説明

ステアリング装置

【課題】テレスコ機構について、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成と、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを選択できるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリングコラム1のテレスコ機構とチルト機構とを備えたステアリング装置において、固定筒11に対して進退自在に保持筒12を外嵌したステアリングコラム1を揺動自在に軸支する支持ブラケット3から延びる車体側摩擦板32を、前記ステアリングコラム1の保持筒12に設けたコラム側摩擦板22とツースブロック4に噛み合うツースプレート5とにより挟み、コラム側摩擦板22とツースプレート5とで車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成とを兼ね備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラムのテレスコ機構(伸縮機構)とチルト機構(揺動機構)とを備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置は、ハンドルの回転操作を操舵輪へ伝達するステアリングコラムを車体に支持して構成される。近年のステアリング装置は、運転者の姿勢に合わせてハンドルまでの距離やハンドルの傾きが調整できるように、ステアリングコラムのテレスコ機構とチルト機構とが設けられる。テレスコ機構は、例えば固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムの前記固定側操舵軸に対して保持側操舵軸を進退させる構成で、保持側操舵軸を進退可能にして位置を調整し、進退禁止にして位置を固定する。また、チルト機構は、例えば固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムを、固定側操舵軸及び保持側操舵軸を一体にして揺動させる構成で、固定側操舵軸及び保持側操舵軸を一体に揺動可能にして傾きを調整し、揺動禁止して傾きを固定する。固定側操舵軸は固定筒が外嵌されたり、保持側操舵軸は保持筒が外嵌される場合があり、固定筒及び保持筒が共にある場合、両者は嵌合関係にある。
【0003】
従来のステアリング装置におけるテレスコ機構やチルト機構は、車体側に支持される車体側摩擦板と、ステアリングコラム側に取り付けられるコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成が多い。車体側摩擦板とコラム側摩擦板とは、貫通させた雄ネジ軸である操作軸を雌ネジブロックに螺着して一体化されており、操作軸を捩じ込むことにより雌ネジブロックと操作軸に設けた押圧部との距離を縮め、コラム側摩擦板を車体側摩擦板に圧接して位置固定し、前記操作軸を緩めて雌ネジブロックと前記押圧部との距離を広めて、前記コラム側摩擦板を車体側摩擦板に対して移動自在として、ステアリングコラムのテレスコ調整及びチルト調整できるようにする。ここで、コラム側摩擦板が車体側摩擦板を1枚ずつ押し付けるだけでは位置固定が不十分な場合、特許文献1又は特許文献2に見られるように、複数のコラム側摩擦板が車体側摩擦板を積層する構成が採用される。
【0004】
車体側摩擦板に対してコラム側摩擦板をより強く位置固定したい場合、特許文献3又は特許文献4に見られるように、ステアリングコラムの調整方向(伸縮方向又は揺動方向)に歯が並ぶツースプレートと、前記ツースプレートの歯に係合する歯を設けたツースブロックとを噛み合わせる構成が用いられる。ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成は、通常、ステアリングコラムの伸縮方向の位置固定に用いられるが、例えば特許文献5に見られるように、ステアリングコラムの伸縮方向及び揺動方向双方の位置固定に用いられることもある。ツースプレートは、テレスコ調整又はチルト調整の軌道を特定する部材であるため、車体に固定される支持ブラケットやステアリングコラムに固着されるコラムブラケットに嵌合して位置固定される。
【0005】
ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成は、歯の噛み合いを解除するために必要なツースプレートに対するツースブロックの接近離反代を稼ぐため、操作軸の押圧部と車体側摩擦板との間にラチェット機構を設ける。ラチェット機構は、操作軸に連動して回転する回転ラチェット板と、車体側摩擦板の円弧状長孔に係合して回転しない固定ラチェット板とから構成される。回転ラチェット板及び固定ラチェット板は、各対向面に形成された周方向の凹凸を、特定の回転位置関係で嵌合させてツースブロックとツースプレートとの噛み合わせを解除し、前記特定の回転位置関係からずれた回転位置関係で凸凸を当接させてツースブロックをツースプレートに噛み合わせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-117120号公報
【特許文献2】特開2009-029224号公報
【特許文献3】特開2006-182062号公報
【特許文献4】特開2008-239111号公報
【特許文献5】特開2008-055983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
テレスコ機構とチルト機構とを備えたステアリング装置において、車体側摩擦板に対するコラム側摩擦板の締付を加減する場合、上述のように、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを交互に積層する。しかし、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを積層しすぎると、両者間の摺動抵抗が大きくなりすぎて、テレスコ調整又はチルト調整がやりにくくなる問題が発生する。ところが、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とをどれほど積層しても、ツースプレートとツースブロックとの噛み合わせに相当するステアリングコラムの安定かつ強固な位置関係の保持は難しい。これから、ステアリングコラムの安定かつ強固な位置関係の保持を図るには、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを積層する構成ではなく、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成を利用するほかなかった。
【0008】
ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成は、ステアリングコラムの安定かつ強固な位置関係の保持を図ることができるが、車体に固定される支持ブラケットやステアリングコラムに固着されるコラムブラケットにツースプレートを嵌合して位置固定するため、基本的には仕様毎に設計することになる。このため、ステアリングコラムの保持がそれほど強固でなくてもよい場合、別途車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成を設計することになる。これは、仕様要求の程度に合わせて2種類の設計が必要なことを意味し、量産効果による製造コストの低減を阻害する。
【0009】
チルト機構は、操作軸を揺動軸とする構成も見受けられるが、別に揺動軸が存在する場合、揺動軸から操作軸まで離れていれば、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成で十分である。これに対し、テレスコ機構は、操作軸の部分だけでステアリングコラムを位置固定するため、仕様要求に合わせて、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成とツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを選択できることが望ましい。そこで、テレスコ機構について、車体側摩擦板とコラム側摩擦板とを締付及び解放させる構成と、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを選択できるステアリング装置を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
検討の結果開発したものが、ステアリングコラムのテレスコ機構とチルト機構とを備えたステアリング装置において、固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムを揺動自在に軸支する支持ブラケットから延びる車体側摩擦板を、前記ステアリングコラムの保持側操舵軸に外嵌した保持筒に設けたコラム側摩擦板とツースブロックに噛み合うツースプレートとにより挟み、コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを兼ね備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0011】
本発明のステアリング装置は、コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを兼ね備え、それぞれが協働してステアリングコラムを位置固定する。車体側摩擦板、コラム側摩擦板及びツースプレートを一体に締付及び解放させる構成は、前記車体側摩擦板、コラム側摩擦板及びツースプレートが相互の移動を防止することから、テレスコ調整及びチルト調整におけるステアリングコラムの位置固定を担う。本発明のチルト機構は、ステアリングコラムの揺動軸を操作軸から離して設けてあるため、車体側摩擦板、コラム側摩擦板及びツースプレートを一体に締め付けるだけで、ステアリングコラムを安定して位置固定できる。また、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成は、ステアリングコラムの固定側操舵軸の延在方向に並ぶ互いの歯を噛み合わせることから、テレスコ調整におけるステアリングコラムの位置固定を担う。
【0012】
具体的なステアリング装置は、固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムの前記固定側操舵軸を、前後方向の垂直面内で揺動自在に、車体に固定される支持ブラケットに軸支し、前記固定側操舵軸の揺動軸を中心とする円弧状長孔を有する左右の車体側摩擦板をそれぞれ支持ブラケットから延ばし、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるコラム側直線状長孔を有する左右のコラム側摩擦板をステアリングコラムの保持側操舵軸に外嵌した保持筒に固着し、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるプレート側直線状長孔を有するツースプレートを、前記プレート側直線状長孔とコラム側直線状長孔とを平行にし、ステアリングコラムの固定側操舵軸の延在方向に並ぶ歯を右方に向け、右のコラム側摩擦板から右方に突出するガイドピンを貫通させて前記右のコラム側摩擦板に対して右方から接近離反自在に支持させ、左の車体側摩擦板の右側に左のコラム側摩擦板を摺接させ、右の車体側摩擦板の左側に右のコラム側摩擦板を摺接させて、右のコラム側摩擦板及びツースプレートで右の車体側摩擦板を挟み、左の車体側摩擦板の円弧状長孔から左のコラム側摩擦板のコラム側直線状長孔を通って、右のコラム側摩擦板のコラム側直線状長孔から右の車体摩擦板の円弧状長孔、ツースプレートのプレート側直線状長孔にわたって貫通するネジ軸である操作軸の右端に、ステアリングコラムの固定側操舵軸の延在方向に並ぶ歯を左方に向けたツースブロックを設け、左の車体側摩擦板と前記操作軸の左端の操作部との間に操作軸の回動に合わせて前記操作部を左方に押圧又は解除するカム押圧部を設けて、操作部がカム押圧部に押されて左方に操作軸が移動することによりツースブロックを左方へ引き寄せて、右のコラム側摩擦板に対して右の車体側摩擦板及びツースプレートを押し付ける構成である。
【0013】
本発明に言う前後左右は、説明の便宜上のもので、自動車の前後左右に合わせた方向を意味する。これから、上記ステアリング装置は、右方に突出した操作軸の右端にツースブロックを設け、左方に突出した操作軸の左端に操作部を設けて前記操作部と左車体摩擦板との間にカム押圧部を設けた構成となるが、前記構成は左右逆転しても構わない。具体的には、ツースプレートを、プレート側直線状長孔とコラム側直線状長孔とを平行にして歯を左方に向け、左コラム側摩擦板から左方に突出するガイドピンを貫通させて前記左コラム側摩擦板に対して左方から接近離反自在に支持させ、右車体側摩擦板の左側に右コラム側摩擦板を摺接させ、左車体側摩擦板の右側に左コラム側摩擦板を摺接させて、ツースプレート及び左コラム側摩擦板で左車体側摩擦板を挟み、右車体側摩擦板からツースプレートにわたって貫通する操作軸の左端にツースブロックを設け、右車体側摩擦板と前記操作軸の操作部との間にカム押圧部を設ける構成も本発明に含まれる。
【0014】
ステアリングコラムの固定側操舵軸が「前後方向の垂直面内で揺動自在に」支持ブラケットに軸支されるとは、前記固定側操舵軸の揺動する軌道が前後方向を向いた垂直面に含まれることを意味する。固定側操舵軸は、例えば支持ブラケットに軸支された揺動ブラケットを自転自在に貫通して支持されるが、固定側操舵軸に外嵌した固定筒を前記揺動ブラケットに支持させてもよい。この場合、保持側操舵軸に外嵌した保持筒は、前記固定筒に外嵌する又は前記固定筒に外嵌され、外嵌される側(例えば固定筒)を内筒、外嵌する側(例えば保持筒)を外筒と呼ぶ。また、左右の車体側摩擦板が支持ブラケットから延びるとは、ステアリングコラムの揺動範囲に干渉することなく、車体に取り付ける部分から前記左右の車体側摩擦板が延びていることを意味する。通常、左右の車体側摩擦板は、下方又は後方に延びる。操作軸の操作部は、テレスコ軸を自転操作するレバーやハンドル又はノブや、前記レバー等の右側に設けられ、前記レバー等と一体に動く押圧ブロック等を例示できる。
【0015】
カム押圧部は、従来同種のステアリング装置にも見られる部材で、操作軸に連動して回転する回転ラチェット板と、左の車体側摩擦板の円弧状長孔に係合して回転しない固定ラチェット板とから構成され、回転ラチェット板と固定ラチェット板とが接近離反することで、操作軸の操作部の左の車体摩擦板からの距離を加減し、ツースブロックを左方へ引き寄せたり、緩めたりする。回転ラチェット板及び固定ラチェット板は、例えば各対向面に周方向の凹凸を形成し、特定の回転位置関係で互いの凹凸を嵌合させると回転ラチェット板と固定ラチェット板とを接近させ、前記特定の回転位置関係からずれた回転位置関係で凸凸を当接させると回転ラチェット板と固定ラチェット板とを離反させる。
【0016】
左右のコラム側揺動摩擦板やコラム側進退摩擦板は、それぞれ独立した板材で構成してもよいが、各板の強度又は剛性を確保する観点から、一体のチャンネル材を利用して構成するとよい。すなわち、左右の車体側摩擦板は、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるチャンネル構造の支持ブラケットが有する左右一対のフランジで、左右のコラム側摩擦板は、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるチャンネル構造のコラムブラケットが有する左右一対のフランジであり、支持ブラケットの左右の車体側摩擦板の間にコラムブラケットを嵌合させ、左の車体側摩擦板の右側に左のコラム側摩擦板を摺接させ、右の車体側摩擦板の左側に右のコラム側摩擦板を摺接させて、右のコラム側摩擦板及びツースプレートで右の車体側摩擦板を挟む。
【0017】
また、ツースブロックは、少なくとも右コラム側摩擦板のコラム側直線状長孔を貫通する押圧パイプを左方から当接させ、前記押圧パイプと左のコラム側摩擦板との間で操作軸にコイルスプリングを遊嵌することにより、前記コイルスプリングに押される押圧パイプを介してツースプレートから遠ざかる向きに付勢された構成にするとよい。これにより、コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟み、かつ前記ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成としても、反発力の大きなコイルスプリングの付勢により、ツースプレートとツースブロックとの歯の噛み合わせを確実に解除し、更にコラム側摩擦板とツースプレートとの密着を確実に解消できる。
【0018】
押圧パイプは、コイルスプリングがコラム側直線状長孔に引っかからないようにすると共に、操作軸に沿って反発力をツースブロックに伝達し、ツースプレートの直交方向に前記ツースブロックを遠ざける働きを有する。これから、押圧パイプは、少なくともコラム側直線状長孔を貫通する長さであればよい。この場合、ツースブロックは、プレート側直線状長孔及び円弧状長孔を貫通し、押圧パイプの右端に当接するパイプ受け突起を設ける。パイプ受け突起は、操作軸を貫通させ、ツースブロックに設けた雌ネジ又はツースブロックに添える別体の雌ネジに前記操作軸を螺合させる。押圧パイプは、コラム側直線状長孔からプレート側直線状長孔まで、更に円弧状長孔まで貫通する長さにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のステアリング装置は、コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成とを兼ね備えており、車体側摩擦板、コラム側摩擦板及びツースプレートを一体に締付及び解放させる構成がテレスコ調整及びチルト調整におけるステアリングコラムの位置固定を担い、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成がテレスコ調整におけるステアリングコラムの位置固定を担うので、ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成を省略して、コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟んで一体に締付及び解放させる構成だけとすることができる。
【0020】
また、本発明のステアリング装置は、ツースプレートに代えて移動摩擦板、ツースブロックに代えて押圧ブロックを操作軸に設けると、複数の摩擦板を積層する構成にすることもできる。このように、本発明のステアリング装置は、設計変更することなく、部品の変更だけで、ステアリングコラムの位置固定を担う構成を複数選択でき、仕様変更に伴う製造コストの上昇を抑制又は防止する効果をもたらす。また、設計変更することなく、部品の変更だけで、ステアリングコラムの位置固定を担う構成を複数選択できることは、仕様の異なる同一車種に同じ本発明のステアリング装置が利用できる利点をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用したステアリング装置の一例を表す右側面図である。
【図2】本例のステアリング装置の正面図である。
【図3】操作軸を含む切断面による本例のステアリング装置の断面図である。
【図4】本例のステアリング装置を左斜め前上から見た分解斜視図である。
【図5】ツースプレートを取り除いた状態の図1相当右側面図である。
【図6】ツースプレートを取り除いた状態の図2相当正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明のステアリング装置は、図1〜図4に見られるように、外観上、ツースブロック4とツースプレート5とを噛み合わせてステアリングコラム1を位置固定する従来様の構成に類似している。しかし、噛み合わせたツースブロック4に押されるツースプレート5が、右のコラム側摩擦板22と共に右の車体側摩擦板32を挟んで締め付けている(図2及び図3参照)。すなわち、本発明は、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5とで右の車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成とを兼ね備えたことを特徴とする。
【0023】
本例のステアリング装置は、ステアリングコラム1の保持筒12に取り付けたコラムブラケット2を支持ブラケット3で挟み、固定筒11に対して進退自在に保持筒12を外嵌した構成である。図示を省略しているが、固定筒11内を固定側操舵軸が貫通し、また保持筒12内を保持側操舵軸が貫通して、各操舵軸が嵌合関係にある。チルト機構は、車体に対して揺動自在に前記固定筒11を支持(軸支部分の図示略)させて、支持ブラケット3に対して保持筒12と一体になったコラムブラケット2の固定位置を上下(図1〜図3中上下)させることにより構成される。また、テレスコ機構は、支持ブラケット3に対して保持筒12と一体になったコラムブラケット2の固定位置を前後(図1中左右、図2及び図3中紙面直交方向)させることにより構成される。
【0024】
コラムブラケット2は、左右一対のフランジを上向きにし、前記各フランジの上縁を保持筒12に向けて直交するように折り曲げたチャンネル構造の板金部材で、左のフランジが左のコラム側摩擦板21、右のフランジが右のコラム側摩擦板22となる。左のコラム側摩擦板21は、操作軸6を挿通できる幅のコラム側直線状長孔211を、コラムブラケット2の延在方向と平行に設けている。右のコラム側摩擦板22は、前記操作軸6に外嵌する円筒状の押圧パイプ64を挿通できる幅のコラム側直線状長孔221を、前記左のコラム側直線状長孔211の左右対称位置に設けている。
【0025】
また、右のコラム側摩擦板22は、前記コラム側直線状長孔221の前後位置から右方にガイドピン222,222を突出させている。これにより、ツースプレート5は、ガイド挿通孔53に前記各ガイドピン222を挿通させ、突出した先端を潰して抜け止めを図ることにより(図4中、説明の便宜上、ガイドピン222の先端は潰した状態で図示している)、前記圧潰した部分を除くガイドピン222の長さの範囲で、右のコラム側摩擦板22に対して接近離反する。右の車体側摩擦板32は、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5との間に挿入され、右のコラム側摩擦板22の右面と、ツースプレート5の平坦な左面とに挟まれる。
【0026】
支持ブラケット3は、左右一対のフランジを下向きにしたチャンネル構造の板金部材で、左のフランジが左の車体側摩擦板31、右のフランジが右の車体側摩擦板32となる。本例のステアリング装置は、支持ブラケット3の前記車体側摩擦板31,32で、コラムブラケット2のコラム側摩擦板21,22を挟み込み、左の車体側摩擦板31の右面を左のコラム側摩擦板21の左面に摺接させ、また右の車体側摩擦板32の左面を右のコラム側摩擦板22の右面に摺接させる。これにより、操作軸6が車体側摩擦板31,32を締め付けると、コラム側摩擦板21,22が車体側摩擦板31,32との摩擦により位置固定され、ステアリングコラムが位置固定される。
【0027】
本例の支持ブラケット3は、ハンドルに加わる最初の衝撃を吸収する衝撃吸収装置を設けている。具体的には、支持ブラケット3は、車体側に位置固定され、前記フランジに挟まれるウェブに接面する車体側プレート33に、左右のフランジに設けた取付面を、左右一対のカプセル34を介して接続している。これにより、ハンドル(図示略)に衝撃が加わった際、前記カプセル34から離脱して、コラムブラケット2、支持ブラケット3と共に、ステアリングコラム1が前方(図1中右方向、図2及び図3中紙面直交奥)に移動できるようにして、前記カプセル34からの離脱に際して衝撃エネルギーを吸収する。
【0028】
左の車体側摩擦板31は、操作軸6を挿通できる幅で、車体に対して揺動自在に支持されるステアリングコラム1の揺動軸を中心とした円弧状長孔311を設けている。左の車体側摩擦板31に設けた円弧状長孔311は、左のコラム側摩擦板21に設けた直線状長孔211と交差する。右の車体側摩擦板32は、前記操作軸6に外嵌する円筒状の押圧パイプ64を挿通できる幅で、前記円弧状長孔311と同じ揺動軸を中心とした円弧状長孔321を、前記円弧状長孔311の左右対称位置に設けている。右の車体側摩擦板32に設けた円弧状長孔321は、右のコラム側摩擦板22に設けたコラム側直線状長孔221と、ツースプレート5に設けたプレート側直線状長孔51とに交差する。
【0029】
ツースプレート5は、ステアリングコラム1の固定筒11と平行に延びるプレート側直線状長孔51を有する板材で、右のコラム側摩擦板22に対向する左面が平坦で、右面に歯52を前記プレート側直線状長孔51の延在方向(=ステアリングコラム1の固定筒11の延在方向)に並べて設け、並んだ歯52の列より前側及び後ろ側に一対のガイド挿通孔53,53を開口している。プレート側直線状長孔51は、ツースブロック4のパイプ受け突起42が挿通できる幅である。ツースプレート5は、右のコラム側摩擦板22から右方に突出するガイドピン222,222をガイド挿通孔53,53に挿通して、前記右のコラム側摩擦板22に対して接近離反する。
【0030】
操作軸6は、回転ラチェット板61と固定ラチェット板62とから構成されるカム押圧部を貫通し、左の車体側摩擦板31の円弧状長孔311、左のコラム側摩擦板21のコラム側直線状長孔211、右のコラム側摩擦板22のコラム側直線状長孔221、右の車体側摩擦板32の円弧状長孔321、ツースプレート5のプレート側直線状長孔51の順に通され、ツースブロック4のパイプ受け突起42を抜けて先端の雄ネジ68を右方に覗かせる。そして、前記雄ネジ68に締付ナット67を螺合することにより、操作軸6を介してコラムブラケット2、支持ブラケット3、ツースブロック4及びツースプレート5が一体に保持される。
【0031】
カム押圧部を構成する回転ラチェット板61は、操作軸6の左端に取り付けた操作レバー63のレバー孔631にレバー孔用突起612を嵌合させ、前記操作レバー63の回転操作に連動して操作軸6と共に自転する。これに対し、固定ラチェット板62は、左の車体側摩擦板31の円弧状長孔311に円弧状長孔用突起622を嵌合させ、前記操作レバー63の回転操作に連動しない。回転ラチェット板61と固定ラチェット板62とは、対向関係にある回転側凸部611と固定側凸部621とを、特定の回転位置関係で当接させたり、互い違いに嵌合させたりして接近離反する。回転ラチェット板61及び固定ラチェット板62は、外周に互いの位置ズレを防ぐズレ防止突起があり、対向する回転側凸部611及び固定側凸部621は、前記ズレ防止突起の内側に設けてある(図4参照)。
【0032】
これにより、回転側凸部611と固定側凸部621とが当接すると、操作軸6が左方に引っ張られる結果、固定ラチェット板62から締付ナット67までの距離が短くなり、左の車体側摩擦板31、左のコラム側摩擦板21、右のコラム側摩擦板22、右の車体側摩擦板32、ツースプレート5、ツースブロック4が一体に締め付けられる。逆に回転側凸部611と固定側凸部621とが互い違いに相手方の周方向の狭間に嵌合すると、コイルスプリング65に付勢された押圧パイプ64にツースブロック4及び締付ナット67が右方に押される結果、固定ラチェット板62から締付ナット67までの距離が長くなり、左の車体側摩擦板31、左のコラム側摩擦板21、右のコラム側摩擦板22、右の車体側摩擦板32、ツースプレート5、ツースブロック4相互が緩められる。こうしたカム押圧部は、従来同種のステアリング装置にも見られる。
【0033】
ツースブロック4は、左方に歯41を向けて、右方に向けたツースプレート5の歯52に噛み合わせる。本例のツースブロック4は、テレスコ調整によりステアリングコラム1と共に前後に移動するツースプレート5に対して相対的に位置固定されるため、ツースプレート4との噛み合い関係が上下にずれないように、ツースプレート5の上縁及び下縁に掛合する正面視L字状のプレートガイド43を設けている。こうしたツースブロック4及びツースプレート5の噛み合い関係も、従来同種のステアリング装置にも見られる。
【0034】
本例のステアリング装置は、チルト調整又はテレスコ調整に際して上述したツースブロック4とツースプレート5との噛み合いを解消するため、操作軸6に外嵌した押圧パイプ64により、ツースブロック4をツースプレート5から遠ざかる右方へ常時押圧している。操作軸6は、左右のコラム側摩擦板21,22の間に、左からスプリング受けワッシャ66、コイルスプリング65、押圧パイプ64を外嵌し、前記押圧パイプ64の右端を右の車体側摩擦板32の円弧状長孔321に左方から差し込んでいる。コイルスプリング65は、圧縮された状態でスプリング受けワッシャ66と押圧パイプ64との間に介装されているため、前記スプリング受けワッシャ66を起点に押圧パイプ64を右方向に常時付勢する。
【0035】
押圧パイプ64は、右の車体側摩擦板32の円弧状長孔321に右方から差し込まれるツースブロック4のパイプ受け突起42に右端を当接させ、前記ツースブロック4を常時右方に付勢する。これにより、上述のようにカム押圧部が締付を緩めると、ツースブロック4がツースプレート5から離れ、噛み合いが容易に解消される。同様なツースブロック4の付勢手段は、従来同種のステアリング装置にも見られる。しかし、本発明のステアリング装置は、ツースブロック4とツースプレート5との噛み合いだけでなく、車体側摩擦板31,32、コラム側摩擦板21,22及びツースプレート5の締付による摩擦を利用してステアリングコラム1を位置固定するため、前記締付を妨げない付勢手段として、コラム側摩擦板21,22に挟まれた内側から付勢した押圧パイプ64を用いている。
【0036】
本例のステアリング装置は、コラム側摩擦板21,22と車体側摩擦板31,32とを圧接及び解放させる構成に加え、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5とで右の車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成とが協働してステアリングコラム1を位置固定する。本発明は、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5とで右の車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成とを兼ね備えることにより、ツースプレート5を取り除いても、右のコラム側摩擦板22を右の車体側摩擦板32に押し付けて圧接及び解放させる構成によりステアリングコラム1を位置固定できる特徴がある。
【0037】
コラム側摩擦板21,22と車体側摩擦板31,32とを圧接及び解放させる構成や、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5とで右の車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成は、操作軸6を保持する支持ブラケット3に対して、コラム側直線状長孔211,221及びプレート側直線状長孔51の範囲でステアリングコラム1を前後動及び位置固定させ、また円弧状長孔311,321の範囲で前記ステアリングコラム1が揺動及び位置固定させることから、テレスコ調整及びチルト調整におけるステアリングコラム1の位置固定を担う。ステアリングコラム1は、揺動軸(図示略)から離れた位置でコラムブラケット2を支持ブラケット3に対して位置固定されるため、確実に揺動が禁止される。
【0038】
また、ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成は、操作軸6を保持する支持ブラケット3に対して、コラム側直線状長孔211,221及びプレート側直線状長孔51の範囲でステアリングコラム1を前後動及び位置固定させることから、テレスコ調整におけるステアリングコラム1の位置固定を担う。ステアリングコラム1は、上述の通り、コラム側摩擦板21,22と車体側摩擦板31,32とを圧接及び解放させる構成や、右のコラム側摩擦板22とツースプレート5とで右の車体側摩擦板32を挟んで一体に締付及び解放させる構成に加え、ツースプレート5とツースブロック4とを噛み合わせる構成により位置固定されるため、確実に前後動が禁止される。
【0039】
本発明のステアリング装置は、ステアリングコラム1の前後動について、ツースプレート5とツースブロック4との噛み合わせほど強固な位置固定が必要ない場合、図5及び図6に見られるように、ツースプレート5及びツースブロック4の組を取り除いて構成できる。コラムブラケット2は、上記例示のものをそのまま用いるため、コラム側直線状長孔221の前後に、先端を潰していないガイドピン222が突出している。本例のステアリング装置は、上記例示の操作軸6(図1〜図4参照)をそのまま使うため、前記ツースプレート5及びツースブロック4の厚みを補うスペーサ7を操作軸6に装着している。しかし、例えば短い操作軸6に変更した場合、前記スペーサ7を用いなくても構わない。
【符号の説明】
【0040】
1 ステアリングコラム
11 固定筒
12 保持筒
2 コラムブラケット
21 左のコラム側摩擦板
211 コラム側直線状長孔
22 右のコラム側摩擦板
221 コラム側直線状長孔
222 ガイドピン
3 支持ブラケット
31 左の車体側摩擦板
311 円弧状長孔
32 右の車体側摩擦板
321 円弧状長孔
33 車体側プレート
4 ツースブロック
41 歯
42 パイプ受け突起
43 プレートガイド
5 ツースプレート
51 プレート側直線状長孔
52 歯
53 ガイド挿通孔
6 操作軸
61 回転ラチェット板
62 固定ラチェット板
63 操作レバー
64 押圧パイプ
65 コイルスプリング
66 スプリング受けワッシャ
67 締付ナット
68 雄ネジ
7 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムのテレスコ機構とチルト機構とを備えたステアリング装置において、
固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムを揺動自在に軸支する支持ブラケットから延びる車体側摩擦板を、前記ステアリングコラムの保持側操舵軸に外嵌した保持筒に設けたコラム側摩擦板とツースブロックに噛み合うツースプレートとにより挟み、
コラム側摩擦板とツースプレートとで車体側摩擦板を挟んで一体に締付及び解放させる構成と、前記ツースプレートとツースブロックとを噛み合わせる構成と兼ね備えたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
固定側操舵軸に対して進退自在に保持側操舵軸を嵌合させたステアリングコラムの前記固定側操舵軸を、前後方向の垂直面内で揺動自在に、車体に固定される支持ブラケットに軸支し、前記固定側操舵軸の揺動軸を中心とする円弧状長孔を有する左右の車体側摩擦板をそれぞれ支持ブラケットから延ばし、
ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるコラム側直線状長孔を有する左右のコラム側摩擦板をステアリングコラムの保持側操舵軸に外嵌した保持筒に固着し、
ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるプレート側直線状長孔を有するツースプレートを、前記プレート側直線状長孔とコラム側直線状長孔とを平行にし、ステアリングコラムの固定側操舵軸の延在方向に並ぶ歯を右方に向け、右のコラム側摩擦板から右方に突出するガイドピンを貫通させて前記右のコラム側摩擦板に対して右方から接近離反自在に支持させ、
左の車体側摩擦板の右側に左のコラム側摩擦板を摺接させ、右の車体側摩擦板の左側に右のコラム側摩擦板を摺接させて、右のコラム側摩擦板及びツースプレートで右の車体側摩擦板を挟み、
左の車体側摩擦板の円弧状長孔から左のコラム側摩擦板のコラム側直線状長孔を通って、右コラム側摩擦板のコラム側直線状長孔から右の車体摩擦板の円弧状長孔、ツースプレートのプレート側直線状長孔にわたって貫通するネジ軸である操作軸の右端に、ステアリングコラムの固定側操舵軸の延在方向に並ぶ歯を左方に向けたツースブロックを設け、左の車体側摩擦板と前記操作軸の左端の操作部との間に操作軸の回動に合わせて前記操作部を左方に押圧又は解除するカム押圧部を設けて、
操作部がカム押圧部に押されて左方に操作軸が移動することによりツースブロックを左方へ引き寄せて、右のコラム側摩擦板に対して右の車体側摩擦板及びツースプレートを押し付けるステアリング装置。
【請求項3】
左右の車体側摩擦板は、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるチャンネル構造の支持ブラケットが有する左右一対のフランジで、
左右のコラム側摩擦板は、ステアリングコラムの固定側操舵軸と平行に延びるチャンネル構造のコラムブラケットが有する左右一対のフランジであり、
支持ブラケットの左右の車体側摩擦板の間にコラムブラケットを嵌合させ、
左の車体側摩擦板の右側に左のコラム側摩擦板を摺接させ、右の車体側摩擦板の左側に右のコラム側摩擦板を摺接させて、右のコラム側摩擦板及びツースプレートで右の車体側摩擦板を挟んだ請求項2記載のステアリング装置。
【請求項4】
ツースブロックは、少なくとも右のコラム側摩擦板のコラム側直線状長孔を貫通する押圧パイプを左方から当接させ、前記押圧パイプと左のコラム側摩擦板との間で操作軸にコイルスプリングを遊嵌することにより、前記コイルスプリングに押される押圧パイプを介してツースプレートから遠ざかる向きに付勢された請求項2又は3いずれか記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236440(P2012−236440A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105044(P2011−105044)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000112082)ヒルタ工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】