説明

ステータ構造

【課題】ステータコアのスロットに装着したマグネットワイヤの占積率が高いステータ構造を提供する。
【解決手段】多数個の凹状スロット5と多数個の凸状磁極6とを周方向に交互に有するステータコア4と、金属線の外周面に絶縁被膜を形成した横断面矩形のマグネットワイヤ1と、を備え、スロット5の両側面の間隔寸法はスロット5の底部から先端開口部に向かって小さくなるように形成され、マグネットワイヤ1は磁極6に巻設されると共にスロット5内に積層状に挿入され、マグネットワイヤ1の幅寸法をスロット5の底部から先端開口部に向かって連続的に又は段階的に小さくなるように配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアにマグネットワイヤ(線状部材)を装着したステータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに於て、磁性材料から成る短筒状のステータコアには、その内周面に(周方向に)多数個の凹状スロットと多数個の凸状磁極とが交互に配設され、マグネットワイヤが磁極に巻回されると共にスロット内へ積層状に挿入されて、磁界を発生させるためのステータが形成される。
モータが大きい回転トルクを効率良く得るためには、スロット(空間)内のマグネットワイヤの占積率(マグネットワイヤの占める体積の割合)を高くする必要があり、従来、スロット内に配設したマグネットワイヤ同士の隙間をなくすために、横断面形状を矩形にしたマグネットワイヤがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−174561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、図25に示すステータコア4のように、スロット5の両側面9,9の間隔寸法W2 が、スロット5の底部7から先端開口部8に向かってテーパー状に小さくなるように形成されている場合は、マグネットワイヤ41は長手方向に渡って同じ幅寸法W1 に形成されているため、特にスロット5の底部7付近では、マグネットワイヤ41とスロット5の両側面9,9との間に大きな隙間Sが生じ、マグネットワイヤ41の占積率が高くなるようにスロット5内に配設することができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、ステータコアのスロットに装着したマグネットワイヤの占積率が高いステータ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るステータ構造は、多数個の凹状スロットと多数個の凸状磁極とを周方向に交互に有するステータコアと、金属線の外周面に絶縁被膜を形成した横断面矩形のマグネットワイヤと、を備え、上記スロットの両側面の間隔寸法は該スロットの底部から先端開口部に向かって小さくなるように形成され、上記マグネットワイヤは上記磁極に巻設されると共に上記スロット内に積層状に挿入され、該マグネットワイヤの幅寸法を上記スロットの底部から先端開口部に向かって連続的に又は段階的に小さくなるように配設したものである。
また、上記マグネットワイヤの上記金属線の横断面積を該金属線の長手方向に渡って同一となるように形成したものであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のステータ構造によれば、モータのステータコアのスロット(凹溝)内に積層状に挿入するマグネットワイヤの幅寸法を、スロットの幅寸法に対応して形成することができる。即ち、マグネットワイヤをスロット内に隙間をほとんど空けずに配設することができ、マグネットワイヤのスロット内の占積率を著しく向上させて、大きな回転トルクを効率良く得られるモータを製造することができる。言い換えれば、従来のモータと同等のトルクを小さいサイズのモータで得ることができ、モータのコンパクト化・軽量化を図って省エネルギーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のステータ構造の実施の一形態を示す一部断面正面図である。
【図2】要部拡大断面図である。
【図3】マグネットワイヤの第1の実施形態を示す説明図であって、(a)は斜視説明図、(b)は横断面説明図である。
【図4】マグネットワイヤの平面図であって、(a)第1の実施形態を示す平面図、(b)は第2の実施形態を示す平面図である。
【図5】本発明のステータ構造の他の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図6】マグネットワイヤの平面図であって、(a)は第3の実施形態を示す平面図、(b)は第4の実施形態を示す平面図、(c)は第5の実施形態を示す平面図、(d)は第6の実施形態を示す平面図、(e)は第7の実施形態を示す平面図、である。
【図7】別の実施の形態を示す平面図である。
【図8】マグネットワイヤの製造工程を示す全体概略図である。
【図9】上下加圧ロールを示す正面図である。
【図10】左右加圧ロールを示す正面図である。
【図11】マグネットワイヤを巻取ドラムに巻き取った状態を示す正面図である。
【図12】偏心ロールを示す説明図であって、(a)は側面説明図、(b)は正面説明図である。
【図13】卍型ロールを示す正面図である。
【図14】クロス圧延ロールを示す平面図である。
【図15】溝付き圧延ロールを示す説明図であって、(a)は側面説明図、(b)は正面説明図である。
【図16】金型を示す説明図であって、(a)平面説明図、(b)側面説明図である。
【図17】マグネットワイヤのステータコアへの装着の仕方を示す説明図である。
【図18】金属線の製造方法のさらに別の実施の形態を示す全体説明図である。
【図19】製造方法の説明用斜視図である。
【図20】他の製造方法説明図であって、(a)は断面側面説明図、(b)は平面説明図である。
【図21】別の製造方法説明図であって、(a)は断面側面説明図、(b)は平面説明図である。
【図22】さらに別の製造方法説明図であって、(a)は断面側面説明図、(b)は平面説明図である。
【図23】さらに他の製造方法説明図であって、(a)は断面側面説明図、(b)は平面説明図である。
【図24】その他の変形例を示す平面説明図である。
【図25】従来のマグネットワイヤ及びそれを装着したステータ構造を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図3(a)は線状部材(マグネットワイヤ)の第1の実施形態を示す斜視説明図、(b)はその横断面説明図であり、また、図4(a)は本発明の第1の実施形態を示す平面図、(b)は第2の実施形態を示す平面図である。本発明に係る線状部材1はマグネットワイヤとして好適なものであるので、以下の説明に於ては、線状部材1をマグネットワイヤ1と同一符号をもって呼ぶ場合がある。
図3(b)に示すように、線状部材1(マグネットワイヤ1)は、銅製等の導伝性に優れた金属線(導線)2と、金属線2の外周面に絶縁性樹脂等の絶縁材料を被覆して成る絶縁被膜3と、を有している。そして、横断面矩形(長方形又は正方形)の金属線2の外周面に絶縁被膜3を均一厚さに形成して、横断面形状は矩形(長方形又は正方形)のマグネットワイヤ1が構成されている。
【0010】
マグネットワイヤ1の幅寸法W1 は、マグネットワイヤ1の長手方向に渡って(左から右へ向かって)連続的に大きくなるように設定されている。具体的には、図4(a)に示すように、マグネットワイヤ1の長手方向に伸びて配設される第一長辺部11と第二長辺部12との間の幅寸法W1 が、マグネットワイヤ1の一短辺部1aから他短辺部1bに向かって連続状に(次第に)大きくなっている。図4(a)の場合、第二長辺部12は両短辺部1a,1bに直交して配設され、かつ、第一長辺部11が第二長辺部12に対し傾斜して配設された片勾配状に形成されている。また、図4(b)に示す如く、第一長辺部11と第二長辺部12とを両勾配状に配設してもよい。
なお、金属線2の幅寸法W3 (図3(b)参照)も、マグネットワイヤ1と同様に長手方向に渡って連続的に大きくなるように設定されている。
図3(a)と図4(a)(b)に於て、L1 はマグネットワイヤ1の(1ピッチぶんの)長さ寸法である。
【0011】
また、金属線2の横断面積は、金属線2の長手方向に渡って同一となるように形成されている。即ち、金属線2の幅寸法W3 が長手方向に渡って大きくなるに伴って、逆に金属線2の厚さ寸法T3 は小さくなるように形成されている。
また、図3(a)に示すように、マグネットワイヤ1も、幅寸法W1 が長手方向に渡って大きくなるに伴って、逆にマグネットワイヤ1の厚さ寸法T1 は小さくなるように形成されている。
【0012】
図1はマグネットワイヤ1をステータコアに装着したステータ構造の一部断面正面図、図2はその要部拡大断面図である。
図1に於て、4は磁性材料からなる短筒状のステータコアであり、ステータコア4の内周面には、多数個の凹状スロット5と多数個の凸状磁極6とが周方向に交互に配設されている。ステータコア4の磁極6には、上述したマグネットワイヤ1が巻設されると共にスロット5内にマグネットワイヤ1が積層状に挿入されている。
【0013】
図2に於て、スロット5の両側面9,9の間隔寸法W2 は底部7から先端開口部8に向かって小さくなるように(テーパー状に)形成され、このスロット5内にマグネットワイヤ1がその幅寸法W1 がスロット5の底部7から先端開口部8に向かって連続的に小さくなるように配設されている。即ち、スロット5内に配設(挿入)されたマグネットワイヤ1は、図2に示す如く、底部7から先端開口部8へ向かって(両側面9,9に沿うように)一段ずつ順に幅寸法W1 が小さくなる階段状に積層されている。
【0014】
図6(a)〜(e)は、マグネットワイヤ1の第3〜第7の実施形態を示す平面図である。
図6(a)は、マグネットワイヤ1の幅寸法W1 を長手方向に渡って(左から右へ向かって)段階的に大きくなるように形成している。具体的には、マグネットワイヤ1の長手方向に伸びて配設される第一長辺部11と第二長辺部12とが、左から右へ向かって階段状に(互いに離れるように)広がって形成され、(図示省略の)長手方向の中央線を対称軸として互いに線対称に配設されている。
【0015】
例えば、図6(a)に示すマグネットワイヤ1を(長手方向に引き延ばしたものを)、図1に示すステータコア4に装着すると図5に示すような状態となる。つまり、スロット5内に積層状に挿入されたマグネットワイヤ1は、その幅寸法W1 がスロット5の底部7から先端開口部8に向かって段階的に小さくなるように配設されているため、図5の要部拡大断面図に示す如く、マグネットワイヤ1は底部7から先端開口部8へ向かって二段ごとに幅寸法W1 小さくなるように積層されている。
【0016】
図6(b)に示すマグネットワイヤ1は、その幅寸法W1 が長手方向に渡って連続的に小さくなり途中(中間位置)で連続的に大きくなるように形成されている。具体的には、中間位置で屈折した第一長辺部11と、ストレート状の第二長辺部12と、を有し、第一長辺部11は、その一端から中間位置へ向かって第二長辺部12に次第に接近し、中間位置から他端へ向かって第二長辺部12から離間するように配設されている。言い換えれば、図4(a)に示すマグネットワイヤ1を、その一短辺部1aを対称軸として2個(左右)線対称に連設した形状となっている。
【0017】
また、図6(c)に示すのは、幅寸法W1 が長手方向に渡って段階的に小さくなり途中(中間位置)で段階的に大きくなるように形成されたマグネットワイヤ1である。第一長辺部11と第二長辺部12とが、それぞれ一端から中間位置へ向かって互いに階段状に接近し、中間位置から他端へ向かって互いに階段状に離間するように配設されている。言い換えれば、図6(a)に示すマグネットワイヤ1を、2個(左右)線対称に連設した形状となっている。
【0018】
図6(d)は、長手方向に渡って途中二箇所で幅寸法W1 が(急に)大きくなったマグネットワイヤ1である。この場合、第一長辺部11と第二長辺部12とが、(急に)互いに離間・接近するのを長手方向に渡って途中二箇所で行って2個の幅広部を形成している。
【0019】
図6(e)も、長手方向に渡って途中二箇所で幅寸法W1 が(急に)大きくなったマグネットワイヤ1であるが、この場合は、第一長辺部11が、ストレート状の第二長辺部12に対し、長手方向に渡って途中二箇所で(急に)離間・接近するように配設されて幅広部が形成されている。
【0020】
図示省略するが、図4(a)(b)、図6(b)に於て、第一長辺部11・第二長辺部12はそれぞれ直線又は直線を折曲げた屈折線から成っているが、図24(a)(b)に2点鎖線で示すように凸曲線32にて第一長辺部11、及び/又は、第二長辺部12を形成しても良く、あるいは、1点鎖線にて示すように凹曲線33にて第一長辺部11、及び/又は、第二長辺部12を形成しても、自由である。このように、マグネットワイヤ1は、その幅寸法W1 を長手方向に渡って、直線にて、又は、曲線にて、あるいは、直線と曲線とを組み合わせて、連続的に変化させる。
また、マグネットワイヤ1の幅寸法W1 を長手方向に渡って段階的に変化させた図6(a)と(c)〜(e)に於て、各マグネットワイヤ1は、直角に形成された角部(隅部)を有しているが、この場合の「段階的に変化させること」には、直角でなく滑らかな弧状に形成する場合も含むと定義する。
【0021】
また、ステータコア4も(図1、図2に示す)上記実施の形態に限らず、例えば、ステータコア4の外周面にスロット5を配設したものでもよく、また、スロット5の両側面9,9の間隔寸法W2 を、段階的に変化させたり、底部7から先端開口部8へ向かって大きくなるように形成しても自由であり、これら以外の形状であっても構わない。
そして、マグネットワイヤ1は、ステータコア4(スロット5)の形状やステータコア4への巻設の仕方(図示省略)に対応して幅寸法W1 を連続的又は段階的に変化させることが可能であり、上記図4(a)(b)及び図6(a)〜(e)以外に、例えば、図24(a)(b)のように、凸曲線32や凹曲線33をもって、幅寸法W1 を変化させ、あるいは、
図24 (c)(d)に2点鎖線34にて示すように、段階的な変化と、連続的(勾配的)変化とを、結合しても望ましい。さらに、図7又は図24に於て、符号50は“渡り部”を示し、この“渡り部”50とは、(最終的な)製品には使用しないが製造上必要な部分を指し、例えば、長尺のマグネットワイヤ1を巻くときの掴持代(つかみ代)としたり、長さ調整のための余備代等に利用される。さらに説明すれば、所定長さ寸法L1 に切断されるマグネットワイヤの何倍も長尺の線状部材1を、(後述の製法によって)製造し、その後、所定長さL1 に切断する際に、上記渡り部50にて切断して、渡り部50にて寸法調整したり、工具(治具)のつかみ代として、活用可能である。
【0022】
また、スロット5内のマグネットワイヤ1の占積率を一層向上させるために、マグネットワイヤ1(金属線2)の横断面形状を台形に形成してもよい。即ち、図2に於て、スロット5の各側面9,9に対向するマグネットワイヤ1の側面部を、スロット5の側面9,9と同じ傾斜角度で傾斜して配設すれば、マグネットワイヤ1をスロット5内に高密度(高い占積率)で挿入することが可能となる。
【0023】
なお、図6(a)〜(e)に示すマグネットワイヤ1に於て、上述した図4(a)(b)に示すマグネットワイヤ1との差異点以外は、同様の構成であるので説明を省略する。
また、マグネットワイヤ1の形状、マグネットワイヤ1のステータコア4への巻設の仕方等に対応して、絶縁被膜3の厚さ寸法をマグネットワイヤ1の長手方向に渡って変化させて形成しても自由である。
【0024】
次に、マグネットワイヤの製造方法(工程)について説明する。
図8は、マグネットワイヤの製造工程を示す全体概略図であり、13は供給ドラム、14は張力調整装置、15は加工ロール装置、16は電着バス、17は乾燥装置、18は焼付け炉、19は巻取ドラムである。
【0025】
横断面円形の金属線2を巻設した供給ドラム13から金属線2を繰り出し加工ロール装置15へと送る。加工ロール装置15は、供給ドラム13から送られる横断面円形の金属線2を、所望の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 に調整しつつ横断面矩形に成型するためのものであり、加工ロール装置15は、回転自在の一対の上下加圧ロール20,20(図9参照)を有している。上下加圧ロール20,20はロール間隔を(周期的に)変化させる機構を有している。また、加工ロール装置15は、左右一対の加圧ロール21,21(図10参照)でも構わない。また、加工ロール装置15は、上下加圧ロール20,20と左右加圧ロール21,21とを連続して有していてもよい。
【0026】
金属線2は、まず、上下加圧ロール20,20にて上下方向から押圧されて上下平坦面が形成され、所望の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 (図3(b)参照)に調整する。上下加圧ロール20,20のロール間隔を図示省略の制御装置にて(周期的に)変化させ、連続して通過する金属線2の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 を長手方向に渡って連続的又は段階的に変化させて形成する。金属線2の断面積を長手方向に渡って均一にするには、張力調整装置14にて金属線2に付与する張力を加圧ロール20,20のロール間隔に合わせて調整し、金属線2の伸び量(断面積)を変化させる。
【0027】
加工ロール装置15にて加工された金属線2は電着バス16へと送られる。電着バス16内には絶縁性樹脂等の絶縁材料から成る電着液(ワニス)22と陰極管23とを備え、金属線2を交流電源の陽極側に接続した状態で電着液22内を通過させると、金属線2の外周面に絶縁材料が均一に付着(電着)する。
【0028】
そして、絶縁材料が付着した金属線2を乾燥装置17内を通過させた後、焼付け炉18で焼付けして金属線2の外周面に絶縁被膜3を形成しマグネットワイヤ1を形成する。マグネットワイヤ1は、図11に示すように、マグネットワイヤ1の横断面中央線がほぼ重なり合うように(バームクーヘン状に)巻回して巻取ドラム19に巻き取られる。即ち、マグネットワイヤ1は、幅寸法W1 が長手方向に渡って変化するため、トラバース方式で巻取りすると巻き乱れる虞があるからである。但し、マグネットワイヤ1の幅寸法W1 の変化量が少ない場合はトラバース巻きを行う。
【0029】
また、上記加工ロール装置15として、図12に示すような偏心ロール25を用いてもよい。一対の偏心ロール25,25のロール周長は、作製するマグネットワイヤ1の長さ寸法(1ピッチ)L1 と同じに形成されており、偏心ロール25,25が回転しつつそのロール間隔を周期的に変化させ、偏心ロール25,25間を通過する金属線2の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 を連続的に変化させて形成する。
【0030】
また、長手方向に渡って断面積を均一に形成することができる加工ロール装置15として、図13に示すような上下左右同時に加圧する卍(まんじ)型ロール24、図14に示すようなクロス圧延ロール26、図15に示すような溝付き圧延ロール27、図16に示すような金型28を用いてもよい。
【0031】
図13に於て、卍型ロール24は、上下ロール24a,24aと左右ロール24b,24bとで囲まれる矩形状の空間内を(横断面円形の)金属線2が通過して加工(変形)されるようになっており、その空間の上下幅寸法及び左右幅寸法を変化させて金属線2の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 を長手方向に渡って連続的又は段階的に変化させる。
【0032】
クロス圧延ロール26を平面視した図14に於て、クロス圧延ロール26は上下加圧ロール26a,26b(の軸心)に角度をつけて交差状に配設している。このクロス圧延ロール26によれば、幅寸法W3 の大きいマグネットワイヤ1を製造する場合に好適である。そして、上下加圧ロール26a,26bのロール間隔を制御装置にて(周期的に)変化させ、連続して通過する金属線2の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 を長手方向に渡って連続的又は段階的に変化させる。
【0033】
図15に於て、溝付き圧延ロール27は、上下加圧ロール27a,27bを有し、一方の加圧ロール27aには周方向に渡って幅寸法と深さ寸法が変化する凹溝29が形成されている。他方の加圧ロール27bには凹溝29は形成されていない。また、上下加圧ロール27a,27bのロール周長は、作製するマグネットワイヤ1の長さ寸法(1ピッチ)L1 と同じ又は2倍に形成されている。(上側の)加圧ロール27aの凹溝29と(下側の)加圧ロール27bの外周面とで囲まれた矩形の空間内を(横断面円形の)金属線2が通過して加工(変形)され、金属線2の幅寸法W3 と厚さ寸法T3 を長手方向に渡って連続的又は段階的に変化させる。
【0034】
図16に示す金型28は、長手方向に渡って幅寸法と深さ寸法が変化する溝部30を有し、この溝部30に金属線2を載置して上方からプレス機にてプレス加工する。この場合、バッチ生産となる。
【0035】
また、絶縁被膜3を被覆する絶縁保護膜を形成してもよい。この絶縁保護膜の形成方法は、例えば、絶縁性樹脂等の絶縁材料を電着した後の金属線2を、絶縁性塗料浴内に浸漬させ絶縁性塗料を付着し、その付着した絶縁性塗料をフェルトで薄くして、その後、焼付けする。また、上記電着後、焼付けして、上記絶縁性塗料を付着し、再度焼付けしてもよい。金属線2は長手方向に渡って幅寸法W1 が変化するように加工するため、フェルトにスプリングによる弾発力を付与して、フェルトを金属線2の形状に沿って追随できるようすることが好ましい。
【0036】
さらに、所定ピッチごとに印を付けたマグネットワイヤ1を製造することも可能である。具体的には、金属線2に絶縁材料を電着する前に、金属線2の所定ピッチごとに(電着する絶縁材料とは異なる色の)絶縁材料を付着したり、傷を入れたりしておけば、電着工程を経てもそれら部分には電着しないので所定ピッチが一目で分かるようになる。
【0037】
次に、図18と図19は、図9,図10, 図12〜図16で既に述べた製造方法とは異なる別の実施の形態を示す。即ち、図18に於て、横断面円形(又は矩形等であってもよい)の金属素材Dを供給ドラム35から繰出し、最終的には同図右端の巻取ドラム36に、図7(a)〜(f)、又は図24に示すような十分に長尺状の金属線2が、巻取られる。このように、図18の左側から右側へ金属素材D(金属線2)が送られるが、その途中に、第1圧延ロール37,37と第2圧延ロール38, 38が、順次、設置されており、各ロール37, 37;38, 38は上下間隔及びその間隔変化速度が、制御装置39, 40にて、制御される。また、張力調整(又は速度調整)用の装置42, 43も設けられる。
【0038】
供給ドラム35から(円形等の)所定断面の金属素材Dを繰り出し、相対的に接近離間制御される第1圧延ロール37, 37を通して圧延すると、図19の(I)に示すように厚さ寸法と幅寸法が連続的(及び/又は段階的)に変化する中間線材Mが形成される。次に、この中間線材Mを第2圧延ロール38, 38へ送るが、このとき、第2圧延ロール2,2は、そのロール間隔寸法が、順次送り込まれる中間線材Mの厚さ寸法に対して、大小逆となるように、相対的に接近離間制御され、このように制御しつつ第2ロール2,2によって、中間線材Mを圧延して、図19(II)に示すような厚さ寸法と幅寸法とが、長手方向に渡って、変化する(平角線状の)金属線2を、成形し、これを巻取ドラム36に巻取る。
さらに説明すれば、第2圧延ロール38, 38にて、中間線材Mをその厚さ寸法が厚い部分ほど薄くなるように圧延する。そして、図19の (I)(II) に示す如く、金属線2の厚さ寸法・幅寸法の大小は、中間線材Mの厚さ寸法・幅寸法の大小と逆になる(反比例する)。
【0039】
図19に示すように、中間線材Mは、厚さ寸法が大きく幅寸法が小さい仮幅狭部S1 と、厚さ寸法が小さく幅寸法が大きい仮幅広部H1 とが、交互に形成され、また、金属線2は、厚さ寸法が小さく幅寸法が大きい最終幅広部H2 と、厚さ寸法が大きく幅寸法が小さい最終幅狭部S2 とが、交互に形成される。そして、(図19から明らかなように、)仮幅狭部S1 が最終幅広部H2 となり、仮幅広部H1 が最終幅狭部S2 となる。ところで、図19では、最終幅狭部S2 には、(長手方向に所定寸法にわたって同一幅寸法の)渡り部50を形成している場合を例示しており、この図19と図18にて製造された長尺状金属線2を、この渡り部50にて切断して、所定長さのマグネットワイヤ1用の金属線が得られる。また、図18の製造方法にて得られる金属線2は、その長手方向に渡って断面積が同一となって好ましい。即ち、圧延倍率(圧縮量)が大きいほど、その後に圧延されるとその断面積が小さくなるという原理を応用している。このように、図18に示した2段ロール加工による製造方法によれば、十分長尺の金属線を一旦得て、その後、所定の長さに(渡り部50に於て)切断することによって、マグネットワイヤ1用の定まった長さの(図6に示したような)金属線2を、能率良く安価に製造できる利点がある。
ところで、図18によって得られる連続状(十分長尺状)の金属線2の平面図は、図7(a)〜(f)、あるいは、図24(a)〜(d)の2点鎖線・1点鎖線に例示した形状を呈する。
【0040】
次に、図20〜図23は、さらに異なる製造方法であって、各々別の実施の形態を示している。即ち、図20〜図23のいずれに於ても、各図(a)は側面断面図であって、厚さ寸法T3 が表われ、各図(b)は平面図であり、実線が中間製品M′であって、2点鎖線が完成品としての金属線2であって幅寸法W3 が表われる。
【0041】
図示省略の金属素材(元の断面形状は矩形・一文字等自由)を、プレス加工又はロール圧延加工等によって、厚さ寸法T3 が階段的(図20, 図21参照)、又は、連続的(図22又は図23参照)となるように、塑性変形させる。その結果、厚さ寸法T3 は、所望の数値のものとなるが、幅寸法は、所望の数値のものとかけ離れているので、各図(b)の実線から、その後、機械的切断手段やレーザーカット手段によって、2点鎖線にて示す如く切断する。この切断方法は、厚さ寸法T3 が大なるところは小さな幅寸法W3 となるように切断し、逆に、厚さ寸法T3 が小なるところは大きな幅寸法W3 となるように切断する。
【0042】
このようにして、横断面積が、長手方向に渡って、一定とすることができる。なお、図23等では渡り部50が形成されるも好ましいことを図示している。
なお、本発明に於て、金属線2としては、横断面一文字状としたテープ状のものまでも包含するものである。また、マグネットワイヤ以外の用途にも適用自由である。
【0043】
図1及び図2に示す本発明の実施の形態に於て、マグネットワイヤ1のステータコア4への装着方法について説明する。
まず、図17に示すように、(マグネットワイヤ1を挿入する予定の)2個のスロット5,5のうち一方のスロット5に、マグネットワイヤ1の幅寸法W1 が大きい端部をスロット5の先端開口部8から斜めにして挿入し、底部7に平行に配置する。そして、マグネットワイヤ1を一方のスロット5と他方のスロット5内に交互に挿入して、両スロット5,5の間の磁極6に(マグネットワイヤ1の幅寸法W1 の大きい方から小さい方へ向かって)巻き進めていくと、マグネットワイヤ1が両スロット5,5の底部7から先端開口部8へ向かって順に積層状に挿入される。
【0044】
なお、図2では、マグネットワイヤ1とスロット5の両側面9,9との間には多少隙間が生じているが、スロット5内のマグネットワイヤ1の占積率を一層向上させるために、マグネットワイヤ1が両側面9,9との間に隙間がほとんど生じないように接近して配設することが好ましい。
【0045】
以上のように、本発明は、金属線2の外周面に絶縁被膜3を形成した横断面矩形の線状部材であって、その幅寸法W1 を長手方向に渡って連続的又は段階的に変化させたので、モータのマグネットワイヤとして好適であり、モータのステータコア等のスロット(凹溝)内に積層状に挿入するマグネットワイヤの幅寸法W1 を、スロットの幅寸法に対応して形成することができる。即ち、マグネットワイヤをスロット内に隙間をほとんど空けずに配設することができ、マグネットワイヤのスロット内の占積率を著しく向上させて、大きな回転トルクを効率良く得られるモータを製造することができる。言い換えれば、従来のモータと同等のトルクを小さいサイズのモータで得ることができ、モータのコンパクト化・軽量化を図って省エネルギーを実現することができる。
【0046】
また、金属線2の横断面積を金属線2の長手方向に渡って同一となるように形成したので、マグネットワイヤの全体長の電気抵抗を低く抑えることができる。また、金属線2の電気抵抗やインダクタンスが長手方向に渡って一定にすることができ好ましい。
【0047】
本発明のステータ構造は、多数個の凹状スロット5と多数個の凸状磁極6とを周方向に交互に有するステータコア4と、金属線2の外周面に絶縁被膜3を形成した横断面矩形のマグネットワイヤ1と、を備え、スロット5の両側面9,9の間隔寸法W2 はスロット5の底部7から先端開口部8に向かって小さくなるように形成され、マグネットワイヤ1は磁極6に巻設されると共にスロット5内に積層状に挿入され、マグネットワイヤ1の幅寸法W1 をスロット5の底部7から先端開口部8に向かって連続的に又は段階的に小さくなるように配設したので、マグネットワイヤ1をスロット5内に隙間をほとんど空けずに配設することができ、マグネットワイヤ1のスロット5内の占積率を著しく向上させて、大きな回転トルクを効率良く得られるモータを製造することができる。言い換えれば、従来のモータと同等のトルクを小さいサイズのモータで得ることができ、モータのコンパクト化・軽量化を図って省エネルギーを実現することができる。
【0048】
また、マグネットワイヤ1の金属線2の横断面積を金属線2の長手方向に渡って同一となるように形成したので、マグネットワイヤ1の全体長の電気抵抗を低く抑えることができる。また、金属線2の電気抵抗やインダクタンスが長手方向に渡って一定にすることができ好ましい。
【符号の説明】
【0049】
1 マグネットワイヤ
2 金属線
3 絶縁被膜
4 ステータコア
5 スロット
6 磁極
7 底部
8 先端開口部
9 側面
1 幅寸法
2 間隔寸法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数個の凹状スロット(5)と多数個の凸状磁極(6)とを周方向に交互に有するステータコア(4)と、金属線(2)の外周面に絶縁被膜(3)を形成した横断面矩形のマグネットワイヤ(1)と、を備え、上記スロット(5)の両側面(9)(9)の間隔寸法(W2 )は該スロット(5)の底部(7)から先端開口部(8)に向かって小さくなるように形成され、上記マグネットワイヤ(1)は上記磁極(6)に巻設されると共に上記スロット(5)内に積層状に挿入され、該マグネットワイヤ(1)の幅寸法(W1 )を上記スロット(5)の底部(7)から先端開口部(8)に向かって連続的に又は段階的に小さくなるように配設したことを特徴とするステータ構造。
【請求項2】
上記マグネットワイヤ(1)の上記金属線(2)の横断面積を該金属線(2)の長手方向に渡って同一となるように形成した請求項1記載のステータ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−9593(P2013−9593A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192914(P2012−192914)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2007−6755(P2007−6755)の分割
【原出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】