説明

セメント系成形板

【課題】 養生収縮率の小さなセメント系成形板を提供する。
【解決手段】 セメント、水、油性物質等及び補強繊維からなるセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板において、該補強繊維が、80℃における熱収縮率が0.2%以下のポリプロピレン繊維であることを特徴とするセメント系成形板。さらに好ましくは、油性物質等がビニルモノマーであることを特徴とするセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、水、油性物質等および補強繊維からなるセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメント系成形板は、耐候性、防火性に優れており、製造コストも低いことから、特に建築材料として多量に使用されている。
【0003】
一般に、モルタル、コンクリート等のセメント系成形板は、養生硬化時のセメントの水和反応や養生硬化後の乾燥等により、基材が収縮するという問題があった。このような収縮を抑制する方法としては、セメントに対する水の使用量を減らす方法、収縮低減剤を添加する方法および骨材量を増やす方法などが一般的である。その他にも、特許文献1には、酸化カルシウムや酸化マグネシウムを添加することにより、セメント配合の硬化時の収縮、あるいは製品の水分蒸発逸散による収縮を防止することが記載されている。
一方、特許文献2には170℃、10分間における熱収縮率が10%以下、融解ピーク温度が178℃以上の高耐熱性ポリプロピレン繊維またはヤーンが、オートクレーブ養生温度175〜180℃で溶融せず、形態保持性に優れていることが記載されている。
【特許文献1】特開平07−232952号公報
【特許文献2】特開2002−302825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記方法は、通常のセメント系成形板には効果的であるが、セメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板に適用しようとした場合、W/O型エマルジョンの形成には、ある程度水が必要であり、水の使用量を減らすことができないという問題があった。また収縮低減剤を添加する方法や骨材を増やす方法の場合、セメント系成形板の養生収縮がある程度は抑えられるが、不十分であった。
【0005】
特に外装用のセメント系成形板の場合には、表面に凹凸模様を付与することが要望されている。そのためにセメント系成形原板の表面に、エンボスロール、エンボスベルト(キャタピラー式のエンボスベルト)等にて押圧したり、平面プレスにてプレス成形して模様付けしたりして所望の模様を付けたセメント系成形板を形成した後、養生硬化時の収縮、すなわち養生収縮が大きいと、模様が蛇行したり、シャープな模様を形成することができないという問題があった。また、セメント系成形板の部位毎或いはセメント系成形板間の養生収縮の収縮率が異なる場合には、複数枚使用して施工した場合に接合部の位置が一致しないという問題があった。
したがって、本発明は、上記課題を解決した養生収縮率の小さいセメント系成形板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は
(1)セメント、水、油性物質等及び補強繊維からなるセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板において、
該補強繊維が、80℃における熱収縮率が0.2%以下のポリプロピレン繊維であることを特徴とするセメント系成形板。
(2)(1)記載の油性物質等がビニルモノマーであることを特徴とするセメント系成形板。
(3)(1)記載のセメント系成形板が模様付外装用セメント系成形板であることを特徴とするセメント系成形板
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、80℃における熱収縮率の小さなポリプロピレン繊維を使うことにより、養生収縮率が小さいセメント系成形板を得ることができる。これにより外壁用外装材などの建築分野その他の用途への利用の拡大がはかれるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明を具体的に説明する。本発明に使用するセメント含有W/O型エマルジョン組成物は油の連続層の中にセメントと水が分散した構造になっており、粘土状の均一で柔らかく、水に不溶性の性質を有している。これは、通常セメント、水、油性物質、逆乳化剤を、セメントは水100重量部に対して20〜200重量部、油性物質はセメントと水の合計量100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは2〜20重量部、逆乳化剤は油性物質100重量部に対して3〜50重量部の範囲になるよう加えた後、市販のミキサーや連続ニーダー等により0.5〜5.0分程度混合して製造されるものである。
【0009】
油性物質としては、W/O型エマルジョンを形成しうるものであれば、特に制限はなく、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、油性物質として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニルモノマー)を使用すれば、セメントの水和反応と重合性二重結合を有する油性物質の重合反応が同時に起こり、ポリマーがマトリックスを形成して、優れた物理的、機械的性質を有するセメント系成形板が得られるので望ましい。尚、重合性二重結合を有する油性物質を使用する場合には、油性物質の重合を促進するために、有機過酸化物や過硫酸塩等の重合開始剤を併用することが望ましい。
【0010】
組成物の油性物質の含有量は、組成物中に水とのW/O型エマルジョンを形成でき、且つ得られるセメント系成形板に所望の特性が付与されるように、適宜調整されるものである。
【0011】
乳化剤(逆乳化剤)としては、組成物中の成分に応じて、W/O型エマルジョンを形成することができるように、適宜のものを用いることができるが、例えばソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。このような乳化剤の含有量も適宜調整することができるが、好ましくは組成物中の水と固形分の総量に対して1〜3重量%の範囲とするものである。
【0012】
また、W/O型エマルジョン中には、骨材を含有させるほうが望ましい。この骨材は、無機質からなるものである。
【0013】
骨材としては、特にシリカ発泡体と、アルミナ成分を20重量%以上含むアルミナシリケートとのうちの、少なくとも一方を用いることが好ましい。骨材としてこのようなものを用いると、成形されるセメント系成形板の耐凍害性が著しく優れたものとなる。また骨材は養生時に骨材自体が収縮しないので、ある程度セメント系成形板の養生収縮を抑えることができる。
【0014】
補強繊維としては、80℃における熱収縮率が0.2%以下であるポリプロピレン繊維を使用する。この80℃における熱収縮率が0.2%を超えるポリプロピレン繊維を使うとセメント系成形板の養生収縮率は大きくなるので好ましくない。なお、通常のセメント系成形板の場合、80℃における熱収縮率の大きいポリプロピレン繊維を使用してもさほど養生収縮率が大きくならないのに、本発明のようにセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板においては、補強繊維として使用するポリプロピレン繊維の80℃における熱収縮率が養生収縮率に影響を与える理由としては以下のことが考えられる。
すなわち、通常のセメント系成形板の場合はポリプロピレン繊維とセメントとの親和性が劣っているためポリプロピレン繊維の養生時の熱収縮が成形板の収縮に影響を与えないが、セメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板の場合は、ポリプロピレン繊維とマトリックスとの接着が極めて強いため養生時にポリプロピレン繊維が熱収縮する際にマトリックスの部分を引っ張って成形板が収縮するものと考えられる。
なお、ポリプロピレン繊維の配合量は、セメント含有W/O型エマルジョン100重量部に対して0.5〜10重量部混入する。なお、補強繊維はセメント含有W/O型エマルジョンを製造する際に、他の原材料と一緒に添加してもよいし、また、セメント含有W/O型エマルジョンに後から添加してもよい。
【0015】
本発明のセメント系成形板は、上記原材料を適宜配合してセメント含有W/O型エマルジョン組成物となし、次いでそれを注型法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等の通常用いられる手段で成形して、養生硬化させた後、必要に応じて乾燥して製造することができる。
【実施例】
【0016】
(実施例1、2、比較例1)
本実施例、比較例においては以下に原材料を使用した。重量比は本実施例、比較例ともに一定にしている。
<セメント>
66.7重量部のポルトランドセメント
<水>
65.6重量部の水
<ビニルモノマー>
5.1重量部のスチレン
<逆乳化剤>
1.6重量部のソルビタンモノオレート
<骨材>
ガラス発泡体18.3重量部とワラストナイト6.1重量部からなるものを使用している。すなわち骨材としては、24.4重量部である。
<補強繊維>
繊維長6mm、線度2.2dtexのポリプロピレン繊維を2.2重量部使用している。
(1)80℃における繊維の収縮率が0.1%である市販のポリプロピレン繊維
(2)80℃における繊維の収縮率が1.05%である市販のポリプロピレン繊維
(3)(2)の繊維を80℃で5時間熱処理したポリプロピレン繊維(80℃における繊維の収縮率は0.1%)
【0017】
以下の方法でセメント系成形板の養生硬化反応中又は養生硬化後の製品の収縮率(以下養生収縮率と呼ぶことにする)を測定した。
(測定方法)
セメント系成形板の養生収縮率の測定方法は、次のとおりである。まずセメント系成形原板に20cm間隔に適宜印をつけ、その後養生硬化させてセメント系成形板を得る。養生硬化させたセメント系成形板の印間の距離をy(cm)とする。ここでセメント系成形板の養生収縮率z(%)を次のように定義する。
z={(20―y)/20}*100

【0018】
(実施例1)
スチレンに、乳化剤としてのソルビタンモノオレートを24重量%溶解させたスチレン溶液6.7重量部に、水65.6重量部、ポルトランドセメント66.7重量部、ガラス発泡体18.3重量部とワラストナイト6.1重量部からなるものを骨材として使用し、補強繊維(1)2.2重量部を二軸の混練装置に投入し、毎分200回転で攪拌混合して、セメント含有W/O型エマルジョン組成物を得た。次いで、得られたセメント含有W/O型エマルジョン組成物を板状に押出成形した後、蒸気養生硬化する。養生硬化は、全工程を相対湿度98%の下で、まず1時間かけて20℃から45℃に加熱した後、45℃に保ったまま4時間放置し、次いで、13時間かけて45℃から85℃に加熱した後、85℃で5時間放置することによって行う。この蒸気養生硬化によりセメント系成形体が得られる。 このときセメント系成形原板の養生収縮率を上記方法により測定した。実施例1のセメント系成形板の養生収縮率は、0.061%であった。
【0019】
(実施例2)
スチレンに、乳化剤としてのソルビタンモノオレートを24重量%溶解させたスチレン溶液6.7重量部に、水65.6重量部、ポルトランドセメント66.7重量部、ガラス発泡体18.3重量部とワラストナイト6.1重量部からなるものを骨材として使用し、補強繊維(3)2.2重量部を二軸の混練装置に投入し、毎分200回転で攪拌混合して、セメント含有W/O型エマルジョン組成物を得た。次いで、得られたセメント含有W/O型エマルジョン組成物を板状に押出成形した後、蒸気養生硬化する。養生硬化は、全工程を相対湿度98%の下で、まず1時間かけて20℃から45℃に加熱した後、45℃に保ったまま4時間放置し、次いで、13時間かけて45℃から85℃に加熱した後、85℃で5時間放置することによって行う。この蒸気養生硬化によりセメント系成形体が得られる。
このときセメント系成形原板の養生収縮率を上記方法により測定した。実施例2のセメント系成形板の養生収縮率は、0.037%であった。
【0020】
(比較例1)
スチレンに、乳化剤としてのソルビタンモノオレートを24重量%溶解させたスチレン溶液6.7重量部に、水65.6重量部、ポルトランドセメント66.7重量部、ガラス発泡体18.3重量部とワラストナイト6.1重量部からなるものを骨材として使用し、補強繊維(2)2.2重量部を二軸の混練装置に投入し、毎分200回転で攪拌混合して、セメント含有W/O型エマルジョン組成物を得た。次いで、得られたセメント含有W/O型エマルジョン組成物を板状に押出成形した後、蒸気養生硬化する。養生硬化は、全工程を相対湿度98%の下で、まず1時間かけて20℃から45℃に加熱した後、45℃に保ったまま4時間放置し、次いで、13時間かけて45℃から85℃に加熱した後、85℃で5時間放置することによって行う。この養生硬化によりセメント系成形体が得られる。
このときセメント系成形原板の養生収縮率を上記方法により測定した。比較例1のセメント系成形板の養生収縮率は、0.730%であった。
【0021】
以上の実施例、比較例から補強繊維としてポリプロピレン繊維の熱収縮率が少ない繊維を使うことにより、すなわち80℃における繊維の熱収縮率が0.2%以下のポリプロピレン繊維を使うことにより、セメント系成形板の養生収縮率が小さいものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るセメント系成形板は、外装板などの外壁用建築部材として用いられることが好ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、油性物質等及び補強繊維からなるセメント含有W/O型エマルジョン組成物を成形硬化させてなるセメント系成形板において、
該補強繊維が、80℃における熱収縮率が0.2%以下のポリプロピレン繊維であることを特徴とするセメント系成形板。
【請求項2】
請求項1記載の油性物質等がビニルモノマーであることを特徴とするセメント系成形板。
【請求項3】
請求項1記載のセメント系成形板が模様付外装用セメント系成形板であることを特徴とするセメント系成形板。


【公開番号】特開2006−182621(P2006−182621A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380223(P2004−380223)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【上記1名の代理人】
【識別番号】000004673
【氏名又は名称】パナホーム株式会社
【Fターム(参考)】