説明

セルロース繊維含有組成物、および該組成物を用いた樹脂成形体

【課題】 セルロース繊維を樹脂中に分散させるために、セルロース繊維が均一な分散状態を保持できるセルロース繊維含有組成物を提供することであり、さらに、前記セルロース繊維含有組成物を用いた樹脂成形体を提供することである。
【解決手段】 セルロース繊維とポリウレタンとを含有するセルロース繊維含有組成物、および該組成物を用いた樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の種々の物性改良のために有用なセルロース繊維を含有するセルロース繊維含有組成物、および該組成物を用いた樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の物性改良、例えば、弾性率や曲げ強度等の機械的強度の向上、熱膨張率の低減等のために、有機もしくは無機の粒状フィラー、または繊維状フィラーの配合が行われている。更に微粒子製造技術の発展に伴い、シリカもしくは金属微粒子、またはウィスカータイプのフィラーの配合も盛んに行われるようになった。近年ではこれらのフィラー類に変えて、高強度、高弾性、低熱膨張等の力学特性の改良に優れ、入手が容易であり、環境にも優しいセルロース繊維を樹脂中に分散させて利用することが盛んに検討されている。
【0003】
セルロース繊維を樹脂中に分散させた樹脂成形体を得るために、セルロース繊維と樹脂とを混合させる従来技術として、例えば、セルロース繊維を水中で湿式粉砕し、その後水を樹脂溶解性の溶媒へ2段階で置換したセルロース膜を作成し、それに樹脂モノマー液を浸漬させる方法が開示されている(特許文献1)。また、セルロース繊維の分散と樹脂の溶解性を備えた溶媒に、セルロース繊維と樹脂を溶解させ、溶媒を除去する方法(特許文献2)、セルロース繊維を有機溶媒中で粉砕させた分散液を樹脂と混合させる方法(特許文献3)等も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−241450号公報
【特許文献2】特開2008−024795号公報
【特許文献3】特開2011−006598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロース繊維は、例えば、水等の溶媒中でセルロース繊維を一度分散させておいても、乾燥時または樹脂との混合時にお互いの繊維が凝集してしまうという特性がある。その結果、樹脂は所望の性能を発現できなくなる場合がある。したがって、セルロース繊維と樹脂とを混合する際は、セルロース繊維を樹脂中に均一に分散させる必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3の方法等の従来技術によると、セルロース繊維自体に凝集を防ぐ処理が行われていないため、樹脂と混合した際に、セルロース繊維を均一に分散できない場合があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、セルロース繊維を樹脂中に分散させるために、セルロース繊維が均一な分散状態を保持できるセルロース繊維含有組成物を提供することであり、さらに、前記セルロース繊維含有組成物を用いた樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示すとおりセルロース繊維含有組成物、および該組成物を用いた樹脂成形体に関する。
すなわち、
項1.セルロース繊維と、ポリウレタンとを含有するセルロース繊維含有組成物。
項2.ポリウレタンが、アルコール水溶液に可溶なポリウレタンである、項1に記載のセルロース繊維含有組成物。
項3.セルロース繊維が含水率60質量%以上の含水物である、項1または2に記載のセルロース繊維含有組成物。
項4.ポリウレタンが、重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとを反応させて得られる、項1〜3いずれか1項に記載のセルロース繊維含有組成物。
項5.項1〜4いずれか1項に記載のセルロース繊維含有組成物を用いた樹脂成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂と混合した際に、凝集することの無い、または凝集を起こしている部分が非常に少ないセルロース繊維含有組成物を提供できる。したがって、セルロース繊維含有組成物と樹脂とを混合した際に、セルロース繊維を樹脂中に均一に分散することができ、セルロース繊維を配合することにより期待される樹脂の物性改良、例えば、弾性率や曲げ強度等の機械的強度の向上、熱膨張率の低減等の効果が期待通りに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1のセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は、実施例2のセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、実施例3のセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、比較例1のセルロース繊維乾燥物の光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を進めた結果、セルロース繊維の凝集はセルロース自身が保有する水酸基またはメチロール基による水素結合によるものであることがわかった。従って、セルロース繊維の凝集を防ぐ、すなわちセルロース繊維間の水素結合力を緩和するためには、セルロース自身が保有している水酸基またはメチロール基に、親水性素材を親和させることにより、セルロース繊維間の水素結合を阻害し、凝集を防ぐことができることがわかった。そのためには好適な親水性素材の選定が必要であり、本発明者らは種々検討を行った結果、ポリウレタンがその材料として好適であることを発見し、本発明に至った。
【0012】
ポリウレタンがセルロース繊維の凝集を阻害する効果があることの理由は詳らかではないが、ポリウレタンは、セルロース繊維間の水素結合を阻害する適度な親水性を持っていることが考えられる。すなわち、例えば、他の親水性高分子(例えば、ポリエチレンオキシド等)と比較すると、親水性すなわちセルロースの持つメチロール基または水酸基との親和性は劣るものの、ポリウレタン自身の凝集力が強いため、セルロース繊維間に一度配合し挿入されてしまうと、セルロース繊維同士の凝集を阻害する効果があるのではないかと考えられる。また、マトリックス樹脂との配合時において、ポリウレタンの場合は、例えば、ポリエチレンオキシドと比較すると疎水性がわずかに上回るため、そのポリウレタンの疎水性が一般的に疎水性の強いマトリックス樹脂との配合を容易にしているとも考えられる。
【0013】
すなわち、本発明は、セルロース繊維と、ポリウレタンとを含有するセルロース繊維含有組成物に関する。
【0014】
本発明に用いられるセルロース繊維の原料セルロースとしては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られているが、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物または微生物由来のセルロースであり、より好ましくは植物由来のセルロースである。
【0015】
本発明に用いられるセルロース繊維は、種々の公知の方法により製造されたものが用いられる。例えば、セルロースを高圧ホモジナイザー、グラインダー、ボールミル、高圧ジェット水により機械的に解繊を行うことにより製造される。また、TEMPO触媒等の化学的な方法により解繊を行うことにより、またイオン液体を利用し解繊を行うことにより製造される。なお、本発明においては、セルロースが繊維状態である限りにおいては、その製造方法についてはなんら制限なく、市販のものを用いてもよい。
【0016】
本発明に用いられるセルロース繊維の繊維径は平均値が10nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは20nm〜5μm、さらにより好ましくは25nm〜3μmである。また、セルロース繊維の長さについては、特に限定されるものではないが、平均繊維長で1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上、さらにより好ましくは3μm以上である。
【0017】
前記セルロース繊維を用いる場合の形態としては、特に限定されないが、取扱いの容易さ、入手容易性の観点等から、含水率が60質量%以上の含水物が好ましく用いられる。これらの中でも、例えば、繊維径がnmサイズのセルロース繊維の場合には含水率が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜99.5質量%である水分散液、繊維径がμmサイズのセルロース繊維の場合には含水率が、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%の水湿潤体のものが用いられる。
【0018】
本発明に用いられるポリウレタンとしては、イソシアネートと活性水素化合物との反応により製造され、一般的に市販または製造されているものであれば特に限定されないが、アルコール水溶液に可溶なポリウレタンが好ましく用いられる。アルコール水溶液に可溶とは、温度40℃において、ポリウレタンが0.5質量%以上の濃度でアルコール水溶液に溶解することを意味する。可溶している状態の液は、透明またはそれに近い状態である。
【0019】
アルコール水溶液に可溶なポリウレタンとしては、使用されるイソシアネートに、イソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネートを用いて製造されたものが挙げられ、これらは2種以上を混合して用いてもよい。また、安全性の観点等から、脂肪族イソシアネートを用いて製造したものが好適に用いられる。
【0020】
さらに、アルコール水溶液に可溶なポリウレタンとしては、使用される活性水素化合物に、水酸基を2個以上保有するポリアルキレンオキシドを用いて製造されたものが挙げられ、これらは2種以上を混合して用いてもよい。なお、前記ポリアルキレンオキシドとして、比較的分子量の大きいポリアルキレンオキシドを用い、ポリオール化合物を添加して製造されたものが好ましい。より具体的には、例えば、重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタン等が挙げられる。前記の方法により得られるポリウレタンは、アルコール水溶液に可溶であり、さらに吸水性を有することから、一部に架橋構造を有していると考えられる。
【0021】
前記重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体を挙げることができる。特に、重量平均分子量2,000〜10万のポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドおよびエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が好適に使用される。
【0022】
重量平均分子量が500未満であると、得られるポリウレタンのアルコール水溶液への溶解度が低下するおそれがある。
【0023】
本発明において、重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとを反応させる際のジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートの使用割合は、ポリアルキレンオキシドの末端水酸基と1,4−ブタンジオールの有する水酸基の数の和とジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートイソシアネートの有するイソシアネート基の数の比(R値)(−NCO基/−OH基)が0.5〜3.0となる範囲、好ましくは、0.7〜2.0となる範囲から選択されることが好ましい。なお、ポリアルキレンオキシド、ポリオ−ル化合物のモル数は、その重量を重量平均分子量で除することにより求めることができる。
【0024】
重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとを反応させる方法としては、適当な溶媒、例えば、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド等を用いた溶液状で反応させることも可能であるが、分散状で反応させる方法や、粉末状または固体状で両者を均一に混合した後、所定の温度に加熱して反応させることもできる。工業的実施の見地からは、各原料を溶融状態で連続的に供給し多軸押出機中で混合、反応させる方法が好ましい。上記反応の温度は、通常70〜210℃である。なお、この反応系にトリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエート、トリエチレンジアミン等を少量添加することにより、反応を促進させることもできる。
また、重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとの反応は、前記ポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとの混合物に、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを反応させることにより実施してもよい。
【0025】
前記ポリウレタンとしては、具体的には、例えば、住友精化株式会社より製造販売されている「アクアコーク」、荒川化学工業株式会社より製造販売されている「ユリアーノ」等が挙げられる。例えば、前記「アクアコーク」はアルコール水溶液に可溶である他、一部に架橋構造も有しているため、乾燥時、あるいは樹脂との混合時、適度な溶融粘度を有し、より好適に使用できる。
【0026】
本発明において、セルロース繊維とポリウレタンを混合させる際、ポリウレタンは、セルロース繊維と混合できれば特に限定されず、乾燥したものを用いても、アルコール水溶液等に溶解したものを用いてもよい。中でも、セルロース繊維が水分散液または水湿潤体である場合においては、両者の混合を容易に、かつ均一に混合させる等の観点から、ポリウレタンはアルコール水溶液に溶解させて使用することが好ましい。なお、ポリウレタンをアルコール水溶液に溶解させる際は、セルロース繊維との混合をより容易にする観点等からポリウレタンの濃度が0.5〜40質量%であることが好ましく、1〜35質量%であることがより好ましい。0.5質量%未満では、セルロース繊維と混合した際にポリウレタンとセルロース繊維の親和力が小さくなるおそれがあり、更に溶媒の取扱量も大きくなり工業的に不利になるおそれがある。また、40質量%を超えるとポリウレタンがアルコール水溶液に溶解しにくくなるおそれがある。
【0027】
前記アルコール水溶液に用いられるアルコールとしては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1〜3である直鎖状または分岐鎖状アルコールが用いられる。これらの中でも、イソプロパノールが好ましい。イソプロパノールおよび水からなるアルコール水溶液は、ポリウレタンの溶解性も良く、また溶液の保存安定性が優れているため好ましく用いられる。前記アルコール水溶液のアルコールの濃度としては、3〜97質量%、好ましくは5〜90質量%である。ポリウレタンのアルコール水溶液への溶解は室温付近でも可能であるが、溶解を早めるため、および完全に溶解させるために40℃またはそれよりも高い温度で行うことが好ましい。
【0028】
本発明にかかるセルロース繊維と、ポリウレタンとを混合することにより得られるセルロース繊維含有組成物において、ポリウレタンとセルロース繊維とを混合する際の質量比は、ポリウレタン/セルロース繊維=0.05/1〜10/1が好ましい。より好ましくはポリウレタン/セルロース繊維=0.1/1〜5/1である。
【0029】
ポリウレタンの質量比がセルロース繊維に対して10を超える場合は、セルロース繊維の凝集を防ぐ効果を発揮できても、他のマトリックス樹脂と配合する場合、相対的にポリウレタンの質量比率が大きくなり、樹脂の特性改善を目的としたセルロース繊維の分散効果を発揮することが出来なくなるおそれがある。また、ポリウレタンの質量比がセルロース繊維に対して0.05未満の場合は、セルロース繊維とポリウレタンとを充分に混合させることができず、セルロース繊維の凝集を防止することができないおそれがある。その理由としては、本発明により得られるセルロース繊維含有組成物はセルロース繊維の周辺にポリウレタンが親和することによりセルロース繊維の凝集を防いでいると考えられ、ポリウレタンの量が少ないとその効果が発現しないおそれがあるためと考えられる。
【0030】
なお、前記質量比は、マトリックス樹脂がポリウレタンである場合等、ポリウレタンの配合効果が認められる場合にはその限りではなく、ポリウレタンの質量比がセルロース繊維に対して10を超えて使用することも可能である。
【0031】
セルロース繊維とポリウレタンを混合させる方法としては、特に限定されないが、ポリウレタンをアルコール水溶液に溶解して使用する場合には、ポリウレタンのアルコール水溶液に、セルロース繊維を添加、通常の攪拌により混合、分散させる。また、ポリウレタンをアルコール水溶液に溶解させることなく使用する場合には、ポリウレタンと、セルロース繊維とを、ロールまたは2軸混練機等を用いて混合する方法が用いられる。
【0032】
下記するように、セルロース繊維含有組成物を乾燥して用いる場合は、乾燥を効率的に行う観点から、以下の方法により混合液を濾過して、質量比を調整したものを用いることも可能である。具体的には、セルロース繊維と、ポリウレタンが溶解したアルコール水溶液との混合物を濾過し、濾液側に取り除いたポリウレタンの質量を測定することにより、
[(混合に使用したポリウレタンの質量)−(濾過により取り除いたポリウレタンの質量)]/(混合に使用したセルロース繊維の質量)
として容易に質量比を調整することもできる。
【0033】
前記方法を用いれば、混合に使用したアルコール水溶液を全量乾燥させる必要がないため、工業的に有利であることの他、濾液の量を調整することにより、セルロース繊維と、ポリウレタンが溶解したアルコール水溶液との混合後に、任意にポリウレタン/セルロース繊維の質量比の調整も可能となる。
【0034】
また、本発明のセルロース繊維含有組成物において、その効果を損なわない範囲内であれば、添加剤として、酸化防止剤、収縮防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、衝撃改良剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、および防腐剤等を適宜添加してもよい。
【0035】
かくして得られたセルロース繊維含有組成物とマトリックス樹脂とを混合させる方法としては、特に限定されないが、セルロース繊維含有組成物と、溶媒に溶解させた樹脂とを混合する方法等がある。
【0036】
また、溶剤に溶解しないマトリックス樹脂と混合させる場合の方法としては、セルロース繊維含有組成物とマトリックス樹脂とを混合できればよく、特に限定されないが、セルロース繊維含有組成物を必要に応じて、通風式乾燥、および凍結乾燥等の凝集しにくい乾燥方法を用いて乾燥した後、溶融状態のマトリックス樹脂に粉体添加して成形体を製造する方法等がある。
【0037】
かくして得られたセルロース繊維含有組成物を配合させるマトリックス樹脂としては、一般的に市販または製造されている汎用プラスチックとして用いられるものが挙げられ、例えば、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド(PI)、およびポリアミドイミド(PAI)等が挙げられる。
【0038】
これらの中で好ましいマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、中でもポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、およびアクリル樹脂(PMMA)が挙げられる。
【0039】
本発明にかかるセルロース繊維含有組成物をマトリックス樹脂と混合させる量としては、樹脂成形体に対して、セルロース繊維が1〜60質量%が含有されるように混合させることが好ましく、より好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは3〜40質量%である。
【0040】
かくして得られた樹脂成形体としては、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている各種繊維状強化材であり、フィルム形状のものも含まれる。
【実施例】
【0041】
以下実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
イソプロピルアルコール1584gおよび水394gとを混合したアルコール水溶液にポリウレタン(住友精化製「アクアコークTWB」)20gを添加し、攪拌してポリウレタンの溶解液を調整した。
引き続き、攪拌を行いながら、含水率90質量%のセルロース繊維200g(セルロース繊維固形分20g、平均繊維径2μm)を添加した。セルロース繊維が徐々に混合液に馴染むように分散し、1時間の攪拌後には混合液粘度が僅かに上昇するとともに、セルロース繊維が全体に均一に分散した。
【0043】
この混合液を凍結乾燥させることにより、セルロース含有組成物40gを得た。この組成物の成分は、ポリウレタン20gおよびセルロース繊維20gであり、質量比はポリウレタン/セルロース繊維=1/1であった。
得られたセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を図1に示す。セルロース繊維がポリウレタン中に凝集することなく、均一に分散している状態であった。
【0044】
(実施例2)
イソプロピルアルコール1584gおよび水394gとを混合したアルコール水溶液にポリウレタン(住友精化製「アクアコークTWB」)20gを添加し、攪拌してポリウレタンの溶解液を調整した。
引き続き、攪拌を行いながら、含水率90質量%のセルロース繊維200g(セルロース繊維固形分20g、平均繊維径2μm)を添加した。セルロース繊維が徐々に混合液に馴染むように分散し、1時間の攪拌後には混合液粘度が僅かに上昇するとともに、セルロース繊維が全体に均一に分散した。
【0045】
次いで、濾紙を用い前記混合液の濾過を行い、濾液重量が1744gに達した時に濾過操作を止めた。濾紙上にセルロース繊維が均一に分散した456gの濾過残渣が得られた。前記濾過残渣456gの成分は、濾液の分析結果より、ポリウレタン4g、セルロース繊維20g、イソプロピルアルコール316g、および水116gであった。
この濾過残渣を60℃の通風式乾燥機で乾燥することにより、24gのセルロース繊維含有組成物が得られた。セルロース繊維含有組成物の成分は、セルロース繊維20gおよびポリウレタン4gであり、質量比はポリウレタン/セルロース繊維=0.2/1であった。
得られたセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を図2に示す。セルロース繊維がポリウレタン中に凝集することなく、均一に分散している状態であった。
【0046】
(実施例3)
ポリウレタンのアルコール水溶液(荒川化学社製「ユリアーノW321」、組成:ポリウレタン35質量%、イソプロピルアルコール9質量%、水56質量%)500gを攪拌しながら、含水率90質量%のセルロース繊維350g(セルロース繊維固形分35g、平均繊維径2μm)を添加した。セルロース繊維が徐々に混合液に馴染むように分散し、1時間の攪拌後にはセルロース繊維が全体に均一に分散した。
【0047】
この混合液を凍結乾燥させることにより、セルロース含有組成物210gを得た。この組成物の成分は、ポリウレタン175gおよびセルロース繊維35gであり、重量比はポリウレタン/セルロース繊維=5/1であった。
得られたセルロース繊維含有組成物の光学顕微鏡写真を図3に示す。セルロース繊維がポリウレタン中に凝集することなく、均一に分散している状態であった。
【0048】
(比較例1)
イソプロピルアルコール1584gおよび水394gとを混合したアルコール水溶液に、攪拌を行いながら、含水率90質量%のセルロース繊維200g(セルロース繊維固形分20g、平均繊維径2μm)を添加した。セルロース繊維の分散は進まず、1時間攪拌の後にもセルロース繊維の分散は混合初期の状態と殆ど変わらず、セルロース繊維の凝集物が混合液全体に観られた。
【0049】
次いで、濾紙を用い混合液の濾過を行った。濾過残渣として217gを得た。濾過残渣の成分は、濾液の分析結果より、セルロース繊維20g、イソプロピルアルコール145g、および水52gであった。濾過残渣の状態は混合に供した含水率90質量%のセルロース繊維の状態に近いものであり、セルロース繊維の分散は出来ていなかった。
この濾過残渣を乾燥することにより、20gの乾燥物が得られた。得られたセルロース繊維乾燥物の光学顕微鏡写真を図4に示す。セルロース繊維が凝集した部分が非常に多い状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、樹脂と混合した際に、凝集することの無い、または凝集を起こしている部分が非常に少ないセルロース繊維含有組成物を提供できる。したがって、セルロース繊維含有組成物と樹脂とを混合した際に、セルロース繊維を均一に分散することができ、セルロース繊維を配合することにより期待される樹脂の物性改良、例えば、弾性率や曲げ強度等の機械的強度の向上、熱膨張率の低減等の効果が期待通りに発揮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、ポリウレタンとを含有するセルロース繊維含有組成物。
【請求項2】
ポリウレタンが、アルコール水溶液に可溶なポリウレタンである、請求項1に記載のセルロース繊維含有組成物。
【請求項3】
セルロース繊維が含水率60質量%以上の含水物である、請求項1または2に記載のセルロース繊維含有組成物。
【請求項4】
ポリウレタンが、重量平均分子量500〜50万のポリアルキレンオキシドと1,4−ブタンジオールとジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとを反応させて得られる、請求項1〜3いずれか1項に記載のセルロース繊維含有組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載のセルロース繊維含有組成物を用いた樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104045(P2013−104045A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250813(P2011−250813)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】