説明

スタータモータ用制御装置及びそれを備えたエンジン利用システム

【課題】機械式スイッチの長寿命化に寄与できるスタータモータ用制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン始動用の直流スタータモータMの始動及び停止を制御するスタータモータ用制御装置10が、直流スタータモータMの始動指令及び停止指令を受け付ける指令受付手段11と、直流スタータモータMに印加できる脈流電圧を検出する電圧検出手段12と、直流スタータモータMへの脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチ4を駆動する駆動手段Sの動作を制御する駆動制御手段14と、指令受付手段11が始動指令又は停止指令を受け付けると、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動又は切作動するように駆動制御手段14を動作させるスイッチタイミング制御手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動用の直流スタータモータの始動及び停止を制御するスタータモータ用制御装置及びそれを備えたエンジン利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載されているエンジンを始動するとき、そのエンジンを強制的に回転させるスタータモータが使用される。そのため、車両などにはバッテリ(直流電源)が搭載され、そのバッテリからスタータモータ(即ち、直流スタータモータ)へ直流電圧を印加できるように構成されている。
【0003】
特許文献1には、自動車用の直流スタータモータが記載されている。この直流スタータモータは、直流電源から直流電圧を印加されるように構成されている。また、直流スタータモータへの通電状態は、イグニッションキーまたは他の任意の装置によって操作されるスタートスイッチによって変えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−509104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エンジンを熱源や動力源(例えば、発電機の動力源、圧縮機の動力源など)として利用するエンジン利用システムが普及し始めている。エンジン利用システムとして、例えば、エンジンを熱源として利用し且つエンジンの動力で発電機を発電運転させる家庭用等のコージェネレーションシステムや、エンジンの動力で圧縮機を運転させるようなヒートポンプシステムなどがある。このようなエンジン利用システムは、各家庭等に据え置かれるものであるため、上述したようなバッテリ(直流電源)を設けずに、商用電力系統(交流電源)からの電力をエンジン始動用のスタータモータに供給する構成となっていることがある。具体的には、商用電力系統から供給される交流電力を、変圧器によって降圧し、更に、整流回路(例えば、全波整流回路など)によって脈流電圧を有する擬似直流電力に変換した上で、その脈流電圧が直流スタータモータへ印加され得るように構成される。また、直流スタータモータへの脈流電圧の印加を入切するためには、可動接点と固定接点とで構成される機械式スイッチが利用される。機械式スイッチの可動接点を駆動するためには電磁力を発生するソレノイドなどの駆動手段が用いられる。
【0006】
機械式スイッチを入切するとき、上述した接点間にアーク電流が流れることがある。特に、電位差が大きいときにアーク電流は大きくなる。アーク電流が流れると、接点の溶着、変形、損傷などの問題が発生する可能性があり、最終的には、機械式スイッチを正常に動作させることができなくなる可能性がある。
尚、機械式スイッチの接点の溶着、変形、損傷が発生したとしても、定期的に接点部分の磨り合わせなどを行って、正常な接点形状を確保することもできる。しかし、広く流通した機械式スイッチの接点を個別に且つ定期的にメンテナンスするというのは現実的に不可能である。また、直流スタータモータと機械式スイッチとが一体でパッケージ化された上で例えばエンジン利用システムなどに組み込まれている場合には、パッケージを分解して機械式スイッチのみをメンテナンスするというのも現実的ではない。
以上のように、従来の機械式スイッチをメンテナンスせずに長寿命化することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、機械式スイッチの長寿命化に寄与できるスタータモータ用制御装置及びそれを備えたエンジン利用システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るスタータモータ用制御装置の特徴構成は、エンジン始動用の直流スタータモータの始動及び停止を制御するスタータモータ用制御装置であって、
前記直流スタータモータの始動指令及び停止指令を受け付ける指令受付手段と、
前記直流スタータモータに印加できる脈流電圧を検出する電圧検出手段と、
前記直流スタータモータへの前記脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチを駆動する駆動手段の動作を制御する駆動制御手段と、
前記指令受付手段が前記始動指令又は前記停止指令を受け付けると、前記電圧検出手段が検出する前記脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで前記機械式スイッチが入作動又は切作動するように前記駆動制御手段を動作させるスイッチタイミング制御手段とを備える点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、スイッチタイミング制御手段の働きにより、直流スタータモータへの脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチが、その脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで入作動又は切作動する。つまり、機械式スイッチの接点間に加わる電位差が比較的小さい期間にその接点間の接触又は離反が行われるので、その接触時又は離反時に流れ得るアーク電流が抑制される。その結果、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
従って、機械式スイッチの長寿命化に寄与できるスタータモータ用制御装置を提供できる。
【0010】
本発明に係るスタータモータ用制御装置の別の特徴構成は、前記駆動制御手段は、電磁力を発生するソレノイドによって構成される前記駆動手段への通電状態を制御する点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、ソレノイド(駆動手段)への通電状態を制御することで機械式スイッチの入作動及び切作動を制御できる。その結果、簡単な装置構成で機械式スイッチを入作動及び切作動させることができるスタータモータ用制御装置を提供できる。
【0012】
本発明に係るスタータモータ用制御装置の更に別の特徴構成は、前記スイッチタイミング制御手段は、前記脈流電圧が前記設定電圧値となるタイミングよりも前の設定事前タイミングにおいて前記駆動制御手段を動作させる点にある。
【0013】
電圧検出手段が検出する脈流電圧が上記設定電圧値となった瞬間にスイッチタイミング制御手段が駆動制御手段を作動させても、機械式スイッチはその瞬間には動作完了せず、ある時間差をもって機械式スイッチが動作完了する場合もある。その場合、実際に機械式スイッチが動作完了するタイミングは、電圧検出手段が検出する脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングではなくなってしまい、大きなアーク電流が流れる可能性がある。
ところが、本特徴構成によれば、スイッチタイミング制御手段は、脈流電圧が設定電圧値となるタイミングよりも前の設定事前タイミング(例えば、脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングよりも、スイッチタイミング制御手段が駆動制御手段を動作させてから機械式スイッチが動作完了するまでに要する期間だけ前のタイミング)において駆動制御手段を動作させる。その結果、実際に機械式スイッチが動作完了するタイミングは、脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングと同じになるので、機械式スイッチの接点の接触時又は離反時に流れ得るアーク電流が抑制される。
【0014】
本発明に係るスタータモータ用制御装置の更に別の特徴構成は、前記脈流電圧が、交流電源からの交流電圧を全波整流して得られる電圧である点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、バッテリなどの直流電源を設けなくても、商用電力系統などの交流電源を利用して上記脈流電圧を直流スタータモータに印加して、直流スタータモータを動作させることができる。
【0016】
本発明に係るエンジン利用システムの特徴構成は、エンジンと当該エンジンの始動用の直流スタータモータとを備え、前記エンジンを熱源及び動力源の少なくとも何れか一方として利用するエンジン利用システムであって、前記直流スタータモータの始動及び停止を制御するための上記スタータモータ用制御装置を備える点にある。
【0017】
直流スタータモータへの脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチはエンジンの始動時に使用される部品であり、常時使用されている部品ではない。しかし、エンジン利用システムは、エンジンを熱源や動力源として利用するシステムであるため、熱や動力が新たに必要になると、エンジンを即座に始動しなければならない。従って、機械式スイッチをメンテナンスや交換のために取り外すのであれば、エンジン利用システムの使用も停止しなければならない。
ところが、本特徴構成によれば、機械式スイッチの長寿命化に寄与できるスタータモータ用制御装置を提供できるので、機械式スイッチをメンテナンスや交換のために取り外す頻度を低くできる。その結果、長期間に渡って継続的に使用できるエンジン利用システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のスタータモータ用制御装置が設置されるエンジン使用システムの概略的な機能ブロック図である。
【図2】機械式スイッチが入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【図3】機械式スイッチが入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【図4】機械式スイッチが入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【図5】機械式スイッチが入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【図6】機械式スイッチが入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【図7】機械式スイッチが切作動するタイミングの前後での電圧波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して本発明に係るスタータモータ用制御装置及びエンジン利用システムについて説明する。
図1は、本発明のスタータモータ用制御装置10が設置されるエンジン利用システム20の概略的な機能ブロック図である。本発明に係るスタータモータ用制御装置10は、エンジン始動用の直流スタータモータMの始動及び停止を制御する装置であり、指令受付手段11と、電圧検出手段12と、駆動制御手段14と、スイッチタイミング制御手段13とを備える。エンジン利用システム20は、エンジン5とそのエンジン5の始動用の直流スタータモータMと、直流スタータモータMの始動及び停止を制御するための上記スタータモータ用制御装置10とを備え、エンジン5を熱源及び動力源の少なくとも何れか一方として利用するシステムである。例えば、エンジン利用システム20は、エンジン5を熱源として利用し且つエンジン5の動力で発電機(図示せず)を発電運転させる家庭用等のコージェネレーションシステムや、エンジン5の動力で圧縮機(図示せず)を運転させるようなヒートポンプシステムなどのシステムである。
【0020】
直流スタータモータMは、直流電源から供給される直流電力によって動作するモータである。本実施形態では、商用電力系統(交流電源)1から供給される交流電力を、変圧器2によって例えば200Vから20Vへ降圧し、更に、整流回路3(例えば、全波整流回路など)によって脈流電圧を有する擬似直流電力に変換した上で、その脈流電圧が直流スタータモータMへ印加され得るように構成されている。つまり、脈流電圧は、商用電力系統1からの交流電圧を全波整流して得られる電圧である。
【0021】
直流スタータモータMへの脈流電圧の印加は、整流回路3と直流スタータモータMとの間に設けられる機械式スイッチ4によって入切される。機械式スイッチ4は、可動接点4aと2つの固定接点4b、4cとを有し、電磁力を発生するソレノイドSによって構成される駆動手段によって入作動及び切作動が切り替えられる。固定接点4bは整流回路3に対して電気的に接続され、固定接点4cは直流スタータモータMに対して電気的に接続される。可動接点4aは、バネなどの付勢手段(図示せず)によって、固定接点4b、4cから離反する方向に常時付勢されている。ソレノイドSによる電磁力が発生して可動接点4aにその電磁力が加わると、可動接点4aは上記付勢手段による付勢力に抗して2つの固定接点4b、4cに向かって変位し、最終的には可動接点4aと2つの固定接点4b、4cとが接触する(即ち、2つの固定接点4b、4cが可動接点4aを介して電気的に接続される)。可動接点4aと2つの固定接点4b、4cとが接触している間は、直流スタータモータMに対して脈流電圧が印加されて、直流スタータモータMは動作する。
【0022】
指令受付手段11は、直流スタータモータMの始動指令及び停止指令を受け付ける。
例えば、エンジン利用システム20の運転制御部(図示せず)が自動的にエンジン5の起動指令を始めると、或いは、その操作者がイグニッションスイッチなどの指令手段を手動操作してエンジン5の起動指令を始めると、その起動指令の開始が、直流スタータモータMの始動指令として指令受付手段11に入力される。また、操作者がイグニッションスイッチなどのスイッチ操作を終了してエンジン5の起動指令を停止すると、その起動指令の停止が、直流スタータモータMの停止指令として指令受付手段11に入力される。
【0023】
駆動制御手段14は、電磁力を発生するソレノイドSによって構成される駆動手段の動作を制御する。駆動制御手段14は、例えば、ソレノイドSへの通電を入切するスイッチである。ソレノイドSは、直流スタータモータMへの脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチ4を駆動する。具体的には、駆動制御手段14は、ソレノイドSへの通電状態を制御することでソレノイドSによる電磁力の大きさを調節し、結果的に、機械式スイッチ4の可動接点4aの位置を調節する。例えば、駆動制御手段14がソレノイドSに電流を流す状態に動作すると、駆動手段としてのそのソレノイドSは、機械式スイッチ4を入作動させる。駆動制御手段14がソレノイドSに電流を流さない状態に動作すると、駆動手段としてのそのソレノイドSは、機械式スイッチ4を切作動させる。
【0024】
電圧検出手段12は、商用電力を変圧器2において降圧し、更に整流回路3において全波整流した後の脈流電圧を検出する。電圧検出手段12が検出する電圧は、アースEに対する電位差である。従って、機械式スイッチ4が切作動されているとき、電圧検出手段12はアースEに対する固定接点4bの電位差(即ち、B−M間の電位差)を検出し、機械式スイッチ4が入作動されているとき、電圧検出手段12は直流スタータモータMに印加されている電位差(即ち、M−E間の電位差)を検出している。
【0025】
スイッチタイミング制御手段13は、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令又は停止指令を受け付けると、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動又は切作動するように駆動制御手段14を動作させる。スイッチタイミング制御手段13の動作について、以下に、図2〜図7を参照して説明する。図2〜図6は、機械式スイッチ4が入作動するタイミングの前後での電圧波形図である。図7は、機械式スイッチ4が切作動するタイミングの前後での電圧波形図である。図2〜図7において、機械式スイッチ4が入作動又は切作動するタイミングを黒丸印で示す。
【0026】
図2〜図7においてB−Mと表記するのは、図1に示すように機械式スイッチ4の2つの固定接点4b、4cの間の電位差である。機械式スイッチ4が切作動されているとき、固定接点4b、4cの間は絶縁されているので、電圧B−Mには脈流電圧の波形が現れる。これに対して、機械式スイッチ4が入作動されているとき、固定接点4b、4cの間は可動接点4aを介して導通しているので、固定接点4b、4cの間に電位差は生じず、電圧B−Mは0Vとなる。
また、図2〜図7においてM−Eと表記するのは、図1に示すように直流スタータモータMに印加される電圧である。機械式スイッチ4が切作動されているとき、直流スタータモータMには電圧が印加されないので、電圧M−Eは0Vとなる。これに対して、機械式スイッチ4が入作動されているとき、直流スタータモータMには電圧が印加されるので、電圧M−Eには脈流電圧の波形が現れる。
【0027】
〔機械式スイッチの入作動〕
図2に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧B−M)が極大値(約20V)よりも低い設定電圧値(具体的には、約0V(極大値の約0%の値))となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが離反しており且つ電圧B−Mが約0Vであるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触(即ち、機械式スイッチ4の入作動)が行われる。図2に示すように、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間にアーク電流はほとんど流れない。そのため、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
【0028】
図3に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧B−M)が極大値よりも低い設定電圧値(具体的には、約7V(極大値の約35%の値))となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが離反しており且つ電圧B−Mが約7Vであるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触(即ち、機械式スイッチ4の入作動)が行われる。図3に示すように、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間にアーク電流はほとんど流れない。そのため、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
【0029】
図4に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧B−M)が極大値よりも低い設定電圧値(具体的には、約9V(極大値の約45%の値))となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが離反しており且つ電圧B−Mが約9Vであるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触(即ち、機械式スイッチ4の入作動)が行われる。図4に示すように、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は抑制されている。そのため、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
【0030】
図5に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧B−M)が極大値よりも低い設定電圧値(具体的には、約13V(極大値の約65%の値))となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが離反しており且つ電圧B−Mが約13Vであるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触(即ち、機械式スイッチ4の入作動)が行われる。図5に示すように、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は大きく現れている。そのため、アーク電流が流れた場合に、可動接点4aと固定接点4b、4cとの溶着、変形、損傷などが発生する可能性が高くなる。
【0031】
図6に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧B−M)がほぼ極大値(約20V)となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが離反しており且つ電圧B−Mが約20Vであるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触(即ち、機械式スイッチ4の入作動)が行われる。図6に示すように、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は非常に大きく現れている。そのため、アーク電流が流れた場合に、可動接点4aと固定接点4b、4cとの溶着、変形、損傷などが発生する可能性が高くなる。
【0032】
以上のように、上記設定電圧値が、脈流電圧の極大値の例えば65%以上の値に設定されていれば、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は大きく現れる可能性が高くなると言える。従って、脈流電圧の極大値の65%未満の値に上記設定電圧値を設定した上で、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が切作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧がその設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させることが好ましい。また、上記設定電圧値は、脈流電圧の極大値の45%未満の値に設定されることが好ましい。更に、上記設定電圧値は、脈流電圧の極大値の35%未満の値に設定されることが好ましい。上記設定電圧値をこのような値に設定することで、機械式スイッチ4を入作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は抑制され、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
【0033】
〔機械式スイッチの切作動〕
図2〜図4には、機械式スイッチ4が切作動されている状態から機械式スイッチ4を入作動させるときのアーク電流の発生を抑制できることを示したが、これとは逆に、機械式スイッチ4が入作動されている状態から機械式スイッチ4を切作動させるときも同様にアーク電流の発生を抑制できる。つまり、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの停止指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が入作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧(電圧M−E)が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が切作動するように駆動制御手段14を動作させればよい。具体的には、脈流電圧(電圧M−E)の極大値の65%未満の値に上記設定電圧値を設定した上で、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が切作動するように駆動制御手段14を動作させることが好ましい。
【0034】
図7に示すのは、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が始動停止を受け付けた後、電圧検出手段12が検出する脈流電圧がほぼ極大値となるタイミングで機械式スイッチ4が切作動するように駆動制御手段14を動作させた場合の電圧波形図である。つまり、可動接点4aと固定接点4b、4cとが接触しており且つ電圧M−Eが極大値であるタイミングで、可動接点4aと固定接点4b、4cとの離反(即ち、機械式スイッチ4の切作動)が行われる。図7に示すように、機械式スイッチ4を切作動させるとき、可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に流れるアーク電流は非常に大きく現れている。そのため、アーク電流が流れた場合に、可動接点4aと固定接点4b、4cとの損傷が発生する可能性が高くなる。
【0035】
図7に示したように、機械式スイッチ4を切作動させるときも、機械式スイッチ4を入作動させるときと同様の結果が得られた。従って、機械式スイッチ4を入作動させるときと同様に、脈流電圧(電圧M−E)の極大値の65%未満の値に設定電圧値を設定した上で、スイッチタイミング制御手段13が、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令を受け付けた後、機械式スイッチ4が入作動されているときに電圧検出手段12が検出する脈流電圧がその設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動するように駆動制御手段14を動作させることが好ましい。また、上記設定電圧値は、脈流電圧の極大値の45%未満の値に設定されることが好ましい。更に、上記設定電圧値は、脈流電圧の極大値の35%未満の値に設定されることが好ましい。
【0036】
以上のように、機械式スイッチ4の可動接点4aと固定接点4b、4cとの間に加わる電位差が比較的小さい期間にその接点間の接触又は離反が行われるので、その接触時又は離反時に流れ得るアーク電流が抑制される。その結果、アーク電流が流れた場合に生じ得る接点の溶着、変形、損傷などを抑制できる。
【0037】
加えて、スイッチタイミング制御手段13が駆動制御手段14を動作させた後、機械式スイッチ4が動作完了するまでに要する期間が、ソレノイドS及び機械式スイッチ4の構成によって様々であることについて考慮する必要がある場合も存在する。つまり、スイッチタイミング制御手段13が駆動制御手段14を動作させた後、ほとんど時間差無く機械式スイッチ4が動作する場合もあれば、ある程度の時間差をもって機械式スイッチ4が動作する場合もある。これは、ソレノイドSが発生する電磁力の強さや、その電磁力が機械式スイッチ4の可動接点4aに作用した後に可動接点4aが固定接点4b、4cに接触するまでの期間が、ソレノイドS及び機械式スイッチ4の構成によって変化し得るからである。
【0038】
具体的には、スイッチタイミング制御手段13が例えば駆動制御手段14としてのスイッチを動作させた後、機械式スイッチ4が動作完了するまでの間には、電流が流れたソレノイドSに電磁力が発生するのに要する時間や、更にソレノイドSに発生した電磁力が可動接点4aに作用して可動接点4aが動作完了するのに要する時間などの経過を待たなければならない場合もある。例えば、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が極小値となった瞬間にスイッチタイミング制御手段13が駆動制御手段14を作動させても、機械式スイッチ4はその瞬間には動作完了せず、ある時間差をもって機械式スイッチ4が動作完了することもある。従って、そのような時間差が発生する場合、スイッチタイミング制御手段13は、脈流電圧が上述したような設定電圧値となるタイミングよりも前の設定事前タイミングにおいて駆動制御手段14を動作させることが好ましい。
【0039】
例えば、駆動制御手段14を動作させてから機械式スイッチ4が動作完了するまでに要する期間(動作所要時間)を把握し、予め、メモリなどに記憶しておく。そして、スイッチタイミング制御手段13は、メモリに記憶されている上記動作所要時間を参照して、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングよりもその動作所要時間だけ前の設定事前タイミングが、脈流電圧の波形中のどの位相であるのかを導出し、メモリなどに記憶しておく。
従って、スイッチタイミング制御手段13は、指令受付手段11が直流スタータモータMの始動指令又は停止指令を受け付けると、電圧検出手段12が検出する脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで機械式スイッチ4が入作動又は切作動するように、脈流電圧の波形中の特定の位相(即ち、脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングよりも上記動作所要時間だけ前の設定事前タイミング)で駆動制御手段14を動作させればよい。
【0040】
以上のように、実際に機械式スイッチ4が動作完了するタイミングは、脈流電圧が上記設定電圧値となるタイミングと同じになるので、機械式スイッチ4の可動接点4aと固定接点4b、4cとの接触時又は離反時に流れ得るアーク電流が抑制される。
【0041】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、機械式スイッチ4が、可動接点4aと2つの固定接点4b、4cとを有し、電磁力を発生するソレノイドSによって構成される駆動手段によって入作動及び切作動が切り替えられるタイプのスイッチである例を説明したが、本発明は、他のタイプの機械式スイッチにも適用可能である。言い換えると、本発明は、接点の物理的な接触及び非接触が切り替えられるタイプの様々な機械式スイッチの長寿命化のために適用可能である。
【0042】
<2>
上記実施形態では、図2〜図7において具体的な脈流電圧波形を例示したが、脈流電圧波形の特性(電圧値、周波数、波形の形状)などは上述した値に限定されず、適宜変更可能である。
【0043】
<3>
上記実施形態では、駆動制御手段14を動作させてから機械式スイッチ4が動作完了するまでに要する期間(動作所要時間)が存在する場合におけるスイッチタイミング制御手段13の動作について説明したが、機械式スイッチ4を入作動させるときの動作所要時間と、機械式スイッチ4を切作動させるときの動作所要時間とが異なるときは、各別に動作所要時間を導出してメモリ等に記憶しておけばよい。
【0044】
<4>
上記実施形態では、エンジン利用システム20の具体例として、コージェネレーションシステムやヒートポンプシステムなどを挙げたが、エンジン5を熱源及び動力源の少なくとも何れか一方として利用するものであれば他のシステムにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るスタータモータ用制御装置は、機械式スイッチを長寿命化するために利用できる。また、そのスタータモータ用制御装置を備えるエンジン利用システムに利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 商用電力系統(交流電源)
4 機械式スイッチ
10 スタータモータ用制御装置
11 指令受付手段
12 電圧検出手段
13 スイッチタイミング制御手段
14 駆動制御手段
20 エンジン利用システム
M 直流スタータモータ
S ソレノイド(駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動用の直流スタータモータの始動及び停止を制御するスタータモータ用制御装置であって、
前記直流スタータモータの始動指令及び停止指令を受け付ける指令受付手段と、
前記直流スタータモータに印加できる脈流電圧を検出する電圧検出手段と、
前記直流スタータモータへの前記脈流電圧の印加を入切する機械式スイッチを駆動する駆動手段の動作を制御する駆動制御手段と、
前記指令受付手段が前記始動指令又は前記停止指令を受け付けると、前記電圧検出手段が検出する前記脈流電圧が極大値よりも低い設定電圧値となるタイミングで前記機械式スイッチが入作動又は切作動するように前記駆動制御手段を動作させるスイッチタイミング制御手段とを備えるスタータモータ用制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、電磁力を発生するソレノイドによって構成される前記駆動手段への通電状態を制御する請求項1に記載のスタータモータ用制御装置。
【請求項3】
前記スイッチタイミング制御手段は、前記脈流電圧が前記設定電圧値となるタイミングよりも前の設定事前タイミングにおいて前記駆動制御手段を動作させる請求項1又は2に記載のスタータモータ用制御装置。
【請求項4】
前記脈流電圧が、交流電源からの交流電圧を全波整流して得られる電圧である請求項1〜3の何れか一項に記載のスタータモータ用制御装置。
【請求項5】
エンジンと当該エンジンの始動用の直流スタータモータとを備え、前記エンジンを熱源及び動力源の少なくとも何れか一方として利用するエンジン利用システムであって、
前記直流スタータモータの始動及び停止を制御するための請求項1〜4の何れか一項に記載のスタータモータ用制御装置を備えるエンジン利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−211515(P2012−211515A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76551(P2011−76551)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)