説明

スイング式加工装置

【課題】簡素な構成でありながらも正確な転動軌跡を実現でき、そのため精度の高い加工を行うことが可能なスイング式加工装置を提供する。
【解決手段】転動体3はベース1上を転動し、転動体1に取り付けた上型21とベース1側に配置した下型22とで、せん断、曲げ、穿孔などの加工を行う。転動体3に転動方向の前後方向に延びる一対の支持ロッド12、12を取り付ける。各支持ロッド12、12に重錘14、14をスライドベアリング13、13を介して摺動自在に支持する。両重錘14、14は連結部材15で連動させ。重錘14、14を転動方向に移動させることで、転動体3を転動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスイング式加工装置に関するもので、特に、転動機構の改善されたスイング式加工装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
直線状の下刃に対して曲線状の上刃を転がり移動させることで金属プレートのせん断を行うスイング式加工装置は公知である(例えば、特許文献1参照)。この従来のスイング式加工装置においては、刃物を転動させる駆動機構として、カムと油圧シリンダとを用いたり、油圧シリンダとガイド機構を用いたりしている。そしてこのような駆動機構が、複雑な構成になってしまうことから、以下のようなスイング式加工装置が提案されている。すなわちそれは、直線刃とこれと相対向する円弧刃とを有し円弧刃をころがり移動させることによって金属プレートをせん断するスイング式加工装置において、円弧刃を取着したスキッドを上フレームに吊持機構によって吊持し、スキッド背面に円弧状の転動面を形成すると共に、スキッドと上フレームとの間にスキッド背面の転動面に押圧接触するローラを設け、ローラを移動させることで円弧刃を転がり移動させる構成のスイング式加工装置である(特許文献2参照)。
【特許文献1】実開平03−36712号公報
【特許文献2】実開平07−37518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記従来のスイング式加工装置では、回転刃の背面に設けた転動面を移動するローラで押圧することによって回転刃を転がり移動させているが、この際、スキッドは上フレームに吊持支持されているだけで、その長さ方向には何等ガイドや支持はされていない。従って作業中に、回転刃がその長手方向に変位して、回転刃と被加工体との間に滑りが生じてしまうおそれがある。そしてこのように回転刃が正確な転がり移動ができない状況になると、正確な加工が行えないという不具合が生じることになる。
【0004】
この発明は上記した従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成でありながらも正確な転動軌跡を実現でき、そのため精度の高い加工を行うことが可能なスイング式加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のスイング式加工装置は、ベース1と、円弧状の転動面4を有すると共に上記ベース1上を所定距離だけ往復転動可能な転動体3とを有し、転動体3を転動させるための転動機構を設け、転動体3のベース1上での転動により、上記転動体3に取り付けられた上型21と、上記ベース1側に配置された下型22とで被加工体20のせん断、曲げなどの加工を行うスイング式加工装置であって、上記転動機構は、転動体3に転動方向に移動可能に重錘14を取り付けることで構成されていることを特徴とする。
【0006】
この発明において、上記転動機構は、転動体3に対して外部から力が作用しないバランス状態における転動面4の円弧中心からのベース1への垂線よりも転動方向の前方位置と後方位置とにおいて転動体3に対し、それぞれ重錘14、14を取り付け、このうち少なくとも一方の重錘14を転動方向に移動可能にしていることを特徴とする。
【0007】
また、上記転動機構は、重錘14、14の位置を調整することで、転動体3をバランス状態にすることを可能としている。
【0008】
上記一対の重錘14、14は略同じ重さを有し、上記垂線からほぼ同じ距離だけ離れた位置に配置されている。
【0009】
また、上記両重錘14、14は、転動体3の転動方向に移動可能に取り付けると共に、両者を互いに連結して両重錘14、14が連動するように構成している。
【0010】
上記両重錘14、14は、転動方向の前方位置と後方位置とにおいて、転動体の端部を越えた外方位置に配置されていることを特徴とする請求項2〜請求項5のスイング式加工装置。
【0011】
さらに詳しくは、転動体3に転動方向の前後方向に延びる一対の支持ロッド12、12を取り付け、各支持ロッド12、12に重錘14、14を摺動自在に支持し、両重錘14、14を連結部材15で連動させている。
【0012】
あるいは、転動体3の両端部近傍の位置に、上方に突出する一対のガイド部16、16を設けると共に、このガイド部16、16に摺動ロッド17を転動方向に摺動自在に装着し、摺動ロッド17の両端側にそれぞれ重錘14、14を取り付けている。
【0013】
また、転動機構は、単数の重錘によって構成されおり、この重錘を、転動体に対して外部から力が作用しないバランス状態における転動面の円弧中心からのベースへの垂線よりも転動方向の前方位置と後方位置との間を移動可能に転動体に取り付けることで構成することもある。
【発明の効果】
【0014】
この発明のスイング式加工装置においては、転動体3をベース1の上で実際に転動させることで、上型21を転がり移動させるので、上型21に正確な転動軌跡を付与でき、高精度な加工が行えることになる。また、重錘14の移動によって転動体3を転動させる転動機構を採用していることから、簡素な構成となり、安価な装置を提供できることになる。また、重錘14、14の自重は、上型21から被加工体20へ押圧力として作用するので、大きな加工力が得られ、加工性を向上することが可能である。しかもこの場合、転動体3の転動は、重錘14、14を移動させることによって行うので、加工に際して必要なのは、重錘14、14を移動させるための力だけであり、そのため必要な力は小さな力でよいことになる。
【0015】
また、転動体3をバランス状態からその前後に往復転動させることが可能であるので、装置の取り扱いの利便性を向上できる。
【0016】
さらに、一対の重錘14、14を連動させるようにしたので、単一の重錘14を移動させることで転動体3を転動させる場合に比較して、重錘14、14の移動距離は短くてよいことになり、そのため作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次にこの発明のスイング式加工装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1には、スイング式加工装置の全体の概略構成を示している。同図において、Kは装置基台を示しており、この装置基台K上にベース2が支持されている。ベース1は、略平面状の載置面2を備えている。そして、この載置面2上に転動体3が載置されている。転動体3は、上記載置面2に接触する円弧状の転動面4を有しており、転動体3が水平に保持された中立位置(転動体3に対して外部から力の作用しないバランス位置)から所定距離だけ往復転動可能となっている。上記装置基台Kには、転動体3を移動可能に支持する支持台5が立設されている。この支持台5は、転動体3の転動方向の前後の位置において、転動体3の端部近傍の位置に一体ずつ設けられている。上記各支持台5、5は、転動体3の背部に設けられており、その前方の転動体3に向けてガイドピンが6、6突設されている。一方、転動体3の端部近傍には、前後一対のガイド溝7、7が穿設され、各各ガイドピン6、6が各ガイド溝7、7内に嵌入されている。また、転動体3は上記ガイドピン6によってガイドされながら、さらにその前後において、その両側から、支持台5に取り付けたスライドプレート8と、ガイドピン6によって支持された振れ防止リング9とによってガイドされ、その倒れが防止されている。なお、上記説明及び以下の説明においては、ガイド溝と称しているが、これはガイド孔と称されるものも含むものである。
【0018】
次に、上記転動体3を転動させる転動機構について説明する。転動体3の転動方向両端部近傍において、転動体3の上端部の位置には、前後一対の台座部11、11が設けられており、各台座部11、11に支持ロッド12、12が支持されている。各支持ロッド12、12は、各台座部11、11に片持ち状態で、転動体3の端部から転動方向の前後方向へと突出する状態で支持されている。そして、各支持ロッド12、12には、スライドベアリング13、13が前後方向に摺動自在に支持されており、各スライドベアリング13、13に重錘14、14が吊下げ支持されている。各重錘14、14は略同じ重さのものを用いるのが好ましい。また、上記各スライドベアリング13、13は連結ロッド15によって相互に連結されている。この場合、両重錘14、14の転動体3の端部からの突出量が略同程度のときに、転動体3に対して外部から力の作用しないバランス位置となって、転動体3が水平に保持された中立位置となるようにするのが好ましい。なお、各支持ロッド12、12の先端部には、スライドベアリング13、13の抜脱を防止するためのストッパ18、18が取着されている。
【0019】
上記スイング式加工装置の動作状態について説明する。まず、一対の重錘14、14の転動体3の端部からの突出量が略同程度のときに、転動体3に対して外部から力の作用しないバランス位置(図2において、転動体3を2点鎖線で示す状態)となっており、転動体3が水平に保持された中立位置となる。この状態から、図2に示すように、重錘14、14を、転動方向の前後方向に連動させれば、転動体3に作用する回転モーメントが大きくなり、それに伴って転動体3が前後に転動して移動することになる。また例えば、図1の状態では、各重錘14、14は、図において左側端部(転動方向の後方端部)に位置している。そして、理論的には、この状態から各重錘14、14を図において右側(転動方向の前方)へと移動させれば、転動体3は前方へと転動する。ただ、実際の操作においては、図1の状態(重錘14、14が左側端部(転動方向の後方端部)に位置する状態)から、手動にて、転動方向に支持ロッド12、12を、バランス位置をやや越えるまで位置まで回動させる。そうすると、それまでは、左側端部に位置していた重錘14、14が自重により移動を開始する。その後、加工すべき被加工体に必要な加工力が小さい場合には、重錘14、14の自重による移動と転動体3の転動とが自己完結的に自然に繰り替えされて、重錘14、14は、図2において説明したように、図1において右側端部(転動方向の前方端部)に移動する。被加工体に必要な加工力が大きい場合には、バランス位置をやや越えるまで位置まで回動させたときに移動を開始した重錘14、14が、その位置で停止するので、さらに手動で支持ロッド12、12を回動させ、人により外力を作用させながら転動体3を転動させる。この場合には、小さな力で転動体3を転動させることが可能である。なお、一連の転動動作を自動的に行うことも可能であり、この場合には、何らかの駆動源を用いて、強制的に重錘14、14を移動させていくことにより、転動体3を転動させるのである。
【0020】
次に上記ガイド溝7の形状の設定手順について説明する。ここでは、転動体3がバランス位置に存する状態(図3において、転動体3の上辺が水平になっている状態)において、ベース1と転動体3との接点を原点O、転動面4の曲率中心から上記原点への垂線をY軸、原点Oを通りY軸に垂直で転動体3の転動方向に延びる線(ベース1の載置面2)をX軸とするX−Y座標系(上記原点、X軸、Y軸が同一平面に存する)を前提に説明を行う。まず、図3(a)(b)に示すように、転動体3(転動面4の半径R)がある角度Θだけ回転したときに、転動体3内の特定の点Pが、P’の位置に達するとする。点Pの座標を(x,y)とし、円の中心から点Pまでの距離をrとし、y軸となす角度をΦとすれば、
x=rsinΦ
y=R−rcosΦ・・・・(1)
転動体3がΘだけ回転したときの点P’の座標(α,β)は、
α=RΘ+rsin(Φ−Θ)
β=R−rcos(Φ−Θ)・・・・(2)
となる。そしてこのとき点P’には、常にガイドピン6が位置する(x−y座標系において、例えば、x=L、y=H)という前提があるので、
α=L
β=H・・・・(3)
という条件を満たす必要がある。
そこで、上記(1)式をΦとrとについて解き、上記(3)式と共に(2)式に代入すると、
L=R・Θ+xcosΘ−(R−y)sinΘ
H=R−(R−y)cosΘ−xsinΘ
これを、(x,y)について解けば、以下の(4)式の通りとなる。
x=(L−RΘ)cosΘ+(R−H)sinΘ
y=(L−RΘ)sinΘ+(H−R)cosΘ+R・・・・(4)
上記(4)式に基づく、R=1000、H=100のときのガイド溝7の形状を、図4に例示している。
【0021】
そして、実用的には、上記ガイド溝7の形状を、図5に示すように、2個又は2つ以上の複数の極率の異なる円弧で近似した使用状態を例示する。この場合、理論的にはやや相違点は見られるものの、実用的には全く問題のない誤差範囲内の相違として処理し得ることを確認している。ちなみに図5においては、ガイド溝7が、点Aを中心とする半径200mmの円弧と、点Bを中心とする半径46mmの円弧とを連設することで、上記演算に基づくガイド溝7の近似が可能であることを示している。
【0022】
また、上記転動体3においては、図1に示すように、転動体3の下側部分に3個又は3個以上のボルト取付孔が転動方向に所定の間隔を置いて並設されている。これらボルト取付孔は、後述する加工用の上型21を取り付けるためのもので、これら複数のボルト取付孔によって、上型取付部10を構成している。この上型取付部10に、せん断用上型21(図6参照)、曲げ用上型31(図9参照)、他の曲げ用上型36(図10参照)、穿孔用上型41(図12参照)が選択的に取り付けられるようになっている。各加工作業の詳細については、後述する。
【0023】
上記スイング式加工装置を用いた加工について、最初に、せん断加工を例にして説明する。図6に、その断面図を示しているが、上記した通り、転動体3は、その両側から、スライドプレート8と振れ防止リング9によってガイドされており、また、その上下方向には、ガイド溝7内に挿入されたガイドピン6によってガイドされている。そしてこの場合、せん断加工用上型21と下型22とを有しているが、上型21は転動体3の上型取付部10に取り付けられ、また、下型22としては、上記ベース1をそのまま用いている。上記上型21は、その刃部(下端部)が転動体3の転動面4と略同じ曲率を有するもので、転動体3の下部側部の上型取付部10において、支持台5側に位置する上型取付部10に取り付けられている。また、上記ベース1(下型22)の転動体3とは反対側の装置基台Kには、ワーク受け台23が配置されており、その上面が、ベース1の載置面2と同一高さとされ、両者上に加工プレート(被加工体)20を載置し得るようにしている。また、装置基台Kの上型21の位置する側(ワーク受け台23とは反対側)には、加工プレート20の先端位置を定める位置決めストッパ24が突設されている。一方、上型21は、上記した通り、転動体3の下部側面において上型取付部10にボルト止めされているが、その下端刃部は、図7に示すように、ベース1の側面とは一定のクリアランスCを有し、また、ベース1に対して一定の喰い込み代Dを有するように構成されている。また、図6のように、転動体3の下部において、上記上型21を取り付けた側面とは反対側の側面には、イジェクターピン25を備えたプレート押さえ26が取り付けられている。そして図8に示すように、(a)の状態(重錘14、14が転動方向の後端部に位置する状態)で加工プレート20をセットして、転動体3の転動を開始し、上型21がプレート20に接触する前にイジェクターピン25で加工プレート20を押さえ、さらに転動体3を転動させることによって上型21を転がり移動させてせん断を開始する(同図(c))。そして(d)の状態でせん断を終了した後、同図(d)の状態(重錘14、14が転動方向の前端部に位置する状態)までさらに転動体3を転動させてせん断された加工プレート20を取り出し、一連のせん断作業を終了する。
【0024】
上記スイング式加工装置においては、上記したせん断加工以外の他の加工作業を行うようにしている。それは、曲げ加工作業や穿孔作業である。曲げ加工の一例を、図9に示している。同図のように、転動体3の上型取付部10に曲げ用上型31を取り付け、また、ベース1の側方の装置基台K上に曲げ用下型32を配置する。この曲げ用上型31も、その先端部が転動体3の転動面4と略同じ曲率を有するものとなっている。この場合、加工プレート20は、図のように、下型32に片持ち状態で支持され、その自由端側を下方へと折り曲げるようになっている。この曲げ加工は、同図(a)〜(d)に示すように、合計4回の転動作業を行うことで、一連の曲げ加工を行うようにしている。まず、第1工程においては、ベース1上に、3枚のスペーサ33、34、34を上下に重ねて配置し、この状態で転動体3を転動させ、上型31を転がり移動をさせ、曲げ加工を行う。このとき、スペーサ33、34、35の配置厚み分だけ、上型31は下型32に対して浅い位置に保たれ、加工度の少ない曲げ加工が行われる。次に、スペーサ33、34、34を一枚ずつ減少させながら、同図(b)(c)のように、上型31を下型32に対して順次、深い位置に位置させていき、曲げ加工度を順に大きくしていく。そして、最終的に、スペーサ33、34、35の全くない状態で、ベース1の載置面2に転動体3の転動面4を接触させた状態での転動動作によって、最終段階の曲げ加工を行う。このように、加工プレート20の加工度が次第に大きくなるような加工法を採用することで、良好な精度の曲げ加工が行えることになる。
【0025】
図10には、他の曲げ加工方法を示している。これは、下方に向けて突出する三角形状の上型36と、三角形状の凹部を有する下型37とを使用する方法であって、下型37をベース1の側方の装置基台K上に配置すると共に、上型36を転動体3の上型取付部10に取り付けて曲げ加工を行う。この場合の曲げ作業は1回の作業で行う。この上型36の先端部も、転動体3の転動面4と略同じ曲率を有するものとなっている。
【0026】
また、上記スイング式加工装置においては、穿孔作業を行うことも可能である。図11及び図12には、穿孔作業に用いる上型41と下型42との具体例を示している。上型41は、転動体3の上型取付部10に取り付けられるもので、転動体3の転動面4と略同じ曲率を有する円弧状の押圧面43を有している。また、下型42は、複数のパンチ44・・を、転動体3の転動方向に並設した構造のもので、ベース1の側方において装置基台K上に取り付けられている。そして、図11に示しているように、転動体3の転動に従って、上型41が転がり移動し、その押圧面43は、転動方向に順にパンチ44の頭部を押圧し、加工プレート20に順に、複数の孔を穿孔していく。
【0027】
図13にスイング式加工装置の第2実施形態を示している。このスイング式加工装置は、構成本的には、上記第1実施形態のものと同一であるが、この第2実施形態では、転動機構が異なっている。すなわち、この場合の転動機構は、転動体3の両端部近傍の位置に、上方に突出する一対のガイド部16、16を設けると共に、このガイド部16、16に摺動ロッド17を転動方向に摺動自在に装着し、摺動ロッド17の両端側にそれぞれ重錘14、14を取り付けることで構成されている。このスイング式加工装置においても、摺動ロッド17を移動させることで重錘14、14に位置を移動させて、転動体3を転動させることが可能である。
【0028】
上記スイング式加工装置によれば、転動体3をベース1の上で実際に転動させることで、上型21を転がり移動させるので、上型21に正確な転動軌跡を付与でき、高精度な加工が行えることになる。また、重錘14、14を転動方向へ移動させることによって転動体3を転動させる転動機構を採用していることから、簡素な構成となり、安価な装置を提供できることになる。また、重錘14、14の自重は、上型21から被加工体20へ押圧力として作用するので、その分だけ大きな加工力が得られ、加工性を向上することが可能である。しかもこの場合、転動体3の転動は、重錘14、14をスライドベアリング13(あるいは摺動ロッド17)を利用して移動させることによって行うので、加工に際して必要なのは、重錘14、14をスライドさせるための力だけであり、そのため必要な力は小さな力でよいことになる。
【0029】
また、転動体3をバランス状態からその前後に往復転動させることが可能であるので、装置の取り扱いの利便性を向上できる。さらに、一対の重錘14、14を連結ロッド(連結部材)15によって連動させるようにしたので、単一の重錘14を移動させることで転動体3を転動させる場合に比較して、重錘14、14の移動距離は短くてよいことになり、そのため作業性が向上する。
【0030】
上記各実施形態においては、転動機構は、一対の重錘14、14を連動させることで構成しているが、転動機構は、単数の重錘を転動方向に移動可能に取り付けることによっても構成することも可能である。すなわち、図示しないが、転動体に対して外部から力が作用しないバランス状態における転動面の円弧中心からのベースへの垂線よりも転動方向の前方位置と後方位置との間の位置に1個の重錘を取り付け、この重錘を上記区間内で移動可能にしておくのである。さらに、重錘を転動方向に移動可能に取り付けるということは、転動体3に対して外部から荷重を付加したり、付加した荷重を除去したりすることによっても達成でき、このような場合も本願発明の範囲内に含まれる。
【0031】
また、上記各実施形態のスイング式加工装置においては、転動体3側に、上記(4)式で示す形状に近似した形状のガイド溝7を形成し、これをベース1側に設けたガイドピン7でガイドするようにしていることから、上型21に対して、正確な転動軌跡を付与して、正確な転がり運動をさせることが可能となり、そのため、精度の高い加工を行うことが可能となる。また、(4)式に対応する複雑な形状を円弧によって近似してあることから、ガイド溝7の加工が容易になる。なお、転動体3に一対のガイド溝7、7を設ける代わりに、一対のガイドピンを突設する一方、ベース1側には、転動体3が転動したときのガイドピン突設位置の連動軌跡に沿ったガイド溝を形成して、ガイドピンをガイドするようにしてもよい。また、ガイド溝を形成することなく、ガイドピンを、ガイド溝の形状に沿うように移動させることで、上型21に転動軌跡を付与して転がり運動をさせるようにすることも可能である。
【0032】
さらに、上記各実施形態のスイング式加工装置においては、単一の装置でありながらも、複数種類の上型と下型とを交換可能に取り付けることができるように構成されているので、複数種類の加工を行なえるようになる。そのため、装置の稼働率が向上し、そのため低コストな加工が行なえるようになって、経済的である。なお、上記実施形態では、せん断、曲げ、穿孔を行えるようにしているが、さらに、絞り加工や型押し加工を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明のスイング式加工装置の実施形態を示す斜視図である。
【図2】上記スイング式加工装置の動作状態を説明するための概略構成図である。
【図3】上記スイング式加工装置におけるガイド溝の形状をの求め方の説明図である。
【図4】上記ガイド溝の形状を示す説明図である。
【図5】上記ガイド溝の形状を簡略的に設定した状態の説明図である。
【図6】上記スイング式加工装置でせん断加工を行う状態を示す縦断面図である。
【図7】上記せん断加工時の刃部の状態を拡大して示す断面図である。
【図8】上記スイング式加工装置でせん断加工を行う状態を時間の経過と共に示す正面図である。
【図9】上記スイング式加工装置で曲げ加工を行う状態を各工程毎に示す縦断面図である。
【図10】上記スイング式加工装置で曲げ加工を行う他の方法において用いる上型と下型とを示す斜視図である。
【図11】上記スイング式加工装置で穿孔作業を行う状態を時間の経過と共に示す正面図である。
【図12】上記穿孔作業を説明するための縦断面図である。
【図13】この発明のスイング式加工装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・ベース、3・・転動体、4・・転動面、6・・ガイドピン、7・・ガイド溝、10・・上型取付部、12・・支持ロッド、13・・スライドベアリング、14・・重錘、15・・連結ロッド、16・・ガイド部、17・・摺動ロッド、20・・加工プレート(被加工体)、21、31、36、41・・上型、22、32、37、42・・下型、44・・パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース(1)と、円弧状の転動面(4)を有すると共に上記ベース(1)上を所定距離だけ往復転動可能な転動体(3)とを有し、転動体(3)を転動させるための転動機構を設け、転動体(3)のベース(1)上での転動により、上記転動体(3)に取り付けられた上型(21)と、上記ベース(1)側に配置された下型(22)とで被加工体(20)のせん断、曲げなどの加工を行なうスイング式加工装置であって、上記転動機構は、転動体(3)に転動方向に移動可能に重錘(14)を取り付けることで構成されていることを特徴とするスイング式加工装置。
【請求項2】
上記転動機構は、転動体(3)に対して外部から力が作用しないバランス状態における転動面(4)の円弧中心からのベース(1)への垂線よりも転動方向の前方位置と後方位置とにおいて転動体(3)に対し、それぞれ重錘(14)(14)を取り付け、このうち少なくとも一方の重錘(14)を転動方向に移動可能にしていることを特徴とする請求項1のスイング式加工装置。
【請求項3】
上記転動機構は、重錘(14)(14)の位置を調整することで、転動体(3)をバランス状態にすることを可能としていることを特徴とする請求項2のスイング式加工装置。
【請求項4】
上記一対の重錘(14)(14)は略同じ重さを有し、上記垂線からほぼ同じ距離だけ離れた位置に配置されていることを特徴とする請求項3のスイング式加工装置。
【請求項5】
上記両重錘(14)(14)を転動体(3)の転動方向に移動可能に取り付けると共に、両者を互いに連結して両重錘(14)(14)が連動するように構成していることを特徴とする請求項4のスイング式加工装置。
【請求項6】
上記両重錘(14)(14)は、転動方向の前方位置と後方位置とにおいて、転動体の端部を越えた外方位置に配置されていることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれかのスイング式加工装置。
【請求項7】
転動体(3)に転動方向の前後方向に延びる一対の支持ロッド(12)(12)を取り付け、各支持ロッド(12)(12)に重錘(14)(14)を摺動自在に支持し、両重錘(14)(14)を連結部材(15)で連動させることを特徴とする請求項6のスイング式加工装置。
【請求項8】
転動体(3)の両端部近傍の位置に、上方に突出する一対のガイド部(16)(16)を設けると共に、このガイド部(16)(16)に摺動ロッド(17)を転動方向に摺動自在に装着し、摺動ロッド(17)の両端側にそれぞれ重錘(14)(14)を取り付けていることを特徴とする請求項6のスイング式加工装置。
【請求項9】
上記転動機構は、単数の重錘によって構成されおり、この重錘を、転動体に対して外部から力が作用しないバランス状態における転動面の円弧中心からのベースへの垂線よりも転動方向の前方位置と後方位置との間を移動可能に転動体に取り付けることで構成されていることを特徴とする請求項1のスイング式加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−296345(P2008−296345A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146925(P2007−146925)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】