説明

セラミック複合材料の製造方法

【目的】 セラミック複合材料を割れを生じさせることなく一体焼結して作る。
【構成】 貼り合わせて焼成してセラミック複合材料とする異なるセラミック材料1と2を熱収縮挙動を極力近づけたものとする。セラミック材料1と2を貼り合わせて焼成するときに材料1,2間に発生する応力を緩和するため、応力緩和層として材料3を材料1,2間に挟み込む。材料3は、焼成時に割れ易いように上記セラミック材料1,2とは熱収縮挙動が極端に違う熱収縮挙動を示すものとする。焼成時に材料3が割れることによってセラミック材料1,2に割れが入らない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は焼結時の熱収縮挙動が異なるセラミック材料同士を接合してセラミック複合材料を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】セラミック材料を焼成して緻密なものにする際には、一般的に約20%(体積比で50%)の収縮(熱収縮)がある。図7は、異種のセラミック材料1と2の焼成前の状態(グリーンの状態)(イ)から焼成中(ロ)、焼成後(ハ)の熱収縮状況を示すもので、セラミック材料1,2は焼成することによって大幅に熱収縮する。この収縮(熱収縮)の挙動は、素材の化学的性質、粒径分布等に依存する。そのため、上記異種のセラミック材料1,2を、図8(イ)に示す焼成前の状態で貼り合わせ、次いで、焼成すると、(ロ)に示す如く、多くの場合、一方のセラミック材料1で矢印の如く圧縮応力が発生し、他方のセラミック材料2で矢印の如く引張応力が発生する如く、熱収縮挙動の相違により発生する応力により、焼成後は異種のセラミック材料1,2にクラックが生じたり、又は破損したりする問題がある。
【0003】かかる異種のセラミック材料をグリーンの状態で貼り合わせて焼成するときに発生する応力を緩和するために、従来では、異種のセラミック材料同士の接合界面に、熱収縮が段階的に又は無段階に変化するように異なる材料(傾斜材料)を何層にも重ねて介在させ、異種のセラミック材料間に発生する応力を緩和することが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の方法では、異種のセラミック材料間に異なる材料を何層にも介在させるため、応力が急激に作用することはないが、異なる材料を何層にも重ねて介在させて段階的に熱収縮を変化させるものであるため、介在する材料が多く、複雑となっている。
【0005】そこで、本発明は、異なる材料を何層にも重ねて用いることなく、熱収縮の相違により生じる応力を緩和できるセラミック複合材料の製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために、焼成時の熱収縮挙動を極力近づけた異なるセラミック材料の間に、該セラミック材料の熱収縮挙動とは極端に違う熱収縮挙動を示す材料の薄板を応力緩和層として挟み込み、次いで、これらを焼成し一体焼結させて複合材料とする方法とする。
【0007】
【作用】熱収縮挙動が近いセラミック材料間の応力緩和層としての材料は極く薄くて割れ易いものであるため、焼成中に微少クラックが生じることによって応力が緩和され、上記接合すべきセラミック材料には割れが生じない。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0009】図1は本発明の実施例を示すもので、粒径等を調節することによって熱収縮挙動を極力近づけた2つの異なるセラミック材料1と2同士を貼り合わせて一体構造の複合材料を製造する場合において、上記異種のセラミック材料1と2同士の接合界面に、図1の(イ)の如く、上記両セラミック材料1,2の熱収縮挙動とは極端に異なる熱収縮挙動を示す材料3を、応力緩和層として薄板状にして挟み込み、次いで、これを1300℃〜1400℃で焼成し、上記異種のセラミック材料1,2を一体焼結して、セラミック材料1と2からなる複合材料を作るようにする。
【0010】上記において、応力緩和層としての材料3は、接合しようとするセラミック材料1,2とは熱収縮挙動が極端に違うことから焼成時に割れ易く、そのため、図1の(ロ)で示す焼成の途中段階では、セラミック材料1と2が異なる熱収縮挙動をする際に、その間にある材料3が伸ばされたり、縮められたりして、破損したり、微小なクラックが入ったりすることにより、接合しようとするセラミック材料1,2間に生じようとする応力を緩和することができ、図1の(ハ)に示す焼成後は、セラミック材料1と2には破損がなく、応力緩和材料3を挟んで一体焼結されたセラミック複合材料Iが得られる。
【0011】上記応力緩和層として用いる材料3については、熱収縮挙動を近づけたセラミック材料1及び2と化学組成が同じであるが粒径等を調整して熱収縮挙動を変えたものを用いたり、あるいは、セラミック材料1,2とは化学組成の異なるものを用いるようにする。
【0012】次に、具体的に説明すると、図2に温度と熱収縮量との関係を示す。図中、曲線aはセラミック材料1の熱収縮挙動を、曲線bはセラミック材料2の熱収縮挙動を、又、曲線cは材料3の熱収縮挙動を示すものである。図2の如く、貼り合わせて一体焼結しようとするセラミック材料1と2は、熱収縮挙動を極力近づけたものを用いるが、その熱収縮の違いは3%以内、好ましくは1%以内のものとする。次に、上記セラミック材料1,2と両者の間に挟み込む応力緩和層として用いる材料3とは、熱収縮が5〜20%の違いがあるものを用いるようにする。5%以下では、セラミック材料1及び2に近いものとなり、割れによる応力の緩和の効果が薄く、又、20%以上では、一般的にセラミック材料の収縮量が約20%であり、これ以上の収縮はないからである。
【0013】上記の条件を満たすものでは、焼成後、セラミック材料1と2に破損はなく、且つセラミック材料1と2の接合が十分になされていることが実験で確認されている。
【0014】一例として、セラミック材料1と2は、熱収縮の違いが1%以内のものを用い、且つ該セラミック材料1,2と材料3とは、熱収縮の違いが15%の場合の実験を行ったところ、好結果が得られた。
【0015】本発明の方法は、他の分野、たとえば、固体電解質型燃料電池の作製に適用することができる。
【0016】固体電解質型燃料電池のうち、平板型のもので、特に単電池のものは、図3に一例を示す如く、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を適用した固体電解質板4の両面側に、空気極5と燃料極6を重ねて配置し、空気極5側には、空気流路形成用の空気流路柱7を介してセパレータ(インターコネクタ)8を配置し、又、燃料極6側には、燃料ガスの流路形成用の燃料流路柱9を介してセパレータ(インターコネクタ)8を配してなる構成としてあり、空気極5側に空気を、又、燃料極6側へ燃料ガスを流すことにより、空気極5側での反応により生じた酸素イオンが電解質板4を通して燃料極6側へ到達させられ、一方、燃料極6側では、燃料ガスH2 と上記酸素イオンが反応して水H2 Oとして出されるようにしてある。
【0017】上記構成としてある平板型の固体電解質型燃料電池における空気極5、電解質板4、燃料極6及び燃料流路柱9の一体焼結に、本発明の方法を適用して次のような実験をした。
【0018】すなわち、ドクターブレード法で成形した電解質板4のグリーンシートに、粒径の調節等によって熱収縮挙動を極力近づけた空気極5及び燃料極6をスクリーン印刷法で印刷し、その燃料極6上に、粒径の調整等により熱収縮挙動を極端に変えた燃料極材料10を応力緩和層として同様にスクリーン印刷法により印刷した後、該燃料極材料10の上に、燃料極6と同じ材料で成形した燃料流路柱9を重ねて配置し、これを空気中1300℃〜1400℃で焼成した。又、実験では、応力緩和層として燃料極材料10を入れないものについても行った。
【0019】実験の結果、燃料極材料10を応力緩和層として入れた場合には、焼成後に電解質板4と燃料流路柱9にクラックは見られなかったが、燃料極材料10を応力緩和層として入れなかった場合には、燃料流路柱9が脱落したり、電解質板4が割れたりすることが確認された。なお、電解質板4と空気極5及び燃料極6とは、熱収縮挙動を極力近づけたものとしてあるが、焼成時に熱収縮挙動の違いにより電極に割れが生じる場合がある。しかし、割れが入っても、電極は多孔質のものであるため問題はない。
【0020】又、接合状態については、電池を発電することにより確認したが、応力緩和層として燃料極材料10を入れても接合が十分に行われていた。これは、発電試験の結果、図5に示す如く、燃料極側の分極Aの増大は観測されず、電気的接続が十分に確保されていることから証明される。
【0021】因に、上記発電試験は、燃料 :3%加湿水素利用率:0.6%以下酸化剤:酸素電流 :0.3A/cm2温度 :(1000±3)℃の条件で、応力緩和層がある場合とない場合について行ったもので、応力緩和層のないものでは、図6に示す如く燃料極側の分極Aの増大が観測されている。なお、図5R>5及び図6において、Bは起電力、Cは空気極側の分極、Dは発電電圧である。
【0022】
【発明の効果】以上述べた如く、本発明のセラミック複合材料の製造方法によれば、接合すべきセラミック材料の間に、これらの材料とは熱収縮挙動の極端に違う材料を薄くして応力緩和層として入れ、焼成して一体焼結するので、セラミック材料間には薄い応力緩和層が介在するだけであるため、単純化できる上に、割れが発生せずに十分な接合が得られ、又、湿式法で製造することにより安価に複合材料が得られる、等の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の実施例を示すもので、(イ)は焼成前、(ロ)は焼成中、(ハ)は焼成後の状態図である。
【図2】本発明の方法に用いる材料の熱収縮挙動の違いを示す図である。
【図3】固体電解質型燃料電池の単電池の構成例を示す断面図である。
【図4】図3に示す固体電解質型燃料電池を本発明の方法で一体焼結するときの状態を示す断面図である。
【図5】図4で一体焼結したときの発電性能を示す図である。
【図6】図4で応力緩和層を入れないで一体焼結したときの発電性能を示す図である。
【図7】セラミック材料を焼成するときに生じる一般的な熱収縮を示すもので、(イ)は焼成前、(ロ)は焼成中、(ハ)は焼成後である。
【図8】異種セラミック材料を貼り合わせて焼成するときの状態を示すもので、(イ)は焼成前、(ロ)は焼成中である。
【符号の説明】
I セラミック複合材料
1,2 セラミック材料
3 材料
4 電解質板
5 空気極
6 燃料極
10 燃料極材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱収縮挙動を極力近づけた別々のセラミック材料の間に、該セラミック材料の熱収縮挙動とは極端に違う熱収縮挙動を示す材料を、応力緩和層として薄肉にして挟み込み、次いで、これを焼成して一体焼結させ複合材料とするセラミック複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平6−64975
【公開日】平成6年(1994)3月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−238878
【出願日】平成4年(1992)8月17日
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)