説明

スパイクタイヤ用加硫金型およびスパイクタイヤ

【課題】型抜きに起因してスパイクピン打込み孔を形成する突起部によってスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが形成されるのを防止する。
【解決手段】スパイクタイヤ用加硫金型1は、複数個のセクターモールド2によって円環モールド3を形成してなる。セクターモールド2に配設された突起部10は、先端側部分10bに基端側部分10aに比べて径の大きい膨出部11を有する。突起部10のうち、ラジアル線m上の位置から離れた位置にある突起部10の先端側部分10bの膨出部11は、円環モールド3の周方向断面で見て、ラジアル線mを含む平面に近い側の外面部分である第1外面部分11aと、平面から遠い側の外面部分である第2外面部分11bとで構成され、第1外面部分11aから突起部10の軸線sまでの距離である第1膨出距離X1、X2、・・・、Xnが、第2外面部分11bから突起部10の軸線sまでの距離である第2膨出距離Y1、Y2、・・・、Ynよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生タイヤの加硫時に、トレッド部にスパイクピンを打ち込むための孔(スパイクピン打込孔)を形成するスパイクタイヤ用の加硫金型、およびこのスパイクタイヤ用加硫金型によって製造されたスパイクタイヤに関し、特に、型抜き起因してスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが発生するのを防止しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
チェーン装着時の乗心地悪化やチェーン着脱の不便さを改善するために開発された氷雪上用タイヤとして、トレッド部の陸部にスパイクピンを埋め込んだスパイクタイヤが知られている。スパイクピンPとしては、図6(a)に示すように、円柱状のボディP1と、このボディP1の先端に配設されたチップP2と、ボディP1の基端側に設けられた抜け止め用のフランジP3とを備えるものが用いられている。
【0003】
このようなスパイクピンは、トレッド部の陸部の表面に予め開けられたスパイクピン打込み孔内に打ち込まれるところ、スパイクピン打込み孔30の径が、図6(b)に示すように、その開口端から底部に至るまで一定であると、スパイクピン打込み孔30の内壁面によってスパイクピンPを保持する力が弱く、走行時にスパイクピンが脱落するという懸念がある。
【0004】
このようなスパイクピンの脱落を防止するため、特許文献1には、スパイクピン打込み孔の底部近傍に、拡径部を設けることにより段差を形成し、かかる段差にスパイクピンの上記フランジが係合するようにしてスパイクピンの保持力を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−111130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図7に示すように、スパイクピン打込み孔50は、生タイヤの加硫時にモールド側に設けたスパイクピン打込み孔の形成用の突起部41(なお、各突起部には、先端側部分に上記拡径部を形成するための膨出部41aが形成されている。)によって形成されるところ、加硫金型として、加硫時に装入される生タイヤのトレッド部に対向し、周方向に沿って配設された、複数個のセクターモールド40を具え、該複数個のセクターモールド40によって円環モールドを形成し、円環モールドの周方向断面で見て、各セクターモールド40の内周面40aが弧状をなし、各セクターモールド40の内周面40aに、円環モールドの径方向内方に向かって突出する複数上記突起部41を配設してなる加硫金型を用いる場合には、各セクターモールド2が、型抜き時に、上記内周面40aの周方向中心位置と上記円環モールドの中心位置とを通るラジアル線mに沿って移動することから、各セクターモールド40の内周面40aに配設した突起部41のうち、上記ラジアル線m上の位置から離れた位置にある突起部41の先端側部分(上記膨出部41a)がスパイクピン打込み孔50の周囲に引っかかり、ひび割れ(クラック)Crが発生する可能性がある。このようなクラックCrは、走行時に進展してついにはスパイクピンPの脱落を招くおそれがある。
【0007】
それゆえこの発明は、スパイクピン打込み孔の底部近傍にスパイクピンのフランジを引っ掛ける段差を形成するスパイクタイヤ用加硫金型につき、型抜きに起因してスパイクピン打込み孔を形成する突起部によってスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが形成されるのを防止可能なスパイクタイヤ用加硫金型および良好なスパイク保持力をもつスパイクタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型は、加硫時に装入される生タイヤのトレッド部に対向し、周方向に沿って配設された、複数個のセクターモールドを具え、該複数個のセクターモールドによって円環モールドを形成し、前記円環モールドの周方向断面で見て、各セクターモールドの内周面が弧状をなし、各セクターモールドの内周面に、円環モールドの径方向内方に向かって突出する複数のスパイクピン打込み孔形成用突起部を配設し、各セクターモールドが、前記内周面の周方向中心位置と前記円環モールドの中心位置とを通るラジアル線に沿って移動可能であり、前記セクターモールドの移動により、円環モールドの径の拡縮を可能にしてなるスパイクタイヤ用加硫金型において、前記突起部は、先端側部分に基端側部分に比べて径の大きい膨出部を有し、各セクターモールドの内周面に配設した突起部のうち、前記ラジアル線上の位置から離れた位置にある突起部の先端側部分の膨出部は、前記円環モールドの周方向断面で見て、前記ラジアル線を含む平面に近い側の外面部分である第1外面部分と、前記平面から遠い側の外面部分である第2外面部分とで構成され、前記第1外面部分から前記突起部の軸線までの距離である第1膨出距離が、前記第2外面部分から前記突起部の前記軸線までの距離である第2膨出距離よりも小さいことを特徴とするものである。なお、ここでいう「第1膨出距離」は、第1外面部分の、突起部の延在軸線から最も遠くに位置する点を通り、かつ延在軸線に平行な仮想直線と、延在軸線とでなす距離を意味し、また「第2膨出距離」は、第2外面部分の、突起部の延在軸線から最も遠くに位置する点を通り、かつ延在軸線に平行な仮想直線と、延在軸線とでなす距離を示す。
【0009】
かかるスパイクタイヤ用加硫金型にあっては、ラジアル線上の位置から離れた位置にある突起部の先端側部分に形成された膨出部において、第1膨出距離を第2膨出距離よりも小さくしたことから、タイヤの加硫後に金型を離型する際、突起部の膨出部の第1外面部分の、突起部によって形成されたスパイクピン打込み孔の周囲への引っ掛かり(抵抗)が小さくなり、スパイクピン打込み孔の周囲にクラックが発生するのを防止することができる。また、突起部をストレート形状(根元から先端に至るまで径が一定な形状)ではなく、先端側部分に膨出部を形成したことで、突起部によって形成されるスパイクピン打込み孔にスパイクピンのフランジが掛止する段差を形成することができ、スパイクタイヤに優れたスパイクピン保持力を付与することができる。より詳細には、第2膨出距離を第1膨出距離よりも大きくしたことから、第2外面部分に対応する、スパイクピン打込み孔の拡径部の内面部分(以下、第2内面部分ともいう。)の凹みが、第1外面部分に対応する、スパイクピン打込み孔の拡径部の内面部分(以下、第1内面部分ともいう。)の凹みよりも大きくなり、その結果、第1内面部分の凹みの減少によって低下したスパイクピン保持力を第2内面部分で補償することができ、充分なスパイクピンの保持力を発揮可能なスパイクタイヤを成型することができる。
【0010】
したがって、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型によれば、スパイクピン打込み孔の底部近傍にスパイクピンのフランジを引っ掛ける段差を形成するスパイクタイヤ用加硫金型につき、突起部の先端側部分の膨出部の形状を適正化したことで、型抜きに起因して突起部によってスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが形成されるのを防止することができる。また、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型によって形成されたスパイクタイヤは、良好なスパイクピンの保持力を発揮して、スパイクピンの脱落を防止することができる。
【0011】
なお、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型にあっては、セクターモールドの内周面に配設された突起部相互を、前記ラジアル線を含む平面から遠い位置に配設された突起部ほど、前記第2膨出距離を小さくすることが好ましい。
【0012】
また、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型にあっては、前記第1外面部分および前記第2外面部分は、それぞれ単一の円弧で構成され、前記第1外面部分の曲率は、第2外面部分の曲率よりも小さいことが好ましい。
【0013】
さらに、この発明のスパイクタイヤ用加硫金型にあっては、各セクターモールドの内周面に配設された突起部相互は、前記ラジアル線を含む平面から遠い位置に配設された突起部ほど、前記第2膨出距離を大きくすることが好ましい。
【0014】
また、この発明のスパイクタイヤは、上記いずれかに記載のスパイクタイヤ用加硫金型を用いて加硫成型されたタイヤのスパイクピン打込み孔に、フランジ付のスパイクピンを打ち込んでなるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、型抜きに起因してスパイクピン打込み孔を形成する突起部によってスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが形成されるのを防止可能なスパイクタイヤ用加硫金型を提供することが可能となり、また良好なスパイクピン保持力をもったスパイクタイヤを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に適用されるスパイクタイヤ用加硫金型を示す要部断面図である。
【図2】この発明に適用される複数のセクターモールドおよび該セクターモールドによって形成される円環モールドの平面図である。
【図3】この発明にしたがう一実施形態のセクターモールドを示す周方向に沿った断面図である。
【図4】図3のセクターモールドを用いて形成されたスパイクピン打込み孔を示す断面図である。
【図5】この発明にしたがう他の実施形態のセクターモールドを示す周方向に沿った断面図である。
【図6】(a)はこの発明にしたがうスパイクタイヤのスパイクピン打込み孔に打ち込まれるフランジ付スパイクピンの斜視図であり、(b)は、孔の形状がストレートである、従来のスパイクピン打込み孔を示す断面図である。
【図7】(a)は、従来のセクターモールドを加硫されたタイヤから離型する様子を示した周方向に沿った要部断面図であり、(b)は(a)の拡大図であり、(c)は、(a)のセクターモールドを有する加硫金型を用いて加硫成型されたスパイクタイヤのトレッド部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0018】
この実施形態のスパイクタイヤ用加硫金型(以下、「加硫金型」という。)1は、図1、2に示すように、周方向に複数分割されたセクショナルタイプの金型であり、加硫時に装入される生タイヤのトレッド部に対向し、周方向に沿って配置された、複数個(ここでは9個)のセクターモールド2を具える。各セクターモールド2は、弧状の内周面2aを有し、互いに協働して円環モールド3を形成する。各セクターモールド2は、複数のセグメント4により半径方向外側から保持されている。セグメント4は、上方に向けて先細りとなるに外周面に傾斜面(テーパー面)が形成されている。
【0019】
セクターモールド2の半径方向内側には、上下方向に対向して配置され、各々生タイヤのサイド部を成型する成型面を有する一対のサイドモールド6、7が配設されている。
【0020】
セグメント4の半径方向外側には、各セグメント4を半径方向内側に向けて押圧するアウターリング8が配設されている。アウターリング8は、下方に向かうに連れて拡径するように内周面がテーパー状とされており、セグメント4の外周面と摺動するようになっている。
【0021】
このようになる加硫金型1は、生タイヤを加硫するにあたり、加硫金型1の内部に生タイヤを装入し、アウターリング8を下降させると、該アウターリング8の内周面が推力面となってセグメント4を半径方向内側へ移動させ、このセグメント4の半径方向内側への移動に伴って、各セクターモールド2がラジアル線(セクターモールド2の内周面2aの周方向中心位置と円環モールド3の中心位置とを通る仮想直線)mに沿って半径方向内側へ移動し、生タイヤのトレッド部を押圧する。次いで、所定温度および圧力の熱媒体によって加硫金型1を加熱し、生タイヤを加硫する。加硫終了後には、アウターリング8を上昇させ、各セクターモールド2を上記ラジアル線mに沿って半径方向外側に移動させる。これにより、加硫済みのタイヤを加硫金型1内から取り出すことができる。
【0022】
ここで、各セクターモールド2の内周面2aには、図3に示すように、円環モールド3の半径方向内側に向かって突出する複数(ここでは各セクターモールドに100〜130個)のスパイクピン打込み孔形成用の突起部10が配設されている。突起部10はセクターモールド2に着脱自在に保持されており、必要とされるスパイクピン打込み孔20(図4参照)の数に応じて、突起部10の数を適宜変更可能である。図3では、説明の便宜上、突起部の数を減らして示している。
【0023】
各突起部10は、図3に示すように、セクターモールド2の内周面2aから同一径で直線状に延びる基端側部分10aと、基端側部分10aから先端側へ延びる先端側部分10bとで構成されている。先端側部分10bには、基端側部分10aよりも径が大きい膨出部11が形成されている。また、各セクターモールド2の内周面2aに配設した突起部10のうち、ラジアル線m上の位置から離れた位置にある突起部10の膨出部11は、円環モールド3の周方向断面で見て、ラジアル線mを含む平面に近い側の外面部分である第1外面部分11aと、上記平面から遠い側の外面部分である第2外面部分11bとで構成され、第1外面部分11aから突起部10の軸線sまでの最大距離である第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnが、第2外面部分10bから突起部10の軸線sまでの最大距離である第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynよりも小さく設定されている。すなわち、ラジアル線m上の位置から離れた位置にある突起部10は、円環モールド3の周方向断面でみて、第1外面部分11aの膨出量が第2外面部分11bの膨出量より小さくなっている。
【0024】
さらに、この実施形態では、各セクターモールド2の内周面2aに配設された突起部10相互は、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に配設された突起部10ほど、第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnが小さく設定されている。すなわち、X1>X2>X3>X4>Xnの関係を満たす。
【0025】
しかも、この実施形態では、第1外面部分11aおよび第2外面部分11bは、それぞれ単一の円弧で構成され、第1外面部分11aの曲率は、第2外面部分11bの曲率よりも小さく設定されている。
【0026】
このようなセクターモールド2を具える加硫金型1にあっては、ラジアル線m上の位置から離れた位置にある突起部10の先端側部分11において、第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnを第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynよりも小さくしたことから、タイヤの加硫後に金型1を離型する際、突起部10の先端側部分11の第1外面部分11aの、突起部10によって形成されたスパイクピン打込み孔20の周囲への引っ掛かり(抵抗)が小さくなり、スパイクピン打込み孔20の周囲にクラックが発生するのを防止することができる。
【0027】
また、突起部10をストレート形状(根元から先端に至るまで径が一定な形状)ではなく、先端側部分10bに膨出部11を形成したことで、図4に示すように、突起部10によって形成されるスパイクピン打込み孔20にスパイクピンPのフランジP1が掛止する段差21を形成することができ、スパイクタイヤ23に所期のスパイクピン保持力を付与することができる。より詳細には、第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynを第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnよりも大きくしたことから、第2外面部分11bに対応する、スパイクピン打込み孔20の拡径部22の内面部分(以下、第2内面部分ともいう。)22bの凹みが、第1外面部分11aに対応する、スパイクピン打込み孔20の拡径部22の内面部分(以下、第1内面部分ともいう。)22aの凹みよりも大きくなり、その結果、第1内面部分22aの凹みの減少によって低下したスパイクピン保持力を第2内面部分22bで補償することができ、充分なスパイクピン保持力を発揮可能なスパイクタイヤ23を成型することができる。
【0028】
したがって、この加硫金型1によれば、スパイクピン打込み孔20の底部近傍にスパイクピンPのフランジP3を引っ掛ける段差21を形成する加硫金型1につき、突起部10の先端側部分10bの形状を適正化したことで、型抜きに起因して突起部10によってスパイクピン打込み孔20の周囲にクラックが形成されるのを防止することができる。また、この加硫金型1によって形成されたスパイクタイヤ23は、充分なスパイクピン保持力を発揮して、スパイクピンPの脱落を防止することができる。
【0029】
また、タイヤの加硫後にセクターモールド2をタイヤから引き離す際、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に配設された突起部10ほど、ラジアル線mに対して突起部10が傾斜する角度は大きくなるところ、この実施形態では、各セクターモールド2の内周面2aに配設された突起部10相互は、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に配設された突起部10ほど、第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnを小さく設定したことから、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に配設された突起部10ほど、第1外面部分11aとスパイクピン打込み孔20との抵抗を小さくすることができ、全てのスパイクピン打込み孔20に対してクラックの発生を確実に防止することができる。
【0030】
しかも、この実施形態の加硫金型1にあっては、第1外面部分11aおよび第2外面部分11bを、それぞれ単一の円弧で構成したことから、型抜き時における突起部10の膨出部11とスパイクピン打込み孔20との間の抵抗をさらに小さくし得て、型抜きに起因するスパイクピン打込み孔周囲へのクラックの発生を、より一層確実に防止することができる。
【0031】
図5は、この発明に適用可能な他のセクターモールド2を示している。この例では、各セクターモールド2の内周面2aに配設された突起部10相互は、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に配設された突起部10ほど、第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynを大きく設定している。さらには、各セクターモールド2の内周面2aに配設された突出部10相互にて、第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnと第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynとの和を略等しく設定している。すなわち、X1+Y1=X2+Y2=X3+Y3=X4+Y4=Xn+Ynの関係を満たす。
【0032】
これによれば、ラジアル線mを含む平面から遠い位置に向かうほど、形成されたスパイクタイヤのスパイクピン打込み孔の第2内面部分によるスパイクピン保持力を高めることができ、全てのスパイクピン打込み孔20に対してほぼ等しいスパイクピン保持力を付与することができる。特に、各セクターモールド2の内周面2aに配設された突起部10相互にて、第1膨出距離X1、X2、X3、X4、・・・、Xnと第2膨出距離Y1、Y2、Y3、Y4、・・・、Ynとの和を略等しく設定することで、全てのスパイクピン打込み孔20に対してより一層等しいスパイクピン保持力を付与することができる。
【0033】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができるものであり、例えば、上記実施形態では、突起部の先端側部分を構成する第1外面部分および第2外面部分を、円環モールドの周方向断面でみて、単一の円弧にて形成すると説明したが、第1外面部分および第2外面部分はそれぞれ、半楕円形としてもよい。
【実施例】
【0034】
本発明を適用し、各突起部において、第1外面部分から突起部の軸線までの距離である第1膨出距離を、第2外面部分から突起部の軸線までの距離である第2膨出距離よりも小さくしたセクターモールド(図3)を具える実施例の加硫金型と、各突起部において、第1外面部分から突起部の軸線までの距離である第1膨出距離と、第2外面部分から突起部の軸線までの距離である第2膨出距離とが等しいセクターモールド(図示省略)を具える比較例の加硫金型とを用い、スパイクタイヤを加硫成型し、スパイクピン打込み孔の周囲のクラックの発生を調べたところ、比較例の加硫金型を用いた場合には、全スパイクピン打込み孔に対する、クラックの発生したスパイクピン打込み孔の割合は7〜18%であったのに対し、実施例の加硫金型を用いた場合には、全スパイクピン打込み孔に対する、クラックの発生したスパイクピン打込み孔の割合は0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
かくして、この発明により、スパイクピン打込み孔の底部近傍にスパイクピンのフランジを引っ掛ける段差を形成するスパイクタイヤ用加硫金型につき、型抜きに起因してスパイクピン打込み孔を形成する突起部によってスパイクピン打込み孔の周囲にクラックが形成されるのを防止することが可能となった。
【符号の説明】
【0036】
1 スパイクタイヤ用加硫金型
2 セクターモールド
2a セクターモールドの内周面
3 円環モールド
4 セグメント
6、7 サイドモールド
8 アウターリング
10 突起部
10a 突起部の基端側部分
10b 突起部の先端側部分
11 膨出部
11a 第1外面部分
11b 第2外面部分
20 スパイクピン打込み孔
21 スパイクピン打込み孔の段差
22 スパイクピン打込み孔の拡径部
22a 第1内面部分
22b 第2内面部分
23 スパイクタイヤ
m ラジアル線
P スパイクピン
P3 スパイクピンのフランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫時に装入される生タイヤのトレッド部に対向し、周方向に沿って配設された、複数個のセクターモールドを具え、該複数個のセクターモールドによって円環モールドを形成し、前記円環モールドの周方向断面で見て、各セクターモールドの内周面が弧状をなし、各セクターモールドの内周面に、円環モールドの径方向内方に向かって突出する複数のスパイクピン打込み孔形成用突起部を配設し、各セクターモールドが、前記内周面の周方向中心位置と前記円環モールドの中心位置とを通るラジアル線に沿って移動可能であり、前記セクターモールドの移動により、円環モールドの径の拡縮を可能にしてなるスパイクタイヤ用加硫金型において、
前記突起部は、先端側部分に基端側部分に比べて径の大きい膨出部を有し、
各セクターモールドの内周面に配設した突起部のうち、前記ラジアル線上の位置から離れた位置にある突起部の先端側部分の膨出部は、前記円環モールドの周方向断面で見て、前記ラジアル線を含む平面に近い側の外面部分である第1外面部分と、前記平面から遠い側の外面部分である第2外面部分とで構成され、前記第1外面部分から前記突起部の軸線までの距離である第1膨出距離が、前記第2外面部分から前記突起部の前記軸線までの距離である第2膨出距離よりも小さいことを特徴とするスパイクタイヤ用加硫金型。
【請求項2】
各セクターモールドの内周面に配設された突起部相互は、前記ラジアル線を含む平面から遠い位置に配設された突起部ほど、前記第1膨出距離を小さくする、請求項1記載のスパイクタイヤ用加硫金型。
【請求項3】
前記第1外面部分および前記第2外面部分は、それぞれ単一の円弧で構成され、前記第1外面部分の曲率は、第2外面部分の曲率よりも小さい、請求項1または2に記載のスパイクタイヤ用加硫金型。
【請求項4】
各セクターモールドの内周面に配設された突起部相互は、前記ラジアル線を含む平面から遠い位置に配設された突起部ほど、前記第2膨出距離を大きくする、請求項1〜3記載のスパイクタイヤ用加硫金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパイクタイヤ用加硫金型を用いて加硫成型されたタイヤのスパイクピン打込み孔に、フランジ付のスパイクピンを打ち込んでなるスパイクタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−96471(P2012−96471A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246856(P2010−246856)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】