説明

ステアリング装置

【課題】 支持具の取り付けに影響されないコラム軸及びコラムハウジングの内筒を衝撃エネルギ吸収のための抵抗付与に利用することにより、所望のエネルギ吸収性能を安定して実現し得るステアリング装置を提供する。
【解決手段】 軸長方向の摺動可能に嵌合された外筒4及び内筒5を有するコラムハウジング3と、共回りが可能であり、軸長方向の摺動が可能に嵌合された筒部14及び内軸部15を有し、コラムハウジング3の内部に回転自在に支持されたコラム軸8とを備える構成において、二次衝突の発生によりコラム軸8が軸長方向に縮短してキーリング20が内筒5に入り込む場合、キーリング20と内筒5との間で所定の摺動抵抗が発生し、二次衝突の衝撃エネルギを吸収し得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関し、更に詳しくは、自動車が前面衝突を起し、運転者が自動車の進行方向への慣性の作用によりステアリングホイールに衝突(以下、二次衝突という)する際、該ステアリングホイールを介して運転者に加わる衝撃エネルギを吸収するように構成されたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次衝突の衝撃エネルギを吸収する衝撃吸収ステアリング装置は、多くの場合、コラム軸を支持するコラムハウジングを適長に亘って内外に嵌め合わされた内筒と外筒とにより構成し、これらの内筒及び外筒を、二次衝突時に加わる衝撃の作用により、所定の抵抗下にて嵌め合い長さを増すように縮短させることによりエネルギ吸収作用を行わせるようにしてあり、内筒及び外筒間に抵抗を付与するための手段を変えて従来から種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に開示されたステアリング装置は、外筒の周面を内筒に向けてかしめ、該内筒に圧接させてあり、二次衝突の衝撃が加わった際にかしめ部と内筒の周面との間に、これらの変形を伴って生じる摺動抵抗により衝撃エネルギを吸収する構成となっている。また特許文献2に開示されたステアリング装置は、内筒と外筒との嵌合部に大きい摩擦抵抗を有するフリクション部材を挾み、二次衝突の衝撃が加わった際に内筒及び外筒とフリクション部材との間に発生する摩擦抵抗により衝撃エネルギを吸収する構成となっている。
【特許文献1】特開2004−9837号公報
【特許文献2】特開2000−219139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コラムハウジングの外筒には、車体に取り付けるための支持具(ブラケット)が溶接により固定されているため、この外筒は、前記溶接時の入熱により変形することがあり、この変形が生じた場合、前記かしめ部と内筒との圧接荷重、又は前記フリクション部材と外筒及び内筒との挾圧荷重が設計値から外れ、所期の目的通りに衝撃エネルギを吸収出来ない虞れがあった。
【0005】
また一部のステアリング装置においては、コラムハウジングの支持具と車体との間に衝撃吸収体を介装し、二次衝突の衝撃が加わった際に、車体と該車体から離脱する支持具との間にてリッピングする前記衝撃吸収体材の変形抵抗により衝撃エネルギを吸収する構成としたものがある。この構成によれば、外筒の変形に起因する衝撃エネルギの不安定さを解消し得るが、一方では、衝撃吸収体に所定の変形を行わせるために、車体の側にも一定の精度が要求され、ステアリング装置の単独での精度管理により対応し得ないという問題がある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、支持具の取り付けに影響されないコラム軸及びコラムハウジングの内筒を衝撃エネルギ吸収のための抵抗付与に利用することにより、所望のエネルギ吸収性能を安定して実現し得るステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明に係るステアリング装置は、外筒及び該外筒に軸長方向の摺動可能に嵌合された内筒を有するコラムハウジングと、共回りが可能であり、軸長方向の摺動が可能に嵌合された筒部及び内軸部を有し、前記コラムハウジングに回転自在に支持されたコラム軸とを備えるステアリング装置において、前記コラム軸の筒部の前記外筒に対向する部分に径大部が設けられており、該径大部が前記コラムハウジングの内筒に嵌入する場合、該内筒と前記径大部との間で所定の摺動抵抗が発生するように構成してあることを特徴とする。
【0008】
また第2発明に係るステアリング装置は、第1発明における径大部が、前記筒部に設けられるキーリングであることを特徴とする。
【0009】
更に第3発明に係るステアリング装置は、第2発明におけるキーリングが、前記筒部と別体に構成されており、設定値以上のトルクの作用により相対回転を許容する滑り環を介して前記筒部に嵌められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、コラム軸に二次衝突の衝撃が加わった際、筒部と内軸部との嵌合長さを増すようにコラム軸が縮短し、筒部に設けた径大部がコラムハウジングの内筒に嵌入して、この内筒と径大部との間の摺動抵抗により衝撃エネルギが吸収されるから、支持部の溶接に伴うコラムハウジングの外筒の変形の影響を受けず、設計通りの衝撃エネルギの吸収性能を安定して実現することができる。
【0011】
また第2発明によれば、コラムハウジングの内筒との間にてエネルギ吸収のための摺動抵抗を発生する径大部として、コラム軸の筒部に設けられるキーリングを利用したから、エネルギ吸収のための専用部品が不要であり、構成の簡素化、軽量化及びコストの低減を図ることができる。
【0012】
更に第3発明によれば、キーリングをコラム軸と別体としたから、コラム軸の素材寸法が摺動抵抗の管理のために必要なキーリングの外径に束縛されることがなく、素材及び加工コストの低減を図ることができ、またキーリングの外径を高精度に管理し、所望の衝撃エネルギの吸収性能を安定して実現することが可能となる上、キーリングと筒部との間に滑り環(商品名:トレランスリング)を介装したから、この滑り環とキーリング及び筒部との間の安定した摩擦抵抗も衝撃エネルギ吸収のために役立ち、より安定したエネルギ吸収を行わせることができ、更にキーリングの外径の設定の自由度を増しても、該キーリングに要求される盗難防止のための保険要件の規格を満足することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係るステアリング装置の要部を示す簡略縦断面図である。車体(図示略)に、軸長方向が前方に下り傾斜するようにしてコラムハウジング3が取り付けられている。
【0014】
このコラムハウジング3は、外筒4と、外筒4に軸長方向の摺動可能に嵌められた内筒5とを有している。外筒4は、所定の大きさの軸長方向の力が作用すると車体から外れるように構成された公知のブレークアウエイブラケット(図示略)を介して車体に取り付けられている。前記軸長方向の力の大きさは、二次衝突が発生した場合において、外筒4が車体から外れることにより運転者を衝突から保護し得るような大きさに設定されている。内筒5の下部は、支持具を介して車体に固定支持されている。
【0015】
このようなコラムハウジング3内部には、同軸上での回転自在にコラム軸8が支持されている。コラム軸8の上部は、同側を支持する軸受9を介して外筒4の上方に突設されており、上端にステアリングホイール11が取り付けてある。またコラム軸8の下部は、動力伝達機構を介して舵取機構(図示略)に接続されている。
【0016】
このように支持されたコラム軸8は、外筒4の内側に位置する筒部14と、該筒部14の下部に適長に亘って内嵌され、内筒5の内側に位置する内軸部15とを備えてなる。筒部14と内軸部15とは、筒部14の周壁に等配をなして形成された貫通孔16と内軸部15の外周面に周設された環状溝17とが、軸長方向の2か所にて整合するように位置決めし、各貫通孔16を経て環状溝17に樹脂材を充填し固化せしめて形成されたシャーピン18により共回り可能に連結されている。なおシャーピン18は、コラム軸8の軸長方向に許容値以上の力が作用するとせん断破壊を起すように寸法設定されており、この破壊が生じたコラム軸8は、筒部14と内軸部15とが嵌め合い長さを増すように縮短することができる。シャーピン18の破壊許容値は、二次衝突時にステアリングホイール11に衝突する運転者に加わる衝撃力の上限許容値に基づいて設定されている。
【0017】
本発明に係るステアリング装置において、コラム軸8の筒部14の中途には、該筒部14と別体をなす円筒形のキーリング20が外嵌固定されている。キーリング20の内周部には環状凹所21が形成されており、筒部14に外嵌されたキーリング20は、環状凹所21に挿入され、該環状凹所21の内周と筒部14の外周とに弾接する滑り環22の摩擦力の作用下にて固定されている。
【0018】
図2は、滑り環22の外観斜視図である。本図に示す如く滑り環22(トレランスリングとして商品化されている)は、周方向の一か所にスリット状の欠落部を備える欠環状の部材であり、周方向に等配をなして複数(図においては4つ)の弾性突起23が、径方向外向きに張り出すように突設されている。このように構成された滑り環22は、弾性突起23の弾性作用により環状凹所21と筒部14とに所定の作用力を加えて弾接しており、滑り環22の介装下にて筒部14に外嵌されたキーリング20は、設定値未満の回転トルクが加わっている限りは、筒部14に対して相対回転せず、設定値以上のトルクが加わった状態においても、筒部14に対して大なる抵抗下にて相対回転することができる。
【0019】
このように取り付けられたキーリング20の外周には、周方向にの複数か所にキー溝25が形成されている。コラムハウジング3の外筒4には、キー溝25の形成位置に臨ませて貫通孔26が形成されており、この貫通孔26にロック装置27のケーシング28が取り付けられている。該ケーシング28は、イグニッションキーのオフ操作により内向きに突出するロックキー29を備えており、貫通孔26を経て外筒4内に突出するロックキー29の先端が、図中に2点鎖線により示す如くキー溝25に係合するように構成されている。
【0020】
このようにロックキー29が係合した場合、キーリング20の回転はコラムハウジング3により拘束され、キーリング20が取り付けられた筒部14を備えるコラム軸3の回転は、滑り環22による抵抗下にて拘束されることとなり、ステアリングホイール11の操作による操舵が不可能な状態となり、悪意による車両の盗難を防止することができる。
【0021】
なおステアリングホイール11に大きい回転力が加えられた場合、筒部14に対する滑り環22の滑りを伴ってコラム軸3を回転させることができるが、この後も滑り環22は、筒部14の回転に大なる抵抗力を付与するから、ステアリングホイール11の操作による操舵は実質的に不可能であり、キーリング20の損傷を防ぎつつ車両の盗難を防ぐことができ、海外にて適用される盗難防止のための保険要件の規格を満足することが可能となる。
【0022】
本発明に係るステアリング装置において、以上の如きキーリング20の外径D1 は、下方に適長離隔して位置するコラムハウジング3の内筒5の内径D2 よりもわずかに大きくなるように設定されている。これにより車両の前面衝突に伴う二次衝突の発生によりコラム軸8に軸長方向の力が加わり、該コラム軸8が、前述の如くシャーピン18のせん断破壊を伴って筒部14と内軸部15とが嵌め合い長さを増すように縮短するとき、筒部14と共に下方に移動するキーリング20が内筒5の内側に嵌入し、両者間に所定の摺動抵抗が発生して、この摺動抵抗により二次衝突の衝撃エネルギが吸収される。
【0023】
図3は、本発明に係るステアリング装置によるエネルギ吸収動作の説明図である。二次衝突に伴う衝撃力が、図中に白抜矢符にて示す如くステアリングホイール11に加わった場合、コラム軸8の筒部14は、内軸部15に対して嵌め合い長さを増すように下方に移動し、筒部14の中途に設けたキーリング20は、図3(a)に示す如く、下方に対向するコラムハウジング3の内筒5の端部に嵌まり込む。
【0024】
ここでキーリング20の外径が内筒5の内径よりも大きいことから、キーリング20の嵌まり込みは、内筒5のわずかな拡径変形を伴って生じ、両者の嵌合部に摺動抵抗が発生することとなり、この抵抗下にて生じるコラム軸8の縮短により衝撃エネルギが吸収される。このエネルギ吸収は、コラム軸8の中途に設けた径大部(キーリング20)と、コラムハウジング3の内筒5との間にて生じ、車体への支持のためのブレークアウエイブラケットの溶接固定により寸法変化する虞れがある外筒4は関与しないから、安定したエネルギ吸収性能を得ることができる。
【0025】
またキーリング20は、コラム軸8と別体に構成された部材であり、単独での成形及び加工により高精度に寸法設定することができ、内筒5との間に所望の摺動抵抗を発生させて設計通りの衝撃エネルギの吸収性能を安定して実現することが可能となる。
【0026】
更にコラム軸8の縮短が進行し、キーリング20の嵌まり込み長さが増した場合、該キーリング20と筒部14との間に介装された滑り環22においても滑りが生じ、該滑り環22が、図3(b)に示す如く環状凹所21から下方に抜け出すように移動し、キーリング20と内筒5との嵌合部における摺動抵抗と、キーリング20及び筒部14と滑り環22との間の摺動抵抗との相乗作用によりエネルギ吸収がなされる。
【0027】
このように、キーリング20と筒部14との間に介装された滑り環22の摺動抵抗も衝撃エネルギの吸収に寄与する。ここで、前述の如くトレランスリングとして商品化されている滑り環22は、略一定の滑り抵抗を高精度に発生することができるから、より安定したエネルギ吸収を行わせることが可能となる。
【0028】
以上の如くエネルギ吸収しつつコラム軸8が縮短した場合、コラム軸8の上端に固定されたステアリングホイール11が、図3(c)に示す如くコラムハウジング3の外筒4の上端に当接する。この後は、外筒4にも下方に向かう軸長方向力が加わり、下位置に嵌合する内筒5との嵌め合い長さを増すようにコラムハウジング3も縮短し、この縮短に伴って外筒4と内筒5との間の摺動抵抗も衝撃エネルギの吸収に寄与するようになる。
【0029】
外筒4と内筒5との間の摺動抵抗は、前述の如く寸法管理の難しい外筒4の関与により不安定となるが、この摺動抵抗は、エネルギ吸収のための短縮ストロークの終端近傍に限って生じるため.ステアリングホイール11に衝突する運転者に及ぼす影響は軽微に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るステアリング装置の要部を示す簡略縦断面図である。
【図2】滑り環の外観斜視図である。
【図3】本発明に係るステアリング装置によるエネルギ吸収動作の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
3 コラムハウジング
4 外筒
5 内筒
8 コラム軸
11 ステアリングホイール
14 筒部
15 内軸部
20 キーリング(径大部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒及び該外筒に軸長方向の摺動可能に嵌合された内筒を有するコラムハウジングと、共回りが可能であり、軸長方向の摺動が可能に嵌合された筒部及び内軸部を有し、前記コラムハウジングに回転自在に支持されたコラム軸とを備えるステアリング装置において、 前記コラム軸の筒部の前記外筒に対向する部分に径大部が設けられており、該径大部が前記コラムハウジングの内筒に嵌入する場合、該内筒と前記径大部との間で所定の摺動抵抗が発生するように構成してあることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記径大部は、前記筒部に設けられるキーリングである請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記キーリングは、前記筒部と別体に構成されており、設定値以上のトルクの作用により相対回転を許容する滑り環を介して前記筒部に嵌められている請求項2記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−290207(P2006−290207A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115041(P2005−115041)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】