説明

スライド駆動装置

【課題】ガタが少なく高精度なプレス運転ができるようにする。
【解決手段】プレス成形中はスライド90側の雌円筒形状内面48Tとコンロッド20側の雄円筒形状外面38Tとの接触状態によりプレス成形荷重Pprsが当該内外面48T,38Tを通してコンロッド側に伝達可能に形成され、非プレス成形中は押え部材51の上部側(52)を円環部材41に懸架させることで雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態としてスライド荷重Psrdを円環部材41および水平ピン部材45を通してコンロッド20側に伝達可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クランク軸の回転運動をコンロッドおよびサスペンション機構を通してスライドの昇降運動に変換しつつスライド駆動するスライド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スライド駆動装置は、クランク軸、コンロッド(コネクティングロッド)およびサスペンション機構等を含み、可動側のスライド(上型)を昇降して、静止側のボルスタ(下型)に離隔接近するように駆動する装置である。
【0003】
代表的なスライド駆動装置つまり従来例(例えば、特許文献1)において、コンロッド(2)の上端部は円環形状でクランク軸(1)の偏心部に被嵌装着されかつその下端部は球体とされ、サスペンション機構(8、7)に回動可能に連結されている。このサスペンション機構は、内面が上方に凸の半円球形状である上枠体(8)と内面が下方に凸の半円球形状である下枠体(7)との上下枠体組合構造とされ、スライド(12)をサスペンション(懸架)可能かつ所定ストローク内で上下動可能である。
【0004】
サスペンション機構には、スライド高さ調整部(ダイハイト調整機構)が組込まれているのが一般的である。このダイハイト調整機構は、ボルスタ上面とスライド下面との間隔(ダイハイト)を調整する。すなわち、ダイハイト調整機構は、回転駆動手段[ウオームねじ(3)、ウオーム歯車(4)]を用いて雄ねじ部材(10)を回転させることで雌ねじ部材(13)を上下動させ、コンロッド(2)の下端部とスライド(12)との上下方向相対位置を調整する。
【0005】
ここに、クランク軸(偏心部)を回転駆動すると、コンロッド(2)は下端部(球形)を中心に揺動する。当該下端部は、上下枠体組合構造(8、7)内で回動しつつ揺動角度(ロッドの傾き)に応じた上下方向の当該位置に変化する。つまり、スライド(12)を昇降させることができる。
【0006】
コンロッド(2)は、サスペンション機構(上下枠体組合構造)を通して、プレス成形中は上向きのプレス成形荷重(プレス反力)を受け、非プレス成形中(プレス成形開始前やプレス成形終了後)は下向きのスライド荷重(ダイハイト調整機構等を含む全荷重)を受けることになる。
【0007】
他の従来例(例えば、特許文献2)も基本的機能が同一であるから、コンロッドの下端部がリストピン22に被嵌装着される方式であるが、全体的かつ基本的な構造は上記構造(特許文献1)と同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭61−31600号公報
【特許文献2】実開平5−70800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、スライド駆動装置を含むプレス機械全体について、一層の高精度化要求が強くなっている。スライド駆動装置の高精度化は、スライドの上下方向位置の変化やそのバラツキを最小に抑えることにほかならない。つまり、機械的な上下方向ガタやそのバラツキを最小化することにある。
【0010】
上記従来例のいずれの場合でも、スライド駆動装置に関するガタ発生個所(要因)は、コンロッド上端部とクランク軸(偏心部)との第1の連結個所、コンロッド下端部とサスペンション機構との第2の連結個所およびサスペンション機構とスライドとの第3の結合個所に大別される。
【0011】
第1の連結個所は、その構造が簡単であることから、部品加工精度および組立て精度に応じた範囲内で決まり機械的構造の改変による大幅な高精度化は難しい。第3の結合個所は、サスペンション機構(雌ねじ部材)とスライドとが一体的に固着されているので、雄ねじと雌ねじとの螺合時精度で決まる。これも、ねじ加工精度および組立て精度に応じた範囲内で決まるので機械的構造の改変による大幅な高精度化は難しい。なお、雌雄ねじを一体的に固定化可能な油圧式ねじロック手段を設ける場合は、第3の結合個所についてのプレス運転中のガタを無くすことはできる。因みに、油圧式ねじロック手段は、特許文献1の場合は油圧室16を設け、特許文献2の場合は油室35を設けることで構築されている。
【0012】
しかし、第2の連結個所は、コンロッドの円滑で安定した揺動運動および上下運動を維持し、さらにはプレス成形中か否か、或いはスライドの速度変化に伴う慣性力によって切換わる向き反対の負荷(荷重)に確実に耐える等の基本的機能を担保するために、構造複雑でかつ高精度加工部品を高精度組立てしなければならない。また、運用の実際において、計画上の所定精度を確立するまでに多くの手間と時間を要する。これらは、コスト低減を妨げる要因にもなっている。このような問題が内在するにも拘わらず、基本的構造が従来例の場合のように限定(慣用化)され大幅な改変に至っていないのが実状である。
【0013】
本発明の目的は、ガタが少なく高精度でプレス運転可能なスライド駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
各連結個所に関する詳細な試験研究によると、第2の連結箇所のガタを半減できるならば、装置全体の高精度化を達成できかつ今後のプレス成形技術の趨勢に応えることができると分析した。
【0015】
すなわち、従来例(特許文献1)の場合、原理説明図[図5(B)]に示すように、プレス連続運転時の過酷な熱要因(熱膨張変形)を見込んで、コンロッド下端部(球形体2B)と上枠体(8)の半円球形内面とのクリアランスC21および下枠体(7)の半円球形内面とのクリアランスC22の値が決められている。C21の値はC22の値と同じである。つまり、球形体2Bの外側全方向に同一値のクリアランスを設ける考え方である。
【0016】
プレス成形中のプレス成形荷重Pprsを接触状態にある下枠体(7)の半円球形内面とコンロッド下端部(球形体2B)の下端外周面とで受けかつコンロッド側に伝達する場合は、上枠体(8)の半円球形内面とコンロッド下端部(球形体2B)の上側外周面との間のガタは同図(A)に示すようにC2(=C21+C22)となる。一方、非プレス成形中のスライド荷重Psrdを接触状態にある上枠体(8)の半円球形内面とコンロッド下端部(球形体2B)の上側外周面で受けかつコンロッド側に伝達するときは、下枠体(7)の半円球形内面とコンロッド下端部(球形体2B)の下側外周面との間のクリアランスは同図(C)に示すようにC2=(C21+C22)となる。
【0017】
第1の連結箇所と比べ第2の連結箇所の摺動部の径は小さいが、第2の連結箇所には十分なガタが求められる。すなわち、クランク軸の回転に伴う第1の連結箇所の摺動部の摺動速度に比べ、コンロッドの揺動に伴う摺動部の摺動速度は小さい。しかし、受ける荷重が同じであるのに第2の連結箇所の熱容量の方が第1の連結箇所の熱容量に比べて小さい。第2の連結箇所は構造上潤滑油の強制循環による効果的な冷却が行なえない。かくして、第2の連結箇所の温度上昇が大きくなるので、第2の連結箇所のガタ(クリアランス)を大きくしなければならない。また、常時相対可動状態である第2の連結個所のガタ(C2)は、通常相対静止状態である第3の連結個所のガタ(C3)よりも大きい。しかも、例えば電子部品のプレス成形速度は一段と高速に、その運転態様は一層長期間に渡る連続運転となる傾向にあるので、従来構造のままではガタ(C2)の値を一段と大きくしなければならないと考えられる。
【0018】
ここに、上記の通り第2の連結個所のガタ(C2)を半減できれば、スライド装置全体の大幅な高精度化を達成できる。また、第3の連結個所のガタ(C3)を忍受したとしても従来例の場合に比較してスライド装置全体の高精度化を向上できるから、油圧式ねじロック手段の導入を省略でき得る。この油圧式ねじロック手段を省略すれば、プレス運転中にダイハイト調整が実行可能になるから、プレス成形態様やプレス機械の運用形態を拡大することができる。コスト削減もできる。
【0019】
本発明は、スライド駆動装置に関する長年の慣行を打ち破る大胆でユニークな改変に関し、第2の連結個所における向き反対のプレス成形荷重Pprsとスライド荷重Psrdとを受けかつコンロッド側に伝達する機械的構造を別個独立形式に構築したことを特徴とするものである。
【0020】
詳しくは、請求項1の発明に係るスライド駆動装置は、クランク軸の回転運動をコンロッドおよびサスペンション機構を通してスライドの昇降運動に変換しつつスライド駆動するスライド駆動装置において、コンロッドの下端部に下方に凸形状の雄円筒形状外面を有する雄円筒形状部材を形成しかつ円環部材に回転自在に保持された水平ピン部材を設けるとともに、下部側が下方に凸形状の雌円筒形状内面を有する雌円筒形状部材に連結されかつ上部側が該円環部材に被嵌装着可能に形成された押え部材を設け、プレス成形中はスライド側の雌円筒形状内面とコンロッド側の雄円筒形状外面とを接触状態としかつプレス成形荷重を当該接触内外面を通してコンロッド側に伝達可能に形成され、非プレス成形中は押え部材の上部側を円環部材に懸架させることで雌円筒形状内面と雄円筒形状外面とを非接触状態としかつスライド荷重を押え部材、円環部材および水平ピン部材を通してコンロッド側に伝達可能に形成されている。
【0021】
また、請求項2の発明に係るスライド駆動装置は、クランク軸の回転運動をコンロッドおよびサスペンション機構を通してスライドの昇降運動に変換しつつスライド駆動するスライド駆動装置において、コンロッドの下端部に、仮想中心を通る水平軸線を中心としかつ下方に凸形状の雄円筒形状外面を有する雄円筒形状部材を形成するとともに該水平軸線を中心としかつ水平軸線方向に延びる水平ピン部材を設け、サスペンション機構を、水平ピン部材を回転自在に保持する円環部材と,スライド側の雌ねじ部材と螺合される雄ねじ部材と、上部側が該円環部材に懸架可能で下部側が雄ねじ部材に連結された押え部材とを含みスライドをサスペンション可能に形成し、該雄円筒形状外面の形状に対応する下方に凸形状の雌円筒形状内面を有する雌円筒形状部材を該雄ねじ部材の上部側に配置し、プレス成形中はプレス成形荷重により雌円筒形状内面と雄円筒形状外面とを接触状態に保持可能かつ押え部材と円環部材とを非接触状態に保持可能に形成され、非プレス成形中はスライド荷重により押え部材と円環部材とを接触状態に保持可能かつ雌円筒形状内面と雄円筒形状外面とを非接触状態に保持可能に形成されている。
【0022】
さらに、請求項2の従属項である請求項3の発明は、雄円筒形状部材が円筒体から形成され、雌円筒形状部材が半割り円筒体から形成されている。請求項4の発明は、スペーサーを用いて押え部材の下端面と雄ねじ部材の上端面との隙間を拡縮することで非接触状態の雌円筒形状内面と雄円筒形状外面との間のクリアランスを調整可能に形成されている。請求項5の発明は、雄円筒形状部材と水平ピン部材とが隙間のない一体的構造である。請求項6の発明は、雌円筒形状部材と雄ねじ部材とが仮想中心を通る垂直軸線を中心に相対回転可能である。請求項7の発明は、コンロッドの下端部の水平ピン部材よりも上方に位置する肩部が押え部材と非接触とされている。さらに、請求項8の発明は、押え部材の起立外周面とクランク軸を収容するクラウンとの間にスラスト受けガイドが装着されている。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、ガタが少なく高精度なプレス運転ができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の場合と同様にガタが少なく高精度なプレス運転ができるとともに装置具現化が容易でコスト低減ができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、さらに製造コストを大幅に低減でき、組立・精度出し作業を一段と迅速かつ簡単に行える。
【0026】
請求項4の発明によれば、請求項2、3の各発明の効果に加え、雌円筒形状内面と雄円筒形状外面とのクリアランス調整が容易であり、最小のクリアランスを設定して一段の高精度化運転を行える。また、請求項5の発明によれば、請求項2〜4の各発明の効果に加え、コンロッドの製造コストを低減できる。
【0027】
請求項6の発明によれば、請求項2〜5の各発明の効果に加え、ダイハイト調整を円滑に行える。請求項7の発明によれば、請求項2〜6の各発明の効果に加え、コンロッド下端部および押え部材の製造コストを一段と低減できる。請求項8の発明によれば、請求項2〜7の各発明の効果に加え、一段と円滑なプレス運転を行える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るスライド駆動装置を説明するための正面縦断面図である。
【図2】同じく、側面縦断面図である。
【図3】同じく、スライド駆動動作を説明するための図で、(A)はプレス成形時で、(B)は非プレス成形時を示す。
【図4】同じく、雄円筒形状部材および雌円筒形状部材の構造例を説明するための図で、(A)は雄円筒形状部材で、(B)は雌円筒形状部材を示す。
【図5】従来例(スライド駆動装置)のスライド駆動動作と問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
本スライド駆動装置は、図1〜図4に示す如く、コンロッド20の下端部31に下方に凸形状の雄円筒形状外面38Tを有する雄円筒形状部材37Tを形成しかつ円環部材41に回転自在に保持された水平ピン部材45を設けるとともに、下部側(下端面56)が下方に凸形状(上方に凹形状)の雌円筒形状内面48Tを有する雌円筒形状部材47Tに直接または間接的に連結されかつ上部側(内面52I)が円環部材41に被嵌装着可能に形成された押え部材51を設け、プレス成形中はスライド側の雌円筒形状内面48Tとコンロッド側の雄円筒形状外面38Tとの接触状態によりプレス成形荷重Pprsを当該内外面(48T、38T)を通してコンロッド側に伝達可能に形成され、非プレス成形中は押え部材51の上部側(押え天井部52)を円環部材41に懸架させることで雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態としてスライド荷重Psrdを円環部材41および水平ピン部材45を通してコンロッド側に伝達可能に形成されている。
【0031】
なお、押え部材51の下部側(下端面56)と雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)とは、この実施の形態の場合は、雄ねじ部材62(フランジ部63)およびホルダー49を介して間接的に連結されている。
【0032】
詳しくは、コンロッド20の下端部31に図1に示す仮想中心Qを通る水平軸線X2を中心としかつ下方に凸形状の雄円筒形状外面38Tを有する雄円筒形状部材37Tを形成するとともに、水平軸線X2を中心としかつ水平軸線(X2)方向に延びる水平ピン部材45を設け、サスペンション機構40を円環部材41と雄ねじ部材62と押え部材51とを含みスライド90をサスペンション(懸架)可能に形成し、雄円筒形状外面38Tの形状に対応する下方に凸形状(上方に凹形状)の雌円筒形状内面48Tを有する雌円筒形状部材47Tを雄ねじ部材62の上部側(66)に配置し、プレス成形中はプレス成形荷重Pprsにより雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを接触状態に保持可能かつ押え部材51(52I)と円環部材41(42)とを非接触状態に保持可能に形成され、非プレス成形中はスライド荷重Psrdにより押え部材51(押え天井部52の内面52I)と円環部材41(外周面42)とを接触状態に保持可能かつ雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態に保持可能に形成されている。
【0033】
図1、図2において、スライド駆動装置は、クランク軸10の回転運動をコンロッド20およびサスペンション機構40を通してスライド90の昇降運動に変換しつつスライド駆動可能に形成されている。コンロッド20は、上端部21、ロッド部25および下端部31から形成されている。
【0034】
クランク軸10は、プレス本体の一部を構成するクラウン1内に収容され図示しないモータで水平軸線X1を中心に回転可能である。モータは、この実施の形態では、回転数を設定変更可能で、回転方向も設定切換可能なサーボモータである。したがって、スライド速度を切換えることができ、スライド90を垂直軸線Z方向の任意の位置に停止保持することができ、設定位置範囲内でスライド90の昇降を繰り返し切換えることができる。このサーボプレスの特長機能を確実に発現させる観点からも、ガタが少なく高精度運転できるスライド駆動装置の開発が切望されているわけである。
【0035】
コンロッド20の上端部21は、図2に示すように、取付けボルト22を用いて結合分離可能な上・下(半割)半円環組合構造(21U、21D)とされ、クランク軸10(偏心部11)に被嵌装着されている。上端部21とクランク軸10(図1に示す偏心部11)とのクリアランスC1の値は、従来例の場合と同じ(例えば、7/100mm)である。
【0036】
以下の説明中に出てくる垂直軸線Zは上記の水平軸線X1に直交する軸線である。Z方向は垂直軸線Zの延びる方向である。また、図2の水平軸線X2は水平軸線X1に平行である。仮想中心Qは、垂直軸線Zと水平軸線X2との交点である。
【0037】
まず、コンロッド20の下端部31に形成される雄円筒形状部材37Tおよび雄ねじ部材62の上部側(収容部66)に配置(装着)される雌円筒形状部材47Tに関連し、本発明に係る円筒形状部材について説明しておく。円筒形状部材とは従来例(例えば、特許文献1)における球体(球形部材)に対する概念であり、円筒形状部材には円筒体および円筒体の一部周面部分が切り取られた当該残余の円筒形状物体が含まれる。なお、本発明では、内外面を接触状態として円滑な相対摺動をさせることができない多角筒体形状部材を除外する。
【0038】
次に、コンロッド20(下端部31)の機能の点から、球体(外周面)とこれを内装する中空球体(内周面)との接触相対運動と、小円筒体(外周面)とこれを内装する大円筒体(内周面)の接触相対運動とを比較してみる。球体の場合は、接触状態が不均一となり易く、運動のバラツキ(変動)が大きく、また接触面積を大きくすることが難しい。円筒体の場合は、接触面積を大きくとれ、接触状態の均一化が容易で、運動中のバラツキも小さくできる。しかも、球体に比較して円筒体の方が、軽く、加工が容易で、安価であり、精度出し組み立て作業も簡単である。
【0039】
すなわち、本発明は、第2の連結個所における向き反対のプレス成形荷重Pprsとスライド荷重Psrdとを受けかつコンロッド側に伝達する機械的構造を別個独立形式に構築するのみならず、球体(従来例)に対する円筒体の持つ利点を巧みに利用して、大幅なコスト低減を図りつつ装置具現化が容易で、組立・精度出し作業を一段と迅速かつ簡単に行え、ガタが少なく高精度なプレス運転ができるようにしたものである。しかも、装置の小型・軽量化も図ることができる。
【0040】
図1、図2において、コンロッド20の下端部31は、この実施の形態では、円筒体32から形成されている。つまり、雄円筒形状部材37Tは、水平軸線X2を中心としかつX2方向に延びる円筒体32から形成され、その一部が下方に凸形状の雄円筒形状外面38Tを形成する。図4(A)において、円筒体32は、肉厚(t1)の中空形状で、貫通穴35には水平ピン部材45が嵌装される。雄円筒形状外面38Tは、仮想中心Qを中心とする円弧面である。
【0041】
なお、雄円筒形状部材37Tは、円筒体32の一部周面部分を角度θ1で切り取った当該残余の円筒形状物体(ハッチング部分)から形成してもよい。この際、角度θ1の大きさは、内外径および水平軸線X2方向長さが固定値であれば、これに加わる荷重の大きさから決めればよい。接触相対運動の観点からθ1は180度以上とするのが好ましい。特に、この実施の形態の場合のように360度(円筒形32)とした方が、強度およびコストの点から優位である。
【0042】
Z方向において雄円筒形状外面38Tと対向する雌円筒形状内面48Tは、雌円筒形状部材47Tの上部側に形成さている。この雌円筒形状内面48Tは、雄円筒形状外面38Tの形状(凸形状)に対応する形状(上方に凹形状…下方に凸形状)である。雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)は、雄ねじ部材62の上部側(収容部66)に配置(装着)されている。この実施の形態では、図1のホルダー49を介して装着されている。
【0043】
雌円筒形状部材47Tは、この実施の形態では、図4(B)に示す半割り円筒体46から形成されている。雌円筒形状部材47T(半割り円筒体46)は、水平軸線X2を中心としかつX2方向に延びる。その一部が下方に凸形状の雌円筒形状内面48Tを形成する。半割り円筒体46は、肉薄(円筒体32に比較すれば厚みが小さい。つまり、t2<t1である。)の中空半円筒形状で、内部に雄円筒形状部材37Tが嵌装される。雌円筒形状内面48Tは、仮想中心Qを中心とする円弧面であり、雄円筒形状外面38Tと対向する。
【0044】
なお、雌円筒形状部材47Tは、円筒体32Bの一部周面部分が角度θ2(=180度)で切り取られた当該残余の半割り円筒形状物体(ハッチング部分)として形成されていたが、その角度θ2は雄円筒形状外面38Tと雌円筒形状内面48Tとがプレス運転中に常時接触状態を保てるような値に決めればよい。つまり、コンロッド20の揺動運動に伴う雄円筒形状外面38Tの回動運動範囲をフォローできる限りにおいて180度以下としてもよい。また、コンロッド20の揺動角度が小さい場合には180度以上としてもよい。但し、この実施の形態の場合のように角度θ2を180度にした半割り円筒形46から形成する方が、加工・組み立てが楽で、コスト低減もできる。
【0045】
雌円筒形状部材47T(半割り円筒体46)は、図2に示す如く、上部側がボルト49Bでホルダー49に固定されている。ホルダー49の内周面は、雌円筒形状部材47T(半割り円筒体46)の外周面に対応する。ホルダー49の内側の円弧面加工範囲は、プレス運転中に雌円筒形状部材47Tを安定保持できる範囲でよい。
【0046】
図1において、水平ピン部材45は円柱形状で、円筒体32の貫通穴35内に嵌挿されている。この水平ピン部材45は、仮想中心Qを通る水平軸線X2を中心としかつX2方向に延びる。貫通穴35の内周面と水平ピン部材45の外周面との間のクリアランスはゼロ(0)である。つまり、円筒体32(雄円筒形状部材37T)と水平ピン部材45とが隙間のない一体的構造とされている。ガタがない。
【0047】
雄円筒形状部材37Tは、図3に示すようにコンロッド20の下端部31(円筒体32)の水平ピン部材45の位置より下方に位置する部分である。下端部31(円筒体32)の水平ピン部材45の位置よりも上方に位置する部分(肩部33)は、押え部材51の貫通穴53内に収められ、押え部材51(押え天井部52)とは非接触となるように形成されている。
【0048】
水平ピン部材45の外周面と円環部材41の内周面43とのクリアランスは、水平軸線X2を中心とする相対回転に支障がない範囲内であれば良い。このクリアランスは、第2の連結箇所のガタの大きさとは関係しないからである。
【0049】
サスペンション機構40は、円環部材41と押え部材51およびスライド高さ調整部61(雄ねじ部材62、雌ねじ部材72、ウオームねじ81、ウオーム歯車82等)を含み、スライド90をサスペンション可能に形成されている。このスライド高さ調整部61は、ダイハイト調整機構を形成する。
【0050】
図1、図2において、雄ねじ部材62は、上部側にフランジ部63を有する円柱構造である。雄ねじ部材62の下部側の外周面に設けた雄ねじ部67は、スライド(90)側の雌ねじ部材72(雌ねじ部77)と螺合する。フランジ部63には、垂直軸線Zを中心とする有底円筒形状の収容部66が形成されている。収容部66内にホルダー49が収容され、このホルダー49内に雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)が装着されている。雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)は、Z方向において円筒体32の下方部分、つまり雄円筒形状部材37T(雄円筒形状外面38T)と接触分離可能である。
【0051】
ホルダー49の内側の円弧面加工範囲は、プレス運転中に雌円筒形状部材47Tを安定保持できればよいので、比較的に小さな範囲で足りる。もとより、ホルダー49の円弧面は、雌円筒形状部材47Tの雌円筒形状外面(雌円筒形状内面48Tの裏側)に対応する形状であればよいので、内面が半円球形状の従来例(特許文献1)の下枠体(7)を製作する場合に比較して、製作が容易で面加工精度を高くかつ大幅なコスト低減ができる。
【0052】
これに関連し、この発明では肩部33でスライド荷重Psrdを受ける必要がないから押え部材51を小型で単純な構造とすることができる。つまり、内面が半円球形状の従来例(特許文献1)の上枠体(8)を製作する場合に比較して、製作が容易で面加工精度も高くかつコスト低減ができる。しかも、押え部材51から雌円筒形状部材47Tまでの上下方向寸法を、従来例(特許文献1)の上枠体(8)から下枠体(7)までの上下方向寸法に比較して小さくすることができる。したがって、サスペンション機構40を全体的に小型軽量化できる。
【0053】
この雌円筒形状部材47T(ホルダー49)は、仮想中心Qを通る垂直軸線Zを中心に雄ねじ部材62と相対回転可能である。つまり、Z方向下方部が短柱形状のホルダー49(雌円筒形状部材47T)は、最小限のクリアランスを持たせた状態で有底円筒形状の収容部66に回転可能に嵌装されている。したがって、ダイハイト調整時の負荷が軽くなり雄ねじ部材62を円滑に回動できる。
【0054】
フランジ部63の上端面には、第1水平端面64および第2水平端面65が形成されている。第1水平端面64は円環部材41(外周面42)に対向する位置であり、第2水平端面65は押え部材51の下部側(下端面56)に対向する位置である。
【0055】
押え部材51は、全体として円筒形状であり、押え天井部52にはコンロッド20(下端部31)をZ方向に貫通可能な大きさの貫通穴53が設けられ、スカート部54の下端面56はフランジ部63(第2水平端面65)に載置可能である。両者(押え部材51、雄ねじ部材62)は、スペーサー57を介しかつ図1の結合ボルト58を用いて一体的に連結(固着)される。
【0056】
押え天井部52の内面52Iは、図1、図3に示す如く、円環部材41(外周面42)を下方に押えこむ。つまり、押え部材51は、上部側(押え天井部52…内面52I)が円環部材41にサスペンション(懸架)可能で、下部側[スカート部54(下端面56)]が雄ねじ部材62に連結(固着)される。
【0057】
機能的には、押え部材51は、下部側(下端面56)がZ方向において雌円筒形状部材47Tに連結されかつ上部側(内面52I)が円環部材41(外周面42)に被嵌装着できると理解される。なお、下部側(下端面56)と雌円筒形状部材47Tとを、雄ねじ部材62(フランジ部63)およびホルダー49を介して間接的に連結したが、両者(62、47T)を一体に形成して直接連結する構造としてもよい。但し、この実施の形態のように形成すれば、下記するクリアランスC2dの値の調整を簡単に行える。
【0058】
すなわち、上記のスペーサー57は、押え部材51(スカート部54)の下端面56と雄ねじ部材62の上端面(第2水平端面65)との隙間を拡縮することで、非接触状態の雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとの間の図3(B)に示すクリアランスC2dの値を調整するために使用される。
【0059】
スライド(90)側の雌ねじ部材72は、雄ねじ部材62に被嵌装着されかつ雌ねじ部77と雄ねじ部67との螺合により雄ねじ部材62に結合される。雄ねじ部材62を回転させることで、雄ねじ部材62を基準として雌ねじ部材72をZ方向に相対変位させることができる。雌ねじ部材72にはボルト74でプレート93が固定され、このプレート93にボルト95を用いてスライド90が取付けられている。つまり、雄ねじ部材62を回転させることで、コンロッド20(下端部31)に対するスライド90のZ方向の位置を変位させることができる。
【0060】
この雄ねじ部材62のフランジ部63とウオーム歯車82とは、図2に示すコッター84を介して垂直軸線Zを中心に同期回転可能に結合されている。コッター84は、コッターピン85でフランジ部63に回転自在に取付けられかつウオーム歯車82とは上下方向に摺動自在に配置されている。したがって、外部のモータ(図示省略)でウオームねじ軸81S(ウオームねじ81)を回転すれば、スライド90の高さつまりダイハイトを調整することができる。
【0061】
このウオームねじ軸81Sは、図1に示すウオームケース5の内側(装着部6)に図1のころがり軸受83を介して回転可能に収容装着されている。図2において、ウオームケース5の上部側はボルト15でクラウン1に固定され、その下部側にはボルト7でガイド部8(シール部9)が取付けられている。ガイド部8(シール部9)は、雌ねじ部材72の上下移動を案内する。
【0062】
図1に示す押え部材51(スカート部54)の外周面(起立外周面)55とクラウン1[開口部(開口内周面)2]との間には、スカート部54を上下方向に摺動自在に案内するとともに、スライド駆動時のスラスト分力を受けるスラスト受けガイド3が取付けられている。ボルト4で固定される。
【0063】
模式的(簡易的)に表した動作を説明するための図3において、プレス成形中を現す同図(A)に示す如く、スライド90[雄ねじ部材62]側の雌円筒形状内面48Tとコンロッド(20)側の雄円筒形状外面38Tが接触状態(クリアランス無し状態)にある場合は、プレス成形荷重Pprsが当該内外面48T、38Tを通してコンロッド(20)側に伝達可能に形成されている。
【0064】
この際、押え天井部52(内面52I)と円環部材41(外周面42)とは、上下方向において非接触状態であり、そのクリアランスC2uの値は図3(B)に示す内外面38T、48T間のクリアランスC2dの値と同じとされている。
【0065】
図3(A)において、雄ねじ部材62(フランジ部63)の第1水平端面64と円環部材41(外周面42)とは、非接触状態とされる。雄ねじ部材62に加わる上向きのプレス成形荷重Pprsが内外面38T、48Tを通すことなく、水平ピン部材45の両端側に直接伝達されることを防止する。したがって、両者(64、42)間のクリアランスC2msの値は、非接触を維持できる限りにおいて、適宜で小さな値(例えば、2/100mm以下)とすればよい。プレス成形精度には直接関与しないからである。
【0066】
すなわち、スライド(90)側の雌円筒形状内面48Tとコンロッド(20)側の雄円筒形状外面38Tとを接触状態に保持可能でかつ押え部材51(内面52I)と円環部材41(外周面42)とを非接触状態に保持可能に形成されている。この際、雄ねじ部材62側の第1水平端面64および雌円筒形状部材47Tと、円環部材41(42)とは、上記の通り非接触状態に保持される。
【0067】
非プレス成形中を現す図3(B)において、押え部材51の上部側(押え天井部52の内面52I)と円環部材41(外周面42)とを接触状態に保持可能でかつ雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態に保持可能である。この際も、雄ねじ部材62側の第1水平端面64および雌円筒形状部材47Tと、円環部材41(外周面42)とは非接触状態に保持される。クリアランスC2mlの値は、図3(A)に示す場合(C2ms)よりも上方のクリアランスC2uの値分だけ大きくなる。
【0068】
つまり、非プレス成形中は、下部側[スカート部54(下端面56)]が雄ねじ部材62(雌円筒形状部材47T)側に連結(固着)されている押え部材51の上部側(押え天井部52)を円環部材41に懸架させることで、雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態としつつ、スライド荷重Psrdを雄ねじ部材62(雌円筒形状部材47T)、押え部材51、円環部材41および水平ピン部材45を通してコンロッド(20)側に伝達することができる。
【0069】
この際の雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとの間のクリアランスC2dの値は、従来例(特許文献1)のクリアランスC21(=C22)の値と同等以下の値とすることができる。つまり、従来例の場合は、上・下枠体(8、7)がいわば密閉空間(クローズド構造)に形成されていた。また、プレス成形荷重Pprsとスライド荷重Psrdとを上下交互に繰り返して受けていた。このために熱的変形(全方向的な熱膨張量)が非常に大きくなっていた。したがって、直径全方向に等しくかつ大きなクリアランスC21(C22)を設ける必要があり、この和(C21+C22)がガタとなっていたのである。
【0070】
本発明の場合は、雌円筒形状部材47T等がいわば開放空間(オープン構造)であるから、熱発生が少なく放熱も早い。つまり、雄円筒形状部材37T(および雌円筒形状部材47T)の熱膨張量を少なく抑えることができる。したがって、クリアランスC2dの値を、従来例の場合よりも小さくすることもできる。
【0071】
しかも、このクリアランスC2dの値をプレス運転状態(連続性、負荷の大小、プレス成形速度等)に最適でかつ安定運用できる範囲内において最小化できるようにスペーサー57を用いてクリアランス調整可能である。図3において、スカート部54の下端面56と雄ねじ部材62の第2水平端面65との間に適宜な厚さのスペーサー57をセットし、その後に図1のボルト58でスカート部54とフランジ部63とをしっかりと結合させればよい。
【0072】
ここにおいて、従来例の場合は、プレス成形荷重Pprsからスライド荷重Psrdへの切換えの際に、図5(A)に示す状態から同図(C)に示す状態に切換わるので大きなガタ(C21+C22)が生じる。スライド荷重Psrdからプレス成形荷重Pprsに切換わる場合も同じガタ(C21+C22)である。
【0073】
本発明の場合は、プレス成形荷重Pprsからスライド荷重Psrdへの切換えの際は、図3(A)に示す状態から同図(B)に示す状態に切換わるので、ガタ(C2u=C2d)は小さな値である。これとは逆に、スライド荷重Psrdからプレス成形荷重Pprsに切換えの際は、図3(B)に示す状態から同図(A)に示す状態に切換わるので、この場合のガタ(C2d=C2u)も同じ値である。
【0074】
すなわち、スライド荷重Psrdとプレス成形荷重Pprsとの受け位置を異なる位置に変更する改善(構造改変)により、第2の連結個所のガタ(C2d)を従来例の場合(C21+C22)に比較して半減(1/2)以下に減少化することができた。
【0075】
このように、この実施の形態では、油圧式ねじロック手段を設けていないが、油圧式ねじロック手段を設けた従来例の場合と同じスライド駆動装置全体の総合ガタ(精度)に抑えたプレス運転を保障することができる。しかも、雌雄ねじ間を拘束する油圧式ねじロック手段が無いので、プレス運転中にこまめなダイハイト調整をしたいという実際プレス運用上の要請に応えられる。つまり、高品質製品を安定生産することができる。
【0076】
もとより、この実施の形態においても油圧式ねじロック手段を設けることにすれば、コンロッド下端部とサスペンション機構との第2の連結箇所のガタを、従来例の場合(C2=C21+C22)に比較して大幅[C2d=C2×1/2]に向上できる。
【0077】
また、スライド90を頻繁に昇降反転させる際の上下方向ガタの切換差を小さくできるから、ショックレスで円滑な運転ができる。振動も軽減できる。特に、各種のスライドモーションを選択切換えたプレス運転ができるサーボプレスのスライド駆動装置として好適である。
【0078】
なお、調整後のフランジ部63(第1水平端面64)と円環部材41(外周面42)との間のクリアランスC2mlの値は、図3(A)に示す場合(C2ms)の値とクリアランスC2dの値の和である。この場合、押え天井部52(内面52I)と円環部材41(外周面42)とが接触状態であるから、当該時のクリアランスC2uの値はゼロである。
【0079】
かかる実施の形態の作用・動作を説明する。
【0080】
(初期状態)
スライド90が初期位置(例えば、上死点)に位置する初期状態では、図3(B)に示す如く、押え部材51(押え天井部52)が円環部材41を通して水平ピン部材45(球体部32)に担持されている。雄円筒形状外面38Tと雌円筒形状内面48Tとの間のクリアランスはC2dである。円環部材41(外周面42)と第1水平端面64との間のクリアランスC2mlの値はクリアランスC2dの値よりも大きい。つまり、スライド荷重Psrdは水平ピン部材45を通してコンロッド20(下端部31)に伝達される。
【0081】
(プレス運転開始)
クランク軸10を回転させると、コンロッド20の上端部21は水平軸線X1を中心として偏心回転される。ロッド部25(上端部21)は、下端部31(球体部32)を中心に揺動運動する。具体的には、水平ピン部材45が両側円環部材41を軸受としかつ水平軸線X2を中心に回転する。下端部31(円筒部32)は、コンロッド20の揺動角度に応じて上下(Z)方向に移動する。スラスト受けガイド3が設けられているので、揺動運動に伴うスラスト分力を分散できる。
【0082】
(スライド下降)
すなわち、コンロッド20の揺動に伴いスライド90が下死点に向かって下降する。この際は、図3(B)の状態が維持される。
【0083】
(プレス成形)
スライド90が所定位置(例えば、下死点近傍)に進むと、上型が下型内にセットされたワークに当接する。すなわち、プレス成形動作に突入する。すると、プレス成形荷重Pprsが発生する。この上向き反力(Pprs)は、図1に示すスライド90→プレート93→雌ねじ部材72→雄ねじ部材62→雌円筒形状部材47Tに伝達される。したがって、雌円筒形状内面48Tが図3(B)に示す状態から同図(A)に示す状態に変化して雄円筒形状外面38Tに接触する。この切換わりの際に、ガタ(C2d)が発生する。内外面48T、38Tが接触状態であるから、プレス成形荷重Pprsは雄円筒形状部材37T(円筒体32)に伝播され、コンロッド20(下端部31)に伝達される。最終的にはクランク軸10がプレス負荷(プレス成形荷重Pprs)として受け止める。これと並行して、押え天井部52(内面52I)と円環部材41(外周面42)との間のクリアランスC2uが、図3(A)に示すように広がる。このクリアランスC2uの値は、図3(B)に示すクリアランスC2dの値と同じである。しかし、押え部材51および円環部材41(水平ピン部材45)はプレス成形荷重Pprsの伝達に直接関与しないので、クリアランスC2uは総合精度を低下させるガタにはならない。すなわち、従来例の場合のように両クリアランスの和(C2d+C2u)ではない。本発明では、第2の結合個所のガタが半減(C2d)される。
【0084】
(スライド上昇)
プレス成形終了後に、スライド90は上昇し始める。プレス成形荷重Pprsが消滅し、スライド荷重Psrdが発生する。この下向き荷重(Psrd)は、スライド90→プレート93→雌ねじ部材72→雄ねじ部材62→押え部材51に伝達される。このスライド懸架に伴い、雌円筒形状内面48Tは図3(A)に示す状態から同図(B)に示す状態に変化(降下)する。つまり、雌円筒形状内面48Tは降下して雄円筒形状外面38Tと非接触状態となる。クリアランスC2dが広がるが、ガタとはならない。つまり、下向き荷重(Psrd)は、雄ねじ部材62の第2水平端面65を通してこれと一体的に連結された押え部材51の負荷となる。すなわち、押え部材51が降下して円環部材41(外周面42)に当接するから、下向き荷重(Psrd)は円環部材41、水平ピン部材45および下端部31(円筒部32)を通してコンロッド20に伝達される。押え部材51(内面52I)と円環部材41(外周面42)との間のクリアランスC2uの値は、図3(A)に示す最大値から同図(B)示すゼロ(0)となる。下向き荷重(Psrd)の伝達に直接関与するので、クリアランスC2uはガタとなる。しかし、非接触状態の雌円筒形状内面48Tおよび雄円筒形状外面38Tは、スライド荷重Psrdの伝達に直接関与しないので、クリアランスC2dはガタとならない。
【0085】
(スライド昇降反転切換動作)
スライド90をある位置またはある位置範囲内で上昇と下降を繰り返すプレス運転が選択された場合を考える。かかるプレス運転の場合は、クランク軸10の回転方向を切換えることで、スライド下降動作とスライド上昇動作とが交互に繰り返される。しかし、第2の連結個所のガタ(C2d=C2u)が従来例の場合(C21+C22)の値の1/2であるから、従来例の場合に比較して切換え動作時の衝撃や騒音が大幅に弱小化されている。したがって、サーボプレスに固有な特長機能を発現させたプレス運転を続行できる。
【0086】
(第3の結合個所との関係)
第2の連結個所のガタ(C2d=C2u)が従来例の場合(C2)の1/2であるから、油圧ねじロック手段が無い場合でも、従来例による製品品質と遜色のないまたはそれ以上の品質の製品を生産することができる。隙間調整により、ガタ(C2d)を最小化できるからである。もとより油圧ねじロック手段を付設してもよい。この場合には、大幅な高精度化を達成できるから、一段と高品質の製品を生産することができる。すなわち、本発明装置は、従来例に比較して生産すべき製品品質に対する適応性が広い。
【0087】
(クリアランスの調整)
具体的運用条件(連続時間・期間、製品品質、プレス負荷の大小、プレス速度、周囲環境など)に最適な精度を得るには、押え部材51と雄ねじ部材62との間のスペーサー57の交換等により、クリアランスC2dの値を調整すればよい。
【0088】
(ダイハイト調整)
ダイハイト調整を必要とする場合(プレス運転態様、製品形態や保証品質などに好適とするための一策を施す。)には、外部モータ制御により、図1、図2に示すウオームねじ81(81S)を回転させてウオーム歯車82を、垂直軸線Zを中心に回転させる。雄ねじ部材62の回転量に応じて雌ねじ部材72が上下方向に変位する。すなわち、ダイハイト調整ができる。油圧ねじロック手段が無いので、プレス運転中も調整できるから、製品精度・品質のバラツキを最小化できる。雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)が垂直軸線Zを中心に回転できるので、円滑で迅速なダイハイト調整ができる。
【0089】
(プレス停止動作)
クランク軸10の回転を停止させると、コンロッド20(上端部21)の水平軸線X1を中心とする偏心回転が停止する。下端部31(円筒部32)を中心とするコンロッド20の揺動運動も停止する。水平ピン部材45の両側円環部材41を軸受としかつ水平軸線X2を中心とする回転が停止する。通常はスライド90を上死点位置(初期位置)に戻してプレス停止させる。下端部31(円筒部32)はコンロッド20の揺動角度に応じて上下(Z)方向に移動する。サスペンション機構40は図3(B)に示す状態で静止保持される。
【0090】
しかして、この実施の形態によれば、プレス成形中はスライド側の雌円筒形状内面48Tとコンロッド側の雄円筒形状外面38Tとの接触状態により当該内外面を通してコンロッド側にプレス成形荷重Pprsを伝達可能に形成され、非プレス成形中は押え部材51の上部側を円環部材41に懸架させることで雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとを非接触状態としてスライド荷重Psrdを円環部材41および水平ピン部材45を通してコンロッド側に伝達可能に形成されているので、ガタが少なく高精度なプレス運転ができ、高品質なプレス成形品を生産することができる。
【0091】
また、サスペンション機構40が円環部材41と雄ねじ部材62と押え部材51とを含みスライド懸架可能に形成され、雌円筒形状部材47T(雌円筒形状内面48T)を雄ねじ部材62の上部側(66)に配置し、プレス成形中はプレス成形荷重Pprsにより内外面48T、38Tを接触状態に保持可能かつ押え部材51と円環部材41とを非接触状態に保持可能に形成され、非プレス成形中はスライド荷重Psrdにより押え部材51と円環部材41とを接触状態に保持可能かつ内外面48T、38Tを非接触状態に保持可能に形成されているので、低コストで具現化容易であり、一段と確実なサスペンション機能を発現できる。
【0092】
雄円筒形状部材37Tを円筒体32(詳しくは、円筒体32の一部)から形成しかつ雌円筒形状部材47Tを半割り円筒体46から形成したので、さらに製造コストを大幅に低減でき、組立・精度出し作業を一段と迅速かつ簡単に行える。装置の小型、軽量化にも役立つ。
【0093】
また、スペーサー57を用いて押え部材51(56)と雄ねじ部材62(64)との隙間を拡縮して非接触状態の雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとの間のクリアランスC2dを調整可能に形成されているので、雌円筒形状内面48Tと雄円筒形状外面38Tとのクリアランス調整が容易であり、最小のクリアランスを設定可能かつ取り扱い容易である。一段と高品質製品を生産することができ、プレス運転態様、プレス設置環境や製品品質に対する適応性が広い。
【0094】
また、雄円筒形状部材37Tと水平ピン部材45とが隙間のない一体的構造とされているので、不必要なガタを一掃できかつコンロッド(20)自体の製造コストを低減できる。
【0095】
さらに、雌円筒形状部材47Tと雄ねじ部材62とが仮想中心Qを通る垂直軸線Zを中心に相対回転可能に形成されているので、コンロッド下端部31(雄円筒形状外面38T)側に影響を及ぼすことなく雄ねじ部材62を円滑かつ正確に回転できるので、ダイハイト調整を円滑に行える。
【0096】
さらに、コンロッド20の下端部31の水平ピン部材45よりも上方に位置する肩部33が押え部材51と非接触となるように形成されているので、コンロッド下端部31および押え部材51の製造コストを一段と低減できる。
【0097】
さらにまた、押え部材51の起立外周面(55)とクラウン1との間にスラスト受けガイド3が装着されているので、一段と円滑なプレス運転を行える。
【0098】
さらにまた、サスペンション機構40の主要構成部(37T、45、51)の小型軽量化により装置全体の軽量化およびZ方向の寸法の短縮化がでるから、例えば電子部品等を高速・連続・高品質で生産するプレス機械を確立かつ普及できる。
【符号の説明】
【0099】
1 クラウン
3 スラスト受けガイド
10 クランク軸
20 コンロッド
31 下端部
32 円筒体(雄円筒形状部材)
33 肩部
37T 雄円筒形状部材
38T 雄円筒形状外面
40 サスペンション機構
41 円環部材
45 水平ピン部材
46 半割り円筒体(雌円筒形状部材)
47T 雌円筒形状部材
48T 雌円筒形状内面
51 押え部材
52 押え天井部
54 スカート部
57 スペーサー
61 スライド高さ調整部(ダイハイト調整機構)
62 雄ねじ部材
67 雄ねじ部
72 雌ねじ部材
77 雌ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の回転運動をコンロッドおよびサスペンション機構を通してスライドの昇降運動に変換しつつスライド駆動するスライド駆動装置において、
前記コンロッドの下端部に下方に凸形状の雄円筒形状外面を有する雄円筒形状部材を形成しかつ円環部材に回転自在に保持された水平ピン部材を設けるとともに、下部側が下方に凸形状の雌円筒形状内面を有する雌円筒形状部材に連結されかつ上部側が該円環部材に被嵌装着可能に形成された押え部材を設け、
プレス成形中は前記スライド側の該雌円筒形状内面と前記コンロッド側の該雄円筒形状外面とを接触状態としかつプレス成形荷重を当該接触内外面を通して前記コンロッド側に伝達可能に形成され、
非プレス成形中は該押え部材の上部側を該円環部材に懸架させることで該雌円筒形状内面と該雄円筒形状外面とを非接触状態としかつスライド荷重を該押え部材、該円環部材および水平ピン部材を通して前記コンロッド側に伝達可能に形成された、スライド駆動装置。
【請求項2】
クランク軸の回転運動をコンロッドおよびサスペンション機構を通してスライドの昇降運動に変換しつつスライド駆動するスライド駆動装置において、
前記コンロッドの下端部に仮想中心を通る水平軸線を中心としかつ下方に凸形状の雄円筒形状外面を有する雄円筒形状部材を形成するとともに該水平軸線を中心としかつ水平軸線方向に延びる水平ピン部材を設け、
前記サスペンション機構を、該水平ピン部材を回転自在に保持する円環部材と,前記スライド側の雌ねじ部材と螺合される雄ねじ部材と,上部側が該円環部材に懸架可能で下部側が該雄ねじ部材に連結された押え部材とを含みスライドをサスペンション可能に形成し、
該雄円筒形状外面の形状に対応する下方に凸形状の雌円筒形状内面を有する雌円筒形状部材を該雄ねじ部材の上部側に配置し、
プレス成形中はプレス成形荷重により該雌円筒形状内面と該雄円筒形状外面とを接触状態に保持可能かつ該押え部材と該円環部材とを非接触状態に保持可能に形成され、非プレス成形中はスライド荷重により該押え部材と該円環部材とを接触状態に保持可能かつ該雌円筒形状内面と該雄円筒形状外面とを非接触状態に保持可能に形成されている、スライド駆動装置。
【請求項3】
前記雄円筒形状部材が円筒体から形成され、前記雌円筒形状部材が半割り円筒体から形成されている、請求項2記載のスライド駆動装置。
【請求項4】
スペーサーを用いて前記押え部材の下端面と前記雄ねじ部材の上端面との隙間を拡縮することで非接触状態の前記雌円筒形状内面と前記雄円筒形状外面との間のクリアランスを調整可能に形成されている、請求項2または3記載のスライド駆動装置。
【請求項5】
前記雄円筒形状部材と前記水平ピン部材とが隙間のない一体的構造とされている、請求項2〜4までのいずれか1項に記載されたスライド駆動装置。
【請求項6】
前記雌円筒形状部材と前記雄ねじ部材とが前記仮想中心を通る垂直軸線を中心に相対回転可能である、請求項2〜5までのいずれか1項に記載されたスライド駆動装置。
【請求項7】
前記コンロッドの下端部の前記水平ピン部材よりも上方に位置する肩部が前記押え部材と非接触とされている、請求項2〜6までのいずれか1項に記載されたスライド駆動装置。
【請求項8】
前記押え部材の起立外周面と前記クランク軸を収容するクラウンとの間にスラスト受けガイドが装着されている、請求項2〜7までのいずれか1項に記載されたスライド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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