説明

ストレッチフィルム製品

【課題】フィルム自体が一定のストレッチ性(伸縮性)を有しながらも、廃棄処分時には焼却によることなくフィルム全体を生分解によって廃棄処理することが可能なストレッチフィルム製品を提供する。
【解決手段】ストレッチフィルム製品は、ベースフィルムの少なくとも一方の表面に付着層を有する。ベースフィルムは、ポリエステル系生分解性樹脂(A)とポリエチレン(B)とをブレンドしてなるブレンド樹脂(A+B)にデンプン又はデンプン誘導体を含有させたものである。ブレンド樹脂(A+B)におけるポリエチレン(B)の配合比率[B/(A+B)]は60%〜90%である。付着層は、バインダー樹脂とポリブテンとを含有してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレッチフィルム製品に関する。特に牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルム製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家畜用飼料の一種として「牧草サイレージ」が知られている。これは、青刈りした牧草をサイロ等に保管し、そこで発酵させたものである。一般に青刈りした牧草はロール状に束ねられるが、その際に牧草の梱包資材としてストレッチフィルムが使用されている。従来、牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルムはポリエチレン(PE)等の純粋な合成樹脂で作られていた。ところが近年、一部の地方自治体(例えば沖縄県)において廃棄プラスチック類の焼却を原則として禁じる条例が定められ、これに違反する者には罰金が科されることがある。尚、かかる条例は、ダイオキシンの発生を防止・抑制するとの趣旨の下に定められたものである。
【0003】
しかしながら、この焼却禁止条例は、使用済みの農業用資材である廃棄ストレッチフィルムにも例外無く適用されているのが実情であり、牧畜事業者は、使用済みストレッチフィルムを焼却処分する毎に多額の罰金を支払わされるという不条理に苦しめられている。それ故、焼却することなく土壌に分解還元する等の廃棄処理が可能な牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルム製品が求められている。
【0004】
ところで、生分解性が知られている樹脂を用いた、包装用資材または農業用資材用のフィルム(製品)が提唱されている。例えば、特許文献1(特開2009−108264号公報)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)およびポリエチレン系樹脂(B)を主成分として含有すると共に、質量比として(A)/[(A)+(B)]が0.50以上0.99以下である樹脂組成物、並びに、その樹脂組成物からなる成形体およびフィルムを開示する。特許文献1では、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)としてポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)系樹脂が例示されている(同文献の請求項8参照)。PBSAは生分解性樹脂として知られている。また特許文献1は、上記質量比が0.50以上である理由として『(A)/[(A)+(B)]が低すぎると、十分な破断伸び率が得られないため好ましくなく』と説明している(同文献の段落0050参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−108264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者らは、特許文献1に開示されたのと同系統の混合樹脂(PBSA+PE、ただしPBSAリッチ)を使って牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルム製品を試作し、それを土壌中に埋めて生分解するか否かを確かめる実験を行った。その実験では、混合樹脂のうちPBSAの部分については生分解による消失が認められたが、PE(ポリエチレン)に由来すると思われる白色残渣が分解せずに残ったままとなり、期待したような全消失は見られなかった。なお、PBSAのような脂肪族ポリエステル100%の樹脂を用いてストレッチフィルム製品を作ってはどうかという考え方もあるが、一般に脂肪族ポリエステル100%のフィルムではストレッチ性(伸縮性)が足りず、牧草サイレージ梱包用フィルムとしての使用には耐え得ない。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。
【0007】
本発明の目的は、フィルム自体が一定のストレッチ性(伸縮性)を有しながらも、廃棄処分時には、焼却によることなくフィルム全体を生分解によって廃棄処理することが可能なストレッチフィルム製品を提供することにある。特に、牧草サイレージの梱包用途に適したストレッチフィルム製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、幾多の試行錯誤の末、ポリエステル系生分解性樹脂と、米デンプンの類と、ポリブテンの三者を併用することで、ポリエチレンをも巻き込んだ形での生分解が実現できるとの新発見に基づくものである。
【0009】
即ち本発明は、ベースフィルムの少なくとも一方の表面に付着層を有するストレッチフィルム製品であって、前記ベースフィルムは、ポリエステル系生分解性樹脂(A)とポリエチレン(B)とをブレンドしてなるブレンド樹脂(A+B)にデンプン又はデンプン誘導体を含有させたものであると共に、当該ブレンド樹脂(A+B)におけるポリエチレン(B)の配合比率[B/(A+B)]が60%〜90%のものであり、前記付着層は、バインダー樹脂とポリブテンとを含有してなるものである、ことを特徴とするストレッチフィルム製品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベースフィルムを構成する樹脂としてポリエステル系生分解性樹脂(A)の他にポリエチレン(B)を併用することで、ベースフィルム自体に所望のストレッチ性(伸縮性)を付与することができる。
それのみならず、ベースフィルムを構成するブレンド樹脂(A+B)において、ポリエチレン(B)の配合比率[B/(A+B)]が60%〜90%と、ポリエステル系生分解性樹脂に比してポリエチレン・リッチの状況にあるにもかかわらず、それ自体が生分解特性を有するポリエステル系樹脂と、ベースフィルムに含まれるデンプン又はデンプン誘導体と、付着層に含まれるポリブテンの三者の相乗的作用により、バクテリア等の微生物や高分子分解酵素の生分解作用をポリエチレンにも同時的に波及させることが可能になる。それ故、本発明のストレッチフィルム製品を廃棄処分する際には例えば土中に埋めるなどして放置するだけで、その大部分の質量を生分解によって消失させることができ、焼却する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について具体的に説明する。
本発明に従うストレッチフィルム製品は、ベースフィルムと、そのベースフィルムの少なくとも一方の表面に形成された付着層を有してなるものである。
【0012】
[ベースフィルムの構成素材]
ベースフィルムは、ポリエステル系生分解性樹脂(A)とポリエチレン(B)とをブレンドしてなるブレンド樹脂(A+B)を基本素材として、ここにデンプン又はデンプン誘導体を含有させたものである。
【0013】
ポリエステル系生分解性樹脂(A)は、好ましくは、「脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを主原料とする脂肪族ポリエステル系樹脂」、あるいは「脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを主原料とする脂肪族・芳香族混成のポリエステル系樹脂」である。ここで、
高分子鎖中に「ジオール」単位を与える脂肪族ジオール成分は特に限定されないが、炭素数3〜10個の脂肪族ジオール成分が好ましく、炭素数4〜6個の脂肪族ジオール成分が特に好ましい。具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオールが特に好ましい。脂肪族ジオール成分は2種類以上を用いることもできる。
高分子鎖中に「ジカルボン酸」単位を与えるジカルボン酸成分は特に限定されないが、炭素数3〜10個のジカルボン酸成分が好ましい。具体的には、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸(HOOC-C6H4-COOH)等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸およびテレフタル酸が特に好ましい。ジカルボン酸成分は2種類以上を用いることもできる。
【0014】
ポリエステル系生分解性樹脂(A)の具体例:
脂肪族・芳香族混成のポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)[英語名:Poly(butylene adipate-co-terephthalate)]があげられる。脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)[英語名:Poly(butylene succinate-co-adipate)]、および、ポリブチレンサクシネート(PBS)[英語名:Poly(butylene succinate)]があげられる。少なくともここに例示したポリエステル系樹脂はそれ自体に生分解性が認められる。故にここに掲載したポリエステル系樹脂からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を使用することは大変好ましい。
【0015】
ポリエチレン(B)は、好ましくは、密度が0.860g/cm以上、0.921g/cm以下の低密度ポリエチレンである。一般に低密度ポリエチレンにおいては分子レベルにおいて分岐構造が観察されるが、本発明で使用するポリエチレン(B)は、ポリエチレンの中でも「分岐構造をあまり持たない低密度ポリエチレン」が好ましく、例えば、JIS K6899−1:2000に定められているような直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が最も好ましい。使用するポリエチレンの物性が製品としてのストレッチフィルムの特性に大きく影響することもあるが、それ以外にも、分岐構造が少なく直線性(直列性)の高い分子骨格を持ったポリマーの方がバクテリア等の微生物による生分解を受け易いからである。
【0016】
ポリエステル系生分解性樹脂とポリエチレンのブレンド樹脂(A+B)において、ポリエチレン(B)の配合比率[B/(A+B)]は重量比率で60%〜90%であり(その場合、ポリエステル系樹脂(A)の配合比率[A/(A+B)]は重量比率で40〜10%となる)、より好ましくは、配合比率[B/(A+B)]は60%〜75%である。ポリエチレンの配合比率[B/(A+B)]が60%未満になると、フィルム製品におけるストレッチ性が不足し、とりわけ牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルムとしては適さなくなる。他方、ポリエチレンの配合比率[B/(A+B)]が90%を超えると、ポリエステル系樹脂(A)の比率が10%未満となって過少となり、ポリエチレンの同時生分解に支障を来たすおそれがある。
【0017】
上記ブレンド樹脂には、デンプン又はデンプン誘導体が追加的に含有される。デンプン誘導体としては、例えば、デンプンを有機酸等でエステル化して得たエステル化澱粉をあげることができる。エステル化澱粉の具体例としては、オクテニルコハク酸エステル化澱粉があげられる。これらのデンプンやデンプン誘導体は、ポリエステル系生分解性樹脂(A)及び後記ポリブテンと協働してポリエチレンの生分解を促進する働きをする。
【0018】
ベースフィルムにおけるデンプン又はデンプン誘導体の含有量は、ベースフィルムにおいてデンプン又はデンプン誘導体を除いた重量を100重量部としたときに、0.001〜2重量部(より好ましくは、0.01〜0.1重量部)に相当する量である。デンプン又はデンプン誘導体の含有量が過度に少なくなると、ポリエチレンの生分解を促進する作用を十分に発現できなくなる。他方、デンプン又はデンプン誘導体の含有量が過度に多くなると、ベース樹脂あるいはベースフィルム中に泡が生じ(発泡現象)、フィルムの引張強度を低下させる原因となって好ましくない。
【0019】
追加の添加剤:
上記ブレンド樹脂(A+B)に対しては、デンプン又はデンプン誘導体のほかに追加の添加剤を配合することもできる。追加の添加剤としては、マスターバッチ、滑り剤があげられる。なお、追加の添加剤の配合量に特に定めは無いが、ブレンド樹脂(A+B)と追加の添加剤(デンプン又はデンプン誘導体を除いたもの)とを併せて「ベース素材」と呼ぶ場合、追加の添加剤の配合量はベース素材中、2重量%〜4重量%が適量である。
【0020】
マスターバッチとは、染料や顔料を高濃度化させて樹脂ベースに添加したものをいい、主に着色材料として使用される。なお、本発明で使用するマスターバッチを構成する樹脂ベースとしては、生分解性樹脂が好ましい。
【0021】
滑り剤は、後述のようにインフレーション成形でベースフィルムを形成する場合に、フィルムの滑りを良くしてインフレーション成形を円滑化するためのものである。滑り剤としては、ステアリン酸モノアミド、エチレンビス−ステアリン酸アミド、オレイン酸モノアミド、エチレンビス−オレイン酸アミド、等の脂肪酸アミドがあげられる。
【0022】
[ベースフィルムの成形法]
ベースフィルムは、デンプン又はデンプン誘導体、および必要に応じて追加の添加剤を含有するブレンド樹脂(A+B)を原料として、これを押し出し成形することで形成される。利用可能な押し出し成形法としては、インフレーション成形法およびT−ダイ成形法が挙げられるが、中でもインフレーション成形法が最も好ましい。ちなみに「インフレーション成形法」とは、加熱・溶融した樹脂原料を円筒状に押し出し、その中に空気を吹き込んで風船のように膨らましてチューブ状にし、これを二つに折り畳んで巻き取り、適当な長さで切断してフィルム製品とする方法をいう。
【0023】
[付着層について]
ベースフィルムの表面に形成される付着層は、バインダー樹脂とポリブテンとを含有してなるものである。
【0024】
バインダー樹脂とは、ポリブテンをベースフィルムの表面に付着させるための結合材または結合助材としての機能をもった高分子をいう。バインダー樹脂は、ポリブテンを巻き込みつつベースフィルム表面に付着する必要があることから、一定の可塑性ないし造膜性を有すること(例えばガラス転移温度Tgが常温付近であること)が好ましい。その一方で、ストレッチフィルム製品の露出表面にベト付きが感じられる程の過度の粘着性をもたらすものは、フィルム製品の商品価値を損ねるため、バインダー樹脂としてはあまり好ましくない。また、ベースフィルムの表面に付着することから、一定の耐熱性および耐水性も併せ持つことが好ましい。以上のような条件にかなうバインダー樹脂は、好ましくはアクリル系樹脂である。アクリル系樹脂とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド等のアクリル系モノマーを主たる原料とする単独重合体または共重合体をいう。アクリル系樹脂は、水分散型のエマルジョン形態での取り扱いが簡便であるので、水分散エマルジョン型のアクリル系樹脂が好ましい。
【0025】
ポリブテンとは、CAS番号:9003−29−6のポリブテンである。ポリブテンは、ポリエステル系生分解性樹脂(A)及び上記デンプン又はデンプン誘導体と協働してポリエチレンの生分解を促進する。
なお、ポリブテン成分をデンプン又はデンプン誘導体と共に上記ブレンド樹脂中に予め添加することなくベースフィルム表面への後添加(後付着)とした理由は、ポリブテンを予めブレンド樹脂中に添加すると共に押し出し成形のために加熱・溶融すると、その加熱・溶融時の熱でポリブテンが分解ないし変質してしまい、後日、生分解作用を発揮し得なくなるからである(後記比較例4参照)。
【0026】
付着層におけるポリブテンの含有量は、デンプン又はデンプン誘導体の含有量と同程度でよい。つまり、ベースフィルムにおいてデンプン又はデンプン誘導体を除いた重量を100重量部としたときに、0.001〜2重量部(より好ましくは、0.01〜0.1重量部)に相当する量である。ポリブテンの含有量が過度に少なくなると、ポリエチレンの生分解を促進する作用を十分に発現できなくなる。他方、ポリブテンの含有量が過度に多くなると、過剰量のポリブテンがベースフィルムの高分子に作用してこれを劣化させ、ベースフィルムの強度を低下させるおそれがあるからである。
【0027】
[付着層の形成法]
付着層はどのような方法で形成されてもよいが、例えば「アクリル系樹脂が水分散されたエマルジョンにポリブテンを配合してなるエマルジョン液を準備し、このエマルジョン液を上記押し出し成形で得られたベースフィルムの表面に付着させ、乾燥させる」ことにより、付着層が形成されることは好ましい。ここで、ポリブテン配合のエマルジョン液の形態で取り扱う理由は、樹脂溶液の形態に比べて「低粘度・高固形分」とし易く、ベースフィルム表面へのポリブテン成分の付着を円滑に行い得るからである。ベースフィルム表面への具体的な付着のさせ方としては、エマルジョン液の液面にベースフィルムの片面を濡らす方法、エマルジョン液の中にベースフィルムを素通しする方法、ベースフィルムの片面又は両面にエマルジョン液をスプレー塗布する方法、等があげられる。
【実施例】
【0028】
本発明に従う実施例1と、本発明と対比される比較例1〜5について説明する。
【0029】
ベースフィルムの構成素材として以下のものを使用した。
ポリエステル系生分解性樹脂(A)として、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)(韓国サムソンファインケミカル製:EnPol PGB7070F)、及び、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)(三菱化学株式会社製:GSプラAD92WN)を併用した。
ポリエチレン(B)として、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(日本ポリエチレン株式会社製:カーネル、密度0.898g/cm)を使用した。
添加剤として、大日精化工業株式会社製:白マスターバッチ、及び、滑り剤としてのステアリン酸モノアミド(日油株式会社製:アルフロー S−10)を使用した。
デンプン誘導体として、2−アルケニルこはく酸エステル化デンプン(日澱化学株式会社製:乳華)を使用した。
【0030】
付着層の構成素材として以下のものを使用した。即ち、アクリル系樹脂エマルジョンとして、中央理化工業株式会社製:リカボンドAP−96(不揮発分:約54%)を使用した。ポリブテンの供給源として、日油株式会社製:エマウエット30H(ポリブテン:71〜77%、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル:約3〜4%、残り:水)を使用した。そして、50重量部のリカボンドAP−96を約50重量部の水で約2倍に希釈すると共に、そこへ約0.01重量部のエマウエット30Hを配合して、エマルジョン液を調製・準備した。
【0031】
[実施例1]
上記LLDPE、PBAT、PBSA、白マスターバッチ、滑り剤およびデンプン誘導体を後掲の表1に示す配合比率で混合及び混練すると共に、これを樹脂ペレット化した。次に樹脂ペレットを加熱・溶融状態でインフレーション成形機に装填し、厚さ0.025mmの筒状フィルムを得ると共に、それをカット(切断処理)して平面状のフィルムとした。この平面状フィルムの片面を上記のように調製・準備したエマルジョン液の液面に接触させて濡らし、その後自然乾燥させることにより、ベースフィルムの一方の面上に付着層(アクリル系樹脂でバインドされたポリブテンを含む層)を形成した。このストレッチフィルム試作品を実施例1とする。
【0032】
[比較例1〜5]
比較例1〜5は、実施例1と同様の手順で試作したフィルムであるが、表1に示すように実施例1とは配合処方が異なっている。即ち、
比較例1は、実施例1においてそのベースフィルムにデンプン誘導体を添加することなく製造したものに相当する。
比較例2は、実施例1においてその付着層にポリブテンを添加することなく製造したものに相当する。
比較例3は、実施例1においてそのベースフィルムにデンプン誘導体を添加することなく、且つその付着層にポリブテンを添加することなく製造したものに相当する。
比較例4は、ベースフィルムの原料の混練時にデンプン誘導体と共にポリブテンも同時に混練した事例であり、なお且つ付着層にはポリブテンを添加することなく製造したものに相当する。
比較例5は、実施例1からPBAT及びPBSAを取り除いたもの、即ちポリエステル系生分解性樹脂(A)を全く含まないベースフィルムからなるものに相当する。
【0033】
[分解性試験について]
上記実施例及び比較例のそれぞれのサンプルフィルム(厚さ:約0.025mm)を縦300mm×横300mmの正方形状に整えると共に、その正方形状サンプルを用いて生分解性の確認実験を行った。本来ならば、各サンプルフィルムを土中に埋設して数ヶ月にわたり経過を観察すべきところであるが、試験時間の短縮のため、市販の家庭用生ごみ処理機(日立製作所製:キッチンマジック/モデルBGD−X150)を用い、分解促進条件下で確認実験を行った。具体的には、生ごみ処理機内に同処理機メーカー指定の酵母菌入り糠床を設定すると共に約40℃に温度設定し、糠床の中に埋め込まれた各サンプルフィルムの重量の経時変化を測定した。測定開始から59時間経過時点までの各サンプルの重量変化を後掲の表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
[考察]表1の配合処方および表2の試験結果から、次のことが判明した。
(1) ポリエステル系生分解性樹脂(PBAT及びPBSA)、デンプン誘導体およびポリブテンの三成分を併用した場合に、ポリエチレン(LLDPE)成分をも含んだフィルム全体の生分解を促進することができた。そして、ポリエステル系生分解性樹脂、デンプン誘導体およびポリブテンのいずれか一つの成分が欠けても、生分解作用を十分に促進することはできなかった。
(2) ポリブテンについては、ベースフィルム中にデンプン誘導体と共に予め混入させたとしても十分な生分解作用を発揮することはできず、ベースフィルムの表面に付着させる形で存在させることで、ポリエステル系生分解性樹脂およびデンプン誘導体と協働した生分解作用を十分に発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの少なくとも一方の表面に付着層を有するストレッチフィルム製品であって、
前記ベースフィルムは、ポリエステル系生分解性樹脂(A)とポリエチレン(B)とをブレンドしてなるブレンド樹脂(A+B)にデンプン又はデンプン誘導体を含有させたものであると共に、当該ブレンド樹脂(A+B)におけるポリエチレン(B)の配合比率[B/(A+B)]が60%〜90%であり、
前記付着層は、バインダー樹脂とポリブテンとを含有してなるものである、ことを特徴とするストレッチフィルム製品。
【請求項2】
前記ベースフィルムにおけるデンプン又はデンプン誘導体の含有量は、ベースフィルムにおいてデンプン又はデンプン誘導体を除いた重量を100重量部としたときに、0.001〜2重量部に相当する量である、ことを特徴とする請求項1に記載のストレッチフィルム製品。
【請求項3】
前記ポリエチレン(B)は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であり、
前記デンプン又はデンプン誘導体として、オクテニルコハク酸エステル化澱粉を用い、
前記バインダー樹脂として、水分散エマルジョン型のアクリル系樹脂を用いた、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のストレッチフィルム製品。
【請求項4】
前記ポリエステル系生分解性樹脂(A)は、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のストレッチフィルム製品。
【請求項5】
前記ベースフィルムは、デンプン又はデンプン誘導体を含有したブレンド樹脂(A+B)を原料とするインフレーション成形により形成されるフィルムであり、
前記付着層は、アクリル系樹脂が水分散されたエマルジョンにポリブテンを配合してなるエマルジョン液を、前記インフレーション成形で得られたベースフィルムの表面に付着させ、乾燥させて得た層である、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のストレッチフィルム製品。
【請求項6】
前記ストレッチフィルム製品は、牧草サイレージ梱包用のストレッチフィルム製品であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のストレッチフィルム製品。

【公開番号】特開2013−67128(P2013−67128A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208454(P2011−208454)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(503400053)KRH株式会社 (28)
【Fターム(参考)】