必要になり、また、フッ化アンモニウムが多く残留することから効率的な手法とは言い難い。特許文献2には、六フッ化リン酸カリウムとメタリン酸カリウムを融解・反応させ、ジフルオロリン酸カリウムを得る方法が記載されているが、溶融するための坩堝からの汚染の心配や700℃といった高温環境の必要性から、これもまた生産性が良い手法とは言えない。特許文献3〜5には、六フッ化リン酸リチウムとホウ酸塩、二酸化ケイ素、炭酸塩とを非水溶媒中で反応させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。特許文献6には、炭酸塩やホウ酸塩を、五フッ化リン等の気体と接触させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。しかしながら、これらの反応によってジフルオロリン酸塩を得るには、例えば40〜170時間といった長時間を要し、工業生産には向かない。特許文献7には、フッ化物以外のハロゲン化物と六フッ化リン酸リチウムと水とを非水溶媒中で反応させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では、六フッ化リン酸リチウムとの混合物としてのみジフルオロリン酸リチウムが得られ、単体を得ることができない。さらに、ジフルオロリン酸リチウムが溶液に溶解した状態でのみ得られており、電解液の組成調整の操作が煩雑で、工業生産には不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−67270号公報
【特許文献2】DE−813848
【特許文献3】特開2005−53727号公報
【特許文献4】特開2005−219994号公報
【特許文献5】特開2005−306619号公報
【特許文献6】特開2006−143572号公報
【特許文献7】特開2008−222484号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zh. Neorgan. Khim., 7(1962)1313-1315
【非特許文献2】Journal of Fluorine Chemistry, 38(1988)297-302
【非特許文献3】Inorganic Nuclear Chemistry Letters, vol.5(1969)581-585
【非特許文献4】日本分析化学会第43年会公演要旨集, 536(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、高純度なジフルオロリン酸塩を、簡便に製造する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく、ジフルオロリン酸塩の製造方法について種々検討した。その結果、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウム及びハロゲン化オニウムからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン化物と、ジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で、反応させることによって、高純度のジフルオロリン酸塩が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法の特徴は、ジフルオロリン酸塩の合成時に六フッ化リン酸塩を存在させることにある。原料や雰囲気から混入する余剰な水は、反応系内でジフルオロリン酸塩の加水分解を引き起こし、製品純度を著しく低下させうる。しかるに、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法においては、六フッ化リン酸塩が、この余剰の水に対してスカベンジャーとして働き、ジフルオロリン酸塩の高純度化が達成されると考えられる。また、六フッ化リン酸塩は、余剰の水と反応してジフルオロリン酸塩を生成すると同時に、フッ化水素を遊離するが、このフッ化水素は、反応系内で副生したモノフルオロリン酸塩やリン酸塩をジフルオロリン酸塩に変換させることができるため、ジフルオロリン酸塩の一層の高純度化が図られると考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法によれば、高純度なジフルオロリン酸塩を簡便に製造することが可能であり、工業的に有利である。
【0012】
特に、ジフルオロリン酸塩は、二次電池用非水電解液の添加剤として極めて有用であり、本発明の製造方法によって得られたジフルオロリン酸塩を用いて、優れた性能を有する二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これらの内容に限定されない。
【0014】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法では、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウム及びハロゲン化オニウムからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン化物が用いられる。ハロゲン化物は、単独でも、あるいは2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、ハロゲン化物のカウンターカチオンは、同一であっても異なっていてもよい。カウンターカチオンが異なる場合、ジフルオロリン酸の複塩が形成される。
【0015】
アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。入手容易性の点から、Li、Na、Kが好ましい。
【0016】
アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。入手容易性、安全性の点から、Mg、Ca、Baが好ましい。同様の理由から、Alも好ましい。
【0017】
オニウムとしては、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等が挙げられる。
【0018】
アンモニウムとしてはNH、第2級アンモニウム、第3級アンモニウム、第4級アンモニウムが挙げられ、第4級アンモニウムとしては、テトラアルキルアンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム等)、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、トリアゾリウム、ピリダジニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
ホスホニウムとしては、テトラアルキルホスホニウム(テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム等)が挙げられる。
【0020】
スルホニウムとしては、トリアルキルスルホニウム(トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等)が挙げられる。
【0021】
ハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物が挙げられる。分子量の観点から、フッ化物、塩化物が好ましい。
【0022】
中でも、ハロゲン化物としては、ハロゲン化アルカリ金属が好ましく、より好ましくはハロゲン化リチウムであり、さらに好ましくは塩化リチウム及びフッ化リチウムである。ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムとしては、塩化ナトリウム又は塩化カリウムが挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法においては、ハロゲン化物を、六フッ化リン酸塩の存在下で、ジフルオロリン酸と反応させる。ハロゲン化物として、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウム又はハロゲン化オニウムを使用することにより、対応するアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、オニウムのジフルオロリン酸塩を得ることができる。
【0024】
六フッ化リン酸塩としては、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化リン酸カリウム、六フッ化リン酸ナトリウム、六フッ化リン酸アンモニウム等が挙げられ、余剰な水との反応性の点から六フッ化リン酸リチウムが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、ハロゲン化物とジフルオロリン酸との仕込み量は、任意に設定することができる。一般に、反応後に、残存したハロゲン化物を精製操作で除去することができるため、ハロゲン化物は過剰量であってもよい。一方、ジフルオロリン酸が大過剰であると、モノフルオロリン酸塩等の副生の原因となりうるが、残存したジフルオロリン酸は一般的な洗浄等の精製操作で除去することができる。ジフルオロリン酸を、ハロゲン化物1当量あたり、1.1当量以下とすることが好ましく、精製操作の負荷軽減の観点から、ジフルオロリン酸を、ハロゲン化物1当量あたり、0.95〜1.05当量とすることが好ましく、さらに好ましくは、0.98〜1.02当量とすることであり、特に好ましくは0.99〜1.01当量とすることである。
【0026】
本発明の製造方法において、六フッ化リン酸塩の仕込み量は、任意に設定することができる。高純度化の点からは、六フッ化リン酸塩を、ジフルオロリン酸1モルに対して、0.05モル以上とすることが好ましい。得られたジフルオロリン酸塩を、二次電池用電解液のように、六フッ化リン酸塩が混入していてもよい用途で使用する場合、仕込み量の上限は、特に限定されないが、得られたジフルオロリン酸塩を単体として使用する場合には、六フッ化リン酸塩を、ジフルオロリン酸1モルに対して、0.05〜0.5モルとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4モルとすることであり、さらに好ましくは0.12〜0.25モルとすることである。
【0027】
本発明の製造方法においては、ハロゲン化物とジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で、反応させる。この際に、ハロゲン化物、六フッ化リン酸塩、ジフルオロリン酸の添加順序は特に限定されず、三者を同時に混合してもよく、六フッ化リン酸塩をハロゲン化物と混合してから、ジフルオロリン酸を加えてもよく、六フッ化リン酸塩をジフルオロリン酸と混合してから、ハロゲン化物を加えてもよく、また、ハロゲン化物とジフルオロリン酸を混合してから、六フッ化リン酸塩を加えてもよい。
【0028】
反応は、無溶媒で行ってもよく、または適切な溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、溶媒は反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、リン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ラクトン化合物、鎖状エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン化合物、アルコール類等が挙げられる。例えば、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられ、好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが挙げられる。リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル等が挙げられる。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシエタン等が挙げられる。ラクトン化合物としては、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。鎖状エステルとしては、メチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルホルメート等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。スルホン化合物としては、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、前記有機溶媒分子中に含まれる炭化水素基の水素を少なくとも一部フッ素で置換したものを好適に用いることもできる。二次電池用電解液の添加剤としての利用可能性、付着した溶媒の除去しやすさの点を考慮すると、鎖状炭酸エステルが好ましく、より好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0030】
本発明の製造方法において、反応条件は、任意に設定することができる。反応温度は、室温(25℃)〜200℃とすることができるが、加熱して行うことが好ましく、例えば、100〜180℃、好ましくは120〜150℃の範囲である。反応は、大気圧下で行っても、減圧下で行ってもよい。反応時間は、通常、1〜24時間であるが、反応装置や仕込み量によって適宜、変化させることができ、これに限定されない。
【0031】
本発明の製造方法においては、六フッ化リン酸塩に加えて、尿素、一酸化炭素、フッ化カルボニル等を存在させて、反応を行うこともできる。
【0032】
本発明の製造方法において、得られたジフルオロリン酸塩を、さらなる精製工程に付すこともできる。精製方法として、特に限定されず、例えば洗浄や再結晶といった公知の手法を用いることができる。
【0033】
洗浄や再結晶をおこなう溶媒の種類としては、ジフルオロリン酸塩等と反応したり、分解や変質を生じさせない限り、特に限定されず、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、リン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ラクトン化合物、鎖状エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン化合物、アルコール類、炭化水素類等が挙げられる。例えば、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられ、好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが挙げられる。リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル等が挙げられる。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシエタン等が挙げられる。ラクトン化合物としては、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。鎖状エステルとしては、メチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルホルメート等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。スルホン化合物としては、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソ-プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、炭化水素類としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、前記有機溶媒分子中に含まれる炭化水素基の水素を少なくとも一部フッ素で置換したものを好適に用いることもできる。鎖状炭酸エステルや、酢酸エチルとヘキサンの混合物を好適に使用することができる。二次電池用電解液の添加剤としての利用可能性、付着した溶媒の除去しやすさの点を考慮すると、鎖状炭酸エステルが好ましく、より好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0035】
なお、上記の溶媒を用いて精製操作を行う際、無水フッ化水素酸を適量添加することもできる。例えば、ハロゲン化物として、フッ化物以外のリチウム塩を使用する場合、無水フッ化水素酸により、溶解度の高いフッ化リチウムに変換せしめたのち、除去することもできる。
【0036】
本発明の製造方法によって得られたジフルオロリン酸塩は、高純度であり、二次電池用非水電解液の添加剤に使用することができる。純度は、イオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比を算出して評価することができる。本発明の製造方法により得られたジフルオロリン酸塩は、相対面積比が好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの内容に限定されるものではなく、この実施例に記載されている材料や配合量等は、単なる説明例であって、適宜、変更することができる。
【0038】
(実施例1)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)15.4gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)3.4gを加えた。続いて、塩化リチウム(試薬:和光純薬製)6.4gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500、カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度とした。得られた結晶の純度は相対面積で92%であった。
【0039】
(実施例2)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)15.4gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)3.4gを加えた。続いて、塩化リチウム(試薬:和光純薬製)6.4gとジメチルカーボネート15.0gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で92%であった。
【0040】
(実施例3)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)22.4gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸ナトリウム(試薬:ステラケミファ製)5.5gを加えた。続いて、塩化ナトリウム(試薬:和光純薬製)12.8gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸ナトリウムの結晶を得た。実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸ナトリウムの結晶の純度は相対面積で91%であった。
【0041】
(実施例4)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)17.0gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸カリウム(試薬:ステラケミファ製)4.5gを加えた。続いて、塩化カリウム(試薬:和光純薬製)12.3gとジメチルカーボネート17.0gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸カリウムの結晶を得た。実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸カリウムの結晶の純度は相対面積で90%であった。
【0042】
(実施例5)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)20.0gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)4.4gを加えた。続いて、フッ化リチウム(試薬:和光純薬製)5.0gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で90%であった。
【0043】
(実施例6)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)18.3gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)4.0gを加えた。続いて、塩化ナトリウム(試薬:和光純薬製)10.4gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸ナトリウムとジフルオロリン酸リチウムの混合結晶を得た。得られた混合結晶を実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸イオンは相対面積で93%であった。
【0044】
(実施例7)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)18.6gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)4.1gを加えた。続いて、塩化カリウム(試薬:和光純薬製)13.5gとジメチルカーボネート20.0gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸カリウムとジフルオロリン酸リチウムの混合結晶を得た。得られた混合結晶を実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸イオンは相対面積で91%であった。
【0045】
(実施例8)
ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)15.4gを250ml PFA容器に量りとり、六フッ化リン酸リチウム(試薬:ステラケミファ製)3.4gを加えた。続いて、塩化マグネシウム(試薬:和光純薬製)7.1gとジメチルカーボネート(試薬:キシダ化学製)15.0gを加えて、窒素気流下1時間攪拌したのち、130℃で17時間加熱し、その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸マグネシウムとジフルオロリン酸リチウムの混合結晶を得た。得られた混合結晶を実施例1と同様にして、アニオン分析を行ったところ、得られたジフルオロリン酸イオンは相対面積で91%であった。
【0046】
(比較例1)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例1と同様に行った。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で60%であった。
【0047】
(比較例2)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例2と同様に行った。得られたジフルオロリン酸ナトリウムの結晶の純度は相対面積で62%であった。
【0048】
(比較例3)
六フッ化リン酸ナトリウムを使用しない以外は、実施例3と同様に行った。得られたジフルオロリン酸ナトリウムの結晶の純度は相対面積で55%であった。
【0049】
(比較例4)
六フッ化リン酸カリウムを使用しない以外は、実施例4と同様に行った。得られたジフルオロリン酸カリウムの結晶の純度は相対面積で45%であった。
【0050】
(比較例5)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例5と同様に行った。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で48%であった。
【0051】
(比較例6)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例6と同様に行った。得られた結晶のジフルオロリン酸イオンは相対面積で49%であった。
【0052】
(比較例7)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例7と同様に行った。得られた結晶のジフルオロリン酸イオンは相対面積で46%であった。
【0053】
(比較例8)
六フッ化リン酸リチウムを使用しない以外は、実施例8と同様に行った。得られた結晶のジフルオロリン酸イオンは相対面積で40%であった。
【0054】
実施例1〜8及び比較例1〜8を比較することにより、本発明の製造方法によれば、高純度なジフルオロリン酸塩が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化アルミニウム及びハロゲン化オニウムからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン化物と、ジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で、反応させることを特徴とする、ジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化物が、ハロゲン化アルカリ金属である、請求項1記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化アルカリ金属が、フッ化リチウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化アルカリ金属が、フッ化リチウム及び/又は塩化リチウムである、請求項3記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項5】
六フッ化リン酸塩が、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化リン酸ナトリウム及び六フッ化リン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項6】
六フッ化リン酸塩が、六フッ化リン酸リチウムである、請求項5記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。

【公開番号】特開2010−155773(P2010−155773A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274201(P2009−274201)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)