説明

スラストころ軸受用保持器およびスラストころ軸受

【課題】スラストころ軸受の保持器の構造を簡素化して強度を向上させ、かつ円筒ころを保持可能とすることである。
【解決手段】保持器6は、環状部7と、その環状部7から径方向内向きに突出し周方向に間隔をおいて環状部7と一体に設けた複数の柱部8とから成り、その環状部7と隣接する柱部8、8とにより円筒ころを収納するポケット9を形成し、ポケット9の側面9aを円筒ころを保持できる円筒面に形成し、ポケット9の先端部に円筒ころの端面に係合する抜け止め部14を設けるようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高負荷用のスラストころ軸受に用いる保持器、およびこれを組み込んだスラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント原料等を粉砕する粉砕機の減速機等に使用される高負荷用のスラストころ軸受に用いる保持器としては、例えば、特許文献1に開示されているように、円環状の内リング部から放射状に突出する複数の柱部を内リング部と一体に設けた保持器本体と、各柱部の外周に嵌り合う円環状の外リング体とから構成され、保持器本体の各柱部の先端面および外リング体に径方向のピン穴が設けられ、そのピン穴にピンを圧入し、保持器本体と外リング体を一体化したものがある。
【0003】
保持器本体と外リング体との一体化により、保持器本体の内リング部、複数の柱部および外リング体で円筒ころを収納するポケットが形成される。そして、スラストころ軸受の回転時、遠心力が作用する円筒ころの端面が、ポケットの端面、すなわち、外リング体の内面に押し付けられ回転する。
【0004】
しかしながら、上記スラストころ軸受用保持器は、軸受の回転による保持器の振動、あるいは円筒ころが遠心力によって外リング体の内面に強く押し付けられるなどにより、締結の緩みが発生し、様々な支障が生じる原因となる。
【0005】
また、スラストころ軸受の回転時、円筒ころの軸方向の端面は、その外周縁部のみが円環状の外リング体の内面に接触する状態、いわゆるエッジ当たりとなる。この状態において、円筒ころは外リング体の内面に押し付けられ摺動するので、外リングの内面に局部的な摩耗が生じる恐れがある。このため、円筒ころの端面形状を球面にする必要があり、ころの加工工数が増加する問題がある。
【0006】
上記のほか、図10に示すように、保持器を水平方向に半割りにして上下の保持部材を形成したものがある。すなわち、上側保持部材は上側外リング部21aと上側内リング部22aを柱部23aによって一体に接続し、同様に、下側保持部材は下側外リング部21bと下側内リング部22bを柱部23bによって一体に接続し、円筒ころ24を上下の保持部材で挟持して、ビス25等により接続する構造となっている。このような保持器は、上下の保持部材を精密に対応合致させる必要があり、加工に手間を要し、また、使用中に、締結が緩む恐れがあることは前述と同様である。
【0007】
これらの保持器は、円筒ころを保持するため少なくとも2点の部材をねじなどの締結手段で一体化しており、部品点数が増え、さらに組み立て工数が増加する問題がある。
【0008】
一方、図10の上側保持部材だけを円筒ころの保持器として用いるものもあるが、円筒ころを全く保持することができないので、取り扱い性が悪い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−258130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の第1の課題は、円筒ころ保持器の構成部材数を可能な限り少なくし、しかも、一定範囲で円筒ころを保持可能とすることである。この発明の第2の課題は、最小の部材で保持器を形成し、円筒ころを保持器から脱落しないように保持可能とすることである。この発明の第3の課題は、通常の平坦な端面を有する円筒ころを用いても、保持器のポケット端面に対してエッジ当たりが生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の課題を解決するために、この発明に係るスラストころ軸受用保持器は、環状部と、その環状部から径方向内向きに突出し周方向に間隔をおいて前記環状部と一体に設けた複数の柱部とから成り、前記環状部と前記隣接する柱部とにより円筒ころを収納するポケットを形成し、前記柱部の側面に円筒ころの周方向外周に沿った円筒面を形成することにより、前記円筒ころを少なくとも周方向に脱落しないように保持したのである。
【0012】
上記第2の課題を解決するために、この発明においては、前記ポケットの端部に円筒ころが係合する抜け止め部を設け、ポケットから円筒ころが軸方向へ脱落することを防止したのである。
【0013】
上記第3の課題を解決するために、この発明においては、前記ポケットの内端面、即ち、環状部の内面を平坦に形成し、端面が平坦な通常の円筒ころを用いてもエッジ当たりが生じないようにしたのである。
【0014】
上記スラストころ軸受用保持器において、前記環状部を直径方向で対向する2つの前記柱部の位置で周方向に2分割することにより一対の保持器分割体を形成し、その保持器分割体の割り口部を相互に結合して環状に一体化するようにした構成としてもよい。
【0015】
両保持器分割体を結合する手段としては、前記両保持器分割体の割り口部に周方向に突出する連結部を形成し、前記連結部は、その先端に形成され軸方向一方に突出する径方向の突条と、その突条と前記割り口部との間に設けた径方向の溝を有し、前記両保持器分割体の連結部を相互に重ね合わせ、前記突条と前記溝を嵌め合わせた構成を採用することができる。
【0016】
前記環状部および前記複数の柱部を鋳造により一体に形成することができる。また、前記環状部および前記複数の柱部を射出成型により一体に形成してもよい。
【0017】
この発明に係るスラストころ軸受は、上記のような保持器に円筒ころを保持させ、この保持器を一対の軌道盤の間に装着することによって完成する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、環状部から径方向内向きに突出し周方向に間隔をおいて複数の柱部をその環状部と一体に設け、柱部の側面で円筒ころの外周面を保持可能としたので、簡単な構造で強度が大きく、かつ円筒ころの保持器からの脱落を防止することができる。
【0019】
さらに、ポケットの端面を平坦面としたので、円筒ころに特別な加工を施すことなく、円筒ころのエッジ当たりを防止することができ、環状部の摩耗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の第1実施形態に係るスラストころ軸受用保持器の使用状態を示す断面図
【図2】同上のスラストころ軸受用保持器を示す側面図
【図3】同上のスラストころ軸受用保持器を示す拡大平面図
【図4】同上のスラストころ軸受用保持器を示す拡大斜視図
【図5】(a)同上のスラストころ軸受用保持器の製造方法を示す説明図、(b)回転加工工具によるワークの加工状態を示す縦断面図、(c)ワークの加工後の状態を示す縦断面図
【図6】同上のスラストころ軸受用保持器のころ抜け止め部を示す拡大斜視図
【図7】同上のころ抜け止め部の他の形態を示す拡大斜視図
【図8】二つ割り保持器を示す平面図
【図9】(a)同上の割り口部を示す分解斜視図、(b)同上の割り口部の結合状態を示す拡大斜視図
【図10】従来のスラストころ軸受用保持器の一例を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の第1実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に保持器を組み込んだスラストころ軸受を示す。図示のように、このスラストころ軸受は、軸方向に対向する一対の軌道盤1および軌道盤2と、両軌道盤1、2の対向面間に介在する転動体である複数の円筒ころ5と、各円筒ころ5を周方向に間隔をおいて保持する保持器6とから成っている。
【0023】
軌道盤1、2は、軸方向内面に軌道3、4を有し、軌道3および軌道4が互いに対向する状態で配置され、その対向面間に介在する円筒ころ5が軌道3、4に沿って転動する。円筒ころ5は、その中心軸に対して直交する端面5aを両側に有しており、端面5aの外周縁に面取りが施されている。
【0024】
このスラストころ軸受は、アキシャル方向の荷重が大きい大容量用のスラストころ軸受、例えば、セメント原料等を粉砕する粉砕機の減速機等に使用され、その軸(図示省略)を回転可能に支持している。なお、円筒ころ5は直筒形に限られず、凸面ころ(たる形ころ)を含むものとする。
【0025】
複数の円筒ころ5を保持する保持器6は、図2、図3に示すように、円環状の環状部7と、その環状部7から径方向内向きに突出し周方向に間隔をおいて環状部7と一体に設けられた複数の柱部8、8・・・とを有している。
【0026】
柱部8は、図4に示すように、環状部7の厚さと同一の厚みTで一体に形成され、環状部7の内面と、隣接する柱部8の側面によって、ポケット9が周方向に間隔をおいて形成され、ポケット9内に円筒ころ5が転動可能に収納される。
【0027】
ポケット9の側面9a(隣り合う柱部8の対向面)は、図4に示すように、収納する円筒ころ5の外周面に沿う円筒面に形成され、円筒ころ5をその径方向に抜け止めしている。したがって、前記厚みTは、このような円筒面を形成するために充分な厚みで、かつ円筒ころ5の外周面が前記軌道3、4に接触可能な範囲に設定される。また、ポケット9の端面9b(環状部7の内面)はポケット9の対向する側面9aの中心軸に対して、直交する平坦面に形成されている。
【0028】
なお、ポケット9の側面9aは、例えば、円筒ころが凸面ころ(たる形ころ)である場合では、その凸面ころの外周面に沿う曲面に形成すればよい。
【0029】
また、ポケット9の端面9bを平坦面に形成しておくと、この端面9bと当接する円筒ころ5の端面5aが平坦面であっても(図3参照)、エッジ当たりが生じないため、円筒ころ5の端面を球面に形成する必要がない。
【0030】
この保持器6の製作方法としては、以下の通りである。
先に金属製の円環状のワーク11を製作する。このワーク11は、保持器6の環状部7および柱部8におけるアキシャル断面(ワーク11の中心軸を通る平面における断面)の形状を全周にわたって備える円環状に製作される。
【0031】
次に、このワーク11の内周部に、円筒ころ5と同径の円筒形で、その端面12aに加工部を備えた回転加工工具12を回転させながら径方向外向きに移動させる(図5(a)参照)。この移動は、その回転加工工具12の中心軸上に設けた回転軸13を、ポケット9内に収納される円筒ころ5の中心軸を一致させた状態で行われる。
【0032】
続いて、さらに回転加工工具12を径方向外向きに移動させ(図5(b)参照)、円筒ころ5が収容可能となる位置で径方向の移動を止める。その後、回転加工工具12をワーク11から抜き取りポケット9を形成する(図5(c)参照)。
【0033】
この回転加工工具12は、円筒形であり、端面12aが中心軸に対して直交した平坦面に形成されており、その端面12aに加工部を備えている。このため、ポケット9の側面9aが、円筒ころ5の外周面に沿う円筒面に形成され、ポケット9の端面9bは、円筒ころ5の径方向外側の端面5aに対向する平坦面に形成される。
【0034】
回転加工工具12としては、例えば、切削加工用のフライス、エンドミル、または研削若しくは研磨加工用の砥石などを適用することができる。また、円筒ころ5の外径よりもわずかに大径のものを使用してもよい。この場合、回転加工工具12は、ポケット9の側面9aにより円筒ころ5をその径方向に抜け止め可能となる外径に設定される。
【0035】
上述した一連の加工をワーク11の周方向等間隔についてそれぞれ行うことで、ポケット9を周方向等間隔に形成した保持器6を製作することができる。その保持器6は、環状部7に複数の柱部8が一体に設けられ、各柱部8が環状部7の厚さと同一の厚みTで形成されたものとなり、保持器6の強度を確保できる。
【0036】
また、ポケット9の端面9bを平面に形成することができ、このポケット9の端面9bを円筒ころ5の径方向外側の端面5aと対向させることが可能となる。
【0037】
この保持器6の環状部7および柱部8は、例えば、金属製の場合、上述の切削加工等により製作可能であるが、鋳造により製作することができる。鋳造により製作する場合、環状部7および柱部8は、銅を主成分とする材料、例えば、JIS H5120に規格されるCAC301やCAC302等の黄銅系合金、あるいは、CAC406やCAC407等の青銅系合金等を用いることができる。
【0038】
また、保持器6としては、金属製に限るものではなく、合成樹脂の射出成型品であってもよい。樹脂材料は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)やポリアミド46(PA46)等が用いられる。
【0039】
前記円筒ころ5をポケット9から軸方向に抜け止めする手段を設けるのがよい。例えば、図6に示すように、ポケット9の軸方向の開口縁に円筒ころ5の端面5aが係合するころ抜け止め部14を設けることができる。
【0040】
ころ抜け止め部14は、各柱部8の先端部分に形成され、ポケット9の側面9aよりも内側に突出しており、その突出部分には、ポケット9に向かって内向きに傾斜するテーパ面15が設けられている。
【0041】
ころ抜け止め部14のテーパ面15に円筒ころ5の端面5aを押し付けて、ころ抜け止め部14を押し広げるようにして、円筒ころ5をポケット9内に収納する。ポケット9内の円筒ころ5は、軸方向内側の端面5aに抜け止め部14が係合するので、軸方向の脱落が防止される。
【0042】
さらに、前述のように、ポケット9の側面9aには円筒ころ5の外周面に沿う円筒面が形成されており、円筒ころ5がポケット9の上下の開口から脱落しないようになっているため、保持器6は、円筒ころ5をポケット9内に保持した状態を保つことができ、その状態で、スラストころ軸受に容易に組み込むことができる。
【0043】
このようなころ抜け止め部14を形成した保持器6は、回転加工工具によるもみ抜き加工が困難であるため、鋳造や射出成型により製造するのがよい。
【0044】
なお、この抜け止め部14は、図6に示す形態に限られず、図7に示すように、ポケット9の両側面において、環状部7から円筒ころ5が収納可能な軸方向の範囲(円筒ころ5のころ長さの範囲)のみを円筒面に形成し、その円筒面の軸方向内側から周方向に突出する部分で形成してもよい。
【0045】
また、保持器6は、図8に示すように、周方向に2分割した二つ割り保持器とすることができる。この保持器6は、環状部7の直径方向で対向する2つの柱部の位置で周方向に2分割した一対の保持器分割体6a、6bから構成され、その保持器分割体6a、6bの割り口部を相互に結合して環状に一体化する。
【0046】
両保持器分割体6a、6bの割り口部には、図9(a)に示すように、周方向に突出する連結部6cが形成されている。連結部6cの先端には、軸方向一方に突出する径方向の突条6dと、その突条6dと前記割り口部との間に設けた径方向の溝6eが形成されている。
【0047】
保持器分割体6aおよび保持器分割体6bの連結部6cを相互に重ね合わせ、突条6dと溝6eを互い違いに嵌め合わせる。この嵌め合わせで、割り口部が容易に結合し、保持器分割体6aと保持器分割体6bとが一体化される(図9(b)参照)。
【0048】
このように保持器6を二つ割り保持器とすることで、切削加工によって、保持器を容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 軌道盤
2 軌道盤
3 軌道
4 軌道
5 円筒ころ
5a 端面
6 保持器
6a 保持器分割体
6b 保持器分割体
6c 連結部
6d 突条
6e 溝
7 環状部
8 柱部
9 ポケット
9a 側面
9b 端面
11 ワーク
12 回転加工工具
12a 端面
13 回転軸
14 抜け止め部
15 テーパ面
21a 上側外リング部
21b 下側外リング部
22a 上側内リング部
22b 下側内リング部
23a 柱部
23b 柱部
24 円筒ころ
25 ビス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部と、その環状部から径方向内向きに突出し周方向に間隔をおいて前記環状部と一体に設けた複数の柱部とを有し、前記環状部と前記隣接する柱部とによりころを収納するポケットを形成し、前記ポケットの側面に前記ころの外周面に沿った円筒面を形成し、前記ころを保持可能としたスラストころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記ポケットを形成する柱部の先端部に前記ころの端面に係合する抜け止め手段を設けた請求項1に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記ポケットの端面を平坦面とした請求項1または2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記環状部を、直径方向で対向する2つの前記柱部の位置で周方向に2分割することにより一対の保持器分割体を形成し、その保持器分割体の割り口部を相互に結合して環状に一体化するようにした請求項1から3のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記両保持器分割体の割り口部に周方向に突出する連結部を形成し、前記連結部は、その先端に形成され軸方向一方に突出する径方向の突条と、その突条と前記割り口部との間に設けた径方向の溝を有し、前記両保持器分割体の連結部を相互に重ね合わせ、前記突条と前記溝を嵌め合わせた請求項4に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記環状部および前記複数の柱部を鋳造により一体に形成した請求項1から5のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記環状部および前記複数の柱部を射出成型により一体に形成した請求項1から5のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項8】
前記環状部および前記複数の柱部を銅を主成分とした材料により形成した請求項1から6のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項9】
前記環状部および前記複数の柱部を合成樹脂により形成した請求項1から5または7のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器
【請求項10】
一対の軌道盤の間に介在する複数のころを周方向に間隔をおいて保持する保持器を備えたスラストころ軸受において、
前記保持器を請求項1から9のいずれかに記載のスラストころ軸受用保持器としたことを特徴とするスラストころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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