説明

スリッパ

【課題】 履くことによって、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸収することができると共に底部及び甲部を表裏反転させて水分や汚れを拭き取るために用い得るスリッパの提供。
【解決手段】 履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所が、パイル布Lにより構成されている。パイル布LにおけるパイルPは、履いた状態の足が位置する部分に臨む。パイル布Lは、略円柱形状をなす多数のパイルPが基布S上に配設されてなり、各パイルPの基部は、基布Sに結合されている。底部B及び甲部Uは、表裏反転してもそれぞれ底部及び甲部を形成し得、表裏反転した場合、底部Bのパイル布L及びパイルPは下側に位置し、甲部Uのパイル布L及びパイルPは外側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性に優れたパイルを、履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所に備えると共に、底部及び甲部を表裏反転させて水分や汚れを拭き取るために用い得るスリッパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3177833号公報(特許文献1)には、接着性樹脂を有しないパイルと接着性樹脂によって繊維がセットされたパイルが混在するパイル層によって表面が覆われていることを特徴とする足拭きマットの発明が記載されている。
【0003】
この足拭きマットは、セットパイルが剛直な麻糸のように足裏を刺激してサラットした爽快感を与え、使用中に足拭きマットがベトツキ感を帯び難く、頻繁に取り替えずに済むようになるものとされている。
【0004】
この足拭きマットは、ベトツキ感を防ぐことができるものの、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に除去するための吸水性について十分に考慮されているとは言い難いものであった。
【0005】
特開平5−247834号公報(特許文献2)には、沸水収縮率が25〜50%の合成繊維(A繊維)及び前記A繊維以外の親水性繊維(B繊維)とからなる複合糸で該複合糸のパイル形成時の太さが2000d以上5000d以下、撚係数が70以上、120以下であるパイル糸を編織したパイル布帛を熱処理することにより、パイル部のパイル長を3〜6mm、パイル直径を2〜5mmとせしめたパイル布帛の発明が開示されている。
【0006】
このパイル布帛の発明は、従来合成樹脂合成ゴムの成型品でしか得られなかった凹凸状足裏刺激に優れた靴内底、敷皮、およびスリッパ内底材において、繊維を使用して同様の効果をもたせ、更に従来品にはない吸水および吸湿性に優れた感触の良い快適靴内底、敷皮、スリッパ内底材に有用なパイル布帛を提供することを可能としたものである。
【0007】
このパイル布帛の発明は、合成樹脂合成ゴムの成型品でしか得られなかった凹凸状足裏刺激に優れた靴内底と同様の効果を、繊維を使用したパイル布帛により実現しようとするものであるから、従来の合成樹脂合成ゴムでは得られなかった、吸水および吸湿性に優れ感触の良い靴内底、敷皮、およびスリッパ内底材を実現することができる。しかしながら、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に除去するための吸水性について十分に考慮されているとは言い難いものであった。
【0008】
また特開2006−21004号公報(特許文献3)には、スリッパ踏み面及びスリッパ甲部内面側に、傾斜した短いパイル布のケバ立ち先部を、スリッパつま先方向に向け設けることを特徴とするスリッパの発明が記載されている。
【0009】
この発明は、スリッパに設けた傾斜パイルのケバ立ち方向が、足裏の皮膚又は靴下の繊維に引っかかる効果を生じ、歩行時前進する或いは後退する時に脱げにくく、また廊下等に車椅子用に設けたスロープの上り勾配に向かって歩行するときも後ろ向きに脱げ易くなることも防げ、また余分な力を足に加える必要もなく楽で安全に歩行することが出来るという効果を奏する。
【0010】
しかしながら、この発明のスリッパは、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に除去するための吸水性について考慮されているものではない。
【0011】
また、底部及び甲部を表裏反転させて水分や汚れを拭き取るために用い得るスリッパは見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3177833号公報
【特許文献2】特開平5−247834号公報
【特許文献3】特開2006−21004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、履くことによって、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸収することができると共に底部及び甲部を表裏反転させて水分や汚れを拭き取るために用い得るスリッパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 上記目的を達成する本発明のスリッパは、
足裏を支持する底部と、底部に結合して足甲を覆う甲部を有するスリッパであって、
履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所にパイルを備え、
底部及び甲部が、表裏反転してそれぞれ底部及び甲部を形成し得る柔軟性を有し、
前記パイル部に多数有する各パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、繊維製の線条体が、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、前記パイルの略円柱形状外周面が前記各線条体の先端部により形成されているパイルであることを特徴とする。
【0015】
スリッパのうち履いた状態の足(例えば足の裏側、甲側、爪先部、側部及び後部うち何れか1又は2以上)が位置する部分に臨む箇所に備えているパイルは、繊維製の線条体(例えば各種合成繊維フィラメント、合成繊維若しくは天然繊維ステープル糸等)が、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるものであるため、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、内方に向かうほど更に前記線条体が高密度状態となる。
【0016】
そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって吸水力が作用するので、各パイルは、比較的多量の水分(水以外の成分を含有する水又はその他の水系液体を含めて単に「水分」又は「水」とも言う。)を、各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸収し得る。
【0017】
そのため、このスリッパは、濡れた足で履いた場合に、履いた状態において濡れた足の水分を迅速に吸収することができる。
【0018】
また、底部及び甲部が、表裏反転してそれぞれ底部及び甲部を形成し得る柔軟性を有するので、底部及び甲部を表裏反転させて履くことができる。その場合、吸水性に優れた前記パイルが底部の下側に位置するので、床面等の上で履いて移動しながら、その上の水分や汚れ等を拭き取ることができる。或いは、スリッパの底部及び甲部を表裏反転した状態で履いて床面等の上を移動する場合、底部の下側の多数のパイルにより、移動音ができるだけ生じないように移動することができる。
【0019】
上記本発明のスリッパは、パイルの先端部が、パイルを構成する放射状に配された繊維製の線条体(例えば各種合成繊維フィラメント、合成繊維若しくは天然繊維ステープル糸等)の先端部により形成された略凸曲面状をなすものとすることができる。
【0020】
この場合、パイルの先端部が、放射状に配された線条体の先端部により形成された略凸曲面状をなすので、略凸曲面状先端部の内方に向かうほど更に前記線条体が高密度状態となる。そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって吸水力が作用するので、各パイルの先端部から内方に向かって、水分を迅速に吸収し得る。
【0021】
また、上記スリッパにおけるパイルは、繊維製の線条体を飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものとすることができる。
【0022】
この場合のパイルは、モール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、すなわち、ループ部を構成するモール糸のうち、ループ部の一方の基部から端部を構成する部分と他方の基部から端部を構成する部分が、両部分の芯糸を中心として撚り合わさることにより、略円柱形状を形成したものである。
【0023】
(2) 上記本発明のスリッパは、上記パイルにおける上記線条体が0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントであり、上記パイルが高吸水高乾燥性のパイルであるものとすることができる。すなわち、上記パイルが、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、前記パイルの略円柱形状外周面が前記各フィラメントの先端部により形成されている高吸水高乾燥性のパイルであるものとすることができる。
【0024】
この場合、スリッパのうち履いた状態の足(例えば足の裏側、甲側、爪先部、側部及び後部うち何れか1又は2以上)が位置する部分に臨む箇所に備えているパイルは、0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるものであるため、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、内方に向かうほど更に前記フィラメントが高密度状態となる。
【0025】
そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルは、比較的多量の水分(水以外の成分を含有する水又はその他の水系液体を含めて単に「水分」又は「水」とも言う。)を、各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸収し得る。
【0026】
逆に、水分を吸収したパイルにおける各円形状横断面の外方部である略円柱形状外周部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略円柱形状をなすパイルの略円柱形状外周面部は、非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易い。
【0027】
従って、このスリッパが備える前記パイルは、水分を迅速に吸収し得、而も表面が乾燥した状態が維持され易い高吸水高乾燥性を実現し得る。そのため、このスリッパは、濡れた足で履いた場合に、履いた状態において濡れた足の水分を迅速に吸収して素早く乾燥感を与えることができる。
【0028】
而も、前記各パイルは、パイルを構成するフィラメントが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントがパイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、パイルの略円柱形状外周面は各フィラメントの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0029】
なお、前記パイルは多数備えることが望ましい。
【0030】
上記本発明のスリッパは、パイルの先端部が、パイルを構成する放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなすものとすることができる。
【0031】
この場合、パイルの先端部が、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなすので、略凸曲面状先端部の内方に向かうほど更に前記フィラメントが高密度状態となる。そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルの先端部から内方に向かって、水分を迅速に吸収し得る。逆に、吸水したパイルの先端部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略凸曲面状先端部は非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの先端部は比較的乾燥した状態を維持し易い。
【0032】
また、上記スリッパにおけるパイルは、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものとすることができる。
【0033】
この場合のパイルは、モール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、すなわち、ループ部を構成するモール糸のうち、ループ部の一方の基部から端部を構成する部分と他方の基部から端部を構成する部分が、両部分の芯糸を中心として撚り合わさることにより、略円柱形状を形成したものである。
【0034】
上記スリッパにおけるパイルの基部は、吸水性材料に結合されたものとすることができる。
【0035】
この場合、パイルの基部が吸水性材料に結合されているので、パイルが吸収した水分を、その基部の吸水性材料が更に吸収することにより、パイルが吸水し得る水分の総量を増大させることができる。
【0036】
また、上記スリッパのパイルにおける上記フィラメントは、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントであるものとすることができる。
【0037】
また、上記スリッパのパイルにおける上記非吸水性のフィラメントは、上記のような効果を奏し得る程度の非吸水性であればよく、例えば、吸水率が20℃相対湿度65%において5%以下であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明のスリッパの、履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所に備えているパイルは、水分を迅速に吸収し得る。そのためこのスリッパは、濡れた足で履いた場合に、履いた状態で濡れた足の水分を迅速に吸収することができる。また、底部及び甲部が、表裏反転してそれぞれ底部及び甲部を形成し得る柔軟性を有するので、底部及び甲部を表裏反転させて履くことができる。その場合、吸水性に優れた前記パイルが底部の下側に位置するので、床面等の上で履いて移動しながら、その上の水分や汚れ等を拭き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】スリッパの模式的縦断面図である。
【図2】スリッパの模式的拡大横断面図である。
【図3】底部を甲部内に折り返し収納した状態のスリッパの模式的正面図である。
【図4】表裏反転したスリッパの模式的縦断面図である。
【図5】表裏反転したスリッパの模式的拡大横断面図である。
【図6】パイルが設けられた基布の模式的要部拡大図である。
【図7】パイルの模式的拡大横断面図である。
【図8】モール糸によりパイルを形成する工程の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0041】
図面は何れも本発明の実施の形態の一例としてのスリッパ(スリッパの一例)についてのものである。
【0042】
このスリッパAは、履いた状態の足が位置する部分(すなわち、スリッパAを履いた状態において足の裏側、甲側の前部、爪先部及び前側部が位置する部分)に臨む箇所の全てが、パイル布Lにより構成されている。すなわち、スリッパAの底上部A1(爪先内下部A2を含む)及び甲内部A3(爪先内部A4、爪先内上部A5及び前内側部A6を含む)に、パイル布Lが設けられている。而も、パイル布LにおけるパイルPは、履いた状態の足が位置する部分に臨むように設けられている。
【0043】
パイル布Lは、略円柱形状をなす多数のパイルPが基布S上に配設されてなり、各パイルPの基部は、基布Sに結合されている。なお、基布としては、例えばフェルト、織布、不織布、編物等を用いることができ、基布以外に、パイルを設けることが可能なシート状材料(例えば皮革、合成樹脂材料、合成ゴム材料等)を用いてパイルを備えたスリッパを構成することができる。
【0044】
スリッパAの底部B及び甲部Uは、芯材としてスポンジ等の柔軟性のある材料を用いることにより、底部B及び甲部Uを表裏反転しても図4及び図5のようにそれぞれ底部及び甲部を形成し得、図3に示すように底部Bを折り返して甲部U内に収納し得る柔軟性を有する。表裏反転した場合、図4及び図5に示すように底部Bのパイル布L及びパイルPは下側に位置し、甲部Uのパイル布L及びパイルPは外側に位置する。
【0045】
各パイルPは、0.3デニールの非吸水性のポリエステルフィラメントF(なお、フィラメントを用いずにステープル糸等の繊維製の線条体を用いることもできる)を飾り糸とするモール糸Mにより形成されている。すなわち、図8に示すように、基布Sに対し、モール糸Mによるループ部Rを形成した後、ループ部Rを構成するモール糸Mのうち、ループ部Rの一方の基部から端部を構成する部分と他方の基部から端部を構成する部分が、両部分の芯糸Cを中心として撚り合わさることにより、図6に示す略円柱形状のパイルPを形成したものである。例えば、強撚モール糸Mを用い、基布Sに対しモール糸Mによるループ部Rを形成した後、熱処理(染色工程における熱処理が好ましい)を行うことにより各ループ部Rがそのモール糸Mの芯糸Cを中心として撚り合わさるものとすることができる。
【0046】
このようにして形成された各パイルPは、略円柱形状をなし、0.3デニールの非吸水性のフィラメントFが、パイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、パイルPの略円柱形状外周面は、各フィラメントFの先端部により形成される。パイルPの先端部Paは、パイルPを構成する放射状に配されたフィラメントFの先端部により形成された略凸曲面状をなす。
【0047】
基布S上に多数配設されているパイルPは、0.3デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントFが、パイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるものであるため、略円柱形状をなすパイルPの各円形状横断面において、内方に向かうほど更に前記フィラメントFが高密度状態となる。また、パイルPの先端部Paが、0.3デニールの非吸水性のフィラメントFが放射状に配されたフィラメントFの先端部により形成された略凸曲面状をなすので、略凸曲面状先端部の内方に向かうほど更にフィラメントFが高密度状態となる。そのため、毛管現象により、パイルPの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルPは、比較的多量の水を各円形状横断面の内方又は略凸曲面状先端部の内方に向かって迅速に吸水し得る。
【0048】
逆に、吸水したパイルPにおける各円形状横断面の外方部である略円柱形状外周部又は略凸曲面状先端部の外周面部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略円柱形状をなすパイルPの略円柱形状外周面部及び略凸曲面状先端部は、非吸水性のフィラメントFの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルPの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。すなわち、パイルPは高吸水高乾燥性を実現し得る。
【0049】
従って、このスリッパAを履いた場合、底上部A1(爪先内下部A2を含む)及び甲内部A3(爪先内部A4、爪先内上部A5及び前内側部A6を含む)にそれぞれ設けられた多数のパイルP、すなわち、足の裏側、甲側の前部、爪先部及び前側部が位置する部分に臨む多数のパイルPが、湯上り、シャワー、水泳、水遊び、海水浴の後等における濡れた足の水分を迅速に吸水して、スリッパAを履いた状態の足に対し素早く乾燥感を与えることができる。而も、このスリッパAは、各パイルPを構成するフィラメントFが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントFがパイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、また、パイルPの先端部PaはフィラメントFが放射状に配されて略凸曲面状をなし、パイルPの略円柱形状外周面及び先端部の略凸曲面状部は各フィラメントFの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0050】
また、スリッパAの底部B及び甲部Uを表裏反転した図4及び図5に示す状態で床面等の上で履いて移動することにより、主に底部Bの下側の多数のパイルPにより、床面等の上の水分や汚れ等を効率的に拭き取ることができる。或いは、スリッパAの底部B及び甲部Uを表裏反転した図4及び図5に示す状態で履いて床面等の上を移動する場合、底部Bの下側の多数のパイルPにより、移動音ができるだけ生じないように移動することができる。
【0051】
フィラメントFは、0.05乃至0.8デニールであり、好ましくは0.1乃至0.5デニール、好ましくは0.2乃至0.4デニールである。フィラメントFの材質は、ポリエステル系の他、例えば、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントFを用いることができる。
【0052】
芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。
【0053】
パイルPの形状は、例えば軸線方向長さが直径の1.5倍乃至10倍の略円柱形状とすることができる。好ましくは、軸線方向長さが直径の2倍乃至8倍、より好ましくは、軸線方向長さが直径の3倍乃至6倍程度である。略円柱形状をなすパイルPの側周面の面積を比較的に大きくすることにより、水分吸収性に優れたスリッパAが得られる。パイルPの軸線方向長さは、例えば5乃至80mmとすることができる。好ましくは15乃至50mmである。なお、パイルPの直径は軸線方向にほぼ一定であることが好ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0054】
また、パイルPは、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とする2本又は3本以上のモール糸が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したパイル形成糸(パイル形成体)等により形成したループパイルとすることもできる。
【0055】
スリッパAにおける各パイルPは同一形状及び同一サイズであるものとすることができるが、形状及びサイズが異なる複数種のパイルPを備えたスリッパAとすることもできる。パイルPは基布Sに対し密に設けることにより、パイルPの先端側からパイルP間に基布Sが見えないようにすることが好ましい。パイルPは基布Sに対し等間隔に設けることができるが、必ずしもこれに限らない。
【0056】
基布Sは、吸水性繊維からなるものとすることができる。この場合、各パイルPの基部は基布Sに結合されているので、パイルPが吸収した水分を基布Sが更に吸収することにより、基布S上に配設された多数のパイルPが吸水し得る水分の総量を増大させてパイルPにべとつき感が生じることをより効果的に防ぐことができる。基布以外の基体にパイルを設ける場合も、その基体を吸水性材料からなるものとすれば同様の効果を得ることが可能である。なお、基布Sは必ずしも吸水性繊維からなるものであることを要しない。
【0057】
なお、以上の実施の形態についての記述における構成部品の寸法、個数、材質、形状、その相対配置などは、特にそれらに限定される旨の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【符号の説明】
【0058】
A スリッパ
A1 底上部
A2 爪先内下部
A3 甲内部
A4 爪先内部
A5 爪先内上部
A6 前内側部
B 底部
C 芯糸
F フィラメント
L パイル布
M モール糸
P パイル
Pa 先端部
R ループ部
S 基布
U 甲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足裏を支持する底部と、底部に結合して足甲を覆う甲部を有するスリッパであって、
履いた状態の足が位置する部分に臨む箇所にパイルを備え、
底部及び甲部が、表裏反転してそれぞれ底部及び甲部を形成し得る柔軟性を有し、
前記パイル部に多数有する各パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、繊維製の線条体が、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、前記パイルの略円柱形状外周面が前記各線条体の先端部により形成されているパイルであることを特徴とするスリッパ。
【請求項2】
上記パイルが、繊維製の線条体を飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項1記載のスリッパ。
【請求項3】
上記パイルにおける上記線条体が0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントであり、上記パイルが高吸水高乾燥性のパイルである請求項1又は2記載のスリッパ。
【請求項4】
上記パイルが、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項3記載のスリッパ。
【請求項5】
上記非吸水性のフィラメントが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントである請求項3又は4記載のスリッパ。
【請求項6】
上記非吸水性のフィラメントの吸水率が、20℃相対湿度65%において5%以下である請求項3又は4記載のスリッパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−279450(P2010−279450A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133565(P2009−133565)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000178583)山崎産業株式会社 (77)
【Fターム(参考)】