スラストころ軸受
【課題】ミスアライメントの防止と負荷容量の確保とを両立できるスラストころ軸受を提供する。
【解決手段】スラストころ19を転動可能に保持するスラスト保持器22は、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体23により構成する。保持器分割体23は、外側連結部23Cの外壁面23C1に、横断面形状が半円形の2個の突起部24,25を、外輪14の周方向に離間して設けている。これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体23がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触するように構成でき、ミスアライメントの防止と負荷容量の確保とを図ることができる。
【解決手段】スラストころ19を転動可能に保持するスラスト保持器22は、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体23により構成する。保持器分割体23は、外側連結部23Cの外壁面23C1に、横断面形状が半円形の2個の突起部24,25を、外輪14の周方向に離間して設けている。これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体23がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触するように構成でき、ミスアライメントの防止と負荷容量の確保とを図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の旋回式の建設機械の旋回軸受等に用いて好適なスラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルまたは油圧クレーン等の旋回式の建設機械は、基台としての下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された旋回体としての上部旋回体と、該上部旋回体の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
このような旋回式の建設機械は、下部走行体と上部旋回体との間に所謂旋回輪と呼ばれる旋回軸受を設け、該旋回軸受によって上部旋回体が下部走行体上で任意の方向に旋回駆動されるのを許す構成としている。
【0004】
ここで、旋回軸受は、例えば玉軸受やころ軸受等の転がり軸受により構成され、例えば超大型の建設機械の場合には、二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受により旋回軸受を構成し、十分な負荷容量を確保できるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような旋回軸受を含む各種の回転支持部を構成するスラストころ軸受は、内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、内輪および外輪の軸線に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線を中心として転動可能にころ収容空間に配置された複数のころと、該各ころを転動可能に保持するためころ収容空間に設けられた保持器とにより大略構成されている。そして、ころ収容空間内で各ころが転動することにより、内輪と外輪とを相対回転可能に支持する構成となっている。
【0006】
一方、スラストころ軸受には、各ころを保持する保持器を、ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成したものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−171724号公報
【特許文献2】米国特許第3501212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、特許文献2による分割式の保持器を、例えば旋回軸受の保持器として用いることを検討した。しかし、特許文献2による保持器を旋回軸受の保持器としてそのまま用いた場合、各ころと各保持器分割体とがミスアライメントし、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷し易くなるという問題がある。
【0009】
即ち、環状のころ収容空間内に周方向に連続して配置される各保持器分割体は、内輪と外輪との相対回転に伴って、ころ収容空間内を各ころと共に周方向に移動する。このとき、保持器分割体には、該保持器分割体を外輪の内周面に押付けようとする力が、周方向に隣合う保持器分割体から加わる。これにより、保持器分割体は、ころ収容空間内を周方向に移動しつつ外輪の内周面側にも変位し、保持器分割体のうち外輪の内周面と対向する外壁面の両端縁部が外輪の内周面と接触(摺接)する。
【0010】
特許文献2による分割式の保持器は、各保持器分割体の外壁面のうち周方向一側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法と、保持器分割体の外壁面のうち周方向他側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法とが相違する構成としている。このため、保持器分割体の外壁面の両端縁部が外輪の内周面に接触すると、保持器分割体の移動方向ところの転動方向とが不一致になり、保持器分割体(のポケットの中心軸線)ところ(の中心軸線)とがミスアライメントする。
【0011】
このようなミスアライメントを防止するために、本発明者等は、保持器分割体の外壁面のうち周方向一側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法と、保持器分割体の外壁面のうち周方向他側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法とを等しく設定する構成を考えた。このような構成によれば、保持器分割体が外輪の内周面側に変位し、保持器分割体の外壁面の両端縁部が外輪の内周面と接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができ、ミスアライメントを防止することができる。
【0012】
しかし、上述のように離間寸法を等しく設定すると、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法が大きくなり、周方向に隣合う各ころの間隔も大きくなる。これにより、スラストころ軸受内に組み込むことのできるころの数が減少し、スラストころ軸受の負荷容量が小さくなるという問題がある。
【0013】
本発明は上述した問題に鑑みなされたもので、ミスアライメントの防止と負荷容量の確保とを両立できるスラストころ軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため本発明は、内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受に適用される。
【0015】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する2個の突起部を前記外輪の周方向に離間して設け、前記各保持器分割体が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触する構成としたことにある。
【0016】
請求項2の発明は、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触したときに、該外輪の内周面と前記各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことにある。
【0017】
請求項3の発明は、前記各突起部のうち一方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(A)とし、前記各突起部のうち他方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(B)とし、前記一方の突起部の高さ寸法を(C)とし、前記他方の突起部の高さ寸法を(D)とした場合に、A=B、C=Dに設定したことにある。
【0018】
請求項4の発明は、前記ころの半径を(R)とした場合に、0.6R≦A=B≦Rに設定したことにある。
【0019】
一方、請求項5の発明は、前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する1個の突起部を前記ころ中心軸線(X−X)から前記外輪の周方向に離間して設け、前記各保持器が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記外壁面のうち前記ころ中心軸線(X−X)を挟んで前記突起部とは反対側の端縁部と前記突起部の頂部とが前記外輪の内周面に接触する構成とし、前記突起部の頂部と前記外壁面の端縁部とが前記外輪の内周面に接触したときに、前記ころ中心軸線(X−X)と前記外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことにある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、保持器分割体の外壁面に設けた2個の突起部の頂部が外輪の内周面に接触する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることにより、各ころと各保持器分割体とがミスアライメントすることを防止できる。これにより、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止でき、スラストころ軸受の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0021】
各突起部は、保持器分割体の外壁面から外輪の内周面に向けて突出する構成としたので、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、2個の突起部を設けることにより、スラストころ軸受内に組み込むころの数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、スラストころ軸受の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、外輪の内周面と各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)がころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、一方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(A)と他方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(B)とを等しくすると共に、一方の突起部の高さ寸法(C)と他方の突起部の高さ寸法(D)とを等しく設定する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、一方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(A)と他方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(B)とを、ころの半径(R)の0.6倍以上でかつ1倍以下に設定したので、外輪の内周面と各突起部との接触点(S)間の距離を適正にすることができる。これにより、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とが一致した状態を安定して維持することができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、保持器分割体の外壁面に設けた1個の突起部の頂部と該外壁面の端縁部とが外輪の内周面に接触したときに、ころ中心軸線(X−X)と外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)がころ中心軸線(X−X)と直交する構成としている。このため、突起部の頂部と外壁面の端縁部とが外輪の内周面に接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができ、各ころと各保持器分割体とのミスアライメントを防止することができる。これにより、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷することを防止でき、スラストころ軸受の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0026】
突起部は、保持器分割体の外壁面から外輪の内周面に向けて突出する構成としたので、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、1個の突起部を設けることにより、スラストころ軸受内に組み込むころの数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、スラストころ軸受の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスラストころ軸受が組込まれた油圧ショベルを作業装置を取外した状態で示す正面図である。
【図2】図1中のスラストころ軸受を旋回駆動装置、円筒体、旋回フレーム等と共に示す断面図である。
【図3】スラストころ軸受を示す図2中の(III)部に相当する拡大断面図である。
【図4】スラストころ軸受を示す図3と同方向から見た分解断面図である。
【図5】スラストころ軸受を示す図3中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】図5中の保持器分割体、ころ等を拡大して示す拡大断面図である。
【図7】1個の保持器分割体、ころ等を示す平面図である。
【図8】保持器分割体を単体で示す斜視図である。
【図9】比較例による保持器分割体、ころ等を示す図6と同様な拡大断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態による保持器分割体、ころ等を示す図7と同様な平面図である。
【図11】第2の実施の形態による保持器分割体を単体で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るスラストころ軸受の実施の形態を、超大型の油圧ショベルの旋回軸受に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に設けられた後述の上部旋回体6と、該上部旋回体6の前部側に設けられた作業装置(図示せず)とにより大略構成されている。そして、基台としての下部走行体2と旋回体としての上部旋回体6との間には、上部旋回体6を下部走行体2上で旋回させる後述の旋回装置10が設けられている。
【0030】
ここで、下部走行体2は、左,右方向の中央部に位置するセンタフレーム3と、該センタフレーム3の左,右両側に位置して前,後方向に延びた左,右のサイドフレーム4(左側のみ図示)とを有し、センタフレーム3を構成する上板3Aには後述の円筒体5が設けられている。
【0031】
5はセンタフレーム3の上板3A上に上方に突出して設けられた上部旋回体取付用の円筒体で、該円筒体5は、図2に示すように、後述する旋回軸受11の内輪12が取付けられるものである。ここで、円筒体5は、大径な円筒状をなし、旋回中心となる軸線O−Oを中心としてセンタフレーム3の上板3A上に溶接等の手段を用いて固着されている。センタフレーム3の上板3Aには、円筒体5の内周側に位置して作業用の開口部3Bが形成されている。
【0032】
6は下部走行体2の円筒体5上に旋回装置10を介して旋回可能に設けられた上部旋回体で、該上部旋回体6は、ベースとなる旋回フレーム7と、該旋回フレーム7の前部左側に設けられ運転室を画成するキャブ8と、旋回フレーム7の後端側に設けられたカウンタウエイト9等により構成されている。
【0033】
10は下部走行体2と上部旋回体6との間に設けられた旋回装置で、該旋回装置10は、下部走行体2(センタフレーム3)上で上部旋回体6を旋回させるものである。ここで、旋回装置10は、後述の旋回軸受11、旋回駆動装置32等により構成されている。
【0034】
次に、本実施の形態に係る旋回軸受11として、スラストころ軸受を例に挙げ説明する。
【0035】
即ち、11は下部走行体2の円筒体5と上部旋回体6の旋回フレーム7との間に設けられたスラストころ軸受としての旋回軸受で、該旋回軸受11は、下部走行体2に対して上部旋回体6を軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0036】
旋回軸受11は、二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受として構成されている。このような旋回軸受11は、後述の内輪12と、外輪14と、スラストころ19,20と、ラジアルころ21と、スラスト保持器22,26と、ラジアル保持器29とにより大略構成されている。
【0037】
12は円筒体5の上面に後述のボルト13を用いて固着された円環状の内輪で、該内輪12は、図3等に示すように、外径寸法が最も小さい上段円筒部12Aと、外径寸法が最も大きい中段円筒部12Bと、外径寸法が中段円筒部12Bよりも小さく上段円筒部12Aよりも大きい下段円筒部12Cとを有する三段の段付き円筒状部材として形成されている。
【0038】
上段円筒部12Aの外周面と中段円筒部12Bの外周面との間を連続する段差面は、図4等に示すように、後述のスラストころ19が転動する内輪側スラスト軌道面12Dとなり、中段円筒部12Bの外周面は、後述のラジアルころ21が転動する内輪側ラジアル軌道面12Eとなり、中段円筒部12Bの外周面と下段円筒部12Cの外周面との間を連続する段差面は、後述のスラストころ20が転動する内輪側スラスト軌道面12Fとなっている。
【0039】
内輪12の周方向の複数個所には、後述のボルト13を挿通するボルト挿通孔12Gが周方向に離間して設けられている。内輪12の下段円筒部12Cの外周面のうち後述する外輪14の下端面よりも下側となる部位には、後述のシール30を取付けるシール溝12Hが全周にわたって設けられている。内輪12の内周側(径方向内側)には内歯12Jが全周にわたって形成され、該内歯12Jは後述のピニオン32Cに噛合する構成となっている。
【0040】
13は内輪12を円筒体5の上面に固着する複数本のボルトで、該各ボルト13は、内輪12の各ボルト挿通孔12Gに挿通され円筒体5に螺着されている。
【0041】
14は内輪12の外周側(径方向外側)に内輪12の軸線O−Oと同心に設けられた円環状の外輪で、該外輪14は、内輪12との間に後述する環状のころ収容空間18を形成するものである。ここで、外輪14は、円環状の上側外輪分割体15と、該上側外輪分割体15の下側に配置された円環状の下側外輪分割体16とにより大略構成されている。これら上側外輪分割体15と下側外輪分割体16は、互いに突き合わされた状態で、旋回フレーム7の下面に後述のボルト17を用いて固着されている。
【0042】
上側外輪分割体15は、内径寸法が最も小さい上段円筒部15Aと、内径寸法が上段円筒部15Aよりも大きい中段円筒部15Bと、内径寸法が上段円筒部15Aおよび中段円筒部15Bよりも大きい下段円筒部15Cとを有する三段の段付き円筒状部材として形成されている。
【0043】
中段円筒部15Bの内周面15B1は、段差内周面となっており、該内周面15B1には、後述するスラスト保持器22の外壁面23C1が対向している。上段円筒部15Aの内周面と中段円筒部15Bの内周面15B1との間の段差面は、後述のスラストころ19が転動する外輪側スラスト軌道面15Dとなっている。また、下段円筒部15Cの内周面は、後述のラジアルころ21が転動する外輪側ラジアル軌道面15Eとなっている。
【0044】
上側外輪分割体15の周方向の複数個所には、後述のボルト17を挿通するボルト挿通孔15Fが周方向に離間して設けられている。上側外輪分割体15の上段円筒部15Aの内周面のうち内輪12の上端面よりも上側となる部位には、後述のシール31を取付けるシール溝15Gが全周にわたって設けられている。
【0045】
一方、下側外輪分割体16は、内径寸法が大きい上段円筒部16Aと、内径寸法が小さい下段円筒部16Bとを有する二段の段付き円筒状部材として形成されている。上段円筒部16Aの内周面16A1は、段差内周面となっており、該内周面16A1には、後述するスラスト保持器26の外壁面27A1が対向している。上段円筒部16Aの内周面16A1と下段円筒部16Bの内周面との間の段差面は、後述のスラストころ20が転動する外輪側スラスト軌道面16Cとなっている。
【0046】
下側外輪分割体16の周方向の複数個所には、後述のボルト17を挿通するボルト挿通孔16Dが、上側外輪分割体15のボルト挿通孔15Fと対応して設けられている。下側外輪分割体16の上面には、上側外輪分割体15の下段円筒部15Cの下端部を嵌着する係合凹部16Eが設けられており、該係合凹部16Eと下段円筒部15Cの下端部との嵌着により、下側外輪分割体16と上側外輪分割体15とを径方向に(同心に)位置決めできる構成となっている。
【0047】
17は外輪14(上側外輪分割体15と下側外輪分割体16)を旋回フレーム7の下面に固着する複数本のボルトで、該各ボルト17は、下側外輪分割体16の各ボルト挿通孔16Dと上側外輪分割体15の各ボルト挿通孔15Fとに挿通され旋回フレーム7に螺着されている。
【0048】
18は内輪12と外輪14との間に形成された環状のころ収容空間で、該ころ収容空間18には、後述のスラストころ19,20およびラジアルころ21が転動可能に収容されている。
【0049】
19は内輪側スラスト軌道面12Dと外輪側スラスト軌道面15Dとの間に設けられたころとしての複数のスラストころ(スラスト円筒ころ)で、該各スラストころ19は、内輪12と外輪14との間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0050】
ここで、スラストころ19は、内輪12および外輪14の軸線O−Oに直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線X−Xを中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各スラストころ19は、内輪側スラスト軌道面12Dと外輪側スラスト軌道面15Dとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0051】
20は内輪側スラスト軌道面12Fと外輪側スラスト軌道面16Cとの間に設けられたころとしての複数のスラストころ(スラスト円筒ころ)で、該各スラストころ20は、スラストころ19と同様に、内輪12と外輪14との間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0052】
ここで、スラストころ20は、スラストころ19と同様に、内輪12および外輪14の軸線O−Oに直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線X−X(図2参照)を中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各スラストころ20は、内輪側スラスト軌道面12Fと外輪側スラスト軌道面16Cとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0053】
21は内輪側ラジアル軌道面12Eと外輪側ラジアル軌道面15Eとの間に設けられた複数のラジアルころ(ラジアル円筒ころ)で、該各ラジアルころ21は、内輪12と外輪14との間に加わるラジアル荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。ここで、ラジアルころ21は、内輪12および外輪14の軸線O−Oと平行なころ中心軸線(図示せず)を中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各ラジアルころ21は、内輪側ラジアル軌道面12Eと外輪側ラジアル軌道面15Eとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0054】
次に、スラストころ19を保持するためのスラスト保持器22、スラストころ20を保持するためのスラスト保持器26、およびラジアルころ21を保持するためのラジアル保持器29等について説明する。
【0055】
即ち、22はスラストころ19を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器を示し、該スラスト保持器22は、図5等に示すように、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体23により構成されている。
【0056】
これら各保持器分割体23は、図6ないしは図7等に示すように、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部(柱部)23Aおよび凹状仕切り部(柱部)23Bと、該各仕切り部23A,23Bのうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部23Cと、各仕切り部23A,23Bのうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部23Dと、各仕切り部23A,23Bと外側連結部23Cと内側連結部23Dとに囲まれて形成されスラストころ19を転動可能に保持するポケット23Eとにより大略構成されている。
【0057】
ここで、凸状仕切り部23Aの壁面は、該仕切り部23Aと隣接する別の保持器分割体23に向けて突出した多角形面状の凸状面23A1とし、凹状仕切り部23Bの壁面は、該仕切り部23Bと隣接する別の保持器分割体23から離れる方向に凹陥する凹円弧状面23B1としている。これにより、各保持器分割体23をころ収容空間18内に環状に列設した状態で、凸状仕切り部23Aの凸状面23A1と凹状仕切り部23Bの凹円弧状面23B1とが当接する構成となっている。
【0058】
24,25は外側連結部23Cの外壁面23C1に設けられた2個の突起部を示し、これら突起部24,25は、横断面形状が半円形で軸線O−O方向に延びる突状体からなり、外輪14の周方向に離間して設けられている。ここで、突起部24,25は、外輪14(上側外輪分割体15)を構成する中段円筒部15Bの内周面15B1側に向けて突出するものである。
【0059】
これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体23がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、図6ないしは図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触(摺接)するように構成している。
【0060】
また、図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、ころ中心軸線X−Xと外輪14の内周面15B1との交点をKとすると、当該交点Kにおける該内周面15B1との接線Z−Zがころ中心軸線X−Xと直交するように構成している。換言すれば、図6に示すように、保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pとスラストころ19の転動方向Mとが直交するようにしている。
【0061】
このために、図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点Sを結ぶ仮想線Y−Yは、ころ中心軸線X−Xおよび保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pと直交するように構成している。
【0062】
ここで、各突起部24,25の寸法や位置関係は、次のように設定している。即ち、図7に示すように、各突起部24,25のうち一方の突起部24ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をAとし、各突起部24,25のうち他方の突起部25ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をBとした場合に、離間寸法AとBとは、下記数1の関係にある。また、これと共に、一方の突起部24の高さ寸法をCとし、他方の突起部25の高さ寸法をDとした場合に、高さ寸法CとDとは、下記数1の関係にある。
【0063】
【数1】
【0064】
これにより、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、図6に示すように、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとを一致させることができ、各スラストころ19と各保持器分割体23とのミスアライメントを防止することができる。
【0065】
また、一方の突起部24の離間寸法Aと他方の突起部25の離間寸法Bは、スラストころ19の半径をRとした場合に、離間寸法A,Bと半径Rとは、下記数2のように設定されている。
【0066】
【数2】
【0067】
これにより、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点S,S間の距離E(=A+B)を適正にでき、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとを一致させた状態で、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25とを安定して接触させることができる。
【0068】
26はスラストころ20を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器を示し、該スラスト保持器26は、スラスト保持器22と同様に、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体27により構成されている。
【0069】
これら各保持器分割体27は、図4等に示すように、各保持器分割体23と同様に、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部および凹状仕切り部(いずれも図示せず)と、該各仕切り部のうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部27Aと、各仕切り部のうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部27Bと、各仕切り部と外側連結部27Aと内側連結部27Bとに囲まれて形成されスラストころ20を転動可能に保持するポケット27Cとにより大略構成されている。
【0070】
そして、各保持器分割体27も、外側連結部27Aの外壁面27A1に、外輪14(下側外輪分割体16)を構成する上段円筒部16Aの内周面16A1に向けて突出する2個の突起部28(1個のみ図示)を設けている。これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体27がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面16A1側に向けても変位したときに、各突起部28の頂部28Aが外輪14の内周面16A1に接触(摺接)するように構成している。
【0071】
なお、スラスト保持器26を構成する各保持器分割体27は、上述したスラスト保持器22を構成する保持器分割体23と同様の構成、作用効果を有しているので、スラスト保持器26(各保持器分割体27)に関するこれ以上の説明は省略する。
【0072】
次に、29はラジアルころ21を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられたラジアル保持器を示し、該ラジアル保持器29は、各ラジアルころ21を内輪12および外輪14の周方向に所定間隔で保持するものである。
【0073】
30,31は、図3に示すように、内輪12と外輪14との間に設けられた一対のシールで、該各シール30,31は、ゴム材、可撓性樹脂材等の弾性材により円環状に形成され、内輪12のシール溝12Hと外輪14のシール溝15Gにそれぞれ取付けられている。これら各シール30,31は、ころ収容空間18内に外部から異物が侵入することを防止すると共に、ころ収容空間18内の潤滑剤(グリース)が外部に漏出することを防止するものである。
【0074】
32は旋回フレーム7にボルト等を用いて固定された2基の旋回駆動装置で、該各旋回駆動装置32は、旋回軸受11の内輪12に大きな回転力を伝達することにより、旋回フレーム7を円筒体5上で旋回させるものである。ここで、各旋回駆動装置32は、回転源としての油圧モータ32Aと、太陽歯車、遊星歯車、キャリア等(いずれも図示せず)からなり油圧モータ32Aの回転を減速する遊星歯車減速機32Bと、該遊星歯車減速機32Bによって減速された回転を出力するピニオン32Cとにより大略構成され、ピニオン32Cは、旋回軸受11を構成する内輪12の内歯12Jに噛合している。
【0075】
そして、各旋回駆動装置32は、油圧モータ32Aの回転を遊星歯車減速機32Bによって減速することにより、内輪12の内歯12Jに噛合したピニオン32Cを大きなトルク(回転力)をもって回転させるものである。これにより、ピニオン32Cは、内輪12の内歯12Jに沿って自転しつつ公転し、このときの公転力によって旋回フレーム7(上部旋回体6)を円筒体5(下部走行体2)上で旋回させる構成となっている。
【0076】
33は円筒体5の内周側に配置されたグリースバスで、該グリースバス33は、例えばスタッドボルトとナット(いずれも図示せず)とを用いて旋回軸受11を構成する内輪12の下面に取付けられ、旋回駆動装置32のピニオン32Cと内輪12の内歯12Jとの噛合部を潤滑するグリース(潤滑油)を貯えるものである。
【0077】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、該油圧ショベル1は、下部走行体2によって作業現場まで自走した後、旋回装置10によって上部旋回体6を旋回させつつ、作業装置(図示せず)を用いて土砂等の掘削作業を行う。
【0078】
ここで、下部走行体2上で上部旋回体6を旋回させる場合には、旋回駆動装置32の油圧モータ32Aを回転駆動し、この油圧モータ32Aの回転を遊星歯車減速機32Bによって減速することにより、旋回軸受11を構成する内輪12の内歯12Jに噛合したピニオン32Cを大きなトルクをもって回転させる。これにより、ピニオン32Cは、内輪12の内歯12Jに沿って自転しつつ公転し、ピニオン32Cの公転力が、旋回駆動装置32が固定された旋回フレーム7に伝わることにより、旋回フレーム7は旋回軸受11を介して円筒体5上を旋回し、下部走行体2上で上部旋回体6を旋回させることができる。
【0079】
このとき、旋回軸受11のスラスト保持器22を構成する保持器分割体23は、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、ころ収容空間18内を各スラストころ19と共に周方向に移動する。即ち、旋回軸受11の各スラストころ19は、図6に示すように、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、環状のころ収容空間18内を矢示M方向に転動する。また、各スラストころ19をポケット23E内に転動可能に保持(収容)する保持器分割体23も、各スラストころ19の転動に伴って矢示N方向に移動する。
【0080】
この場合に、スラストころ19にスラスト荷重が作用している負荷圏では、内輪12と外輪14との相対回転に基づき各スラストころ19が回転駆動され、このスラストころ19の回転に基づいて、保持器分割体23もスラストころ19から押されて移動する。一方、スラストころ19にスラスト荷重が作用していない非負荷圏では、スラストころ19に駆動力がないので負荷圏の保持器分割体23によって非負荷圏の保持器分割体23が押され、これに伴い当該保持器分割体23に保持されたスラストころ19が転動する。
【0081】
なお、油圧ショベル1の旋回軸受11の場合、例えば作業装置のバケット(いずれも図示せず)により土砂等を持ち上げるときは、旋回軸受11のうち旋回中心O−Oを挟んで作業装置とは反対側に位置する半円部が非負荷圏となり、作業装置側に位置する半円部が負荷圏となる。これに対して、例えば作業装置のバケットが地面に接地した瞬間などのように、該地面から作業装置が押されるときは、旋回軸受11のうち旋回中心O−Oを挟んで作業装置とは反対側に位置する半円部が負荷圏となり、作業装置側に位置する半円部が非負荷圏となる。
【0082】
いずれにしても、上部旋回体6の旋回時(内輪12と外輪14との相対回転時)、保持器分割体23は、負荷圏を通過するときは各スラストころ19から押され、非負荷圏を通過するときは負荷圏を通過する保持器分割体23から押される。これにより、保持器分割体23は、スラストころ19の転がり方向に隣合う保持器分割体23を互いに押し合いつつ、ころ収容空間18内を周方向に移動する。
【0083】
このとき、保持器分割体23には、隣合う保持器分割体23から図6に矢示Lで示す力が加わり、保持器分割体23は、外輪14の内周面15B1に押付けられつつころ収容空間18内を周方向に移動する。即ち、保持器分割体23は、隣合う保持器分割体23から外輪14の内周面15B1側に押付けられる方向の力Lを受け、これにより、ころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位する。
【0084】
本実施の形態によれば、保持器分割体23の外壁面23C1に2個の突起部24,25を設ける構成としたので、保持器分割体23が外輪14の内周面15B1側に向けて変位したときに(外輪14の内周面15B1に押し付けられたときに)、保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1と接触(摺接)する。
【0085】
この場合、図7に示すように、一方の突起部24の離間寸法Aと他方の突起部25の離間寸法Bとを等しくすると共に、一方の突起部24の高さ寸法Cと他方の突起部25の高さ寸法Dとを等しく設定する構成としているので、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点Sを結ぶ仮想線Y−Yが、ころ中心軸線X−Xと直交する。換言すれば、保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pがスラストころ19の転動方向Mと直交する。
【0086】
このため、各突起部24,25の頂部24A,25Aと外輪14の内周面15B1とが接触したときに、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとが一致する。これにより、スラストころ19(の中心軸線X−X)と保持器分割体23(のポケット23Eの中心軸線P−P)とがミスアライメントすることを防止でき、保持器分割体23のポケット23Eの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止できる。この結果、旋回軸受11の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0087】
次に、図6に示す本実施の形態による保持器分割体23と、図9に示す比較例による保持器分割体100との比較について説明する。
【0088】
図9は、比較例による保持器分割体100を示している。比較例による保持器分割体100は、外壁面100Aのうち周方向一側の端縁部101ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Vと、外壁面100Aのうち周方向他側の端縁部102ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Wとが相違する構成となっている。また、本実施の形態のような突起部24,25は設けていない。
【0089】
このような比較例の場合は、保持器分割体100が外輪14の内周面15B1側に向けて変位すると(外輪14の内周面15B1に押し付けられると)、保持器分割体100の外壁面100Aの両端縁部101,102が外輪14の内周面15B1に接触し、この接触に伴って、保持器分割体100の移動方向Nとスラストころ19の転動方向Mとが不一致になる。これにより、保持器分割体100(のポケット100Bの中心軸線P−P)とスラストころ19(の中心軸線X−X)とがミスアライメントし、保持器分割体100のポケット100Bの内面が異常摩耗したり損傷し易くなる虞がある。
【0090】
このようなミスアライメントを防止するために、保持器分割体100の離間寸法V,Wを等しく設定することが考えられる。しかし、この場合には、ポケット100Bを確保するために寸法Vを小さくできず、寸法Wを大きくすることになり、その分、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体100の寸法が大きくなる。これにより、周方向に隣合う各スラストころ19の間隔も大きくなり、旋回軸受11内に組み込むことのできるスラストころ19の数が減少し、旋回軸受11の負荷容量が小さくなる。
【0091】
これに対して、本実施の形態によれば、各突起部24,25は、保持器分割体23の外壁面23C1から外輪14の内周面15B1に向けて突出する構成としたので、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体23の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、2個の突起部24,25を保持器分割体23の外壁面23C1に設けることにより、旋回軸受11内に組み込むスラストころ19の数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、旋回軸受11の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0092】
本実施の形態によれば、図7に示すように、一方の突起部24ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Aと他方の突起部25ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Bとを、スラストころ19の半径Rの0.6倍以上でかつ1倍以下(より好ましくは、0.7倍以上でかつ0.9倍以下)に設定したので、外輪14の内周面15B1と一方の突起部24との接触点Sと内周面15B1と他方の突起部25との接触点Sとの間の距離Eを適正な距離とすることができる。これにより、各突起部24,25の頂部24A,25Aと外輪14の内周面15B1とが接触したときに、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとが一致した状態を安定して維持することができる。
【0093】
本実施の形態によれば、旋回軸受11の最終組立隙間を、全ての保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1に接触した状態で設定することもできる。ここで、最終組立隙間は、例えば、ころ収容空間18内に各スラストころ19および保持器分割体23を、隣合う保持器分割体23同士の間に周方向の隙間が生じないように全周にわたって順番に組付けたときに、最初に組付けた保持器分割体23と最後に組付けた保持器分割体23との間に生じる最終的な周方向の隙間で、各保持器分割体23の寸法公差を吸収するためのものである。
【0094】
このような最終組立隙間を、全ての保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1に接触した状態で設定した場合には、計算で求められる設計上の最終組立隙間と、旋回軸受11の組立時にころ収容空間18内に各スラストころ19と各保持器分割体23とを組み付けたときの実際の最終組立隙間との間に差異を生じにくくすることができる。これにより、最終組立隙間をより小さく設定することが可能になり、その分、旋回軸受11内に組み込むことのできるスラストころ19の数を増やすことができ、旋回軸受11の負荷容量の向上を図ることができる。
【0095】
本実施の形態によれば、保持器分割体23に各突起部24,25を設けたことにより、ころ収容空間18内の空き空間を増やすことができ、その分、ころ収容空間18内に封入できる潤滑油やグリースの量を増やすことができる。また、例えば、保持器分割体23の外壁面23C1のうち各突起部24,25に挟まれた部位を、潤滑油やグリースが上,下方向に流通する潤滑油通路として機能させることもできるため、潤滑油やグリースを循環させ易くすることができ、この面からも、旋回軸受11の耐久性、信頼性を高めることができる。
【0096】
次に、図10および図11は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、保持器分割体の外壁面に1個の突起部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0097】
図中、41はスラストころ19を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器で、該スラスト保持器41は、上述した第1の実施の形態と同様に、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体42により構成されている。
【0098】
これら各保持器分割体42は、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部(柱部)42A,凹状仕切り部(柱部)42Bと、該各仕切り部42A,42Bのうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部42Cと、各仕切り部42A,42Bのうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部42Dと、各仕切り部42A,42Bと外側連結部42Cと内側連結部42Dとに囲まれて形成されスラストころ19を転動可能に保持するポケット42Eとにより大略構成されている。
【0099】
ここで、凸状仕切り部42Aの壁面は、該仕切り部42Aと隣接する別の保持器分割体(図示せず)に向けて突出した多角形面状の凸状面42A1とし、凹状仕切り部42Bの壁面は、該仕切り部42Bと隣接する別の保持器分割体(図示せず)から離れる方向に凹陥する凹円弧状面42B1としている。これにより、各保持器分割体42をころ収容空間18内に環状に列設した状態で、凸状仕切り部42Aの凸状面42A1と凹状仕切り部42Bの凹円弧状面42B1とが当接する構成となっている。
【0100】
43は外側連結部42Cの外壁面42C1に設けられた1個の突起部を示し、該突起部43は、横断面形状が半円形で軸線O−O方向に延びる突状体からなり、ころ中心軸線X−X対し内輪12および外輪14の周方向に離間した位置に設けられている。
【0101】
これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体42がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、外壁面42C1のうちころ中心軸線X−Xを挟んで突起部43とは反対側の端縁部42C2と突起部43の頂部43Aとが、外輪14の内周面15B1に接触(摺接)するように構成している。即ち、本実施の形態の場合は、各保持器分割体42は、外輪14の内周面15B1に、突起部43との接触点Sと端縁部42C2との接触点Tとの2個所位置で接触するように構成している。
【0102】
また、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、ころ中心軸線X−Xと外輪14の内周面15B1との交点をKとすると、当該交点Kにおける該内周面15B1との接線Z−Zは、ころ中心軸線X−Xおよび保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pと直交するようにしている。換言すれば、突起部43の頂部43Aと端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pとスラストころ19の転動方向とが直交するようにしている。
【0103】
このために、外壁面42C1のうちころ中心軸線X−Xを挟んで突起部43とは反対側に該突起部43と対称に仮想の突起部43′が設けられていると仮定した場合に、外輪14の内周面15B1と突起部43との接触点Sと内周面15B1と仮想の突起部43′との接触点S′とを結ぶ仮想線Y−Yは、ころ中心軸線X−Xと直交するようにしている。
【0104】
ここで、具体的な各部の寸法関係は、次のように設定している。即ち、突起部43ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をFとし、仮想の突起部43′ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をGとし、突起部43の高さをHとし、仮想の突起部43′の高さをQとし、外壁面42C1の端縁部42C2ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をRとした場合に、離間寸法F,G,R、高さ寸法H,Qは、下記数3の関係にある。
【0105】
【数3】
【0106】
これにより、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、スラストころ19の転動方向と保持器分割体42の移動方向とを一致させることができ、各スラストころ19と各保持器分割体42とのミスアライメントを防止することができる。
【0107】
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き保持器分割体42によりスラスト保持器41を構成するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
【0108】
即ち、本実施の形態によれば、保持器分割体42の外壁面42C1に1個の突起部43を設ける構成としたので、保持器分割体42が外輪14の内周面15B1側に向けて変位したときに(外輪14の内周面15B1に押し付けられたときに)、保持器分割体42の突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1と接触(摺接)する。
【0109】
この場合、外輪14の内周面15B1と突起部43との接触点Sと該突起部43と対称に設けられた仮想の突起部43′と外輪14の内周面15B1との接触点S′とを結ぶ仮想線Y−Yがころ中心軸線X−Xと直交する構成としているので、保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pがスラストころ19の転動方向と直交する。
【0110】
このため、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1と接触したときに、スラストころ19の転動方向と保持器分割体42の移動方向とが一致する。これにより、スラストころ19(の中心軸線X−X)と保持器分割体42(のポケット42Eの中心軸線P−P)とがミスアライメントすることを防止でき、保持器分割体42のポケット42Eの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止できる。この結果、旋回軸受11の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0111】
また、本実施の形態によれば、突起部43は、保持器分割体42の外壁面42C1から外輪14の内周面15B1に向けて突出する構成としたので、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体42の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、1個の突起部43を保持器分割体42の外壁面42C1に設けることにより、旋回軸受11内に組み込むスラストころ19の数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、旋回軸受11の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0112】
なお、上述した各実施の形態では、旋回軸受11を二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばスラストころ軸受としての旋回軸受を、単列のスラストころ軸受、または、単列のスラストころ軸受と単列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる二列ころ軸受等により構成してもよい。要は、旋回軸受は、少なくとも一列のスラストころ軸受により構成したものであればよい。
【0113】
上述した第1の実施の形態では、スラスト保持器22およびスラスト保持器26の両方が、各保持器分割体23,27の外壁面23C1,27A1に突起部24,25,28を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば一方のスラスト保持器を構成する各保持器分割体にのみ突起部を設ける構成としてもよい。
【0114】
上述した各実施の形態では、各保持器分割体23,27,42の凸状仕切り部23A,42Aの壁面を多角形面状の凸状面23A1,42A1とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば凸状仕切り部の壁面を円弧面状の凸状面としてもよい。
【0115】
上述した各実施の形態では、旋回式の建設機械として油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の旋回装置を備えた他の建設機械に適用してもよい。
【0116】
さらに、上述した実施の形態では、スラストころ軸受として旋回軸受を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、各種の回転支持部を構成するスラストころ軸受として広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0117】
11 旋回軸受(スラストころ軸受)
12 内輪
14 外輪
18 ころ収容空間
15B1,16A1 内周面
19,20 スラストころ(ころ)
22,26,41 スラスト保持器(保持器)
23,27,42,100 保持器分割体
23C1,27C1,42C1,100A 外壁面
24,25,28,43,43′ 突起部
24A,25A,28A,43A 頂部
42C2,101,102 端縁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の旋回式の建設機械の旋回軸受等に用いて好適なスラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルまたは油圧クレーン等の旋回式の建設機械は、基台としての下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された旋回体としての上部旋回体と、該上部旋回体の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
このような旋回式の建設機械は、下部走行体と上部旋回体との間に所謂旋回輪と呼ばれる旋回軸受を設け、該旋回軸受によって上部旋回体が下部走行体上で任意の方向に旋回駆動されるのを許す構成としている。
【0004】
ここで、旋回軸受は、例えば玉軸受やころ軸受等の転がり軸受により構成され、例えば超大型の建設機械の場合には、二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受により旋回軸受を構成し、十分な負荷容量を確保できるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような旋回軸受を含む各種の回転支持部を構成するスラストころ軸受は、内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、内輪および外輪の軸線に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線を中心として転動可能にころ収容空間に配置された複数のころと、該各ころを転動可能に保持するためころ収容空間に設けられた保持器とにより大略構成されている。そして、ころ収容空間内で各ころが転動することにより、内輪と外輪とを相対回転可能に支持する構成となっている。
【0006】
一方、スラストころ軸受には、各ころを保持する保持器を、ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成したものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−171724号公報
【特許文献2】米国特許第3501212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、特許文献2による分割式の保持器を、例えば旋回軸受の保持器として用いることを検討した。しかし、特許文献2による保持器を旋回軸受の保持器としてそのまま用いた場合、各ころと各保持器分割体とがミスアライメントし、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷し易くなるという問題がある。
【0009】
即ち、環状のころ収容空間内に周方向に連続して配置される各保持器分割体は、内輪と外輪との相対回転に伴って、ころ収容空間内を各ころと共に周方向に移動する。このとき、保持器分割体には、該保持器分割体を外輪の内周面に押付けようとする力が、周方向に隣合う保持器分割体から加わる。これにより、保持器分割体は、ころ収容空間内を周方向に移動しつつ外輪の内周面側にも変位し、保持器分割体のうち外輪の内周面と対向する外壁面の両端縁部が外輪の内周面と接触(摺接)する。
【0010】
特許文献2による分割式の保持器は、各保持器分割体の外壁面のうち周方向一側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法と、保持器分割体の外壁面のうち周方向他側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法とが相違する構成としている。このため、保持器分割体の外壁面の両端縁部が外輪の内周面に接触すると、保持器分割体の移動方向ところの転動方向とが不一致になり、保持器分割体(のポケットの中心軸線)ところ(の中心軸線)とがミスアライメントする。
【0011】
このようなミスアライメントを防止するために、本発明者等は、保持器分割体の外壁面のうち周方向一側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法と、保持器分割体の外壁面のうち周方向他側の端縁部ところ中心軸線との離間寸法とを等しく設定する構成を考えた。このような構成によれば、保持器分割体が外輪の内周面側に変位し、保持器分割体の外壁面の両端縁部が外輪の内周面と接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができ、ミスアライメントを防止することができる。
【0012】
しかし、上述のように離間寸法を等しく設定すると、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法が大きくなり、周方向に隣合う各ころの間隔も大きくなる。これにより、スラストころ軸受内に組み込むことのできるころの数が減少し、スラストころ軸受の負荷容量が小さくなるという問題がある。
【0013】
本発明は上述した問題に鑑みなされたもので、ミスアライメントの防止と負荷容量の確保とを両立できるスラストころ軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため本発明は、内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受に適用される。
【0015】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する2個の突起部を前記外輪の周方向に離間して設け、前記各保持器分割体が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触する構成としたことにある。
【0016】
請求項2の発明は、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触したときに、該外輪の内周面と前記各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことにある。
【0017】
請求項3の発明は、前記各突起部のうち一方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(A)とし、前記各突起部のうち他方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(B)とし、前記一方の突起部の高さ寸法を(C)とし、前記他方の突起部の高さ寸法を(D)とした場合に、A=B、C=Dに設定したことにある。
【0018】
請求項4の発明は、前記ころの半径を(R)とした場合に、0.6R≦A=B≦Rに設定したことにある。
【0019】
一方、請求項5の発明は、前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する1個の突起部を前記ころ中心軸線(X−X)から前記外輪の周方向に離間して設け、前記各保持器が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記外壁面のうち前記ころ中心軸線(X−X)を挟んで前記突起部とは反対側の端縁部と前記突起部の頂部とが前記外輪の内周面に接触する構成とし、前記突起部の頂部と前記外壁面の端縁部とが前記外輪の内周面に接触したときに、前記ころ中心軸線(X−X)と前記外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことにある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、保持器分割体の外壁面に設けた2個の突起部の頂部が外輪の内周面に接触する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることにより、各ころと各保持器分割体とがミスアライメントすることを防止できる。これにより、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止でき、スラストころ軸受の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0021】
各突起部は、保持器分割体の外壁面から外輪の内周面に向けて突出する構成としたので、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、2個の突起部を設けることにより、スラストころ軸受内に組み込むころの数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、スラストころ軸受の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、外輪の内周面と各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)がころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、一方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(A)と他方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(B)とを等しくすると共に、一方の突起部の高さ寸法(C)と他方の突起部の高さ寸法(D)とを等しく設定する構成としたので、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、一方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(A)と他方の突起部ところ中心軸線(X−X)との離間寸法(B)とを、ころの半径(R)の0.6倍以上でかつ1倍以下に設定したので、外輪の内周面と各突起部との接触点(S)間の距離を適正にすることができる。これにより、各突起部の頂部と外輪の内周面とが接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とが一致した状態を安定して維持することができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、保持器分割体の外壁面に設けた1個の突起部の頂部と該外壁面の端縁部とが外輪の内周面に接触したときに、ころ中心軸線(X−X)と外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)がころ中心軸線(X−X)と直交する構成としている。このため、突起部の頂部と外壁面の端縁部とが外輪の内周面に接触したときに、ころの転動方向と保持器分割体の移動方向とを一致させることができ、各ころと各保持器分割体とのミスアライメントを防止することができる。これにより、保持器分割体のポケットの内面が異常摩耗したり損傷することを防止でき、スラストころ軸受の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0026】
突起部は、保持器分割体の外壁面から外輪の内周面に向けて突出する構成としたので、内輪および外輪の周方向に関する保持器分割体の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、1個の突起部を設けることにより、スラストころ軸受内に組み込むころの数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、スラストころ軸受の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスラストころ軸受が組込まれた油圧ショベルを作業装置を取外した状態で示す正面図である。
【図2】図1中のスラストころ軸受を旋回駆動装置、円筒体、旋回フレーム等と共に示す断面図である。
【図3】スラストころ軸受を示す図2中の(III)部に相当する拡大断面図である。
【図4】スラストころ軸受を示す図3と同方向から見た分解断面図である。
【図5】スラストころ軸受を示す図3中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】図5中の保持器分割体、ころ等を拡大して示す拡大断面図である。
【図7】1個の保持器分割体、ころ等を示す平面図である。
【図8】保持器分割体を単体で示す斜視図である。
【図9】比較例による保持器分割体、ころ等を示す図6と同様な拡大断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態による保持器分割体、ころ等を示す図7と同様な平面図である。
【図11】第2の実施の形態による保持器分割体を単体で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るスラストころ軸受の実施の形態を、超大型の油圧ショベルの旋回軸受に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に設けられた後述の上部旋回体6と、該上部旋回体6の前部側に設けられた作業装置(図示せず)とにより大略構成されている。そして、基台としての下部走行体2と旋回体としての上部旋回体6との間には、上部旋回体6を下部走行体2上で旋回させる後述の旋回装置10が設けられている。
【0030】
ここで、下部走行体2は、左,右方向の中央部に位置するセンタフレーム3と、該センタフレーム3の左,右両側に位置して前,後方向に延びた左,右のサイドフレーム4(左側のみ図示)とを有し、センタフレーム3を構成する上板3Aには後述の円筒体5が設けられている。
【0031】
5はセンタフレーム3の上板3A上に上方に突出して設けられた上部旋回体取付用の円筒体で、該円筒体5は、図2に示すように、後述する旋回軸受11の内輪12が取付けられるものである。ここで、円筒体5は、大径な円筒状をなし、旋回中心となる軸線O−Oを中心としてセンタフレーム3の上板3A上に溶接等の手段を用いて固着されている。センタフレーム3の上板3Aには、円筒体5の内周側に位置して作業用の開口部3Bが形成されている。
【0032】
6は下部走行体2の円筒体5上に旋回装置10を介して旋回可能に設けられた上部旋回体で、該上部旋回体6は、ベースとなる旋回フレーム7と、該旋回フレーム7の前部左側に設けられ運転室を画成するキャブ8と、旋回フレーム7の後端側に設けられたカウンタウエイト9等により構成されている。
【0033】
10は下部走行体2と上部旋回体6との間に設けられた旋回装置で、該旋回装置10は、下部走行体2(センタフレーム3)上で上部旋回体6を旋回させるものである。ここで、旋回装置10は、後述の旋回軸受11、旋回駆動装置32等により構成されている。
【0034】
次に、本実施の形態に係る旋回軸受11として、スラストころ軸受を例に挙げ説明する。
【0035】
即ち、11は下部走行体2の円筒体5と上部旋回体6の旋回フレーム7との間に設けられたスラストころ軸受としての旋回軸受で、該旋回軸受11は、下部走行体2に対して上部旋回体6を軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0036】
旋回軸受11は、二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受として構成されている。このような旋回軸受11は、後述の内輪12と、外輪14と、スラストころ19,20と、ラジアルころ21と、スラスト保持器22,26と、ラジアル保持器29とにより大略構成されている。
【0037】
12は円筒体5の上面に後述のボルト13を用いて固着された円環状の内輪で、該内輪12は、図3等に示すように、外径寸法が最も小さい上段円筒部12Aと、外径寸法が最も大きい中段円筒部12Bと、外径寸法が中段円筒部12Bよりも小さく上段円筒部12Aよりも大きい下段円筒部12Cとを有する三段の段付き円筒状部材として形成されている。
【0038】
上段円筒部12Aの外周面と中段円筒部12Bの外周面との間を連続する段差面は、図4等に示すように、後述のスラストころ19が転動する内輪側スラスト軌道面12Dとなり、中段円筒部12Bの外周面は、後述のラジアルころ21が転動する内輪側ラジアル軌道面12Eとなり、中段円筒部12Bの外周面と下段円筒部12Cの外周面との間を連続する段差面は、後述のスラストころ20が転動する内輪側スラスト軌道面12Fとなっている。
【0039】
内輪12の周方向の複数個所には、後述のボルト13を挿通するボルト挿通孔12Gが周方向に離間して設けられている。内輪12の下段円筒部12Cの外周面のうち後述する外輪14の下端面よりも下側となる部位には、後述のシール30を取付けるシール溝12Hが全周にわたって設けられている。内輪12の内周側(径方向内側)には内歯12Jが全周にわたって形成され、該内歯12Jは後述のピニオン32Cに噛合する構成となっている。
【0040】
13は内輪12を円筒体5の上面に固着する複数本のボルトで、該各ボルト13は、内輪12の各ボルト挿通孔12Gに挿通され円筒体5に螺着されている。
【0041】
14は内輪12の外周側(径方向外側)に内輪12の軸線O−Oと同心に設けられた円環状の外輪で、該外輪14は、内輪12との間に後述する環状のころ収容空間18を形成するものである。ここで、外輪14は、円環状の上側外輪分割体15と、該上側外輪分割体15の下側に配置された円環状の下側外輪分割体16とにより大略構成されている。これら上側外輪分割体15と下側外輪分割体16は、互いに突き合わされた状態で、旋回フレーム7の下面に後述のボルト17を用いて固着されている。
【0042】
上側外輪分割体15は、内径寸法が最も小さい上段円筒部15Aと、内径寸法が上段円筒部15Aよりも大きい中段円筒部15Bと、内径寸法が上段円筒部15Aおよび中段円筒部15Bよりも大きい下段円筒部15Cとを有する三段の段付き円筒状部材として形成されている。
【0043】
中段円筒部15Bの内周面15B1は、段差内周面となっており、該内周面15B1には、後述するスラスト保持器22の外壁面23C1が対向している。上段円筒部15Aの内周面と中段円筒部15Bの内周面15B1との間の段差面は、後述のスラストころ19が転動する外輪側スラスト軌道面15Dとなっている。また、下段円筒部15Cの内周面は、後述のラジアルころ21が転動する外輪側ラジアル軌道面15Eとなっている。
【0044】
上側外輪分割体15の周方向の複数個所には、後述のボルト17を挿通するボルト挿通孔15Fが周方向に離間して設けられている。上側外輪分割体15の上段円筒部15Aの内周面のうち内輪12の上端面よりも上側となる部位には、後述のシール31を取付けるシール溝15Gが全周にわたって設けられている。
【0045】
一方、下側外輪分割体16は、内径寸法が大きい上段円筒部16Aと、内径寸法が小さい下段円筒部16Bとを有する二段の段付き円筒状部材として形成されている。上段円筒部16Aの内周面16A1は、段差内周面となっており、該内周面16A1には、後述するスラスト保持器26の外壁面27A1が対向している。上段円筒部16Aの内周面16A1と下段円筒部16Bの内周面との間の段差面は、後述のスラストころ20が転動する外輪側スラスト軌道面16Cとなっている。
【0046】
下側外輪分割体16の周方向の複数個所には、後述のボルト17を挿通するボルト挿通孔16Dが、上側外輪分割体15のボルト挿通孔15Fと対応して設けられている。下側外輪分割体16の上面には、上側外輪分割体15の下段円筒部15Cの下端部を嵌着する係合凹部16Eが設けられており、該係合凹部16Eと下段円筒部15Cの下端部との嵌着により、下側外輪分割体16と上側外輪分割体15とを径方向に(同心に)位置決めできる構成となっている。
【0047】
17は外輪14(上側外輪分割体15と下側外輪分割体16)を旋回フレーム7の下面に固着する複数本のボルトで、該各ボルト17は、下側外輪分割体16の各ボルト挿通孔16Dと上側外輪分割体15の各ボルト挿通孔15Fとに挿通され旋回フレーム7に螺着されている。
【0048】
18は内輪12と外輪14との間に形成された環状のころ収容空間で、該ころ収容空間18には、後述のスラストころ19,20およびラジアルころ21が転動可能に収容されている。
【0049】
19は内輪側スラスト軌道面12Dと外輪側スラスト軌道面15Dとの間に設けられたころとしての複数のスラストころ(スラスト円筒ころ)で、該各スラストころ19は、内輪12と外輪14との間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0050】
ここで、スラストころ19は、内輪12および外輪14の軸線O−Oに直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線X−Xを中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各スラストころ19は、内輪側スラスト軌道面12Dと外輪側スラスト軌道面15Dとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0051】
20は内輪側スラスト軌道面12Fと外輪側スラスト軌道面16Cとの間に設けられたころとしての複数のスラストころ(スラスト円筒ころ)で、該各スラストころ20は、スラストころ19と同様に、内輪12と外輪14との間に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。
【0052】
ここで、スラストころ20は、スラストころ19と同様に、内輪12および外輪14の軸線O−Oに直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線X−X(図2参照)を中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各スラストころ20は、内輪側スラスト軌道面12Fと外輪側スラスト軌道面16Cとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0053】
21は内輪側ラジアル軌道面12Eと外輪側ラジアル軌道面15Eとの間に設けられた複数のラジアルころ(ラジアル円筒ころ)で、該各ラジアルころ21は、内輪12と外輪14との間に加わるラジアル荷重を支承しつつ、これら内輪12と外輪14とを軸線O−Oを中心として相対回転可能に支持するものである。ここで、ラジアルころ21は、内輪12および外輪14の軸線O−Oと平行なころ中心軸線(図示せず)を中心として転動可能にころ収容空間18に配置されている。各ラジアルころ21は、内輪側ラジアル軌道面12Eと外輪側ラジアル軌道面15Eとの間で転動(自転しつつ公転)することにより、内輪12と外輪14との相対回転を許容する構成となっている。
【0054】
次に、スラストころ19を保持するためのスラスト保持器22、スラストころ20を保持するためのスラスト保持器26、およびラジアルころ21を保持するためのラジアル保持器29等について説明する。
【0055】
即ち、22はスラストころ19を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器を示し、該スラスト保持器22は、図5等に示すように、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体23により構成されている。
【0056】
これら各保持器分割体23は、図6ないしは図7等に示すように、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部(柱部)23Aおよび凹状仕切り部(柱部)23Bと、該各仕切り部23A,23Bのうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部23Cと、各仕切り部23A,23Bのうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部23Dと、各仕切り部23A,23Bと外側連結部23Cと内側連結部23Dとに囲まれて形成されスラストころ19を転動可能に保持するポケット23Eとにより大略構成されている。
【0057】
ここで、凸状仕切り部23Aの壁面は、該仕切り部23Aと隣接する別の保持器分割体23に向けて突出した多角形面状の凸状面23A1とし、凹状仕切り部23Bの壁面は、該仕切り部23Bと隣接する別の保持器分割体23から離れる方向に凹陥する凹円弧状面23B1としている。これにより、各保持器分割体23をころ収容空間18内に環状に列設した状態で、凸状仕切り部23Aの凸状面23A1と凹状仕切り部23Bの凹円弧状面23B1とが当接する構成となっている。
【0058】
24,25は外側連結部23Cの外壁面23C1に設けられた2個の突起部を示し、これら突起部24,25は、横断面形状が半円形で軸線O−O方向に延びる突状体からなり、外輪14の周方向に離間して設けられている。ここで、突起部24,25は、外輪14(上側外輪分割体15)を構成する中段円筒部15Bの内周面15B1側に向けて突出するものである。
【0059】
これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体23がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、図6ないしは図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触(摺接)するように構成している。
【0060】
また、図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、ころ中心軸線X−Xと外輪14の内周面15B1との交点をKとすると、当該交点Kにおける該内周面15B1との接線Z−Zがころ中心軸線X−Xと直交するように構成している。換言すれば、図6に示すように、保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pとスラストころ19の転動方向Mとが直交するようにしている。
【0061】
このために、図7に示すように、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点Sを結ぶ仮想線Y−Yは、ころ中心軸線X−Xおよび保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pと直交するように構成している。
【0062】
ここで、各突起部24,25の寸法や位置関係は、次のように設定している。即ち、図7に示すように、各突起部24,25のうち一方の突起部24ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をAとし、各突起部24,25のうち他方の突起部25ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をBとした場合に、離間寸法AとBとは、下記数1の関係にある。また、これと共に、一方の突起部24の高さ寸法をCとし、他方の突起部25の高さ寸法をDとした場合に、高さ寸法CとDとは、下記数1の関係にある。
【0063】
【数1】
【0064】
これにより、各突起部24,25の頂部24A,25Aが外輪14の内周面15B1に接触したときに、図6に示すように、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとを一致させることができ、各スラストころ19と各保持器分割体23とのミスアライメントを防止することができる。
【0065】
また、一方の突起部24の離間寸法Aと他方の突起部25の離間寸法Bは、スラストころ19の半径をRとした場合に、離間寸法A,Bと半径Rとは、下記数2のように設定されている。
【0066】
【数2】
【0067】
これにより、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点S,S間の距離E(=A+B)を適正にでき、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとを一致させた状態で、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25とを安定して接触させることができる。
【0068】
26はスラストころ20を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器を示し、該スラスト保持器26は、スラスト保持器22と同様に、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体27により構成されている。
【0069】
これら各保持器分割体27は、図4等に示すように、各保持器分割体23と同様に、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部および凹状仕切り部(いずれも図示せず)と、該各仕切り部のうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部27Aと、各仕切り部のうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部27Bと、各仕切り部と外側連結部27Aと内側連結部27Bとに囲まれて形成されスラストころ20を転動可能に保持するポケット27Cとにより大略構成されている。
【0070】
そして、各保持器分割体27も、外側連結部27Aの外壁面27A1に、外輪14(下側外輪分割体16)を構成する上段円筒部16Aの内周面16A1に向けて突出する2個の突起部28(1個のみ図示)を設けている。これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体27がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面16A1側に向けても変位したときに、各突起部28の頂部28Aが外輪14の内周面16A1に接触(摺接)するように構成している。
【0071】
なお、スラスト保持器26を構成する各保持器分割体27は、上述したスラスト保持器22を構成する保持器分割体23と同様の構成、作用効果を有しているので、スラスト保持器26(各保持器分割体27)に関するこれ以上の説明は省略する。
【0072】
次に、29はラジアルころ21を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられたラジアル保持器を示し、該ラジアル保持器29は、各ラジアルころ21を内輪12および外輪14の周方向に所定間隔で保持するものである。
【0073】
30,31は、図3に示すように、内輪12と外輪14との間に設けられた一対のシールで、該各シール30,31は、ゴム材、可撓性樹脂材等の弾性材により円環状に形成され、内輪12のシール溝12Hと外輪14のシール溝15Gにそれぞれ取付けられている。これら各シール30,31は、ころ収容空間18内に外部から異物が侵入することを防止すると共に、ころ収容空間18内の潤滑剤(グリース)が外部に漏出することを防止するものである。
【0074】
32は旋回フレーム7にボルト等を用いて固定された2基の旋回駆動装置で、該各旋回駆動装置32は、旋回軸受11の内輪12に大きな回転力を伝達することにより、旋回フレーム7を円筒体5上で旋回させるものである。ここで、各旋回駆動装置32は、回転源としての油圧モータ32Aと、太陽歯車、遊星歯車、キャリア等(いずれも図示せず)からなり油圧モータ32Aの回転を減速する遊星歯車減速機32Bと、該遊星歯車減速機32Bによって減速された回転を出力するピニオン32Cとにより大略構成され、ピニオン32Cは、旋回軸受11を構成する内輪12の内歯12Jに噛合している。
【0075】
そして、各旋回駆動装置32は、油圧モータ32Aの回転を遊星歯車減速機32Bによって減速することにより、内輪12の内歯12Jに噛合したピニオン32Cを大きなトルク(回転力)をもって回転させるものである。これにより、ピニオン32Cは、内輪12の内歯12Jに沿って自転しつつ公転し、このときの公転力によって旋回フレーム7(上部旋回体6)を円筒体5(下部走行体2)上で旋回させる構成となっている。
【0076】
33は円筒体5の内周側に配置されたグリースバスで、該グリースバス33は、例えばスタッドボルトとナット(いずれも図示せず)とを用いて旋回軸受11を構成する内輪12の下面に取付けられ、旋回駆動装置32のピニオン32Cと内輪12の内歯12Jとの噛合部を潤滑するグリース(潤滑油)を貯えるものである。
【0077】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、該油圧ショベル1は、下部走行体2によって作業現場まで自走した後、旋回装置10によって上部旋回体6を旋回させつつ、作業装置(図示せず)を用いて土砂等の掘削作業を行う。
【0078】
ここで、下部走行体2上で上部旋回体6を旋回させる場合には、旋回駆動装置32の油圧モータ32Aを回転駆動し、この油圧モータ32Aの回転を遊星歯車減速機32Bによって減速することにより、旋回軸受11を構成する内輪12の内歯12Jに噛合したピニオン32Cを大きなトルクをもって回転させる。これにより、ピニオン32Cは、内輪12の内歯12Jに沿って自転しつつ公転し、ピニオン32Cの公転力が、旋回駆動装置32が固定された旋回フレーム7に伝わることにより、旋回フレーム7は旋回軸受11を介して円筒体5上を旋回し、下部走行体2上で上部旋回体6を旋回させることができる。
【0079】
このとき、旋回軸受11のスラスト保持器22を構成する保持器分割体23は、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、ころ収容空間18内を各スラストころ19と共に周方向に移動する。即ち、旋回軸受11の各スラストころ19は、図6に示すように、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、環状のころ収容空間18内を矢示M方向に転動する。また、各スラストころ19をポケット23E内に転動可能に保持(収容)する保持器分割体23も、各スラストころ19の転動に伴って矢示N方向に移動する。
【0080】
この場合に、スラストころ19にスラスト荷重が作用している負荷圏では、内輪12と外輪14との相対回転に基づき各スラストころ19が回転駆動され、このスラストころ19の回転に基づいて、保持器分割体23もスラストころ19から押されて移動する。一方、スラストころ19にスラスト荷重が作用していない非負荷圏では、スラストころ19に駆動力がないので負荷圏の保持器分割体23によって非負荷圏の保持器分割体23が押され、これに伴い当該保持器分割体23に保持されたスラストころ19が転動する。
【0081】
なお、油圧ショベル1の旋回軸受11の場合、例えば作業装置のバケット(いずれも図示せず)により土砂等を持ち上げるときは、旋回軸受11のうち旋回中心O−Oを挟んで作業装置とは反対側に位置する半円部が非負荷圏となり、作業装置側に位置する半円部が負荷圏となる。これに対して、例えば作業装置のバケットが地面に接地した瞬間などのように、該地面から作業装置が押されるときは、旋回軸受11のうち旋回中心O−Oを挟んで作業装置とは反対側に位置する半円部が負荷圏となり、作業装置側に位置する半円部が非負荷圏となる。
【0082】
いずれにしても、上部旋回体6の旋回時(内輪12と外輪14との相対回転時)、保持器分割体23は、負荷圏を通過するときは各スラストころ19から押され、非負荷圏を通過するときは負荷圏を通過する保持器分割体23から押される。これにより、保持器分割体23は、スラストころ19の転がり方向に隣合う保持器分割体23を互いに押し合いつつ、ころ収容空間18内を周方向に移動する。
【0083】
このとき、保持器分割体23には、隣合う保持器分割体23から図6に矢示Lで示す力が加わり、保持器分割体23は、外輪14の内周面15B1に押付けられつつころ収容空間18内を周方向に移動する。即ち、保持器分割体23は、隣合う保持器分割体23から外輪14の内周面15B1側に押付けられる方向の力Lを受け、これにより、ころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位する。
【0084】
本実施の形態によれば、保持器分割体23の外壁面23C1に2個の突起部24,25を設ける構成としたので、保持器分割体23が外輪14の内周面15B1側に向けて変位したときに(外輪14の内周面15B1に押し付けられたときに)、保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1と接触(摺接)する。
【0085】
この場合、図7に示すように、一方の突起部24の離間寸法Aと他方の突起部25の離間寸法Bとを等しくすると共に、一方の突起部24の高さ寸法Cと他方の突起部25の高さ寸法Dとを等しく設定する構成としているので、外輪14の内周面15B1と各突起部24,25との接触点Sを結ぶ仮想線Y−Yが、ころ中心軸線X−Xと直交する。換言すれば、保持器分割体23のポケット23Eの中心軸線P−Pがスラストころ19の転動方向Mと直交する。
【0086】
このため、各突起部24,25の頂部24A,25Aと外輪14の内周面15B1とが接触したときに、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとが一致する。これにより、スラストころ19(の中心軸線X−X)と保持器分割体23(のポケット23Eの中心軸線P−P)とがミスアライメントすることを防止でき、保持器分割体23のポケット23Eの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止できる。この結果、旋回軸受11の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0087】
次に、図6に示す本実施の形態による保持器分割体23と、図9に示す比較例による保持器分割体100との比較について説明する。
【0088】
図9は、比較例による保持器分割体100を示している。比較例による保持器分割体100は、外壁面100Aのうち周方向一側の端縁部101ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Vと、外壁面100Aのうち周方向他側の端縁部102ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Wとが相違する構成となっている。また、本実施の形態のような突起部24,25は設けていない。
【0089】
このような比較例の場合は、保持器分割体100が外輪14の内周面15B1側に向けて変位すると(外輪14の内周面15B1に押し付けられると)、保持器分割体100の外壁面100Aの両端縁部101,102が外輪14の内周面15B1に接触し、この接触に伴って、保持器分割体100の移動方向Nとスラストころ19の転動方向Mとが不一致になる。これにより、保持器分割体100(のポケット100Bの中心軸線P−P)とスラストころ19(の中心軸線X−X)とがミスアライメントし、保持器分割体100のポケット100Bの内面が異常摩耗したり損傷し易くなる虞がある。
【0090】
このようなミスアライメントを防止するために、保持器分割体100の離間寸法V,Wを等しく設定することが考えられる。しかし、この場合には、ポケット100Bを確保するために寸法Vを小さくできず、寸法Wを大きくすることになり、その分、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体100の寸法が大きくなる。これにより、周方向に隣合う各スラストころ19の間隔も大きくなり、旋回軸受11内に組み込むことのできるスラストころ19の数が減少し、旋回軸受11の負荷容量が小さくなる。
【0091】
これに対して、本実施の形態によれば、各突起部24,25は、保持器分割体23の外壁面23C1から外輪14の内周面15B1に向けて突出する構成としたので、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体23の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、2個の突起部24,25を保持器分割体23の外壁面23C1に設けることにより、旋回軸受11内に組み込むスラストころ19の数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、旋回軸受11の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0092】
本実施の形態によれば、図7に示すように、一方の突起部24ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Aと他方の突起部25ところ中心軸線X−Xとの離間寸法Bとを、スラストころ19の半径Rの0.6倍以上でかつ1倍以下(より好ましくは、0.7倍以上でかつ0.9倍以下)に設定したので、外輪14の内周面15B1と一方の突起部24との接触点Sと内周面15B1と他方の突起部25との接触点Sとの間の距離Eを適正な距離とすることができる。これにより、各突起部24,25の頂部24A,25Aと外輪14の内周面15B1とが接触したときに、スラストころ19の転動方向Mと保持器分割体23の移動方向Nとが一致した状態を安定して維持することができる。
【0093】
本実施の形態によれば、旋回軸受11の最終組立隙間を、全ての保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1に接触した状態で設定することもできる。ここで、最終組立隙間は、例えば、ころ収容空間18内に各スラストころ19および保持器分割体23を、隣合う保持器分割体23同士の間に周方向の隙間が生じないように全周にわたって順番に組付けたときに、最初に組付けた保持器分割体23と最後に組付けた保持器分割体23との間に生じる最終的な周方向の隙間で、各保持器分割体23の寸法公差を吸収するためのものである。
【0094】
このような最終組立隙間を、全ての保持器分割体23の各突起部24,25が外輪14の内周面15B1に接触した状態で設定した場合には、計算で求められる設計上の最終組立隙間と、旋回軸受11の組立時にころ収容空間18内に各スラストころ19と各保持器分割体23とを組み付けたときの実際の最終組立隙間との間に差異を生じにくくすることができる。これにより、最終組立隙間をより小さく設定することが可能になり、その分、旋回軸受11内に組み込むことのできるスラストころ19の数を増やすことができ、旋回軸受11の負荷容量の向上を図ることができる。
【0095】
本実施の形態によれば、保持器分割体23に各突起部24,25を設けたことにより、ころ収容空間18内の空き空間を増やすことができ、その分、ころ収容空間18内に封入できる潤滑油やグリースの量を増やすことができる。また、例えば、保持器分割体23の外壁面23C1のうち各突起部24,25に挟まれた部位を、潤滑油やグリースが上,下方向に流通する潤滑油通路として機能させることもできるため、潤滑油やグリースを循環させ易くすることができ、この面からも、旋回軸受11の耐久性、信頼性を高めることができる。
【0096】
次に、図10および図11は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、保持器分割体の外壁面に1個の突起部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0097】
図中、41はスラストころ19を転動可能に保持するためころ収容空間18に設けられた保持器としてのスラスト保持器で、該スラスト保持器41は、上述した第1の実施の形態と同様に、ころ収容空間18の全周にわたって該ころ収容空間18内に分割して配置される複数の保持器分割体42により構成されている。
【0098】
これら各保持器分割体42は、ころ中心軸線X−Xを挟んで対向する凸状仕切り部(柱部)42A,凹状仕切り部(柱部)42Bと、該各仕切り部42A,42Bのうち内輪12および外輪14の径方向外側の端部を連結する外側連結部42Cと、各仕切り部42A,42Bのうち内輪12および外輪14の半径方向内側の端部を連結する内側連結部42Dと、各仕切り部42A,42Bと外側連結部42Cと内側連結部42Dとに囲まれて形成されスラストころ19を転動可能に保持するポケット42Eとにより大略構成されている。
【0099】
ここで、凸状仕切り部42Aの壁面は、該仕切り部42Aと隣接する別の保持器分割体(図示せず)に向けて突出した多角形面状の凸状面42A1とし、凹状仕切り部42Bの壁面は、該仕切り部42Bと隣接する別の保持器分割体(図示せず)から離れる方向に凹陥する凹円弧状面42B1としている。これにより、各保持器分割体42をころ収容空間18内に環状に列設した状態で、凸状仕切り部42Aの凸状面42A1と凹状仕切り部42Bの凹円弧状面42B1とが当接する構成となっている。
【0100】
43は外側連結部42Cの外壁面42C1に設けられた1個の突起部を示し、該突起部43は、横断面形状が半円形で軸線O−O方向に延びる突状体からなり、ころ中心軸線X−X対し内輪12および外輪14の周方向に離間した位置に設けられている。
【0101】
これにより、内輪12と外輪14との相対回転に伴って、各保持器分割体42がころ収容空間18内を周方向に移動しつつ外輪14の内周面15B1側に向けても変位したときに、外壁面42C1のうちころ中心軸線X−Xを挟んで突起部43とは反対側の端縁部42C2と突起部43の頂部43Aとが、外輪14の内周面15B1に接触(摺接)するように構成している。即ち、本実施の形態の場合は、各保持器分割体42は、外輪14の内周面15B1に、突起部43との接触点Sと端縁部42C2との接触点Tとの2個所位置で接触するように構成している。
【0102】
また、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、ころ中心軸線X−Xと外輪14の内周面15B1との交点をKとすると、当該交点Kにおける該内周面15B1との接線Z−Zは、ころ中心軸線X−Xおよび保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pと直交するようにしている。換言すれば、突起部43の頂部43Aと端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pとスラストころ19の転動方向とが直交するようにしている。
【0103】
このために、外壁面42C1のうちころ中心軸線X−Xを挟んで突起部43とは反対側に該突起部43と対称に仮想の突起部43′が設けられていると仮定した場合に、外輪14の内周面15B1と突起部43との接触点Sと内周面15B1と仮想の突起部43′との接触点S′とを結ぶ仮想線Y−Yは、ころ中心軸線X−Xと直交するようにしている。
【0104】
ここで、具体的な各部の寸法関係は、次のように設定している。即ち、突起部43ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をFとし、仮想の突起部43′ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をGとし、突起部43の高さをHとし、仮想の突起部43′の高さをQとし、外壁面42C1の端縁部42C2ところ中心軸線X−Xとの離間寸法をRとした場合に、離間寸法F,G,R、高さ寸法H,Qは、下記数3の関係にある。
【0105】
【数3】
【0106】
これにより、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1に接触したときに、スラストころ19の転動方向と保持器分割体42の移動方向とを一致させることができ、各スラストころ19と各保持器分割体42とのミスアライメントを防止することができる。
【0107】
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き保持器分割体42によりスラスト保持器41を構成するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
【0108】
即ち、本実施の形態によれば、保持器分割体42の外壁面42C1に1個の突起部43を設ける構成としたので、保持器分割体42が外輪14の内周面15B1側に向けて変位したときに(外輪14の内周面15B1に押し付けられたときに)、保持器分割体42の突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1と接触(摺接)する。
【0109】
この場合、外輪14の内周面15B1と突起部43との接触点Sと該突起部43と対称に設けられた仮想の突起部43′と外輪14の内周面15B1との接触点S′とを結ぶ仮想線Y−Yがころ中心軸線X−Xと直交する構成としているので、保持器分割体42のポケット42Eの中心軸線P−Pがスラストころ19の転動方向と直交する。
【0110】
このため、突起部43の頂部43Aと外壁面42C1の端縁部42C2とが外輪14の内周面15B1と接触したときに、スラストころ19の転動方向と保持器分割体42の移動方向とが一致する。これにより、スラストころ19(の中心軸線X−X)と保持器分割体42(のポケット42Eの中心軸線P−P)とがミスアライメントすることを防止でき、保持器分割体42のポケット42Eの内面が異常摩耗したり損傷したりすることを防止できる。この結果、旋回軸受11の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0111】
また、本実施の形態によれば、突起部43は、保持器分割体42の外壁面42C1から外輪14の内周面15B1に向けて突出する構成としたので、内輪12および外輪14の周方向に関する保持器分割体42の寸法を大きくしなくても、上述のようにミスアライメントを防止することができる。換言すれば、1個の突起部43を保持器分割体42の外壁面42C1に設けることにより、旋回軸受11内に組み込むスラストころ19の数を減らすことなく、ミスアライメントを防止することができる。これにより、旋回軸受11の負荷容量の確保とミスアライメントの防止とを両立することができる。
【0112】
なお、上述した各実施の形態では、旋回軸受11を二列のスラストころ軸受と一列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる三列ころ軸受により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばスラストころ軸受としての旋回軸受を、単列のスラストころ軸受、または、単列のスラストころ軸受と単列のラジアルころ軸受とを組合わせてなる二列ころ軸受等により構成してもよい。要は、旋回軸受は、少なくとも一列のスラストころ軸受により構成したものであればよい。
【0113】
上述した第1の実施の形態では、スラスト保持器22およびスラスト保持器26の両方が、各保持器分割体23,27の外壁面23C1,27A1に突起部24,25,28を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば一方のスラスト保持器を構成する各保持器分割体にのみ突起部を設ける構成としてもよい。
【0114】
上述した各実施の形態では、各保持器分割体23,27,42の凸状仕切り部23A,42Aの壁面を多角形面状の凸状面23A1,42A1とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば凸状仕切り部の壁面を円弧面状の凸状面としてもよい。
【0115】
上述した各実施の形態では、旋回式の建設機械として油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の旋回装置を備えた他の建設機械に適用してもよい。
【0116】
さらに、上述した実施の形態では、スラストころ軸受として旋回軸受を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、各種の回転支持部を構成するスラストころ軸受として広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0117】
11 旋回軸受(スラストころ軸受)
12 内輪
14 外輪
18 ころ収容空間
15B1,16A1 内周面
19,20 スラストころ(ころ)
22,26,41 スラスト保持器(保持器)
23,27,42,100 保持器分割体
23C1,27C1,42C1,100A 外壁面
24,25,28,43,43′ 突起部
24A,25A,28A,43A 頂部
42C2,101,102 端縁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受において、
前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、
該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する2個の突起部を前記外輪の周方向に離間して設け、
前記各保持器分割体が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触する構成としたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項2】
前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触したときに、該外輪の内周面と前記各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としてなる請求項1に記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記各突起部のうち一方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(A)とし、前記各突起部のうち他方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(B)とし、前記一方の突起部の高さ寸法を(C)とし、前記他方の突起部の高さ寸法を(D)とした場合に、A=B、C=Dに設定してなる請求項1または2に記載のスラストころ軸受。
【請求項4】
前記ころの半径を(R)とした場合に、0.6R≦A=B≦Rに設定してなる請求項3に記載のスラストころ軸受。
【請求項5】
内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受において、
前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、
該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する1個の突起部を前記ころ中心軸線(X−X)から前記外輪の周方向に離間して設け、
前記各保持器が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記外壁面のうち前記ころ中心軸線(X−X)を挟んで前記突起部とは反対側の端縁部と前記突起部の頂部とが前記外輪の内周面に接触する構成とし、
前記突起部の頂部と前記外壁面の端縁部とが前記外輪の内周面に接触したときに、前記ころ中心軸線(X−X)と前記外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項1】
内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受において、
前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、
該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する2個の突起部を前記外輪の周方向に離間して設け、
前記各保持器分割体が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触する構成としたことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項2】
前記各突起部の頂部が前記外輪の内周面に接触したときに、該外輪の内周面と前記各突起部との接触点(S)を結ぶ仮想線(Y−Y)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としてなる請求項1に記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記各突起部のうち一方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(A)とし、前記各突起部のうち他方の突起部と前記ころ中心軸線(X−X)との離間寸法を(B)とし、前記一方の突起部の高さ寸法を(C)とし、前記他方の突起部の高さ寸法を(D)とした場合に、A=B、C=Dに設定してなる請求項1または2に記載のスラストころ軸受。
【請求項4】
前記ころの半径を(R)とした場合に、0.6R≦A=B≦Rに設定してなる請求項3に記載のスラストころ軸受。
【請求項5】
内輪と、該内輪の外周側に設けられ該内輪との間に環状のころ収容空間を形成する外輪と、前記内輪および外輪の軸線(O−O)に直交すると共に径方向に延びるころ中心軸線(X−X)を中心として転動可能に前記ころ収容空間に配置され前記内輪と外輪とを相対回転可能に支持する複数のころと、該各ころを転動可能に保持するため前記ころ収容空間に設けられた保持器とを備えてなるスラストころ軸受において、
前記保持器は、前記ころ収容空間の全周にわたって該ころ収容空間内に分割して配置される複数の保持器分割体により構成し、
該各保持器分割体は、前記外輪の内周面と対向する外壁面に前記外輪の内周面側に向けて突出する1個の突起部を前記ころ中心軸線(X−X)から前記外輪の周方向に離間して設け、
前記各保持器が前記外輪の内周面に向けて変位したときに、前記外壁面のうち前記ころ中心軸線(X−X)を挟んで前記突起部とは反対側の端縁部と前記突起部の頂部とが前記外輪の内周面に接触する構成とし、
前記突起部の頂部と前記外壁面の端縁部とが前記外輪の内周面に接触したときに、前記ころ中心軸線(X−X)と前記外輪の内周面との交点(K)における該内周面との接線(Z−Z)は、前記ころ中心軸線(X−X)と直交する構成としたことを特徴とするスラストころ軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−149683(P2012−149683A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7771(P2011−7771)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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