説明

ステントおよびその製造方法

【課題】 血管挿入後拡大しやすく、拡大後は形態保持性の優れた、収縮しがたい構造のステント構造体およびその製造方法の提供。
【解決手段】 繊維構造体製チューブからなるステントにおいて、熱溶融可能なポリマーから形成された、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を含有することを特徴とするステント。
繊維構造体製チューブからなるステントの製造方法において、熱溶融可能なポリマーを紡糸して形成された未延伸の単繊維または前記単繊維の集合体に、レーザーを間歇的に照射しながら延伸することにより、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を製造し、前記単繊維から繊維構造体製チューブを製造することを特徴とするステントの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道等の生体管腔内に生じた狭窄部、もしくは閉塞部の改善に使用される生体内留置用のステントおよびその製造方法に関する。とくに、心臓冠動脈の狭窄改善に有効なステントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動脈などの生体管路に狭窄が発生した場合、生体管路内の流路を確保するために、その狭窄部位に円筒状のステントを挿入して留置することが知られている。
【0003】
近年では、生分解性ポリマーを用いたステントが種々提案されている。例えば、生分解性ポリマーからなる連続したモノフィラメント又はマルチフィラメントをジグザグ状に折り曲げながら筒状に巻き付けたステントが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の形態として、生分解性ポリマーからなるシート状又は管状の押出材にレーザー加工等を施すことにより作製されたステントも提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、生分解性材料からなる繊維の編物、織物又は組物からなるステント基材で構成されたステントも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第00/13737号パンフレット
【特許文献2】特表2007−515249号公報
【特許文献3】特開2007−130179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のステントの場合、モノフィラメント等の線状体を巻き付けて構成されているため、ステントとしての柔軟性に優れている反面、変形しやすく、変形した場合、もとの形態に戻りにくいという問題点を有する。
【0007】
一方、特許文献2のステントの場合、基材が押出材であることから、生体管路の形状に追従しにくい上に、狭窄部位に装着されたステントが縮径することにより拡径前の状態に復元するおそれがある。
【0008】
また、特許文献3のステントの場合、ステント基材は繊維の編物等で構成されているため、拡径により生体管路の形状に追従することは可能であるが、拡径された状態を維持するための形態保持性の点で不十分であるように思われる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、ステントとして機能する上で必要な剛性と柔軟性とを兼ね備え、拡径によく追従するとともに、拡径後において形態保持性に優れたステントを提供することを本発明第1の課題とし、その製造方法を提供することを本発明第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の第1の課題は、繊維構造体製チューブからなるステントにおいて、熱溶融可能なポリマーから形成された、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を含有することを特徴とするステントを提供することにより解決される。
【0011】
前記ステントにおいて、繊維構造体を構成する単繊維が、生分解性ポリマーから形成さ
れていることが好ましい。
また、前記ステントにおいて、前記単繊維の最大直径は、10μm〜300μmの範囲内にあることが好ましい。
さらにまた、前記ステントにおいて、前記単繊維の直径が変化する周期は10μm〜1mmの範囲内にあることが好ましく、前記単繊維の最小直径は、最大直径の0.1倍〜0.9倍の範囲内にあることが好ましい。
【0012】
前記ステントにおいて、前記繊維構造体が、織物、編物または組物であることが好ましい。前記織物、編物または組物は、前記単繊維1本からなるモノフィラメントから形成されていることが好ましい。前記繊維構造体において、ステントの拡張時にフィラメント同士の交叉部同士が単繊維の細部同士で形成されるように、前記繊維構造体のフィラメントが配置されていることが好ましい。
前記繊維構造体、とくに繊維構造体の単繊維が薬剤を含有することが好ましく、前記薬剤として血管内膜肥厚抑制剤が好ましく、なかでも血管内膜肥厚抑制剤であるアルガトロバンであることが好ましい。
前記繊維構造体を構成する単繊維が薬剤を含有するか、単繊維上もしくは繊維構造体上に、薬剤を含有するのに好適なポリマー被覆層が形成されていることが好ましい。
【0013】
上記の第2の課題は、繊維構造体製チューブからなるステントの製造方法において、熱溶融可能なポリマーを紡糸して形成された未延伸の単繊維または単繊維の集合体に、レーザーを間歇的に照射しながら延伸することにより、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を製造し、かかる単繊維から繊維構造体を製造することを特徴とするステントの製造方法を提供することにより解決される。
【0014】
前記のステントの製造方法において、レーザーは炭酸ガスレーザーであることが好ましく、レーザーの照射周期は、100μs(マイクロ秒)〜1000ms(ミリ秒)の範囲内にあることが好ましい。
前記のステントの製造方法において、前記未延伸の単繊維の直径は、10μm〜300μmの範囲内にあるのが好ましく、繊維の送出速度と巻取速度の比で定義される平均延伸倍率は、1.1〜10倍の範囲内にあるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明第1の構成によれば、ステントが、単繊維の長さ方向に繊維直径が周期的に変化する単繊維を含有する繊維構造体から形成されることにより、繊維構造体がステントの拡径に応じて変形した後、繊維直径の周期的変化の存在が拡径後の収縮を阻害して、ステントに形態保持性を与える。すなわち、繊維直径が周期的に変化する繊維を用いて、繊維直径の小さい部位同士を交叉部として形成された繊維構造体によりステントを形成した場合には、交叉部が繊維直径の小さい部位同士で形成されているため、変形応力に対して優れた形態保持性を示す。
【0016】
本発明第2の構成によれば、紡糸後の未延伸繊維にレーザーを間歇照射しながら延伸することにより繊維直径が周期的に変化する繊維を形成することができる。このような繊維直径が長さ方向に周期的に変化する単繊維を得て、これから繊維構造体を形成することができ、得られた繊維構造体からステントを形成することにより、形態保持性の優れたステントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】繊維をレーザー照射しながら延伸する態様を示す説明断面図である。
【図2】レーザーの間歇照射におけるパルスレーザーと繊維の直径変化を示す説明図である。
【図3】太細モノフィラメントが交差した組物を示す斜視図である。
【図4】レーザーを間歇照射・延伸して得られた繊維の側面を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ステント)
本発明のステントは、血管や気管、消化器管、尿管、卵管、胆管等種々の生体管路に適用し、生体管路に挿入して留置するのに用いることのできるものである。好ましくは、血管やリンパ管等の脈管、より好ましくは冠動脈等の血管に挿入されるのに適している。
ステントとしては、自己拡張型及びバルーン拡張型のいずれであってもよいが、好ましくは、バルーン拡張型である。ここで、自己拡張型ステントとは、チューブ等の保持体内に収容されることにより縮径された状態で体内に挿入され、装着部位にて保持体が引き抜かれた際に、自己の復元力により拡径されることで生体管路の内腔を確保する形態のものをいう。一方、バルーン拡張型ステントとは、バルーン外面に縮径された状態でマウントされたのちバルーンとともに体内に挿入され、装着部位にてバルーンの膨張に伴い拡径されたのちバルーンから独立させることで生体管路の内腔を確保する形態のものをいう。
本発明において、ステントは下記に述べるようにチューブ状の繊維構造体により構成されており、繊維構造体を構成する単繊維間の角度変化によってステントの拡張性を得ることができるが、単繊維直径の周期的変化により、拡張後はその形態の保持性を示す。
【0019】
(チューブ状繊維構造体)
本発明において、チューブ状繊維構造体とは、前記単繊維のモノフィラメント、マルチフィラメントなどの単繊維集合ヤーン、または、前記単繊維と、長手方向に直径が周期的に変化しない通常の繊維との混合ヤーンなどから構成される、織物、編物、組物などの各種の繊維構造体が、チューブ状に形成された、または繊維構造体形成後チューブ状に形成されたものをいう。上記の織物などは、単層構造だけでなく複数の構成で繊維構造体を形成してもよい。繊維構造体の種類の選択、繊維構造体を構成する単繊維の素材、細い部分の直径、太い部分の直径、直径変化の周期、モノフィラメント、マルチフィラメントなどのヤーンの構成などの選択は、上記の範囲内において適宜なしうる。
チューブ状繊維構造体のチューブの直径としては、ステントの使用箇所によるが、心臓血管に挿入する場合には、拡張前の状態において、約0.5mmから約3.0mmであることができ、より限定すると、約0.7mmから約2mmであることができる。
【0020】
(ポリマー素材)
本発明において、単繊維を構成するポリマー素材としては、レーザー照射により熱溶融して延伸可能なポリマー素材であればいずれでもよく、例えば、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル)、熱可塑性ポリウレタン系、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ビニルアルコール系(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレン系、フッ素系樹脂などがあげられるが、なかでも、生体内に留置されてから分解消失することのできる生分解性ポリマーが好ましい。生分解性ポリマーとしては、例えば、上記のポリ乳酸以外にも、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリネオペンチレンサクシネートなどのポリアルキレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリグリコール酸、ポリリンゴ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸などのポリオキシカルボン酸、ポリプロピオラクトン、ポリカプロラクトンなどのポリラクトン、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリ−ジオキサノン、ポリ(グリコール酸−トリメチレンカーボネート)などが挙げられるが、なかでも、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸―グリコール酸)が好ましい。なお、本明細書において、生分解性とは、生分解性、生体内分解性および/または生体内吸収性を意味しており、通常、生分解性ポリマーは、好ましくは2年以内に、より好ましくは1年以内に、インビボで分解して生体に吸収される。
【0021】
(薬剤の配合)
前記のポリマーを溶融または溶剤に溶解してノズルから押し出して繊維形成を行うときに、ポリマーに薬剤を混合することにより、薬剤を配合した繊維を形成することができる。薬剤を配合したステントを生体内留置することにより、ステントから薬剤を放出することができ、これによる治療効果を期待することができる。
紡糸するための溶融ポリマーまたはポリマー溶液調整時、または、レーザーの間歇照射によりポリマーを軟化溶融状態にする延伸時に、かなりの熱が加えられるたり、発生するため、薬剤として耐熱性の高いものが求められる。
かかる耐熱性のある薬剤としては、少なくとも100℃の加熱により分解しない薬剤であることが好ましく、例えば、特開2010−264253号公報に開示されている、内皮細胞の増殖を阻害することなく、血管内膜肥厚抑制効果を有するアルガトロバン[(2R,4R)−4−メチル−1−[N2−(RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸水和物]は耐熱性も高く、本発明において好ましく用いることができる。また、上記の薬剤以外にも、プロテアーゼ阻害効果を有するザイメガトラン、メガトラン、ダビガトラン、ダビガトランエテキシレートメタンスルホン酸塩、メシル酸ガベキサート[エチル−4−(6−グアニジノヘキサノイロキシ)ベンゾエートメタンスルホネート]、メシル酸ナファモスタット(6−アミジノ−2−ナフチルp−グアニジノベンゾエートジメタンスルホネート)、ジピリダモール(2,6−ビス(ジエタノールアミノ)−4,8−ジピペリジノピリミド(5,4−d)ピリミジン]、トラピジル(7−ジエチルアミノ−5−メチル−s−トリアゾロ[1,5−a]ピリミジン)等が、耐熱性が高く、ポリマーに配合する薬剤として挙げることができる。
これらの薬剤は、ポリマーに対する重量比率で、0.1重量%〜30重量%程度の範囲内で配合することができる。ポリマーに配合された薬剤は、繊維構造体の単繊維中に含有されているので、ステントとして用いられたときに、体内に徐々に放出することができる。
薬剤を配合する場合のポリマーとしては、前記のポリマーの中でも、生分解性のポリマーを用いることが好ましい。
【0022】
(単繊維の形成)
本発明においては、紡糸された単繊維が未延伸状態で間歇レーザー照射されることにより、繊維直径が周期的に変化した繊維を得ることができる。単繊維を得るための紡糸方法としては、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸のいずれでもよいが、熱溶融可能なポリマーを溶融紡糸により単繊維形成し、ついでレーザー間歇延伸を行うことがプロセス的にはシンプルであり、好ましい。溶融紡糸は、溶融したポリマーをノズルから押し出すことにより行うが、モノフィラメントとして巻取ってもよく、マルチフィラメントとして巻取ってもよい。
ポリマーを単繊維状に押出しを行うノズル形状としては、通常、円孔が用いられるが、
異形断面糸形成用のノズルでもよく、また、芯鞘型複合糸を形成するノズルを使用することも可能である。
レーザー間歇延伸を行うための、紡糸後の繊維としては、単繊維直径が10μm〜300μmの範囲内にあることが好ましく、20μm〜200μmの範囲内にあることがさらに好ましい。10μm未満では、単繊維として十分な強度が得にくく、繊維構造物を製造するための各工程における工程通過性の点でもステントとしての機械的性質の点でも好ましくない。また、300μmを超えると、ステントを製造するための繊維としては好ましくない。
【0023】
(レーザー照射・延伸)
本発明において、紡糸後未延伸繊維へのレーザー間歇照射は、図1に示すように、主な構成要素として、レーザー照射装置1、送出ローラー2および巻取ローラー3を備える装置により行うことができる。炭酸ガスレーザー発生装置1から照射されたレーザーは、スリットを介して所定の幅を有するレーザービ−ムPLとして、送出ローラー2から繰り出される未延伸繊維Fに照射され、照射された繊維は巻取ローラー3に巻き取られる。送出ローラー2と巻取ローラー3の速度比により、延伸倍率をコントロールすることができる。図1に示されているように、繊維は照射点において急速に加熱・延伸される。
レーザービームを発生させるための光源としては、YAGレーザー、炭酸ガス(CO)レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、ヘリウム−カドミウムレーザー、固体半導体レーザーなどが挙げられる。これらのレーザー光源のうち、電源効率が高く、熱可塑性樹脂の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザーが好ましい。
レーザービームの波長は、例えば、200nm〜20μm、好ましくは500nm〜18μm、さらに好ましくは1〜15μmである。
レーザーの照射方法は、特に限定されないが、未延伸繊維に対して局所的に照射できる点から、未延伸繊維表面に対して略直角方向から照射する方法が好ましい。レーザーを未延伸繊維に照射する範囲は、繊維形状に応じて適宜設定すればよい。生成されるライン状のレーザービームは、熱溶融に有効なエネルギー密度を有する領域が照射ラインに沿って帯状に形成され、長手方向に所定の長さで短手方向に所定の幅で所定の深さまで形成されるように、レンズ、ミラー、スリットなどからなる光学系によって調整することが好ましい。またこの場合のビーム幅は10μm〜10mmの範囲、好ましくは、100μm〜1mmの範囲である。
レーザービームの平均出力は、ポリマー素材の物性値(融点、LOI値(限界酸素指数))、照射される繊維束の形状及び繊維の移動速度などに応じて適宜選択すればよく、例えば、ポリマー素材の温度がレーザービーム照射前よりも1〜300Kだけ昇温する条件範囲内にあることが好ましく、昇温範囲が10〜100Kの範囲内にあることがさらに好ましい。
レーザー照射される繊維としては、未延伸のモノフィラメント、または無撚りの未延伸マルチフィラメントが用いられる。レーザー間歇照射により得られた繊維直径に周期的変化のある繊維は、モノフィラメントとしてそのまま繊維構造体の形成に用いられてもよく、複数本集束してマルチフィラメントとして用いられてもよく、他の繊維と混合されながら集束してもよい。
【0024】
(間歇レーザー照射)
レーザーの動作モードは励起形式により、連続励起とパルス励起に大別されるが、本発明においては、パルス励起形式を用いるか、連続励起形式を用いつつ短時間で発振と停止を繰り返すことにより、レーザービームを間歇的に照射することが必要である。パルス幅とパルス周期としては、所望の単繊維直径の変化の周期により適宜選択されるが、パルス幅としては、1μs(マイクロ秒)〜500ms(ミリ秒)の範囲、好ましくは10μs〜200msの範囲にあり、パルス周期としては、100μs〜1000msの範囲、好ましくは、1ms〜400msの範囲である。図2は、パルス幅および周期と、レーザーパルスが照射された繊維の直径変化の態様を示しているが、パルス幅およびパルス周期の変化は、繊維の直径変化にそのまま反映されている。パルス幅が小さすぎる場合、パルス相互間の強度変動が大きくなり、また、パルス幅が大き過ぎると、対応する糸送り速度の変動が大きくなりすぎるため、パルス周期が多すぎても少なすぎても、直径の周期的変化による繊維特性の発揮が行われにくい傾向になる。
本発明においては、送出ローラーから未延伸繊維を任意の速度で送り出しながら、レーザーを間歇照射しつつ延伸し(送出ローラーよりも速い速度で、巻取ローラーで巻き取ることにより延伸し)、直径が周期的変化した繊維を形成することができる。
延伸倍率としては、1.1倍〜10倍の範囲、好ましくは1.3倍〜3.0倍の範囲で行うことができる。
【0025】
(直径の周期的変化のある繊維)
上記のレーザーの間歇照射を行うことにより、種々の形状の単繊維を得ることができるが、ステントを構成する繊維構造体を得るためには、延伸後の単繊維として、最大直径が10μm〜300μmの範囲内、好ましくは、20μm〜200μmの範囲にあるものを用いることが有利である。また、単繊維の直径が変化する周期としては、10μm〜1mmの範囲、好ましくは、50μm〜500μmの範囲にある繊維を用いることが出来る。さらにまた、単繊維の最小直径が最大直径の0.1倍〜0.9倍、好ましくは、0.2倍〜0.7倍の範囲にあるのが有利である。
上記の範囲を外れて、繊維の最大直径が小さすぎたり、最大直径に対する最小直径の比率が小さすぎたりすると、繊維の機械的強度がステント基材として不十分になる場合があり、また、繊維の最大直径が大きすぎる場合には、ステント基材として要求される可撓性が不十分になるおそれあり、最大直径に対する最小直径の比率大きい場合には、直径の周期的変化による特性が十分に発揮されない恐れがある。
得られた延伸後の繊維は、さらに要すれば熱固定を行ってもよい。
【0026】
(繊維構造体の形成)
上記のようにして得られた、直径が周期的に変化した繊維は、モノフィラメント、マルチフィラメントまたは他の繊維との混合フィラメントとしてから、繊維構造物を形成する。繊維構造物としては、織物、編物、組物などの種々の形態を挙げることができる。生体内に挿入するに適したチューブ形状にしながら、繊維構造体を形成してもよく、また、繊維構造体を形成した後にチューブ形状を形成してもよい。
繊維構造体が織物である場合には平織が望ましく、編物である場合には経編、組物である場合には、丸打で作製されることが望ましい。
本発明において、繊維構造体を構成する単繊維として、上記のような単繊維直径に周期性のある単繊維を用いることにより、単繊維の直径の小さい部分が繊維と繊維の交点にあり、単繊維の直径の大きい部分が、非交点にあるように繊維構造体を構成することにより、繊維構造体の形態保持性がよく、ステントを血管挿入・拡張後、血管内において安定された状態で保持できるという効果を有する。図3は、単繊維直径に周期性のあるモノフィラメントヤーンから構成された繊維構造体(組物)の一例を示す図である。ステント拡張時に単繊維同士の角度が変化することで拡張し、拡張完了後においては、単繊維の周期性が障害となって、チューブの収縮が阻害されるという効果を奏することができる。
【0027】
(ポリマー被覆)
上記のようにして形成したチューブ状繊維構造体の表面に要すれば柔軟なポリマーコート層を設けて、ポリマーコート層に薬剤を含浸させることができる。薬剤の混合としては、前述のように紡糸するポリマーの中に混合して単繊維中に導入することもできるが、薬剤の中には、ポリマーメルト時の熱により分解するものもあるので、繊維形成後にポリマー被覆により、ポリマーコート層中に含有させることの方が有利である場合がある。この場合には、原料ポリマーに配合する場合における薬剤の耐熱性を考慮する必要はない。
ポリマーコート層を形成するポリマーとしては、溶剤に溶解して被膜形成性のあるポリマーであればいずれでもよいが、なかでも、繊維構造体の動きに追従できる点から、体内において、柔軟性のあるものが好ましい。かかるポリマーとして、シリコンゴム、ウレタンゴム、ポロブチルアクリレ−トなどのポリマーを例示することが出来るが、好ましくは、前述の生分解性のポリマー、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸―グリコール酸)、ポリ(乳酸―ε―カプロラクトン)などの生分解性ポリマーを用いるのが有利である。これらのポリマーを溶剤に溶解して薬剤と混合し、スプレーコートなどの方法により、上記の繊維構造体の表面に塗布し、ポリマー被覆層を形成することができる。このポリマー被覆層の中に薬剤が混合されているので、生体内留置後、薬剤が徐々に放出されて薬理効果を発揮することができる。ポリマーコート層の厚みは、1〜50μmの範囲内で適宜選択することができる。
ポリマーに混合される薬剤としては、アルガトロバンなどの内膜肥厚を抑制する薬剤、
抗ガン剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤などの各種の薬剤の中から適宜選択されて使用することができる。
【0028】
(不織布被覆)
上記のように形成したチューブ状繊維構造体の外周表面を、熱可塑性ポリマー融液を静電噴霧して形成される微細繊維で被覆し、微細繊維を形成するポリマー融液中に薬剤を含有してもよい。この場合には、繊維直径が周期的に変化する単繊維から構成された繊維構造体によりステント本体と、該本体を被覆する微細繊維層とからステントは構成されている。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
下記のポリマーチップを溶融してノズルから押し出し、単繊維の直径が150μmのモノフィラメントを形成しながら、延伸を行うことなく巻き取った。
a ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.624dL/g)
b ポリプロピレン(MFR:30g/10min)
c ポリ乳酸(D体;3重量%、L体97重量%)(平均分子量:27万;融点179℃)(MFR:13.5g/10min)
これを、図1に示す装置を用いて、モノフィラメントを0.1m/minの速度で巻き出しながら、炭酸ガスレーザーを間歇照射するとともに、2.5倍の延伸をしながら、0.25m/minの速度で巻き取った(平均延伸倍率:2.5倍)。間歇照射により延伸されたた繊維の側面図(観察画像)を図4に示す。図4(イ)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、図4(ロ)は、ポリプロピレン(PP)繊維、図4(ハ)は、ポリ乳酸繊維(PLLA)である。なお、レーザー照射の条件は下記のとおりである。
レーザー照射条件:
レーザービームの波長: 10.6 μm
レーザービームの出力: (イ)0.5W、(ロ)0.8W、(ハ)0.3W
レーザーのパルス周期: 140ms(ON:70ms、OFF70ms)
得られた繊維の最大直径、最小直径/最大直径の比率、単繊維直径の変化の周期を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
<実施例2>
実施例1で得られたポリ乳酸のモノフィラメントヤーンを経糸および緯糸として用いて、図3に示す組物を作製した。
得られた組物を製紐機により8つ組で丸組することで外径2.0mmのチューブ状組物からなるステントを得ることができた。
このチューブ状繊維構造物からなるステントにバルーンを挿入して、生理食塩水中で拡径したところ、拡径はスムースに行われた。拡径後バルーンを抜いた後も、拡径時の形態を維持することが可能で、形態保持性が優れていることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のステントは、血管に挿入して拡張後、収縮することなく形態を保持することが可能であることから、治療に有効であり、また、ステントを生分解性ポリマーで形成する場合には、血管挿入後、所定期間経過後、生体内で消失することから、再手術して取り出すことの必要性がなくなり、この面からも有効である。
また、このステントに薬剤を含有させることにより、生体内において薬剤を徐放せることができる。
したがって、本発明は、ステント用に好適な直径に周期的変化のある繊維を製造する繊維製造分野、かかる周期的変化のある繊維から繊維構造物を製造する繊維構造物製造分野、この繊維構造物からステントを製造する医療器具製造分野、このステントを用いて治療を行う医療業界などにおいて、産業上の利用可能性が高い。
【0033】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1 炭酸ガスレーザー照射装置
2 送出ローラー
3 巻取ローラー
F 繊維
PL パルスレーザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体製チューブからなるステントにおいて、
熱溶融可能なポリマーから形成された、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を含有することを特徴とするステント。
【請求項2】
請求項1において、前記単繊維が、生分解性ポリマーから形成されているステント。
【請求項3】
請求項1または2において、前記単繊維の最大直径は、10μm〜300μmの範囲内にあるステント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、前記単繊維の直径が変化する周期は、10μm〜1mmの範囲内にあるステント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記単繊維の最小直径が最大直径の0.1倍〜0.9倍の範囲内にあるステント。
【請求項6】
請求項1において、前記繊維構造体が、織物、編物または組物であるステント。
【請求項7】
請求項6において、前記織物、編物または組物は、前記単繊維1本からなるモノフィラメントから形成されているステント。
【請求項8】
請求項7において、ステントの拡張時に前記繊維構造体のフィラメント同士の交叉部が単繊維の細部同士により形成されるように、前記繊維構造体においてフィラメントが配置されているステント。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、前記繊維構造体が薬剤を含有するステント。
【請求項10】
請求項9において、前記薬剤が血管内膜肥厚抑制剤であるステント。
【請求項11】
請求項10において、前記血管内膜肥厚抑制剤がアルガトロバンであるステント。
【請求項12】
請求項9において、前記繊維構造体の単繊維が薬剤を含有するステント。
【請求項13】
請求項1において、前記繊維構造体上または前記繊維構造体の単繊維上にポリマー被覆層が形成されているステント。
【請求項14】
繊維構造体製チューブからなるステントの製造方法において、
熱溶融可能なポリマーを紡糸して形成された未延伸の単繊維または前記単繊維の集合体に、レーザーを間歇的に照射しながら延伸することにより、単繊維の長さ方向に単繊維直径が周期的に変化する単繊維を製造し、前記単繊維から繊維構造体製チューブを製造することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項15】
請求項14において、レーザーは炭酸ガスレーザーであるステントの製造方法。
【請求項16】
請求項14または15において、レーザーの照射周期は、100μs〜1000msの範囲内にあるステントの製造方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項において、前記未延伸の単繊維の直径は、10μm〜300μmの範囲内にあるステントの製造方法。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか1項において、延伸倍率は、1.1倍〜10倍の範囲内にあるステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−42914(P2013−42914A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182464(P2011−182464)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【Fターム(参考)】