説明

スキッドポスト及びスキッドポスト用の分割ブロック

【課題】冷却パイプへの抜熱を抑えて断熱効率を向上させると共に、熱応力による亀裂や割れを抑制する。
【解決手段】本発明の加熱炉に設置されるスキッドポスト2は、冷却パイプ8と、冷却パイプ8の外周を被覆する耐火断熱手段とを備え、耐火断熱手段は、冷却パイプ8を囲むように設置される筒状ブロック部6と、筒状ブロック部6の内周面と冷却パイプ8の外周面との間に配置される断熱層部4とを含み、筒状ブロック部6は、冷却パイプ8の長手方向に積み重ねられた複数の環状ブロック部5からなり、環状ブロック部5は、3以上の分割ブロック3が目地部9を介して周方向に連接されて構成され、冷却パイプ8の長手方向に隣り合う環状ブロック部5における目地部9同士は、相互に重なり合わないように周方向にずらして配置され、冷却パイプ8の長手方向に隣り合う環状ブロック部5間には、環状ブロック部5の膨張代を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱炉内のスキッドに関し、特に、鉄鋼生産工程における加熱炉内のスキッドポスト及びスキッドポスト用の分割ブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼生産工程において圧延用加熱炉は、分塊圧延された鋼片(例えば、スラブ、ブルーム、ビレット)、または連続鋳造された鋼片などを熱間圧延するため、その目的温度(通常1200℃程度)まで再加熱する設備である。図10に示すように、加熱炉は、被加熱体である鋼片15を加熱するための燃焼バーナー16と、当該鋼片15を支持、搬送するための複数列のスキッド14とを備える。スキッド14は、両側に配置される可動スキッド14aと、中央に配置される固定スキッド14bから構成されており、可動スキッド14aが鉛直面内で矩形運動を繰り返すことで間欠的に鋼片15を前進搬送させている。
【0003】
上記スキッドは、重量物を支持するための強度を保つ目的で水冷パイプを用いており、水冷損失を抑制するために外周を耐火断熱材で被覆した構造となっている。この際に、水冷パイプの断熱を行わないと、加熱炉から冷却水への抜熱が大きくなり、莫大な熱損失が生じることになる。したがって、鋼片加熱過程において加熱炉内のスキッドポストの断熱は、効率的な省エネルギープロセスの重要な課題の一つである。
【0004】
図1に示すように、スキッドの梁に当たる部分をスキッドビーム1、柱に当たる部分をスキッドポスト2と呼ぶ。従来、スキッドポスト2の断熱構造としては、水冷パイプに取り付けた金属製のスタッドで耐火断熱キャスタブルを支持する断熱構造が主流となっている(非特許文献1参照)。耐火断熱キャスタブルは、耐火性に優れており、断熱構造の最外側に配置される。耐火断熱キャスタブルの内側には、低熱伝導率で高い断熱効果を有した背面断熱層(例えば、セラミックファイバー又はヒュームドシリカを主成分とした断熱材シート等)が配置される。これら耐火断熱キャスタブル及び背面断熱層という複層から成る断熱構造が広く普及している。しかしながら、金属製のスタッドを使用すると、スタッドからの抜熱を無視することはできず、熱損失が大きくなる要因の一つとなっている。また、スタッドを用いると、施工に多くの時間と労力を必要とすることになり、施工費も高くなる。
【0005】
上記のような問題点を解決するための手段の一つとして、スタッドレス化を図ることが考えられる。そこで、スタッドレス化のために、予め成形された(プレキャスト)分割ブロックを一対用いて環状ブロック部を形成し、この環状ブロック部を水冷パイプに沿って複数並べたスキッドポストやスキッドビームが開発されてきた(非特許文献2参照)。分割ブロックを用いてスタッドレス化することで、スタッドを有した構造よりも高い断熱効果を有するスキッドポストやスキッドビームを提供できる。また、分割ブロックを用いることで、現場での施工が容易になり、工期短縮の観点からも有効である。
【0006】
これまでのスキッドの分割ブロックには、主に断熱性能よりも強度を重視した耐火キャスタブルが検討・使用されてきた。しかしながら、耐火キャスタブルは熱伝導率が高いため、金属スタッドを使用した場合よりは改善されるものの、加熱炉内の熱が耐火キャスタブルを通じて水冷パイプの冷却水に伝導することによる抜熱量が未だ多く、さらなる断熱効率及びエネルギー効率の向上が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本工業炉協会、「工業炉ハンドブック」、省エネルギーセンター、1997年11月、p.193
【非特許文献2】「Reduction of heat losses on the skid pipe system of reheating furnaces (walking beam furnace, pusher type furnace) in the steel industry」、METEC InSteelCon 2011、session 4、 p.1−5
【非特許文献3】寺島英俊、他6名、「連続加熱炉用断熱耐火物の改善」、耐火物、57[11]562−567(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
分割ブロックを用いたスキッドポストにおいて、水冷パイプからの抜熱を抑えてエネルギー効率を向上させるためには、耐火断熱材として従来の耐火キャスタブルよりも熱伝導率の低い分割ブロックを用いることが有効である。当該分割ブロックの材質の候補としては、耐火断熱キャスタブル等が挙げられる。耐火断熱キャスタブルは、骨材、結合材等の化学成分を細かに調整できるため、加熱炉の条件に合った特性を付与することができ、更に、耐火キャスタブルと比較して、高い気孔率を有しており、低熱伝導率である。反面、耐火断熱キャスタブルは、耐火キャスタブルと比較して、低強度であるため、加熱を受けて膨張し、熱応力による亀裂や割れを生じるという問題があり、実機での耐用性は低いことが判ってきた。
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、分割ブロックを使用した加熱炉内のスキッドポストにおいて、冷却パイプへの抜熱を抑えて断熱効率を向上させると共に、熱応力による亀裂や割れを抑制することが可能な、新規かつ改良された加熱炉内のスキッドポストを提供することを目的とする。また、当該スキッドポストに使用できる分割ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、耐火断熱キャスタブルの特性を考慮し、分割ブロックにさらなる工夫を施すことで、上下を拘束された分割ブロックに加熱時に生じる熱応力に対する耐用を上げ、さらに熱応力を緩和することで、圧壊等の損傷を防ぐことが可能であり、1000℃以上の高温となる加熱炉内においても長期安定性を付与できると考えた。
【0011】
そこで、本発明者等は、分割ブロック一対で環状ブロック部を形成し、この環状ブロック部を水冷パイプに沿って複数並べたスキッドポストを使用し、分割ブロックの上下面に段差(ダボ)又は傾斜を施したり、円周分割面の目地の位置を相対的にずらす工夫を施すなどして試験してきた。しかし、それだけでは、1000℃以上の高温雰囲気下においては、連続的に使用すると、分割ブロックが膨張して生じる熱応力により、分割ブロックの亀裂や圧壊が生じることが判明し、分割ブロック一対をベースとした構造では、限界があることが判ってきた。
【0012】
そこで、本発明者等は鋭意検討した結果、分割ブロックを、周方向に目地部を介して3個以上配置して環状ブロック部を形成し、この環状ブロック部を水冷パイプの長手方向(通常は高さ方向)に、膨張代を確保しつつ複数個積み重ねて筒状ブロック部を形成することで、分割ブロックが、強度の低い耐火断熱キャスタブル等であっても、熱膨張による応力で亀裂や割れが生じることなく、耐用性の高い、スキッドパイプを構築することができることを見出して、本発明を為すに至った。
【0013】
更には、分割ブロックの所定部位の長さと高さの比を所定の範囲とすることで、作業性と据え付けの安定性も良好にできることを見出して、更に改良された本発明を為すに至った。
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
(1)加熱炉に設置されるスキッドポストにおいて、冷却パイプと、前記冷却パイプの外周を被覆する耐火断熱手段と、を備え、前記耐火断熱手段は、前記冷却パイプを囲むように設置される筒状ブロック部と、前記筒状ブロック部の内周面と前記冷却パイプの外周面との間に配置される第1の断熱層部と、を含み、前記筒状ブロック部は、前記冷却パイプの長手方向に積み重ねられた複数の環状ブロック部からなり、前記環状ブロック部は、3以上の分割ブロックが目地部を介して周方向に連接されて構成され、前記冷却パイプの長手方向に隣り合う前記環状ブロック部における前記目地部同士は、相互に重なり合わないように周方向にずらして配置され、前記冷却パイプの長手方向に隣り合う前記環状ブロック部間には、前記環状ブロック部の膨張代を有していることを特徴とする、スキッドポスト。
【0016】
(2)前記分割ブロックは、前記冷却パイプの長手方向に対して直交する断面における形状が扇子の扇面の形状を有し、前記分割ブロックを前記環状ブロック部の内周面側から見た際の見掛け上の長方形の横縦比が、0.8以上、1.8以下であることを特徴とする、(1)に記載のスキッドポスト。
【0017】
(3)前記分割ブロックの少なくとも一部が、固定部材により前記冷却パイプに固定されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のスキッドポスト。
【0018】
(4)
前記固定部材は、引張治具であり、前記引張治具の一端は前記冷却パイプに固定され、前記引張治具の他端は前記分割ブロックを係止しており、前記引張治具は、前記分割ブロックを前記冷却パイプに向けて引っ張りながら、前記分割ブロックを前記冷却パイプに固定することを特徴とする、(3)に記載のスキッドポスト。
【0019】
(5)前記耐火断熱手段は、前記筒状ブロック部の外周に設けられた第2の断熱層部を更に含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のスキッドポスト。
【0020】
(6)前記分割ブロックは、前記加熱炉の使用時に加熱される分割ブロックの温度よりも、高い温度で予め焼成されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のスキッドポスト。
【0021】
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のスキッドポストに使用される分割ブロックであって、Ca6キャスタブルをプレキャストして形成されることを特徴とする、スキッドポスト用の分割ブロック。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、耐火断熱材に分割ブロックを用いたスキッドポストにおいて、例えば1000℃以上の高温でも高い断熱効率を有しつつも、熱膨張に対する影響を緩和し、亀裂や割れを抑制して、長期安定性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】加熱炉におけるスキッドビームとスキッドポストの概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る水冷パイプの断熱構造を示す垂直断面図、水平断面図、斜視図である。
【図3】従来のスキッドを用いたプレキャスト構造における縦亀裂の発生箇所を示す図である。
【図4】同実施形態に係るダボ付分割ブロックと傾斜付分割ブロックを示す概略図である
【図5】同実施形態に係る分割ブロックの分割数による形状の違い示す図である。
【図6】同実施形態に係る分割ブロックの分割数による応力の違いを説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る水冷パイプの断熱構造を示す垂直断面図、水平断面図である。
【図8】CA6質プレキャストブロックの350℃乾燥品と1400℃焼成品の熱膨張特性を示す図である。
【図9】CFベニアリングの有無によるCA6質プレキャストブロックの発生応力の違いを示す図である。
【図10】加熱炉の全体概観を示す図である。
【図11】分割ブロックの横縦比b/aが、亀裂抑制指数および施工時間に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
(第1の実施形態)
まず、図1〜6を用いて、本発明の第1の実施形態に係るスキッドポスト及び分割ブロックの構成について説明する。
【0026】
ウォーキングビーム式加熱炉又はプッシャー式加熱炉に代表される加熱炉内において、図1に示すように、スキッドポスト2は、スキッドビーム1を支える柱として存在する。加熱炉内は、例えば1000℃以上の高温となる。このため、図2に示すように、スキッドポスト2は、鋼材等からなる金属製で円筒状の水冷パイプ8(冷却パイプに相当する。)と、その外周を被覆する耐火断熱材(耐火断熱手段に相当する。)とで構成される。かかる構成により、スキッドポスト2は、高温下においても柱としての強度を確保できると共に、加熱炉内の熱が水冷パイプ8内の冷却水を通じて奪われることを抑制できる。水冷パイプ8内の冷却水は、スキッドビーム1を通じて、供給・排出される。なお、本実施形態に係る冷却パイプは、冷媒として冷却水を流通させる水冷パイプ8で構成されるが、本発明の冷却パイプは、かかる例に限定されず、冷媒として、水以外の液体又は冷却ガス等を流通させるものであってもよい。
【0027】
本実施形態に係るスキッドポスト2においては、図2に示すように、上記耐火断熱材は、筒状ブロック部6と、当該筒状ブロック部6の内周面と前記水冷パイプ8の外周面との間に配置される断熱層部4(第1の断熱層部)とを備える。筒状ブロック部6は、内部に水冷パイプ8を挿入可能な内径を有する円筒体であり、水冷パイプ8の長手方向に沿って延設される。筒状ブロック部6の軸方向(水冷パイプ8の長手方向)の長さは、当該筒状ブロック部6の外径よりも大きい。
【0028】
断熱層部4は、筒状ブロック部6の内周面と水冷パイプ8の外周面との間に、断熱材を配置することで、円筒状に形成される。断熱層部4は、一種類の断熱材で形成される単層としてもよいが、複数種の断熱材を積層して形成される複層としても構わない。断熱材は一般的に高温に耐えられるものほど、断熱性能が劣る傾向がある。このため、断熱層部4の断熱性能を向上させるためには、水冷パイプ8に近い比較的低温部分の断熱材に断熱性能が高いものを使用し、その外側には断熱性能は劣るが耐熱性の高い断熱材を使用して、断熱層部4を形成することが好ましい。
【0029】
図2の例では、断熱層部4は、スキッドポスト2の径方向に積層された内層4a、外層4bからなる二層構造を有する。内層4a、外層4bは、それぞれの設置位置における温度域で耐熱性を確保しつつ、筒状ブロック部6よりも低熱伝導性の材質で形成される。かかる複層構造の断熱層部4により、スキッドポスト2の断熱性能を向上させることができる。このような断熱層部4を成す断熱材の例としては、ヒュームドシリカ質、マイクロポーラスシリカ質、若しくはセラミックファイバー(CF)のうちいずれか1つ、又はこれらの組み合わせなどが挙げられるが、その他の材質でも良い。上記高温雰囲気下での断熱性能を確保するためには、断熱層部4の熱伝導度が、0.2[W/mK]以下になるように断熱材を選定することがより好ましい。
【0030】
断熱層部4の形成方法の例としては、断熱シート又はセラミックファイバー等の定形材を使用する場合は、該定形材を被施工体(水冷パイプ8等)に巻きつけ、接着材等により固定すればよい。また、不定形材を使用する場合は、被施工体に該不定形材を鏝塗り若しくは吹き付けてもよいし、または、設置した筒状ブロック部6を型枠として利用し、当該筒状ブロック部6の内周面と水冷パイプ8の外周面との間に該不定形材を流し込み施工してもよい。
【0031】
本実施形態に係るスキッドポスト2においては、耐火断熱材を支持するためのスタッドを用いないため、断熱層部4を上記のような構造とすることができ、高い断熱性能を有しながら、施工も容易で短時間に形成することが可能である。
【0032】
筒状ブロック部6は、水冷パイプ8の長手方向に連設された複数の環状ブロック部5からなる。具体的には、複数個の環状ブロック部5を、水冷パイプ8の長手方向(図1、図2(a)における上下方向)への膨張代5aを確保して、当該長手方向に積み重ねることで、筒状ブロック部6が形成される。図2(a)では、筒状ブロック部6の下部側の3段部分を示しており、加熱炉の炉床7上に3個の環状ブロック部5が鉛直方向積み重ねられた状態を示している。
【0033】
環状ブロック部5は、所定の曲率半径、厚み及び高さを有する環状体であり、周方向に連設された3個以上の分割ブロック3からなる。図2(c)に示す例では、3個の分割ブロック3が、目地部9を介して周方向に隣接されて、1つの環状ブロック部5が構成されている。しかし、かかる例に限定されず、4個以上の分割ブロックで環状ブロック部を構成してもよい。また、目地部9は、周方向に相隣接する分割ブロック3の接合部分であり、当該分割ブロック3の周方向の端面の間に設けられる。
【0034】
また、図2(d)に示すように、水冷パイプ8の長手方向に隣り合う環状ブロック部5の目地部9同士は、互いに重なり合わないように、周方向にずらした位置に配置される。即ち、上下に相隣接する環状ブロック部5の目地部9は、互い違いに配置されている。
【0035】
また、分割ブロック3の形状は、図2(b)〜(d)に示すように、環状ブロック部5を径方向の切断面で3個以上に分割した形状であることが好ましい。すなわち、環状ブロック部5を形成する各分割ブロック3は、水冷パイプ8の長手方向に対して直交する断面における形状(分割ブロックを水平投影面に投影したときの形状)が、扇子の扇面の形状を有することが好ましい。
【0036】
図2の例では、分割ブロック3の周方向の端面(隣接する分割ブロック3との境界面)は、平面となっているが、当該端面に凹凸があってもよいし、又は当該端面が水平面や垂直面に対して傾斜を有していても構わない。更にまた、一つの環状ブロック部5を形成する各分割ブロック3は、図2の例では、同じ大きさ及び形状を有しているが、環状ブロック部5を形成できる範囲内で、各分割ブロック3はそれぞれ異なる大きさ又は形状であっても構わない。
【0037】
また、図2の例以外の分割ブロックの具体的な形状を図4に示す。図4は、水冷パイプ8の長手方向(上下方向)に積み重ねられた分割ブロックの鉛直断面形状を示す。例えば、図4(a)に示すように、分割ブロックをダボ付き(段差付き)ブロック11で構成し、当該ブロック11の上面と下面に、相互に嵌合する凹部及び凸部を設けてもよい。これにより、上下方向に相隣接するブロック11が、凹部と凸部で相互に嵌合するので、分割ブロックの熱膨張による横ずれを抑制できる。また、図4(b)に示すように、分割ブロックを傾斜付きブロック12で構成し、当該ブロック12の上面と下面を、水冷パイプ8の長手方向(上下方向)に対して傾斜した傾斜面としてもよい。これによっても、分割ブロックの熱膨張による横ずれを抑制できる。
【0038】
また、分割ブロック3の材質としては、セラミックファイバー、断熱煉瓦又は耐火断熱キャスタブル等が挙げられ、「JIS R 2611−1992」で分類される断熱煉瓦のA類クラス(A1−A7)で定められる各耐熱温度における嵩比重、強度、熱伝導率に準ずる物性値を有することが好ましい。セラミックファイバーや断熱煉瓦は、スケールとの反応性が高いSiOの含有量が高いため、耐スケール性が低い。従って、長期安定性を考慮すると、耐スケール性の高い耐火断熱キャスタブルからなるプレキャストブロックを分割ブロック3として用いることが、本構造にはより好ましい。但し、コーティング等により耐スケール性を付与できる場合は、セラミックファイバー又は断熱煉瓦等で構成される分割ブロックを用いても構わない。セラミックファイバーを分割ブロックに用いる際は、VF(Vacuum Forming:バキュームフォーミング)法を用いるのが好ましい。VF法とは、解繊したセラミックファイバーを、有機バインダーと無機バインダーの溶液に懸濁させ、この懸濁液を真空成形型に導入し、脱枠・乾燥して製造した緻密質なセラミックファイバーブロックの製造法のことである(非特許文献3参照)。VFにより、セラミックファイバーの構造体への利用時における欠点であった弾性変形を抑制することができる。
【0039】
分割ブロック3に使用する耐火断熱キャスタブルとしては、Al−SiO系、Al−CaO系等が挙げられ、SiO含有量が低く、且つ断熱性に優れるものが好ましい。このような耐火断熱キャスタブルとして、より具体的には、骨材にCA6質骨材、マトリックス部にアルミナセメントを用いたキャスタブルが例示される。
【0040】
分割ブロック3の高耐用化には、第一に亀裂の発生を抑制することが必要であり、第二に亀裂が発生した際でも亀裂が伸展せずに目地開きやブロックの移動を抑制する構造にすることが必要である。
【0041】
そのため、本実施形態に係る環状ブロック部5は、分割ブロック3が、目地部9を介して周方向に3個以上隣接されて形成される構造であることが必須となる。その理由を以下に示す。
【0042】
図6に示すように、円周方向において分割ブロック3’、3の端面に対して垂直に応力が作用する場合を考える。この場合、図6(a)に示すように、2分割された分割ブロック3’の場合(扇面の中心角θ=180°)、応力は端面(分割面)に対して垂直な方向のみに加わり、この結果、分割ブロック3’を外側(図6の下方)に押し出す力が作用する。
【0043】
これに対し、図6(b)に示すように、分割数が3以上の場合(扇面の中心角θ<180°、例えば120°)、端面に対して作用する応力は、分割ブロック3を外側に押し出す力と、分割ブロック3の内周側に向かう力とに分解される。さらに、モーメント長が短くなるため、モーメント力が小さくなり、分割ブロック3の割れに対する耐用性が向上する。そのため、図6(a)に示すように、2個の分割ブロック3’で環状ブロック部5を形成する場合には、亀裂が入り易いのに対し、3個以上の分割ブロック3で環状ブロック部5を形成する場合は、亀裂が入り難いと考えられる。
【0044】
この効果は分割数の増加に伴って大きくなるが、分割数を増やし過ぎると、作業性が悪化したり、個々のブロックの立てつけが不安定となったりしてしまう。従って、分割ブロック3の耐用性及び施工性を両立させる条件を満たす最適な分割数は、少なくとも3以上であり、上限としては5程度が好ましい。
【0045】
3個以上の分割ブロック3から形成される環状ブロック部5が高さ方向(水冷パイプの長手方向)に複数積み重ねる際には、図2(d)に示すように、上下に隣接する2個の環状ブロック部5の間で、目地部9の位置が環状ブロック部5の周方向に相互にずれていることが好ましい。これは、目地部9の位置がずれていないと、加熱炉の稼働中に、目地部9が熱膨張によって拡がった際に、上下2個の環状ブロック部5の間で目地部9が繋がってしまい、崩壊する危険性が高くなるためである。
【0046】
また、各環状ブロック部5の目地部9の位置は、その上下の環状ブロック部5を構成する各分割ブロック3の周方向の中央位置(図5参照)に対しても周方向にずれた位置に配置されることが好ましい。これは、上述のように分割ブロック3の中央位置では、応力が集中して作用しているため、目地部9がその上下の分割ブロック3の中央位置に配置されると、目地部9の破壊につながるからである。
【0047】
従って、3分割の環状ブロック部5の目地部9の位置は、上下に隣接する環状ブロック部5の目地部9の位置に対して、周方向に例えば30°〜60°だけずらすと共に、上下に隣接する分割ブロック3の中央位置から周方向に少なくとも2〜3cm程度離すように設置することが好ましい。一般な寸法の分割ブロック3の場合、上下に相隣接する環状ブロック部5の目地部9を相互に繋がらせず、且つ、各環状ブロック部5の目地部9を、その上下の分割ブロック3の中央位置に設置しないためには、目地部9の位置はこのような範囲に規定される。
【0048】
本実施形態に係る分割ブロック3の寸法例について説明する。分割ブロック3の外径と厚み(扇面形状における外径と内径の差)は、水冷パイプ8の径と、耐火断熱材(筒状ブロック部6)の断熱性能や背面断熱材(断熱層部4)の耐熱温度を考慮して決定され、例えば、分割ブロック3の外径は30〜50cm程度、分割ブロック3の厚みは5〜10cm程度にすることが好ましい。そのため、分割ブロック3の高さは、定まった外径や厚みに対して施工者が扱いやすい重量(例えば7〜15kg/個程度)になるように設計することが好ましい。
【0049】
このような考え方で、図5(a)に示すように、2分割(一対)構造の分割ブロック3’を設計すると、各分割ブロック3’を環状ブロック部の内周面側から見た際の見掛け上の長方形の横縦比(図5におけるb/a)が2.0以上となる。このような横縦比b/aが2.0以上の分割ブロック3’を使用してスキッドポストを構築した場合、加熱炉で繰り返し使用すると、分割ブロック3’の高さ方向に亀裂が発生し、分割ブロック3’の寿命を短命化する大きな要因となっていることが判った。図3に示すように、この縦亀裂10は分割ブロック3’の目地部9を起点に伸展していることが観察されている。
【0050】
この亀裂の原因として、加熱炉内の対流やバーナーよる熱の不均一性から生じる分割ブロック3’の熱膨張量のズレが歪みを引き起こし、分割ブロック3’の目地部9を作用点として曲げ応力が発生していることが推定される。一般に曲げ強度(Tr)と最大耐荷重(w)の関係は次式で表される。
【0051】
【数1】

(ここで、b:試験片の厚み、d:試験片へ荷重が作用する方向に対して平行な長さ、l:試験片へ荷重が作用する方向に対して垂直な長さ)
【0052】
曲げ応力に対して耐性を付与するためには、(1)式におけるd、つまり分割ブロック3の高さを大きくすることが最も効果的である。しかしながら、3分割構造の分割ブロック3の高さを大きくし過ぎると、分割ブロック3が縦長形状となり、重心の位置が高くなり、安定性に欠けるため、作業性が悪くなる。さらにブロック一個あたりの重量を15kg以上とすると、作業効率が落ちる。そのため、前述のように分割ブロック3の厚みが5〜8cmであることを考慮すると、好ましい横縦比b/aは0.8〜1.8に規定される。なお、図5に示すように、bは、環状ブロック部5の内周面側にある中央位置の延長線上の視点から分割ブロック3を見たときの見掛け上の長方形の縦の長さ(即ち、分割ブロック3の高さ)であり、aは当該長方形の横の長さである。当該長方形は、分割ブロック3を、中央位置の延長線に対して垂直な垂直投影面に投影したときの外形である。
【0053】
上記横縦比b/aの適正範囲(0.8〜1.8)について具体例を挙げて説明する。例えば、CA6(CaO・6Alの化学組成からなる多孔質原料)キャスタブルを用いた3分割の分割ブロック3の場合(厚み:8cm、図5(b)におけるa=16cm,b=39cm)を考える。この場合、分割ブロック3の高さを2倍にして、横縦比b/aを2.4から1.2にしたときには、分割ブロック3の亀裂抑制を示す指標として定義した指数(最大発生荷重/耐荷重)は、約2倍となり、曲げに対する耐用が大きく向上する。このように、分割ブロック3の横縦比b/aを上記適正範囲(0.8〜1.8)とすることで、曲げ応力に対する耐用性を向上しつつ、施工性も確保できる。これに対し、横縦比b/aが、0.8未満であると、分割ブロック3の安定性が悪くなり作業性が悪化する問題がある。一方、横縦比b/aが、1.8超であると、縦亀裂が発生しやすいという問題がある。
【0054】
図11は、横縦比b/a(a=一定)が、亀裂抑制指数および施工時間に与える影響を示したものである。亀裂抑制指数とは、分割ブロック3自身の破壊限界応力を分割ブロック3に作用する応力で除した値に所定の係数をかけて相対値化したものである。実験において、施工半年後に初めて亀裂が発生する確率が1/2となったb/a条件での亀裂抑制指数を1.0とし、そうなるように、前記所定の係数を調整した。
【0055】
亀裂抑制指数が1.0を下回ると、亀裂が発生する確率が高くなることが実機で確認されている。横縦比b/aが1.8を超えると、当該指数は1.0未満となるため、b/aは1.8以下となるようにすることが好ましい。また、横縦比b/aを小さくしていくと、b/aが0.8未満では、分割ブロック3の安定性が悪化し、単独で設置した状態では倒れやすくなるため、施工時に倒壊を防ぐような手間がかかり、スキッド1本当たりの施工時間が増加してしまう。このことから、b/aは0.8以上となるようにすることが好ましい。従って、横縦比b/aは0.8以上、1.8以下となるように、分割ブロック3の仕様を決めるのが好ましい。
【0056】
次に、複数個の環状ブロック部5を水冷パイプ8の長手方向に積み重ねる際の膨張代5aについて説明する。
【0057】
加熱炉内で分割ブロック3は、上下を拘束された状態にて使用される。環状ブロック部5の高さ方向の目地として、環状ブロック部5の上下面にモルタルを塗った場合を考える。モルタルの強度は耐火断熱材の強度より高いため、個々の分割ブロック3を強固に結合させて、モルタルが、耐火断熱材からなる分割ブロック3の膨張を吸収することはない。この結果、モルタルにより個々の分割ブロック3が高さ方向に結合して一体物として振舞い、座屈や亀裂発生の原因となる。これは、高気孔率を有し、低強度である耐火断熱材特有の現象である。この現象は上下を拘束されている分割ブロック3の高さ方向で顕著であり、当該高さ方向の膨張代を工夫することが必要である。
【0058】
そこで、本実施形態においては、水冷パイプ8の長手方向(高さ方向)に相隣接する環状ブロック部5間に、セラミックファイバー(ペーパー形状、バルク形状、ブランケット形状)等の膨張吸収材を挟む、又は昇温時に消失するもの(ダンボール等)を設置するなどして膨張代5aを設け(図2(d)参照。)、当該高さ方向の分割ブロック3の熱膨張を吸収するといった対策を講じる。通常、耐火断熱材からなる分割ブロック3は、加熱炉の稼働温度域にて1〜2%程度の熱膨張を示すため、各分割ブロック3の高さの1〜2%程度の膨張代5aを設けることが好ましい。このために、高さ方向に相隣接する環状ブロック部5間の目地として、当該膨張代5aを確保可能な膨張吸収材を設置すればよい。
【0059】
なお、分割ブロック3の周方向の目地部9に関しては、上記の高さ方向と同様にセラミックファイバー(ペーパー形状、バルク形状、ブランケット形状)等の膨張吸収材を挟む、又は昇温時に消失するもの(ダンボール等)を設置するなどして、膨張代を確保することも可能であるが、目地部9の施工で一般的なモルタル施工を行った場合でも、モルタルの接着力により目地開きを抑制する効果があることから、モルタルも問題無く使用できる。
【0060】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。加熱炉の稼働中、分割ブロック3は外部から加熱されて外側が高温になる一方、当該分割ブロック3の内部には水冷パイプ8があるため、分割ブロック3の内側の温度が低い状態となる。したがって、外側の分割ブロック3の熱膨張量が大きくなり、分割ブロック3は外側に向かって動こうとする力が作用する。加熱炉の昇温、降温が繰り返されると次第に個々の移動量が増えて、亀裂発生の原因となる。分割ブロック3の移動に対しては、前述のように傾斜やダボを施すことで抑制することができるが、傾斜やダボだけでは分割ブロック3の移動を完全に防止することはできない。
【0061】
特に長期間の連続使用や施工不良等により、分割ブロック3に縦亀裂が生じてしまった場合には、分割ブロック3は拘束されていない状態となるため、より外側に移動しようとする。この現象が、分割ブロック3間の目地部9を大きくし、倒壊へと繋がる。
【0062】
そこで、亀裂が発生した後も分割ブロック3の移動を完全に抑制するためには、固定部材を用いて水冷パイプ8に直接、分割ブロック3を固定することが好ましい。長期安定性を付与するためには、固定部材として引張治具を用い、当該引張治具により分割ブロック3を水冷パイプ8に向けて引っ張りながら、当該分割ブロック3を当該水冷パイプ8に固定する引張構造とすることがより好ましい。
【0063】
引張治具の材質は、例えば、金属若しくはセラミックス、又はこれらの組み合わせ等であり、稼働中に安定した熱膨張挙動をとり、破壊や軟化せず、十分な強度を有するものが好ましい。図7は、本発明の第2の実施形態に係る引張治具を用いた分割ブロック3の固定構造の例を示す。図7に示すように、例えばステンレス鋼からなるL字型の引張治具13の一端は水冷パイプ8に固定(例えば溶接)され、他端は分割ブロック3に成形された穴に挿入されて、当該分割ブロック3を係止する。これにより、引張治具13により、分割ブロック3を水冷パイプ8に向けて引っ張りながら、当該分割ブロック3を当該水冷パイプ8に固定できる。なお、分割ブロック3の固定構造の他の例としては、ハンガー煉瓦等を用いた構造などでもかまわない。
【0064】
引張治具13等の固定部材の配置としては、各段の環状ブロック部5を構成する分割ブロック3に固定部材を設置しても良いが、環状ブロック部5の一段置きに固定部材を設置しても良い。一段置きに設置する理由として、上下の環状ブロック部5が固定されることにより、その中間の環状ブロック部5も拘束されて、当該中間の環状ブロック部5を構成する分割ブロック3の移動が抑制されるためである。特に可動スキッド14a(図10参照)のスキッドポスト2においては、水冷パイプ8自身の駆動による加速度による影響が加わるため、上述の引張構造を適用することが大変好ましい。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。分割ブロック3の熱膨張に対してさらに安定性を付与するためには、分割ブロック3からなる筒状ブロック部6の外側に、断熱材からなる断熱層(第2の断熱層)が配置された構造が、更により好ましい。第3の実施形態では、筒状ブロック部6の最外周面に断熱層を設けることで、加熱炉内の高温雰囲気下で、分割ブロック3に伝わる熱を低減できる。従って、加熱炉の稼働時に、分割ブロック3自身の温度を下げることが可能であり、分割ブロック3の熱膨張を抑制できる。よって、分割ブロック3の熱膨張によって、周方向及び水冷パイプ8の長手方向に隣接する分割ブロック3同士が押しあうことにより、分割ブロック3自身に発生する熱応力(以下、発生応力という。)をより低減できるので、熱応力による分割ブロック3への影響を低減できる。また、炉昇温時における分割ブロック3の急激な熱膨張を抑制する効果もある。上記第2の断熱層の材質としては、炉内温度以上の耐熱性を有し、断熱性が高いものが挙げられ、例えば、セラミックファイバーブランケット、Al−SiO系、Al−CaO系等の不定形材などが例示される。
【0066】
上記第2の断熱層の好適な形態としては、耐火断熱キャスタブルからなる分割ブロック3からなる筒状ブロック部6の外側に、耐熱温度が1400℃以上で熱伝導度が0.05〜0.2[W/mK]程度のセラミックファイバーブランケットを、12.5〜25mm程度の厚みでベニアリングし、ブランケット表面に耐スケール性を有したスピネル質又はCA6質のコーティングを行うことが好ましい。例えば、CA6質の耐火断熱キャスタブルを用いたプレキャストブロックを分割ブロック3として用い、1400℃耐用の25mm厚のセラミックファイバーを筒状ブロック部6の外周面にベニアリングした場合には、分割ブロック3の温度を300℃程度下げることができ、図9に示すように、分割ブロック3で生じる最大発生応力を、ベニアリングしない場合の1/4程度にまで低減できる。ここで、最大発生応力は、一軸応力測定装置で試料の熱膨脹のみによる熱応力(圧縮応力)を測定し、加熱炉の実機における分割ブロック3の発生応力の最大値とした。セラミックファイバーは高気孔率を有するため割れの恐れがないが、前述のように耐スケール性が低い。そこで、耐スケール材をセラミックファイバーにコーティングすることで、筒状ブロック部6の最外周面に配置した第2の断熱層の耐用を向上させることが好ましい。コーティングに用いる耐スケール材としては、例えば、CA6又はスピネルを主成分とするものが挙げられる。
【0067】
また、上記第1〜第3の実施形態では、スキッドポスト2の施工前に予め、加熱炉の使用時に加熱される分割ブロック3の温度よりも高い温度(例えば、加熱炉の稼働温度以上の温度)で、分割ブロック3を焼成しておくことが好ましい。ここで、加熱炉の稼働温度は例えば1000〜1400°であり、当該加熱炉の使用時に加熱される分割ブロック3の温度は例えば800〜1400°である。このように加熱炉の稼働温度よりも高温で焼成した分割ブロック3は、加熱炉の稼働温度下において、未焼成の分割ブロック3に比べて小さな熱膨張量となる。
【0068】
例えば、図8の熱膨張曲線に示すように、CA6質キャスタブルを用いた未焼成プレキャストブロックは、加熱炉の稼働温度域である1200℃〜1300℃にかけて大きく膨張する。これは、未焼成キャスタブル中のアルミナセメント由来のCa成分とAl成分の反応によるカルシウムアルミネート鉱物の生成に伴う膨張と考えられる。一方、1400℃にて予め焼成したプレキャストブロックの熱膨張曲線は、1400℃までの温度域において、直線状の熱膨張挙動を示す。このことより、この温度域においては新たに鉱物生成をしていないと考えられる。1300℃にて未焼成プレキャストブロックと焼成プレキャストブロックの熱膨張量を比較すると、未焼成プレキャストブロックは1.37%、焼成プレキャストブロックは1.0%となり、事前焼成により分割ブロック3の熱膨張量を抑制可能であることが分かる。
【0069】
このような特性を有する焼成ブロックを前述のスキッドポスト2の断熱構造に適用することで、特に加熱炉の昇温時における熱膨張による発生応力を抑制することができ、断熱構造に安全性を付与することができる。また、焼成を行うことにより、分割ブロック3全体を均一に加熱することが可能であり、全体として、均一の強度を持った分割ブロック3を生成できる。
【実施例】
【0070】
本発明を鉄鋼生産工程における熱間圧延用のウォーキングビーム式加熱炉内のスキッドポストの断熱構造に適用した。本加熱炉は炉内が1100〜1300℃に保たれ、鋼片を1000〜1200℃に加熱する炉である。燃料にはCOG(Coke Oven Gas)を使用しており、側壁のバーナーによって炉内を加熱している。
【0071】
まず、本発明の実施例及び比較例に係るスキッドポストの断熱構造を下記表1に示す。また、表1には、当該断熱構造のスキッドポストの耐用性の評価として、加熱炉の稼働1年後のスキッドポストのブロックの状況も示してある。
【0072】
【表1】

【0073】
比較例1および本発明の実施例1〜7では、断熱構造の第一層(上記第1の断熱層部4の内層4a)として、所定厚みのヒュームドシリカ質断熱材シートを水冷パイプに接着剤にて固定後、所定厚みのセラミックファイバー(CF)ペーパーを上部に貼付した。さらに、第三層(上記筒状ブロック部6)として、第一層の周囲にはモルタルを塗布したCA6質プレキャストブロック(内径:260mm、外形:420mm)を積み重ねた。この際、比較例1では、ブロック高さ150mmの環状ブロック部5を8段、本発明の実施例1〜7では、ブロック高さ300mmの環状ブロック部5を4段積み重ねた。重ねた環状ブロック部5の周方向の目地部8の位置が、その上下の環状ブロック部5の目地部8の位置と同位置とならないように、目地部8の位置を上の環状ブロック部5に対して周方向に30°ずれるように設置した。
【0074】
さらに、本発明の実施例2、3、5においては、図7に示した構造のように、引張治具13としてSUS310からなるL字型の金具の一端を水冷パイプ8に溶接し、他方の端をプレキャストブロックに加工した穴の中に入れて固定した。引張治具13による固定箇所は、環状ブロック部5の一段おきとした。
【0075】
このように設置したCA6質プレキャストブロック(第三層)とヒュームドシリカ質断熱材(第一層)の間に、マイクロシリカを主原料とする断熱キャスタブルを流し込み、施工体(上記第1の断熱層部4の外層4b)とした。最上部は粘土状の耐火物を塗りこんで固定した。さらに、本発明の実施例5においては、CA6質プレキャストブロック(第三層)の最外周面に、25mm厚みのCFブランケットを巻きつけて接着剤にて固定し、耐FeOコーティング材を吹きつけて、第四層目の断熱層(上記第2の断熱層)を形成した。
【0076】
一方、比較例2は、水冷パイプに140本の金属製のスタッドを溶接し、所定厚みのヒュームドシリカ質断熱材シートを水冷パイプに接着剤にて固定後、セラミックファイバーブランケットを巻き付けた。その後、施工体に枠掛け後、CA6質断熱キャスタブルを流し込み、約一日、養生した後に脱枠した。このように比較例2は、従来の金属製のスタッドを使用した断熱構造であるが、本発明の実施例1〜7及び比較例1は、スタッドを使用せずに、スタッドレス化が図られている。
【0077】
なお、上記CA6質プレキャストブロック(分割ブロック3に相当する。)は、各耐火物を型枠に流し込み、12時間養生したあと脱枠し、350℃の熱風乾燥を行ったものを使用した。
【0078】
表2に、本発明の実施例1と比較例2とで、水冷パイプ内の冷却水を通じた抜熱量と、1本のスキッドポストを施工するための作業時間を比較した結果を示す。
【0079】
【表2】


本発明の実施例1と比較例2の冷却水抜熱量を比較すると、実施例1では、CA6質プレキャストブロックを用いて断熱構造を構築してスタッドレス化を行うことで、比較例2の約半分に燃料原単位[Mcal/ton]が下がった。ここで、燃料原単位とは、生産スラブ量1ton当たりの使用エネルギーを表すための指標であり、この燃料原単位が大きいほど、水冷パイプ8を介した抜熱量、即ち、エネルギーロスが多いことを意味する。また、実施例1では、比較例2と比べて施工作業時間も大幅に削減することが可能であり、短時間で容易に施工することができた。
【0080】
また、表1に示すスキッドポストの耐用性は、本発明の実施例1〜7及び比較例1、2の各断熱構造を同一加熱炉の水冷パイプに施工し、通常の操業条件にて使用し、6ヶ月後に耐火物製ブロックのうち最も外側に移動している部分の周方向分割面の隙間を計測して評価したものである。この隙間が大きくなっていくと、ブロックが崩壊してしまうため、隙間が小さいほど加熱と冷却の繰り返しによる変形が小さく、スキッドポストが耐用性に優れることになる。比較例1では、6ヶ月後には、目地を起点として縦亀裂が生じており(図3参照。)、その大きさは3mm程度であった。この理由は、比較例1では、2分割ブロックを用いているので、図6で説明した原理により、熱膨張によりブロックが外側に移動しやすく、亀裂が発生しやすいからであると考えられる。それに対して、本発明の実施例1〜7では、亀裂がなく健全な状態であり、目地の拡がりも発生しなかった。この理由は、実施例1〜7では、3分割若しくは4分割のブロックを用いているので、熱膨張による応力が分散され、外側へのブロックの移動がほとんどなかったためと考えられる。
【0081】
さらに6ヶ月後、これらの施工体の状態の比較を行った。比較例1は亀裂発生部からさらに目地が開いており、大きさも6mm程度に拡大していた。比較例2は、スタッドとCA6キャスタブルの熱膨張量に起因する剥離が一部確認された。本発明の実施例1、2、6、7では、目地開きは観測できなかったが、一部のブロックに微小な縦亀裂が発生していた。中でも実施例7は、縦亀裂の本数が実施例1、2、6に比べて顕著に多かった。実施例7の分割ブロックの横縦比b/aは1.8超であり、横縦比b/aが1.8を上回ると、亀裂発生の確率が高くなると考えられる。これに対し、実施例6の分割ブロックの横縦比b/aは1.8以下であり、実施例7よりも、発生した縦亀裂は少なかった。また、本発明の実施例4は、亀裂の発生はなかったが、ブロックの外径が4%程度増加しており、ブロックが外側に移動していた。それに対し、本発明の実施例3は、亀裂もなく全く健全な状態であった。また、本発明の実施例5では、ベニアリングしたセラミックファイバーにスケールによる損傷や脱落が生じたが、プレキャストブロック自身に亀裂はなく健全な状態であった。これらの結果より、本発明のスキッドポストが耐用性に優れることが確認できた。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0083】
1 スキッドビーム
2 スキッドポスト
3 分割ブロック
4 断熱層部
4a 内層
4b 外層
5 環状ブロック部
5a 膨張代
6 筒状ブロック部
7 炉床
8 水冷パイプ
9 目地部
10 縦亀裂
11 ダボ付ブロック
12 傾斜付ブロック
13 引張治具
14 スキッド
14a 可動スキッド
14b 固定スキッド
15 鋼片
16 燃焼バーナー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉に設置されるスキッドポストにおいて、
冷却パイプと、
前記冷却パイプの外周を被覆する耐火断熱手段と、
を備え、
前記耐火断熱手段は、
前記冷却パイプを囲むように設置される筒状ブロック部と、
前記筒状ブロック部の内周面と前記冷却パイプの外周面との間に配置される第1の断熱層部と、
を含み、
前記筒状ブロック部は、前記冷却パイプの長手方向に積み重ねられた複数の環状ブロック部からなり、
前記環状ブロック部は、3以上の分割ブロックが目地部を介して周方向に連接されて構成され、
前記冷却パイプの長手方向に隣り合う前記環状ブロック部における前記目地部同士は、相互に重なり合わないように周方向にずらして配置され、
前記冷却パイプの長手方向に隣り合う前記環状ブロック部間には、前記環状ブロック部の膨張代を有していることを特徴とする、スキッドポスト。
【請求項2】
前記分割ブロックは、前記冷却パイプの長手方向に対して直交する断面における形状が扇子の扇面の形状を有し、
前記分割ブロックを前記環状ブロック部の内周面側から見た際の見掛け上の長方形の横縦比が、0.8以上、1.8以下であることを特徴とする、請求項1に記載のスキッドポスト。
【請求項3】
前記分割ブロックの少なくとも一部が、固定部材により前記冷却パイプに固定されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスキッドポスト。
【請求項4】
前記固定部材は、引張治具であり、
前記引張治具の一端は前記冷却パイプに固定され、前記引張治具の他端は前記分割ブロックを係止しており、
前記引張治具は、前記分割ブロックを前記冷却パイプに向けて引っ張りながら、前記分割ブロックを前記冷却パイプに固定することを特徴とする、請求項3に記載のスキッドポスト。
【請求項5】
前記耐火断熱手段は、
前記筒状ブロック部の外周に設けられた第2の断熱層部を更に含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスキッドポスト。
【請求項6】
前記分割ブロックは、前記加熱炉の使用時に加熱される分割ブロックの温度よりも高い温度で、予め焼成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスキッドポスト。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のスキッドポストに使用される分割ブロックであって、
Ca6キャスタブルをプレキャストして形成されることを特徴とする、スキッドポスト用の分割ブロック。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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