説明

セメント系無機質建材の製造方法

【構成】補強繊維を含有するセメント系原料100重量部に対し、ポリビニルアルコール粉末0.5〜5重量部を含有させ、次いでそれを所定形状の成形体に成形し、次いで成形体を蒸気養生し乾燥して無機質建材を製造するにあたり、ポリビニルアルコール粉末は、40℃においてその70%以上が未溶解であり、80℃においてその70%以上が溶解するものであり、蒸気養生は60〜100℃の常圧飽和水蒸気中で行う。
【効果】引張り強度などの強度が向上し、クラックの発生が抑制され、炭酸化に起因する収縮や強度など耐久性の劣化が低減され、耐凍結融解性の向上したセメント系無機質建材が製造される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はセメント系無機質建材の製造方法、特にポリビニルアルコール粉末を用いて耐久性を向上せしめた前記建材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ケイ酸カルシウム製品の製造方法として、ポリビニルアルコール粉末を用いて曲げ強度、収縮や耐凍害性を向上せしめる製造方法が特開平3−193651で提案されている。しかし、この方法は養生方法としてオートクレーブを用いて高温高圧(実施例160℃、6.3気圧)を必要とし、常圧で100℃以下の温度で養生されるセメント系材料には適用できなかった。また、常圧で養生されたセメント系硬化体は、オートクレーブ養生されたケイ酸カルシウム製品に比べて化学的に不安定であり、大気中の炭酸ガスによって中性化を起こしやすく収縮や耐凍害性に課題があった。さらにセメント系硬化体は曲げや引張りの破壊歪みが小さくクラックを発生しやすいという課題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高温高圧を必要とせず、常圧で100℃以下の温度で養生され、硬化体の中性化による劣化の課題と曲げ引張り破壊歪みが小さいことに起因するクラックの課題を解決するセメント系無機質建材の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、補強繊維を含有するセメント系原料(固形分)100重量部に対し、ポリビニルアルコール粉末0.5〜5重量部を含有させ、次いでそれを所定形状の成形体に成形し、次いで成形体を蒸気養生し乾燥して無機質建材を製造するにあたり、ポリビニルアルコール粉末は、40℃においてその70%以上が未溶解であり、80℃においてその70%以上が溶解するものであり、蒸気養生は60〜100℃の常圧飽和水蒸気中で行うセメント系無機質建材の製造方法である。
【0005】本発明においては、セメント系原料(固形分)100重量部に対して、ポリビニルアルコール粉末を0.5〜5重量部含有する。その含有量が0.5重量部未満では、クラック防止効果が得られず、耐凍害特性が低下し、その含有量が5重量%を超えると不燃性が低下する。
【0006】かかるポリビニルアルコールは特定の溶解性を有する。即ち、ポリビニルアルコールは、40℃においてその70%以上が水に未溶解であり、80℃においてその80%以上が溶解するものである。40℃において水に未溶解のポリビニルアルコールが70%未満であると次のような点で不都合を生じる。すなわち、スラリーの粘度が大きくなりすぎ、成形の作業性が低下する。
【0007】一方、80℃において水に溶解するポリビニルアルコールの量が80%未満ではクラックが発生しやすく、耐凍害特性が低下し、また、引張強度の向上がなく、本発明の目的を達成することができない。ポリビニールアルコールは、40℃においてその80%以上が水に未熔解であるものがより好ましい。
【0008】かかるポリビニルアルコールとしては、重合度が1500〜5000、ケン化度が95%以上のものから選択することができる。
【0009】また、その粒径としては、2mm未満のものが好ましく、2mm以上のものは、養生中の溶解性が低下し、溶解後に大きな気孔ができて吸水率が上がったり、強度が低下することもあるので好ましくない。
【0010】補強繊維としては、パルプ、ポリプロピレン、ビニロン、アラミドなどの有機繊維やガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト、炭素繊維などの無機繊維が使用される。セメント系材料としてポルトラルセメント、アルミナセメントなどの単味セメント、混合セメントがあげられる。
【0011】また、寸法安定性を向上させるために、これらの材料に骨材として珪砂やパーライト、マイカ、炭酸カルシウムなどを添加することが好ましい。
【0012】成形にあたっては、上記原料を水と混合して均一なスラリーとする。該スラリーを抄造法や脱水成形法、押出法などによって所定の形状の成形体を成形する。この時のスラリー温度は20〜40℃とすることが望ましく、40℃以上となるとポリビニルアルコール粉末が水に多量に溶解してスラリーの粘度が上り、成形の作業性が低下するので好ましくなく、20℃未満では生産性が低下するのでいずれも好ましくない。
【0013】かくして成形された成形体は蒸気養生を行う。この蒸気養生は、60〜100℃の常圧飽和水蒸気中で行われる。この温度が60℃未満ではポリビニルアルコール粉末の溶解量が不足し曲げ強度等の特性が低下し、飽和水蒸気中でないと硬化不良を生じる恐れがある。一方加圧すると、耐クラック特性が低下する。その蒸気養生の時間としては、短すぎると硬化が不十分となり、長すぎると生産性が低下するのでいずれも好ましくない。好ましい時間は、6〜40時間であり、より好ましくは8〜25時間である。
【0014】次いで蒸気養生された成形体は、100〜300℃の温度で乾燥される。この温度が100℃未満では耐水性、耐クラック特性が低下し、300℃を超えるとポリビニルアルコールが熱分解し、本発明の目的を達成できない。より好ましい乾燥温度は150〜200℃の範囲である。この乾燥時間としては15〜60分間が実用的である。
【0015】
【作用】本発明において、ポリビニルアルコール粉末は、次のように作用するものと考えられる。すなわち、ポリビニルアルコール粉末は、スラリーの混合、成形中は水に溶けにくく、粉体の状態で基材中に均一に分散する。蒸気養生中にポリビニルアルコール粉末は基材中に溶け出し、乾燥工程によって耐水性に優れた層を形成する。この層は水だけでなく炭酸ガスも通しにくく、基材の中性化を防ぐ。また、耐凍害特性に悪影響を与える細孔を密封し、ポリビニルアルコール粉末の溶解によって新たに形成される気孔は水分の凍結融解の際に発生する内部圧力を緩衝する効果があると考えられる。さらに、ポリビニルアルコール層は、マトリックスと骨材や補強繊維の接着性を向上させ、曲げ強度、引張り強度、衝撃強度が向上し、同時に曲げや引張りの破壊歪みが大きくなる。このことはクラックの防止効果が大きいことを表している。
【0016】
【実施例】次にこの発明の実施例を説明する。
【0017】セメント74重量部、、シリカ微粉8重量部、パーライト10重量部、パルプ8重量部に対して、ポリビニルアルコール粉末を、それぞれ1重量部、2重量部、4.5重量部添加し、水と混合してスラリー得た。これらのスラリーを、脱水プレス成形法により成形し、厚さ12mmの板状の成形体を成形した。このポリビニルアルコール粉末は、40℃でその20%が水に溶解し、80℃で80%が溶解するものであった。
【0018】この成形体を80℃で15時間飽和水蒸気中で養生し、150℃で含水率が7%になるよう乾燥した。かくして得られた板材について、引張り強度、破壊歪、炭酸化収縮、耐凍害性体積膨張率について測定を行ったところ、表1に示す結果となった。同表に比較例も示した。この比較例2においては、使用したポリビニルアルコール粉末は、40℃でその20%が溶解し、80℃で50%が溶解するものであった。この比較例3においては、使用したポリビニルアルコール粉末は、40℃でその50%が溶解し、80℃で80%が溶解するものであり、脱水性が著しく低下して、実質的に成形することが困難であった。
【0019】表1より明らかなように、本発明により製造されるものは、破壊歪が大きいので、耐クラック特性に優れている。また、引張り強度、炭酸化収縮、耐凍害性にも優れている。
【0020】なお、表1に示した各特性の測定は、次のようにして行った。
【0021】[引張り強度]試験体(幅25mm×長さ200mm×厚さ12mm)を、60℃で、96時間乾燥した後、引張り試験機(クロスヘッド速度:2mm/min)にて引張り強度を測定した。
【0022】[破壊歪]上記引張り試験機による引張り強度測定において、歪ゲージにより、試験体の破壊するときの歪を測定した。
【0023】[炭酸化収縮率]試験体(長さ130mm×幅100mm×厚さ12mm)を20℃、90%RH、CO2 濃度10%の雰囲気に14日保持し、その際の収縮率をJIS A1129に準じて測定した。
【0024】[耐凍害性体積膨張率]試験体(長さ100mm×幅100mm×厚さ12mm)を、水中に24時間浸漬した後、炉に入れ、ASTM C666に準じて凍結融解サイクルテストを行った。すなわち試験体を4.4℃に2時間保持し、次いで−17.8℃に2時間保持し、再度、4.4℃に2時間保持する。この温度サイクルを20サイクル行った後の体積膨張率を測定した。
【0025】
【表1】


【0026】
【発明の効果】本発明によれば、引張り強度などの強度が向上し、クラックの発生が抑制され、炭酸化に起因する収縮や強度など耐久性の劣化が低減され、耐凍結融解性の向上したセメント系無機質建材が製造される。更に、オートクレーブのような高温高圧の装置が不要であるので生産コストを低下することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】補強繊維を含有するセメント系原料(固形分)100重量部に対し、ポリビニルアルコール粉末0.5〜5重量部を含有させ、次いでそれを所定形状の成形体に成形し、次いで成形体を蒸気養生し乾燥して無機質建材を製造するにあたり、ポリビニルアルコール粉末は、40℃においてその70%以上が未溶解であり、80℃においてその70%以上が溶解するものであり、蒸気養生は60〜100℃の常圧飽和水蒸気中で行うセメント系無機質建材の製造方法。