説明

スライドキャリアー

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面抵抗が10の6乗から10の14乗Ωの範囲に制御され130℃以上の耐熱寸法安定性に優れるタブ用スライドキャリアーに関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器の高密度実装化に伴い、ICの多ピン化が要求されており、従来のワイヤボンディング方式からタブ(TAB:Tape Automated Bonding)方式に変わりつつある。タブテープ上にボンディングされたICは、タブテープごとにスライドキャリアーにセットされ、130℃以上の高温下でその電気特性がチェックされる(バーンインテスト)。この際に使用されるスライドキャリアーに要求される性能として、ICの静電気による破損、あるいはリーク電流による誤動作を防ぐために、表面抵抗が10の6乗から10の14乗Ωの範囲に制御されていることが必要である。またスライドキャリアーは130℃以上の高温下で何度も使用されるが、130℃以上の高温下で大きな寸法収縮が発生せず、タブテープの穴とスライドキャリアーの突起とのはめあい寸法が安定している事が要求される。従来、前記両者の要求を満足するようなスライドキャリアーはなかった。例えば、表面抵抗が10の6乗から10の14乗Ωの範囲に制御するために、熱可塑性樹脂に導電性カーボンの粉末あるいは繊維を所定の割合で添加した樹脂組成物があるが、スライドキャリアーの好ましい表面抵抗値は絶縁領域の付近にあり、導電性カーボンの添加量による制御は難しく、しばしば所定範囲をはずれる事があった。すなわち、表面抵抗値が10の6乗Ω未満の場合には、容易に導電性カーボンの添加量により制御できるが、前記表面抵抗の範囲は、導電性カーボンの添加量に対して表面抵抗の変動が大きく、数%の添加量のバラツキにより10の6乗Ω未満あるいは絶縁領域へずれることがあり問題であった。また、スライドキャリアーは一般に射出成形法により製造されるが、130℃以上の耐熱性を有する熱可塑性樹脂としてポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂等を用いた場合には流動性が悪く、製品の場所によって表面抵抗が異なり、例えば製品のゲート部とウエルド部とでは表面抵抗が2桁以上バラツク事もあり問題となっていた。
【0003】さらに、スライドキャリアーは130℃以上の高温下で何度も使用されるが、比較的耐熱性の良い結晶性ポリエステル樹脂あるいはナイロン樹脂等では、130℃以上の耐熱寸法安定性が悪い。すなわち130℃以上の高温下では、大きな寸法収縮が発生し、TABテープとのはめあいが悪くなり、再使用が困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、TABテープ上にボンディングされたICが、静電気による破損、あるいはリーク電流による誤動作が無く、130℃以上の高温下でその電気特性がチェックできる(バーンインテスト)スライドキャリアーを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、すなわち、ポリフェニレンエーテル樹脂40〜100重量%、スチレン系樹脂60〜0重量%よりなる樹脂混合物100重量部に体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物から製造されることを特徴とするTAB用スライドキャリアー、または、芳香族ポリスルホン樹脂100重量部に体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物から製造されることを特徴とするTAB用スライドキャリアーの提供により達成される。
【0006】本発明のTAB用スライドキャリアーの製造方法としては、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂40〜100重量%、スチレン系樹脂60〜0重量%よりなる樹脂混合物100重量部に、体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物、あるいは芳香族ポリスルホン樹脂100重量部に、体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物から射出成形法等により製造される。本発明の樹脂組成物を構成するポリフェニレンエーテル樹脂とは、下記一般式(I)
【0007】
【化1】


(式中、R1 、R2 、R3 およびR4 はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロ炭化水素基、炭化水素オキシ基およびハロ炭化水素オキシ基で構成される群から選択され、nはモノマー単位の総数を表わし、20以上の整数である。)で示される単位を一種以上含有するホモポリマー又はコポリマーであることが望ましい本発明において、好ましいポリフェニレンエーテル樹脂はポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルである。 また、ポリフェニレンエーテル樹脂の25℃のクロロホルム溶液中で測定して得られる固有粘度は、0.25〜0.70dl/g が好ましい。
【0008】本発明において用いられるスチレン系樹脂とは、GPポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン・ブタジエン共重合物、スチレン・無水マレイン酸共重合物、スチレン・アクリロニトリル共重合物、スチレン・アクリロニトリル・ブタジエン共重合物、スチレン・マレイミド共重合物等が挙げられる。これらのスチレン系樹脂はポリフェニレンエーテル樹脂40〜100重量%に対して60〜0重量%の割合で混合されるが、好ましくは50〜0重量%の範囲である。60重量%を越えると130℃以上での寸法安定性が悪い。
【0009】本発明において用いられるカーボン繊維とは、カーボン繊維の体積固有抵抗測定法JIS−R7601に従って測定したとき、従来のカーボン繊維の体積固有抵抗が10のマイナス3乗Ω・cm以下であるのにたいして、その体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維である。具体的には、ピッチ系カーボン繊維としてXylus−GCA(川崎製鉄)等が挙げられる。また、カーボン繊維の繊維長、繊維径については特に限定されるものではないが一般に繊維長が0.3〜6.0mmで、繊維径が5〜15μmのものが用いられる。
【0010】本発明において用いられる芳香族ポリスルホン樹脂とは、アルカリフェノレート基と電子吸引性スルホン基で活性化された芳香族ハロゲン基とを非プロトン性極性溶媒中で縮合反応させることにより得られる形式の重合体であり、アリーレン結合(芳香族結合)、エーテル結合およびスルホン結合の3者を必須結合単位とする線状重合体である。 これら芳香族ポリスルホン樹脂は、例えば特公昭40−10067号、同42−7799号、同47−617号などに記載の方法によって製造できる。代表的な市販品としてはインペリアル・ケミカル・インダストリ−社の商品名VICTOREXが挙げられる。
【0011】本発明において、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂、あるいは芳香族ポリスルホン樹脂に体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維との配合割合は、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂、あるいは芳香族ポリスルホン樹脂100重量部に対して、カーボン繊維が5〜40重量部よりなり、好ましくは10〜35重量部の範囲である。5重量部未満では、表面抵抗が10の14乗Ωを越え、また40重量部を越えると表面抵抗が10の6乗Ω未満となり好ましくない。
【0012】本発明における、TAB用スライドキャリアーは、表面抵抗が10の6乗から10の14乗Ωの範囲に制御されるが、好ましくは表面抵抗が10の8乗から10の11乗Ωの範囲であり、ICの電気特性をチェックするのに最適の範囲である。
【0013】本発明では、製品の場所による表面抵抗のバラツキの範囲がそれほど厳しくなければ、カーボン繊維とカーボン粉末、あるいは他の導電性フィラー、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、鉄、ステンレス鋼、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉛、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタニウム、グラファイトの各種材料を、粉末、フレーク、ビーズ、繊維等の形状で単一または混合して併用することも可能である。
【0014】本発明においては、機械的強度を改良するために、各種エラストマー等を添加することも可能である。具体的には、スチレン−ブタジエンラバー、スチレン−ブタジエンースチレン3元ブロック共重合体エラストマーおよびそのブタジエン部が水素添加された物、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体エラストマー、メチルメタクリレート−エチルアクリレートコアシェル型エラストマー等が挙げられる。
【0015】本発明における、スライドキャリアーの製造方法は、特に制限はないが、通常公知の方法を採用することができる。すなわち、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂、あるいは芳香族ポリスルホン樹脂とカーボン繊維を高速撹拌機などを用いて均一混合した後、十分な混練能力のある一軸または多軸の押出機で溶融混練してペレット化した後、射出成形法により製造される。また目的に応じて顔料や染料、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などの補強剤、タルク、炭酸カルシウムなどの充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、および帯電防止剤などを、溶融混練してペレット化する際に添加することができる。
【0016】
【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例および比較例に記したタブ用スライドキャリアーの特性評価は次の方法に従って実施した。
(1) 成形品の表面抵抗射出成形により図1に示す50mm角、厚み2mmのタブ用スライドキャリアーを成形した。図1において、各A、B、C、Dの4点を測定した。測定器は日置電機(株)会社製、絶縁抵抗計3119を用いた。
(2) 耐熱寸法安定性前記タブ用スライドキャリアーを130℃の恒温炉に24時間投入した後、一辺50mmの寸法収縮を測定し、その寸法収縮が0.5mm以内を合格とした。
【0017】実施例1ポリフェニレンエーテル樹脂[25℃クロロホルム溶液中での固有粘度[0.48dl/g ]50重量部、ハイインパクトポリスチレン樹脂(トーポレックス855-51、三井東圧化学社製)50重量部、体積固有抵抗が10のマイナス2乗Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−GCA(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)を15重量部を配合し、270〜300℃の範囲で混練、ペレット化した。このペレットから射出成形法によりタブスライドキャリアーを作製し、前記の方法により評価した結果を表1に示す。
【0018】実施例2〜5実施例1においてポリフェニレンエーテル樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、カーボン繊維を表1に示す割合に変更した以外は同様とした、その結果を表1および表2に示す。
【0019】実施例6実施例4において、体積固有抵抗が1Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−GCA(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)に変更した以外は同様とした。その結果を表2に示す。
【0020】実施例7実施例5において、体積固有抵抗が10の2乗Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−GCA(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)に変更した以外は同様とした。その結果を表2に示す。
【0021】実施例8芳香族ポリスルホン樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂(商品名VICTOREX−PES3600P、インペリアル・ケミカル・インダストリ−社製)]10重量部、体積固有抵抗が1Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−GCA(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)を 7重量部を配合し、320〜360℃の範囲で混練、ペレット化した。このペレットから射出成形法によりタブ用スライドキャリアーを作製し、前記の方法により評価したその結果を表3に示す。
【0022】実施例9〜10実施例8においてポリエーテルスルホン樹脂、カーボン繊維を表3に示す割合に変更した以外は同様とした、その結果を表3に示す。
【0023】比較例1〜3実施例1においてポリフェニレンエーテル樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、カーボン繊維の配合割合を変えた以外は実施例1と同様とし、その結果を表4に示す。本発明で規定した配合比をはずれると表面抵抗、高温下の寸法安定性のいずれかが規格をはずれ、十分な実用価値を有するものでない。
【0024】比較例4実施例2〜3においてカーボン繊維の代りに、カーボン粉末としてケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社商品名)を用いた以外は同様とした。その結果を表4に示す。表面抵抗値が製品の場所によって大きくばらつく。
【0025】比較例5実施例2〜3においてカーボン繊維として、体積固有抵抗が10のマイナス4乗Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−G(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)を用いた以外は同様とした。その結果を表5に示す。表面抵抗値が規格をはずれる。また製品の場所によるばらつきが大きい。
【0026】比較例6実施例2〜3においてカーボン繊維として、体積固有抵抗が10の4乗Ω・cmであるカーボン繊維Xylus−GCA(川崎製鉄、繊維長3mm、繊維径12μm)を用いた以外は同様とした。その結果を表5に示す。表面抵抗値が規格をはずれる。
【0027】
【表1】




【0028】
【表2】


【0029】
【表3】


【0030】
【表4】


【0031】
【表5】


【0032】
【発明の効果】本発明のタブ用スライドキャリァーは、表面抵抗が10の6乗から10の14乗Ωの範囲に制御され130℃以上の耐熱寸法安定性に優れており、その実用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるタブ用スライドキャリアーの概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリフェニレンエーテル樹脂40〜100重量%、スチレン系樹脂60〜0重量%よりなる樹脂混合物100重量部に体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物から製造されることを特徴とするTAB用スライドキャリアー。
【請求項2】 芳香族ポリスルホン樹脂100重量部に体積固有抵抗が10のマイナス3乗から10の3乗Ω・cmの範囲にあるカーボン繊維5〜40重量部を用いてなる樹脂組成物から製造されることを特徴とするTAB用スライドキャリアー。

【図1】
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【特許番号】特許第3140142号(P3140142)
【登録日】平成12年12月15日(2000.12.15)
【発行日】平成13年3月5日(2001.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−42728
【出願日】平成4年2月28日(1992.2.28)
【公開番号】特開平5−243348
【公開日】平成5年9月21日(1993.9.21)
【審査請求日】平成11年2月16日(1999.2.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【参考文献】
【文献】特開 平1−93138(JP,A)
【文献】特開 平1−236638(JP,A)