説明

スノーボード

【課題】 スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面及び滑走面に形成した凹溝、又は、スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面から滑走面に至る貫通溝からなるトーションコントロール部を形成することで、スノーボードの好適な反発性を維持しつつ、ねじれ特性を簡潔に向上させることができるスノーボードを提供すること。
【解決手段】
本発明は、スノーボード10の長手方向に沿ってスノーボード10の上面から滑走面に至る貫通溝8からなるトーションコントロール部を形成したスノーボード10であって、好ましくは合成樹脂製芯材をスノーボード10の長手方向に沿ったインサートとして部分的に使用し、その合成樹脂製芯材と対応する位置にてスノーボード10の上面及び滑走面に形成されたトーションコントロール部を有するスノーボード10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スノーボード(雪上滑走用具)に関するものであって、より詳細には、性能の良いスノーボードに求められる反発性(長手方向の曲げ剛性)を損なうことなく、操作性の向上に繋がるねじれ特性を容易に向上させることができるスノーボードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スノーボードの反発性及びねじれ特性を変更するには、スノーボードの芯材を構成する木製の積層材の種類を変更したり、あるいは使用する積層材(補強材)の枚数や種類を変更していた。
これは、積層材の種類によってその強度(曲げ剛性及びねじれ剛性)が異なるからであり、例えば高密度のメイプル、バーチなどの積層材を多用すればスノーボードの剛性が高まり、ポプラ、ホワイトアッシュなどの積層材を多用すればスノーボードの剛性が抑えられることになる。
【0003】
しかしながら、積層材の変更によっては、スノーボードの反発性及びねじれ特性を別個に変更することは困難であり、操作性の向上に繋がるねじれ特性を向上させると、同時に反発性が損なわれてしまい、物足りない性能のスノーボードになってしまう。即ち、積層材の変更によっては、操作性の良いスノーボードを提供できないという問題がある。
【0004】
そこで、従来、雪上滑走用具の滑走時におけるねじれ特性を向上させるための構造として、スキー板本体の上面層の幅方向中央部に非補強用弾性部材を長手方向に沿って埋設した構造が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この従来技術においては、スキー板本体の上面に形成した凹溝に非補強用弾性部材を埋設することで、スキー回転操作時にスキー板本体に加えられる荷重(エッジング力)でスキー板の滑走面に幅方向へのベンドが生じ、滑走面がコンベックス形状となるため、スキー滑走面を含むエッジ部分の雪面への食い込み面積を小さくし、雪面に対する引掛かり抵抗を減少させることができる。
【0006】
しかしながら、かかる従来技術においては、スキー板の上面にのみ凹溝を形成しているため、スキー板に十分なねじれ性能を付与することができないという問題や、スキー板の長手方向に沿って埋設した非補強用弾性部材に剥がれが生じ易いという問題や、製造に手間がかかるという問題があった。
【0007】
他の従来技術としては、滑走用の板材の上部に補強材を配置し、板材の中央部に板材の長手方向に沿った凹溝を形成することで、板材を捩り易くする構造が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に記載の板材においても、滑走用の板材の上面にのみ凹溝を形成しているため、滑走用の板材に十分なねじれ性能を付与することができないという問題や、芯部まで形成した凹溝を埋めるために、凹溝に沿った形状の取付具を嵌め込む必要があり、製造に手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平2−79988号公報
【特許文献2】実用新案登録第3103025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来構造のスノーボードにおいて、性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなくスノーボードに対して十分なねじれ特性を効果的に付与することができないことであり、本発明の目的は、性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなく、操作性の向上に繋がるねじれ特性を効率的に、かつ、容易に向上させることができるスノーボードを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなく、スノーボードのねじれ特性を部分的に容易に向上させることができるスノーボードを提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の目的は、スノーボードの耐久性及び必要な強度を損なうことなく、また、製造工程を複雑化することなく、スノーボードの反発性を保持しつつ、ねじれ特性を効率的に、かつ、容易に向上させることができるスノーボードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、スノーボードの反発性に影響する長手方向の曲げ剛性の低下を極力抑えつつスノーボードのねじれ特性を向上させるためになされたものであって、スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面から滑走面に至る貫通溝からなるトーションコントロール部を形成したスノーボードを最も主要な特徴とするものである。
【0014】
本発明は、スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面に形成した凹溝と、当該凹溝の直下に対応する滑走面に形成した凹溝とからなるトーションコントロール部を設け、前記貫通溝と同様の作用効果を得られるようにしてもよい。
【0015】
本発明のスノーボードにおいて、前記トーションコントロール部の上面側の溝幅は、滑走面側の溝幅よりも広くなるように構成したり、前記トーションコントロール部を、スノーボードの中央部において、ビンディングを固定する位置を避けて形成してもよい。
【0016】
さらに、本発明のスノーボードは、合成樹脂製の芯材をスノーボードのインサートとして部分的に使用し、当該合成樹脂製芯材と対応する位置にスノーボードの長手方向に沿った前記トーションコントロール部を設けてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスノーボードは、「長手方向に沿ってスノーボードの上面から滑走面に至る貫通溝」又は「長手方向に沿ってスノーボードの上面に形成した凹溝と、当該凹溝の直下に対応する滑走面に形成した凹溝」からなるトーションコントロール部により、スノーボードの長手方向の曲げ強度の低下を極力抑えつつスノーボードのねじれ特性を向上させることができる。従って、本発明は、性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなく、ねじれ特性を容易に向上させることができるスノーボードを簡易に提供することができる。
【0018】
本発明のスノーボードにおいて、前記トーションコントロール部の上面側の溝幅を滑走面側の溝幅よりも広くなるように構成することで、滑走面における引っ掛かりの発生を極力抑えることができる。また、前記トーションコントロール部を、スノーボードの中央部において、ビンディングを固定する位置を避けて形成することで、スノーボードのビンディング固定位置における強度を損なうことなく効率的にねじれ特性を向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明のスノーボードは、合成樹脂製芯材をインサートとして部分的に使用し、当該合成樹脂製芯材にスノーボードの長手方向に沿ったトーションコントロール部を形成することで、防水性を得ることができ、かつ、溝を形成した芯材が裂けてしまうようなことを防止でき、スノーボードの耐久性及び強度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明のスノーボードの平面図である。
【図2】図2は図1に示す本発明のスノーボードを長手方向と直交する方向に切断して示す部分端面図である。
【図3】図3は本発明のスノーボードの製造に使用する内部のコアを示す平面図である。
【図4】図4は本発明のスノーボードを製造するために貫通溝を形成する前のスノーボードを示す平面図である。
【図5】図5は本発明のスノーボードの上面及び滑走面に凹溝を形成した実施例のスノーボードを長手方向と直交する方向に切断して示す部分端面図である(実施例2)。
【図6】図6は本発明のスノーボードの製造に使用する内部のコアを示す平面図である(実施例3)。
【図7】図7は本発明のスノーボードの滑走面をコンベックス形状とするための凹溝を形成した実施例の平面図である(実施例3)。
【図8】図8は図7に示す本発明のスノーボードを長手方向と直交する方向に切断して示す部分端面図である(実施例3)。
【図9】図9は本発明のスノーボードの滑走面をコンベックス形状とするための凹溝を形成した実施例のスノーボードを示す平面図である(実施例3の変形例)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、「スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面から滑走面に至る貫通溝からなるトーションコントロール部」、又は、「スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面に形成した凹溝と、当該凹溝の直下に対応する滑走面に形成した凹溝とからなるトーションコントロール部」を形成することで、スノーボードの長手方向の曲げ強度の低下を極力抑えつつスノーボードのねじれ特性を向上させることができるスノーボードを実現した。
【0022】
前記トーションコントロール部の上面側の溝幅を滑走面側の溝幅よりも広くなるように構成することで、滑走面における引っ掛かりの発生を極力抑えることができるスノーボードを実現した。
【0023】
また、前記トーションコントロール部を、スノーボードの中央部において、ビンディングを固定する位置を避けて形成することで、スノーボードのビンディング固定位置における強度を損なうことなく効率的にねじれ特性を向上させることができるスノーボードを実現した。
【0024】
さらに、合成樹脂製芯材をインサートとして部分的に使用し、当該合成樹脂製芯材と対応する位置に前記トーションコントロール部を形成することで、防水性・耐久性及び強度に優れたスノーボードを実現した。
即ち、従来のスノーボードにおいて使用されている木製芯材に溝を形成した場合には、木製芯材に水が含浸し、1)水の分だけ重量が増えて重くなる、2)水により寸法が変化して内部応力が変化する、3)水が含浸した部分と含浸しない部分で物性や強度のバランスが崩れ部分破壊する、4)水により木が腐食しやすくなり部分的な破損に繋がるといった不具合や、木は衝撃に弱いので傷付き易いといった不具合が生じるが、木製芯材と接着されて一体化している合成樹脂製芯材に溝を設けた場合にはこれらの不具合が生じることはない。
【0025】
スノーボードの長手方向に沿って形成される前記トーションコントロール部は、直線状又は波状であってもよく、スノーボードの中央部付近に形成すると効果的である。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明のスノーボード10の一実施例の上面を示す平面図、図2は、スノーボード10の長手方向ほぼ中央部において長手方向と直交する方向に切断して一部を切り欠いて示す部分端面図である。
【0027】
1はスノーボード10の滑走面を構成する合成樹脂(ポリエチレン)からなる薄い板状の滑走面材、2は当該滑走面材1の周縁に配置された金属製のエッジ材である。
3はスノーボード10のインサートとして使用されスノーボード10の長手方向に延びる複数本の角棒状の木製芯材、4はスノーボード10の中央部においてインサートとして使用されスノーボード10の長手方向に延びる角棒状の合成樹脂製芯材である。
【0028】
本実施例においては、前記合成樹脂製芯材4として、ABS樹脂から構成された幅が20mm、厚さが9mmの角材を木製芯材3と同程度の厚さ(5〜7mm)に加工したものを用いており、当該合成樹脂製芯材4を前記木製芯材3の間に挟むようにして配置している。
【0029】
5はスノーボード10の周縁において木製芯材3と隣接して配置されたABS樹脂製の枠材(モール)である。
6はFRP層であって、前記枠材5、前記木製芯材3及び合成樹脂製芯材4の上面及び下面と接して設けられている。
7は上面側のFRP層の上面を覆うように設けられたポリアミド製の表面シートであって、スノーボード10の上面を構成する部材である。
【0030】
8はスノーボード10の中央部において、前記合成樹脂製芯材4と対応する位置に形成されたトーションコントロール部としての貫通溝であって、スノーボード10の長手方向に沿ってスノーボード10の上面から滑走面に至るまで貫通して設けられている。
【0031】
本実施例において、スノーボード10の上面から滑走面までの長さ(スノーボード10の厚み)は、スノーボード10の中央部にて10mm、前後の端部近傍にて約5mmとなっており、前記貫通溝8は、長手方向の長さLが400mm、スノーボード10の上面側における溝幅が12mm、滑走面側における溝幅が5mmとなっている。
【0032】
即ち、前記トーションコントロール部を構成する貫通溝8の上面側の溝幅は、滑走面側の溝幅よりも広くなるように構成されている。かかる構成は、前記貫通溝8の開口部付近の角度θ1を約60度、滑走面側の奥部の角度θ2を約10度に形成することで達成されており、外観の向上を達成するとともに、指の挟まりや、滑走面における滑走時の引っ掛かりの発生を効果的に防ぐようになっている。
【0033】
さらに、前記貫通溝8は、スノーボード10に対するビンディングのベースプレート取付用のねじ穴9が複数配置されている位置(左右のブーツが対応して足からの荷重が加えられる位置)の間に亘って形成されており、ねじれ特性の向上によるスノーボード10の操作性を効率的に向上させるとともに、ビンディング取り付け位置における強度の低下を防ぐことができるようになっている。
【0034】
なお、前記貫通溝8は、合成樹脂製芯材4の部分に形成されるため、木製芯材3が露出することが無く、防水効果と優れた耐久性を得ることができる。
また、当該貫通溝8内に露出する合成樹脂製芯材4の色によってスノーボード10上面のデザイン上の効果を得たり、デザイン上のバリエーションを増やすこともできる。
【0035】
次に、本発明のスノーボードをプレス成型により製造する方法について説明する。
本発明によりスノーボード10を製造するには、予め木製芯材3を並べて接着剤にて一体化し、スノーボードの外形に合わせて加工したものの中央部に合成樹脂製芯材4を配置したコア11を用意する(図3参照)。
なお、このコア11には、ねじ穴9を備えたナットを所定の位置に複数個取り付けておく。
【0036】
そして、本実施例においてはエポキシ系の接着剤を塗布しつつ滑走面材1上に金属製のエッジ材2、ガラス繊維製のシート、コア11、枠材5、ガラス繊維製のシート、表面シート7を配置したものを加熱しながら金型を使ってプレスし、数十分から1時間半程度の時間をかけて接着剤を硬化させ、その後、常温に冷却する。
【0037】
なお、前記ガラス繊維製のシートは、接着剤が硬化することでFRP層6を形成するものであり、上記の製造工程は、合成樹脂製芯材4を木製芯材3の間に挟み込むようにして使用するということ以外の点では従来の一般的なスノーボードを製造するための工程と何ら異なるものではない。
【0038】
その後、スノーボード10の滑走面を研磨仕上げ加工した後、切削加工機を用いて表面シート7、FRP層6、合成樹脂製芯材4及び滑走面材1を貫通するように、スノーボード10の上面から長手方向に沿った直線状の貫通溝8を形成する。
【0039】
上記のとおりの方法で製造したスノーボードについて、貫通溝8を形成する前後におけるスノーボードの曲げ剛性及びねじれ剛性について試験したところ、以下の通りの結果を得ることができ、本発明によってスノーボードの回転性能及び操作性に大きな影響を与えるねじれ特性を効率的に向上させることができることが確かめられた。
【0040】
なお、下記の実験結果による変化量は一見わずかのようではあるが、実際の滑走におけるフィーリングは顕著に向上しており、性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなく、ねじれ特性を向上させてスノーボードの操作性が向上していることが確かめられた。
【0041】
スノーボードの曲げ剛性の変化
測定方法:スノーボード10の接地点(スノーボードの前後の端部から約20cmの位置であって、ねじ穴9を形成した位置の中央部から約30cm離れた位置)を支持し、中央部に20kgの錘を載せた際の中央部のたわみ量を測定した。
貫通溝8の形成前の曲げ剛性・・28.0mm/20kg
貫通溝8の形成後の曲げ剛性・・28.5mm/20kg
上記から、貫通溝8を形成することによって約2%だけ曲げ剛性が低下した。
【0042】
スノーボードのねじれ剛性の変化
測定方法:ブーツセンターを固定し、回転トルク10Nmを作用させた際の回転角を測定した。即ち、単位角度当たりのねじれトルクを測定した。
貫通溝8の形成前のねじれ剛性・・0.47Nm/度
貫通溝8の形成後のねじれ剛性・・0.45Nm/度
上記から、貫通溝8を形成することによって約5%ねじれ剛性が低下した。
【実施例2】
【0043】
図5は、本発明の他の実施例のスノーボード20の一部を切り欠いて示す部分端面図であって、前記実施例のスノーボード10と同様の構成の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
本実施例のスノーボード20においては、前記実施例において合成樹脂製芯材4に形成した貫通溝8に代えて、スノーボード20の長手方向に沿ってスノーボード20の上面に形成した凹溝8aと、当該凹溝8aの直下に対応する滑走面に形成した凹溝8bとからなるトーションコントロール部を設けている。
【0045】
かかる構成のトーションコントロール部においても性能の良いスノーボードに求められる反発性を損なうことなく、ねじれ特性を向上させることができるが、スノーボード20のねじれにより凹溝8a及び凹溝8bの底部が破損することのないように、当該底部には弾力性に富んだ素材4aを用いて実施するとよい。
かかる構成を実現するための方法としては、例えば、合成樹脂製芯材4として、弾力性に富んだ素材4aを中央部に層状に挟み込むようにしたものを使用する方法がある。
【実施例3】
【0046】
図6〜図8は、本発明の他の実施例のスノーボード30を示す図であって、前記実施例のスノーボード10と同様の構成の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0047】
本実施例のスノーボード30の製造に際しては、スノーボード30のコア11として、前記合成樹脂製芯材4が中央部とエッジ(両側端)との間の位置に各1本追加して配置されたものを使用している。そして、それらの合成樹脂製芯材4の上面には、前記ねじ穴9が複数形成されている位置を避けるように、波状に形成した複数本の凹溝G1、G2、G3をスノーボード20の長手方向に沿って形成する。
【0048】
スノーボード30の中央部に形成されている前記凹溝G1は、長手方向の長さが約420mm、溝幅が5mm、最大深さが5mmとなっており、前記凹溝G2及びG3は、長手方向の長さが約180mm、溝幅が5mmとなっているが、深さはスノーボード30の厚みの変化に応じて端部側ほど浅くなるように5〜3mm程度となっている。
【0049】
前記合成樹脂製芯材4を構成するABS樹脂は、熱膨張率が6×10-5/℃ 〜 13×10-5/℃であり、ヤング率が3Gpa程度であるため、成型後に当該合成樹脂製芯材4に上面からスノーボードの長手方向に沿った凹溝G1〜G3を形成することで、当該合成樹脂製芯材4の部分において成型時に生じていた熱膨張を原因とする内部応力の解放(成型後の内部残留応力の解放)により、スノーボードの長手方向と交差する方向において滑走面が下に凸となるコンベックス形状となる。
【0050】
前記合成樹脂製芯材4に用いる素材としては、ABS樹脂以外のものであっても、熱膨張率が6×10-5/℃ 〜 13×10-5/℃程度であり、ヤング率が1〜9Gpa程度の素材であって、スノーボードの芯材として適当な強度と耐久性を備えたものを適宜好適に使用可能である。
【0051】
従って、足と対応して大きな荷重が加えられる位置におけるスノーボード30の強度を損なうことなく、スノーボード30の滑走面に下向きに凸となるコンベックス形状を効果的に生じさせ、スノーボード30の操作性を向上させて近年盛んになっているアトラクションパークにおけるレール、ボックスといった金属製の構造物上を滑走するような特殊な滑走形態にも適したものとすることができるようになっている。
【0052】
上記の製造方法は、滑走面がフラットなスノーボードを製造するための既存の設備をそのまま使用するものであり、凹溝G1〜G3の形成位置、長さ、深さなどを変更することで、通常のスノーボードと同一の設備にて滑走面が様々に異なるコンベックス形状のスノーボード30も製造可能であるため、コスト的に非常に有利な製造方法である。
【0053】
なお、上記の方法に従って製造されたスノーボードにおいては、スノーボードの上面に合成樹脂製芯材4と対応して凹溝G1〜G3を形成するまでは滑走面がフラットな状態となっており、通常のスノーボードと同じように使用することも可能である。
【0054】
上記のとおりの方法で複数のスノーボードを製造し、合成樹脂製芯材4と対応して溝幅が5mm、スノーボード上面からの深さが5mmの凹溝をスノーボードの長手方向に沿って設ける長さと、スノーボードの滑走面の形状について試験したところ、以下のとおりとなった。
凹溝の長さが50mm、75mm、100mm、125mm、150mmの場合には、スノーボードの滑走面がコンベックス形状に変化することはなかった。
凹溝の長さが175mmの場合には、スノーボードの滑走面が下向きに凸となるコンベックス形状に変化する傾向が認められた。
凹溝の長さが200mmの場合には、スノーボードの滑走面がコンベックス形状に変化した。
【0055】
なお、通常のスノーボードは、フラットな金型を用いて滑走面を成型しているが、内部の部材の歪みによっては滑走面が若干コンケーブとなってしまうことがあり、そのようなスノーボードは不良品として処理されてしまう。
【0056】
しかしながら、本件のように合成樹脂製芯材4の上面に凹溝を形成することで、滑走面をコンベックスとなるように変形させることが可能であるため、滑走面がコンケーブとなってしまったスノーボードをフラットな状態又はコンベックス形状に矯正して使用することも可能となる。
このような滑走面の矯正目的で凹溝G1〜G3を形成する場合には、上記の場合よりも短い凹溝であったり、浅い凹溝を形成するだけであってもよい。
【0057】
さらに、コンベックス形状への変形量を適宜の位置でコントロールするために、凹溝G1〜G3の溝幅を適宜の位置において広くしたり狭くしたりして実施してもよい。
また、図9に示すスノーボード40のように、ねじ穴9が複数配置されている前後の位置に亘って形成された前記貫通溝8の両側に平行となるように直線状の凹溝G4を形成して実施してもよい。
【0058】
かかる構成により、スノーボード30又はスノーボード40の滑走面がコンベックス形状となる位置及び滑走面の湾曲の程度を細かく設定することができ、滑走者の好みに合わせてスノーボード30又はスノーボード40の性能を変更してスノーボードを製造することができる。
【0059】
なお、前記実施例1及び2においては、トーションコントロール部として直線状の貫通溝8などを形成したが、トーションコントロール部を構成する溝を波形などの曲線状としたり折れ線状にしてもよい。
【0060】
また、スノーボード10,20の長手方向の中心線に沿って複数本の溝からなるトーションコントロール部を形成してもよく、この場合、ビンディング固定位置の内側(スノーボードの中央部)だけでなく、前後の端部側(トップ側又はテール側)にトーションコントロール部を形成してもよい。
さらに、スノーボード30の凹溝G1、G2、G3又はスノーボード40の凹溝G4を形成した位置にそれらの凹溝G1〜G4に代えてトーションコントロール部(貫通溝8など)を形成してもよい。
【0061】
また、前記貫通溝8と並行するように他の貫通溝8を1本の合成樹脂製芯材4に形成して実施してもよく、さらには、合成樹脂製芯材4を複数本(例えば3本)平行に並べるようにしてそれぞれの合成樹脂製芯材4に貫通溝8を形成するようにして実施してもよい。
即ち、貫通溝8又は凹溝8a,8bからなるトーションコントロール部の数は、1〜7本程度まで適宜変更して実施してもよい。
【0062】
さらに、本実施例においては貫通溝8の溝幅を一定としたが、スノーボードに求められる強度を損なうことの無い範囲で、適宜の位置において溝幅を変更して実施してもよい。その場合、貫通溝8の溝幅を広くするほどスノーボードのねじれ特性を高めることができる。
但し、合成樹脂製芯材4の幅が20mmのものを使用している場合においては、貫通溝8及び凹溝8a,8bの溝幅として好適なのは、1mm〜16mm程度である。
【0063】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で前記スノーボード10,20,30,40の各部材の材質、寸法、強度などを適宜変更したり、各溝8,8a,8b,G1〜G4の形成方法、形状、位置、大きさ、長さ、数、などを適宜変更して実施してもよい。
【0064】
例えば、トーションコントロール部を形成するために用いている合成樹脂製芯材に代えて、樹脂を含浸させた木製の芯材を用いたり、通常の木製の芯材にトーションコントロール部を形成してから防水処理を施すようにして実施してもよい。
【0065】
なお、本発明の対象であるスノーボードは、雪上を滑走するために板状に形成した装置であって、ブーツを固定するためのビンディングを固定できるものであればよいので、その名称の如何にかかわらず、本発明の意図する作用効果を奏するものであれば、本発明のスノーボードに含まれる。例えば、幅広に形成したスキー板と呼ばれるものなどであっても、本発明と同様の構成により本発明の意図する作用効果を奏するものであれば、本発明の特許請求の範囲に記載の発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、反発性を低下させることなくねじれ特性を向上させ、滑走性能に優れたスノーボード及びその製造において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 滑走面材
2 エッジ材
3 木製芯材
4 合成樹脂製芯材
4a 弾力性に富んだ素材
5 枠材
6 FRP層
7 表面シート
8 貫通溝
8a 凹溝
8b 凹溝
9 ねじ穴
10 スノーボード
11 コア
20 スノーボード
30 スノーボード
40 スノーボード
G1〜G4 凹溝
L 長手方向の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面から滑走面に至る貫通溝からなるトーションコントロール部を形成したことを特徴とするスノーボード。
【請求項2】
スノーボードの長手方向に沿ってスノーボードの上面に形成した凹溝と、当該凹溝の直下に対応する滑走面に形成した凹溝とからなるトーションコントロール部を備えたことを特徴とするスノーボード。
【請求項3】
前記トーションコントロール部の上面側の溝幅は、滑走面側の溝幅よりも広くなるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスノーボード。
【請求項4】
前記トーションコントロール部は、スノーボードの中央部において、ビンディングを固定する位置を避けて形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のスノーボード。
【請求項5】
前記スノーボードは、合成樹脂製芯材がインサートとして部分的に使用されており、当該合成樹脂製芯材と対応する位置に前記トーションコントロール部を形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のスノーボード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−115435(P2011−115435A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276336(P2009−276336)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(303011275)株式会社ジャパーナ (43)