スプレー容器
【課題】適用部位(患部など)がノズルの軸線から外れていても、適用部位に対して薬液を有効に噴霧可能なスプレー容器を提供する。
【解決手段】スプレー容器は、薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口24が先端部に形成されたノズル25とを備えている。ノズル25の先端部の流路は、軸線に対して傾斜した傾斜流路23を備えており、噴霧口24は軸線に対して斜め方向に開口している。そのため、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。噴霧口での薬液流量を偏奇させることにより、斜め方向に薬液を噴霧してもよい。
【解決手段】スプレー容器は、薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口24が先端部に形成されたノズル25とを備えている。ノズル25の先端部の流路は、軸線に対して傾斜した傾斜流路23を備えており、噴霧口24は軸線に対して斜め方向に開口している。そのため、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。噴霧口での薬液流量を偏奇させることにより、斜め方向に薬液を噴霧してもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を噴霧するスプレー容器、特に点鼻液を噴霧するのに有用なスプレー容器(又は点鼻用スプレー容器)に関する。
【背景技術】
【0002】
点鼻液を噴霧するため、点鼻液を収容する容器本体と、この容器本体に装着され、かつスプリングを利用して進退動可能なノズルとを備えた点鼻スプレーが利用されている。このようなスプレー容器は、図24に示すように、ノズル130の先端部の内壁には凹部132が形成され、この凹部からは中心軸に沿って形成された貫通孔133が形成され、この貫通孔は噴霧口134で開口している。この噴霧口からは半径方向に拡がる螺旋状凹部135が形成されている。このようなスプレーノズルでは、鼻腔にノズル先端部を挿入し、ノズル130を軸方向に進退動させ、薬液を圧送することにより、薬液の液滴を回転させながら広角に噴霧できる。
【0003】
しかし、薬液が広角に噴霧されるため、薬液を患部(鼻炎が生じやすい下鼻甲介及びその周辺域)に効率よく噴霧することが困難である。また、鼻腔に対する挿入角度を変えて薬液を噴霧する必要があるものの、噴霧角度が広角であるため、挿入角度を変えても特定の角度(特に、鼻腔が延びる方向に対してノズル先端部を鼻腔の下部壁に押し付ける方向又は下方に向けた角度)でしか患部に薬液を噴霧できず、通常の挿入角度では鼻腔上部を中心に薬液が噴霧され、患部に薬液を有効に噴霧できない。特に、鼻すすりにより吸入すると、空気の流量、流速及び流動方向が大きく変化するため、患部に対する薬液の噴霧効率が大きく低下し、十分な治療効果が得られない。
【0004】
特開平8−280807号公報(特許文献1)には、易破断性薄膜を介して固体成分と液体成分とを分離して収容する容器と、この容器に装着可能な液体噴射部材とを備えており、液体噴射部材の装着に伴って、易破断性薄膜を液体噴射部材の液剤吸い上げ管で破断可能なスプレー容器が開示されている。このスプレー容器でも、ノズル先端部には、中心軸に沿って噴霧口が形成されている。そのため、上記と同様の問題が生じる。
【特許文献1】特開平8−280807号公報(特許請求の範囲、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、適用部位(患部など)がノズルの軸線から外れていても、適用部位(患部など)に対して薬液を有効に噴霧可能なスプレー容器(又は点鼻スプレー容器)を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、噴霧範囲を狭くしても適用部位(下鼻甲介とその下部などの患部など)に効率よく噴霧できるとともに、適用部位以外の部位(外鼻孔近辺や耳管部など)に薬液が噴霧されるのを回避するのに有効なスプレー容器(又は点鼻スプレー容器)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ノズル先端部の噴霧口(又は噴射口)を斜め方向に向けて開口したり、ノズル先端部の噴霧口(又は噴射口)に対して薬液を加圧して流量分布を偏らせて供給すると、ノズルの軸線から外れた斜め方向に薬液を噴霧でき、患部(鼻炎で炎症が起こりやすい下鼻甲介又はその下部などの周辺域)に効率よく薬液を噴霧・付着できることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のスプレー容器は、薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体の先端部に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えている。このようなスプレー容器において、ノズルの軸線(中心軸線)に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇のうち少なくともいずれか一方により、前記ノズルは、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。ノズル先端部の流路は、軸線(中心軸線)に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を備えていてもよい。この傾斜流路は、軸線に対して角度15〜45°(例えば、20〜40°、特に25〜35°)程度角度で傾斜していてもよい。スプレー容器は、薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持し、かつスプリングが収容された第1の筒体と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能なスライド部材と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための第2の筒体とを備えていてもよい。また、前記第2の筒体は、スライド部材に接続され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステムに接続され、かつ指が掛止可能な掛止部を有する外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成されていてもよい。なお、環状流路に関し、インサートの上流部には、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒内で摺動可能な複数の突状を形成してもよく、これらの突状の下流端からの環状流路の幅は小さくしてもよい。
【0009】
ノズル先端部には、凹部(例えば、湾曲した凹部又は窪み)を形成してもよく、この凹部では前記噴霧口が開口していてもよい。さらに、少なくともノズルの先端部は、軸線から半径方向にずれているか又は傾斜していてもよい。さらには、ノズル先端部は軸線に対して傾斜した傾斜面を有していてもよく、この傾斜面では噴霧口が斜め方向に開口していてもよい。さらには、薬液の噴霧方向を示すための告知手段をスプレー容器の適所に施してもよい。
【0010】
このようなスプレー容器は、ノズルの軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できるため、ノズルの軸線から外れた被処理部位(被適用部位)にも薬液を有効に噴霧できる。そのため、スプレー容器は、鼻腔の適用部位(患部)に薬液を効率よく噴霧するための点鼻用スプレー容器として有用である。
【0011】
本発明は、前記スプレー容器を用いて薬液を噴霧する方法であって、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧する方法も包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、スプレー容器の中心軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できるので、適用部位(下鼻甲介及び/又はその周辺域などの患部など)がノズルの軸線から外れていても、適用部位(患部など)に対して薬液を有効に噴霧できる。また、噴霧範囲を狭くしても適用部位(患部など)に効率よく噴霧できるとともに、適用部位以外の部位に薬液が噴霧されるのを回避できる。そのため、薬液を有効に利用できると共に、1回の噴射量を減少することができ、噴射後の液だれの防止にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は本発明のスプレー容器を示す概略図であり、図2は図1に示すスプレー容器のノズル先端部の概略断面図である。
【0014】
スプレー容器は、薬液を収容するための収容部を有する容器本体1と、一方の端部が容器本体の薬液に浸漬可能な浸漬チューブ(吸い上げチューブ又は吸い上げ管)2と、このチューブの他方の端部をチューブ2の流路と連通して保持し、かつスプリング5が収容された第1の筒体3と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体3からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリング5により進退動可能なスライド部材8と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材8の進退動に伴ってノズル25の先端部の噴霧口24に案内するための第2の筒体13とを備えている。なお、容器本体1の収容部の底部には、薬液が少量であっても有効に吸い上げるため、薬液が流入又は集合可能であり、かつ浸漬チューブ2の開口端部が配設可能な凹部又は窪み(特に、断面形状がV字状、U字状などの傾斜面を経て中央部の深度が大きな凹部又は窪み)が形成されている。
【0015】
前記第1の筒体3は、浸漬チューブ2の端部を嵌入して装着するための筒状装着部4と、この装着部の下流側に形成され、かつスプリング5の一方の端部が装着可能な筒状内管6と、この筒状装着部から二重管状の形態で下流方向に延びて形成された外管7とで構成されており、スプリング5の他方の端部は筒状内管6から下流方向に延び、スプリング5は外管7内で伸縮可能である。
【0016】
また、スライド部材8は、前記スプリング5の他方の端部が装着又は固定可能な保持部9と、この保持部から半径方向に延出し、前記外筒内で摺動可能なフランジ部10と、このフランジ部から上流方向に向かって延び、かつ前記外筒7の内壁との間で環状流路を形成するための円筒状延出部11と、前記フランジ部10の外周方向に所定間隔毎に形成され、流路を形成するための切り欠き部(図示せず)と、前記保持部9から下流方向に延出し、先端部が先細状(又は円錐状)の筒状突出部12とを備えている。この筒状突出部の外周面には、環状流路及び切り欠き部を通じて薬液を下流方向に流すため、所定間隔毎に軸方向に延びる複数の突条が形成されている。
【0017】
さらに、第2の筒体13は、スライド部材8の筒状突出部12の複数の突条が装着可能な装着凹部14を有し、かつこの装着凹部から軸芯方向に延びる流路を有する中空状ステム15と、このステムと外管7との間をシールするため、ステム15の上流側の端部に形成され、かつ上流方向及び下流方向に向かって拡がった環状シール材(ラッパ状シール材)16,17と、前記ステム15の下流側に装着された外筒18と、この外筒内に配設され、かつ前記ステム15の下流端と噴霧口24との間に環状流路21を形成するための円柱状インサート19とで構成されている。なお、外筒18には、スライド部材8を軸方向に進退動させるため指が掛止可能な掛止部20が形成されている。
【0018】
前記インサート19の上流部には、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒18内で摺動可能な複数の突状が形成され、これらの突状の下流端からの環状流路21のスリット幅が小さくなっている。そのため、浸漬チューブ2の中空部を通じて供給された薬液は、ステム15の中空部、外筒18とインサート19との間に形成された環状流路21を通じて下流方向に流れる過程で狭まった流路により加圧され、噴霧口24から噴霧又は噴射される。
【0019】
このようなスプレー容器では、噴霧口24からの薬液は広角に噴霧されるため、ノズル25の軸線から外れた部位に適用部位があると、適用部位に薬液を有効に噴霧できなくなる。そこで、前記スプレー容器のノズル25先端部では、ノズルの軸線に対して25〜35°の角度で傾斜して噴霧口24に至る傾斜流路23が形成されている。また、インサート19の先端部において下流の内壁に空間を形成するため、ノズル先端部の内壁にはインサート19の外径よりも小さな凹部22が形成され、この凹部から軸方向に延びる流路を経て斜め方向に傾斜流路23が貫通している。また、薬液の噴霧方向を示すため、前記掛止部にはマーカー(噴霧方向を示す矢印,図示せず)が施されている。
【0020】
このようなスプレー容器では、ノズル先端部の流路が噴霧口24で斜め方向に開口した傾斜流路23を備えているため、ノズルの軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できる。また、ノズル先端部に噴霧口からの螺旋状凹部が形成されていないため、薬液が広角に拡がるのを防止でき、噴霧範囲を狭くできる。そのため、適用部位(下鼻甲介又はその周辺域などの患部など)がノズルの軸線から外れていても、範囲の狭い適用部位(患部など)に対しても薬液を有効に噴霧可能である。例えば、図3に示すように、点鼻薬を噴霧するとき、鼻腔Hが延びる方向に対してノズル先端部を鼻腔の下部壁に押し付けて下方に向けることなく、鼻腔Hが延びる方向にノズル先端部を挿入して噴霧することにより、適用部位(下鼻甲介又はその下部などの患部)Aに薬液を効率よく噴霧できる。
【0021】
なお、スプレー容器は前記構造に限らず種々のスプレー機構が採用できる。例えば、スプレー容器は、必要であれば、噴射剤を含むエアゾール容器であってもよいが、通常、噴射剤を含まないピストン方式のスプレー容器である場合が多い。スプレー容器は、通常、容器本体内の薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えている。さらに、ピストン方式のスプレー容器は、通常、薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持する中空筒体内に形成され、かつスプリングによる進退動に伴ってチューブからの薬液を吸い上げ可能なピストン機構(このピストン機構は、通常、進退動に伴って筒体内の薬液が漏出するのを規制するためのシール材を備えている)と、このピストン機構により吸い上げられた薬液を、進退動に伴って加圧するための狭まる流路と、この流路に通じる噴霧口とを備えている。
【0022】
なお、これらのスプレー容器の中空筒体は、前記第1の筒体乃至第2の筒体で構成された中空筒体に限らず種々の筒体(例えば、2〜5程度の中空筒体)で構成できる。
【0023】
前記第1の筒体は、内管と外管とで二重管状に形成する必要はなく、容器本体内の薬液に一方の端部が浸漬した浸漬チューブの中空部と連通し、浸漬チューブの他方の端部を保持可能な保持部を有し、スプリングが収容可能であればよい。このスプリングは第1の筒体内に収容され、スプリングの端部は保持固定されている場合が多い。
【0024】
スライド部材は、第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能であればよく、スライド部材の流路は、切り欠き部などによる環状流路に限らず、軸芯に形成された貫通孔やフランジ部を貫通する貫通孔などにより形成してもよい。スライド部材は、必要であれば、第1の筒体の内壁との関係で薬液の漏出を規制するため、第1の筒体の内壁と摺動可能な環状シール材を備えていてもよい。
【0025】
第2の筒体は、前記スライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための流路を備えていればよく、この流路は、スライド部材の進退動に伴って薬液を加圧するため、噴霧口側の流路幅が狭くなるのが好ましい。また、薬液の噴霧効率を高めるため、薬液を合流させて噴霧口に流通させるのが好ましい。例えば、前記のように環状流路幅(環状スリットの間隔)を下流側で小さくし、薬液を合流させて噴霧口に導くのが好ましい。第2の筒体は、通常、前記スライド部材を進退動させるため指が掛止可能な掛止部を有している。
【0026】
第2の筒体の構造は前記構造に限定されず、スライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口から薬液を噴霧可能であればよく、スライド部材(例えば、スライド部材の下流端部)に接続又は連結され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステム(例えば、ステムの下流端部)に接続又は連結された外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成できる。なお、掛止部は第2の筒体の適所に形成できるが、通常、前記外筒に形成する場合が多い。また、ステムは第1の筒体(前記の例では、外筒)の内壁に沿ってシールしつつ摺動可能である。なお、前記第2の筒体の先端部はノズル先端部を構成する場合が多い。
【0027】
なお、ノズルの先端部では、噴霧口に繋がる螺旋状溝又は凹部を形成してもよいが、液滴径を大きくして適用部位に効率よく薬液を噴霧するためには、液滴の回転力を低減するため、ノズルの先端部に螺旋状溝又は凹部を形成しなくてもよい。また、螺旋状溝や螺旋状凹部に代えて、ノズル先端部に凹部を形成し、この凹部で噴霧口を開口させてもよい。図4は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略斜視図である。なお、以下の例において、図1〜図3に示すスプレー容器と、同一の機能を果たす部材又は要素については図1〜図3と共通する符号を付して説明する場合がある。
【0028】
図4において、軸芯方向に延びる流路は、ノズル35の先端部で角度28〜32°程度の角度で傾斜して傾斜流路23を形成しており、傾斜流路23の噴霧口34は斜め方向に開口している。また、ノズル25先端面には傾斜側壁31aを有し、平面形状が円形状の切り欠き凹部(この例では、断面が逆三角形状又は逆円錐状の凹部)31が形成され、この凹部の傾斜側壁31aで前記傾斜流路23の噴霧口34が開口している。
【0029】
このような構造のノズルを利用すると、凹部31の傾斜側壁31aに噴霧液体が衝突するためか、適用部位に対する噴霧口率をさほど低下させることなく、薬液の液滴径が小さくなり、噴霧範囲が拡がる。そのため、適用部位に対して薬液を効率よく噴霧できる。
【0030】
なお、ノズル先端部には前記形状の凹部に限らず種々の凹部(例えば、断面コ字状、断面U字状、皿状などの湾曲凹部など)が形成できる。また、凹部での噴霧口の開口部位は、傾斜壁や平坦部であってもよく、凹部の中央であってもよく、中央部から偏った部位であってもよい。
【0031】
また、インサートの先端と噴霧口との距離が長くなると、液滴径が大きくなり、噴霧範囲が狭くなる。そのため、インサートの先端と噴霧口との距離と、前記凹部の形成とを組み合わせて、液滴径や噴霧範囲を調整してもよい。さらに、このような組み合わせにおいて、前記凹部は噴霧口から延びる放射状溝又は凹部、螺旋状(又は渦巻き状)溝又は螺旋状(又は渦巻き状)凹部であってもよい。
【0032】
本発明において、軸線(中心軸線)に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇(偏り)のうち少なくともいずれか一方により、前記ノズルからは、軸線(中心軸線)に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。中心軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧するためには、上記の開口方向の傾斜及び流量の偏奇の双方を備えていてもよい。例えば、噴霧口の開口方向を傾斜(斜め方向に開口)させ、かつ噴霧口を中心軸として一方の側からの流量よりも他方の側からの流量を大きくして流量に偏りを形成して薬液を噴霧口から噴霧してもよい。
【0033】
スプレー容器の軸線(中心軸線)に対して噴霧口の開口方向を傾斜させるには、ノズル先端部の流路に、軸線に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を形成するのが有用である。傾斜流路の角度は、スプレー容器又はノズルの軸線(中心軸線)に対して10〜60°程度の範囲から選択でき、通常、15〜45°、好ましくは20〜40°、さらに好ましくは25〜35°(例えば、30±2.5°)程度である。このような角度で傾斜した流路を形成すると、鼻腔に対する挿入角度が異なっても、さらに、薬液の粘度が変動しても薬液を適用部位(患部)に効率よく噴霧できる。しかも、狭い噴霧範囲で噴霧でき、薬液を有効に利用できる。
【0034】
傾斜流路の形態は前記構造に限定されず、例えば、図5に示すように、ノズル25の先端部の内壁に形成された凹部22から、軸方向に延びる流路を経ることなく、ノズル先端部の壁を斜め方向に貫通する傾斜流路43であってもよい。図6に示すように、ノズル25の先端部の内壁に凹部を形成することなく、ノズル先端部の壁を斜め方向に貫通する傾斜流路44であってもよい。また、図7に示すように、図2と同様の構造の傾斜流路を有するノズルにおいて、ノズル35の先端部のうち傾斜流路45の傾斜方向とは反対側に凹部51を形成してもよい。さらに、図8に示すように、インサートを利用して環状流路を形成することなく、軸方向に延びる流路47と、この流路から傾斜してノズル25の先端部の噴霧口に至る傾斜流路46を形成してもよい。
【0035】
さらに、ノズル先端部は、噴霧口が形成されたノズルチップを備えていてもよい。例えば、図9に示すように、図6に対応する傾斜流路を有する構造において、傾斜流路(傾斜貫通孔)44を有するノズルチップ61を先端部に装着してもよく、図10に示すように、図7に対応する構造において、傾斜流路(傾斜貫通孔)45及び凹部51を有するノズルチップ62を先端部に装着してもよく、図11に示すように、図8に対応する傾斜流路を有する構造において、軸線に沿って形成された流路47と、この流路から傾斜して噴霧口に至る傾斜流路46とを有するノズルチップ63を先端部に装着してもよい。
【0036】
また、噴霧口の開口方向を軸線に対して傾斜させるには、ノズル先端部に軸線に対して傾斜した傾斜面を形成し、この傾斜面で軸線に対して斜め方向に噴霧口が開口していてもよい。図12は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図であり、ノズル70の先端部には軸線に対して傾斜した傾斜面71が形成され、この傾斜面では噴霧口74が軸線に対して斜め方向に開口している。この例では、傾斜面71に対して直交する方向に傾斜流路73が形成され、噴霧口74が傾斜面で開口している。また、噴霧液滴の回転力を低減させるため、先端面には凹部75が形成されている。また、先端部の内壁には凹部72が形成され、円柱状インサート79の先端面と先端部の内壁との間には空間が形成可能である。
【0037】
図13は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図であり、ノズル80の先端部の流路のうち下流端は球面状空間として形成されているとともに、インサート89の先端部は球面に形成され、先端部の内壁には湾曲壁に沿って湾曲凹部82が形成されている。さらに、ノズル先端部には軸線に対して傾斜した傾斜面81が形成され、この傾斜面81に対して直交する方向に傾斜流路83が形成され、傾斜面81では前記湾曲凹部82から噴霧口84が軸線に対して斜め方向(この例では、傾斜面81に対して直交する方向)に開口している。なお、噴霧口84はノズルの軸線から半径方向にずれた部位に形成されている。
【0038】
図14は本発明のスプレー容器の別の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル90の先端部のうち軸線に対して傾斜した傾斜部位には、ノズルチップ96を装着するための装着凹部が形成されている。この装着凹部に装着されるノズルチップ96は、前記傾斜部位に対応して傾斜して形成された傾斜面91と、この傾斜面91に形成された断面逆台形状の表面凹部95と、この凹部に対応する内壁に形成され、かつ空間を形成するための裏面凹部92と、前記表面凹部と裏面凹部との間を貫通し、傾斜面91に対して直交する方向に形成された傾斜流路93と、前記傾斜面91で軸線に対して斜め方向(傾斜面に対して直交する方向)に向いて開口した噴霧口94とを備えたリング状部材97と、このリング状部材内に装着され、かつリング状部材97の内壁との間に環状流路99cを形成するための円柱状中子98とを備えている。また、前記中子98の装着部には、ノズルの軸方向に貫通して延びる流路99aが開口しており、この流路からの薬液は、装着凹部と中子98の底面とで形成され、薬液を半径方向の外方向に案内するための拡散流路99bと、この流路と通じる環状流路99cと、この環状流路から中心方向に収束し、前記凹部に至る収束流路99dとを経て噴霧口94から噴霧される。
【0039】
このような傾斜面で噴霧口が開口したノズルを有するスプレー容器であっても薬液をノズルの軸線に対して斜め方向に噴霧でき、適用部位(患部など)に対する薬液の噴霧効率を向上できる。
【0040】
薬液を軸線に対して斜め方向に噴霧するためには、噴霧口で薬液流量が偏奇するノズルを用いてもよい。図15は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル100の先端部の外壁面には凹部105が形成されているとともに、内壁面にも凹部102が形成されている。これらの凹部間には貫通孔103が形成され、外壁面の凹部105では軸線方向に噴霧口104が開口している。そして、ノズルの軸方向には、前記噴霧口に通じる中空部が形成され、この中空部には、先端面が斜め方向に傾斜した円柱状インサート109が装着され、ノズルの内壁とインサート109の側壁との間には、前記噴霧口104に通じる環状流路が形成されている。そのため、インサート109の傾斜先端面とノズル先端部の内壁面との間には、半径方向に行くにつれて軸方向の距離が大きく(又は小さく)なる左右非対称の偏奇した流動空間110が形成される。
【0041】
図16は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル100の先端部には、図15に示す構造の噴霧口104を備えたノズルチップ111が装着されている。
【0042】
このようなスプレー容器でも、ノズルの中心軸に対して半径方向の一方の側では薬液が滞留しやすく他方の側で薬液の流速が大きくなるため、噴霧口がスプレー容器の中心軸に沿って形成されていても、軸線に対して薬液を斜め方向に傾斜して噴霧できる。
【0043】
なお、ノズル先端部の噴霧口の外壁面及び/又は内壁面において凹部は必ずしも必要ではない。また、前記構造は適当に組み合わせてスプレー容器を構成してもよい。例えば、軸線に対して斜め方向に開口した噴霧口と、ノズル先端部で薬液流量を偏奇させる構造とを組み合わせてもよく、傾斜面に形成した噴霧口と、ノズル先端部で薬液流量を偏奇させる構造とを組み合わせてもよい。
【0044】
本発明では薬液を斜め方向に噴霧できる。そのため、スプレー容器には、薬液の噴霧方向を示すための告知手段を施すのが有用である。この告知手段は容器(掛止部を含む)の形態であってもよく、表示手段又は指示手段(噴霧方法又は方向を表示するためのマーカー、噴霧方法又は方向を指示するための表示など)であってもよい。図17に示す例では、スプレー容器の中心軸線からノズル110が半径方向にずれて形成され、ノズル110の下部には指(人差し指など)が掛止可能な掛止部111が形成されている。図18に示す例では、スプレー容器の中心軸線からノズル112が半径方向にずれているとともに傾斜しており、ノズル112の下部には指(人差し指など)が掛止可能な掛止部113が形成されている。なお、図19および図20はそれぞれ図17及び18に対応し、かつノズル110,112を、螺合などにより容器本体に装着可能なキャップ120,121に形成している。これらのキャップ120,121はそれぞれ容器本体に装着して掛止部111,113を進退動させることにより薬液を噴霧可能である。なお、これらのスプレー容器は図1に示すのと同様の内部構造を備えていてもよい。
【0045】
このように、少なくともノズルが容器の軸線から半径方向にずれたり傾斜していると、ノズルの位置ずれ方向又は傾斜方向に対して反対方向に形成された掛止部(特に、反対方向に延びる掛止部や広い面積で形成された掛止部)に指を掛けやすく、ノズルを鼻腔の下部側に位置させ、掛止部を鼻から遠ざかる外側に位置させて噴霧しやすくなる。そのため、このような形態の容器を用いると、薬液を斜め方向に噴霧する容器であっても、鼻腔に対して自然に挿入して噴霧するだけで、薬液を患部に効率よく噴霧できる。
【0046】
さらに、スプレー容器の適所に表示手段又は指示手段を施してもよい。例えば、図21に示すように、ノズルの下部に形成した平面形状が三角形状の掛止部114に噴霧方向を示すマーカー116を施してもよく、図22に示すように平面形状が四角形状の掛止部115に噴霧方向を示すマーカー116を施してもよい。
【0047】
なお、掛止部の形状は特に制限されず、平面形状が多角形状であってもよく、楕円形状、円形状であってもよい。また、マーカーは、噴霧方向を示す矢印などのマーカーであってもよく、マーカーは、刻印、印刷、凹凸形状などで形成してもよい。
【0048】
なお、容器本体とノズルとは螺合式などの連結手段により連結してもよく、図23に示されるように、容器本体1とノズル25とはヒンジ部120を介してヒンジ式に連結してもよい。
【0049】
本発明では種々の薬液を適用部位に有効に噴霧できる。特に、従来のスプレー容器に比べて、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧できる。そのため、患部などの適用部位がスプレー容器の中心軸線方向からずれていても、薬液を有効に適用部位に噴霧できると共に、1回の噴射量を減少することができ、噴射後の液だれを防止することができる。
【0050】
また、薬液の粘度に影響されることなく、また気流の有無(吸入の有無などによる気流の変化)に係わらず、薬液を有効に適用部位に噴霧できる。薬液の種類は特に制限されず、例えば、殺虫剤などであってもよいが、口腔、鼻腔、耳孔などの腔における薬剤、例えば、消毒液、抗炎症液などであってもよい。代表的な薬液は点鼻液などである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
スプレー容器は、非医療用、例えば、植物に対する給水用スプレー容器などであってもよいが、医療用、例えば、患部(打撲、冷感部、感染部、炎症部)に薬液を噴霧するためのスプレー容器として適している。特に、ノズルの軸線から外れる部位に薬液を噴霧するのに有用である。
【0052】
本発明のスプレー容器は、種々の適用部位、例えば、鼻腔に限らず種々の患部(例えば、咽、口腔)に適用できる。好ましい適用部位は鼻腔である。そのため、本発明のスプレー容器は点鼻用スプレー容器を構成する場合が多い。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
比較例1
図24に示す従来のノズル先端部を有する点鼻スプレー容器による噴霧特性を、以下のようにして評価した。なお、上記スプレー容器は中心軸線に沿って噴霧口が開口している。
【0055】
図3に示すように、シリコン製のヒトの実物大鼻腔モデル(鼻腔透明モデルLM-005,KOKEN CO.,LTD)には、気管を模したビニールホースを介してエアーポンプを接続し、マノメ一夕を耳管付近に取り付けた。鼻腔モデル側面は、鼻中隔に模したアクリル板で塞いだ。また、鼻腔内の圧力は、エアーポンプの空気を吸入する力を変えることにより調整可能とした。
【0056】
なお、図26(A)(B)(C)に示すように、点鼻スプレーは、水平面に対して20°,40°,60°の3通りの角度で鼻腔モデルの外鼻孔に挿入し、噴霧した。噴霧は、マニピュレータで点鼻スプレーのノズルを固定した状態で、手動で行った。また、実際の使用時を想定した噴霧実験(ヒトの鼻すすりを模擬した状態での噴霧試験)を行うため、噴霧時の耳管付近の圧力を、0kPa、−2.4kPa,−5.8kPaの3通りの条件で行った。
【0057】
その結果、図26(A)(B)(C)に示すように、点鼻スプレーの挿入角度が20°の場合[図26(A)]、薬剤は患部に当たっていたが、実際の使用時に想定される40°[図26(B)],60°[図26(C)]では患部にほとんど当たらず、患部以外に多く付着した。また、挿入角度が20°の場合(A)、鼻腔に対して実際に挿入される角度から外れているため、実用的ではなく、しかも下鼻甲介の一部にしか薬液を噴霧できなかった。
【0058】
また、鼻すすりを模擬した試験では、特にスプレーの挿入角度が40°,60°の場合、空気の吸入によって薬剤は鼻腔上部へ流れ、鼻腔上部に多く付着したが、患部の付着分布に大きな違いは見られなかった。
【0059】
なお、高速度カメラ(MEMRECAMfx−6000,株式会社ナックイメージテクノロジー)を用いて点鼻スプレーの噴霧の瞬間を、フレーム速度(Frame Rate):4000コマ/秒,シャッタースピード:1/10kの条件で撮影し、噴霧液滴の挙動を調べたところ、上記と同様の結果が確認された。
【0060】
さらに、薬剤の粘度による影響を調べるため、アビセルRC−A591NF(旭化成ケミカルズ株式会社)の濃度0.5%,1.0%,1.5%のアビセルRC水懸濁液を調製し、スプレーの薬剤容器にそれぞれ入れ、上記と同様にして噴霧したところ、粘度の違いによる噴霧状態に明確な相違は認められなかった。
【0061】
実施例1
図1及び図2に示すノズル先端部(噴霧口に通じる傾斜流路の傾斜角度:スプレーの中心軸線に対して30.9°)を有する点鼻スプレー容器を用い、上記と同様の試験を行ったところ、図25(A)(B)(C)に示すように、いずれの挿入角度でも患部(下鼻甲介)に薬液を効率よく噴霧できた。特に、通常の挿入角度(40°及び60°)でも患部の広い範囲(下鼻甲介とその下部など)に対して薬液を付着できた。また、鼻すすりを模擬した状態での噴霧試験でも、上記と同様に患部に薬液を効率よく噴霧できた。なお、図25(A)は挿入角度20°、図25(B)は挿入角度40°、図25(C)は挿入角度60°での噴霧における噴霧状態を示す概略図である。
【0062】
比較例2及び実施例2
比較例1及び実施例1で用いたスプレーを水平面に対して45°の角度で固定し、ノズルの先端を外鼻口から約1mm差込み、噴霧した。鼻腔モデルの後部は開放のままとし、下部および鼻中隔部分は閉じた。
【0063】
そして、特定部位(鼻炎で炎症が起こりやすい下鼻甲介の下部)への噴霧量(薬液の付着量)を次のようにして測定した。
【0064】
噴霧量Swは、鼻腔モデルを用い、全ての部分を閉じ、噴霧前に噴霧容器全体の質量を予め電子天秤で測定し、噴霧した後、同様に質量を測定し、前後の差を噴霧量とした。なお、綿棒による拭き取り誤差を確認するため、鼻腔モデルを用い、全ての部分を閉じ、液剤を噴霧し、電子天秤(メトラーAT250型)で予め質量を測定した綿棒で全部位(鼻腔)に付着した液剤を拭き取り、綿棒の質量を測定し、付着量Atを算出した。噴霧量Swとこの質量Atとの差(Sw−At)を拭き取り誤差量とした。その結果、下表に示すように、噴霧した液剤全量を綿棒により拭き取ることができず、約7mg(4.33〜10.06)の差が生じた。
【0065】
【表1】
【0066】
特定部位への薬液の付着量Awについては、液剤を噴霧した後、予め質量を測定した綿棒(市販品)で特定部位に付着した液剤を拭き取り、綿棒の質量を電子天秤(メトラーAT250型)で測定し、増加した質量を付着量とした。これらの操作を、比較例1及び実施例1で用いたスプレー各3本について、それぞれ5回繰り返し平均値を算出した。結果を下表に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表から明らかなように、実施例のノズルと比較例のノズルとでは明らかに特定部位への噴霧状態が異なり、実施例のノズルは比較例のノズルに比較してほぼ4倍量が特定部位に噴霧されている。しかも、誤差を考慮すると、実施例のノズルによる噴霧では90%以上が特定部位に噴霧されている。
【0069】
比較例3及び実施例3
比較例1のスプレー容器と実施例1のスプレー容器とを用い、食用赤色色素を添加した水溶液を各容器に入れ、以下のようにして噴霧し、噴霧パターンを調べた。
【0070】
(1)噴霧角度の測定
ノズル先端部を上方に向けて、スプレーを垂直に固定し、ノズルの先端より上部30mmに紙を配置し、噴霧した。紙に薬液が付着した状況より噴射角度を算出した。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例3では、ノズル上部30mmの位置で噴霧パターン(楕円形状パターン)の中心が、ノズル軸線から26mmづれており、垂直方向に対して30°の角度でジェット状に噴射した。比較例3では、リング状の噴霧パターンが得られた。
【0073】
(2)噴霧パターンの測定
ノズル先端部を上方に向けて、スプレーを垂直に固定し、ノズルを中空円筒状紙筒の中空の中心部に位置させて噴霧した。紙筒として内径38mm、45mm,85mmの3種類の紙筒を用いた。紙筒の内周壁(ノズルの同心円と垂直方向)に配した紙筒に薬液が付着した状況より噴霧パターンを記録した。
【0074】
【表4】
【0075】
なお、比較例3のスプレー容器では、円筒径85mmでの測定において空中霧散が多く、測定に際し円周でのパターンのバラツキがあった。また、円筒の天井部に噴霧されていた。
【0076】
実施例4
比較例1,実施例1のノズル先端部を有するスプレー容器に加えて、図4に示す構造のノズル先端部を有するスプレー容器を用い噴霧特性を調べた。なお、ノズル先端部は、内径0.3mmの傾斜流路を角度30.9°で形成し、この流路の噴霧口の領域をドリルで内径1.6mmの逆円錐状凹部を形成した。
【0077】
そして、特定部位(下鼻甲介伸の下の部分)に対する噴霧液の付着量、付着率を前記と同様にして測定するとともに、図27に示すように、ノズルを垂直に保持し、ノズル先端からL=100mmに紙をセットし、着色液を噴霧し、噴霧パターンを観察した。その結果、下表及び図27に示す結果を得た。
【0078】
【表5】
【0079】
実施例1のノズルを用いると、狭い噴霧角度θ1(13.4°)で特定部位に高い効率で噴霧できる。なお、実施例1のノズルによる噴霧パターンは、長軸径a=38mmの楕円形状であった。また、実施例4のノズルを用いると、特定部位への噴霧量をさほど低減させることなく、液滴径を小さくしつつ噴霧角度θ2(30.2°)を噴霧角度θ1より拡げることができる。なお、実施例4のノズルによる噴霧パターンは、長軸径b=100mmの楕円形状であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は本発明のスプレー容器を示す概略図である。
【図2】図2は図1に示すスプレー容器のノズル先端部の概略断面図である。
【図3】図3は図1に示すスプレー容器の使用状態を示す概略図である。
【図4】図4は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略斜視図である。
【図5】図5は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図6】図6は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図7】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図8】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図9】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図10】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図11】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図12】図12は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。
【図13】図13は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図14】図14は本発明のスプレー容器の別の例を示す概略断面図である。
【図15】図15は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。
【図16】図16は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図17】図17は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図18】図18は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図19】図19は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図20】図20は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図21】図21は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図22】図22は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図23】図23は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図24】図24は従来のスプレー容器のノズル先端部を示す概略断面図である。
【図25】図25は実施例1での噴霧状態を示す概略図であり、図25(A)は挿入角度20°、図25(B)は挿入角度40°、図25(C)は挿入角度60°での噴霧状態を示す。
【図26】図26は比較例1での噴霧状態を示す概略図であり、図26(A)は挿入角度20°、図26(B)は挿入角度40°、図26(C)は挿入角度60°での噴霧状態を示す。
【図27】図27は実施例4での方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0081】
1…容器本体
2…浸漬チューブ
3…第1の筒体
5…スプリング
8…スライド部材
13…第2の筒体
15…中空状ステム
19,79,89,109…インサート
20,111,113…掛止部
21…環状流路
24,34,74,84,94,104…噴霧口
23,43〜46,73,83,93…傾斜流路
25,35,70,80,90,100,110,112…ノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を噴霧するスプレー容器、特に点鼻液を噴霧するのに有用なスプレー容器(又は点鼻用スプレー容器)に関する。
【背景技術】
【0002】
点鼻液を噴霧するため、点鼻液を収容する容器本体と、この容器本体に装着され、かつスプリングを利用して進退動可能なノズルとを備えた点鼻スプレーが利用されている。このようなスプレー容器は、図24に示すように、ノズル130の先端部の内壁には凹部132が形成され、この凹部からは中心軸に沿って形成された貫通孔133が形成され、この貫通孔は噴霧口134で開口している。この噴霧口からは半径方向に拡がる螺旋状凹部135が形成されている。このようなスプレーノズルでは、鼻腔にノズル先端部を挿入し、ノズル130を軸方向に進退動させ、薬液を圧送することにより、薬液の液滴を回転させながら広角に噴霧できる。
【0003】
しかし、薬液が広角に噴霧されるため、薬液を患部(鼻炎が生じやすい下鼻甲介及びその周辺域)に効率よく噴霧することが困難である。また、鼻腔に対する挿入角度を変えて薬液を噴霧する必要があるものの、噴霧角度が広角であるため、挿入角度を変えても特定の角度(特に、鼻腔が延びる方向に対してノズル先端部を鼻腔の下部壁に押し付ける方向又は下方に向けた角度)でしか患部に薬液を噴霧できず、通常の挿入角度では鼻腔上部を中心に薬液が噴霧され、患部に薬液を有効に噴霧できない。特に、鼻すすりにより吸入すると、空気の流量、流速及び流動方向が大きく変化するため、患部に対する薬液の噴霧効率が大きく低下し、十分な治療効果が得られない。
【0004】
特開平8−280807号公報(特許文献1)には、易破断性薄膜を介して固体成分と液体成分とを分離して収容する容器と、この容器に装着可能な液体噴射部材とを備えており、液体噴射部材の装着に伴って、易破断性薄膜を液体噴射部材の液剤吸い上げ管で破断可能なスプレー容器が開示されている。このスプレー容器でも、ノズル先端部には、中心軸に沿って噴霧口が形成されている。そのため、上記と同様の問題が生じる。
【特許文献1】特開平8−280807号公報(特許請求の範囲、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、適用部位(患部など)がノズルの軸線から外れていても、適用部位(患部など)に対して薬液を有効に噴霧可能なスプレー容器(又は点鼻スプレー容器)を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、噴霧範囲を狭くしても適用部位(下鼻甲介とその下部などの患部など)に効率よく噴霧できるとともに、適用部位以外の部位(外鼻孔近辺や耳管部など)に薬液が噴霧されるのを回避するのに有効なスプレー容器(又は点鼻スプレー容器)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ノズル先端部の噴霧口(又は噴射口)を斜め方向に向けて開口したり、ノズル先端部の噴霧口(又は噴射口)に対して薬液を加圧して流量分布を偏らせて供給すると、ノズルの軸線から外れた斜め方向に薬液を噴霧でき、患部(鼻炎で炎症が起こりやすい下鼻甲介又はその下部などの周辺域)に効率よく薬液を噴霧・付着できることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のスプレー容器は、薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体の先端部に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えている。このようなスプレー容器において、ノズルの軸線(中心軸線)に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇のうち少なくともいずれか一方により、前記ノズルは、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。ノズル先端部の流路は、軸線(中心軸線)に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を備えていてもよい。この傾斜流路は、軸線に対して角度15〜45°(例えば、20〜40°、特に25〜35°)程度角度で傾斜していてもよい。スプレー容器は、薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持し、かつスプリングが収容された第1の筒体と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能なスライド部材と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための第2の筒体とを備えていてもよい。また、前記第2の筒体は、スライド部材に接続され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステムに接続され、かつ指が掛止可能な掛止部を有する外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成されていてもよい。なお、環状流路に関し、インサートの上流部には、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒内で摺動可能な複数の突状を形成してもよく、これらの突状の下流端からの環状流路の幅は小さくしてもよい。
【0009】
ノズル先端部には、凹部(例えば、湾曲した凹部又は窪み)を形成してもよく、この凹部では前記噴霧口が開口していてもよい。さらに、少なくともノズルの先端部は、軸線から半径方向にずれているか又は傾斜していてもよい。さらには、ノズル先端部は軸線に対して傾斜した傾斜面を有していてもよく、この傾斜面では噴霧口が斜め方向に開口していてもよい。さらには、薬液の噴霧方向を示すための告知手段をスプレー容器の適所に施してもよい。
【0010】
このようなスプレー容器は、ノズルの軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できるため、ノズルの軸線から外れた被処理部位(被適用部位)にも薬液を有効に噴霧できる。そのため、スプレー容器は、鼻腔の適用部位(患部)に薬液を効率よく噴霧するための点鼻用スプレー容器として有用である。
【0011】
本発明は、前記スプレー容器を用いて薬液を噴霧する方法であって、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧する方法も包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、スプレー容器の中心軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できるので、適用部位(下鼻甲介及び/又はその周辺域などの患部など)がノズルの軸線から外れていても、適用部位(患部など)に対して薬液を有効に噴霧できる。また、噴霧範囲を狭くしても適用部位(患部など)に効率よく噴霧できるとともに、適用部位以外の部位に薬液が噴霧されるのを回避できる。そのため、薬液を有効に利用できると共に、1回の噴射量を減少することができ、噴射後の液だれの防止にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は本発明のスプレー容器を示す概略図であり、図2は図1に示すスプレー容器のノズル先端部の概略断面図である。
【0014】
スプレー容器は、薬液を収容するための収容部を有する容器本体1と、一方の端部が容器本体の薬液に浸漬可能な浸漬チューブ(吸い上げチューブ又は吸い上げ管)2と、このチューブの他方の端部をチューブ2の流路と連通して保持し、かつスプリング5が収容された第1の筒体3と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体3からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリング5により進退動可能なスライド部材8と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材8の進退動に伴ってノズル25の先端部の噴霧口24に案内するための第2の筒体13とを備えている。なお、容器本体1の収容部の底部には、薬液が少量であっても有効に吸い上げるため、薬液が流入又は集合可能であり、かつ浸漬チューブ2の開口端部が配設可能な凹部又は窪み(特に、断面形状がV字状、U字状などの傾斜面を経て中央部の深度が大きな凹部又は窪み)が形成されている。
【0015】
前記第1の筒体3は、浸漬チューブ2の端部を嵌入して装着するための筒状装着部4と、この装着部の下流側に形成され、かつスプリング5の一方の端部が装着可能な筒状内管6と、この筒状装着部から二重管状の形態で下流方向に延びて形成された外管7とで構成されており、スプリング5の他方の端部は筒状内管6から下流方向に延び、スプリング5は外管7内で伸縮可能である。
【0016】
また、スライド部材8は、前記スプリング5の他方の端部が装着又は固定可能な保持部9と、この保持部から半径方向に延出し、前記外筒内で摺動可能なフランジ部10と、このフランジ部から上流方向に向かって延び、かつ前記外筒7の内壁との間で環状流路を形成するための円筒状延出部11と、前記フランジ部10の外周方向に所定間隔毎に形成され、流路を形成するための切り欠き部(図示せず)と、前記保持部9から下流方向に延出し、先端部が先細状(又は円錐状)の筒状突出部12とを備えている。この筒状突出部の外周面には、環状流路及び切り欠き部を通じて薬液を下流方向に流すため、所定間隔毎に軸方向に延びる複数の突条が形成されている。
【0017】
さらに、第2の筒体13は、スライド部材8の筒状突出部12の複数の突条が装着可能な装着凹部14を有し、かつこの装着凹部から軸芯方向に延びる流路を有する中空状ステム15と、このステムと外管7との間をシールするため、ステム15の上流側の端部に形成され、かつ上流方向及び下流方向に向かって拡がった環状シール材(ラッパ状シール材)16,17と、前記ステム15の下流側に装着された外筒18と、この外筒内に配設され、かつ前記ステム15の下流端と噴霧口24との間に環状流路21を形成するための円柱状インサート19とで構成されている。なお、外筒18には、スライド部材8を軸方向に進退動させるため指が掛止可能な掛止部20が形成されている。
【0018】
前記インサート19の上流部には、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒18内で摺動可能な複数の突状が形成され、これらの突状の下流端からの環状流路21のスリット幅が小さくなっている。そのため、浸漬チューブ2の中空部を通じて供給された薬液は、ステム15の中空部、外筒18とインサート19との間に形成された環状流路21を通じて下流方向に流れる過程で狭まった流路により加圧され、噴霧口24から噴霧又は噴射される。
【0019】
このようなスプレー容器では、噴霧口24からの薬液は広角に噴霧されるため、ノズル25の軸線から外れた部位に適用部位があると、適用部位に薬液を有効に噴霧できなくなる。そこで、前記スプレー容器のノズル25先端部では、ノズルの軸線に対して25〜35°の角度で傾斜して噴霧口24に至る傾斜流路23が形成されている。また、インサート19の先端部において下流の内壁に空間を形成するため、ノズル先端部の内壁にはインサート19の外径よりも小さな凹部22が形成され、この凹部から軸方向に延びる流路を経て斜め方向に傾斜流路23が貫通している。また、薬液の噴霧方向を示すため、前記掛止部にはマーカー(噴霧方向を示す矢印,図示せず)が施されている。
【0020】
このようなスプレー容器では、ノズル先端部の流路が噴霧口24で斜め方向に開口した傾斜流路23を備えているため、ノズルの軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧できる。また、ノズル先端部に噴霧口からの螺旋状凹部が形成されていないため、薬液が広角に拡がるのを防止でき、噴霧範囲を狭くできる。そのため、適用部位(下鼻甲介又はその周辺域などの患部など)がノズルの軸線から外れていても、範囲の狭い適用部位(患部など)に対しても薬液を有効に噴霧可能である。例えば、図3に示すように、点鼻薬を噴霧するとき、鼻腔Hが延びる方向に対してノズル先端部を鼻腔の下部壁に押し付けて下方に向けることなく、鼻腔Hが延びる方向にノズル先端部を挿入して噴霧することにより、適用部位(下鼻甲介又はその下部などの患部)Aに薬液を効率よく噴霧できる。
【0021】
なお、スプレー容器は前記構造に限らず種々のスプレー機構が採用できる。例えば、スプレー容器は、必要であれば、噴射剤を含むエアゾール容器であってもよいが、通常、噴射剤を含まないピストン方式のスプレー容器である場合が多い。スプレー容器は、通常、容器本体内の薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えている。さらに、ピストン方式のスプレー容器は、通常、薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持する中空筒体内に形成され、かつスプリングによる進退動に伴ってチューブからの薬液を吸い上げ可能なピストン機構(このピストン機構は、通常、進退動に伴って筒体内の薬液が漏出するのを規制するためのシール材を備えている)と、このピストン機構により吸い上げられた薬液を、進退動に伴って加圧するための狭まる流路と、この流路に通じる噴霧口とを備えている。
【0022】
なお、これらのスプレー容器の中空筒体は、前記第1の筒体乃至第2の筒体で構成された中空筒体に限らず種々の筒体(例えば、2〜5程度の中空筒体)で構成できる。
【0023】
前記第1の筒体は、内管と外管とで二重管状に形成する必要はなく、容器本体内の薬液に一方の端部が浸漬した浸漬チューブの中空部と連通し、浸漬チューブの他方の端部を保持可能な保持部を有し、スプリングが収容可能であればよい。このスプリングは第1の筒体内に収容され、スプリングの端部は保持固定されている場合が多い。
【0024】
スライド部材は、第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能であればよく、スライド部材の流路は、切り欠き部などによる環状流路に限らず、軸芯に形成された貫通孔やフランジ部を貫通する貫通孔などにより形成してもよい。スライド部材は、必要であれば、第1の筒体の内壁との関係で薬液の漏出を規制するため、第1の筒体の内壁と摺動可能な環状シール材を備えていてもよい。
【0025】
第2の筒体は、前記スライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための流路を備えていればよく、この流路は、スライド部材の進退動に伴って薬液を加圧するため、噴霧口側の流路幅が狭くなるのが好ましい。また、薬液の噴霧効率を高めるため、薬液を合流させて噴霧口に流通させるのが好ましい。例えば、前記のように環状流路幅(環状スリットの間隔)を下流側で小さくし、薬液を合流させて噴霧口に導くのが好ましい。第2の筒体は、通常、前記スライド部材を進退動させるため指が掛止可能な掛止部を有している。
【0026】
第2の筒体の構造は前記構造に限定されず、スライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口から薬液を噴霧可能であればよく、スライド部材(例えば、スライド部材の下流端部)に接続又は連結され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステム(例えば、ステムの下流端部)に接続又は連結された外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成できる。なお、掛止部は第2の筒体の適所に形成できるが、通常、前記外筒に形成する場合が多い。また、ステムは第1の筒体(前記の例では、外筒)の内壁に沿ってシールしつつ摺動可能である。なお、前記第2の筒体の先端部はノズル先端部を構成する場合が多い。
【0027】
なお、ノズルの先端部では、噴霧口に繋がる螺旋状溝又は凹部を形成してもよいが、液滴径を大きくして適用部位に効率よく薬液を噴霧するためには、液滴の回転力を低減するため、ノズルの先端部に螺旋状溝又は凹部を形成しなくてもよい。また、螺旋状溝や螺旋状凹部に代えて、ノズル先端部に凹部を形成し、この凹部で噴霧口を開口させてもよい。図4は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略斜視図である。なお、以下の例において、図1〜図3に示すスプレー容器と、同一の機能を果たす部材又は要素については図1〜図3と共通する符号を付して説明する場合がある。
【0028】
図4において、軸芯方向に延びる流路は、ノズル35の先端部で角度28〜32°程度の角度で傾斜して傾斜流路23を形成しており、傾斜流路23の噴霧口34は斜め方向に開口している。また、ノズル25先端面には傾斜側壁31aを有し、平面形状が円形状の切り欠き凹部(この例では、断面が逆三角形状又は逆円錐状の凹部)31が形成され、この凹部の傾斜側壁31aで前記傾斜流路23の噴霧口34が開口している。
【0029】
このような構造のノズルを利用すると、凹部31の傾斜側壁31aに噴霧液体が衝突するためか、適用部位に対する噴霧口率をさほど低下させることなく、薬液の液滴径が小さくなり、噴霧範囲が拡がる。そのため、適用部位に対して薬液を効率よく噴霧できる。
【0030】
なお、ノズル先端部には前記形状の凹部に限らず種々の凹部(例えば、断面コ字状、断面U字状、皿状などの湾曲凹部など)が形成できる。また、凹部での噴霧口の開口部位は、傾斜壁や平坦部であってもよく、凹部の中央であってもよく、中央部から偏った部位であってもよい。
【0031】
また、インサートの先端と噴霧口との距離が長くなると、液滴径が大きくなり、噴霧範囲が狭くなる。そのため、インサートの先端と噴霧口との距離と、前記凹部の形成とを組み合わせて、液滴径や噴霧範囲を調整してもよい。さらに、このような組み合わせにおいて、前記凹部は噴霧口から延びる放射状溝又は凹部、螺旋状(又は渦巻き状)溝又は螺旋状(又は渦巻き状)凹部であってもよい。
【0032】
本発明において、軸線(中心軸線)に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇(偏り)のうち少なくともいずれか一方により、前記ノズルからは、軸線(中心軸線)に対して薬液を斜め方向に噴霧可能である。中心軸線に対して斜め方向に薬液を噴霧するためには、上記の開口方向の傾斜及び流量の偏奇の双方を備えていてもよい。例えば、噴霧口の開口方向を傾斜(斜め方向に開口)させ、かつ噴霧口を中心軸として一方の側からの流量よりも他方の側からの流量を大きくして流量に偏りを形成して薬液を噴霧口から噴霧してもよい。
【0033】
スプレー容器の軸線(中心軸線)に対して噴霧口の開口方向を傾斜させるには、ノズル先端部の流路に、軸線に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を形成するのが有用である。傾斜流路の角度は、スプレー容器又はノズルの軸線(中心軸線)に対して10〜60°程度の範囲から選択でき、通常、15〜45°、好ましくは20〜40°、さらに好ましくは25〜35°(例えば、30±2.5°)程度である。このような角度で傾斜した流路を形成すると、鼻腔に対する挿入角度が異なっても、さらに、薬液の粘度が変動しても薬液を適用部位(患部)に効率よく噴霧できる。しかも、狭い噴霧範囲で噴霧でき、薬液を有効に利用できる。
【0034】
傾斜流路の形態は前記構造に限定されず、例えば、図5に示すように、ノズル25の先端部の内壁に形成された凹部22から、軸方向に延びる流路を経ることなく、ノズル先端部の壁を斜め方向に貫通する傾斜流路43であってもよい。図6に示すように、ノズル25の先端部の内壁に凹部を形成することなく、ノズル先端部の壁を斜め方向に貫通する傾斜流路44であってもよい。また、図7に示すように、図2と同様の構造の傾斜流路を有するノズルにおいて、ノズル35の先端部のうち傾斜流路45の傾斜方向とは反対側に凹部51を形成してもよい。さらに、図8に示すように、インサートを利用して環状流路を形成することなく、軸方向に延びる流路47と、この流路から傾斜してノズル25の先端部の噴霧口に至る傾斜流路46を形成してもよい。
【0035】
さらに、ノズル先端部は、噴霧口が形成されたノズルチップを備えていてもよい。例えば、図9に示すように、図6に対応する傾斜流路を有する構造において、傾斜流路(傾斜貫通孔)44を有するノズルチップ61を先端部に装着してもよく、図10に示すように、図7に対応する構造において、傾斜流路(傾斜貫通孔)45及び凹部51を有するノズルチップ62を先端部に装着してもよく、図11に示すように、図8に対応する傾斜流路を有する構造において、軸線に沿って形成された流路47と、この流路から傾斜して噴霧口に至る傾斜流路46とを有するノズルチップ63を先端部に装着してもよい。
【0036】
また、噴霧口の開口方向を軸線に対して傾斜させるには、ノズル先端部に軸線に対して傾斜した傾斜面を形成し、この傾斜面で軸線に対して斜め方向に噴霧口が開口していてもよい。図12は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図であり、ノズル70の先端部には軸線に対して傾斜した傾斜面71が形成され、この傾斜面では噴霧口74が軸線に対して斜め方向に開口している。この例では、傾斜面71に対して直交する方向に傾斜流路73が形成され、噴霧口74が傾斜面で開口している。また、噴霧液滴の回転力を低減させるため、先端面には凹部75が形成されている。また、先端部の内壁には凹部72が形成され、円柱状インサート79の先端面と先端部の内壁との間には空間が形成可能である。
【0037】
図13は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図であり、ノズル80の先端部の流路のうち下流端は球面状空間として形成されているとともに、インサート89の先端部は球面に形成され、先端部の内壁には湾曲壁に沿って湾曲凹部82が形成されている。さらに、ノズル先端部には軸線に対して傾斜した傾斜面81が形成され、この傾斜面81に対して直交する方向に傾斜流路83が形成され、傾斜面81では前記湾曲凹部82から噴霧口84が軸線に対して斜め方向(この例では、傾斜面81に対して直交する方向)に開口している。なお、噴霧口84はノズルの軸線から半径方向にずれた部位に形成されている。
【0038】
図14は本発明のスプレー容器の別の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル90の先端部のうち軸線に対して傾斜した傾斜部位には、ノズルチップ96を装着するための装着凹部が形成されている。この装着凹部に装着されるノズルチップ96は、前記傾斜部位に対応して傾斜して形成された傾斜面91と、この傾斜面91に形成された断面逆台形状の表面凹部95と、この凹部に対応する内壁に形成され、かつ空間を形成するための裏面凹部92と、前記表面凹部と裏面凹部との間を貫通し、傾斜面91に対して直交する方向に形成された傾斜流路93と、前記傾斜面91で軸線に対して斜め方向(傾斜面に対して直交する方向)に向いて開口した噴霧口94とを備えたリング状部材97と、このリング状部材内に装着され、かつリング状部材97の内壁との間に環状流路99cを形成するための円柱状中子98とを備えている。また、前記中子98の装着部には、ノズルの軸方向に貫通して延びる流路99aが開口しており、この流路からの薬液は、装着凹部と中子98の底面とで形成され、薬液を半径方向の外方向に案内するための拡散流路99bと、この流路と通じる環状流路99cと、この環状流路から中心方向に収束し、前記凹部に至る収束流路99dとを経て噴霧口94から噴霧される。
【0039】
このような傾斜面で噴霧口が開口したノズルを有するスプレー容器であっても薬液をノズルの軸線に対して斜め方向に噴霧でき、適用部位(患部など)に対する薬液の噴霧効率を向上できる。
【0040】
薬液を軸線に対して斜め方向に噴霧するためには、噴霧口で薬液流量が偏奇するノズルを用いてもよい。図15は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル100の先端部の外壁面には凹部105が形成されているとともに、内壁面にも凹部102が形成されている。これらの凹部間には貫通孔103が形成され、外壁面の凹部105では軸線方向に噴霧口104が開口している。そして、ノズルの軸方向には、前記噴霧口に通じる中空部が形成され、この中空部には、先端面が斜め方向に傾斜した円柱状インサート109が装着され、ノズルの内壁とインサート109の側壁との間には、前記噴霧口104に通じる環状流路が形成されている。そのため、インサート109の傾斜先端面とノズル先端部の内壁面との間には、半径方向に行くにつれて軸方向の距離が大きく(又は小さく)なる左右非対称の偏奇した流動空間110が形成される。
【0041】
図16は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。この例では、ノズル100の先端部には、図15に示す構造の噴霧口104を備えたノズルチップ111が装着されている。
【0042】
このようなスプレー容器でも、ノズルの中心軸に対して半径方向の一方の側では薬液が滞留しやすく他方の側で薬液の流速が大きくなるため、噴霧口がスプレー容器の中心軸に沿って形成されていても、軸線に対して薬液を斜め方向に傾斜して噴霧できる。
【0043】
なお、ノズル先端部の噴霧口の外壁面及び/又は内壁面において凹部は必ずしも必要ではない。また、前記構造は適当に組み合わせてスプレー容器を構成してもよい。例えば、軸線に対して斜め方向に開口した噴霧口と、ノズル先端部で薬液流量を偏奇させる構造とを組み合わせてもよく、傾斜面に形成した噴霧口と、ノズル先端部で薬液流量を偏奇させる構造とを組み合わせてもよい。
【0044】
本発明では薬液を斜め方向に噴霧できる。そのため、スプレー容器には、薬液の噴霧方向を示すための告知手段を施すのが有用である。この告知手段は容器(掛止部を含む)の形態であってもよく、表示手段又は指示手段(噴霧方法又は方向を表示するためのマーカー、噴霧方法又は方向を指示するための表示など)であってもよい。図17に示す例では、スプレー容器の中心軸線からノズル110が半径方向にずれて形成され、ノズル110の下部には指(人差し指など)が掛止可能な掛止部111が形成されている。図18に示す例では、スプレー容器の中心軸線からノズル112が半径方向にずれているとともに傾斜しており、ノズル112の下部には指(人差し指など)が掛止可能な掛止部113が形成されている。なお、図19および図20はそれぞれ図17及び18に対応し、かつノズル110,112を、螺合などにより容器本体に装着可能なキャップ120,121に形成している。これらのキャップ120,121はそれぞれ容器本体に装着して掛止部111,113を進退動させることにより薬液を噴霧可能である。なお、これらのスプレー容器は図1に示すのと同様の内部構造を備えていてもよい。
【0045】
このように、少なくともノズルが容器の軸線から半径方向にずれたり傾斜していると、ノズルの位置ずれ方向又は傾斜方向に対して反対方向に形成された掛止部(特に、反対方向に延びる掛止部や広い面積で形成された掛止部)に指を掛けやすく、ノズルを鼻腔の下部側に位置させ、掛止部を鼻から遠ざかる外側に位置させて噴霧しやすくなる。そのため、このような形態の容器を用いると、薬液を斜め方向に噴霧する容器であっても、鼻腔に対して自然に挿入して噴霧するだけで、薬液を患部に効率よく噴霧できる。
【0046】
さらに、スプレー容器の適所に表示手段又は指示手段を施してもよい。例えば、図21に示すように、ノズルの下部に形成した平面形状が三角形状の掛止部114に噴霧方向を示すマーカー116を施してもよく、図22に示すように平面形状が四角形状の掛止部115に噴霧方向を示すマーカー116を施してもよい。
【0047】
なお、掛止部の形状は特に制限されず、平面形状が多角形状であってもよく、楕円形状、円形状であってもよい。また、マーカーは、噴霧方向を示す矢印などのマーカーであってもよく、マーカーは、刻印、印刷、凹凸形状などで形成してもよい。
【0048】
なお、容器本体とノズルとは螺合式などの連結手段により連結してもよく、図23に示されるように、容器本体1とノズル25とはヒンジ部120を介してヒンジ式に連結してもよい。
【0049】
本発明では種々の薬液を適用部位に有効に噴霧できる。特に、従来のスプレー容器に比べて、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧できる。そのため、患部などの適用部位がスプレー容器の中心軸線方向からずれていても、薬液を有効に適用部位に噴霧できると共に、1回の噴射量を減少することができ、噴射後の液だれを防止することができる。
【0050】
また、薬液の粘度に影響されることなく、また気流の有無(吸入の有無などによる気流の変化)に係わらず、薬液を有効に適用部位に噴霧できる。薬液の種類は特に制限されず、例えば、殺虫剤などであってもよいが、口腔、鼻腔、耳孔などの腔における薬剤、例えば、消毒液、抗炎症液などであってもよい。代表的な薬液は点鼻液などである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
スプレー容器は、非医療用、例えば、植物に対する給水用スプレー容器などであってもよいが、医療用、例えば、患部(打撲、冷感部、感染部、炎症部)に薬液を噴霧するためのスプレー容器として適している。特に、ノズルの軸線から外れる部位に薬液を噴霧するのに有用である。
【0052】
本発明のスプレー容器は、種々の適用部位、例えば、鼻腔に限らず種々の患部(例えば、咽、口腔)に適用できる。好ましい適用部位は鼻腔である。そのため、本発明のスプレー容器は点鼻用スプレー容器を構成する場合が多い。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
比較例1
図24に示す従来のノズル先端部を有する点鼻スプレー容器による噴霧特性を、以下のようにして評価した。なお、上記スプレー容器は中心軸線に沿って噴霧口が開口している。
【0055】
図3に示すように、シリコン製のヒトの実物大鼻腔モデル(鼻腔透明モデルLM-005,KOKEN CO.,LTD)には、気管を模したビニールホースを介してエアーポンプを接続し、マノメ一夕を耳管付近に取り付けた。鼻腔モデル側面は、鼻中隔に模したアクリル板で塞いだ。また、鼻腔内の圧力は、エアーポンプの空気を吸入する力を変えることにより調整可能とした。
【0056】
なお、図26(A)(B)(C)に示すように、点鼻スプレーは、水平面に対して20°,40°,60°の3通りの角度で鼻腔モデルの外鼻孔に挿入し、噴霧した。噴霧は、マニピュレータで点鼻スプレーのノズルを固定した状態で、手動で行った。また、実際の使用時を想定した噴霧実験(ヒトの鼻すすりを模擬した状態での噴霧試験)を行うため、噴霧時の耳管付近の圧力を、0kPa、−2.4kPa,−5.8kPaの3通りの条件で行った。
【0057】
その結果、図26(A)(B)(C)に示すように、点鼻スプレーの挿入角度が20°の場合[図26(A)]、薬剤は患部に当たっていたが、実際の使用時に想定される40°[図26(B)],60°[図26(C)]では患部にほとんど当たらず、患部以外に多く付着した。また、挿入角度が20°の場合(A)、鼻腔に対して実際に挿入される角度から外れているため、実用的ではなく、しかも下鼻甲介の一部にしか薬液を噴霧できなかった。
【0058】
また、鼻すすりを模擬した試験では、特にスプレーの挿入角度が40°,60°の場合、空気の吸入によって薬剤は鼻腔上部へ流れ、鼻腔上部に多く付着したが、患部の付着分布に大きな違いは見られなかった。
【0059】
なお、高速度カメラ(MEMRECAMfx−6000,株式会社ナックイメージテクノロジー)を用いて点鼻スプレーの噴霧の瞬間を、フレーム速度(Frame Rate):4000コマ/秒,シャッタースピード:1/10kの条件で撮影し、噴霧液滴の挙動を調べたところ、上記と同様の結果が確認された。
【0060】
さらに、薬剤の粘度による影響を調べるため、アビセルRC−A591NF(旭化成ケミカルズ株式会社)の濃度0.5%,1.0%,1.5%のアビセルRC水懸濁液を調製し、スプレーの薬剤容器にそれぞれ入れ、上記と同様にして噴霧したところ、粘度の違いによる噴霧状態に明確な相違は認められなかった。
【0061】
実施例1
図1及び図2に示すノズル先端部(噴霧口に通じる傾斜流路の傾斜角度:スプレーの中心軸線に対して30.9°)を有する点鼻スプレー容器を用い、上記と同様の試験を行ったところ、図25(A)(B)(C)に示すように、いずれの挿入角度でも患部(下鼻甲介)に薬液を効率よく噴霧できた。特に、通常の挿入角度(40°及び60°)でも患部の広い範囲(下鼻甲介とその下部など)に対して薬液を付着できた。また、鼻すすりを模擬した状態での噴霧試験でも、上記と同様に患部に薬液を効率よく噴霧できた。なお、図25(A)は挿入角度20°、図25(B)は挿入角度40°、図25(C)は挿入角度60°での噴霧における噴霧状態を示す概略図である。
【0062】
比較例2及び実施例2
比較例1及び実施例1で用いたスプレーを水平面に対して45°の角度で固定し、ノズルの先端を外鼻口から約1mm差込み、噴霧した。鼻腔モデルの後部は開放のままとし、下部および鼻中隔部分は閉じた。
【0063】
そして、特定部位(鼻炎で炎症が起こりやすい下鼻甲介の下部)への噴霧量(薬液の付着量)を次のようにして測定した。
【0064】
噴霧量Swは、鼻腔モデルを用い、全ての部分を閉じ、噴霧前に噴霧容器全体の質量を予め電子天秤で測定し、噴霧した後、同様に質量を測定し、前後の差を噴霧量とした。なお、綿棒による拭き取り誤差を確認するため、鼻腔モデルを用い、全ての部分を閉じ、液剤を噴霧し、電子天秤(メトラーAT250型)で予め質量を測定した綿棒で全部位(鼻腔)に付着した液剤を拭き取り、綿棒の質量を測定し、付着量Atを算出した。噴霧量Swとこの質量Atとの差(Sw−At)を拭き取り誤差量とした。その結果、下表に示すように、噴霧した液剤全量を綿棒により拭き取ることができず、約7mg(4.33〜10.06)の差が生じた。
【0065】
【表1】
【0066】
特定部位への薬液の付着量Awについては、液剤を噴霧した後、予め質量を測定した綿棒(市販品)で特定部位に付着した液剤を拭き取り、綿棒の質量を電子天秤(メトラーAT250型)で測定し、増加した質量を付着量とした。これらの操作を、比較例1及び実施例1で用いたスプレー各3本について、それぞれ5回繰り返し平均値を算出した。結果を下表に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表から明らかなように、実施例のノズルと比較例のノズルとでは明らかに特定部位への噴霧状態が異なり、実施例のノズルは比較例のノズルに比較してほぼ4倍量が特定部位に噴霧されている。しかも、誤差を考慮すると、実施例のノズルによる噴霧では90%以上が特定部位に噴霧されている。
【0069】
比較例3及び実施例3
比較例1のスプレー容器と実施例1のスプレー容器とを用い、食用赤色色素を添加した水溶液を各容器に入れ、以下のようにして噴霧し、噴霧パターンを調べた。
【0070】
(1)噴霧角度の測定
ノズル先端部を上方に向けて、スプレーを垂直に固定し、ノズルの先端より上部30mmに紙を配置し、噴霧した。紙に薬液が付着した状況より噴射角度を算出した。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例3では、ノズル上部30mmの位置で噴霧パターン(楕円形状パターン)の中心が、ノズル軸線から26mmづれており、垂直方向に対して30°の角度でジェット状に噴射した。比較例3では、リング状の噴霧パターンが得られた。
【0073】
(2)噴霧パターンの測定
ノズル先端部を上方に向けて、スプレーを垂直に固定し、ノズルを中空円筒状紙筒の中空の中心部に位置させて噴霧した。紙筒として内径38mm、45mm,85mmの3種類の紙筒を用いた。紙筒の内周壁(ノズルの同心円と垂直方向)に配した紙筒に薬液が付着した状況より噴霧パターンを記録した。
【0074】
【表4】
【0075】
なお、比較例3のスプレー容器では、円筒径85mmでの測定において空中霧散が多く、測定に際し円周でのパターンのバラツキがあった。また、円筒の天井部に噴霧されていた。
【0076】
実施例4
比較例1,実施例1のノズル先端部を有するスプレー容器に加えて、図4に示す構造のノズル先端部を有するスプレー容器を用い噴霧特性を調べた。なお、ノズル先端部は、内径0.3mmの傾斜流路を角度30.9°で形成し、この流路の噴霧口の領域をドリルで内径1.6mmの逆円錐状凹部を形成した。
【0077】
そして、特定部位(下鼻甲介伸の下の部分)に対する噴霧液の付着量、付着率を前記と同様にして測定するとともに、図27に示すように、ノズルを垂直に保持し、ノズル先端からL=100mmに紙をセットし、着色液を噴霧し、噴霧パターンを観察した。その結果、下表及び図27に示す結果を得た。
【0078】
【表5】
【0079】
実施例1のノズルを用いると、狭い噴霧角度θ1(13.4°)で特定部位に高い効率で噴霧できる。なお、実施例1のノズルによる噴霧パターンは、長軸径a=38mmの楕円形状であった。また、実施例4のノズルを用いると、特定部位への噴霧量をさほど低減させることなく、液滴径を小さくしつつ噴霧角度θ2(30.2°)を噴霧角度θ1より拡げることができる。なお、実施例4のノズルによる噴霧パターンは、長軸径b=100mmの楕円形状であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は本発明のスプレー容器を示す概略図である。
【図2】図2は図1に示すスプレー容器のノズル先端部の概略断面図である。
【図3】図3は図1に示すスプレー容器の使用状態を示す概略図である。
【図4】図4は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略斜視図である。
【図5】図5は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図6】図6は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図7】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図8】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図9】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図10】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図11】図5は本発明のスプレー容器の変更例を示すノズル先端部の概略斜視図である。
【図12】図12は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。
【図13】図13は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図14】図14は本発明のスプレー容器の別の例を示す概略断面図である。
【図15】図15は本発明のスプレー容器の他の例を示す概略断面図である。
【図16】図16は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図17】図17は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図18】図18は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図19】図19は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図20】図20は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図21】図21は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図22】図22は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図23】図23は本発明のスプレー容器のさらに他の例を示す概略図である。
【図24】図24は従来のスプレー容器のノズル先端部を示す概略断面図である。
【図25】図25は実施例1での噴霧状態を示す概略図であり、図25(A)は挿入角度20°、図25(B)は挿入角度40°、図25(C)は挿入角度60°での噴霧状態を示す。
【図26】図26は比較例1での噴霧状態を示す概略図であり、図26(A)は挿入角度20°、図26(B)は挿入角度40°、図26(C)は挿入角度60°での噴霧状態を示す。
【図27】図27は実施例4での方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0081】
1…容器本体
2…浸漬チューブ
3…第1の筒体
5…スプリング
8…スライド部材
13…第2の筒体
15…中空状ステム
19,79,89,109…インサート
20,111,113…掛止部
21…環状流路
24,34,74,84,94,104…噴霧口
23,43〜46,73,83,93…傾斜流路
25,35,70,80,90,100,110,112…ノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えたスプレー容器であって、前記ノズルが、軸線に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇のうち少なくともいずれか一方により、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能であるスプレー容器。
【請求項2】
ノズル先端部の流路が、軸線に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を備えている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項3】
薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持し、かつスプリングが収容された第1の筒体と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能なスライド部材と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための第2の筒体とを備えている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項4】
第2の筒体が、スライド部材に接続され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステムに接続され、かつ指が掛止可能な掛止部を有する外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成されている請求項3記載のスプレー容器。
【請求項5】
インサートの上流部に、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒内で摺動可能な複数の突状が形成され、これらの突状の下流端からの環状流路の幅が小さくなっている請求項4記載のスプレー容器。
【請求項6】
傾斜流路が、軸線に対して角度15〜45°で傾斜している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項7】
ノズル先端部に凹部が形成されており、この凹部で噴霧口が開口している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項8】
少なくともノズルの先端部が、軸線から半径方向にずれているか又は傾斜している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項9】
ノズル先端部が軸線に対して傾斜した傾斜面を有しており、この傾斜面で噴霧口が斜め方向に開口している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項10】
点鼻用である請求項1記載のスプレー容器。
【請求項11】
薬液の噴霧方向を示すための告知手段が施されている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項12】
請求項1記載のスプレー容器を用いて薬液を噴霧する方法であって、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧する方法。
【請求項1】
薬液を流通させるための流路を備えた中空筒体と、この中空筒体に装着され、かつ前記流路と通じる噴霧口が先端部に形成されたノズルとを備えたスプレー容器であって、前記ノズルが、軸線に対する噴霧口の開口方向の傾斜及び噴霧口での薬液流量の偏奇のうち少なくともいずれか一方により、軸線に対して薬液を斜め方向に噴霧可能であるスプレー容器。
【請求項2】
ノズル先端部の流路が、軸線に対して傾斜して噴霧口に至る傾斜流路を備えている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項3】
薬液を収容するための収容部を有する容器本体と、一方の端部が薬液に浸漬可能な浸漬チューブと、このチューブの他方の端部を保持し、かつスプリングが収容された第1の筒体と、この第1の筒体内に摺動可能に配設され、かつ第1の筒体からの薬液を流通させるための流路を有するとともに、スプリングにより進退動可能なスライド部材と、このスライド部材の流路からの薬液をスライド部材の進退動に伴ってノズル先端部の噴霧口に案内するための第2の筒体とを備えている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項4】
第2の筒体が、スライド部材に接続され、かつスライド部材の流路からの薬液を案内するための流路を有する中空状ステムと、このステムに接続され、かつ指が掛止可能な掛止部を有する外筒と、この外筒内に配設され、前記ステムの下流端と噴霧口との間に環状流路を形成するためのインサートとで構成されている請求項3記載のスプレー容器。
【請求項5】
インサートの上流部に、周方向に間隔をおいて軸方向に延び、かつ外筒内で摺動可能な複数の突状が形成され、これらの突状の下流端からの環状流路の幅が小さくなっている請求項4記載のスプレー容器。
【請求項6】
傾斜流路が、軸線に対して角度15〜45°で傾斜している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項7】
ノズル先端部に凹部が形成されており、この凹部で噴霧口が開口している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項8】
少なくともノズルの先端部が、軸線から半径方向にずれているか又は傾斜している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項9】
ノズル先端部が軸線に対して傾斜した傾斜面を有しており、この傾斜面で噴霧口が斜め方向に開口している請求項1記載のスプレー容器。
【請求項10】
点鼻用である請求項1記載のスプレー容器。
【請求項11】
薬液の噴霧方向を示すための告知手段が施されている請求項1記載のスプレー容器。
【請求項12】
請求項1記載のスプレー容器を用いて薬液を噴霧する方法であって、薬液の噴霧域を小さくしつつ薬液を斜め方向に噴霧する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2008−295849(P2008−295849A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146567(P2007−146567)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
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