説明

セメント組成物の水和熱低減方法

【課題】モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ水和熱を低減することが可能なセメント組成物の水和熱低減方法を提供する。
【解決手段】石灰石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整してセメントクリンカーを焼成する工程と、前記セメントクリンカーと石膏とを混合し粉砕してセメント組成物を製造する工程とを含むセメント組成物の水和熱低減方法であって、前記原料原単位を、セメント組成物の色調b値に基づいて調整するセメント組成物の水和熱低減方法。本発明によれば、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつセメント組成物の水和熱を低減する方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の水和熱を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物の水和熱は、セメント組成物に含まれる成分と水とが反応して水和物を生成する際の発熱をいう。一般的には、水和物の生成量が多くなるにつれて、モルタル又はコンクリートの強度は上昇するが、それと同時にセメント組成物と水との反応に伴う水和熱も増大する。言い換えれば、モルタル及びコンクリートの強度発現性が向上すると、セメント組成物の水和熱も増加するのが一般的な傾向である。
【0003】
しかし、コンクリートの耐久性の観点からは、セメント組成物の水和熱は小さい方が好ましい。このため、耐久性に優れたコンクリートを志向するセメントユーザーからは、コンクリートの強度発現性を損なわずに、水和熱を低減したセメント組成物が求められている。
【0004】
セメント組成物の水和熱を低減する方法としては、例えば中庸熱や低熱ポルトランドセメントクリンカーのように、主要鉱物組成を制御する方法(CS量及びCA量等の低減)が知られている(特許文献1)。
【0005】
一方、コンクリートの強度発現性を向上する手段としては、「粉末度(ブレーン比表面積)を細かくする」、「CS量を増加させる」等の手段が用いられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−097154号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】(社)セメント協会、4.セメントの種類と用途、セメントの常識、p.11−17(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の特許文献1で提案されているCS量及びCA量を特定量に制御したセメント組成物は、従来から市販されている低発熱型混合セメント組成物よりも、材齢28日や91日における圧縮強度が低くなる。すなわち、特許文献1のように主要鉱物組成を制御する方法では、セメント組成物の水和熱を低減しようとするとコンクリートの強度発現性も低下するのが実情であった。
【0009】
一方、非特許文献1のように、「CS量を増加させる」手段は、水和熱を低減する方法とは相反する方法であり、明らかに水和熱は増大する。
【0010】
本発明は、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつセメント組成物の水和熱を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつセメント組成物の水和熱を低減するためには、セメント組成物の色調b値に基づいて、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。ここで、色調b値とは、セメント組成物の黄色と青色の強さを示す指標であり、数値が大きくなるほど黄色が強くなる。
【0012】
本発明は、石灰石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整してセメントクリンカーを焼成する工程と、前記セメントクリンカーと石膏とを混合し粉砕してセメント組成物を製造する工程とを含むセメント組成物の水和熱低減方法であって、前記原料原単位を、セメント組成物の色調b値に基づいて調整することを特徴とするセメント組成物の水和熱低減方法に関する。
前記セメント組成物の色調b値は、6.0〜8.0に調整することが好ましい。
前記セメント組成物の水和熱低減方法において、セメント組成物中のAl含有量が5.0〜7.0質量%、MgO含有量が0.7〜1.5質量%及びSO含有量が1.5〜2.4質量%であることが好ましい。
前記セメント組成物の水和熱低減方法において、セメント組成物中の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)が、0.8質量%以下であることが好ましい。
前記セメント組成物の水和熱低減方法において、セメント組成物中のCS量が50〜70質量%、CS量が5〜25質量%、CA量が6〜15質量%及びCAF量が7〜15質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、材齢28日の水和熱を410J/g以下に低減することの可能なセメント組成物の水和熱低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】セメント組成物の色調b値とセメント組成物の水和熱の関係を示す図である。
【図2】セメント組成物の色調b値とf.CaOの関係を示す図である。
【図3】セメント組成物の色調b値とモルタル圧縮強さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
本発明は、石灰石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整してセメントクリンカーを焼成する工程と、前記セメントクリンカーと石膏とを混合し粉砕してセメント組成物を製造する工程とを含むセメント組成物の水和熱低減方法であって、前記原料原単位を、セメント組成物の色調b値に基づいて調整することを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、セメント組成物の色調b値と、セメント組成物の水和熱とは良好な相関関係があることを突き止め、色調b値が大きくなるにつれて水和熱の値が大きくなる傾向があることを見出した。そこで、予め測定したセメント組成物の色調b値に基づいて、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整することによって、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、水和熱を低減する方法を提供することができる。また、セメント組成物の色調b値と、セメント組成物の水和熱は相関関係があるので、セメント組成物の色調b値に基づいて、セメント組成物の水和熱を予測することができる。
【0018】
セメント組成物の色調b値は、好ましく6.0〜8.0、より好ましくは6.5〜7.9、さらに好ましくは7.0〜7.9、特に好ましくは7.2〜7.7となるようにセメントクリンカー原料の原料原単位を調整する。セメント組成物の色調b値が前記範囲内となるように、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整することによって、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、水和熱を低減することができる。
【0019】
色調b値は、セメント組成物の黄色と青色の強さを表す指標であり、数値が大きくなるほど黄色が強くなる。セメント組成物中のAl量が増加すると、色調b値が大きくなる傾向があり、一方、セメント組成物中のMgO量が増加すると色調b値は小さくなる傾向がある。セメント組成物の色調b値は、例えば側色色差計(日本電色工業社製、Spectro Color Meter Se 2000)を用いて測定することができる。
【0020】
本発明の水和熱低減方法において、セメント組成物中のAl含有量は、好ましくは5.0〜7.0質量%、より好ましくは5.2〜6.5質量%、さらに好ましくは5.5〜6.5質量%なるように、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整し調合する。セメント組成物のAl含有量が、前記範囲内であると、セメント組成物の色調b値を特定の範囲内とすることができ、セメント組成物の流動性を適度に維持しつつ、モルタルやコンクリートの強度発現性も維持して、セメント組成物の水和熱を一層低減することができる。セメント組成物のAl含有量は、全体質量に対する含有割合(質量%)であり、この含有割合は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0021】
本発明の水和熱低減方法において、セメント組成物中のMgO含有量は、好ましくは0.7〜1.5質量%、より好ましくは0.8〜1.5質量%、さらに好ましくは0.9〜1.3質量%なるように、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整し調合する。セメント組成物のMgO含有量が、前記範囲内であると、セメント組成物の色調b値を特定の範囲内とすることができ、セメント組成物の流動性を適度に維持しつつ、モルタルやコンクリートの強度発現性も維持して、セメント組成物の水和熱を一層低減することができる。セメント組成物のMgO含有量は、全体質量に対する含有割合(質量%)であり、この含有割合は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0022】
また、本発明の水和熱低減方法において、セメント組成物中のSO含有量は、好ましくは1.5〜2.4質量、より好ましくは1.7〜2.3質量%、さらに好ましくは1.8〜2.2質量%、特に好ましくは1.8〜2.1質量%になるように、セメントクリンカー原料の原料原単位で調合するか又は前記クリンカー粉砕時に混合粉砕する石膏量を調整する。セメント組成物のSO含有量が、前記範囲内であると、セメント組成物の流動性を適度に維持しつつ、モルタルやコンクリートの強度発現性も維持できる。セメント組成物のSO含有量は、全体質量に対する含有割合(質量%)であり、この含有割合は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0023】
さらに本発明者らは、セメント組成物の色調b値と、セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)とは良好な相関関係があることを突き止め、色調b値が大きくなるにつれて遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)の値も大きくなる傾向があることを見出した。そのため、セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)が特定の範囲になるように、セメントクリンカーの原料原単位や焼成条件を調整して得られたセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕することにより、色調b値が特定の範囲となるセメント組成物を得ることができ、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、セメント組成物の水和熱を低減することができる。
【0024】
セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)は、好ましくは0.8質量%以下であり、より好ましく0.2〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.3〜0.8質量%である。セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)が前記範囲内であると、セメント組成物の色調b値を特定の範囲内とすることができ、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、セメント組成物の水和熱を低減することができる。セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)は、全体質量に対する含有割合(質量%)であり、この含有割合は、JCAS I−01:1997「セメント中の遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定することができる。
【0025】
セメント組成物は、好ましくはCS量が50〜70質量%、CS量が5〜25質量%、CA量が6〜15質量%、CAF量が7〜15質量%であり、より好ましくはCS量が50〜65質量%、CS量が10〜25質量%、CA量が8〜13質量%、CAF量が8〜12質量%であり、さらに好ましくはCS量が53〜60質量%、CS量が12〜20質量%、CA量が9〜12質量%、CAF量が8〜11質量%である。セメント組成物の鉱物組成が前記範囲内であると、セメント組成物の水和熱を低減しつつ、セメント組成物の硬化時における強度を向上することができ、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持することができる。
【0026】
ここで、CS量(エーライト相)、CS量(ビーライト相)、CA量(アルミネート相)、CAF量(フェライト相)は、下記のボーグ式により算出する。
S量=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe
S量=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A量=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量=3.04×Fe
【0027】
式中の「CaO」、「SiO」、「Al」及び「Fe」は、それぞれ、セメント組成物におけるCaO、SiO、Al及びFeのセメント組成物の全体質量に対する含有割合(質量%)である。これらの含有割合は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」あるいはJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」により測定することができる。
【0028】
セメントクリンカーの製造は、具体的には、サンプリングしたセメント組成物の色調b値に基づいて、石灰石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整して調合し、これらの原料を焼成してセメントクリンカーを製造し、得られたセメントクリンカーと石膏とを粉砕して得ることができる。
【0029】
前述のとおり、セメント組成物中のAl量が増加すると色調b値は大きくなる傾向がある。セメント組成物の色調b値を調整する場合には、Alを多く含む石炭灰、粘土及び建設発生土からなる群より選択される少なくとも1種の原料の原料原単位を増量又は減量して調整することができる。
【0030】
また、セメント組成物のMgO量が増加すると色調b値が小さくなる傾向があるので、色調b値を調整する場合には、MgOを多く含む高炉スラグや含有量は少量であるが原料原単位の多い石灰石の原料原単位を増量又は減量して調整することができる。
【0031】
このように、Al、MgOを多く含む原料の原料原単位を調整することによって、セメント組成物の色調b値が特定の範囲となるセメントクリンカーを製造することができる。セメントクリンカー原料の「原料原単位」とは、セメントクリンカーを1トン製造するにあたり、使用される核原料の質量(kg/t−クリンカー)をいう。
【0032】
セメントクリンカー原料としては、石灰石700〜1400kg/t−クリンカー、珪石40〜150kg/t−クリンカー、石炭灰0〜250kg/t−クリンカー、粘土0〜100kg/t−クリンカー、高炉スラグ0〜100kg/t−クリンカー、建設発生土0〜150kg/t−クリンカー、下水汚泥0〜100kg/t−クリンカー及び鉄源30〜80kg/t−クリンカーを調合することが好ましい。また、(A)工程におけるセメントクリンカー原料としては、石灰石800〜1300kg/t−クリンカー、珪石50〜120kg/t−クリンカー、石炭灰50〜200kg/t−クリンカー、粘土10〜80kg/t−クリンカー、高炉スラグ5〜50kg/t−クリンカー、建設発生土20〜100kg/t−クリンカー、下水汚泥30〜70kg/t−クリンカー及び鉄源40〜60kg/t−クリンカーを調合することがより好ましい。
【0033】
セメントクリンカーの製造は、SP方式(多段サイクロン予熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン予熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いて製造することができる。次に、NSP方式の既存のセメント製造設備を用いたセメントクリンカーの製造方法及びセメント組成物の製造方法の一実施態様を説明する。なお、セメントクリンカー及びセメント組成物の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
セメントクリンカーの各原料の混合方法は、特に限定されないが、例えば原料粉砕ミル等で粉砕混合することが好ましい。
【0035】
粉砕混合されたセメントクリンカー原料は、さらに既存の設備であるサスペンションプレヒータ及びロータリーキルンを用いて焼成することができる。セメントクリンカーの焼成温度は、特に限定されないが、NSP方式のセメント製造設備を用いた場合には、ロータリーキルンの出口付近におけるセメントクリンカーの温度が、好ましくは800〜1700℃、より好ましくは900〜1600℃、さらに好ましくは1000〜1500℃である。焼成時間は、20分間〜2時間、より好ましくは30分間〜2時間、さらに好ましくは45分〜1.5時間である。
【0036】
焼成後、得られたセメントクリンカーは、ロータリーキルンの下流側に設けられたクリンカークーラーによって、例えば100〜200℃程度まで冷却されることが好ましい。冷却速度は、好ましくは10〜60℃/分であり、より好ましくは15〜45℃/分であり、さらに好ましくは15〜30℃/分である。冷却速度が10〜60℃/分の範囲であると、優れた強度発現性を有するモルタルやコンクリートの製造が可能となるセメント組成物を得ることができる。
【0037】
セメント組成物の色調b値は、セメントクリンカー原料の調合後の焼成雰囲気を酸化性雰囲気又は還元性雰囲気に変えることによって調整することが可能である。焼成雰囲気は、焼成雰囲気に影響を与える廃プラスチック燃料の使用量や、廃プラスチック燃料の投入箇所を変更することによって調整することができる。
【0038】
水和熱の低減が可能となるセメント組成物は、セメント組成物の色調b値に基づいて、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整して得られるセメントクリンカーと石膏とを粉砕することによって製造することができる。石膏は、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満足することが望ましく、具体的には、二水石膏、半水石膏、不溶性無水石膏が好適に用いられる。混合材は、JIS R 5211「高炉セメント」で規定される高炉スラグ、JIS R 5212「シリカセメント」で規定されるシリカ質混合材、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定されるフライアッシュ、石灰石を利用することができる。
【0039】
セメント組成物は、セメントクリンカーに対して、セメント組成物中のSO含有量が前記範囲となるように石膏を配合して粉砕することが好ましい。粉砕方法としては、特に制限されないが、ボールミル等の粉砕機、セパレータ等の分級機を用いる方法が挙げられる。
【0040】
セメント組成物は、さらに混合材を添加してもよい。混合材としては、石灰石、高炉スラグ等を使用することができ、混合材は、セメント組成物の全体質量に対する混合材の合計含有割合(質量%)が、5質量%以下であることが好ましい。
【0041】
セメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2800〜4000cm/gであり、より好ましくは3000〜3800cm/gであり、さらに好ましくは3000〜3500cm/gである。ブレーン比表面積が前記範囲内であると、水和熱を低減しつつ、優れた強度発現性を有するモルタルやコンクリートの製造が可能となる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0043】
[セメントクリンカーの原料]
セメントクリンカーの原料としては、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、鉄源(銅からみ、高炉ダスト)を使用した。使用した原料の原料原単位は、石灰石700〜1400kg/t−クリンカー、珪石40〜150kg/t−クリンカー、石炭灰0〜250kg/t−クリンカー、粘土0〜100kg/t−クリンカー、高炉スラグ0〜100kg/t−クリンカー、建設発生土0〜150kg/t−クリンカー、下水汚泥0〜100kg/t−クリンカー、鉄源30〜80kg/t−クリンカーで調合した。また、セメント組成物のSO量を調整するために、二水石膏を使用した。以下に使用した原料のAl含有量又はMgO含有量を記す。
・石灰石(MgO含有量=0.36質量%)
・石炭灰(Al含有量=20.58質量%)
・粘土(Al含有量=20.13質量%)
・高炉スラグ(MgO含有量=5.12質量%)
・建設発生土(Al含有量=14.86質量%)
【0044】
[セメントクリンカーの製造]
前記セメントクリンカー原料を調合し、調合した原料をNSPキルンで最高温度1200〜1500℃で焼成し、セメントクリンカーを製造した。NSPキルン出口付近におけるセメントクリンカーの温度は1000〜1500℃であった。このセメントクリンカーを、ロータリーキルンの下流側に設けられたクリンカークーラーで、1000〜1400℃から100〜200℃まで、10〜60℃/分の冷却速度で冷却した。
【0045】
得られたセメントクリンカーに二水石膏をセメント組成物中のSO含有量が2質量%となるように配合し、さらに混合材(石灰石、高炉スラグ)を石灰石4質量%と高炉スラグ1質量%で添加し、実機ミルでブレーン比表面積が3200〜3280cm/gになるように粉砕し、セメント組成物を得た。
【0046】
[セメント組成物の化学成分]
<化学成分>
得られたセメント組成物中のSiO、Al、Fe、CaO、MgO及びSOについて、全体質量に対する含有割合(質量%)を測定した。これらの含有割合は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。
<遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)>
また、セメント組成物中の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)について、全体質量に対する含有割合(質量%)を測定した。この含有割合は、JCAS I−01:1997「セメント中の遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
[セメント組成物の鉱物組成]
得られたセメント組成物の鉱物組成(CS量、CS量、CA量及びCAF量)を、ボーグ式に基づいて測定した。結果を表2に示す。
【0049】
[セメント組成物の物性]
<セメント組成物の色調b値>
セメント組成物の色調b値を、側色色差計(日本電色工業社製、Spectro Color Meter Se 2000)を用いて測定した。結果を表2に示す。
<セメント組成物の粉末度>
セメントの粉末度(ブレーン比表面積及び45μm残)について、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0050】
[セメント組成物の水和熱]
セメント組成物の材齢28日の水和熱を、JIS R 5203:1995「セメントの水和熱測定方法(溶解熱方法)」に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0051】
[モルタル圧縮強さ]
モルタル圧縮強さは、得られたセメント組成物を用いてJIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて、材齢28日において測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
また、セメント組成物の色調b値と水和熱の関係を図1に示し、セメント組成物の色調b値と遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)の関係を図2に示し、色調b値とモルタル圧縮強さの関係を図3に示す。
【0054】
表2及び図1に示す結果から、セメント組成物の色調b値とセメント組成物の水和熱は相関関係があることが分かった。この結果に基づき、セメント組成物の色調b値が6.0〜8.0の範囲内であると、水和熱が380〜410(J/g)の範囲内であり、セメント組成物の水和熱を低減できることが確認できた。また、表2及び図2に示す結果から、セメント組成物の色調b値とセメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)も相関関係があり、セメント組成物の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)が0.8質量%以下、好ましくは0.4〜0.8質量%の範囲であると、色調b値が6.0〜8.0の範囲内であり、水和熱を低減できることが確認できた。さらに、表2及び図3に示す結果から、色調b値が6.0〜8.0の範囲内であると、水和熱を低減できるとともに、モルタル圧縮強さ等の強度発現性も維持できることが確認できた。
【0055】
以上の結果に示すように、色調b値が6.0〜8.0となるように、セメントクリンカーの原料原単位を調整して得られたセメントクリンカーを用いてセメント組成物を製造することによって、モルタルやコンクリートの強度発現性を維持しつつ、材齢28日の水和熱を410J/g以下に低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整してセメントクリンカーを焼成する工程と、
前記セメントクリンカーと石膏とを混合し粉砕してセメント組成物を製造する工程とを含むセメント組成物の水和熱低減方法であって、
前記原料原単位を、セメント組成物の色調b値に基づいて調整することを特徴とするセメント組成物の水和熱低減方法。
【請求項2】
前記セメント組成物の色調b値を6.0〜8.0に調整する、請求項1記載のセメント組成物の水和熱低減方法。
【請求項3】
セメント組成物中のAl含有量が5.0〜7.0質量%、MgO含有量が0.7〜1.5質量%及びSO含有量が1.5〜2.4質量%である、請求項1又は2記載のセメント組成物の水和熱低減方法。
【請求項4】
セメント組成物中の遊離酸化カルシウム量(f.CaO量)が、0.8質量%以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント組成物の水和熱低減方法。
【請求項5】
セメント組成物中のCS量が50〜70質量%、CS量が5〜25質量%、CA量が6〜15質量%及びCAF量が7〜15質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント組成物の水和熱低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132045(P2011−132045A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290745(P2009−290745)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)