説明

ジフルオロリン酸塩の製造方法

【課題】 イオン液体の原料やリチウム二次電池用電解液の添加剤として有用な、高純度ジフルオロリン酸塩を、工業的に有利な方法で合成するための製造方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはオニウムのハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物より選ばれる少なくともひとつの原料塩とジフルオロリン酸とを、ジフルオロリン酸中において反応させた後、該ジフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物をジフルオロリン酸から固液分離し、析出物に含まれるジフルオロリン酸を留去することによってジフルオロリン酸塩を得ることを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフルオロリン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、融点を常温近傍にもつ塩、或いは融点が常温以下である塩(イオン液体)が見出されている。イオン液体は陽イオンと陰イオンから構成されており、それぞれの引き合う力が非常に弱いために常温でも液状を示す。引き合う力が弱くなるように陽イオンおよび陰イオンの構造を設計すれば、塩の融点を変化させ、イオン液体を得ることができるようになる。さらに、陽イオンと陰イオンの組合せを変えたり、それぞれのイオンに置換基を導入したりすることにより、イオン液体の物性を意図的にコントロールすることが可能と言われている。
【0003】
イオン液体は、揮発しにくく、また数百度℃以上の高温まで安定に存在するといった特徴を有する。これまでに所謂“液体”と呼ばれてきた水や有機溶媒とは特性を異にするものであり、第3の液体とも言われている。揮発しにくいことや熱安定性を活かした潤滑油としての利用や、反応溶媒・抽出分離媒体等への応用が研究されている。また、イオン液体は塩であって、イオンのみから構成される液体であることからイオン伝導性を有する。したがって、イオン液体そのものを電解液として使用することが可能である。イオン液体を、電池やキャパシタの電解液として応用する検討や、めっき浴として利用する検討が活発に進められている。これまでに電池やキャパシタの電解液と言えば、水系電解液または有機系電解液が使用されてきたが、水系電解液の場合、水の分解電圧に制約を受けてしまい、また有機系電解液の場合、耐熱性や安全面に問題が生じる。イオン液体は難燃性・不揮発性といった安全上好ましい特徴を有するうえ、電気化学的安定性も高いため、とくに高温環境下で使用する電気二重層キャパシタや電池の電解液として好適である。
【0004】
イオン液体を電池やキャパシタの電解液として適用するために、さまざまな種類の陽イオンと陰イオンとからなるイオン液体の研究が進められてきた。こうした中、最近、ジフルオロホスフェートを陰イオンとする1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートなるイオン液体の特徴が報告された(非特許文献1)。代表的なイオン液体として知られる1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと同等の電気伝導性・耐電圧性を有していることが開示されており、電気二重層キャパシタの電解質として好適に使用できることが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
非特許文献1では、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドとジフルオロリン酸カリウムとをアセトン中で反応させ、副生する塩化カリウムを濾別したアセトン溶液をアルミナカラムに作用させた後、アセトンを留去させて1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートを得ている。電解液中の不純物は電池やキャパシタの性能に著しく影響するため、イオン液体を電解液として使用する際には、できるかぎり不純物を低減することが好ましい。イオン液体は難揮発性であり、また広い温度範囲に渡って液体状態であるため、蒸留や再結晶といった精製方法によって不純物を低減することが困難なため、純度の高いイオン液体を合成するには高純度な原料を用いる必要があり、非特許文献1で使用しているジフルオロリン酸カリウムの不純物はできるかぎり低いほうが望ましい。
【0006】
ジフルオロリン酸塩の製造方法としては、特許文献1から特許文献5に、および非特許文献3から非特許文献7に開示がある。
特許文献1には六フッ化リン酸カリウムとメタリン酸カリウムを混合融解させジフルオロリン酸カリウムを得る方法が記載されているが、溶融するための坩堝からの汚染の心配や700℃といった高温環境が必要であり、また製品純度の面と生産性の点から良い手法とは言えない。
【0007】
特許文献2〜5には六フッ化リン酸リチウム或いは5フッ化リンと、メタリン酸リチウム、或いは二酸化ケイ素、或いは炭酸リチウムのいずれかを有機電解液中で反応させジフルオロリン酸リチウムを得る手法が開示されている。しかしながら、これらの反応によってジフルオロリン酸塩を得るには40時間から170時間といった長時間を要し、工業生産には向かない。
【0008】
非特許文献3や4には、五酸化ニ燐にフッ化アンモニウムや酸性フッ化ナトリウムなどを作用させてジフルオロリン酸塩を得る方法が記載されている。しかしながらこれらの方法ではジフルオロリン酸塩の他にモノフルオロリン酸塩やリン酸塩、水が多く副生するため、その後の精製工程の負荷が重く効率的な手法とは言い難い。非特許文献5にはP(無水ジフルオロリン酸)に、例えばLiOやLiOHなどの酸化物や水酸化物を作用させて所望するジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかしながら、本手法で用いる無水ジフルオロリン酸は非常に高価であり、加えて純度が高いものは入手困難であることから工業生産には不利である。
【0009】
非特許文献6には、アルカリ金属クロライドと過剰のジフルオロリン酸を反応させ、副生する塩化水素と余剰のジフルオロリン酸を加熱減圧乾燥することによって留去させた後、ジフルオロリン酸塩を得る手法が開示されている。しかしながら、十分に純度が高いジフルオロリン酸を使用したとしても、この手法によって得られるジフルオロリン酸塩にはモノフルオロリン酸塩やフッ化物塩が不純物として多量に残存し、純度が高いものを得ることが困難である。
【0010】
非特許文献7には尿素とリン酸ニ水素カリウムとフッ化アンモニウムを融解、反応させ、ジフルオロリン酸カリウムを得る手法が開示されている。この手法の反応温度は170℃程度であり、特許文献1の反応条件に比べれば穏やかであり工業的にも実現しやすいが、大量に副生するアンモニアガスの廃棄処理やフッ化アンモニウムが多く残留することから効率的ではなく、得られる製品の純度にも問題がある。
【0011】
また、高純度ジフルオロリン酸塩はイオン液体の原料としてだけでなく、リチウム二次電池用の電解液の添加剤としても利用することができる。近年、リチウム二次電池の応用分野は、携帯電話やパソコン、デジタルカメラ等の電子機器から車載への用途拡大に伴い、出力密度やエネルギー密度の向上ならびに容量損失の抑制等、さらなる高性能化が進められている。特に車載用途は民生品用途よりも過酷な環境に晒されるおそれがあることから、サイクル寿命や保存性能の面において高い信頼性が要求されている。リチウム二次電池の電解液には、有機溶媒にリチウム塩を溶解させてなる非水電解液が使用されているが、こうした非水電解液の分解や副反応がリチウム二次電池の性能に影響を及ぼすため、非水電解液に各種添加剤を混合することによって、サイクル寿命や保存性能を向上させる試みがなされてきた。特許文献6には、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムのうち少なくとも一方を添加剤として含有する非水電解液を用いることによって正極及び負極に皮膜を形成させることができ、これによって非水電解液と正極活物質及び負極活物質との接触に起因する電解液の分解を抑制し、自己放電の抑制、保存性能の向上を可能とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE−813848
【特許文献2】特開平2005−53727号公報
【特許文献3】特開平2005−219994号公報
【特許文献4】特開平2005−306619号公報
【特許文献5】特開平2006−143572号公報
【特許文献6】特許第3439085号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K.Matsumoto and R.Hagiwara,Inorganic Chemstry,2009,48,7350−7358
【非特許文献2】第77回電気化学会予稿集 1I18
【非特許文献3】Ber.Dtsch.Chem.,Ges.B26(1929)786
【非特許文献4】Zh.Neorgan.Khim.,7(1962)1313
【非特許文献5】Journal of Fluorine Chemistry,38(1988)297−302
【非特許文献6】Inorganic Nuclear Chemistry Letters,vol.5(1969)581−585
【非特許文献7】日本分析化学会第43年会公演要旨集,536(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、イオン液体の原料やリチウム二次電池用電解液の添加剤として有用な、高純度ジフルオロリン酸塩の製造方法を提供することにある。
本発明の課題は、純度の高いジフルオロリン酸塩を、工業的に有利な方法で合成するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記の発明に係る。
1.アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはオニウムのハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物より選ばれる少なくともひとつの原料塩とジフルオロリン酸とを、ジフルオロリン酸中において反応させた後、該ジフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物をジフルオロリン酸から固液分離し、析出物に含まれるジフルオロリン酸を留去することによってジフルオロリン酸塩を得ることを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法。
2.原料塩がアルカリ金属のハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物塩、酸化物塩より選ばれる少なくともひとつであるジフルオロリン酸塩の製造方法。
3.アルカリ金属がリチウム、ナトリウム、カリウムより選ばれる少なくともひとつであるジフルオロリン酸塩の製造方法。
4.上記1記載の晶析操作後の固液分離されたジフルオロリン酸溶液中に、原料塩または原料塩とジフルオロリン酸とを添加して、上記1記載の操作を繰り返すことを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法。
【0016】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法の特徴は、原料塩とジフルオロリン酸とをジフルオロリン酸中において反応させ、生成したジフルオロリン酸塩が溶解したジフルオロリン酸溶液から、晶析操作によって結晶を析出させることにある。上述したように、従来のジフルオロリン酸塩の製造技術では、フッ化物塩やモノフルオロリン酸塩、リン酸塩が副生することによって十分な純度のジフルオロリン酸塩を得ることができなかった。通常、製品純度が不十分な場合には再結晶操作によって製品純度を高めることができる。再結晶を行うためには、製品を適度に溶解することができ、かつ製品と反応しない晶析溶媒が必要であるが、本発明者らは従来から使用されているような有機溶媒や無機溶媒を精査してもジフルオロリン酸塩の晶析に適した晶析溶媒をなかなか見出すことができなかった。非特許文献4では、アルカリ金属クロライドとジフルオロリン酸との反応によって得られたジフルオロリン酸塩をエーテルで洗浄した後、脱水アルコール中で再結晶による精製を行っている。本発明者らがアルコール中においてジフルオロリン酸塩の再結晶を試みたところ、イオンクロマトグラフィーによる測定で不純物イオンの生成が確認された。この不純物イオンの構造については定かになっていないが、ジフルオロリン酸イオンとアルコールとの反応によって生成したものと思われる。
【0017】
本発明者らは試行錯誤を繰り返した結果、ジフルオロリン酸がジフルオロリン酸塩の晶析溶媒として適していることを見出し、ジフルオロリン酸を反応溶媒かつ晶析溶媒として用いることによって、簡便に高純度なジフルオロリン酸塩を製造することが可能となった。
【発明の効果】
【0018】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法によれば、簡便に高純度なジフルオロリン酸塩を工業的に製造することができる。
特に、ジフルオロリン酸塩は、イオン液体の原料やリチウム二次電池用電解液の添加剤として極めて有用であり、本発明によって製造されたジフルオロリン酸塩の利用価値は高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、以下の内容に限定されるものではなく、要旨の範囲内で適宜実施することができる。
【0020】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法は、(1)アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはオニウムのハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物塩、酸化物より選ばれる少なくともひとつの原料塩と、(2)ジフルオロリン酸とを、(3)ジフルオロリン酸中において反応させた後、(4)該ジフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物をジフルオロリン酸から固液分離し、(5)析出物に含まれるジフルオロリン酸を留去することによってジフルオロリン酸塩を得ることを特徴とする。上記晶析操作によって析出した析出物には、目的のジフルオロリン酸塩の他に、ジフルオロリン酸や不純物を含む。
【0021】
上記、原料塩としては、アルカリ金属、或いはアルカリ土類金属、あるいはオニウムのハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0022】
上記アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csから選ばれるものである。中でもLi、Na、Kが価格、入手しやすさの観点から好ましい。
【0023】
上記アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Alから選ばれるものである。中でもMg、Ca、Ba、Alが価格・安全性の面から好ましい。
【0024】
上記オニウムとしてはアンモニウム或いはホスホニウム或いはスルホニウムが挙げられる。
本発明に於いて使用するアンモニウムとしてはNH4、第2級アンモニウム、第3級アンモニウム、第4級アンモニウムが挙げられる。第4級アンモニウムとしては、テトラアルキルアンモニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、トリアゾリウム、ピリダジニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム等が挙げられるがこの限りではない。
【0025】
本発明で使用するホスホニウムとしては、テトラアルキルホスホニウムが挙げられる。
本発明で使用するスルホニウムとしては、トリアルキルスルホニウムが挙げられる。
【0026】
原料塩のハロゲン塩としてはフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩が挙げられる。分子量の観点からフッ化物塩、塩化物塩が好ましい。
【0027】
原料塩のリン酸塩としては、オルトリン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸ニ水素塩、メタリン酸塩、メタリン酸1水素塩、メタリン酸ニ水素塩、ホスフェン酸塩、メタホスフェン酸塩、モノフルオロリン酸塩等が挙げられる。価格や入手のしやすさの観点からは、オルトリン酸塩、リン酸ニ水素塩が好ましい。
【0028】
本発明において、ハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物は1種または2種以上を併用してもよい。
【0029】
原料塩とジフルオロリン酸の混合比率は、ジフルオロリン酸に対するジフルオロリン酸塩の飽和溶解度に相当するモル量の原料塩とジフルオロリン酸を混合し反応させればよい。ジフルオロリン酸1モルに対して、原料塩0.01〜1モル、好ましくは0.03〜0.5モル、特に好ましくは0.05〜0.3モル用いるのが良い
【0030】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法において、原料塩とジフルオロリン酸を反応させる際、反応温度は−50℃〜110℃が好ましく、0℃〜80℃がより好ましい。特に好ましいのは0℃〜40℃である。反応時間は0.5〜40時間、好ましくは1〜20時間とするのが良い。
【0031】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法において、ジフルオロリン酸にジフルオロリン酸塩が溶解されたジフルオロリン酸溶液から、晶析操作によって結晶を析出する際の晶析温度の範囲は、−100℃〜100℃が好ましく、−80℃〜80℃がより好ましい。特に好ましいのは−50℃〜50℃である。
【0032】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法において、晶析操作によって析出した結晶には晶析溶媒として使用したジフルオロリン酸や副生した不純物を含んでいるため、乾燥操作によってこれらの不純物を取り除く必要がある。このときの乾燥温度の範囲は、0℃〜100℃が好ましく、0℃〜80℃がより好ましい。特に好ましいのは0℃〜60℃である。
【0033】
乾燥操作を行うときは、窒素やアルゴンなどの不活性ガス中またはガス気流中で行うことが好ましい。また、乾燥操作は常圧でも減圧でもよいが、揮発物の留去を促進するため減圧乾燥が好ましい。
【0034】
本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法において、ジフルオロリン酸塩の溶解度を変えたり、ろ別操作時のろ過性を高めたりする目的でジフルオロリン酸溶液に有機溶媒を混合してもよい。使用する有機溶媒の種類としては原料塩、ジフルオロリン酸、ジフルオロリン酸塩と反応せず、また本製造方法の操作性等に悪影響を及ぼさない限り特に限定はしないが、炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、カーボネート類等を用いることができる。
【0035】
本発明のジフルオロリン酸塩の合成方法で使用するジフルオロリン酸の純度は高いほうが好ましい。ジフルオロリン酸は従来から知られている合成方法で製造することができ、例えばJ.C.BAILAR et.al.,COMPREHENSIVE INORGANIC CHEMISTRY vol.2,p536に開示されている方法により製造することができる。すなわち、無水リン酸にその3倍モル量の無水フッ化水素酸を作用させることによってモノフルオロリン酸とジフルオロリン酸の混合物を得ることができ、これを例えば51℃−100mmHgなる条件下で蒸留することによって、ジフルオロリン酸の純度を高めることができる。さらに純度を高めたいときには蒸留操作を繰り返すことによって達成することができ、例えば非特許文献4に開示がある。本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法で使用するジフルオロリン酸の純度は高ければ高いほど、得られるジフルオロリン酸塩の純度が高くなるため好ましく、イオンクロマト法によって定量したジフルオロリン酸の含量が95%以上であることが好ましい。より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。
【0036】
本発明のジフルオロリン酸塩の合成方法において、晶析操作後に固液分離されたジフルオロリン酸塩が溶解したジフルオロリン酸溶液は、再利用することができる。すなわち、固液分離後のジフルオロリン酸溶液は、晶析ろ別操作によってジフルオロリン酸溶液中のジフルオロリン酸塩の濃度が低下しており、これに相当する原料塩、または原料塩とジフルオロリン酸とを加えることによって、ジフルオロリン酸と原料塩とが反応し、同じ晶析ろ別操作を行うことによってジフルオロリン酸塩を同様に得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0038】
参考例1 ジフルオロリン酸の蒸留精製
晶析溶媒として使用に供するジフルオロリン酸の純度を上げるため、蒸留精製を行った。ジフルオロリン酸(試薬:フルオロケム製)400gを、PTFE製丸底フラスコに秤りとり、これを減圧下40℃で蒸留を行い、−20℃に冷却したPTFE製丸底フラスコに留分313gを得た。この留分を、イオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500,カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸の純度とした。得られたジフルオロリン酸の純度は相対面積で99%であった。
【0039】
実施例1
参考例1において蒸留操作によって得られたジフルオロリン酸300gを500mlPFA容器に秤りとり、塩化リチウム(試薬:和光純薬製)25gを添加した。この反応液をろ過操作によって不溶解分を除去し、得られたろ液を25℃から−30℃まで冷却して結晶を析出させた。このスラリーを固液分離して得られた結晶を、PTFE製丸底フラスコを用いて減圧下40℃で乾燥した。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500,カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で97%であった。
【0040】
実施例2
実施例1において晶析操作より固液分離して得られたろ液215gに、塩化リチウム(試薬:和光純薬製)2.4gを添加した。この反応液をろ過操作によって不溶解分を除去し、得られたろ液を25℃から−30℃まで冷却して結晶を析出させた。このスラリーを固液分離して得られた結晶を、PTFE製丸底フラスコを用いて減圧下40℃で乾燥した。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500,カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で97%であった。
【0041】
実施例3
参考例1において蒸留操作によって得られたジフルオロリン酸300gを500mlPFA容器に秤りとり、炭酸リチウム(試薬:和光純薬製)22gを添加した。この反応液をろ過操作によって不溶解分を除去し、得られたろ液を25℃から−30℃まで冷却して結晶を析出させた。このスラリーを固液分離して得られた結晶を、PTFE製丸底フラスコを用いて減圧下40℃で乾燥した。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500,カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で95%であった。
【0042】
比較例1
ろ液を晶析せずにPTFE製丸底フラスコを用いて減圧下40℃で直接濃縮乾燥すること以外は、実施例1と同様に行った。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス製 DX−500,カラムAS−23)でアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度とした。得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶の純度は相対面積で85%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはオニウムのハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物より選ばれる少なくともひとつの原料塩とジフルオロリン酸とを、ジフルオロリン酸中において反応させた後、該ジフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物をジフルオロリン酸から固液分離し、析出物に含まれるジフルオロリン酸を留去することによってジフルオロリン酸塩を得ることを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
原料塩がアルカリ金属のハロゲン塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物塩、酸化物塩より選ばれる少なくともひとつである請求項1に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属がリチウム、ナトリウム、カリウムより選ばれる少なくともひとつである請求項1から請求項2に記載にジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の晶析操作後の固液分離されたジフルオロリン酸溶液中に、原料塩または原料塩とジフルオロリン酸とを添加して、請求項1記載の操作を繰り返すことを特徴とするジフルオロリン酸塩の製造方法。

【公開番号】特開2012−51752(P2012−51752A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194807(P2010−194807)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)