説明

スピーカ又はマイク

【課題】スピーカ又はマイクとしての機能や性能を劣化させることなく、漏洩磁束によって吸着された砂鉄等の異物を容易に取り除くことが可能なスピーカ又はマイクを提供する。
【解決手段】例えばスピーカの場合、磁束発生部材21と、この磁束発生部材により生じる磁界中に振動可能に配置された導体(入力信号としての電流が流れる導体;ボイスコイル22)と、この導体とともに振動可能とされた振動板23と、磁束発生部材の周囲に配置されて磁束発生部材の消磁と着磁が可能な消磁・着磁用コイル24と、を備える構成とする。磁束発生部材を適宜消磁することで前記異物を容易に取り除くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩磁束による問題の改善を指向したスピーカ又はマイクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、漏洩磁束による問題の改善を指向したスピーカとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。すなわち特許文献1には、従来例として、永久磁石の外周をヨークで囲んだ構造の内磁形スピーカや、磁気回路を構成する部材(永久磁石やヨーク等)の外周をシールド板で覆った磁気シールド形スピーカが開示されている。また特許文献1には、出願に係る考案として、前記内磁形スピーカのヨークの外周に、電源スイッチのオンにより交流電流が時間経過とともに減衰される回路に接続される消磁コイルを巻き、この消磁コイルの作用によってヨークの残留磁気を消す構成とした防磁スピーカが開示されている。この特許文献1の考案は、テレビなどのブラウン管を備える装置に用いられるスピーカを想定し、このスピーカからの漏洩磁束によってブラウン管の像に歪みが生じるのを防止することを目的としている。
【0003】
また、漏洩磁束による問題の改善を指向したマイクとしては、例えば特許文献2で提案されたものがある。すなわち特許文献2には、磁石の磁極間を短絡する位置に、手動で摺動させることができる磁気ショートリングを備えたダイナミック型マイクが開示されている。これは、前記磁気ショートリングを磁石の磁極間を短絡する位置に動かすことによって、漏洩磁束を無くすか又は極端に少なくし、これにより、振動板等の上に漏洩磁束によって吸着された鉄粉を取り去ることができるようにすることを目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−169197号公報
【特許文献1】実開昭61−602996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1にも記載されているように、単なる内磁形スピーカや磁気シールド形スピーカでは、漏洩磁束を十分に減らすことができない。また、特許文献1の出願に係る考案(内磁形スピーカのヨークの外周に、ヨークの残留磁気を消すための消磁コイルを巻いた構成)であっても、消磁されるのはヨーク(磁束を誘導する継鉄)のみであり、永久磁石(磁束を発生させる部材)の磁気は強く残っている(スピーカとして作動させるために当然残さなければならない)ので、漏洩磁束をゼロ(又は略ゼロ)にすることはできず、漏洩磁束による問題を必ずしも解決できない。
【0006】
例えば、携帯電話機などの携帯機器に使われるスピーカでは、携帯機器をユーザが砂場に落とした場合などに、漏洩磁束に引き寄せられて砂鉄等の磁性体の異物が放音口につまり、音質の劣化や付着物からの錆による不鳴りなどの不具合が発生することがあった。なお、このような漏洩磁束による問題を改善するための他の方策としては、漏洩磁束が小さくなるような磁力の弱い永久磁石を使用すること、或いは永久磁石の代りに電磁石を使用することが考えられる。しかし、前者の場合には、スピーカの振動板に加わる力が弱くなり音圧が小さくなるという問題がある。また、後者の場合には、常に電流を流さないと磁界が消失してしまうため、使用中は電流を流し続ける必要があって消費電力が大きくなり、特に省電力が要求される携帯機器などには不向きであるという問題がある。
【0007】
なお、スピーカは電気信号を物理振動に変換する装置であり、マイクは逆に物理振動を電気信号に変換する装置であるが、例えば磁石を使用したダイナミック型の場合、いずれも原理的構造は同じであり、原理的には、スピーカをマイクとして或いはマイクをスピーカとして使用することもできる。このため、マイクについても磁石を使用したものであれば、上述の漏洩磁束による問題(磁性体の異物を吸着する問題)が同様に存在し、これを解決しようとして、前述した特許文献2のマイクが提案されている。そして、前記特許文献2の技術は、磁石を使用した同原理のスピーカにも原理的には適用可能である。しかし、特許文献2の技術は、前記磁気ショートリングを配置する分だけマイクやスピーカが大型化するという問題に加えて、消磁する際に前記磁気ショートリングを手動で動かす必要があるためにユーザにとってめんどうであるなどの問題がある。
【0008】
そこで本発明は、スピーカ又はマイクとしての機能や性能等をできるだけ劣化させることなく、漏洩磁束によって吸着された砂鉄等の異物を容易に取り除くことが可能なスピーカ又はマイクを提供することを目的とする。
なお、「スピーカ又はマイク」とは、スピーカとしてのみ使用されるものでもよいし、マイクとしてのみ使用されるものでもよいし、スピーカ及びマイクとして兼用されるものでもよいことを意味している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカ又はマイクは、
磁束を発生させる磁束発生部材と、
この磁束発生部材により生じる磁界中に振動可能に配置された導体と、
この導体に連結されて、この導体とともに振動可能とされた振動板と、
前記磁束発生部材の周囲に配置されて、前記磁束発生部材の消磁と着磁が可能な消磁・着磁用コイルと、
を備えることを特徴とするスピーカ又はマイクである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スピーカ又はマイクとしての機能や性能等をなるべく劣化させることなく、漏洩磁束によって吸着された砂鉄等の異物を容易に取り除くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態である携帯電話機を示す図であり、(a)は外観斜視図、(b)は裏面図である。
【図2】前記携帯電話機の概念的な内部ブロック図である。
【図3】スピーカの概略構成を示す側断面図である。
【図4】(a)は各磁性材料のヒステリシス曲線を示す図、(b)は比較例のスピーカの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態(本発明を携帯電話機の受話器に適用した例)を、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本実施形態に係る携帯電話機1の外観図である。この図において、携帯電話機1は、筐体2の主面(表面であって主たる操作対象となる面のこと)にタッチパネル3を設けるとともに、そのタッチパネル3の背面に液晶ディスプレイやELパネルなどの表示デバイスからなる表示部4を設けている。また、そのタッチパネル3の上辺近くに受話器(レシーバ)としてのスピーカ5aやインカメラ7を設け、さらに、そのタッチパネル3の下辺近くにキー12a,12b,12cを設けている。なお符号2aは、筐体2のスピーカ5aに対応する位置に設けられた開口であり、スピーカ5aから出力される音を外部に放出するための放音口である。スピーカ5aは、この放音口2aの奥にある。スピーカ5aの構成については、後述する。
【0013】
ここで、「近く」とは、少なくとも筐体2の主面の端からタッチパネル3の端までの間のいわゆる額縁内の任意の位置のことをいう。筐体2は、回路基板等の内蔵部品を収納して携帯電話機1の表面を構成するフレームであり、手持ちに適した形状、この場合、薄い直方体状の箱形となっている。キー12a,12b,12cは、利用者が押下する操作ボタンであり、それぞれ、例えばメニューを表示させるためのメニューキー、デスクトップ(初期画面)を表示させるホームキー、一つ前の画面に戻すための戻るキーである。また、図1における符号6は、筐体2の下端面に設けられた送話器としてのマイクを示す。なお符号2cは、筐体2の下端面に設けられた開口であり、マイク6に外部の音を入力するための入音口である。マイク6は、この入音口2cの奥にある。
【0014】
なお、筐体2の任意部分に、電源ボタンやバッテリ充電用端子などが設けられているが、図では省略している。また図示省略しているが、筐体2の任意部分に、着脱可能なカード型メモリを装着する装着部(スロット)が設けられていてもよい。また、図1(b)の裏面図に示しているが、筐体2の裏面(主面と反対側の面)には、アウトカメラ13と、着信音やアラーム或いは楽音などを出力するためのスピーカ5bとが設けられている。なお符号2bは、筐体2の裏面のスピーカ5bに対応する位置に設けられた複数の小孔よりなる放音部である。スピーカ5bは、この放音部2bの奥にあり、スピーカ5bから出力される音はこの放音部2bから外部に放出される。
【0015】
図2は、携帯電話機1の概念的な内部ブロック図である。この図において、携帯電話機1は、タッチパネル3、表示部4、インカメラ7、無線通信部8、音声入出力部9、中央制御部10、電源部11、操作部12、アウトカメラ13を備える。なお、携帯電話機1を構成する実際の回路や機器は、通常、主にベースバンドブロックと無線ブロックとに分けられる。このようにブロック分けされた場合、図2における無線通信部8が無線ブロックに属し、タッチパネル3、表示部4、インカメラ7、中央制御部10、操作部12、及びアウトカメラ13等がベースバンドブロックに属する。
【0016】
無線通信部8は、アンテナ8aを介して最寄りの基地局(図示略)等との間で無線によるデジタルデータの送受信を行う。デジタルデータには、電話の着呼や発呼の情報および音声通話の情報が含まれる。この無線通信部8は、中央制御部10からの制御に従って、上記のデジタルデータの送信や受信を行う。例えば、衆網基地局や家庭用親機からの無線信号は、無線通信部8によって復調され出力される。この無線通信部8からの出力信号は、音声信号又は制御信号としてベースバンドブロックの中央制御部10に入力される。このうち、音声信号は、音声処理されてスピーカ5a等から音声として出力される。制御信号は、ベースバンドブロック内の処理に用いられる。なお、アンテナ8aは、公知のダイバーシティ(Diversity)やMIMO(Multiple input output)などのマルチアンテナ技術に対応する場合には、複数設けられる。
【0017】
音声入出力部9は、中央制御部10からの制御により、マイク6で拾った音声信号をデジタルデータに変換して中央制御部10に出力したり、中央制御部10から出力されたデジタルの音声信号をアナログ信号に変換してスピーカ5aから拡声したりする。マイク6やスピーカ5aは電話の送受話用であるが、スピーカ5aは、さらに電話の着信音等(或いはムービー再生等に伴う音声)の出力に用いられてもよい。なお、前述したように受話用のスピーカ5aとは別に、筐体2の裏面にはスピーカ5bが設けられており、音声入出力部9を介してこのスピーカ5bから着信音等の出力を行ってもよい。
【0018】
表示部4は、先にも説明したとおり、その前面に、人体の一部(例えば、手の指)の接触又は接近を検知できるタッチパネル3を併設している。タッチパネル3は、例えば、圧電方式のものであってもよいし、静電容量方式のものであってもよい。
【0019】
電源部11は、一次電池又は充電可能な二次電池からなるバッテリを含み、このバッテリの電力から携帯電話機1の動作に必要な各種電源電圧を発生して各部に供給する。なお、前記バッテリは、筐体2の裏面に設けられた収納凹部2d内に収納され、カバー14によって覆われている(図1(b)に示す)。
【0020】
操作部12は、前述した電源ボタンやキー12a,12b,12cなどの操作の入力処理を行う。なお、タッチパネル3は、ダイヤル入力、文字入力、コマンド入力などを入力するもので、中央制御部10は、操作部12とこのタッチパネル3からの入力操作信号に応じた処理を実行する。
【0021】
中央制御部10は、マイクロコンピュータ(以下、CPUと表記する。)10a、読み出し専用半導体メモリ(以下、ROMと表記する。)10b、高速半導体メモリ(以下、RAMと表記する。)10c、書き換え可能な不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリやEEPROMなど。以下、EPROMと表記する。)10d、ならびに不図示の周辺回路を含むプログラム制御方式の制御要素である。この中央制御部10は、あらかじめROM10bやEPROM10dに格納されている制御プログラムをRAM10cにロードしてCPU10aで実行することにより、各種の処理を逐次に実行して、この携帯電話機1の全体動作を統括制御する。
【0022】
次に、インカメラ7は、筐体2における表示部4と同じ面(すなわち主面)に設けられ、例えば携帯電話機1を持っている利用者自身の顔を含む静止画又は動画を撮像可能である。またアウトカメラ13は、筐体2の裏面(主面と反対側の面)に設けられ、他者や風景などの静止画又は動画を撮像するためのカメラである。利用者は、キー12a,12b,12cやタッチパネル3を操作することによって、インカメラ7やこのアウトカメラ13による静止画や動画の撮影等のアプリケーションを作動させることが可能となっている。また図示省略しているが、筐体2における例えば右側の側面には、利用者が操作してこれらカメラによる撮影のシャッター操作等を容易に実行するためのシャッターボタンが設けられていてもよい。
【0023】
そして、撮影された静止画や動画のデータ、及び動画等と同期して記録された音声データは、例えばEPROM10d、或いは前述した装着部に装着されたカード型メモリに記録され、表示部4やスピーカ5a等によって再生可能である。また、表示部4には、この携帯電話機1とは異なる他の機器で撮影された静止画や動画(例えば、EPROM10dや前記カード型メモリに記録されたもの)も再生可能である。
【0024】
また、携帯電話機1には、音声データを送受信して通話する音声通話機能のほか、TV(テレビ)電話機能が備えられていてもよい。更に、携帯電話機1には、電子メール機能、インターネット接続機能、TV放送表示機能、スケジュール管理機能、電卓機能、アラーム(目覚まし)機能、音楽データ再生機能、などが備えられていてもよいことは、いうまでもない。
【0025】
次に、受話器(スピーカ5a)の構成を図3により説明する。
スピーカ5aは、磁界中で動作可能な導体に振動板が連結されているという意味ではダイナミック型スピーカであるが、磁束発生部材(磁束を発生させる部材)として一般的な永久磁石材料(すなわち、硬磁性材料)は使用せず、軟磁性材料を使用する。軟磁性材料としては、例えば、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、バーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金などがあり得るが、好ましくは、図4(a)により後述する残留磁束密度Y1が永久磁石材料と同程度に大きく、保持力X1が永久磁石材料より格段に小さい材料がよい。
【0026】
図3に示すように、スピーカ5aは、軟磁性材料よりなる磁束発生部材21と、この磁束発生部材21により生じる磁界中に振動可能に配置されたボイスコイル22(導体)と、このボイスコイル22に連結されてこのボイスコイル22とともに振動可能とされた振動板23と、磁束発生部材21の周囲に配置されて磁束発生部材21の消磁と着磁が可能な消磁・着磁用コイル24と、フレーム25とを備える。ここで、ボイスコイル22は、信号(スピーカへの入力信号)としての電流が流れる導体である。磁束発生部材21は、従来の永久磁石の代りに設けられたもので、フレーム25に対して固定状態に取り付けられる。消磁・着磁用コイル24も、磁束発生部材21の消磁と着磁が可能となるように磁束発生部材21の周囲に配置されて、フレーム25に対して固定状態に設けられる。振動板23とボイスコイル22は、図示省略したエッジ(柔軟な膜)やダンパによってフレーム25に取り付けられ、フレーム25に対して前後方向(図3では上下方向)に振動することが可能となっている。ここで、フレーム25は、磁束を外に漏らし難いシールド性能を有するものであることが好ましい。
【0027】
なお、図3はスピーカ5aの原理的構成を示す図であり、詳細構造は、公知の各種の態様をとり得る。例えば、特許文献1に開示された構成のように、磁気回路を構成する部材としてヨークやプレートを備える構成とし、このヨークとプレートで形成される磁極間の狭いギャップの中にボイスコイル22を配置する態様でもよい。またこの態様の場合、磁束発生部材21がヨークの内周側に配置される内磁形でもよいし、磁束発生部材21がヨークの外周側に配置される構成でもよい。
【0028】
ここで、ヨークやプレートは、例えば鉄などの軟磁性材料よりなり、磁束を通す磁路となって、磁束をボイスコイル22(導体)の位置に密集させるべく誘導する部材(言わば、磁束誘導部材)であり、一般的なダイナミック型スピーカにおける永久磁石(磁束を発生させる部材)とは異なる部材である。また本願発明は、磁束を発生させる部材としての永久磁石(硬磁性材料)の代りに軟磁性材料を使用して、適宜この軟磁性材料を消磁して使用するものである。そこで、これらの意味を明確にするために本願では、「磁石」という用語を使用せずに、「磁束発生部材」という語を設定して用いている。磁束発生部材は、上記ヨーク等の部材(いわゆる継鉄などと呼ばれる部材)を含まない概念である。
【0029】
また、消磁・着磁用コイル24には、図示省略した回路(以下、コイル通電用回路という)によって、消磁用の交流電流と着磁用の直流電流の何れかを選択して流すことができる構成となっている。コイル通電用回路は、前述した音声入出力部9内に設けられた回路であってもよいし、音声入出力部9とは独立に設けられた回路であってもよい。このコイル通電用回路は、例えば中央制御部10の制御によって適宜作動して、消磁・着磁用コイル24に消磁用の交流電流を流して磁束発生部材21の消磁を行ったり、消磁・着磁用コイル24に着磁用の直流電流を流して磁束発生部材21の着磁を行ったりする。これら消磁・着磁のタイミング等を含む制御処理の具体例については、後述する。
【0030】
なお、消磁・着磁用コイル24は、前述したヨークやプレートなどの部材(磁束誘導部材)が設けられた場合、これらヨーク等の部材を含めた全ての磁気回路構成部材(磁束発生部材及び磁束誘導部材)の消磁を行う態様でもよい。本発明の消磁・着磁用コイルは、少なくとも磁束発生部材の消磁又は着磁を行うものであればよい。ちなみに、前述した特許文献1で提案された発明は、磁束発生部材として永久磁石(硬質磁性材料)を用いる点と、ヨーク等の部材(磁束誘導部材)のみの消磁を行い、磁束発生部材の消磁は行わないものである点で、本願発明と異なる。
【0031】
次に、軟磁性材料について説明する。図4(a)は、横軸を磁界(磁場)の強さH(アンペア毎メートル;A/m)とし、縦軸を磁束密度B(テスラ;T)として表した磁性体のヒステリシス曲線(BHカーブ)の一例である。図中、実線が軟磁性材料の例を、半線が硬磁性材料の例を示している。磁性体を外部磁場の中に入れて外部磁場の強さを増やしてゆくと磁性体は着磁されるが、そこから外部磁場を減らしていっても磁性体の磁力(磁性体により生じる磁束密度)は着磁時のカーブにのって減少することはなく、ヒステリシスを持つ。外部磁場の強さHがゼロになったときに残っている磁力Bが残留磁束密度と呼ばれ、逆向きの磁場を加えて磁力Bがゼロになったときの外部磁場の強さHが保持力と呼ばれる。
【0032】
そして、例えば図4(a)に示すように、軟磁性材料は、硬磁性材料に比べて前記ヒステリシスが格段に小さく、保持力も格段に小さい。図4(a)では、X1で示す点が軟磁性材料の保持力に相当し、Y1で示す点が軟磁性材料の残留磁束密度に相当し、X2で示す点が硬磁性材料の保持力に相当し、Y2で示す点が硬磁性材料の残留磁束密度に相当する。なお、前記ヒステリシスが大きく残留磁束密度及び保磁力が大きい磁性体が一般的に永久磁石と呼ばれ、このような一般的な永久磁石は硬磁性材料よりなる。
【0033】
次に、スピーカ5aに関連する動作について説明する。
中央制御部10は、前述したコイル通電用回路を制御することにより、例えば携帯電話機1の電源投入時に、磁束発生部材21の磁力Bが飽和するまで着磁するための所定の直流電流を消磁・着磁用コイル24に所定時間流すことによって、磁束発生部材21を着磁する。この着磁動作によって、磁束発生部材21が磁化され、消磁・着磁用コイル24への直流電流の通電が停止された後も、磁束発生部材21は所定の磁束密度(前述の残留磁束密度Y1)を発生させる状態に保持される。なお、この着磁動作は、携帯電話機1の電源投入時等に毎回行うようにしてもよいが、磁束発生部材21が着磁されていることが明らかな場合(例えば、前回の着磁動作を行った後に消磁動作を行っていない状態の場合)には、実行しない態様でもよい。
【0034】
そして、中央制御部10からスピーカ5aによって出力すべき音声に対応するデジタル信号が出力されると、音声入出力部9は、このデジタル信号をアナログ信号に変換してスピーカ5aのボイスコイル22に入力する。ボイスコイル22(導体)は、磁束発生部材21により発生した磁束よりなる磁界の中にあるため、このボイスコイル22に電気信号が流れると、フレミングの左手の法則によってボイスコイル22が電気信号の波形に合わせて前後方向に移動する(つまり、振動する)。ボイスコイル22には振動板23が直結しているため、この振動板23が一緒に振動することで前記アナログ信号と等しい波形の音が、放音口2aを介して空気中に放射される。
【0035】
フレミングの左手の法則より、磁界の強さ(磁束密度)をB
、電流の大きさをIとすると、電流の流れる導体が磁場から受ける単位長さ辺りの力(F´)は、F´=I×Bと表すことができる。このため、磁界Bが大きいとF´が大きくなり振動板23を大きく揺らすことができ、入力信号の大きさの割に高い音圧(大音量)が得られる。本実施形態のスピーカ5aでも、磁束発生部材21の残留磁束密度Y1を必要程度大きく設定することによって、入力信号の大きさに対する所定の音圧を確保できる。
【0036】
そして本実施形態でも、この磁束発生部材21の残留磁束密度Y1によって、放音口2aから外部に漏れる漏洩磁束がある程度発生し、これによって磁性体の異物が引き寄せられ放音口2a内に侵入し滞留する恐れがある。しかし、この異物は次のようにして容易に取り除ける。
【0037】
すなわち、中央制御部10は、例えば携帯電話機1の電源オフ操作が為されると、この電源オフ操作から実際に電源を遮断するまでの間に、前述したコイル通電用回路を制御することにより、消磁・着磁用コイル24に、磁束発生部材21を消磁するための所定の交流電流を所定時間流すことによって、磁束発生部材21を消磁する。この際、磁束発生部材21を構成する軟磁性材料は前述しように保持力が小さいので、小さな電流によって消磁ができる。この消磁動作によって、磁束発生部材21の残留磁化(残留磁束密度Y1)が取り除かれ、磁束発生部材21が発生させる磁束密度はゼロ(又は略ゼロ)になり、それにより漏洩磁束もゼロ(又は略ゼロ)になる。
【0038】
このためユーザは、このように消磁された状態(例えば電源遮断状態)において、前記放音口2aを下向きにして携帯電話機1を軽く振ったりすることで、前記放音口2a内に滞留したり詰まったりしていた砂鉄等の異物を容易に落下させて除去することができる。なお既述したように、前記消磁動作は、磁束発生部材21のみならず、磁束発生部材21に組み付けられた前述のヨーク等の部材に対しても行う構成でもよい。この場合、ヨーク等が発生させる漏洩磁束も消失させることができ、前記異物の除去がさらに容易になる。
【0039】
このように本実施形態の携帯電話機1のスピーカ5aであると、消磁・着磁用コイル24に消磁用電流又は着磁状電流を適宜通電することによって、スピーカ5aの機能や性能等を十分実現することができるとともに、漏洩磁束によって吸着された砂鉄等の異物を容易に取り除くことが可能となる。特に本実施形態の場合には、磁束発生部材21が軟磁性材料によりなるため、消磁や着磁に要する電力が格段に少なくてすみ、携帯電話機のような携帯機器にとって実用的なスピーカとなる。また、前述したように消磁・着磁用コイル24による消磁や着磁を中央制御部10の制御で自動的に行うようにすれば、ユーザが操作するめんどうが全く無くなる。
【0040】
以下、図4(b)に示した比較例等との対比によって、本発明の背景をあらためて説明するとともに、本発明や前記第1実施形態の効果を詳細に説明する。図4(b)は、携帯電話機に使用している一般的なダイナミック型スピーカの概略図である。図3と同様の要素には同符号を使用している。この図に示すように、一般的なダイナミック型スピーカでは、永久磁石(硬磁性材料)よりなる磁束発生部材31を使用しており、永久磁石は前述のように保持力も残留磁束密度も大きいため、相当の漏洩磁束32が常に生じて、放音口2aの外まで広がってしまう。なお、この漏洩磁束32は、磁束発生部材31(永久磁石)に組み付けられるヨーク等の部材の残留磁化のみを消磁する前述の特許文献1の構成では、十分に無くすことはできない。
【0041】
このため、野外(特に砂浜など)で携帯電話機1を落としてしまったような場合には、筺体2の外の磁性体の異物(ホチキスの針、砂鉄など)を放音口2a内に引きつけてしまい、この異物が放音口2aに侵入して不具合の原因になる事がある。放音口2aを下にして振ったりすればある程度の異物は排除できるが、磁性体の異物は漏洩磁束32により引きつけられているので排除することが困難になる。特に砂鉄のように粒子の細かい磁性体は、放音口2aから中に入ってしまうと除去することは相当に困難となる。また、砂鉄等が放音口2aに詰まると音質の劣化、時にはスピーカ(レシーバ)の錆の原因になり不鳴りになる可能性がある。
【0042】
ところで、漏洩磁束を一時的にでも断つ事(略ゼロにすること)ができれば、砂鉄等を取り除きメンテナンスを行う事ができる。その方策としては、永久磁石の代わりに電磁石を使用すれば、通電時以外は磁力を略ゼロ(漏洩磁束も略ゼロ)にすることができるが、携帯電話機等の使用時に電流を流し続ける必要があり、消費電流が大きくなり携帯機器には向かない。
【0043】
そこで、本発明はまず、第1実施形態の消磁・着磁用コイル24のように、磁束発生部材を消磁・着磁できるコイルを磁束発生部材の周りに配置し、消磁用電流及び着磁用電流を流せる構成としたものである。これによって、着磁してスピーカとして機能させることができるととともに、消磁が行える構造(漏洩磁束を一時的に消失できる構成)となり、前述したように漏洩磁束を略ゼロにして異物の除去が容易に行えるようになる。
【0044】
また、磁束発生部材は原理的には永久磁石材料(硬磁性材料)で構成してもよいが、本発明では、さらに磁束発生部材を、残留磁化は大きいが保磁力の小さい軟磁性材料によって構成した。すなわち、原理的には永久磁石でも消磁を行う事は可能だが、その場合には膨大な消費電流が必要となり、携帯電話機の様なポータブル機器には適した材料ではない。永久磁石材料の代わりに軟強磁性体(軟磁性材料)を使用することで、消磁や着磁が小さな消費電流ででき、砂鉄などの除去のメンテナンスが、消費電流増加という性能劣化を伴うことなく行えるようになり、スピーカとしての性能(例えば、前述した音圧の性能)も十分高く確保できる。
【0045】
すなわち、軟磁性材料の特徴として磁束密度は大きく、保磁力が小さい事が挙げられる。永久磁石と比べ、保磁力が小さい事から外部の影響を受けやすく、小さな外部磁場で大きな磁束密度をもたせることができる。この特性を利用し、普段、スピーカとして使用する際は磁束発生部材としての軟磁性体に着磁しておき、永久磁石のように使用する。放音口に詰まった磁性体の異物を取り除く際は消磁・着磁用コイルに交流電流を流し、軟磁性体を消磁する。すると漏洩磁束が消失し、磁性体の異物を引き寄せる力が無くなるので、放音口を下にして振ったりすることで、漏洩磁束により引き寄せられていた異物を容易に除去できる。
【0046】
しかも、漏洩磁束が小さくなるような磁力の弱い磁石を使用する場合とは異なり、着磁された状態の軟磁性材料であれば十分高い磁力が得られるため、永久磁石を使用した場合と同程度に、同じ大きさの入力信号に対して振動板に加わる力が強くなり音圧が大きくなる。また、永久磁石を消磁使用する場合や、永久磁石の代りに電磁石を使用する場合のように、消費電力が増大することもない。
【0047】
(他の実施形態)
次に本発明の他の実施形態について説明する。
まず、前述の第1実施形態では、受話器(レシーバ)としてのスピーカ5aに本発明を適用したが、他のスピーカ(例えば前述のスピーカ5b)やマイク(例えば前述のマイク6)に対して本発明を適用してもよい。なおマイクの場合、振動板に連結されて磁界中におかれる導体(マイクの出力信号としての電流が流れる導体)は、ムービングコイル型マイクではムービングコイルなどと呼ばれ、リボン型マイクでは可動金属リボンなどと呼ばれる。
【0048】
また、消磁・着磁用コイルによる消磁動作や着磁動作の制御内容としては、各種の態様があり得る。例えば、ユーザによる携帯電話機1のタッチパネル3や操作部12への入力操作に応じて、中央制御部10が上記消磁動作や着磁動作を行う態様でもよい。例えば、放音口2aから砂鉄等の除去を行うメンテナンスモードを選択する操作をユーザが行うと、中央制御部10が上記消磁動作を行い、このメンテナンスモードを解除する操作をユーザが行うと、中央制御部10が上記着磁動作を行うように、中央制御部10のプログラムが設定されている態様でもよい。この場合でも、前述の特許文献2のような消磁するためのユーザによる機械的操作は不要であるため、ユーザの作業は容易である。
【0049】
また、以上説明した実施形態では携帯電話機を例に挙げて説明したが、本発明は携帯電話機以外の装置、例えば、PDA(携帯情報端末)、パーソナルコンピュータ(例えば、ノートPC、タブレットPC)、音楽プレイヤ、ゲーム機、携帯ラジオ、ICレコーダ等、各種の機器に設けられるスピーカ又はマイクに適用可能である。特に携帯機器に適したものであるが、携帯機器以外に設けられるスピーカ又はマイクでもよい。
【0050】
以下、本発明の特徴を付記する。
前記の各実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
(付記1)
磁束を発生させる磁束発生部材と、
この磁束発生部材により生じる磁界中に振動可能に配置された導体と、
この導体に連結されて、この導体とともに振動可能とされた振動板と、
前記磁束発生部材の周囲に配置されて、前記磁束発生部材の消磁と着磁が可能な消磁・着磁用コイルと、
を備えることを特徴とするスピーカ又はマイク。
【0051】
(付記2)
前記磁束発生部材は軟磁性材料よりなることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ又はマイク。
【符号の説明】
【0052】
1 携帯電話機
2 筐体
2a 放音口
5a スピーカ
6 マイク
9 音声入出力部
10 中央制御部
21 磁束発生部材
22 ボイスコイル(導体)
23 振動板
24 消磁・着磁用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束を発生させる磁束発生部材と、
この磁束発生部材により生じる磁界中に振動可能に配置された導体と、
この導体に連結されて、この導体とともに振動可能とされた振動板と、
前記磁束発生部材の周囲に配置されて、前記磁束発生部材の消磁と着磁が可能な消磁・着磁用コイルと、
を備えることを特徴とするスピーカ又はマイク。
【請求項2】
前記磁束発生部材は軟磁性材料よりなることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ又はマイク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−253703(P2012−253703A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126921(P2011−126921)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】