説明

スライドファスナー用両面務歯

【課題】屈曲に対して柔軟性を向上させたスライドファスナー用両面務歯を提供する。
【解決手段】噛合基面(70)から中央隆起部(74)が隆起し、胴部(78)から中央隆起部(74)に向けて突出するとともに噛合基面(70)から隆起した左右一対の突出部(72)が形成され、相手方の中央隆起部(74)を、中央隆起部(74)と左右突出部(72)と段差面(82)とにより囲まれる窪みに離脱可能に噛合させるスライドファスナー用両面務歯(12)において、左右突出部(72)の内側隆起起端縁間寸法(T0)を中央隆起部(74)の左右隆起起端縁間寸法(R0)よりも小さく設定し、左右突出部(72)における中央隆起部(74)との対向側端部の外側隅部に第1欠落部(88)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表裏両面に噛合面を有する金属製のスライドファスナー用両面務歯に関する。
【背景技術】
【0002】
鞄などにおける開口部の開閉用として、2個のスライダーを頭合わせ又は尻合わせに配置することにより、両開きを可能としたスライドファスナーが知られている。この両開き用のスライドファスナーでは、末開きと逆開きの両方向における操作感を同一にするために、表裏の噛合面を同一の形状に形成した両面務歯が用いられる。特に、強い生地を用いる衣服や鞄等には、強度や美観、耐久性、屈曲性に優れた金属製の両面務歯が用いられる。
【0003】
例えば、実公昭55−14252号公報(特許文献1)には、金属製の両面務歯を用いたスライドファスナーにおいて、表裏からの突き上げ強度及び噛合軸線に対する回動方向の噛合強度を向上させるための考案が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載されているスライドファスナー用両面務歯は、噛合頭部本体の平面視で表裏両面を構成する噛合基面の各中央部に中央隆起部を有するととともに、噛合頭部本体に続き前記噛合基面間の肉厚よりも大きい肉厚をもつ務歯胴部を介して平面視で左右一対の脚部を有しており、前記中央隆起部と務歯胴部との間の表裏噛合基面に、前記胴部から噛合頭部本体側に向けて突出する平面視で左右の突出部を隆起させている。ここで、前記左右の突出部の外側側面は、前記務歯胴部の左右側面と面一とされている。この両面務歯同士を噛合させる際には、相手方の中央隆起部を前記突出部間の窪みに嵌合させるとともに、該突出部の先端面と相手方の突出部先端の広巾の先端面とを突き合わせるようにする。このような形状の両面務歯を採用することにより、スライドファスナーに対する突き上げ強度を向上させ、噛合軸線に対する回動方向の噛合強度を向上させることができるとしている。
【0005】
また、金属性の両面務歯を用いたスライドファスナーの密封性能を向上させるために、例えばCN実用新案公告第2669667Y号公報(特許文献2)に開示されているような、小型の両面務歯を用いたスライドファスナーが知られている。
【0006】
特許文献2に記載されているスライドファスナーの両面務歯は、平面視で表裏両面に噛合基面を有する薄板状の噛合頭部本体と、前記噛合基面から段差面を介して一方向に延出する厚板状の胴部と、前記胴部から噛合頭部本体とは反対側に延出する平面視で左右一対の脚部とを有し、前記噛合基面の中央部には中央隆起部が隆起しており、前記胴部から前記中央隆起部の左右側面に向けて左右一対の突出部が突出し、相手方の両面務歯の一対の中央隆起部を、前記中央隆起部と前記左右の突出部と前記上下の突出部間の前記段差面とにより囲まれる窪みに離脱可能に噛合させる。
【0007】
また、特許文献2に記載されているスライドファスナーの両面務歯は、上記特許文献1に記載された両面務歯とは異なり、左右突出部の外側側面が務歯胴部の上下側面よりも内側に入って形成されているため、両面務歯を噛合させた状態において、前屈及び後屈方向に曲げ易くなるというものである。
【0008】
なお、本明細書における「表裏」とは、両面務歯の噛合面の一の表面を表面としたときの反対側の表面を裏面としている。また、同じく「前後」とは両面務歯の噛合開閉時の閉鎖側を前方とし、その反対側の解放側を後方としており、スライダーがスライドする方向を示している。更に「左右」とは中央隆起部の平面視において前後方向を挟んだ左右を言い、「横引方向」とは噛合状態にある両面務歯同士を引き離す方向を言う。
【特許文献1】実公昭55−14252号公報
【特許文献2】CN実用新案公告第2669667Y号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているスライドファスナー用両面務歯は、噛合部における左右突出部の内側隆起起端縁間寸法が、中央隆起部の左右隆起起端縁間寸法と略等しく設定されている。左右突出部及び中央隆起部は山形に傾斜しているので、両面務歯同士を噛合させた際に、この傾斜の存在により、両面務歯同士の横引方向及び左右方向のがたつきが多くなることがあった。
【0010】
また、両面務歯同士を噛合させた際には、噛合状態にある左右突出部先端の広巾の先端面同士が近接した状態になるので、前述のように両面務歯同士の左右方向のがたつきが多い割りには、スライドファスナーに対する突き上げ力に対し、噛合している両面務歯同士が噛合軸線回りに重なり合う方向に、への字状に折り曲げる際の柔軟性や噛合軸線に対するねじりの柔軟性にまだ改善の余地があった。
【0011】
一方、特許文献2に記載されているスライドファスナー用両面務歯においても、両面務歯同士を噛合させた際には、互いに平行な左右突出部の先端同士が近接した状態になるので、スライドファスナーに対する突き上げ力に対し、噛合している両面務歯同士が噛合軸線回りに重なり合う方向に、への字状に折り曲げる際の柔軟性が乏しい構造である。また、噛合軸線に対するねじりの柔軟性も乏しい構造となっている。
【0012】
本発明は、こうした従来技術の持つ問題点を解決するために創出されたもので、金属製の両面務歯がファスナーテープの側縁部に挟着されているスライドファスナーにおいて、突き上げ力を印加した際に、噛合状態にある両面務歯同士を噛合軸線回りに折り曲げ易く、噛合軸線に対するねじりの柔軟性を向上させたスライドファスナー用両面務歯を提供することを目的としている。また本発明は、両面務歯の噛合頭部本体に隆起している中央隆起部と左右突出部とを成形するためのパンチ用金型に加わる応力を分散させ、金型の長寿命化を図ることが可能な形状を備えたスライドファスナー用両面務歯を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成すべく、本発明に係るスライドファスナー用両面務歯は、表裏両面に噛合基面を有する薄板状の噛合頭部本体と、前記噛合基面から段差面を介して一方向に延出する厚板状の胴部と、前記胴部から延びる左右一対の脚部とを有し、前記各噛合基面の先端側中央部から中央隆起部が隆起し、前記胴部から前記各中央隆起部に向けて突出し前記各噛合基面から隆起する左右一対の突出部を有し、噛合相手方の中央隆起部を、前記中央隆起部と、前記左右突出部と、前記左右突出部間の前記段差面とで囲まれる窪みに離脱可能に噛合させるスライドファスナー用両面務歯において、前記左右突出部の内側隆起起端縁間寸法が前記中央隆起部の左右隆起起端縁間寸法よりも小さく設定され、前記左右突出部の前記中央隆起部との対向側端部の外側隅部は、その少なくとも隆起起端縁側が欠落した第1欠落部を有してなることを特徴としている。
【0014】
好ましい態様として、前記第1欠落部の隆起起端縁は直線部分を含む形状であり、前記左右突出部の先端部隆起起端縁における各最突出端同士を結ぶ直線と、前記第1欠落部の隆起起端縁との交差角が5°以上45°以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記左右突出部の各最突出端に隣接する前記中央隆起部の左右隅部は、少なくともその隆起起端縁が前記左右突出部の最突出端間との間隔を広げるための第2欠落部を有していることが好ましく、更に、前記第2欠落部の隆起起端縁は直線部分を含み、前記左右突出部の内側の隆起起端縁よりも内側を起点として、前記左右突出部の各先端部の隆起起端縁における最突出端同士を結ぶ直線と前記第2欠落部の隆起起端縁との交差角を5°以上に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスライドファスナー用両面務歯は、両面務歯の胴部から突出している左右突出部の内側隆起起端縁間の寸法を、噛合基面の先端側中央部から隆起している中央隆起部の左右隆起起端縁間の寸法よりも小さく設定したので、両面務歯同士を噛合させた際における中央隆起部と左右突出部との間の隙間を少なくして、両面務歯同士の左右突出部方向のがたつきを抑えることができる。
【0017】
また、両面務歯における左右突出部の中央隆起部との対向側端部に、外側隅部が欠落した第1欠落部を形成したので、両面務歯同士を噛合させた状態で突き上げ方向の力を加えた際に、噛合している両面務歯同士を噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げ易くすることができ、噛合軸線に対するねじりの柔軟性も向上させることができる。更に、左右突出部の先端部隆起起端縁における最突出端同士を結ぶ直線と、直線状の第1欠落部の隆起起端縁との交差角を5°以上45°以下の角度にすることが好ましい。この交差角が5°より小さいと、両面務歯同士を噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げ難くなり、交差角が45°を越えると、両面務歯同士の噛合が外れやすくなる。
【0018】
また、左右突出部の最突出端に隣接する中央隆起部の左右隅部に第2欠落部を形成し、左右突出部の先端部隆起起端縁における最突出端同士を結ぶ直線と、直線状の第2欠落部の隆起起端縁との交差角を5°以上の角度とした斜欠落部を形成することにより、噛合軸線回りの自由度を高め、両面務歯同士が重なり合う方向に折り曲げる際の柔軟性や、噛合軸線に対するねじりの柔軟性を向上させることができる。
【0019】
更に本発明によれば、両面務歯を上述の構成とすることで、両面務歯をパンチ成形する際に、金型に加わる応力を分散させることができるため、硬度が高い金型の寿命を延ばし、金属務歯成形時の歩留りを向上させて、高精度で安価な両面務歯を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る両面務歯と、その両面務歯を用いたスライドファスナーの代表的な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る両面務歯12を用いたスライドファスナー10の噛合状態を示す図であり、図2は、スライドファスナー10におけるファスナーテープ16の側縁部に挟着されている両面務歯12単体の斜視図である。なお、図2に示す両面務歯12の形状は、ファスナーテープ16に取着させた後の、脚部80が閉じている部品単体の状態を示している。なお、本図では、説明の便宜上ファスナーテープ16は図示していない。図3は、両面務歯12における噛合頭部本体76及び胴部78の部分を局部的に拡大した平面図であり、図4は、図3に示した直線部分を含む第1欠落部88に対して、曲線状に形成した第1欠落部188を有する両面務歯112の実施例を示す図である。図5は、図1に示したスライドファスナー10の噛合状態の拡大図である。図6は、噛合状態にある両面務歯12に突き上げ方向の力を加えたときの、両面務歯12同士が噛合軸線回りに重なり合う方向に、への字状に折り曲げる際の柔軟性を説明する機能説明図である。また、図7は、両面務歯12を平角材から成形する際の製造工程例を説明する図である。
【0022】
図1に示すように、スライドファスナー10は、ファスナーテープ16と、そのファスナーテープ16の側縁部に金属製の両面務歯12を所定の間隔で一列に取着して形成したファスナーストリンガー18とを備えている。図1に示すスライドファスナー10は、両面務歯12同士を噛合・離脱させるスライダーを、頭合わせ又は尻合わせに配置することによって、スライドファスナー10を両開きする際に用いることができる。なお、スライドファスナー10の両面務歯12は、表裏の噛合面が表裏対称に成形してあるので、末開き、逆開きの区別無く開閉の操作感を等しくすることができる。なお、本明細書における「前後」とは、図1に示すFR方向であり、「横引方向」とは、図1に示すSP方向である。
【0023】
次に、本発明に係る両面務歯12の形状について、図2及び図3を用いて説明する。
図2及び図3に示すように、両面務歯12は、表裏両面に噛合基面70を有する薄板状の噛合頭部本体76と、噛合基面70から段差面82を介して一方向に延出する厚板状の胴部78と、この胴部78から延び胴部78と同一の厚さを持つ左右一対の脚部80とから構成されている。噛合頭部本体76の先端側中央部分には、噛合基面70から山形に隆起している中央隆起部74が形成されている。
【0024】
また、噛合頭部本体76の胴部78側には、胴部78から中央隆起部74に向けて突出するとともに、噛合基面70から隆起した左右一対の突出部72が形成されている。両面務歯12同士を噛合させる際には、中央隆起部74と左右一対の突出部72と段差面82とにより囲まれる窪みに、相手方の中央隆起部74が噛合することになる。
【0025】
スライドファスナー10の両面務歯12同士を噛合させた状態において、スライドファスナー10の左右方向のがたつき(図1に示す形態では、紙面に対して表裏方向のがたつき。)を抑えるために、図3に示すように、左右突出部72の内側隆起起端縁間寸法T0を、中央隆起部74の左右隆起起端縁間寸法R0よりも小さく設定してある。
【0026】
なお、左右突出部72の内側隆起起端縁間寸法T0を、中央隆起部74の左右頂端縁間寸法R1よりも小さく設定したり、左右突出部72の隆起部頂端縁間寸法T1を、中央隆起部74の左右隆起起端縁間寸法R0よりも小さく設定したりすると、中央隆起部74と左右一対の突出部72と段差面82とにより囲まれる窪みと、相手方の中央隆起部74との間のクリアランスが減少する。したがって、スライドファスナー10に突き上げ力を印加した際に、噛合している両面務歯同士を噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げ難くなったり、噛合軸線に対するねじりの柔軟性が低下する。また、スライドファスナー10の開閉が渋くなるなどの不具合が生ずることがある。
【0027】
また、両面務歯12同士を噛合させた状態において、突き上げ力に対して両面務歯12同士が噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げる際の柔軟性を確保するとともに、噛合軸線に対するねじりの柔軟性を向上させるために、左右突出部72の外側隅部を欠落させた第1欠落部88を形成してある。
【0028】
この第1欠落部88の形状として第1欠落部88の隆起起端縁の外側隅部に直線部分を含む形状にするとともに、左右突出部72の最突出端86同士を結ぶ直線と、第1欠落部88の隆起起端縁との交差角α(図3参照。)を、それぞれ5°以上45°以下の範囲に設定することが好ましい。また、同様の理由により、左右突出部72の最突出端86に隣接する、中央隆起部74の左右隅部に、最突出端86との間隙を広げるための第2欠落部96を形成することが好ましい。
【0029】
更に、第2欠落部96を、左右突出部72の内側隆起起端縁84よりも内側を起点とする欠落部とし、第2欠落部96の隆起起端縁に直線部分を含めるとともに、左右突出部72の最突出端86同士を結ぶ直線に対してそれぞれ5°以上の角度β(図3参照。)を成して、最突出端86との間隔を広げるための斜欠落部98を形成し、且つこの斜欠落部98と中央隆起部74の両側縁とを繋いだ曲成部97を形成することが好ましい。なお、図2及び図3に示す両面務歯12の製造工程については、図7を用いて後段にて説明する。
【0030】
なお、図3に示した第1欠落部88は、直線状の隆起起端縁を含む形状を呈しているが、図4に示すように、第1欠落部188を曲線状に形成することもできる。
図4に示すように、噛合頭部本体76の噛合基面70から隆起している中央隆起部74は、図3に示した両面務歯12と同様に、左右突出部172の内側隆起起端縁84よりも内側を起点とする斜欠落部98と、この斜欠落部98と中央隆起部74の両側縁とを曲線で繋いだ曲成部97とから成る第2欠落部96を備えている。これに対し、胴部78から中央隆起部74に向けて突出し、噛合基面70から隆起している左右一対の突出部172には、平面視において左右方向に離れるにつれて、隆起起端縁の突出量が曲線状に減少する第1欠落部188を形成してある。
【0031】
この第1欠落部188も、噛合状態にある両面務歯12同士を噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げる際、又は噛合軸線に対してねじる際において、突出部172の先端面同士が接触することを遅らせて、折り曲げの柔軟性、及びねじりの柔軟性を向上させることができる。
【0032】
次に、図1に示したスライドファスナー10の噛合状態について、図5の拡大図及び一部断面図を用いて説明する。
図5に示すように、両面務歯12の表裏両面には、薄板状の噛合基面70から山形に隆起している中央隆起部74と、左右一対の突出部72とが形成されている。この中央隆起部74と左右一対の突出部72と段差面82とにより囲まれる窪みに、相手方の両面務歯12の中央隆起部74が入り込み、両面務歯12同士が離脱可能に噛合されることになる。
【0033】
このように、中央隆起部74と段差面82との間の窪みに、相手方の中央隆起部74が入り込むことにより、両面務歯12同士は横引方向(図5に示すSP方向。)に位置決めされる。また、左右一対の突出部72の間に、相手方の中央隆起部74が入り込むことにより、両面務歯12同士は左右方向(図5の紙面に対して表裏方向。)に位置決めされる。なお、本明細書における「前後」とは、図5に示すFR方向であり、「横引方向」とは、図5に示すSP方向である。
【0034】
次に、噛合状態にあるスライドファスナー10の両面務歯12に、突き上げ方向の力を印加した際の柔軟性について図6を用いて説明する。
図6に示すように、噛合状態にある両面務歯12R,12Lに、突き上げ方の力FTを印加すると、両面務歯12R(実線で記載。)と両面務歯12L(仮想線で記載。)とが噛合軸線回りに重なり合う方向に折れ曲がる。
【0035】
このとき、両面務歯12Rの中央隆起部74Rと段差面82Rとの間に、相手方の両面務歯12Lの中央隆起部74Lが入り込んでいるので、両面務歯12Rと両面務歯12Lとが、スライドファスナー10の横引方向(図6に示すSP方向。)に位置決めされる。また、両面務歯12Rに形成されている左右一対の突出部72Rの間に、相手方の両面務歯12Lの中央隆起部74Lが入り込んでいるので、両面務歯12Rと両面務歯12Lとは、左右方向(図6に示すLR方向。)に位置決めされる。
【0036】
本発明に係る両面務歯12R,12Lは、突出部72R,72Lの内側隆起起端縁間寸法T0を、中央隆起部74R,74Lの左右隆起起端縁間寸法R0よりも小さく設定してあるので、両面務歯12Rと両面務歯12Lとを噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げた場合であっても、噛合状態にある両面務歯12Rと両面務歯12Lとの左右方向(図6に示すLR方向。)のがたつきを抑え、噛み合強度が向上する。
【0037】
また、本発明に係る両面務歯12R,12Lの左右突出部72R,72Lは、外側隅部を欠落させた第1欠落部88を有している。したがって、両面務歯12Rと両面務歯12Lとを噛合させた状態において、スライドファスナー10に対して突き上げ力を印加した際の第1欠落部88R,88L同士の接触を遅らせて、両面務歯12Rと両面務歯12Lとを大きく噛合軸線回りに重なり合う方向に折り曲げることができる。
【0038】
また、第1欠落部88Rの形状に直線部分を含む形状とし、左右突出部72Rの最突出端86R同士を結ぶ直線と、第1欠落部88Rの隆起起端縁との交差角αを、それぞれ5°以上45°以下の範囲に設定することが、噛合軸線回りに折り曲げ性や、噛合軸線に対するねじりに対する柔軟性を確保しつつ、両面務歯12R,12L同士が外れることを防止する面から好ましい。なお、図4にて説明した曲線状の第1欠落部188を有する両面務歯112においても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、同様の理由により、中央隆起部74Rにおける左右隅部の隆起起端縁に、左右突出部72の最突出端86R同士を結ぶ直線に対してそれぞれ5°以上の角度βを成して最突出端86Rとの間隔を広げるための直線状の斜欠落部98Rを形成し、且つこの斜欠落部98Rと中央隆起部74Rの両側縁とを繋いだ湾曲した曲成部97Rを形成することが好ましい。
【0040】
次に、図7を用いて両面務歯12を平角材から成形する際の製造工程について説明する。
先ず、両面務歯12の胴部78及び脚部80と同じ厚さの平角材100を、図7の上方から下方に向けて間欠的に送る。先ず第1工程(1ST)にて、噛合頭部本体76における噛合基面70と、中央隆起部74と、左右一対の突出部72と、段差面82とを成形するために、前記各部に対して対称的に型取られた両面パンチを用いて成形する。その後数ピッチ間隔を開け(2ST)、次の第3工程(3ST)にて、脚部80の下部及び側部における不要部分102を切除する。
【0041】
次の第4工程(4ST)にて、平角材100から、両面務歯12の噛合頭部本体76及び胴部78を一体に切断して、最終端の両面務歯12を切り取る。なお、第4工程において、両面務歯12を平角材100から切り取ると同時に、一対の脚部80の間にファスナーテープ16の一側端を配置し、前記脚部80を内側へ変形させることにより、両面務歯12をファスナーテープ16の側縁部に取着することもできる。図7に示す実施例では、平角材100の歩留りを向上させるために、噛合頭部本体76の外形と脚部80の内側形状とを同一にしてある。
【0042】
なお、上記の第1工程又は第2工程にて、噛合頭部本体76の表裏両面を成形する際には、パンチ用金型の薄肉部分、特に中央隆起部74と突出部72とが最も近接する基面を成形する部分において応力が集中することがあり、数十万回のパンチ処理を経た後に、金型の一部が疲労により破断することが考えられる。そこで、金型において応力が集中しやすい部分を厚肉形状にすることによって応力を分散させて金型寿命を延ばし、金属製両面務歯12の精度を長期に渡って安定させるとともに、金属製両面務歯12の製造単価を低減することができる。
【0043】
例えば、図3に示した噛合頭部本体76において、左右突出部72における外側隅部を欠落させた第1欠落部88を形成して、中央隆起部74の曲成部97と第1欠落部88との間を可能な限り離間させるとともに、第1欠落部88を形成する隆起起端縁が、中央隆起部74に向かわないように逃がすことが有効である。また、中央隆起部74の隆起起端縁に直線状の斜欠落部98を形成し、この斜欠落部98と中央隆起部74における隆起起端縁の両側縁とを繋いだ曲成部97を形成することによっても、中央隆起部74の曲成部97と第1欠落部88との間を離間させることができる。このように両面務歯12の形状を定めることにより、中央隆起部74と左右一対の突出部72と段差面82とで囲まれる窪み、及び中央隆起部74による噛み合い寸法を変えることなく、また、務歯同士の噛み合い強度を下げることなく、金型において発生しやすい曲成部97から第1欠落部88に向けた亀裂の発生を防止することができる。
【0044】
また、中央隆起部74の左右隅部に、左右突出部72における最突出端86との間隙を広げるための第2欠落部96を形成することによって、中央隆起部74と突出部72との間の間隔を広げて、金型の中央隆起部74と突出部72との境界部分において発生しやすい亀裂を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る両面務歯を備えたスライドファスナーを、デニムや皮革、合成皮革などの厚手で強い生地から成る衣服や、鞄などに用いることができる。本発明に係るスライドファスナーは、噛合軸線回りに対する折り曲げ性や、噛合軸線に対するねじりに対する柔軟性を有しているので、スライドファスナーが屈曲している状態であっても、末開き及び逆開きの際の開閉操作が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る両面務歯を用いたスライドファスナーの噛合状態を示す図である。
【図2】ファスナーテープの側縁部に取着されている両面務歯単体の斜視図である。
【図3】両面務歯における噛合頭部本体及び胴部の部分の拡大平面図である。
【図4】曲線状に形成した第1欠落部を有する両面務歯における、噛合頭部本体及び胴部の部分の拡大平面図である。
【図5】図1に示したスライドファスナーの噛合状態の拡大図である。
【図6】噛合状態にある両面務歯に突き上げ方向の力を加えた際に、両面務歯同士が折れ曲がる状態を説明する機能説明図である。
【図7】両面務歯を平角材から成形する際の製造工程例を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
10 スライドファスナー
12,112 両面務歯
16 ファスナーテープ
18 ファスナーストリンガー
70 噛合基面
72,172 突出部
74 中央隆起部
76 噛合頭部本体
78 胴部
80 脚部
82 段差面
84 内側隆起起端縁
85 外側隆起起端縁
86,186 最突出端
88,188 第1欠落部
96 第2欠落部
97 曲成部
98 斜欠落部
T0 内側隆起起端縁間寸法
T1 隆起部頂端縁間寸法
R0 左右隆起起端縁間寸法
R1 左右頂端縁間寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏両面に噛合基面を有する薄板状の噛合頭部本体と、前記噛合基面から段差面を介して一方向に延出する厚板状の胴部と、前記胴部から延びる左右一対の脚部とを有し、前記各噛合基面の先端側中央部から中央隆起部が隆起し、前記胴部から前記各中央隆起部に向けて突出し前記各噛合基面から隆起する左右一対の突出部を有し、噛合相手方の中央隆起部を、前記中央隆起部と、前記左右突出部と、前記左右突出部間の前記段差面とで囲まれる窪みに離脱可能に噛合させるスライドファスナー用両面務歯において、
前記左右突出部の内側隆起起端縁間寸法が前記中央隆起部の左右隆起起端縁間寸法よりも小さく設定され、
前記左右突出部の前記中央隆起部との対向側端部の外側隅部は、その少なくとも隆起起端縁側が欠落した第1欠落部を有してなる、
ことを特徴とするスライドファスナー用両面務歯。
【請求項2】
前記第1欠落部の隆起起端縁は直線部分を含む形状であり、前記左右突出部の先端部隆起起端縁における各最突出端同士を結ぶ直線と、前記第1欠落部の隆起起端縁との交差角が5°以上、45°以下であることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー用両面務歯。
【請求項3】
前記左右突出部の各最突出端に隣接する前記中央隆起部の左右隅部に、少なくともその隆起起端縁が前記左右突出部の最突出端間との間隔を広げるための第2欠落部を有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のスライドファスナー用両面務歯。
【請求項4】
前記第2欠落部の隆起起端縁は直線部分を含む形状であり、前記左右突出部の内側の隆起起端縁よりも内側を起点として、前記左右突出部の先端部隆起起端縁における各最突出端同士を結ぶ直線と前記第2欠落部の隆起起端縁との交差角を5°以上に設定することにより前記突出部との間隔を広げるための斜欠落部を有してなることを特徴とする請求項3に記載のスライドファスナー用両面務歯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−222(P2009−222A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162769(P2007−162769)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】