説明

スタビライザブッシュおよび軸受装置

【課題】簡易な金型で成型可能なスタビライザブッシュの構造を提供する。
【解決手段】スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に、外周面119から張り出した単一のフランジ115を形成するとともに、スタビライザ6を貫通孔111に挿入するためのスリット112と、セレーション114と、剛性調節および樹脂量削減のための凹部122とを、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に設けられた貫通孔111の軸αの方向に形成している。このため、貫通孔111の軸αの方向に移動する上型(可動型)および下型(固定型)のみからなる2プレート金型を用いて、スタビライザブッシュ1を成型することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビライザを車体にマウントするための軸受装置に関し、特に、この種の軸受装置に用いるスタビライザブッシュの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の旋回時におけるロールを適切に制御し、車両の走行を安定させる装置として、スタビライザ(アンチロールバー)が知られている。図4に示すように、一般に、スタビライザ6は、中央部62に対して両端部61a、61bが同じ方向に折り曲げられたU字形状をしている。そして、両端部61a、61bは、それぞれスタビリンク7a、7bを介して、図示していない前輪あるいは後輪に設けられた左右のサスペンション8a、8bに取り付けられ、中央部62は、軸受装置5を介して、図示していない車体にマウントされる。
【0003】
このような構成において、車両が旋回して、一方のサスペンション8aまたは8bのみに荷重がかかると、スタビライザ6に捩じれが発生し、スタビライザ6のバネ反力が軸受装置5を介して他方のサスペンション8bまたは8aに伝わって、ロールが適切に制御される。
【0004】
ここで、軸受装置5は、スタビライザ6の回転方向等の動きを摺動自在に保持するとともに、車両の走行中に路面から受ける振動がスタビライザ6を介して車体に伝わるのを防止する緩衝手段としての機能を果たすものである。図示するように、軸受装置5は、スタビライザ6の回転方向等の動きを摺動自在に保持するための貫通孔511が形成されたスタビライザブッシュ51と、スタビライザブッシュ51を車体に固定するためのブラケット52と、を備えている。
【0005】
一般に、スタビライザブッシュ51には、防振機能に優れたゴム素材が用いられる。しかし、ゴム素材を用いたスタビライザブッシュ51は、ゴム素材自体が摩擦係数の低い材料でないため、車両の旋回時におけるスタビライザ6の捩じれに対してスティック−スリップ現象を発生させやすく、それに伴って異音を発生させることがある。この異音は、運転者に不快な思いをさせる。そこで、特許文献1に記載の技術では、ゴム素材に代えて、素材自体の摩擦係数が低いエンジニアリングプラスチック、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂素材単体でスタビライザブッシュ51を構成することにより、スタビライザ6およびスタビライザブッシュ51間の摩擦抵抗を少なくして異音の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−233626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スタビライザ6が貫通孔511に挿入されたスタビライザブッシュ51をブラケット52に収容して車体に固定する際、ブラケット52に対するスタビライザ51の位置がずれると、スタビライザブッシュ51に適切な応力を加えることができず、スタビライザ6とスタビライザブッシュ51との間にガタ付きが生じ、車両の走行中に路面から受ける振動がスタビライザ6を介して車体に伝わるのを効果的に防止できない。このため、スタビライザブッシュ51の両端面側に、側面から張り出すようにフランジを設け、これらのフランジでブラケット52を挟み込むことにより、ブラケット52の適切な位置にスタビライザブッシュ51が収容されるようにしたものもある。
【0008】
しかし、このような構造のスタビライザブッシュ51は、割型(スリップモールド)を用いて成型しなければならず、金型が複雑になりコストが嵩む。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な金型で成型可能な構造のスタビライザブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、スタビライザブッシュにおいて、側面から張り出す単一のフランジを側面に形成した。また、この単一のフランジをスタビライザブッシュの一方の端面側に形成した場合には、他方の端面側にスタビライザブッシュとは別体のストッパを設けた。
【0011】
例えば、本発明は、スタビライザの軸受装置に用いられるスタビライザブッシュであって、
前記スタビライザを摺動自在に保持するための貫通孔が形成された筒状のブッシュ本体と、
前記ブッシュ本体の外周面に一体的に形成された緩衝部と、を有し、
前記ブッシュ本体には、
前記外周面から張り出すように単一のフランジが形成されている。
【0012】
ここで、前記緩衝部には、剛性を調節するための凹部が、前記貫通孔の軸方向に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フランジ数を一つにしているので、貫通孔の軸方向に移動する上型(可動型)および下型(固定型)のみからなる2プレート金型を用いて、スタビライザブッシュを成型することが可能となり、簡易な金型で成型可能なスタビライザブッシュの構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る軸受装置の部品展開図である。
【図2】図2(A)〜(C)は、スタビライザブッシュ1の正面図、背面図、および上面図であり、図2(D)は、図2(A)のA−A断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係る軸受装置の変形例の部品展開図である。
【図4】図4は、スタビライザの概略構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る軸受装置の部品展開図である。
【0017】
本実施の形態に係る軸受装置は、スタビライザ6(図4参照)の回転方向等の動きを摺動自在に保持するとともに、車両の走行中に路面から受ける振動がスタビライザ6を介して車体に伝わるのを防止する緩衝手段としての機能を果たすものである。この軸受装置は、図示するように、ブラケット2と、スタビライザブッシュ1と、を備えている。
【0018】
ブラケット2は、スタビライザブッシュ1を車体に固定するためのものであり、スタビライザブッシュ1を収容するための収容部21と、ブラケット2を車体にボルト締めするための貫通孔221a、221bが形成されたフランジ22a、22bと、を備える。
【0019】
一方、スタビライザブッシュ1は、スタビライザ6の回転方向等の動きを摺動自在に保持するとともに、スタビライザ6の振動が車体に伝わるのを防止する。図2(A)〜(C)は、スタビライザブッシュ1の正面図、背面図、および上面図であり、図2(D)は、図2(A)のA−A断面図である。
【0020】
図示するように、スタビライザブッシュ1は、円筒状のブッシュ本体11と、ブッシュ本体11に一体的に形成された矩形体状の緩衝部12と、を備えている。
【0021】
ブッシュ本体11には、スタビライザ6の回転方向等の動きを摺動自在に保持するための貫通孔111が形成されている。貫通孔111は、両端部116a、116bから内部117の中央にかけて膨らんだ樽状に形成されており、このため、両端部116a、116bの内径r1が、この両端部116a、116bに挟まれた内部117の内径r2より小さい。
【0022】
ブッシュ本体11の外周面119には、貫通孔111の軸αの方向にセレーション114が形成されている。このセレーション114の相対する山部の頂部間におけるブッシュ本体11の外径r3は、ブラケット2の収容部21の内径r4(図1参照)に対して締め代を有している。
【0023】
また、ブッシュ本体11の一方の端面118a側の外周面119には、外周面119から張り出した単一のフランジ115が形成されている。ブラケット2の収容部21にスタビライザブッシュ1を収容した場合に、フランジ115は、収容部21の一方の端面211と当接して、ブラケット2に対してスタビライザブッシュ1を位置決めする。その後、他方の端面側にストッパを取り付けることにより、ブッシュ本体11の両端面側にそれぞれフランジを設けたスタビライザブッシュと同等の機能を持たせている。
【0024】
また、ブッシュ本体11には、外周面119から貫通孔111に繋がるスリット112が、一方の端面118aから他方の端面118bまで、貫通孔111の軸αの方向に形成されている。このスリット112を開いて、スタビライザ6をスタビライザブッシュ1で挟み込むことにより、スタビライザ6が、ブッシュ本体11の貫通孔111内に挿入される。また、外周面119には、軸αを挟んでスリット112と反対側の位置に、スリット112を開き易くするための溝(切り込み)113が形成されている。
【0025】
緩衝部12は、スタビライザブッシュ1をセレーション114側からブラケット2の収容部21に収容し、このブラケット2を車体に固定した場合に、車体とブッシュ本体11との間に配置されるように、ブッシュ本体11と一体的に形成されている。
【0026】
緩衝部12の上面121は、車体との当接面であり、スタビライザブッシュ1をブラケット2の収容部21に収容した場合に、この上面121がブラケット2のフランジ22a、22bから僅かに突出するように形成される。
【0027】
また、緩衝部12には、ブッシュ本体11の一方の端面118a、118b側で開放される凹部122が貫通孔111の軸αの方向に形成されており、この凹部122の数、大きさ、形状を変更することにより、スタビライザブッシュ1の剛性を調節できる。また、緩衝部12に凹部122を設けることで、スタビライザブッシュ1の素材の使用量削減によるコストダウンが期待できる。なお、本実施の形態では、4つの凹部122を緩衝部12に設けているが、凹部122は、要求されるスタビライザブッシュ1の剛性と、凹部122の大きさ、形状等とに応じて、少なくとも一つ、緩衝部12に設けられていればよい。
【0028】
このようなスタビライザブッシュ1の素材としては、防振機能に優れた一般的なゴム素材の他、ゴム素材に比べて弾性が低く、撓みが少ない(剛性が高い)、エンジニアリングプラスチック、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂素材を用いることができる。
【0029】
特に、(1)ポリエステル系エラストマーに所定量の脂肪酸と金属石けんとリン酸塩と潤滑油とを配合した樹脂素材、(2)芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエーテルとを共重合した熱可塑性ポリエステルエラストマーにシリコン系潤滑剤あるいはテフロン(登録商標)系潤滑剤が添加された樹脂素材は、ゴム素材より高い剛性を有しつつ、摺動特性に優れ、かつゴム素材と同様の防振機能を実現できるため、スタビライザブッシュ1の素材として好適である。
【0030】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。
【0031】
本実施の形態では、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に、外周面119から張り出す単一のフランジ115を形成するとともに、スリット112、セレーション114、および凹部122を、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に設けられた貫通孔111の軸αの方向に形成している。このため、貫通孔111の軸αの方向に移動する上型(可動型)および下型(固定型)のみからなる2プレート金型を用いて、スタビライザブッシュ1を成型することが可能となる。このように、本実施の形態によれば、割型(スリップモールド)といった複雑な構成の金型を用いる必要がないため、金型構造の簡素化によるコストダウンが可能となる。
【0032】
また、本実施の形態では、スタビライザブッシュ1の緩衝部12に、凹部122を形成しているので、この凹部122の数、大きさ、形状を変更することにより、スタビライザブッシュ1の剛性を調節できるとともに、スタビライザブッシュ1の素材の使用量削減によるコストダウンが可能となる。
【0033】
また、本実施の形態では、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に設けられた貫通孔111を、両端部116a、116bの内径r1がこの両端部116a、116bに挟まれた軸方向内部117の内径r2より小さい樽状に形成しているので、この貫通孔111にスタビライザ6が挿入されたスタビライザブッシュ1をブラケット2で車体に固定した場合、スタビライザ6とスタビライザブッシュ1との接触が、貫通孔111の両端部116a、116b近傍に制限される。
【0034】
このため、スタビライザブッシュ1の内周面とスタビライザ6の外周面との接触面積を小さくすることができるので、スタビライザ6とスタビライザブッシュ1との摩擦抵抗を小さく保つことが可能となり、スタビライザ6の回転によりスタビライザブッシュ1に伝わるトルクを小さくできる。
【0035】
また、貫通孔111の両端部116a、116bでスタビライザブッシュ1とスタビライザ6とを締め代を持たせた状態で接触させるので、例えば車両の走行中に泥、砂などが貫通孔111とスタビライザ6との隙間に入って異音を生じさせるのを効果的に防止できるスタビライザブッシュ1の構造を提供できる。
【0036】
また、本実施の形態では、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11の外周面119にセレーション114を形成し、このセレーション114の相対する山部の頂部間におけるブッシュ本体11の外径r3に、ブラケット2の収容部21の内径r4に対して締め代を持たせているので、例えばゴム素材より剛性の高い樹脂素材を用いた場合でも、さらに締め代の寸法変化量に及ぼす影響の少ないスタビライザブッシュ1の構造を提供できる。
【0037】
なお、本実施の形態では、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11の一方の端面118a側の外周面119に、単一のフランジ115を形成しているが、フランジ115の形成位置は、これに限定されるものではない。ブッシュ本体11の外周面119から張り出すように、単一のフランジ115が形成されているものであればよい。例えば、図3に示すスタビライザブッシュ1aのように、ブッシュ本体11の中央近傍の外周面119に単一のフランジ115aを形成してもよい。ここでは、フランジ115aが、スリット112を跨いで緩衝部12に到達するように形成された例を示している。そして、スタビライザブッシュ1aを収容部21に収容した際にフランジ115aと係合させるための係合溝212をブラケット2aに設けている。このような形態であれば、ストッパを用いなくても、単一のフランジ115のみで、ブッシュ本体11の両端面側にそれぞれフランジを設けたスタビライザブッシュと同等の機能を持たせることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、スタビライザブッシュ1のブッシュ本体11に設けられた貫通孔111を樽状に形成しているが、本発明はこれに限定されない。貫通孔111は、両端部116a、116bの内径r1がこの両端部116a、116bに挟まれた内部117の内径r2より小さい形状であるならば、どのような形状でもよい。
【符号の説明】
【0039】
1、1a:スタビライザブッシュ、2、2a:ブラケット、6:スタビライザ、7a、7b:スタビリンク、8a、8b:サスペンション、11:ブッシュ本体、12:緩衝部、61a、61b:スタビライザ6の両端部、62:スタビライザ6の中央部、111:貫通孔、112:スリット、113:溝、114:セレーション、115、115a:フランジ、116a、116b:貫通孔111の端部、117:貫通孔111の内部、118a、118b:ブッシュ本体11の端面、119:ブッシュ本体11の外周面、121:緩衝部12の上面、122:凹部、21:収容部、22a、22b:フランジ、211:収容部21の端面、212:係合溝、221a、221b:貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタビライザの軸受装置に用いられるスタビライザブッシュであって、
前記スタビライザを摺動自在に保持するための貫通孔が形成された筒状のブッシュ本体と、
前記ブッシュ本体の外周面に一体的に形成された緩衝部と、を有し、
前記ブッシュ本体には、
前記外周面から張り出すように単一のフランジが形成されている
ことを特徴とするスタビライザブッシュ。
【請求項2】
請求項1に記載のスタビライザブッシュであって、
前記緩衝部には、
剛性を調節するための凹部が、前記貫通孔の軸方向に形成されている
ことを特徴とするスタビライザブッシュ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスタビライザブッシュであって、
前記スタビライザブッシュの素材として、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂素材が用いられている
ことを特徴とするスタビライザブッシュ。
【請求項4】
スタビライザの軸受装置であって、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスタビライザブッシュと、
前記スタビライザを保持した前記スタビライザブッシュを取付け固定するためのブラケットと、を有する
ことを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91419(P2013−91419A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234695(P2011−234695)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】