説明

スラグ除去材および除去方法

【課題】1000℃以上1600℃未満の各種金属を溶解する溶解炉や取鍋等から、スラグ除去を迅速に、適確に、安全に、さらに効率的に行うことができ、かつ、溶融点を調整する物質等の添加を必要としない安価なスラグ除去材、および、これらのスラグ除去材を用いたスラグの除去方法を提供する。
【解決手段】1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグの除去に用いられるスラグ除去材であって、スラグ除去材は加熱発泡性を有し、スラグ除去材の強熱減量が0.5〜4質量%であり、1100℃で30秒間加熱発泡させたスラグ除去材加熱発泡体の単位容積質量が0.02〜0.30kg/リットルであるスラグ除去材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄、鋳鋼、その他合金等の鋳造等において、溶融金属上に浮遊するスラグの除去に使用されるスラグ除去材およびスラグの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄、鋳鋼、その他合金等を鋳造する場合、鋳造する金属を電気炉やキュポラ炉等の溶解炉で溶融させた後に、取鍋等に移して鋳込む方法が一般的に用いられる。鋳造の際に、溶解炉や取鍋等の溶融金属表面には、不純物や添加剤等との反応生成物、取鍋等からの耐火物等がスラグとして浮遊している。通常、これらスラグを除去する際には、加熱膨張性を有する鉱物を添加して、スラグを粘着させて取り除く方法が用いられる。
【0003】
溶融金属上に浮遊するスラグの除去について、特許文献1には、注入用とりべ中の溶融鉄金属とスラグとを、そのスラグによる汚染を減少させるために処理する方法において、前記溶融鉄金属とスラグに、鉄金属1t当り0.45〜0.95kg(1〜2ポンド)の量で真珠岩を添加し、スラグを凝固させて溶融金属から除去し易くすることを特徴とする、溶融金属被覆スラグ処理方法が記載されている。具体的には、特許文献1には、8メッシュの篩に留まる粒径(2.36mm以上)が1.5〜2.5%、8メッシュを通過し16メッシュに留まる粒径(1.18〜2.36mm)が70〜90%、16メッシュを通過し20メッシュに留まる粒径(0.85〜1.18mm)が10〜14%、20メッシュを通過する粒径(0.85mm以下)が5.5〜7.5%の粒径範囲の真珠岩を使用することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、スラグ中に、非膨張状態の鉱物質真珠岩と他の物質との混合物を添加することからなり、該他の物質は、該混合物の融点を該真珠岩の融点より低くする性質を有することを特徴とする、溶融金属を被覆するスラグ処理法が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、スラグ除去材の粒径が大きいため、スラグ除去材の溶融が十分に進まず、スラグを十分に粘着することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法では、スラグ除去材として、加熱膨張性を有さない物質を添加するため、スラグ除去材の発泡性が悪くなって、スラグ全体を覆うことが出来なくなり、スラグ除去材の添加量が増加するという問題がある。また、この場合、スラグ除去材の添加量が増加すると、スラグを溶解炉や取鍋から除去する際にスラグ塊の重量が増すため、作業性が悪くなるという問題がある。さらに、添加物(「他の物質」)を混合するため、原材料費や混合にかかる費用が増加するといった問題もある。
【特許文献1】特公昭48−27046
【特許文献2】特公昭48−24922
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1000℃以上1600℃未満の各種金属を溶解する溶解炉や取鍋等から、溶融金属上に浮遊するスラグを除去する作業は、極めて過酷な環境での作業である。そこで、本発明は、1000℃以上1600℃未満の各種金属を溶解する溶解炉や取鍋等から、スラグ除去を迅速に、適確に、安全に、さらに効率的に行うことができ、かつ、溶融点を調整する物質等の添加を必要としない安価なスラグ除去材、および、これらのスラグ除去材を用いたスラグの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、スラグ除去材の粒径分布および強熱減量等を、所定の範囲とすることにより、溶融点を調整する物質等の添加を必要とせず、スラグ除去を迅速に、適確に、安全に、さらに効率的に行えることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグの除去に用いられるスラグ除去材であって、スラグ除去材は加熱発泡性を有し、スラグ除去材の強熱減量が0.5〜4質量%であり、1100℃で30秒間加熱発泡させたスラグ除去材加熱発泡体の単位容積質量が、0.02〜0.30kg/リットルであり、スラグ除去材が、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が0.1mm以下の粒子を0質量%以上30質量%未満、粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子を15質量%以上50質量%未満、粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子を20質量%以上60質量%未満、および粒径が0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子を0質量%以上30質量%未満含むスラグ除去材である。
【0010】
本発明のスラグ除去材の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)スラグ除去材が、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が1.5mmを超える粒子を5質量%未満含む。
(2)スラグ除去材が、粒径が1.5mmを超える粒子を含まない。
(3)スラグ除去材が、黒曜石、真珠岩、松脂岩および軽石から選ばれるいずれか1種の材料または2種以上の混合材である。
(4)スラグ除去材の単位容積質量が、加熱発泡前、0.6〜1.5kg/リットルである。
【0011】
また、本発明は、スラグ除去材を、1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布する工程と、スラグ除去材と、溶融金属表面に浮遊するスラグとが、スラグ塊を形成する工程と、スラグ塊を、除去具を用いて溶融金属表面から除去する工程とを含む、スラグの除去方法である。
【0012】
本発明のスラグの除去方法において、好ましいスラグ塊を形成する工程は、スラグ除去材が、溶融金属により加熱発泡してスラグ除去材加熱発泡体となり、スラグ除去材加熱発泡体が、溶融金属表面に浮遊するスラグを覆う工程と、スラグ除去材加熱発泡体が、溶融金属表面に浮遊するスラグを粘着し、および脱気して収縮し、スラグ塊を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、1000℃以上1600℃未満の各種金属を溶解する溶解炉や取鍋等から、スラグ除去を迅速に、適確に、安全に、さらに効率的に行うことができ、かつ、溶融点を調整する物質等の添加を必要としない安価なスラグ除去材を得ることができ、これらのスラグ除去材を用いたスラグの除去方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、溶融金属表面に浮遊するスラグの除去に用いられるスラグ除去材において、スラグ除去材を構成する粒子の粒径分布や単位容積質量等を適正な範囲のものとしたスラグ除去材であり、そのスラグ除去材を用いたスラグ除去方法である。
【0015】
本発明のスラグ除去材は、以下のような性状および特性等を有する。
(1)溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布する際に、微細粒子が舞い上がる現象を抑制することのできる性状。
(2)スラグ除去材が溶融金属により加熱されて発泡する際に、激しく発泡し、粒子が爆裂して舞い上がる現象を抑制することのできる性状。
(3)スラグ除去材が溶融金属により加熱されて適正に発泡して、スラグ除去材加熱発泡体が溶融金属表面のスラグを必要充分に覆う性状。
(4)スラグ除去材加熱発泡体が溶融金属によってさらに加熱されて軟化し、溶融金属表面に浮遊するスラグを粘着する性状。
(5)スラグ除去材加熱発泡体中のガスが脱気して収縮し、スラグを粘着したスラグ塊を形成する特性。
(6)除去具を用いたスラグ塊を除去する場合の、迅速に、適確に、安全に、さらに効率的に行うことのできる作業性。
【0016】
また、本発明のスラグ除去材は、上記適正な粒径分布に加え、好適なスラグ除去材の原材料、強熱減量、加熱発泡前後の単位容積質量、および溶融金属の温度範囲を有することにより、上記の性状および特性等をさらに優れたものとすることができる。以下、本発明のスラグ除去材およびスラグの除去方法について詳細に説明する。
【0017】
<スラグ除去材の原料>
本発明のスラグ除去材の原料としては、加熱することにより発泡する性質(加熱発泡性)を有する原料を用いることが好ましい。本発明のスラグ除去材の原料として、具体的には、黒曜石、真珠岩、松脂岩であるパーライト原石ならびに天然軽石および人工軽石などの軽石から選ばれるいずれか1種または2種以上の混合材を用いることができる。これらの原料は、溶融金属表面に散布した場合に溶融金属によって加熱されて発泡し、溶融金属表面上に浮遊するスラグ全体を覆ったのち、脱泡して収縮する過程でスラグ塊を形成できるため、本発明のスラグ除去材の原料として好適である。
【0018】
<スラグ除去材の加熱発泡前の単位容積質量>
本発明のスラグ除去材は、加熱発泡前の単位容積質量が、好ましくは0.6〜1.5kg/リットルの範囲、より好ましくは0.65〜1.4kg/リットルの範囲、さらに好ましくは0.7〜1.3kg/リットルの範囲であることがより好ましい。本発明のスラグ除去材は、前記範囲の加熱発泡前の単位容積質量を有することにより、溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布する場合に、スラグ除去材の微細粒子が舞い上がる現象を抑制することができる。
【0019】
<スラグ除去材の強熱減量>
本発明のスラグ除去材は、乾燥工程において強熱減量が0.5〜4質量%の範囲、より好ましくは0.7〜3.5質量%の範囲、さらに好ましくは1〜3質量%の範囲とすることが好ましい。本発明のスラグ除去材の強熱減量は、JIS M 8852に準拠し、1000℃で60分間加熱して測定される。スラグ除去材の強熱減量は、所定温度で所定時間焼成したときの質量の減少率を表すものであるため、スラグ除去材中に含まれる水分や結晶水の量とほぼ一致し、これらの水分や結晶水は、スラグ除去材を加熱した場合に気化し、スラグ除去材を発泡させる役割を果たす。強熱減量が4%よりも高くなると、スラグ除去材に含まれる水分や結晶水の量が多くなり過ぎ、激しく発泡するため、粒子が爆裂して舞い上がる可能性があるため、上記範囲の上限以下であることが好ましい。強熱減量が0.5%よりも少ない場合は、発泡に必要な水分・結晶水の量が少なくなるため、散布した後に溶融金属表面上での発泡せず広がり難くなり、十分にスラグを取り込むことが難しくなる可能性があるため、上記範囲の下限以上であることが好ましい。
【0020】
スラグ除去材の強熱減量の調整は、スラグ除去材中に含まれる水分や結晶水の量を調節することによって行うことができる。例えば、スラグ除去材を、所定の雰囲気・温度で乾燥又は冷却することにより、スラグ除去材の強熱減量を調整することができる。
【0021】
<スラグ除去材の製造方法>
本発明のスラグ除去材は、スラグ除去材の原料を、所定の粒径分布および単位容積質量となるよう乾燥・粉砕、必要に応じて分級・混合して製造される。製造に使用される装置は、スラグ除去材の原料を所定の粒径とすることが可能であれば特に限定はされない。乾燥装置としてはロータリードライヤーおよびバッチ式熱風炉等が、粉砕装置としてはジョークラッシャー、ボールミルおよびロールクラッシャー等が、分級装置としては振動篩およびロータリーシフター等が好適に使用できる。原料を2種以上使用する場合には、混合装置としてリボンブレンダーや円筒型混合機、パドルミキサー等を使用して混合できるが、乾燥装置や粉砕装置に使用する原石をそれぞれ定量供給して、混合乾燥や混合粉砕等を行っても良い。また、粒径を調整するために、分級して篩い分けた原石を所定の粒径となるよう混合して製造しても良い。
【0022】
<スラグ除去材の粒径分布>
本発明のスラグ除去材は、スラグ除去材を構成する粒子の粒径を調整することに特徴がある。スラグ除去材を構成する粒子に微細粒子が多い場合には、高温の溶融金属上での上昇気流にあおられて、散布時の微細粒子の舞い上がりが生じるなどの問題がある。また、粒径の大きい粒子が発泡に要する時間が長いなど、スラグ除去材を構成する粒子の粒径によって発泡するまでの時間が異なる。したがって、散布時の微細粒子の舞い上がり抑制、適正な加熱発泡性および最適な溶融性を制御するために、適正な粒径分布を有するスラグ除去材を用いることが必要である。
【0023】
したがって、本発明のスラグ除去材は、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が0.1mm以下の粒子を、0質量%以上30質量%未満、粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子を、15質量%以上50質量%未満、粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子を、20質量%以上60質量%未満、粒径が0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子を、0質量%以上30質量%未満含むことが好ましい。
【0024】
さらに、本発明のスラグ除去材は、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が0.1mm以下の粒子を、0質量%以上25質量%未満、粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子を、20質量%以上45質量%未満、粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子を、20質量%以上55質量%未満、粒径が0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子を、0質量%以上20質量%未満含むことが好ましい。
【0025】
本発明のスラグ除去材は、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が1.5mmを超える粒子を5質量%未満含むことがより好ましい。
【0026】
本発明のスラグ除去材は、粒径が1.5mmを超える粒子を含まないことがさらに好ましい。
【0027】
スラグ除去材の粒径分布が、前記範囲から外れて微細粒子を多く含むと、スラグ除去材散布時の微細粒子の舞い上がりによる作業環境の悪化が問題となることがある。また、前記範囲から外れて粒径の大きな粒子を多く含むと、スラグ除去材の加熱発泡性が悪くなり、溶融金属表面に浮遊するスラグを覆うだけの体積膨張が起こらず、また、溶融金属表面での溶融が不十分となり、スラグ捕捉性が低下することがある。そのため、本発明のスラグ除去材の粒径分布は、前記範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明のスラグ除去材では、粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子は、1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグの表面で速やかに加熱されて発泡し易いため、溶融金属表面に添加した後に瞬間的にスラグ除去材の広がりを形成し易く、スラグ全体を覆い易くなる。粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子の割合が、前記の好ましい範囲より少ない場合、発泡しやすい細かい粒子が不足するため、溶融金属表面に浮遊するスラグの表面に添加した時にスラグ除去材が広がり難くなる可能性がある。また、前記の好ましい範囲よりも多くなると、スラグ除去材が加熱発泡してスラグを取り込んだ後、スラグ除去材加熱発泡体の溶融が進み過ぎて粘性が過剰に低下するため、スラグを凝集させる効果が小さくなるとともに、溶解炉や取鍋からスラグ塊を取り除く際に一塊とならず分離し、スラグの除去作業性が低下する可能性がある。そのため、本発明のスラグ除去材は、前記の粒径分布を有することが好ましい。
【0029】
本発明のスラグ除去材では、粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子および0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子が、適正量含まれることにより、前記の粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子の加熱発泡から若干遅れて加熱発泡し、前記の粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子の加熱発泡によって瞬間的に形成されたスラグ除去材の広がりをさらに補完する機能を有する。また、スラグ除去材が加熱発泡してスラグを取り込んだ後に過度に溶融しない。粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子は溶融金属の温度が1000℃以上1450℃未満の場合に、粒径が0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子は溶融金属の温度が1450℃以上1600℃未満の場合に、粘性を適正に保持する役割を担い、溶解炉や取鍋からスラグ塊を取除く際に良好な作業性を得ることができる。したがって、本発明のスラグ除去材は、1000℃以上1600℃未満の温度範囲においてその効果を奏する。
【0030】
<スラグ除去材の加熱発泡後の単位容積質量>
本発明のスラグ除去材は、1100℃で30秒間加熱発泡させた後の単位容積質量が、好ましくは0.02〜0.30kg/リットルの範囲、さらに好ましくは0.05〜0.27kg/リットルの範囲、特に好ましくは0.07〜0.25kg/リットルの範囲であることが好ましい。加熱発泡させたときの単位容積質量が上記範囲の下限よりも小さい場合、溶融金属表面に浮遊するスラグ上にスラグ除去材を散布した際に、発泡性が高過ぎて、スラグ除去材が爆裂して舞い上がり、作業環境が悪化する可能性があるため、上記範囲の下限以上であることが好ましい。また、上記範囲の上限よりも大きい場合、スラグ除去材を溶融金属表面に添加した際の加熱発泡が不十分となり、少量のスラグ除去材で溶融金属表面に浮遊するスラグを完全に覆うことができなくなる可能性があるため、上記範囲の上限以下であることが好ましい。
【0031】
<溶融金属>
本発明のスラグ除去材は、各種金属の鋳鉄、鋳鋼、その他の合金等の鋳造等において、溶解炉や取鍋等の溶融金属表面に浮遊するスラグの除去材として用いられる。本発明のスラグ除去材は、鋳造において溶融金属表面に浮遊するスラグを除去するために用いることが好ましいが、それに限定されず、溶融金属表面のスラグ状の不純物を除去するために用いることができる。また、本発明のスラグ除去材を使用することができる溶融金属としては、特に限定されるものではなく、鉄・鋼・アルミ合金・銅・真鍮、その他合金等を鋳造する場合に、溶融金属表面に浮遊するスラグの表面にスラグ除去材を散布して用いることができる。
【0032】
本発明のスラグ除去材が使用できる溶融金属の温度は、好ましくは1000℃以上1600℃未満の範囲、さらに好ましくは1100℃以上1575℃未満の範囲、より好ましくは1200℃以上1550℃未満の範囲であり、溶融金属の温度が前記範囲であれば、溶融金属表面に浮遊するスラグの表面にスラグ除去材を散布した場合に優れたスラグ除去効果を得ることができる。
【0033】
本発明のスラグ除去材が使用できる金属溶解設備としては、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている金属溶解設備で使用でき、例えば、電気炉等の溶解炉のスラグや、電気炉やキュポラ炉等の溶解炉で溶融させた後に、取鍋等に移した状態のスラグの除去に使用することができる。
【0034】
本発明のスラグ除去材が使用できる金属溶解設備の規模・大きさについては、特に限定されるものではないが、電気炉等の溶解炉や取鍋の場合、溶融金属の上面の面積が、好ましくは20m以下であること、さらに好ましくは10m以下、特に好ましくは5m以下であることが、スラグ除去材の散布作業およびスラグ除去塊を取除く作業を効率的に行えることから好ましい。
【0035】
<スラグ除去方法>
次に、本発明のスラグ除去方法について詳細に説明する。
【0036】
本発明のスラグ除去方法は、スラグ除去材を、1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布する工程と、スラグ除去材と、溶融金属表面に浮遊するスラグとが、スラグ塊を形成する工程と、スラグ塊を、除去具を用いて溶融金属表面から除去する工程とを含むスラグの除去方法である。
【0037】
また、より具体的には、本発明のスラグ除去方法は、上記のスラグ塊を形成する工程が、スラグ除去材が溶融金属により加熱発泡して、スラグ除去材加熱発泡体が溶融金属表面のスラグを覆う工程と、スラグ除去材加熱発泡体が溶融金属により加熱されて軟化し、溶融金属表面に浮遊するスラグを粘着しつつ、スラグ除去材加熱発泡体中のガスが脱気して収縮し、スラグを粘着したスラグ塊を形成する工程とを含む。すなわち、溶融金属表面に浮遊するスラグに対してスラグ除去材が散布されると、溶融金属によってスラグ除去材は加熱されて速やかに発泡し、浮遊するスラグを覆うようにスラグ除去材加熱発泡体の層を形成する。次に、スラグ除去材加熱発泡体は、溶融金属によって加熱されて軟化し、粘着性を有しているため、スラグを粘着捕捉する。スラグ除去材加熱発泡体は、さらに溶融金属によって加熱されると、発泡部分からガスが抜けてスラグを粘着捕捉したまま収縮・凝集し、スラグ塊を形成する。
【0038】
本発明のスラグ除去方法では、スラグ除去材の使用量は特に限定されず、溶融金属表面に浮遊するスラグ量などによって、適宜使用量を設定することができ、電気炉等の溶解炉や取鍋の場合、溶融金属の上面1m当たり、好ましくは0.3〜7kg、さらに好ましくは0.5〜6kg、特に好ましくは1〜5kg散布して使用することにより、良好なスラグ除去効果を得ることができる。
【0039】
スラグ除去材の散布方法は、特に限定されず、投入装置を用いて機械的に散布することができ、また耐熱防御服を着用した作業者が手作業で散布することもできる。
【0040】
スラグ除去材が溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布されてから、加熱発泡してスラグ除去材加熱発泡体を形成し、発泡部分から脱泡して収縮・凝集し、スラグ塊を形成するまでの時間は、数秒、例えば3〜60秒程度で、スラグ塊は鉄筋等を使用して直ちに溶解炉や取鍋等からすくいあげることができる。
【0041】
溶融金属表面に形成されたスラグ塊は、鉄筋等を用いて溶融金属表面から除去される。溶融金属表面に浮遊するスラグ量が多く、鉄筋等で持ち上げるのが困難な場合には、溶解炉や取鍋をやや傾けた状態にしてスラグ除去材を散布し、スラグ塊を形成させた後に、掻き棒等でスラグを掻き出しても良い。
【0042】
本発明のスラグ除去材を所定の温度の溶融金属上のスラグ除去に用いた場合、少量のスラグ除去材をスラグが浮遊する溶融金属表面に散布することにより、速やかに発泡してスラグを覆って粘着し、続いて脱泡してスラグを粘着したまま収縮してスラグ塊を形成し、そのスラグ塊を取除くことができ、迅速に、適確に、安全に、さらに効率的にスラグ除去を行うことができる。これにより、過酷な高温作業環境での作業者の負荷を大幅に軽減することができる。
【0043】
また、本発明では、スラグ除去材の単位容積質量、強熱減量および粒径を適正な範囲に調整しているため、溶融金属表面にスラグ除去材を散布した際に、微細粒子が舞い上がる現象を殆ど抑制でき、良好な作業環境の確保が可能となる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
(1)スラグ除去材の調製
<スラグ除去材A>
真珠岩aをジョークラッシャーで粉砕して13.2mm以下とした後、ロータリードライヤーを用いて原料温度が200℃となるよう乾燥させ、さらにロールクラッシャーを用いて粉砕し、1.5mmおよび0.3mmの篩目の金網を装着した振動篩を使用して分級して1.5mm以上を除去し、0.3〜1.5mmおよび0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜1.5mmの粒群と0.3mm以下の粒群を質量比で70:30で混合し、スラグ除去材Aを得た。
【0045】
<スラグ除去材B〜D>
スラグ除去材Aと同様の方法で真珠岩aを乾燥・粉砕し、0.85mmおよび0.3mmの篩目の金網を装着した振動篩を使用して分級して0.85mm以上を除去し、0.3〜0.85mmおよび0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜0.85mmの粒群と0.3mm以下の粒群を質量比で90:10、60:40および20:80で混合し、スラグ除去材B〜Dを得た。
【0046】
<スラグ除去材E>
スラグ除去材Aと同様の方法で真珠岩aを乾燥・粉砕し、0.6mmおよび0.3mmの篩目の金網を装着した振動篩を使用して分級して0.6mm以上を除去し、0.3〜0.6mmおよび0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜0.6mmの粒群と0.3mm以下の粒群を質量比で50:50で混合し、スラグ除去材Eを得た。
【0047】
<スラグ除去材F>
スラグ除去材Aと同様の方法で真珠岩aを乾燥・粉砕し、3.35mmおよび0.3mmの篩目の金網を装着した振動篩を使用して分級して3.35mm以上を除去し、0.3〜3.35mmおよび0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜3.35mmの粒群と0.3mm以下の粒群を質量比で85:15で混合し、スラグ除去材Fを得た。
【0048】
<スラグ除去材G>
真珠岩bおよび黒曜石cを質量比で50:50となるように、それぞれをロータリードライヤーに送入し、原料温度が280℃となるよう混合乾燥した後、ロールクラッシャーで粉砕し、1.2mmの篩目の金網を装着した振動篩で分級して1.2mm以上の粗粒を除去し、スラグ除去材Gを得た。
【0049】
<スラグ除去材H>
原料温度が150℃となるよう乾燥した以外は、スラグ除去材Gと同様の方法でスラグ除去材の製造を行い、スラグ除去材Hを得た。
【0050】
<スラグ除去材I>
軽石dをロータリードライヤーを用いて原料温度が400℃となるよう乾燥した後、ロールクラッシャーで粉砕し、0.85mmおよび0.3mmの篩を装着した振動篩で分級して0.3〜0.85mmと0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜0.85mmの粒群と0.3mm以下の粒群とを質量比で75:25で混合し、スラグ除去材Iを得た。
【0051】
<スラグ除去材J>
真珠岩eをロータリー原料温度が450℃となるようロータリードライヤーを用いて乾燥した後、ロールクラッシャーで粉砕し、0.85mmおよび0.3mmの篩目の金網を装着した振動篩を使用して分級して0.85mm以上を除去し、0.3〜0.85mmおよび0.3mm以下の2つの粒群に分級した。0.3〜0.85mmの粒群と0.3mm以下の粒群を質量比で70:30で混合し、スラグ除去材Jを得た。
【0052】
(2)スラグ除去材の物性測定
得られたスラグ除去材について、JIS A 5007「パーライト」に準拠して「単位容積質量」および「粒度(粒径)」を測定した。
【0053】
(3)スラグ除去材の発泡性試験
得られたスラグ除去材3gを1100℃に調整した箱型電気炉内の白金るつぼ(内径φ70mm×高さ40mm)内に投入し、30秒間加熱した後取り出した。発泡後のスラグ除去材の質量とメスシリンダーを用いて測定した容積から、各スラグ除去材の単位容積質量を求め、「加熱発泡後の単位容積質量」とした。
【0054】
(4)スラグ除去材の発泡性試験
スラグ除去材の強熱減量は、JIS M 8852に準拠して測定した。すなわち、1000℃で60分間加熱した場合の質量の減少率を測定することにより、強熱減量を測定した。
【0055】
(5)スラグ除去材によるスラグ除去実験
ねずみ鋳鉄鋳造試験を行う際に、800kgの溶融金属の入った取鍋内(内寸法;直径φ0.5m×0.7m)に浮遊するスラグを、上記除滓材A〜Iを600g散布し、スラグ除去材が凝集した後、鉄筋を用いて直ちにスラグを取鍋より取り除いた。スラグ除去材は、スラグ除去材B〜E、G〜Jを1400℃の溶融金属のスラグ除去に、スラグ除去材AおよびFを1500℃の溶融金属のスラグ除去に使用した。取鍋上のスラグが十分除去できない場合には、スラグ除去材は必要に応じて適宜追加して散布しながら、スラグ除去を行い、取鍋上にスラグが無くなるまでこの操作を繰り返した。また、スラグ除去材を添加するときの発塵量を目視により確認した。また、スラグ除去後の取鍋内の溶融金属の温度は放射温度計(横河M&C株式会社製 携帯用ディジタル放射温度計PM173)により測定した。
【0056】
(6)実験結果
得られたスラグ除去材の物性測定結果、発泡性試験結果、スラグ除去回数およびスラグ除去材の使用量を表1に示す。スラグ除去材A、C、E、G、Iは、0.1〜0.3mm、0.3〜0.6mmおよび0.6〜1.5mmの粒径の粒子を適度に含み、かつ1100℃で30秒間加熱発泡させたときの単位容積質量が0.02〜0.30kg/リットルの範囲にあるため、取鍋上のスラグを1回の操作で除去できた。また、0.1mm以下の粒径の粒子が30質量%未満、かつ、強熱減量が0.5〜4%となるように調整したため、スラグ除去材を取鍋上へ散布したときの発塵が少なかった。
【0057】
これに対して、スラグ除去材Bは、0.1〜0.3mmの粒径の粒子が15質量%より少ないため、取鍋上での溶融が不十分で、追加の除滓材を必要とし、スラグ除去回数も2回となった。スラグ除去材Dは、0.1〜0.3mmの粒径の粒子を50質量%を超えて含有するため、取鍋上で溶融が進んで、スラグ除去作業時にスラグ塊が分離し易くなり、スラグを除去するのに3回の作業が必要であった。また、スラグ除去材Dは、0.1mm以下の粒径の粒子を30質量%以上含むため、添加時に発塵を伴った。スラグ除去材Fは、0.6〜1.5mmの粒径の粒子を多く含み、これらの粒径の粒子が十分に溶融しないため、これらの粒子がスラグ除去材として作用せず、追加のスラグ除去材を必要とし、スラグ除去回数も3回必要であった。スラグ除去材Hは、スラグ除去性能に問題はなかったが、強熱減量が4.5%と多いため、溶融金属表面に散布後、スラグ除去材が発泡・爆裂し、発塵が多くなった。スラグ除去材Jは、加熱発泡後の単位容積質量が0.33kg/リットルと重いため、取鍋上で広がり難いため、スラグ除去材の添加量が増加し、スラグの除去回数も4回と多くなった。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグの除去に用いられるスラグ除去材であって、
スラグ除去材は加熱発泡性を有し、
スラグ除去材の強熱減量が0.5〜4質量%であり、
1100℃で30秒間加熱発泡させたスラグ除去材加熱発泡体の単位容積質量が、0.02〜0.30kg/リットルであり、
スラグ除去材が、スラグ除去材(100質量%)中に、
粒径が0.1mm以下の粒子を0質量%以上30質量%未満、
粒径が0.1mmを超えて0.3mm以下の粒子を15質量%以上50質量%未満、
粒径が0.3mmを超えて0.6mm以下の粒子を20質量%以上60質量%未満、および
粒径が0.6mmを超えて1.5mm以下の粒子を0質量%以上30質量%未満含むスラグ除去材。
【請求項2】
スラグ除去材が、スラグ除去材(100質量%)中に、粒径が1.5mmを超える粒子を5質量%未満含む、請求項1記載のスラグ除去材。
【請求項3】
スラグ除去材が、粒径が1.5mmを超える粒子を含まない、請求項1記載のスラグ除去材。
【請求項4】
スラグ除去材が、黒曜石、真珠岩、松脂岩および軽石から選ばれるいずれか1種の材料または2種以上の混合材である、請求項1〜3のいずれか1項記載のスラグ除去材。
【請求項5】
スラグ除去材の単位容積質量が、加熱発泡前、0.6〜1.5kg/リットルである、請求項1〜4のいずれか1項記載のスラグ除去材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のスラグ除去材を、1000℃以上1600℃未満の溶融金属表面に浮遊するスラグに対して散布する工程と、
スラグ除去材と、溶融金属表面に浮遊するスラグとが、スラグ塊を形成する工程と、
スラグ塊を、除去具を用いて溶融金属表面から除去する工程と
を含む、スラグの除去方法。
【請求項7】
スラグ塊を形成する工程が、
スラグ除去材が、溶融金属により加熱発泡してスラグ除去材加熱発泡体となり、スラグ除去材加熱発泡体が、溶融金属表面に浮遊するスラグを覆う工程と、
スラグ除去材加熱発泡体が、溶融金属表面に浮遊するスラグを粘着し、および脱気して収縮し、スラグ塊を形成する工程と
を含む、請求項6記載のスラグの除去方法。