説明

スコロダイトの合成方法

【課題】核生成密度を下げ、より粗大な結晶粒を得ることにより比表面積が小さくヒ素の溶出を抑制するのに好適なスコロダイトの合成方法を提供する。
【解決手段】五価のヒ素イオンと2価の鉄化合物と光触媒とを混合し、50℃以上で加熱しつつ紫外線照射を行うことにより、2価の鉄化合物を3価の鉄化合物へ酸化させて核生成密度を下げつつスコロダイトを合成し、この紫外線照射後に、更に50℃以上で加熱しつつ酸素を吹き込むことで、スコロダイト結晶を粗大化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素が溶出しにくいように固定化するスコロダイトの合成方法に関し、特に粗大な結晶粒を得ることにより比表面積が小さくヒ素の溶出を抑制するのに好適なスコロダイトの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅精錬時に発生する煙灰には高濃度のヒ素が含まれている。これらのヒ素は、原料として特段需要が無いため保管するのみであるが、保管中のヒ素が水に溶け出して周辺環境を汚染する危険性があるため、ヒ素の溶出を抑えなければならない。また銅の精錬時には、かかるヒ素を不純物として分離回収しなければならない。
【0003】
このため、従来より、保管中のヒ素や溶液中のヒ素が溶出しないように固定化する研究が従来より行われている。近年においてヒ素化合物の中でも最も溶解度の低いスコロダイト(FeAsO4・2H2O)の結晶を合成することでヒ素を不溶化する研究が注目されている。スコロダイトは化学的に安定であり、長期保存にも適している。スコロダイトは、主成分がヒ素であることから、単にスコロダイトの生成を行うのみでヒ素を固定化することが可能となる。
【0004】
従来において提案されているスコロダイトの反応機構を以下の化学式(1)、(2)に示す(例えば、特許文献1、2参照。)。
Fe2++H++1/4O2→Fe3++1/2 H2O・・・・・(1)
Fe3++H3AsO4+2H2O→FeAsO4・2H2O + 3H+・・・・・(2)
【0005】
ここで化学式(1)では、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化させるための反応式である。この化学式(1)では、FeSO4・7H2Oの溶解により生じたFe2+は、吹き込まれた酸素ガスにより酸化されFe3+となる。化学式(2)では、Fe3+とH3AsO4とが反応してスコロダイト(FeAsO4・2H2O)が生成される。スコロダイトは、難溶性の塩の結晶であり、溶解度が低いため容易に過飽和となる。過飽和状態では、スコロダイトの核が生成し易く、核生成密度が高くなる。その結果、スコロダイトの核が大量に発生し、結晶成長が妨げられ、得られる結晶は微細化してしまう。
【0006】
このため、特許文献1、2に開示の方法では、結晶を生成する過程で(1)の反応(Fe2+→Fe3+)を加えることにより、最終的にスコロダイトの過飽和度を下げ、核生成密度を制御して結晶を粗粒化したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−143741号公報
【特許文献2】特開2008−119690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2の開示技術では、化学式(1)の反応が容易に進み、反応の制御が容易ではないため、核生成密度が高くなり、スコロダイト結晶が却って粗粒化しにくい傾向があった。得られるスコロダイトの結晶が微細化してしまうと、比表面積が大きくなり、ヒ素が溶出しやすくなるおそれがあった。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、化学式(1)の反応を容易に制御することができ、それにより核生成密度を下げ、より粗大な結晶粒を得ることにより比表面積が小さくヒ素の溶出を抑制するのに好適なスコロダイトの合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、スコロダイト結晶の核生成密度を下げるため、鉄をFe2+→Fe3+へ酸化させる過程を紫外線照射による光触媒で行う新たなスコロダイトの合成法を鋭意検討した。
【0011】
その結果、五価のヒ素イオンと2価の鉄化合物と光触媒とを混合し、50℃以上で加熱しつつ紫外線照射を行うことによりスコロダイトを合成する方法を新たに発明した。
【0012】
請求項1記載の発明は、五価のヒ素イオンと2価の鉄化合物と光触媒とを混合し、50℃以上で加熱しつつ紫外線照射を行うことによりスコロダイトを合成することを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記紫外線照射後に、更に50℃以上で加熱しつつ酸素を吹き込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有害なヒ素を閉じ込めることが可能なスコロダイト結晶の核生成密度を下げるため、鉄をFe2+→Fe3+へ酸化させる過程を紫外線照射による光触媒で行う。これにより核生成密度を下げることができ、スコロダイト結晶を粗大化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用したスコロダイトの合成方法の実験のフローチャートである。
【図2】ステップS15において行った粉末X線回折の同定結果を示す図である。
【図3】ステップS15において撮影したCCD光学顕微鏡写真の図である。
【図4】成長したスコロダイトの径と時間変化についての実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態としてスコロダイトの合成方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明では、五価のヒ素イオンと2価の鉄化合物と光触媒とを混合し、50℃以上で加熱しつつ紫外線照射を行うことによりスコロダイトを合成する。このとき、更に紫外線照射後に50℃以上で加熱しつつ酸素を吹き込むようにしてもよい。
【0018】
本発明におけるスコロダイトの合成における反応機構は、以下の化学式(A),(B)に基づいたものとなる。
【0019】
Fe2++H++1/4O2→Fe3++1/2 H2O・・・・・(A)
Fe3++H3AsO4+2H2O→FeAsO4・2H2O + 3H+・・・・・(B)
【0020】
この化学式(A)は、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化させるための反応式である。本発明では、化学式(1)の酸化反応(Fe2+→Fe3+)の過程を、光触媒により行わせる。化学式(B)では、Fe3+とH3AsO4とが反応してスコロダイト(FeAsO4・2H2O)が生成される。スコロダイトは、難溶性の塩の結晶であり、溶解度が低いため容易に過飽和となる。一般に過飽和状態では、スコロダイトの核が生成し易く、核生成密度が高くなるが、本発明では上述したように光触媒を用いることにより、その過飽和度を下げることを意図したものである。特に光触媒として、例えばTiO2(アナターゼ型)を利用し、そのTiO2の量と紫外線照射量とを制御するだけで、スコロダイトの過飽和度を下げて核生成密度を容易に制御することができる。
【0021】
次に、本発明を適用したスコロダイト合成方法における各原料について説明をする。
【0022】
五価のヒ素イオン
実際に上述した化学式(B)に基づいてスコロダイトを合成するためには、五価のヒ素イオン(As5+)が必要になる。五価のヒ素イオンは、通常イオンとして存在するものではなく上述した化学式(B)では化合物(H3AsO4)として存在する。しかし、この化合物H3AsO4は常温下で固体であるが、水に混合した場合に溶液となり、イオン化して、AsO43-として存在することとなる。まお、化合物としては、H3AsO4を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、他のヒ素を含む化合物に代替されるものであってもよい。
【0023】
また、五価以外のヒ素イオンで構成される化合物については、予め五価にする処理動作を実行する必要がある。例えば三価のヒ素イオンであれば、過酸化水素や光触媒等を用いて五価のヒ素イオンに酸化させる処理を実行する。この酸化処理においては、例えば過酸化水素により酸化させるようにしてもよい。このヒ素イオンの濃度としては、例えば30g/L、望ましくは50g/Lであり、濃度が高いほうがヒ素沈殿率も高くなる。
【0024】
鉄化合物
原料としては2価の鉄化合物を用いるようにしてもよい。この2価の鉄化合物の例としては、FeSO4・7H2O等である。また、この2価の鉄化合物は、ヒ素溶液に溶解可能なものとされていることが必要となる。添加量は、Fe/As=0.5〜2モル比とされている必要があり、望ましくは、当該モル比が1以上と、鉄がヒ素よりも多くなるように混合する。鉄がヒ素よりも過剰であるほどヒ素の沈殿率が高くなるため、沈殿率と鉄化合物の原料コストとを考慮しつつ適宜調製を行う。またヒ素イオンと鉄化合物とを混合したときに、反応液のpHが2以下となるように調整されている必要がある。
【0025】
光触媒
光触媒は、紫外線等の光が照射された場合にその表面から強力な酸化力を発揮する物質である。この光触媒は、2価の鉄化合物を3価の鉄化合物へ酸化させる機能を担う。この光触媒の例としては、例えばアナターゼ型二酸化チタン等であるが、これらに限定されるものではなく、鉄酸化反応(Fe2+→Fe3+)を起こす酸化力を呈するものであればいかなるものに代替可能である。また光触媒によって発揮する酸化力は異なるため、所望の酸化力を発揮させるためには、光触媒の添加量や照射する紫外光の強度等を適宜調整することになる。なお、この光触媒としては、より微粒のTiO2を使用するようにしてもよく、これにより結晶合成後の分離に重量分離を用いる場合において特に有利となる。
【0026】
アナターゼ型二酸化チタン等のように微細な粒子であるものは、スコロダイトを粗大化させることで合成反応後に物理的にスコロダイトと分離することが可能となることから望ましいものといえる。
【0027】
図1は、本発明を適用したスコロダイトの合成方法の実験のフローチャートである。ちなみに、このフローチャートは一例であり、他の原料や処理動作に代替されるものであってもよい。
【0028】
先ずステップS11において、ヒ素溶液と過酸化水素水とを混合する。このヒ素溶液は、As2O3を純水40mlに溶解させ、ヒ素濃度100g/Lの溶液としている。ちなみにこのAs2O3は、煙灰から精製したものである。As2O3を純水に溶解させると、三価のヒ素イオン(As3+)は得られるが、スコロダイトを合成するためには、五価のヒ素イオン(As5+)が必要である。よって酸化を目的として、このステップS11においては過酸化水素水を添加する。過酸化水素水の添加量は、上述した濃度のヒ素溶液40mlに対して5.4mlとしている。ヒ素溶液と過酸化水素水とを混合後、80℃まで混合液を加熱して8時間に亘り撹拌を行う。
【0029】
次にステップS12へ移行し、光触媒としてアナターゼ型二酸化チタンを0.5009g添加する。次にステップS13へ移行し、鉄化合物としてFeSO4・7H2Oを添加する。このFeSO4・7H2Oの添加量は、AsとFeのモル比がFe/As=0.77となるように、11.1216g加えている。なお、このステップS12、13は互いに順序が逆転していてもよいし同時に行うようにしてもよい。
【0030】
次にステップS14へ移行し、混合溶液を90℃に加熱した後、撹拌しながら紫外線を照射した。このときの紫外線の波長は、365nmであり、強度が810μw/cm2である。紫外線ランプは、溶液の入った溶液から約50mm離間した位置から照射している。この撹拌並びに紫外線の照射の時間は、48時間としているが、実験のサンプルを収集する観点から、紫外線の照射開始から1、6、12、24、36時間後にそれぞれ混合用液から採取するようにしている。
【0031】
なお、このステップS14における混合温度の温度は60℃以上であれば、化学式(A)、(B)に示される所期の反応が進行し、望ましくは80℃であれば、その反応が好適に進行することとなる。また、このステップS14において混合温度の反応時間は、30分以上であれば上述した化学式(A)、(B)に示される反応は進行する。反応開始直後からスコロダイトの結晶そのものは生成されており、時間とともにスコロダイト結晶は成長し、ヒ素沈殿率も上昇するため、反応時間を12〜48時間とすることが望ましい。これらをいかなる時間に設定するかは、生成コスト、紫外線照射量、ヒ素溶液中のヒ素濃度、ヒ素沈殿率等を考慮して適宜定められる。
【0032】
次にステップS15へ移行し、混合溶液をろ過し、自然乾燥させる。その結果、粗大なスコロダイトが濾紙上に残存することとなる。本実験では、この濾紙に残存したスコロダイトを単離し、粉末X線回折による同定を行うと共にCCD光学顕微鏡による観察を行った。
【0033】
図2に、このステップS15において行った粉末X線回折の同定結果を示す。図2の丸印がスコロダイトの結晶構造に対応するピークである。この回折ピークの結果からスコロダイトの生成を確認することができ、また、原料であるAs2O3の消失を確認することができた。これにより、煙灰から精製したAs2O3であっても、スコロダイトを合成することができることが分かった。また、光触媒による酸化を利用することにより、スコロダイトの合成が実現できることが分かった。
【0034】
図3は、ステップS15において撮影したCCD光学顕微鏡写真である。30μm程度の粗大なスコロダイトの結晶が形成されていることを確認することができた。なお、この写真において10μm程度のスコロダイト結晶粒も確認できている。また、数μmの微細な粒子は、TiO2である。
【0035】
図4は、成長したスコロダイトの径と時間変化についての実験結果を示している。横軸は、反応開始からの時間であり、縦軸は顕微鏡観察により測定した結晶粒径の平均値である。比較のため、従来法(FUJITA T.Novel atmospheric scorodite synthesis by oxidation of ferrous sulfate solution.Part I; Hydrometallurgy Vol.90,No2-4, p92-102(2008))において開示されているデータを図中で“比較例”として示している。比較例においてスコロダイトは、反応開始3時間までで急激に粗大化した後、微細な結晶が生成し、平均粒径は低下した。一方、本発明において、スコロダイトは、反応開始1時間後に粗大なもので5μm程度であったが、反応開始24時間後には、15μmとなり、48時間後には、30μmの粗大な結晶粒となった。
【0036】
このように、本発明によれば、有害なヒ素を閉じ込めることが可能なスコロダイト結晶の核生成密度を下げるため、鉄をFe2+→Fe3+へ酸化させる過程を紫外線照射による光触媒で行う。これにより核生成密度を下げることができ、スコロダイト結晶を粗大化させることが可能となる。また、スコロダイト結晶を粗大化させることで重量分離を高効率に行うことも可能となる。
【0037】
なお本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、ステップS14における紫外線照射後に、更に50℃以上で加熱しつつ酸素を吹き込むようにしてもよい。この酸素の流入については、40ml/分の割合で行っているが、これに限定されるものではない。その結果、酸素の流入後24時間経過後では、スコロダイトの結晶サイズを50μmまで粗大化できることが分かった。また、酸素の流入後48時間経過後では、スコロダイトの結晶サイズは60μmに達するものもあった。この酸素の吹き込み時間は、30分以上であればよく、望ましくは12〜48時間程度であればよい。この酸素の吹き込み時間についても同様に生成コスト、紫外線照射量、ヒ素濃度、ヒ素沈殿率等を考慮して適宜決定されるようにしてもよい。
【0038】
このように、紫外線照射後に、酸素を吹き込む工程を導入することにより、スコロダイトの結晶を更に粗大化させることが可能となる。この方法によれば、得られるスコロダイトの結晶は、30〜80μmの粒径まで幅を持たせることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
五価のヒ素イオンと2価の鉄化合物と光触媒とを混合し、50℃以上で加熱しつつ紫外線照射を行うことによりスコロダイトを合成すること
を特徴とするスコロダイトの合成方法。
【請求項2】
上記紫外線照射後に、更に50℃以上で加熱しつつ酸素を吹き込むこと
を特徴とする請求項1記載のスコロダイトの合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−250896(P2012−250896A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126775(P2011−126775)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (発行者) 公益社団法人 日本セラミックス協会 九州支部 耐火物技術協会 九州支部 (刊行物名)平成22年度秋季合同研究発表会 講演要旨集 第24−27ページ、第28−31ページ (発行日) 平成22年12月8日 (発行者) The Materials Research Society of Japan (刊行物名)20th Academic Symposium of MRS−Japan 2010 Abstracts O−P09−M (発行日) 平成22年12月20日 (発行者) 日本地球惑星科学連合 (URL)http://www2.jpgu.org/meeting/2011/yokou/MIS020−05.pdf (発行日) 平成23年5月12日
【出願人】(392000888)合同資源産業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】