説明

スライドファスナー及び車両用シート

【課題】左右のエレメント列が、エアバッグの膨張圧力のような所定の大きさ以上の押圧力を受けたときに速やかに且つ確実に分離でき、また、外表面側から指先等で押圧や捩じりを受けてもエレメント列の分離が生じない所望範囲の噛合強度を有するスライドファスナーを提供する。
【解決手段】本発明のスライドファスナー(1) は、エレメント列(5) がスライダー(6) に依らずに所定の力で分離可能な開放区域(17)を有するものであって、前記エレメント列(5) は、前記開放区域(17)内において、左右のエレメント(4) が所定の形態で規則的に噛合する正常噛合部(7) と、相手方の前記ファスナーエレメント(4) と噛合しない非噛合部(9) 、又は、相手方の前記ファスナーエレメント(4) と前記正常噛合部(7) よりも弱く噛合する弱噛合部(10)により形成された複数の分離起点部(8,8')とを交互に有することに特徴を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナー及び車両用シートに関するものであり、特に、噛合状態にある左右のファスナーエレメントを所要時にスライダーに依らずに所定の力で分離可能な開放区域を有するスライドファスナー、及び同スライドファスナーがシートカバーの開口部に取着されて構成された車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等に搭載されるサイドエアバッグ装置は、膨張用ガスを発生させるインフレータと、インフレータからガスが供給されて膨張展開するエアバッグとを有しており、サイドエアバッグ装置が作動しない通常状態のときには、前記エアバッグが所定の手順で折り畳まれた状態で車両用シートのシートバック側部に収納されている。
【0003】
このサイドエアバッグ装置は、車両が衝突して大きな衝撃を受けたときにその衝撃を感知し、インフレータから高圧ガスを発生させてエアバッグ内に導入し、エアバッグを瞬時に膨張させる。これにより、エアバッグは、シートの側部に設けた開口部から膨出し、乗員の側方側に展開して乗員の頭部、胸部、腰部などを緩衝支持することにより、衝突時に人体に加わる衝撃力が大幅に緩和されるため、乗員の安全が確保される。
【0004】
通常、サイドエアバッグ装置を収容した車両用シートには、シートカバーが被せられている。このシートカバーは、サイドエアバッグ装置のエアバッグを膨出させるための開口と、同開口を閉鎖するためのスライドファスナーとを有しており、前記スライドファスナーは左右のエレメント列がエアバッグの膨張圧を受けたときに分離可能に構成されている。
【0005】
このようなスライドファスナーを備えたシートカバーを車両用シートに被せるときには、シートカバーに取り付けたスライドファスナーの位置を、車両用シートの側部に設けたエアバッグ膨出用の開口部の位置に合わせる。これにより、シート開口部は、閉鎖したスライドファスナーによって外部から見えないように隠すことができる。また、サイドエアバッグ装置の作動時には、スライドファスナーのエレメント列がエアバッグの膨張圧を受けて左右に分離し開口することにより、エアバッグを同開口から乗員の側方側に膨出させることができる。
【0006】
このような車両用シートのシート開口部に取り付けられるスライドファスナーの一例が、特開2004−298641号公報(特許文献1)及び特開2006−15158号公報(特許文献2)に開示されている。
前記特許文献1に記載されているスライドファスナー100は、図17(a)に示すように、左右一対のファスナーテープ102の対向する側縁部に複数のファスナーエレメント104(以下、単にエレメントと略記する)が取着されている。
【0007】
より具体的に説明すると、複数の前記エレメント104は、ファスナーテープ102の長さ方向に互いに分離して設けられた第1領域106内と第2領域107内とにそれぞれ所定の間隔で列設されてエレメント列105を形成している。このエレメント列105は、図示しないスライダーを摺動させることにより噛合・分離するように形成されている。また、この特許文献1において、エレメント104は、その1つ1つがファスナーテープ102に単独に取り付けられた単独エレメントとして構成されている。
【0008】
一方、第1領域106と第2領域107の間には、エレメント104が配されていない領域としてギャップ110が設けられている。このギャップ110は、スライドファスナーが有するエレメント列105のテープ長さ方向中心部に配設されており、そのギャップ110の中心部には、図17(b)に示すような合成樹脂製の連結リンク115が配設されている。
【0009】
この連結リンク115は、噛合状態にある左右のエレメント列105が意図せずに分離することを防ぐために、ギャップ110の中心部にて左右のファスナーテープ102を連結している。また、連結リンク115は、左右方向の中央部が括れた形状を有しており、所定の力を受けたときにその括れた中央部が切断されて左右に分離するように構成されている。この連結リンク115は、例えば連結リンク115を構成する2つのリンク半部をそれぞれファスナーテープのテープ側縁部に取り付けた後、リンク半部の互いに対向する端面を超音波溶着法によって連結することによって形成することができる。
【0010】
このようにエレメント列105の中心部にギャップ110が形成され、且つ、ギャップ110の中心部に連結リンク115が配設された前記特許文献1のスライドファスナー100は、車両用シートのシートカバーに形成した開口部に縫着され、更に、同シートカバーは、サイドエアバッグ装置が収容された車両用シートに位置を合わせて被せられる。これにより、サイドエアバッグ装置が作動しない通常時には、車両用シートに設けられたエアバッグ膨出用の開口部を、閉鎖した特許文献1のスライドファスナー100により隠して外部から見え難くさせる。
【0011】
また、サイドエアバッグ装置が作動したときには、エアバッグの膨張圧力によって連結リンク115の中央括れ部分が破断し、その後、第1領域106と第2領域107に配された噛合状態の左右エレメント列105がギャップ110側の端部から順次分離して開口する。これにより、エアバッグをスライドファスナーの開口を介して膨張展開させることが可能である。
【0012】
前記特許文献2に記載されているスライドファスナーは、図18及び図19に示したように、左右一対のファスナーテープ128の対向する各テープ側縁部に芯紐部129が設けられており、複数のエレメントは、単独エレメントとして芯紐部129を挟持するようにファスナーテープ128の側縁部に列設されている。これらのテープ側縁部に形成された左右のエレメント列は、図示しないスライダーを摺動させることにより噛合・分離するように構成されている。
【0013】
この特許文献2において、左右の前記エレメント列は、表裏で異なる形状を有する4つの第1エレメント130と、表裏で対称的な形状を有する一般的な第2エレメント150とを有している(図20を参照)。前記第1エレメント130は、図18(a)に示したように、テープ表面部側に、ファスナーテープ128に固定する脚部132と、脚部132から括れるようにテープ幅方向に延設した首部136と、首部136の先端側に長円形状に形成された頭部138とを有している。
【0014】
また第1エレメント130のテープ裏面部側には、図18(b)に示したように、テープ表面部側の脚部132と表裏対象的に形成された脚部140と、脚部140から縮幅するようにテープ幅方向に延設した首部142と、首部142の先端側に直線的に形成された幅狭の鼻部144と、首部142からテープ長さ方向に延設した平板状の肩部146とを有している。この場合、テープ裏面部側に形成した前記鼻部144の幅寸法(テープ長さ方向の寸法)は、左右のエレメント列を噛合したときに、相手方のエレメント130の肩部146と干渉しない程度の大きさに設定されている。
【0015】
前記第2エレメント150は、従来から一般的に用いられているエレメントと同様の形状を有している。具体的には、相手方のエレメントと噛合する頭部と、括れた形状の首部と、ファスナーテープに固定する脚部と、脚部からテープ幅方向に突設された肩部と、相手方のエレメントの肩部を嵌入可能に頭部先端面に形成された溝部とを有している。
【0016】
そして、特許文献2のスライドファスナーでは、上述のような形状を有する4つの第1エレメント130が、左右のエレメント列に2つずつ互いに噛合するように隣接して取着されている。また、複数の第2エレメント150は、テープ長さ方向に4つの第1エレメント130を間に挟むようにして所要の長さで列設されている。
【0017】
このような前記特許文献2のスライドファスナーであれば、例えばエレメント列がテープ裏面側から表面側に向けて力を受けたときに、4つの第1エレメント130は、その裏面側に設けた鼻部144が噛合相手の第1エレメント130の肩部146間を通過することにより、図20に示すように脚部132,140を中心にテープ表面側に回動し、左右の第1エレメント130の噛合が外れる。また、これらの第1エレメント130は左右エレメント列の中間部分に配されているため、この噛合が外れた第1エレメント130を起点として、テープ長さ方向に左右エレメント列の分離を促すことができる。
【0018】
一方、同エレメント列がテープ表面側から裏面側に向けて力を受けた場合には、各第1エレメント130の表面側に形成した頭部138が、噛合相手のエレメント130に形成された肩部146にそれぞれ支持される。これにより、各第1エレメント130は、脚部132,140を中心にテープ裏面側に回動することが妨げられるため、左右の第1エレメント130の噛合状態を維持することができる。
【0019】
従って、前記特許文献2のスライドファスナーを、例えばシートカバーに設けた開口部に縫着し、このシートカバーを車両用シートに被覆した場合には、シート表面側から押圧を受けても左右エレメント列の分離が防止される。また、車両用シートに収容されたサイドエアバッグ装置が作動したときには、スライドファスナーの左右エレメント列はエアバッグの膨張圧をシート裏面側から受ける。これにより、左右の第1エレメント130が図20に示すように回動してその噛合が外れるため、当該箇所を起点にエレメント列が順次分離して開口し、同開口を介してエアバッグを適切に膨張展開させることができる。
【0020】
また、前記特許文献1及び2のように、スライダーに依らずに、噛合状態のエレメント列を所定の力で分離させることが可能なスライドファスナーは、特開昭56−2842号公報(特許文献3)にも開示されている。この特許文献3に記載のスライドファスナーは、例えばテントやカーテン等の開閉部又は緊急脱出口等に用いられるものであり、ファスナーのエレメント列中間部に、エレメント本来の噛合機能を備えない1つの緊急開放部を有している。この緊急開放部は、例えば複数個の互いに噛合する左右エレメントを欠落させたり、又は同左右エレメントの噛合強度を弱めたりすることによって構成されている。
【0021】
このような緊急開放部を有する前記特許文献3のスライドファスナーであれば、例えば火災等の緊急事態が発生した場合に、噛合状態にあるエレメント列中の緊急開放部を指先で強く押圧して湾曲させることによって、スライダーの摺動操作を行わずに、緊急開放部から左右のエレメント列を分離させて、スライドファスナーを的確に開口させることが可能である。
【0022】
更に、前記特許文献3のスライドファスナーは、エレメント列に形成した緊急開放部を補強する剛直性を備えた補強体が、緊急開放部の左右両側部に、緊急開放部よりもテープ長さ方向に長く配設されている。これにより、例えば緊急時以外の平常時に、被着物を介して緊急開放部に横引力が作用しても、緊急開放部が湾曲したり、開いたりすることを補強体により防止することが可能である。このため、上述のようにエレメント列に緊急開放部が形成されていても、スライドファスナーの閉鎖機能を確保することが可能である。
【特許文献1】特開2004−298641号公報
【特許文献2】特開2006−15158号公報
【特許文献3】特開昭56−2842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
サイドエアバッグ装置を収容した車両用シートのシートカバーに取着されるスライドファスナーは、エアバッグの膨張展開を円滑に行うために、上述のようにエアバッグの膨張圧を受けた際にスライダーに依らずに左右のエレメント列が確実に分離することが求められている。このため、車両用シートに用いられるスライドファスナーは、一般的に用いられている通常のスライドファスナーに比べて、エレメントの噛合強度を故意に弱めて(例えば、噛合強度を300N以下にして)形成することが求められる。
【0024】
その一方で、シートカバーは、クッション性を有する車両用シートを被覆しているときにテンションがかけられているため、そのシートカバーに取着されたスライドファスナーは、ある程度の横引力を常に受けている。また、乗員が車両用シートに着座しているときには、乗員(特に子供など)がスライドファスナーを指先等で外表面から不用意に押圧したり、捩じったりすることがある。
【0025】
このため、車両用シートに取着されるスライドファスナーは、エアバッグ装置が作動しない通常時に左右のエレメント列を噛合したときの噛合状態を安定して維持するために、上述のようなテンションにより横引力を受けているときや、また指先等から押圧力や捩じり等を受けたときでも、左右のエレメント列が分離しないような噛合強度(例えば、100N以上の噛合強度)を平均的に有していることが求められる。
【0026】
即ち、車両用シートカバーに用いられるスライドファスナーは、通常時にエレメント列の噛合状態を安定して維持でき、且つ、エアバッグの膨張圧を受けた際に確実に分離できるように噛合強度を所望の範囲内に制御するという、従来の一般的なスライドファスナーではそれほど求められていなかった特別の性質を備えることが求められている。
【0027】
また、このようなスライドファスナーに対しては、乗員の安全性をより一層高めるために、エアバッグの膨張時にエレメント列が速やかに且つ確実に分離してエアバッグを瞬時に膨出させることや、エレメント列が分離したときにエレメントがファスナーテープから外れて乗員等に向けて飛び散らないことなども求められている。更に、車両用シートの外観品質を高めるためには、例えばスライドファスナー自体をシート表面側から見えなくすることが可能な、いわゆる隠しスライドファスナーが車両用シートカバーに取着されることが望ましい。
【0028】
これに対して、例えば前記特許文献1に記載されているスライドファスナー100(図17を参照)は、前述のようにエレメント列105のテープ長さ方向の中心にエレメント104の配されていないギャップ110が形成されている。このため、スライドファスナー100は、サイドエアバッグ装置の作動時にエアバッグの膨張圧によって、連結リンク115を破断し、ギャップ110からエレメント列105を容易に分離することが可能である。
【0029】
しかしながら、前記スライドファスナー100は、例えばエアバッグが作動しない通常時にスライドファスナーが外表面側から指先等で押圧されたり、捩じられたりしたときに、第1領域106と第2領域107とに配されたエレメント列105が分離し易いという欠点があった。また、このスライドファスナー100では、単独エレメント104がファスナーテープ102に列設されてエレメント列105が形成されているため、エレメント列105がエアバッグの膨張圧により分離したときに、エレメント104自体が割れて飛散してしまう虞があった。
【0030】
更に、前記特許文献1のスライドファスナー100は、ギャップ110に配した連結リンク115が破断した後に、第1及び第2領域106,107に配したエレメント列105がギャップ110側から順次分離して開口する。しかしながら、このようにエレメント列105がギャップ110側から順次分離する場合、エアバッグの膨出とエレメント列の分離との間に僅かなタイムラグが生じてしまうことがある。従って、エアバッグの膨張展開が、完全に分離していないエレメント列105に邪魔されて、エアバッグの展開挙動に影響を与える虞があることから、乗員の安全性を考慮すると、エアバッグ膨出用の開口となるエレメント列105をより迅速に分離させることが望まれていた。
【0031】
前記特許文献2に記載されているスライドファスナー(図18〜図20を参照)は、前述のように、サイドエアバッグ装置の作動時にエアバッグの膨張圧によってエレメント列が容易に分離することが可能である。しかも、左右のエレメント列に配された前記第1エレメント130は、表裏で異なる形状に形成されているため、スライドファスナーが外表面側から押圧されても、エレメント列の分離を効果的に防ぐことができる。
【0032】
一方、この特許文献2のスライドファスナーは、エアバッグの膨張圧を受けたときに第1エレメント130からでしかエレメント列の分離が生じないため、第2エレメントが配されている区域では、第1エレメントが分離した後に、その第1エレメント側の端部から順次分離する。
【0033】
このようにエレメント列が第1エレメントと第2エレメントとにおいて段階的に分離する場合、前記特許文献1のスライドファスナー100と同様に、エアバッグの膨出とエレメント列の分離との間にタイムラグが生じ、エアバッグの展開時間や展開挙動へ影響を及ぼす虞があった。更に、特許文献2のスライドファスナーでは、単独エレメントがファスナーテープに列設されているため、エレメント列がエアバッグの膨張圧により分離したときに、エレメントが割れて飛散してしまう虞もあった。
【0034】
前記特許文献3のスライドファスナーについては、そもそも車両用シートカバーに用いることは記載されていないものの、所定の押圧力を受けたときに、エレメント列に形成した緊急開放部から左右のエレメント列を分離することが可能である。しかし、特許文献3のスライドファスナーは、緊急開放部から順番にエレメント列が分離するため、例えば当該スライドファスナーを車両用シートカバーに適用する場合には、前記特許文献1や2と同様に、エレメント列をより迅速に分離させることが望ましい。
【0035】
また、前記特許文献3のスライドファスナーは、複数個の互いに噛合する左右エレメントを欠落させること等により緊急開放部が形成されており、この緊急開放部の左右両側部には補強体が配設されている。これにより、当該スライドファスナーは、例えば前述のように被着物からの横引力に対する閉鎖機能は備えているものの、緊急開放部が指先等で外表面側から押圧されたり、捩じられたりしたときに、緊急開放部からエレメント列が分離し易くなっている。このため、特許文献3のスライドファスナーは、シートカバー用のスライドファスナーとして用いた場合には、エレメント列の閉鎖性に劣るという欠点があった。
【0036】
更に、前記特許文献1〜特許文献3のスライドファスナーは、何れも隠しスライドファスナーとして形成されていないため、スライドファスナー自体がシートカバーの表面から見えてしまい、シートカバーに縫着したときに見栄えが悪くなるという欠点もあった。
【0037】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、所定区域内の左右のエレメント列が、エアバッグの膨張圧力のような所定の大きさ以上の押圧力を受けたときに速やかに且つ確実に分離でき、また、外表面側から指先等で押圧力や捩じりを受けてもエレメント列の分離を防ぐことが可能な所望範囲の噛合強度を有するスライドファスナー、特に、サイドエアバッグ装置を収容した車両用シートのシートカバーに好適に用いることができるスライドファスナーを提供すること、及び同スライドファスナーを備えた車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナーは、基本的な構成として、左右一対のファスナーテープのテープ側縁部に、頭部及び脚部を有する多数のファスナーエレメントがテープ長さ方向に沿って取着されてエレメント列が形成された左右一対のファスナーストリンガーと、左右の前記エレメント列を噛合離脱させるスライダーとを備え、前記エレメント列は、噛合状態にある左右の前記ファスナーエレメントを前記スライダーに依らずに所定の力で分離可能な開放区域を少なくとも一部に有するスライドファスナーであって、少なくとも一方の前記エレメント列は、前記開放区域内において、左右の前記ファスナーエレメントが所定の形態で交互に規則的に噛合する正常噛合部と、少なくとも1又は2以上の前記ファスナーエレメントを配置可能なエレメント列領域にあって、相手方の前記ファスナーエレメントと噛合しない非噛合部、又は、相手方の前記ファスナーエレメントと前記正常噛合部よりも弱く噛合する弱噛合部により形成された複数の分離起点部と、を有し、前記正常噛合部と前記分離起点部とは前記開放区域内で交互に配されてなることを最も主要な特徴とするものである。
【0039】
本発明に係るスライドファスナーは、前記分離起点部は、前記エレメント列に所定のピッチで配されていることが好ましい。
また、前記エレメント列は、スタンピングにより成形された合成樹脂製の連続ファスナーエレメントが取着されて形成されていること、又は、前記エレメント列は、ファスナーテープに一体成形された単独ファスナーエレメントが列設されて形成されていることが好ましい。
【0040】
前記非噛合部は、前記ファスナーエレメントの前記頭部が排除されて構成されていることが好ましく、前記弱噛合部は、前記ファスナーエレメントの前記頭部の一部が排除されて構成されていることが好ましい。また、前記非噛合部は、前記ファスナーエレメント自体が前記テープ側縁部から排除されて構成されていても良い。
【0041】
本発明のスライドファスナーにおいて、前記分離起点部は、一方の前記ファスナーストリンガーの前記エレメント列のみに形成されていることが好ましい。
また、前記分離起点部は、10個又はそれ未満の個数の前記ファスナーエレメント毎に前記エレメント列に形成されていることが好ましい。
【0042】
更に、前記開放区域における平均横引強度は100N以上300N以下、特に150N以上200N以下に制御されていることが好ましい。
更にまた、本発明において、前記スライドファスナーは、前記ファスナーテープの側縁部がU字状に折り返され、前記ファスナーエレメントの頭部をU字状折返部から外方に突出させて形成することにより、前記エレメント列がテープ表面側から見えなくなるように構成された隠しスライドファスナーであることが好ましい。
【0043】
本発明によれば、上述のような構成を有するスライドファスナーを開口部に取着したシートカバーが被覆され、サイドエアバッグ装置が内設されている車両用シートを提供することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明に係るスライドファスナーのエレメント列は、所定の力で分離可能に形成された開放区域を有し、この開放区域内には、規則的に噛合する正常噛合部と、非噛合部又は弱噛合部により形成された複数の分離起点部とが交互に配されている。これにより、本発明のスライドファスナーは、エレメント列に形成する分離起点部の配設個数、配設位置、大きさ(長さ)等をスライドファスナーの用途等に応じて任意に設定することによって、開放区域における平均噛合強度を所定の大きさに制御することが可能となる。
【0045】
従って、本発明のスライドファスナーは、例えばエアバッグの膨張圧のような所定の大きさ以上の押圧力や横引き力を受けたときに、噛合状態にあるエレメント列を確実に分離でき、一方、分離起点部がファスナー外表面側から指先等で押圧力やねじりを受けても、各分離起点部にてエレメント列が分離しないような所望の噛合強度を有するように容易に構成することができる。
【0046】
しかも、本発明のスライドファスナーには、開放区域内に複数の分離起点部が設けられている。このため、開放区域全体に渡って所定の大きさ以上の押圧力や横引き力を受けたときに、それぞれの分離起点部からエレメント列の分離が生じ、開放区域内のエレメント列を確実に且つ速やかに分離することができる。このため、本発明のスライドファスナーは、例えばエアバッグ装置の開口部を閉鎖するように取り付けた場合、エアバッグが膨張展開するときに、エアバッグの展開時間や展開挙動に与える影響を極めて小さくすることができる。
【0047】
なお、本発明において、前記開放区域は、所定の力でエレメント列が分離可能に形成される区域であり、具体的には、ファスナー噛合方向の最も前端側に配された分離起点部を構成するエレメント又は同分離起点部から前方側に所定ピッチ離れたエレメントと、最も後端側に配された分離起点部を構成するエレメント又は同分離起点部から後方側に所定ピッチ離れたエレメントとの間に挟まれた区域を指している。
【0048】
この開放区域は、スライドファスナーにおけるエレメント列の少なくとも一部に形成されていれば良く、その長さは特に限定されるものではない。すなわち、本発明における開放区域は、スライドファスナーの用途等に応じて、エレメント列の一部領域のみに形成することが可能であり、或いは、スライドファスナーのエレメント列全長に渡って形成することも可能である。
【0049】
例えば、一般に、隠しスライドファスナーは、スライドファスナー全体の噛合強度が弱いとエレメント列がテープ表面側から見え易く、隠蔽性に劣るものとなる。従って、例えば本発明のスライドファスナーが隠しスライドファスナーとして構成される場合、開放区域内の噛合強度を分離起点部により所望の大きさに設定するとともに、所望の隠蔽性を得るためにスライドファスナー全体で高い噛合強度を確保することが求められることから、開放区域はエレメント列の一部領域のみに形成されることが好ましい。
【0050】
この場合、前記分離起点部がエレメント列に所定のピッチで配されていることにより、開放区域における噛合強度を精度良く安定して制御することができる。また、分離起点部が所定のピッチで配されていれば、開放区域内に配された各正常噛合部の長さも等しくなるため、エレメント列の分離をより速やかに且つ円滑に行うことが可能となる。
【0051】
また本発明のスライドファスナーにおいて、前記エレメント列が連続ファスナーエレメントにより形成されていれば、例えばエレメント列が分離する際に幾つかのエレメントが割れたとしても、隣接するエレメント同士が互いに連結しているため、スライドファスナーからエレメントが飛散することを防止することができる。
【0052】
一方、前記エレメント列が、ファスナーテープに一体成形された単独ファスナーエレメントにより形成されていれば、各ファスナーエレメントのファスナーテープへの取り付けが容易であり、また、非噛合部又は弱噛合部を開放区域内の所定の位置に容易に且つ確実に形成することができる。
【0053】
本発明において、前記非噛合部は、ファスナーエレメントの頭部を排除することにより構成することが可能である。また、前記弱噛合部は、ファスナーエレメントの前記頭部の一部を排除することにより構成することが可能である。更に、前記非噛合部は、ファスナーエレメント自体をテープ側縁部から排除することにより構成することも可能である。このような手段にて非噛合部又は弱噛合部を形成することにより、開放区域内に複数の分離起点部を容易に配することができる。また、開放区域が所定の大きさ以上の力を受けたときには、エレメント列の分離を確実に生じさせることができる。
【0054】
なお、本発明において、開放区域内に配される各分離起点部は、1つのファスナーエレメントを配置可能な領域に非噛合部又は弱噛合部を形成することによって構成しても良いし、或いは、連続する2以上のファスナーエレメントを配置可能な領域に非噛合部又は弱噛合部を形成することによって構成しても良い。
【0055】
また本発明のスライドファスナーにおいて、前記分離起点部を一方のファスナーストリンガーの前記エレメント列のみに形成する場合であれば、スライドファスナーの製造時に、分離起点部の形成を容易にまた高精度に行うことができ、更に、分離起点部を形成する間隔(非噛合部又は弱噛合部のピッチ)の制御も容易となる。
【0056】
特に、本発明のスライドファスナーは、前記開放区域における平均横引強度が100N以上300N以下に制御されて形成されていることにより、サイドエアバッグ装置を収容した車両用シートのシートカバーに好適に用いることができる。即ち、開放区域における平均横引強度が100N以上、特に150N以上であれば、例えば開放区域内の分離起点部がファスナー外表面側から指先等で押圧力やねじりを受けても、各分離起点部にてエレメント列が容易に分離することはなく、左右エレメント列の噛合状態を安定して維持することができる。また、開放区域における平均横引強度が300N以下、特に200N以下であれば、例えばサイドエアバッグ装置のエアバッグが膨張するときに、同エアバッグの膨張圧によってエレメント列を各分離起点部から確実に分離することができる。
【0057】
この場合、各ファスナーエレメントの形状や大きさに依るものの、前記分離起点部が、10個又はそれ未満の個数のファスナーエレメント毎に形成されていることが好ましい。これにより、エレメント列の開放区域における平均横引強度を、シートカバーとして好適な範囲内(例えば100N以上300N以下、特に150N以上200N以下)に制御することが可能となる。
【0058】
また、本発明のスライドファスナーが隠しスライドファスナーとして形成されていれば、その隠しスライドファスナーをシートカバーに縫着したときに、スライドファスナー自体をシート表面側から見えなくすることができる。これにより、車両用シートの見栄えを向上させることができる。
【0059】
更に、上述のような本発明に係るスライドファスナーを開口部に取着したシートカバーが被覆され、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートであれば、スライドファスナーの開放区域における噛合強度が適切に制御されているため、例えばサイドエアバッグ装置が作動しない通常時に乗員がスライドファスナーを指先で押圧したり、捩じったりしても、エレメント列が不意に分離することを防止でき、左右エレメント列の噛合状態を安定して維持することができる。
【0060】
また、サイドエアバッグ装置が作動したときには、スライドファスナーは、エアバッグの膨張圧を受けることにより、エレメント列の開放区域内に配した複数の分離起点部からエレメント列の分離をほぼ同時に生じさせることができる。これにより、開放区域内のエレメント列を確実に且つ速やかに分離することができる。このため、エアバッグを瞬時に且つ円滑に膨張展開させることができるとともに、スライドファスナーが、エアバッグの展開時間や展開挙動に与える影響を極めて小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する各実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0062】
例えば、第1〜第4の実施形態に係るスライドファスナーは、何れも分離起点部が開放区域内の一方のエレメント列のみに形成されている場合について説明しているが、本発明では例えば開放区域内の左右両方のエレメント列に分離起点部を配設することが可能である。
【0063】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るスライドファスナーについて説明する。ここで、図1は、第1の実施形態に係るスライドファスナーを示す概略背面図である。図2は、同スライドファスナーにおける分離起点部を部分的に拡大して模式的に示す要部拡大図であり、図3は、同スライドファスナーの左右のエレメントが噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す断面図である。
【0064】
なお、図2や図3等においては、本発明の特徴を理解し易くするために、緯糸及び各種の経糸を相対的に細く示し、また織込構造(織組織)を粗く示している。しかし実際には、スライドファスナーとしての機能を考慮して、各種の緯糸及び経糸には所要の太さの糸条が使用され、また、織組織も緻密に構成されている。
【0065】
図1に示したスライドファスナー1は、車両用シートカバーに取り付けられたときに、シート表面側からエレメント列5が見えないように構成される隠し織込スライドファスナーとして形成されている。このスライドファスナー1は、織製された左右のファスナーテープ3にそれぞれコイル状のファスナーエレメント4がテープ長さ方向に沿って織り込まれた左右一対のファスナーストリンガー2と、左右のエレメント列5を噛合・離脱させるスライダー6とを備えている。このとき、前記スライダー6としては、従来の隠しスライドファスナーに用いられている一般的なスライダーと同様のものを使用することができる。
【0066】
前記ファスナーテープ3は、テープ主体部3aと、このテープ主体部3aの側縁に形成され、エレメント列5が織り込まれるエレメント取付部3bとを有している。このファスナーテープ3の織組織は、経糸の開口内にキャリアーバーを往復動させて地緯糸を緯入することにより形成されており、テープ主体部3aは双糸からなる地緯糸11と地経糸12とにより織製されている。
【0067】
また、ファスナーテープ3のエレメント取付部3bは、各エレメント4の上脚部の上面側を経方向に走行する上固定用経糸13と、各エレメント4の下脚部の下面側を経方向に走行する下固定用経糸14と、エレメント4の上下脚部22,23間で交錯するように経方向に走行する締付用経糸15と、上下固定用経糸13,14の緯方向の位置を規制するように配される位置決め用経糸16と、テープ主体部3aから緯入れされた地緯糸11とにより構成されている。
【0068】
第1の実施形態において、ファスナーテープ3のテープ主体部3a及びエレメント取付部3bに配される地緯糸11及び各種の経糸12〜16の各単糸には、330デシテックスの太さを有するポリエステル加工糸が用いられている。なお、本発明において、ファスナーテープ3の織組織や、緯糸及び経糸の太さや材質は特に限定されるものではなく、スライドファスナーの用途やファスナーエレメントのサイズ等に応じて適宜変更することができる。
【0069】
前記エレメント列5は、ポリアミドやポリエステル等の合成樹脂製モノフィラメントをスタンピングにより所定の間隔で押圧することにより噛合頭部を形成し、その後、コイル状に捲き回すことによって形成されたコイル状の連続エレメント4を用いて構成されている。また、このコイル状の連続エレメント4は、ファスナーテープ3のエレメント取付部3bに取着された後、所定箇所のエレメント4を後述する非噛合部9に加工することによって形成されている。
【0070】
このエレメント列5の一部には、所定よりも大きな力を受けたときに、噛合状態にある左右のエレメント4をスライダー6を摺動させることなく分離させることが可能な開放区域17が設けられている。この開放区域17は、エレメント列5のテープ長さ方向に沿って所定の長さで設けられている。また、開放区域17の位置は、スライドファスナー1がサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートのシートカバーに取着されたときに、エアバッグ膨出用開口部の位置に対応するように配されている。
【0071】
例えば、第1の実施形態の場合では、スライドファスナー1の全長が60〜80cmに設定されており、開放区域17は、同スライドファスナー1のテープ長さ方向に沿った30〜40cmのエレメント列領域に設けられている。更に、この開放区域17の配設位置は、後述するような図4の車両用シート91を構成したときに、サイドエアバッグ装置92と対面する位置に設定されている。
【0072】
また、エレメント列5の開放区域17内には、左右のエレメント4が交互に規則的に噛合する正常噛合部7と、エレメント4の頭部が切除されて非噛合部9として形成された分離起点部8とが右側のエレメント列5に交互に配されている。前記正常噛合部7は、図2に示したように、噛合頭部21と、噛合頭部21から延設された上下脚部22,23と、上下脚部22,23の各延端部をテープ長手方向の前後に隣接するエレメント4の上下脚部22,23の何れかと連結する連結部24とを有する複数のエレメント4により構成されている。
【0073】
一方、前記分離起点部8は、上述の正常噛合部7を形成するエレメント4の噛合頭部21を切除して形成された非噛合部9により構成されており、この非噛合部9となるエレメント4の上下脚部22,23の先端部には、切断端面25が形成されている。これにより、スライドファスナー1の左右エレメント列5を閉鎖したときに、各分離起点部8を構成するエレメント4は、相手方のエレメント4の噛合頭部21と噛合しないため、エレメント列5の噛合強度を低下させることができる。なお、開放区域17内の左側のエレメント列5は分離起点部を有してなく、正常噛合部7を構成するエレメント4のみで形成されている。
【0074】
この第1の実施形態において、前記非噛合部9により形成される分離起点部8は、エレメント列5の開放区域17における平均噛合強度が150N以上200N以下となるように、右側のエレメント列5のみに10個のエレメント毎に配されている。なお、本発明において、エレメント列5に形成される分離起点部8のピッチ数は特に限定されるものではなく、各エレメントのサイズや求められる噛合強度の大きさなどに応じて、任意に設定することができる。また、分離起点部8は、所定のピッチで配されなくても良く、必要があれば開放区域17内にランダムに配することも可能である。
【0075】
一方、開放区域17以外のエレメント列5を形成する各エレメントは、前記正常噛合部7を構成するエレメント4と同様の形状を有しており、左右のエレメント4が交互に規則的に噛合するように形成されている。このため、開放区域17以外のエレメント列5における平均噛合強度は、開放区域17内よりも高くなっている。
【0076】
このような第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1は、以下のような方法を用いることによって容易に製造することができる。即ち、先ずスタンピングにより成形されたコイル状の連続エレメントを、噛合頭部21がファスナーテープ3の内側に向いた状態でファスナーテープ3の織製と同時にエレメント取付部3bに織り込んで取着しながらファスナーテープ3の織製を行う。
【0077】
ファスナーテープ3を織製した後、エレメント取付部3b側をU字状に折り返して、エレメント列5の噛合頭部21をU字状折返部から外方に突出させた状態で熱セットを行う。これにより、テープ表面側からエレメント列5が見えない隠しスライドファスナー用のファスナーストリンガー2が得られる。
【0078】
次に、右側のエレメント列5の開放区域17内に配されたエレメント4の噛合頭部21を所定ピッチ毎に切除することにより分離起点部8となる非噛合部9を形成し、その後、得られたファスナーストリンガー2の左右エレメント列5にスライダー6を挿通することによって隠しスライドファスナー1が得られる。
【0079】
このようにして隠しスライドファスナー1を製造することにより、既存の隠しスライドファスナーの製造設備に改良を加えずに、エレメント4の噛合頭部21を切除する工程を追加するだけで、前記隠しスライドファスナー1を容易に得ることができる。このため、第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1の製造における大幅なコストアップが抑えられる。
【0080】
以上のような構成を有する第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1では、上述のようにエレメント4の噛合頭部21を切除して形成された非噛合部9が分離起点部8として所定のピッチで配されていることにより、開放区域17における平均噛合強度が100N以上300N以下、特に150N以上200N以下の範囲内に制御されている。
【0081】
これにより、第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1は、図4に示すようなサイドエアバッグ装置92が内部に装着された車両用シート91のシートカバー開口部に好適に使用することができる。なお、この図4に示した車両用シート91は、シートクッション(座部)93とシートバック(背もたれ部)94とを有している。また、これらのシートクッション93やシートバック94は、発泡性合成樹脂を所定形状に成形した図示しないクッション部材と、同クッション部材の表面を被覆するシートカバー93a,94aとをそれぞれ備えている。特に、車両用シートカバー94aは、シートバック94に被せた後にスライダー6を摺動させて本実施形態の隠しスライドファスナー1を閉鎖することにより、シートバック94のクッション部材を体裁良く被覆している。
【0082】
この場合、本実施形態の隠しスライドファスナー1では、前述のようにエレメント列5の全長が60〜80cmに設定されており、このエレメント列5には、前記開放区域17がサイドエアバッグ装置92に対面する長さ30〜40cmの領域に設けられている。更に、開放区域17における平均噛合強度が100N以上であり、しかも、各分離起点部8は、例えば乗員の指先が入り込まないように1つの非噛合部9によって形成されている。
【0083】
このため、例えば隠しスライドファスナー1の噛合しているエレメント列5を乗員がカバー表面側から指先で押圧したり、捩じったりしても、左右のエレメント列5が不意に分離することを防止でき、エレメント列5の噛合状態を安定して維持することができる。
【0084】
また、この隠しスライドファスナー1は、エレメント列5の開放区域17における平均噛合強度が300N以下であり、しかも、エレメント列5の開放区域17内には複数の分離起点部8が設けられている。このため、サイドエアバッグ装置92が作動してそのエアバッグが膨張展開するときに、エアバッグの膨張圧によってエレメント列5の一部に設けた開放区域17全体が押圧されることによって、複数の分離起点部8からエレメント列5の分離が同時に発生する。
【0085】
これにより、開放区域17内のエレメント列5を速やかに且つ確実に分離することができ、エアバッグを瞬時に且つ円滑に膨張展開させることができる。従って、スライドファスナー1が、エアバッグの展開時間や展開挙動に与える影響を極めて小さくすることができる。なおこの場合、エレメント列5の開放区域17以外の部分は、開放区域17が分離することにより、必要に応じて開放区域17側の端部から順番に分離させることも可能である。
【0086】
更に、本実施形態に係る隠しスライドファスナー1では、例えばエアバッグの膨張圧を受けて左右のエレメント列5が分離したときに、幾つかのエレメント4が分離による衝撃を受けて割れたとしても、エレメント列5が連続エレメントにより構成されているため、エレメントの破片が飛散することを防ぐことができる。従って、エアバッグの膨張展開時に、割れたエレメントの破片が乗員に向けて飛び散ることがないため、乗員の安全性をより確実に確保することができる。
【0087】
その上、第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1は、シートカバー94aに縫着したときにテープ表面側からエレメント列5を見えなくして保護するという隠しスライドファスナー特有のシールド性や隠蔽性が得られ、車両用シートの見栄えや耐久性を向上させることができる。特に、第1の実施形態の隠しスライドファスナー1は、エレメント列5の開放区域17内に、1つの非噛合部9からなる分離起点部8を所定ピッチで配しているため、エレメント列のシールド性や隠蔽性が局部的に低下することもなく、エレメント列5を安定して隠し、保護することができる。
【0088】
なお、上記説明では、第1の実施形態に係る隠しスライドファスナー1を車両用シート91のシートカバー94aに使用する場合について説明している。しかし、本発明に係るスライドファスナーの用途については、このような車両用シートカバーに限定されず、種々の物品に使用することが可能であり、特に、スライドファスナーに対してある特定の噛合強度が求められる物品に好適に使用される。
【0089】
例えば自動車においては、天井部の左右両側部にルーフライニングと呼ばれる部材がフロントウインドシールドからリヤウインドシールドに渡って配されており、このルーフライニング内には、車両の側面衝突時に乗員の頭部を保護する頭部保護用エアバッグ装置が搭載されている。本発明に係るスライドファスナーは、このようなルーフライニング内に装備される頭部保護用エアバッグ装置において、所定の手順で規則的に折り畳まれたエアバッグの形状を保持するチューブ状のエアバッグカバー等にも好適に使用される。
【0090】
これにより、通常時には、エアバッグカバーに取着した本発明のスライドファスナーが所定の噛合強度で閉鎖しているため、エアバッグの折り畳み形状が、そのエアバッグカバーによって適切に保持される。また、車両の側面衝突時には、本発明のスライドファスナーが前述のようにエアバッグの膨張圧を受けて速やかに開放するため、エアバッグを瞬時に膨張展開させることができる。
【0091】
またその他に、本発明のスライドファスナーは、炭酸ガス等によって機密袋(浮き袋)が膨張するガス膨張式のライフジャケット(救命胴衣)に対しても好適に使用される。即ち、一般的なガス膨張式のライフジャケット内には、ガスを発生させる小型ボンベと、その小型ボンベから発生したガスで膨張する機密袋が収容されている。
【0092】
従って、ライフジャケットの機密袋が収容されている部分に本発明のスライドファスナーが取着されていれば、小型ボンベからガスを発生させたときに、スライドファスナーが機密袋の膨張圧を受けて速やかに開放し、機密袋を円滑に膨張させることができる。更に、本発明のスライドファスナーが取着されたライフジャケットは、機密袋や小型ボンベの取換え作業等も容易に行うことができるといった利点も得られる。
【0093】
続いて、第1の実施形態の変形例に係る隠しスライドファスナーについて、図5及び図6を参照しながら説明する。ここで、図5は、当該変形例に係る隠しスライドファスナーの分離起点部を部分的に拡大して示す要部拡大図であり、図6は、同スライドファスナーの左右エレメント列が噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す要部拡大図である。
【0094】
なお、以下に示す第1の実施形態の変形例や第2〜第4の実施形態における説明、及びそれらの参照図面において、前記第1の実施形態のスライドファスナーにおいて説明した部材と同様の構成を有する部材については同じ符号を用いて表しており、それによって、その部材の説明を省略することとする。
【0095】
図5に示した変形例となる隠しスライドファスナー1’では、エレメント列5の開放区域内に配する分離起点部8’が、正常噛合部7を構成するエレメント4から噛合頭部の一部を排除することにより形成された弱噛合部10により構成されている。即ち、この変形例において、分離起点部8’を構成する弱噛合部10は、エレメント4の噛合頭部21の先端に、テープ長さ方向の前後に突出する突出部26を設けずに形成されている。
【0096】
このような弱噛合部10を、前述の第1の実施形態のスライドファスナー1に配設した非噛合部9の代わりに形成することにより、左右のエレメント列5を噛合したときに、図6に示したように、各分離起点部8’を構成するエレメント4が相手方の隣接するエレメント4の噛合頭部21間に入り込んで噛合するものの、当該エレメント4の噛合頭部21に突出部26を有していないため、左右エレメント列5の噛合強度を弱めることができる。このため、例えばエアバッグの膨張圧等の所定の大きさ以上の押圧力を受けたときに、この分離起点部8’からエレメント列5の分離を容易に行うことが可能となる。
【0097】
また、このような弱噛合部10により形成される分離起点部8’は、上述のようにエレメント列5の噛合時に相手方のエレメント4の噛合頭部21間に入り込むため、分離起点部8’が設けられている部分であっても、そのエレメント列5の噛合形態を正常噛合部7の噛合形態と同様に安定させることができる。これにより、スライダー6を摺動するときに、開放区域内でスライダー6がエレメント列5に引っ掛かるような違和感を感じることなく、スライダー6の摺動操作を円滑に行うことができる。
【0098】
以上のような弱噛合部10による分離起点部8’が開放区域内に配された隠しスライドファスナー1’であれば、例えば分離起点部8’のピッチ数等を変えることにより、開放区域における平均噛合強度を制御することができる。従って、この変形例に係る隠しスライドファスナー1’は、その開放区域における平均噛合強度が100N以上300N以下の範囲内に制御されて形成されていることにより、前述の第1の実施形態に係るスライドファスナー1と同様の効果を得ることができ、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバー開口部に好適に使用することができる。
【0099】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るスライドファスナーについて説明する。ここで、図7は、第2の実施形態に係る通常タイプのスライドファスナーを示す概略正面図である。図8は、同スライドファスナーの左右のエレメントが噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す要部縦断面図である。
【0100】
図7に示した通常タイプのスライドファスナー31は、地緯糸と地経糸とにより織製された左右のファスナーテープ33のテープ側縁部にそれぞれコイル状のファスナーエレメント34がテープ長さ方向に沿って縫着された左右一対のファスナーストリンガー32と、左右のエレメント列35を噛合・離脱させるスライダー36とを備えている。なお、前記ファスナーテープ33は特に限定されるものではなく、ファスナーエレメント34を縫着させることが可能な種々のテープを用いることができる。
【0101】
前記ファスナーエレメント34は、ポリアミドやポリエステル等の合成樹脂製モノフィラメントをスタンピングにより所定の間隔で押圧して噛合頭部を形成した後、コイル状に捲き回すことによって形成されている。このコイル状ファスナーエレメント34は、その内部に芯紐41が挿通されて、ファスナーテープ33の側縁部上に縫着糸42の二重環縫によって縫着されている。
【0102】
このエレメント列35の一部には、スライダー36を摺動させることなく所定よりも大きな力を受けたときに、噛合状態にある左右のエレメント34を分離させることが可能な開放区域が設けられている。この開放区域は、エレメント列35のテープ長さ方向に所定の長さで設けられている。
【0103】
また、エレメント列35の開放区域内には、左右のエレメント34が交互に規則的に噛合する正常噛合部37と、エレメント34の噛合頭部21が切除されて非噛合部39として形成された分離起点部38とが右側のファスナーストリンガー32に交互に配されている。第2の実施形態における前記分離起点部38は、ファスナーテープ33にコイル状ファスナーエレメント34を縫着した後に、分離起点部38を構成するエレメント34の噛合頭部21を切除することによって形成されており、同エレメント34の上下脚部22,23の先端部には、切断端面25が形成されている。これにより、スライドファスナー31の左右エレメント列35を噛合したときに、各分離起点部38を構成するエレメント34は、相手方のエレメント34の噛合頭部21と噛合しないため、エレメント列35の噛合強度を低下させることができる。
【0104】
このとき、第2の実施形態では、エレメント列35の開放区域における平均噛合強度が100N以上300N以下となるように、非噛合部39により形成される分離起点部38が、右側のエレメント列35のみに10個のエレメント毎に配されている。なお、この第2の実施形態に係るスライドファスナー31についても、開放区域内に形成する分離起点部38のピッチを変更することにより、開放区域における平均噛合強度を制御することが可能である。
【0105】
このような構成を有する第2の実施形態に係るスライドファスナー31は、エレメント列35の開放区域における平均噛合強度が100N以上であり、しかも、各分離起点部38は、例えば乗員の指先が入り込まないように1つの非噛合部39によって形成されている。このため、噛合しているエレメント列35を指先で押圧したり、捩じったりしても、左右のエレメント列35が不意に分離することを防止でき、エレメント列35の噛合状態を安定して維持することができる。
【0106】
また、このスライドファスナー31は、エレメント列35の開放区域における平均噛合強度が300N以下であり、しかも、エレメント列35の開放区域内には複数の分離起点部38が設けられている。このため、エレメント列35の開放区域全体がエアバッグの膨張圧等のような所定の押圧力を受けることによって複数の分離起点部38からエレメント列35の分離が同時に生じる。これにより、開放区域内のエレメント列35を速やかに且つ確実に分離することができる。従って、第2の実施形態に係るスライドファスナー31も、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に好適に使用することができる。
【0107】
図9は、第2の実施形態の変形例に係るスライドファスナー31’のファスナーエレメント34’のみを拡大して示している。この図9に示したファスナーエレメント34’は、合成樹脂製モノフィラメントをスタンピングにより所定の間隔で押圧して噛合頭部を形成した後、ジグザグ状に屈曲させることによって形成されている。このジグザグ状のファスナーエレメント34’を、その上下脚部22,23間にファスナーテープを挿し込んで挟持した状態で、同ファスナーテープに縫着糸を用いて縫着することによって、左右一対のファスナーストリンガーが形成されている。
【0108】
そして、この得られたファスナーストリンガーから、所定箇所のエレメント34’の噛合頭部21を切除して複数の非噛合部39’からなる分離起点部38’を形成することによって、開放区域における平均噛合強度が所要の範囲内に制御されたスライドファスナー31’を得ることができる。
【0109】
このように上述の第2の実施形態に係るスライドファスナー31のコイル状ファスナーエレメント34に代えて、ジグザグ状のファスナーエレメント34’を用いてスライドファスナー31’を構成することによっても、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0110】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るスライドファスナーについて説明する。ここで、図10は、第3の実施形態に係るスライドファスナーを示す概略正面図である。
図10に示したスライドファスナー51は、ファスナーテープ53のテープ側縁部に複数の単独ファスナーエレメント54が一体成形された左右一対のファスナーストリンガー52と、左右のエレメント列55を噛合・離脱させる図示しないスライダーとを備えている。
【0111】
前記ファスナーテープ53は、対向する側端縁に形成された芯紐部61を有しており、このファスナーテープ53の芯紐部61を含むエレメント取付部に、合成樹脂製のファスナーエレメント54が射出成形によりテープ長さ方向に沿って列設されて、エレメント列55が形成されている。この場合、各ファスナーエレメント54は、芯紐部61を挟持するようにしてファスナーテープ53に固定する脚部62と、脚部62から括れるようにテープ幅方向に延設した首部63と、首部63の先端側に長円形状に形成された噛合頭部64とを有している。
【0112】
また、エレメント列55の一部に配された開放区域内には、正常噛合部57とエレメント54の形成を省略することにより第1非噛合部59として形成された分離起点部58とが交互に配されている。このとき、前記分離起点部58は右側のファスナーストリンガー52に10個のエレメント毎に配されている。このような第1非噛合部59による分離起点部58が所定ピッチで配されていることにより、エレメント列55の噛合強度を低下させて、エレメント列55の開放区域における平均噛合強度を100N以上300N以下に制御することができる。
【0113】
なお、第3の実施形態における前記分離起点部58は、例えば金型を用いて複数のファスナーエレメント54をファスナーテープ53に射出成形する際に、分離起点部58となる位置にファスナーエレメント54のキャビティが設けられていない金型を用いて射出成形を行うことによって、容易に形成することができる。
【0114】
このような構成を有する第3の実施形態に係るスライドファスナー51であれば、前述の第1及び第2の実施形態と同様に、噛合しているエレメント列55を指先で押圧したり、捩じったりしても、左右のエレメント列55が不意に分離することを効果的に防止でき、エレメント列55の噛合状態を安定して維持することができる。
【0115】
また、エレメント列55の開放区域全体がエアバッグの膨張圧等のような所定の押圧力を受けることによって、開放区域内のエレメント列55を速やかに且つ確実に分離することができる。従って、第3の実施形態に係るスライドファスナー51も、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に好適に使用することができる。
【0116】
図11は、第3の実施形態の変形例に係るスライドファスナー51’のエレメント取付部を拡大して示している。この図11に示したスライドファスナー51’に形成される分離起点部58’は、第3の実施形態に係るスライドファスナー51のようにエレメント54の形成を省いた第1非噛合部59により構成されるのではなく、エレメント54の首部63及び噛合頭部64を形成せずに、脚部62のみを有する第2非噛合部60により構成されている。
【0117】
このような第2非噛合部60により分離起点部58’が形成されたスライドファスナー51’は、上述の第3の実施形態に係るスライドファスナー51と同様の効果を得ることができる。その上、このスライドファスナー51’は、分離起点部58’に脚部62が配されているため、例えば左右のエレメント列55の噛合時に、第2非噛合部60が設けられている部分の噛合形態を、上述の第1非噛合部59が設けられている場合に比べて安定させることができる。これにより、スライダーをエレメント列55上で摺動するときに、スライダーの摺動操作をより円滑に行うことができる。
【0118】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係るスライドファスナーについて説明する。ここで、図12は、第4の実施形態に係るスライドファスナーのファスナーエレメントのみを拡大して示す要部拡大図である。
図12に示したスライドファスナー71は、ファスナーテープのテープ側縁部にファスナーエレメント74が縫着されてエレメント列が形成された左右一対のファスナーストリンガーと、左右のエレメント列を噛合・離脱させる図示しないスライダーとを備えている。
【0119】
左右のエレメント列を構成するファスナーエレメント74は、テープ長さ方向に突起部84を備えた噛合頭部81と、噛合頭部81から互いに平行に延設された上下脚部82,83とを有し、側面視にてU字状を呈している。また、これらの各ファスナーエレメント74は、上下脚部82,83の端部に連結糸85が挿通されており、全てのファスナーエレメント74が互いに連結した状態でファスナーテープ53に縫着されている。
【0120】
更に、各ファスナーエレメント74の上下脚部82,83には、ファスナーエレメント74を縫着する図示しない縫着糸を収容するための凹部86が、連結糸85よりもテープ側端縁側に形成されている。これにより、各ファスナーエレメント74を縫着糸によって所定の位置に安定して縫着できるとともに、スライダーの摺動時に縫着糸とスライダーとが擦れ合って縫着糸の切断が生じることを防止できる。
【0121】
また、エレメント列の一部には開放区域が設けられており、この開放区域における平均噛合強度を100N以上300N以下にするために、開放区域内の右側のエレメント列には分離起点部78が所定のピッチで配されている。第4の実施形態において、前記分離起点部78は、ファスナーエレメント74の噛合頭部81から突起部84の形成を省くことによって形成された弱噛合部79により構成されている。
【0122】
このような第4の実施形態に係るスライドファスナー71であっても、前述の第1〜第3の実施形態と同様に、噛合しているエレメント列を指先で押圧したり、捩じったりしても、左右のエレメント列が不意に分離することを効果的に防止でき、その噛合状態を安定して維持することができる。また、エレメント列の開放区域全体がエアバッグの膨張圧等のような所定の押圧力を受けることによって、開放区域内のエレメント列を速やかに且つ確実に分離することができる。
【実施例】
【0123】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
(実施例1〜実施例5及び比較例1)
先ず、本発明に係るスライドファスナーの開放区域における平均噛合強度を調べるために、その測定試料として、例えば図1に示したような開放区域内で分離起点部8が所定のピッチ数で配された複数の隠しスライドファスナー用ファスナーチェーン(実施例1〜実施例5)と、分離起点部が配されていない従来の隠しスライドファスナー用ファスナーチェーン(比較例1)とを準備した。
【0124】
実施例1〜実施例5及び比較例1のファスナーチェーンは、左右のファスナーテープ3の側縁部側がU字状に折り返されており、そのテープ側縁部にコイル状のファスナーエレメント4がその噛合頭部をU字状折返部から外方に突出させた状態で縫着されて、左右のエレメント列5が形成されている。このとき、実施例1〜実施例5及び比較例1のファスナーチェーンのチェーン幅は、何れも5〜6mmに設定されている。
【0125】
更に、実施例1〜実施例5のファスナーチェーンは、エレメント列5の一部に開放区域を有しており、同開放区域内の一方のエレメント列5には、ファスナーエレメント4の噛合頭部が切除された非噛合部9により構成された分離起点部8が形成されている。このとき、分離起点部8は、実施例1では60ピッチ(約100.8mm)毎に、実施例2では30ピッチ(約50.4mm)毎に、実施例3では15ピッチ(約25.2mm)毎に、実施例4では10ピッチ(約16.8mm)毎に、実施例5では5ピッチ(約8.4mm)毎に形成されている。一方、比較例1のファスナーチェーンは、エレメント列の開放区域内に分離起点部が全く設けられずに形成されている。
【0126】
次に、その準備した実施例1〜実施例5及び比較例1の各ファスナーチェーンに対して、以下のようなチェーン横引強度試験を行うことによって、各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を求めた。
【0127】
このチェーン横引強度試験では、先ず、ファスナーチェーンのテープ長さ方向の前端部と後端部を固定することによってファスナーチェーンを弛緩しないように保持し、更に、左右ファスナーテープ3の所定位置を左右一対のグランパー19でそれぞれ把持する。次に、ファスナーテープ3を把持した左右のグランパー19を互いに離間する方向へ移動させることによって、噛合状態の左右エレメント列5に対して徐々に負荷を加える。そして、ファスナーチェーンにエレメント列5の分離が生じたときの負荷を測定することによって、グランパー19が把持した位置においてのエレメント列5の噛合強度を求める。
【0128】
このとき、グランパー19によるファスナーテープ3の把持幅(テープ長さ方向の寸法)は、25.4mmに設定されている。また、グランパー19がファスナーテープ3を把持する位置は、1つの分離起点部8に対し、図13に示したように、テープ長さ方向において分離起点部8が設けられている位置である第1テープ把持位置19a、当該分離起点部8と所定ピッチ離れて形成された隣の分離起点部8との中間位置である第2テープ把持位置19b、及び、第1テープ把持位置19aと第2テープ把持位置19bとの中間位置である第3テープ把持位置19cの3箇所に設定され、それぞれのテープ把持位置19a〜19cでエレメント列の噛合強度を求めることとする。
【0129】
そして、このような横引強度試験を、実施例1〜実施例5及び比較例1の各測定試料について開放区域内の5つの分離起点部に対して行う。これによって、各ファスナーチェーンについて計15箇所のテープ把持位置におけるエレメント列の噛合強度を求めた。なお、比較例のファスナーチェーンについては、分離起点部が配されていないため、開放区域内の任意の計15箇所の位置でエレメント列の噛合強度を求めた。
【0130】
更に、各ファスナーチェーンについて15箇所のテープ把持位置で噛合強度を求めた後、それら15個の噛合強度の平均を計算することによって、各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を算出した。このようにして求めた実施例1〜実施例5及び比較例1の各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度の結果を、図14のグラフに合わせて示す。
【0131】
なお、この図14のグラフにおいて、◆のプロットは前記第1テープ把持位置で測定された噛合強度を示し、×のプロットは前記第2テープ把持位置で測定された噛合強度を示し、更に、+のプロットは前記第3テープ把持位置で測定された噛合強度を示している。
【0132】
図14に示したように、実施例1〜実施例5の各ファスナーチェーンにおける開放区域の平均噛合強度を比較してみると、開放区域内に配設する分離起点部のピッチが変わることによって、開放区域の平均噛合強度が変化していることが確認できる。このことから、本発明に係る隠しスライドファスナーは、分離起点部のピッチを任意に変更することによって、スライドファスナーの開放区域における平均噛合強度を所望の範囲に容易に制御可能であることが判る。
【0133】
また、図14に示した結果から、分離起点部のピッチが15ピッチ以下となる実施例3〜実施例5のファスナーチェーンは、開放区域における平均噛合強度が100N以上300N以下の範囲内にあり、特に、実施例4及び実施例5の試料は、平均噛合強度が150N以上200N以下の範囲内にある。このため、実施例3〜実施例5のファスナーチェーンを備える隠しスライドファスナーは、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に好適に使用することができる。
【0134】
一方、従来の隠しスライドファスナーに用いられる比較例1のファスナーチェーンは、開放区域における平均噛合強度が約700Nと高過ぎるため、例えば開放区域全体がエアバッグの膨張圧等のような所定の押圧力を受けても左右のエレメント列が分離し難い。従って、比較例1のファスナーチェーンは、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に使用される隠しスライドファスナーには向いていないことが明らかである。
【0135】
(実施例6〜実施例14及び比較例2,3)
次に、測定試料として、例えば図7に示したような開放区域内で分離起点部がそれぞれ所定のピッチ数で配された複数の通常タイプのスライドファスナー用ファスナーチェーン(実施例6〜実施例14)と、分離起点部が配されていない従来の通常タイプのスライドファスナー用ファスナーチェーン(比較例2,3)とを準備した。
【0136】
実施例6〜実施例14及び比較例2,3のファスナーチェーンは、織製された左右のファスナーテープ33のテープ側縁部にそれぞれコイル状のファスナーエレメント34がテープ長さ方向に沿って縫着されて、左右のエレメント列35が形成されている。このとき、実施例6〜実施例10及び比較例2のファスナーチェーンについては、そのチェーン幅が何れも6〜7mmに設定されている。一方、実施例11〜実施例14及び比較例3のファスナーチェーンについては、実施例6〜実施例10及び比較例2に比べてサイズを小さくしたファスナーエレメントが取着されており、そのチェーン幅は何れも4〜5mmに設定されている。
【0137】
また、実施例6〜実施例10のファスナーチェーンは、エレメント列35の一部に開放区域を有しており、同開放区域内には、噛合頭部を切除した非噛合部39からなる分離起点部38が、実施例6では60ピッチ(約110.4mm)毎に、実施例7では30ピッチ(約55.2mm)毎に、実施例8では15ピッチ(約27.6mm)毎に、実施例9では10ピッチ(約18.4mm)毎に、実施例10では5ピッチ(約9.2mm)毎に形成されている。一方、比較例2のファスナーチェーンは、エレメント列の開放区域内に分離起点部が全く設けられずに形成されている。
【0138】
更に、実施例11〜実施例14のファスナーチェーンも、エレメント列35の一部に開放区域を有しており、同開放区域内には、噛合頭部を切除した非噛合部39からなる分離起点部38が、実施例11では80ピッチ(約100.8mm)毎に、実施例12では40ピッチ(約50.4mm)毎に、実施例13では20ピッチ(約25.2mm)毎に、実施例14では10ピッチ(約12.6mm)毎に形成されている。一方、比較例3のファスナーチェーンは、エレメント列の開放区域内に分離起点部が全く設けられずに形成されている。
【0139】
次に、その準備した実施例6〜実施例10及び比較例2の各ファスナーチェーンに対して、前述のチェーン横引強度試験を行うことによって、各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を求めた。また、実施例11〜実施例14及び比較例3の各ファスナーチェーンに対しても同様のチェーン横引強度試験を行った。このようにして得られた実施例6〜実施例10及び比較例2の各ファスナーチェーンにおける開放区域の平均噛合強度の結果を図15のグラフに合わせて示し、また、実施例11〜実施例14及び比較例3の各ファスナーチェーンにおける開放区域の平均噛合強度の結果を図16のグラフに合わせて示す。
【0140】
図15及び図16に示したように、開放区域内に配設する分離起点部のピッチが変わることによって、開放区域の平均噛合強度が変化していることが確認できる。このことから、本発明に係る通常タイプのスライドファスナーは、分離起点部のピッチを任意に変更することによって、スライドファスナーの開放区域における平均噛合強度を所望の範囲に容易に制御可能であることが判る。
【0141】
また、図15及び図16に示した結果から、実施例9,10,13,14のファスナーチェーンは、開放区域における平均噛合強度が100N以上300N以下の範囲内にあるため、当該ファスナーチェーンを備える通常タイプのスライドファスナーは、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に好適に使用することができる。
【0142】
一方、従来のスライドファスナーに用いられる比較例2及び比較例3のファスナーチェーンは、開放区域における平均噛合強度がそれぞれ約1000N及び約600Nと高過ぎる。従って、これらのファスナーチェーンは、サイドエアバッグ装置が内設された車両用シートのシートカバーの開口部に使用されるスライドファスナーには向いていないことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】第1の実施形態に係るスライドファスナーを示す概略背面図である。
【図2】同スライドファスナーにおける分離起点部を部分的に拡大して模式的に示す要部拡大図である。
【図3】同スライドファスナーの左右のエレメントが噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す断面図である。
【図4】同スライドファスナーが使用される車両用シートを示す斜視図である。
【図5】第1の実施形態の変形例に係るスライドファスナーの分離起点部を部分的に拡大して示す要部拡大図である。
【図6】同スライドファスナーの左右エレメント列が噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す要部拡大図である。
【図7】第2の実施形態に係るスライドファスナーを示す概略正面図である。
【図8】同スライドファスナーの左右のエレメントが噛合したときの分離起点部の状態を模式的に示す要部縦断面図である。
【図9】第2の実施形態の変形例に係るスライドファスナーのファスナーエレメントのみを拡大して示す要部拡大図である。
【図10】第3の実施形態に係るスライドファスナーを示す概略正面図である。
【図11】第3の実施形態の変形例に係るスライドファスナーのエレメント取付部を拡大して示す要部拡大図である。
【図12】第4の実施形態に係るスライドファスナーのファスナーエレメントのみを拡大して示す要部拡大図である。
【図13】ファスナーチェーンの横引強度試験を行う際にグランパーが把持する位置を説明する説明図である。
【図14】実施例1〜実施例5及び比較例1の各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を求めた結果を示すグラフである。
【図15】実施例6〜実施例10及び比較例2の各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を求めた結果を示すグラフである。
【図16】実施例11〜実施例14及び比較例3の各ファスナーチェーンの開放区域における平均噛合強度を求めた結果を示すグラフである。
【図17】(A)は従来のスライドファスナーを示す平面図であり、(B)は、同スライドファスナーの連結リンクを示す要部拡大図である。
【図18】(a)は従来のスライドファスナーが備える単独ファスナーエレメントの表面側を示す斜視図であり、(b)は、同単独ファスナーエレメントの裏面側を示す斜視図である。
【図19】同スライドファスナーにおいて、左右のファスナーエレメントが噛合した状態を示す断面図である。
【図20】同スライドファスナーのエレメント列が分離する状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0144】
1,1’ 隠しスライドファスナー
2 ファスナーストリンガー
3 ファスナーテープ
3a テープ主体部
3b エレメント取付部
4 ファスナーエレメント
5 エレメント列
6 スライダー
7 正常噛合部
8,8’ 分離起点部
9 非噛合部
10 弱噛合部
11 地緯糸
12 地経糸
13 下固定用経糸
14 上固定用経糸
15 締付用経糸
16 位置決め用経糸
17 開放区域
19 グランパー
19a 第1テープ把持位置
19b 第2テープ把持位置
19c 第3テープ把持位置
21 噛合頭部
22 上脚部
23 下脚部
24 連結部
25 切断端面
26 突出部
31,31’ スライドファスナー
32 ファスナーストリンガー
33 ファスナーテープ
34,34’ ファスナーエレメント
35 エレメント列
36 スライダー
37 正常噛合部
38,38’ 分離起点部
39,39’ 非噛合部
41 芯紐
42 縫着糸
51,51’ スライドファスナー
52 ファスナーストリンガー
53 ファスナーテープ
54 ファスナーエレメント
55 エレメント列
57 正常噛合部
58,58’ 分離起点部
59 第1非噛合部
60 第2非噛合部
61 芯紐部
62 脚部
63 首部
64 噛合頭部
71 スライドファスナー
74 ファスナーエレメント
78 分離起点部
79 弱噛合部
81 噛合頭部
82 上脚部
83 下脚部
84 突起部
85 連結糸
86 凹部
91 車両用シート
92 サイドエアバッグ装置
93 シートクッション
93a シートカバー
94 シートバック
94a シートカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のファスナーテープ(3,33,53) のテープ側縁部に、頭部(21,64,81)及び脚部(22,23,62,82,83)を有する多数のファスナーエレメント(4,34,34',54,74)がテープ長さ方向に沿って取着されてエレメント列(5,35,55) が形成された左右一対のファスナーストリンガー(2,32,52) と、左右の前記エレメント列(5,35,55) を噛合離脱させるスライダー(6,36)とを備え、前記エレメント列(5,35,55) は、噛合状態にある左右の前記ファスナーエレメント(4,34,34',54,74)を前記スライダー(6,36)に依らずに所定の力で分離可能な開放区域(17)を少なくとも一部に有するスライドファスナー(1,1',31,31',51,51'71)であって、
少なくとも一方の前記エレメント列(5,35,55) は、前記開放区域(17)内において、
左右の前記ファスナーエレメント(4,34,34',54,74)が所定の形態で交互に規則的に噛合する正常噛合部(7,37,57) と、
少なくとも1又は2以上の前記ファスナーエレメント(4,34,34',54,74)を配置可能なエレメント列領域にあって、相手方の前記ファスナーエレメント(4,34,34',54)と噛合しない非噛合部(9,39,39',59,60)、又は、相手方の前記ファスナーエレメント(4,74)と前記正常噛合部(7) よりも弱く噛合する弱噛合部(10,79) により形成された複数の分離起点部(8,8',38,38',58,58',78) と、
を有し、
前記正常噛合部(7,37,57) と前記分離起点部(8,8',38,38',58,58',78) とは前記開放区域(17)内で交互に配されてなる、
ことを特徴とするスライドファスナー。
【請求項2】
前記分離起点部(8,8',38,38',58,58',78) は、前記エレメント列(5,35,55) に所定のピッチで配されてなる請求項1記載のスライドファスナー。
【請求項3】
前記エレメント列(5,35)は、スタンピングにより成形された合成樹脂製の連続ファスナーエレメント(4,34,34')が取着されて形成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項4】
前記エレメント列(55)は、ファスナーテープ(53)に一体成形された単独ファスナーエレメント(54,74) が列設されて形成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項5】
前記非噛合部(9,39,39',60) は、前記ファスナーエレメント(4,34,34',54)の前記頭部(21,64)が排除されて構成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項6】
前記弱噛合部(10,79)は、前記ファスナーエレメント(4,74)の前記頭部(21,81)の一部が排除されて構成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項7】
前記非噛合部(59)は、前記ファスナーエレメント(54)自体が前記テープ側縁部から排除されて構成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項8】
前記分離起点部(8,8',38,38',58,58',78)は、一方の前記ファスナーストリンガー(2,32,52)の前記エレメント列(5,35,55)のみに形成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項9】
前記分離起点部(8,8')は、10個又はそれ未満の個数の前記ファスナーエレメント(4) 毎に前記エレメント列(5) に形成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー。
【請求項10】
前記開放区域(17)における平均横引強度は100N以上300N以下に制御されてなる請求項1〜9のいずれかに記載のスライドファスナー。
【請求項11】
前記スライドファスナー(1,1')は、前記ファスナーテープ(3) の側縁部がU字状に折り返され、前記ファスナーエレメント(4) の頭部(21)をU字状折返部から外方に突出させて形成することにより、前記エレメント列(5) がテープ表面側から見えなくなるように構成された隠しスライドファスナーである請求項1〜10のいずれかに記載のスライドファスナー。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のスライドファスナー(1,1',31,31',51,51'71)を開口部に取着したシートカバー(94a) が被覆され、サイドエアバッグ装置(92)が内設されてなることを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−28131(P2009−28131A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193103(P2007−193103)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】