説明

スプリンクラ消火設備

【課題】感熱型スプリンクラヘッドの有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有し、なおかつ消火遅れのないスプリンクラ消火設備を提供する
【解決手段】スプリンクラヘッド2またはその周辺部に設けられてスプリンクラヘッド2が開放しない程度の温度に直接または間接的に加温するブロワ装置3と、火災感知器の感知信号を入力して該感知信号の入力があったときに前記ブロワ装置を起動させる制御装置7とを備えたことを特徴とするスプリンクラ消火設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリンクラヘッドから消火水を放水して消火を行うスプリンクラ消火設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スプリンクラ消火設備においては、一般に防護区画に複数のスプリンクラヘッドが設置され、火災の際には貯留槽の消火水をポンプで供給して前記スプリンクラヘッドから放水する。
スプリンクラヘッドで一般的に用いられるものとして閉鎖型のスプリンクラヘッド(以下、感熱型スプリンクラヘッドという)がある。感熱型のスプリンクラヘッドは、ヘッド部に感熱部を有し、該感熱部は加熱されることによる半田の溶融やグラスバルブ内の液体の膨張によってグラスバルブが破裂することで、弁体が開放して放水するという機構を有している。
【0003】
このような感熱型のスプリンクラヘッドにおいては、感熱部が設定された温度以上にならないと作動しない。つまり、物理的な衝撃を受ける等の不測の事態以外では、誤作動によって放水する虞れが少なく、誤作動による水損の虞れは少ないと言える。
しかしながら、この点がスプリンクラヘッドの設置環境との関係で却って欠点となる場合もある。例えば、寒冷地や高天井部分では感熱部の温度上昇が鈍く作動に時間を要するため、その間に火災が成長し、消火が困難になることが考えられる。
【0004】
このような感熱型スプリンクラヘッドの弱点を補強するものとして、作動性能が設置環境の影響を受けにくい感知器等と連動してスプリンクラヘッドの感熱部を加熱し、スプリンクラヘッドを作動させる消火装置が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載された消火装置は、閉鎖型スプリンクラヘッドの止水にグラスバルブを用い、感熱センサと感知センサの作動により発熱する発熱体でグラスバルブを破壊するようにした消火装置である。具体的には、感知センサの作動によって警報器などが作動すると共に前記発熱体へ通電可能状態となり、前記感熱センサの作動によって前記発熱体に通電されてグラスバルブが破壊され放水が行われる。なお、感熱センサはグラスバルブが破壊する温度よりも低い温度、例えば40℃〜45℃程度で作動する感熱スイッチを用いており、また感知センサは煙やガスを感知して作動するものである。
【0005】
上記のように構成された特許文献1の消火装置においては、感知センサと感熱センサの両方が作動しない限り放水が行われず誤作動による水損の虞れがなく、他方、感知センサが作動していれば、感熱センサは40℃〜45℃程度で作動して放水が行われるので消火遅れが発生しないというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−65948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の考案では、感知センサや感熱センサの誤作動の虞れがある。例えば、煙やガスを感知する感知センサでは、タバコの煙で作動することもあるし、また感熱センサは40℃〜45℃程度で作動するため、直射日光が当たるところでは作動する場合もあるし、夏季の気温は最高気温として40℃はもちろん、45℃まで上昇することも想定され、誤作動の虞れが高い。
このように、特許文献1では、感熱センサや感知センサを用いたが故に感熱型スプリンクラヘッドの有していた誤作動を生じにくいという利点を減殺してしまっていた。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、感熱型スプリンクラヘッドの有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有し、なおかつ消火遅れのないスプリンクラ消火設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るスプリンクラ消火設備は、スプリンクラヘッドまたはその周辺部に設けられて前記スプリンクラヘッドが開放しない程度の温度に直接または間接的に加温する加温手段と、火災感知器の感知信号を入力して該感知信号の入力があったときに前記加温手段の加温動作を開始させる制御装置とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記スプリンクラヘッド又はその周辺の温度を検知する温度検知手段を有し、前記制御装置は該温度検知手段の検知信号を入力して該検知信号に基づいて前記加温手段の加温動作を制御することを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)または(2)に記載のものにおいて、前記スプリンクラヘッドの周囲を覆うカバーを設けたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記加温手段は、前記カバーの内面側に設置したヒータであることを特徴とするものである。
【0013】
(5)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記加温手段は、前記スプリンクラヘッドに向けて温風を吹き出すブロワであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、スプリンクラヘッドまたはその周辺部に設けられて前記スプリンクラヘッドが開放しない程度の温度に直接または間接的に加温する加温手段と、火災感知器の感知信号を入力して該感知信号の入力があったときに前記加温手段の加温動作を開始させる制御装置とを備えたので、加温手段によってスプリンクラヘッドの感熱部が予熱され、寒冷地などに設置されたとしても消火遅れがなく、かつ加温手段の加温ではスプリンクラヘッドは開放しないので、感熱型スプリンクラヘッドの有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有している。
また、スプリンクラヘッドの周辺温度を検知する温度検知手段を設けたので、加温手段自体の温度や感熱部の温度を検知するよりも、より確実かつ簡便に感熱部が動作しない温度にすることができる。より詳しく述べると、スプリンクラヘッドの動作時間は設置状況の環境によって異なる。そのため、加温手段の温度のみを検知した場合、どの程度の温度でどれくらいの時間加熱すれば良いかは、一概に言えない。
また、感熱部の温度を直接検知する場合、スプリンクラヘッド内部の半田の温度を検知する必要があり、構造が複雑となる。さらに、感熱部の温度を動作手前まで上昇させた場合、スプリンクラヘッドの周辺温度は必要以上に上昇してしまい、余熱によってさらに感熱部の温度が上昇してしまう虞がある。従って、スプリンクラヘッドの周辺温度を検知することによって、上記のような問題を解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスプリンクラ消火設備の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1の効果を説明するグラフである。
【図3】本発明の実施の形態2に係るスプリンクラ消火設備の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るスプリンクラ消火設備の一部を断面で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態1]
本実施の形態に係るスプリンクラ消火設備を図1に基づいて説明する。
本実施の形態に係るスプリンクラ消火設備1は、スプリンクラヘッド2の周辺部に設けられて前記スプリンクラヘッド2が開放しない程度の温度に間接的に加温するブロワ装置3と、スプリンクラヘッド2の周辺温度を検知する温度検知手段5と、火災感知器の感知信号及び温度検知手段5の温度検知信号を入力してブロワ装置3を制御する制御装置7を備えている。
各構成を詳細に説明する。
【0017】
<スプリンクラヘッド>
スプリンクラヘッド2は、種々の形態のものを使用できるが、ここでは一般的なものとして、感熱分解部に半田を使用した感熱型スプリンクラヘッドを例示してある。スプリンクラヘッド2の構造を概説すると、図示しない送水管に接続される本体部9と、本体部9に螺合されて設置された有底円筒状のフレーム11と、感熱板を兼ねた保護カバー13と、水平感熱板15と、フレーム11内に設置されて感熱板の加熱に起因する内部の半田の溶融に連動して開弁作用をする感熱分解部(図示なし)とを備えている。フレーム11には複数の散水口17が設けられている。
【0018】
スプリンクラヘッド2の動作を概説すると、火災が発生して、感熱板を兼ねた保護カバー13や水平感熱板15(以下、「感熱部」という)が加熱されると、内部に設置された半田が溶融して、これに連動して感熱分解部が分解し、放水口を閉止していた弁体が下降してフレーム底部に着座して散水口17から消火水が散水される。
【0019】
<ブロワ装置>
ブロワ装置3は、ブロワ19と送風管21とを有し、送風管21の吹き出し口22がスプリンクラヘッド2の保護カバー13及び水平感熱板15に向けて設置されている。
ブロワ装置3は制御装置7の起動信号によって起動し、送風管21から温風を吹き出す。温風の温度はスプリンクラヘッド2が開放しない程度の温度に設定されている。もっとも、本実施の形態ではブロワ装置3は制御装置7によってON・OFF制御されるので、温風自体の温度は厳密に管理する必要はない。
【0020】
<温度検知手段>
温度検知手段5はスプリンクラヘッド2の近傍、本例では送風管21の吹き出し口22の近傍に取り付けられてその周辺部の温度を検知し、検知信号を制御装置7に出力する。温度検知手段5の例としては熱電対などを用いることができる。熱電対を用いた場合には、熱電対が予め設定した温度になったときに検知信号が出力される。予め設定した温度とは、スプリンクラヘッド2が開放しない程度の温度であり、例えば50℃である。
【0021】
<制御装置>
制御装置7は、火災感知器(図示なし)の感知信号及び温度検知手段5の温度検知信号を入力してブロワ装置3を制御する。
火災感知器の感知信号が入力されると、制御装置7はブロワ19の起動信号をブロワ装置3に出力し、これによってブロワ19が起動する。温度検知手段5からの温度検知信号が入力されると、制御装置7はブロワ19の停止信号をブロワ装置3に出力し、これによってブロワ19が停止する。
なお、火災感知器としては種々のものがあり、例えば煙感知器、炎感知器、紫外線式の感知器などがある。
【0022】
以上のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
火災が発生し、火災感知器の感知信号が制御装置7に入力されると、制御装置7はブロワ19の起動信号をブロワ装置3に出力し、これによってブロワ19が起動する。ブロワ19が起動することで、送風管21の吹き出し口22から温風がスプリンクラヘッド2の感熱部に向けて吹き出される。これによって、スプリンクラヘッド2周辺の空気が暖まってスプリンクラヘッド2の感熱部が加温される。温度検知手段5の検知温度が予め設定した温度に達すると温度検知手段5が検知信号を制御装置7に出力し、制御装置7は該検知信号が入力されるとブロワ19を停止する。このように、一度だけブロワ19を起動させても良いが、常時温度検知手段5の温度情報を監視し、温度検知手段5の検知温度が所定の温度よりも低下したら、または、所定時間経過した場合、再度ブロワ19を起動させるようにしても良い。こうすることで、ブロワ19は起動と停止を繰り返し、スプリンクラヘッド2の感熱部の周囲の温度がスプリンクラヘッド2が開放しない程度の温度に維持されることになる。
また、本実施形態では、ブロワ19は起動と停止を繰り返すようにしたが、インバータ制御によってブロワ19の回転数を調整することで、常時起動させながら所定の温度に維持できるようにしても良い。
【0023】
この状態で、火災の熱によってさらに感熱部の周囲の温度が高まってスプリンクラヘッド2の感熱部が加熱されると、前述した動作によってスプリンクラヘッド2が開放して散水口17から散水される。このように火災の熱で開放する前にスプリンクラヘッド2の感熱部がブロワ装置3の温風で加温されているので、火災の熱によってスプリンクラヘッド2が開放するまでの時間が短縮され、初期消火が確実に行われる。
図2はスプリンクラヘッド開放までの時間が短縮されることを概念的に説明するグラフである。図2のグラフにおいて、横軸が時間、縦軸がスプリンクラヘッド周辺の温度を示しており、縦軸の温度Qはスプリンクラヘッドが開放するときのスプリンクラヘッド周辺温度を示している。実線のグラフが本実施の形態であり、破線のグラフは比較例のものでブロワ19を設置していない場合のものである。図2から分かるように、スプリンクラヘッド2が開放する周辺温度Qになるまでの時間に関し、本実施の形態ではt1であり、これに対して比較例ではt2であり、明らかに動作するまでの時間が短縮されていることが分かる。
【0024】
火災感知器が誤作動を起こした場合には、ブロワ装置3は起動しているが、スプリンクラヘッド2の感熱部の温度はスプリンクラヘッド2が開放する周辺温度Qにはならないので、スプリンクラヘッド2は開放することがなく、誤作動による水損の虞れはない。なお、火災感知器が誤作動して感知信号が入力されていた場合には、手動によってブロワ19を停止するようにしてもよい。
【0025】
火災が発生した場合において、火災感知器が何らかの原因で感知信号を出力しなかったとしても、スプリンクラヘッド2は従来通りに所定の温度になれば開放するので、スプリンクラヘッド2が開放しないことはなく、火災が延焼することもない。
【0026】
以上のように、本実施の形態によれば、感熱型スプリンクラヘッド2の有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有し、なおかつ初期消火を確実に行なうことができる。
なお、本実施の形態では加温手段としてブロワ装置3を用いており、温風による加温であるため、送風管21の吹き出し口22をスプリンクラヘッド2から離すことができ、スプリンクラヘッド2が開放したときの散水の障害にならないように設置できるという利点がある。
【0027】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2を図3に基づいて説明する。図3において、図1と同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
本実施の形態のスプリンクラ消火設備20においては、加温手段としてヒータ23を用い、該ヒータ23をスプリンクラヘッド2のフレーム11に巻き回したものである。
一般に、スプリンクラヘッド2は全体が金属で作られているので、ヒータ23が起動すると、ヒータ23の熱がスプリンクラヘッド2のフレーム11を加温し、この熱が感熱部に伝達される。ヒータ23の温度は温度検知手段5によって検知され、この検知信号が制御装置7に入力されることによってヒータ23はON・OFF制御される。
火災時の動作は、実施の形態1と基本的に同様である。
【0028】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、感熱型スプリンクラヘッド2の有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有し、なおかつ初期消火を確実に行なうことができる。
また、本実施の形態では加温手段としてスプリンクラヘッド2の本体に巻き回したヒータ23を用いているので、構成が簡単でコスト低減できるという効果がある。
【0029】
なお、本実施の形態では、感熱部を直接加温していないが、感熱部を直接加温するようにしてもよい。もっとも、その場合は散水の障害にならないようにヒータ23を設置する必要がある。
また、本実施の形態でも、後述する実施の形態3のようにスプリンクラヘッド2を覆うカバー25を設け、熱が逃げるのを防止し、ヒータ23による加温が効果的に行われるようにしてもよい。
【0030】
[実施の形態3]
実施の形態3を図4に基づいて説明する。図4において、図1または図3と同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
本実施の形態のスプリンクラ消火設備30では、スプリンクラヘッド2の周囲を覆うカバー25を設置し、カバー25の内面側にヒータ23を設けたものである。ヒータ23によってカバー25内の空気を加温して、スプリンクラヘッド2の感熱部を間接的に加温するものである。
カバー25は、スプリンクラヘッド2のフレーム11より上方に天板を有し、天板の外周にそって周壁が設けられる。周壁は消火水の散水の妨げにならない程度の高さ、又は角度とし、熱を吸収しにくい素材であることが望ましい。
ヒータ23の起動に関する動作は実施の形態2と同様であり、火災時の動作は実施の形態1と同様である。
【0031】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、感熱型スプリンクラヘッド2の有する誤作動を生じにくいという利点をそのまま有し、なおかつ初期消火を確実に行なうことができる。
また、本実施の形態では加温手段としてカバー25内面側に設置したヒータ23を用いているので、実施の形態2と同様に、構成が簡単でコスト低減できるという効果がある。
また、本実施の形態ではスプリンクラヘッド2を覆うカバー25を設けているので、熱が逃げるのを防止し、ヒータ23による加温を効果的に行うことができる。
【0032】
なお、実施の形態1〜3では、熱電対を設置して温度の制御を行っているが、設置環境が安定しており、加温手段の加温によって温度が所定の範囲内に維持されるような場合などは、必ずしも熱電対は必要ではない。
また、実施の形態2、3ではヒータ23と熱電対を別々に設置しているが、異常加熱しない自己制御型ヒータ等を用いる場合は、必ずしも熱電対は必要ではない。
【符号の説明】
【0033】
1 スプリンクラ消火設備 2 スプリンクラヘッド 3 ブロワ装置
5 温度検知手段 7 制御装置 9 本体部
11 フレーム 13 保護カバー 15 水平感熱板
17 散水口 19 ブロワ 21 送風管
22 吹き出し口 23 ヒータ 25 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリンクラヘッドまたはその周辺部に設けられて前記スプリンクラヘッドが開放しない程度の温度に直接または間接的に加温する加温手段と、火災感知器の感知信号を入力して該感知信号の入力があったときに前記加温手段の加温動作を開始させる制御装置とを備えたことを特徴とするスプリンクラ消火設備。
【請求項2】
前記スプリンクラヘッド又はその周辺の温度を検知する温度検知手段を有し、前記制御装置は該温度検知手段の検知信号を入力して該検知信号に基づいて前記加温手段の加温動作を制御することを特徴とする請求項1記載のスプリンクラ消火設備。
【請求項3】
前記スプリンクラヘッドの周囲を覆うカバーを設けたことを特徴とする請求項1または2記載のスプリンクラ消火設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate