説明

スプレ塔式湿式排煙脱硫装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は湿式排煙脱硫装置に係り、特にスプレ塔を用いた高効率吸収塔に関する。
【0002】
【従来の技術】火力発電所などより排出される燃焼ガス中に含まれる硫黄酸化物を除去する、いわゆる排煙脱硫装置としては、吸収剤として石灰石あるいは炭酸カルシウムを使用し、副生品として石膏を回収する湿式石灰石−石膏法が主流である。この湿式石灰石−石膏法の脱硫装置の主要装置である吸収塔は、これまで種々の形式のものが開発され、実用化されているが、スプレ塔を用いるものは最も多く採用されているものの一つである。
【0003】従来使用されているスプレ塔式吸収塔の構成を図3に示す。吸収塔下部のガス入口部31より吸収塔内へ流入した排ガスが吸収塔上部のガス出口部32から排出する。この間、吸収塔下部の吸収剤タンク33から循環ポンプ34により循環配管35内を循環される吸収剤がヘッダ36のスプレノズル37より噴霧され、排ガスと向流接触する。この向流接触は並流接触に比べ吸収効率が高いため、一般には向流方式が多く採用されている。硫黄酸化物を除去された排ガスはガス出口部32より系外へ流出するが、排ガスに同伴される吸収剤のミストを除去するために、吸収塔内には通常ミストエリミネータ38が設置されている。また、硫黄酸化物の除去量に相当する吸収剤が消費されるので、それに見合った量の吸収剤である炭酸カルシウム(石灰石−石膏法)などが吸収剤供給ライン39から吸収塔循環タンク33へ補給される。
【0004】通常、吸収塔内の吸収部は複数段のスプレヘッダー36より構成されるが、除去する硫黄酸化物の量が大きくなる。すなわち所要脱硫率が高くなると、スプレヘッダー36の段数は多くなる。しかし、上段のスプレヘッダー36からの噴霧吸収剤は下段のスプレヘッダー36のそれに比べ、排ガス中の硫黄酸化物の濃度が低くなるので吸収剤の吸収推進力は小さくなり、そのため、きわめて高い脱硫率を要求される場合には多数のスプレ段数を要し、結果として吸収塔塔高が高くなる欠点があった。またミストエリミネータ38の再飛散を押えるため、塔内流速を一定値以下に保つため、ガス量によっては大きな塔径になるという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術の向流接触式スプレ塔方式の吸収塔では、所要脱硫率に対してはスプレ段数で対応しており、高脱硫率を要求される場合には塔高が高くなること、またミストエリミネータの性能を維持するため、塔内流速が例えば3m/s程度に制限されるため、ガス量が大きくなった場合には塔径も大きくなるという点に配慮がなされていなかった。本発明の目的は、高脱硫率を要求された場合でも塔高を高くせずに高性能スプレ塔方式の吸収塔を備えた湿式排煙脱硫装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は次の主構成によって構成される。すなわち、吸収剤スラリを保有する循環タンクと、該循環タンクから循環供給される吸収剤スラリをスプレヘッダーのノズルから噴霧して、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔を備えたプレ塔式湿式排煙脱硫装置において、前記吸収塔に吸収塔内部のガス流れ方向がガス入口側領域とガス出口側領域で逆向きとなるような仕切板と該仕切板で仕切られたガス入口側領域とガス出口側領域の吸収塔内にそれぞれ吸収剤スラリ噴霧用のスプレヘッダのノズルを設け、記仕切板の下端部が吸収液内に浸漬し、かつ仕切板の下端部より下方では前記ガス入口側領域とガス出口側領域の各領域の下方に位置する吸収液貯留領域が連通している吸収液貯留用の循環タンクを設け、吸収塔の前記ガス出口側領域の外部に吸収塔内から排出するガスに同伴するミストを除去するためのミストエリミネータを設けるものである。さらに、好ましくは、ガス入口側領域において、ガスの流れ方向と吸収剤スラリの噴霧方向が向流となり、ガス出口側領域において、ガスの流れ方向と吸収剤スラリの噴霧方向が並流となるようにスプレヘッダのノズルを配置した構成、あるいは並流接触領域に供給される吸収剤スラリは向流接触領域の吸収剤スラリに比較して、吸収剤濃度が高くなる構成などとする。
【0007】
【作用】本発明は従来の向流接触スプレ塔吸収塔の向流接触スプレ段の一部を、たとえば並流接触部に移すことおよび従来技術で採用されていたミストエリミネータを向流接触部に設置する必要がないことのため、吸収塔の向流接触部の塔高が低くなるとともに、ミストエリミネータ不設置のため塔内ガス流速をはやくすることができる。すなわち本発明は、吸収塔のスプレヘッダー設置部におけるガス流れ方向がガス入口側領域とガス出口側領域に二分されていることおよびミストエリミネータが吸収塔内にないことで、吸収塔の塔高を低くすることができ、ミストエリミネータを吸収塔の外側に設けたため、吸収塔の塔高を低くできるだけでなく、塔内のガスの流速を大きくすることができる。
【0008】また、吸収塔のガス出口側においては、排ガスはフレッシュなメークアップ吸収剤を多量に含む循環スラリと接触するため、排ガス中の硫黄酸化物濃度は低くても、吸収のための推進力を大きくすることができ、ガス出口側での脱硫率を向上させることができる。こうして、結果的に合計のスプレ段数の低減と共に吸収塔塔高を低くすることができる。また、補給吸収剤スラリの供給口を前記ガス出口側領域の吸収塔内に噴霧するための吸収剤スラリ循環ポンプのサクション近傍に設けた場合には、吸収塔内のガス入口側領域に吸収剤スラリを循環させる循環タンク側に吸収剤スラリのブリードラインを接続することにより、メークアップ吸収剤を無駄に系外に排出することがなくなる。さらに、吸収塔の塔頂部に洗浄装置を設けることにより、ミストエリミネータがガス出口部に設けられていても、吸収塔の塔頂部にミストが堆積することはない。また、吸収塔の塔頂部を丸ダクトなどのように傾斜させることで、ミストが塔頂部内面に付着することがほとんどなくなり、水洗装置などの設置を省略することができる。
【0009】
【実施例】本発明の実施例を図1、図2に示す。図1はスプレ塔吸収塔を示すもので、中仕切り17により、向流接触領域15と並流接触領域16の2つの領域に吸収部が分割されている。この吸収塔下部のガス入口部1より吸収塔内へ流入した排ガスが吸収塔上部のガス出口部2から排出する。向流接触領域15では吸収塔下部の吸収剤タンク3から循環ポンプ4により循環配管5内を循環される吸収剤がヘッダ6のスプレノズルより噴霧される。また、並流接触領域16では吸収塔下部の吸収剤タンク3から循環ポンプ9により循環配管10内を循環される吸収剤がヘッダ11のスプレノズル12より噴霧される。また新しく調整された吸収剤(石灰石−石膏法では炭酸カルシウムなど)は並流接触領域16の循環ポンプ9のサクション近傍の循環タンク3内にメークアップ吸収剤供給ライン19より供給される。
【0010】硫黄酸化物を含むボイラなどの燃焼排ガスは、ガス入口部1より、まず向流接触領域15に入り、上向きに流れてスプレノズル7より下向きに噴霧された吸収剤スラリと向流接触し、硫黄酸化物濃度がガス入口部1よりも低くなった状態で、吸収塔塔頂部において、並流接触領域16に流入する。並流接触領域16ではガスは下向きに流れ、スプレノズル12より下向きに噴霧された吸収剤スラリと並流接触する。並流接触領域16で排ガス中の硫黄酸化物はさらに除去され、所定の値以下に低減された後、同伴された吸収剤のミストなどを塔出口に設置したミストエリミネータ8で除去した後、ガス出口部2より系外へ流出する。
【0011】また、メークアップ吸収剤供給ライン19より、除去された硫黄酸化物の量に見合った量のフレッシュな吸収剤が供給されているが、このメークアップ吸収剤は循環ポンプ9のサクション近傍の循環タンク3内に供給されるので、並流接触領域16に供給される吸収剤スラリは向流接触領域15の吸収剤スラリに比較して、吸収剤の割合が多い。
【0012】一般に脱硫反応の推進力は硫黄酸化物濃度が高い程大きく、低くなるにつれて推進力も小さくなる。本実施例では向流接触領域15の出口、すなわち並流接触領域16の入口における排ガス中の硫黄酸化物濃度は向流接触領域15の入口よりも低い。そのため、並流接触領域16では硫黄酸化物濃度が低くなり推進力が低くなっているが、並流接触領域16の吸収剤スラリ中にはフレッシュな吸収剤(炭酸カルシウムなど)がメークアップ吸収剤供給ライン19から多量に供給されているため、向流接触領域15出口に比べ、脱硫反応の推進力は大きい。したがって、同一の脱硫性能を得るための並流接触領域16におけるスプレ段数すなわち吸収剤スラリの循環量は、向流接触領域15のそれに比べて少なくてすむ。
【0013】なお、図1では循環タンク3より後流機器あるいは廃棄のために吸収剤スラリを抜き出すブリードラインの図示を省略している。このブリードラインは吸収剤スラリのメークアップ吸収剤供給ライン19が配置される並流接触領域16側とは反対側の向流接触領域15側の循環タンクに設けることによりメークアップ吸収剤を無駄に系外に排出することはなくなる。
【0014】また、吸収塔の塔頂部に洗浄装置(図示せず。)を設けておけば、ミストエリミネータ8がガス出口部2に設けられていても、吸収塔の塔頂部にミストが堆積することはない。しかし、図2に示すように吸収塔塔高頂部を丸ダクト型にすると吸収塔塔頂部に水平部分がないため、吸収剤ミストが付着停滞することはないので吸収塔の塔頂部の水洗装置が不要となる。
【0015】このように、本実施例では図3に示す従来技術と比較して、同一の脱硫性能を得るための吸収剤スラリの循環量の総量を小さくすることができ、そのため、総計のスプレ段数を少なくすることができる。
【0016】さらに、本実施例では吸収塔を向流接触領域15と並流接触領域16に内部を二分しているため、例えば図3に示すような従来技術に比べ吸収塔の塔高を低くすることができる。また、ミストエリミネータ8も吸収塔の頂部に設けず、ガス出口部2に設置するため、従来技術に比べ、吸収塔の塔高を低くすることができる。
【0017】また、本実施例では向流接触領域15においてはミストエリミネータ8がないためミスト再飛散による塔内ガス流速の制限(通常3m/s程度)がなく、従来技術に比べ流速を大きくすることができる。また、並流接触領域16でも同様の理由により塔内のガス流速を大きくすることができる。従って向流接触領域・並流接触領域の両方を含んだ吸収塔の断面積は従来技術と比べ同等かそれ以下に低減することが可能である。
【0018】
【発明の効果】本発明では、吸収塔内のガス出口側領域(たとえば並流接触領域においてフレッシュな吸収剤を多く含む吸収剤スラリと排ガスが接触するため、脱硫反応の推進力が大きくなり、循環する吸収剤スラリ量あるいはスプレ段数を低減することができる。また、吸収塔内のスプレヘッダーの設置された部位(スプレ部吸収塔内のガス入口側領域(たとえば向流接触領域)とガス出口側領域(たとえば並流接触領域)に二分されていることおよびミストエリミネータが吸収塔内にないことも、吸収塔の塔高を低くすることに寄与する。
【0019】さらに、ミストエリミネータが吸収塔内にないことは、前記したように吸収塔塔高を低くするばかりでなく、塔内のガスの流速を大きくすることができるため吸収塔断面積を小さくすることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明になるスプレ塔吸収塔の一実施例を示す。
【図2】 本発明になるスプレ塔吸収塔の一実施例を示す。
【図3】 従来の向流接触式スプレ塔吸収塔を示す。
【符号の説明】
1、31…ガス入口部、 2、32…ガス出口部、 3、33…循環タンク、4、9、34…循環ポンプ、 5、10、35…循環配管、6、11、36…ヘッダー、 7、12、37…スプレノズル、8、38…ミストエリミネータ、15…向流接触領域、16…並流接触領域、17…中仕切り、 19、39…吸収剤供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 吸収剤スラリを保有する循環タンクと、該循環タンクから循環供給される吸収剤スラリをスプレヘッダーのノズルから噴霧して、排ガス中の硫黄酸化物を除去する吸収塔を備えたスプレ塔式湿式排煙脱硫装置において、前記吸収塔に吸収塔内部のガス流れ方向がガス入口側領域とガス出口側領域で逆向きとなるような仕切板と該仕切板で仕切られたガス入口側領域とガス出口側領域の吸収塔内にそれぞれ吸収剤スラリ噴霧用のスプレヘッダのノズルを設け、前記仕切板の下端部が吸収液内に浸漬し、かつ仕切板の下端部より下方では前記ガス入口側領域とガス出口側領域の各領域の下方に位置する吸収液貯留領域が連通している吸収液貯留用の循環タンクを設け、吸収塔の前記ガス出口側領域の外部に吸収塔内から排出するガスに同伴するミストを除去するためのミストエリミネータを設けたことを特徴とするスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。
【請求項2】 ガス入口側領域において、ガスの流れ方向と吸収剤スラリの噴霧方向が向流となり、ガス出口側領域において、ガスの流れ方向と吸収剤スラリの噴霧方向が並流となるようにスプレヘッダのノズルを配置したことを特徴とする請求項1記載のスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。
【請求項3】 並流接触領域に供給される吸収剤スラリは向流接触領域の吸収剤スラリに比較して、吸収剤濃度が高くなる構成としたことを特徴とする請求項記載のスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。
【請求項4】 循環タンク内にメークアップラインを設け、該メークアップラインからの補給吸収剤スラリの供給口を前記ガス出口側領域の吸収塔内に噴霧するために配置される吸収剤スラリ循環ポンプのサクション近傍に設けたことを特徴とする請求項1記載のスプレ塔式湿排煙脱硫装置。

【請求項5】
吸収塔内のガス入口側領域に吸収剤スラリを循環させる循環タンク側に吸収剤スラリのブリードラインを接続することを特徴とする請求項1記載のスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。
【請求項6】 吸収塔の塔頂部に洗浄装置を設けたことを特徴とする請求項1記載のスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。
【請求項7】 吸収塔の塔頂部を傾斜させ、洗浄装置の設置を省略することを特徴とする請求項記載のスプレ塔式湿式排煙脱硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3369208号(P3369208)
【登録日】平成14年11月15日(2002.11.15)
【発行日】平成15年1月20日(2003.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−25097
【出願日】平成4年2月12日(1992.2.12)
【公開番号】特開平5−220331
【公開日】平成5年8月31日(1993.8.31)
【審査請求日】平成11年2月10日(1999.2.10)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【参考文献】
【文献】特開 平4−243520(JP,A)
【文献】厚川麻須美 外4名,排煙脱硫装置の開発研究,三菱重工技報,日本,三菱重工業株式会社,1973年9月29日,第10巻 第5号(通巻58号),p.44〜51