説明

セル育苗用培地

【課題】セルポットでの育苗期間を短くできるセル育苗用培地を提供する。
【解決手段】天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合することにより得られるセル育苗用培地。天然セルロース系繊維材とは、保水性と通気性に優れた天然の繊維質資材で、ロックウール等の人工的な繊維資材は含まれない。具体的には、ピートモス、ヤシガラピート、ココナッツピート等のピート類や、ミズゴケ、樹皮、泥炭などが挙げられる。天然セルロース繊維材は、粉砕せず、繊維同士が絡み合った状態のものを使用することが好ましい。有機・燃焼灰系中和剤とは、炭素原子を含有する有機物や該有機物を燃焼させた燃焼灰の中で塩基性を示す中和剤で、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム等の無機塩は含まれない。具体的には粉炭や石炭灰等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セル育苗用培地に関し、更に詳しくは従来のセル育苗用培地の半分程度の育苗期間で抜き取りが可能なセル育苗用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
就農人口の減少と高齢化が進んだわが国において、農作業の省力化は急務であると言われて久しい。この要請に応えるべく、野菜、花卉、果樹等の園芸作物においては、容器の極力小さいセルポットにおいて育苗し、この苗を移植機械で本圃に移植する所謂セル育苗システムが開発されている。セル育苗システムとは、培地詰め、播種、発芽、移植、潅水等の各工程をシステム化し、大量の均一な苗を少ない面積で効率的に生産する手法である。セル育苗システムは、農家が育苗の煩わしさやそのリスクを回避し、苗生産を工場化できる等の利点があり、現在急速に普及しつつある。特に、野菜、花卉、果樹等の園芸作物の育苗において顕著である。
【0003】
このセル育苗システムにおいて、セルポットに播種してから移植するまでの育苗期間は、セルポットに詰めた培地に根が張って型が崩れずに取り出せるようになるまでの期間が必要で、市販されているセル育苗用培地は3〜4週間程度の育苗を前提として開発されている。しかし、実際の農家では、容器の小さいセルポットでの育苗期間を極力短くする傾向があり、中には2週間程度で育苗を終え定植を行うところもある。しかし、2週間程度の育苗では、根が培地に十分広がっていないため、苗をセルポットから抜き取る際に培地の型が崩れるという問題があった。
【0004】
天然セルロース系繊維材は、繊維同士が絡み合うことにより、粒子同士の結合力が強い。このため、セルロース系繊維材を主原料としたセル育苗用培地であれば、2週間程度の短期育苗であっても培地の型を崩さずにセルポットから苗を抜き取ることができる筈である。
【0005】
しかし、天然セルロース系繊維材であるピートモスはpHが2〜3と強酸性であるため、粘土鉱物を含有する黒ボク土等の他の培土資材と混合せずに使用する場合は、炭酸カルシウムや石灰等の中和剤を使用する必要がある。しかし、炭酸カルシウムを使用すると培地の電気伝導度が上昇し、発芽率の低下や生育障害が起こり、また石灰はアルカリ分(肥料中に含まれる可溶性石灰(0.5Mの塩酸液に溶ける石灰)の量〔1998年ポケット肥料要覧 121頁 財団法人農林統計協会発行〕)が高いため、植物の生理障害が発生して生育が悪化する。このため、ピートモス等の天然セルロース系繊維材を主成分〔乾物換算で50重量%以上、有姿(水分を含む)で60重量%以上〕とするセル育苗用培地は、これまで販売されていない。
【0006】
特許文献1には、ピートモスに石炭灰及び/又は炭を添加した植物栽培用培土が記載されている。段落0018〜0019の実施例には、ピートモス3重量部(有姿)に対して、1〜8mm粒径の粒子を80%以上含有し平均粒径が2.8mmの雑木炭3重量部及び、平均粒径78μmの石炭灰1重量部を混合して得られた植物栽培用培土が記載されている。
【0007】
しかし、この植物栽培用培土は、中和剤である雑木炭と石炭灰が全体の58%を占めているため、この培土に肥料成分を添加しても、成長に優れた植物の栽培は期待できない。成長に優れた植物を栽培するためには、この植物栽培用培土に粘土鉱物を含有する黒ボク土、赤玉土や、ゼオライト、砂等の他の植物栽培用培土を50(重量又は容量)%以上混合して使用する必要があった。〔段落0021〜0030のトマト、イチゴ、芝の栽培試験参照〕
【0008】
特許文献2には、粉状土と肥料とを混合して肥料混合粉状土とした後造粒し、前記造粒土、粉状又は粉砕したピートモス、粉砕あるいは粉状の炭を混合して混合培土としたことを特徴とする育苗用培土が記載されている。段落0008の実施例〔図1〕には、粉状土1リットルに肥料を約300mgの割合で混合して肥料混合粉状土とし、次いで、該肥料混合粉状土を造粒して造粒土とし、次いで、該造粒土約40%、粉状・繊維状に粉砕したピートモス約55%(有姿)、粉砕あるいは粉状の木炭からなる炭を約5%の容積比で、混合して混合培土とすることが記載されている。
【0009】
しかし、段落0010には、苗崩れの少ない苗を育苗するためには、育苗トレイ(セルポット)の底部に無機肥料あるいは有機質肥料を吸着している3〜4mmのゼオライトを供給し、前記混合培土を詰め込む必要のあることが記載されている。そして、前記混合培土で苗が生長して根毛部及び苗部が伸長して、根毛部の先端が床土底部のゼオライト部に至ると、ゼオライトに吸着されている肥料を吸収し、床土の底部での根毛部の伸長が良好となり、床土の底部が丈夫な苗を育成できることが記載されている。
【0010】
すなわち、特許文献2には、肥効成分を含有する造粒土40%、ピートモス55%(有姿)、木炭5%からなる混合培土だけでは苗の抜き取りが十分ではなく、セルポットから抜き取った際に崩壊しない苗を育苗するためには、セルポットの底部に肥料を吸着させたゼオライトを供給し、その上に該混合培土を詰める必要があることが記載されている。
【0011】
このように、特許文献2に記載されているセル育苗用培土は、苗の根がセルポット底部の肥料成分を吸着しているゼオライト部に達して根毛部の伸長が良好になるまで生育させる必要があるため、セルポットでの育苗期間を短くすることはできない。また、容積の小さいセルポットに2種類の培地を詰める必要があるため、手間がかかり実用的ではなかった。
【0012】
特許文献3には、水稲や野菜等の播種・育苗の際に苗箱に装填される、ピートモス等の植物繊維を圧縮成形した培地が記載されている(段落0001、0002)。また、段落0010には、ピートモスは一般にpH3.5〜5.5とpHが低いため、消石灰や生石灰、苦土石灰、炭酸カルシウムなどでpH調整を行うことが記載されている。しかし、ピートモス等の天然セルロース系繊維材を消石灰や炭酸カルシウム等でpH調整すると、培地の電気伝導度が上昇して植物成長阻害物質が活性化するため、特に発芽させることを目的としたセル育苗用培地に使用すると、発芽率の低下や生育障害が発生して、作物の生育に悪影響を与えるといった問題があった。
【0013】
また、特許文献4の実施例1(段落0006)には、ピートモスとバーミキュライトを等量混合した培地に、硫酸銅粉末0.01重量%を均一に混合し、連結式プラスチックトレーに詰め、タマネギ種子を蒔き、常法により60日間育苗し、育苗後のプラスチックトレーにカルボキシメチルセルロース0.5重量%水溶液を潅水すると、根鉢は十分な強度を有しており、根鉢の崩壊なしに移植可能であることが記載されている。
【0014】
この培地は、ピートモスとバーミキュライトを等量混合しているが、ピートモスの水分含量を50重量%(本願実施例で使用するピートモスの水分含量)、バーミキュライトの水分含量を4.7重量%(本願実施例で使用するバーミキュライトの水分含量)とすると、該培地に使用されているピートモスは乾物換算で35重量%、バーミキュライトは乾物換算で65重量%となる。
【0015】
仮にピートモスの添加量を本発明のセル育苗用培地と同じ50重量%(乾物換算)まで増やすと、ピートモスは有姿で65重量%、バーミキュライトは有姿で35重量%となるが、この場合は培地のpHが低くなるため、植物の生育に適さなくなる。なお、該培地で栽培した根鉢は、十分な強度を有しており、根鉢の崩壊なしに移植可能であることが記載されているが、これは、カルボキシメチルセルロースと硫酸銅とにより硬化されているためである。硬化剤によって硬化されている培地は、移植が容易にできても移植後の根の生育には決して好ましいものではなかった。また、育苗させたセル培地にカルボキシメチルセルロース水溶液を添加する手間がかかるため、実用的ではない。
【0016】
このように、容積の小さいセルポットでの育苗期間を短くでき、また硬化剤を添加しなくても抜取性に優れたセル育苗用培地の開発が待たれていた。
【0017】
【特許文献1】特開平8−51858号公報
【特許文献2】特開平7−274715号公報
【特許文献3】特開平11−341925号公報
【特許文献4】特開平7−99832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、セルポットでの育苗期間を短くできるセル育苗用培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、天然セルロース系繊維材を主体とする原料に、粉炭等の特定の中和剤を加えて、水とともに混合することにより得られるセル育苗用培地を用いると生育が良好で、かつ従来のセル育苗用培地の半分程度の育苗期間で苗の抜き取り(移植)が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合することにより得られるセル育苗用培地。
(2)天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて混合することにより得られる前記(1)に記載のセル育苗用培地。
(3)天然セルロース系繊維材が、ピートモス、ヤシガラピート、ココナッツピート、ミズゴケ、樹皮及び泥炭から選ばれる少なくとも1種である前記(1)又は(2)に記載のセル育苗用培地。
【0021】
(4)天然セルロース系繊維材が、繊維同士が絡み合った状態の天然セルロース系繊維材である前記(3)に記載のセル育苗用培地。
(5)有機・燃焼灰系中和剤が、粒径2mm以下の粉炭及び/又は石炭燃焼灰である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のセル育苗用培地。
(6)pHが5.5〜7.5であり、かつ該培地の電気伝導度が0.5mS/cm以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のセル育苗用培地。
【0022】
(7)粘土鉱物の含有量が、0〜20重量%(乾物換算)である前記(1)〜(6)のいずれかに記載のセル育苗用培地。
(8)下記の抜き取り試験において、抜取率が60%以上である前記(1)〜(7)のいずれかに記載のセル育苗用培地。
【0023】
〔抜き取り試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗した培地をセルポットから常法に従って取り外したときに、ポットの型がくずれずに取り出せたもの(ポットの型をした成形体のまま取り出せたもの)の割合〔抜取率(%)〕を調べる。
【0024】
(9)天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて混合することを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれかに記載のセル育苗用培地の製造方法。
(10)天然セルロース系繊維材、有機・燃焼灰系中和剤、肥料及び鉱物質資材を混合機に投入し、水を加えて混合する前記(9)に記載の製造方法。
(11)鉱物質資材がパーライト、バーミキュライト及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である前記(10)に記載の製造方法。
(12)繊維同士が絡み合った状態の天然セルロース系繊維材と、粒径2mm以下の有機・燃焼灰系中和剤を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて該原料を混合し、得られた混合物のpHを5.5〜7.5に調整する前記(9)〜(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のセル育苗用培地は、通気性、保水性に優れ、また保肥性にも優れている。また、植物成長阻害物質がほとんどなく、植物の初期生育に適している。このため、本発明のセル育苗用培地に肥料成分を添加して育苗すると、短期間で良好な生育を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
天然セルロース系繊維材とは、保水性と通気性に優れた天然の繊維質資材で、ロックウール等の人工的な繊維資材は含まれない。培地の原料として使用できるものであれば特に限定されないが、具体的には、ピートモス、ヤシガラピート、ココナッツピート等のピート類や、ミズゴケ、樹皮、泥炭などが挙げられる。天然セルロース繊維材は、粉砕せず、繊維同士が絡み合った状態のものを使用することが好ましい。
【0027】
なお、天然セルロース系繊維材は、いったん乾燥してしまうと吸水しにくくなる性質があるため、水分を含んだ状態で販売されている。ピートモスは、産地によっても異なるが、通常40〜50重量%の水分が含まれている。
【0028】
天然セルロース系繊維材は、水分の蒸発を防止するため、界面活性剤等で処理したものを使用してもよい。界面活性剤による処理は、中和剤や肥料等の他の資材と混合する前に行うことが好ましい。
【0029】
本発明に使用する天然セルロース系繊維材の原料中の配合割合は、水分を含まない乾物に換算して、50〜99重量%であり、好ましくは52〜97重量%、より好ましくは55〜97重量%で、最も好ましくは60〜95重量%である。天然セルロース系繊維材の配合割合が乾物換算で50重量%未満になると、セルロース系繊維の絡まる力が弱くなるため、育苗期間の短い苗の抜取率が悪化する。なお、水分が50重量%のピートモスの配合割合(有姿)は60〜99重量%で、好ましくは63〜95重量%、より好ましくは70〜95重量%である。
【0030】
有機・燃焼灰系中和剤とは、炭素原子を含有する有機物や該有機物を燃焼させた燃焼灰の中で塩基性を示す中和剤で、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム等の無機塩は含まれない。該中和剤は、緩衝作用の少ない天然セルロース系繊維材を乾物換算で50重量%以上含有する原料のpHを、植物に生理障害を引き起こさずに中和することのできるものであれば特に限定されないが、具体的には粉炭や石炭灰等が挙げられる。
【0031】
前記中和剤の原料中の配合割合は、水分を含まない乾物に換算して1〜40重量%であり、以下、1〜35重量%、1〜30重量%、3〜30重量%、5〜30重量%の順に好ましく、5〜10重量%であることが最も好ましい。前記中和剤の配合割合が1重量%未満になると、得られた培地を中和することができなくなり、培地の酸性障害によって植物の生育に悪影響を与えるためである。一方、40重量%を超えると、培地用資材(天然セルロース系繊維材、鉱物質資材、肥料等)以外の資材の含有割合が高くなるため、育苗に適さなくなる。
【0032】
本発明で使用する粉炭は、少ない添加量で天然セルロース系繊維材と馴染ませる(均一に混合させてpHを下がりやすくする)必要があるため、その粒径(平均粒径)が2mm以下のものが好ましく、粒径(平均粒径)が1.5mm以下のものが更に好ましく、粒径(平均粒径)が1mm以下のものが最も好ましい。更に、本発明で使用する粉炭は、粒径が2mmより大きな粒を2000μの篩(JIS規格)で篩って除去したもの(以下、「2000μ篩アンダー品」という。)が好ましく、1680μ篩アンダー品が更に好ましく、1000μ篩アンダー品が最も好ましい。
【0033】
本発明で使用する粉炭は、添加量を少なくする点から、pH(水浸出法(粉炭:水=1:5))が9以上のものが好ましい。また、粉炭の焼結温度は、600℃以上、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上の順に好ましく、最も好ましいのは1300℃以上である。高温で焼成した粉炭のpH(水浸出法(粉炭:水=1:5))は10以上で、1300℃以上で焼成した粉炭のpH(水浸出法(粉炭:水=1:5))は11〜12を示す。
【0034】
有機・燃焼灰系中和剤の添加方法は、天然セルロース系繊維材を乾物換算で50重量%以上含有する原料のpHを植物に生理障害を引き起こさずに中和することのできる方法(例えば、電気伝導度を高くせずに調節する方法)であれば特に限定されないが、粉炭や石炭灰等の粉末を使用する場合は、混合機等を用いて混合することが好ましい。また、天然セルロース系繊維材と粉炭や石炭灰を馴染ませるため、水を加えて混合機で均一に混合(数分間混合)することがより好ましい。
【0035】
水の添加方法は特に限定されず、天然セルロース系繊維材及び前記中和剤を混合した後、水を添加する方法、天然セルロース系繊維材及び/又は前記中和剤に水を添加した後、両者を混合する方法のいずれを採用してもよい。
【0036】
水の添加量は、天然セルロース系繊維材に含まれている水分によって大きく異なるが、得られたセル育苗用培地の水分が、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは45〜75重量%、最も好ましくは50〜75重量%になるように添加する。
【0037】
本発明のセル育苗用培地は、セルポットにおける短期間の育苗で、苗の抜き取りを可能にするため、セルポットに付着しやすい粘土鉱物の含有量は少ない方がよい。具体的には0〜20重量%(乾物換算)であることが好ましく、以下、0〜15重量%(乾物換算)、0〜10重量%(乾物換算)、0〜5重量%(乾物換算)、0〜3重量%(乾物換算)の順に好ましく、最も好ましくは0%(含有しないこと)である。粘土鉱物が含まれている資材としては、黒ぼく土、鹿沼土、赤玉土等の一般土壌が挙げられる。
【0038】
本発明のセル育苗用培地は、下記の抜き取り試験において、抜取率が60%以上であることが好ましく、65%以上、70%以上、75%以上であることが更に好ましく、最も好ましくは80%以上である。なお、ハクサイのセルポットによる通常の育苗期間は3〜4週間で、下記抜き取り試験の14日間は通常の1/2〜2/3の育苗期間である。
【0039】
〔抜き取り試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗した培地をセルポットから常法に従って取り外したときに、ポットの型がくずれずに取り出せたもの(ポットの型をした成形体のまま取り出せたもの)の割合〔抜取率(%)〕を調べる。
【0040】
なお、前記抜き取り試験に記載されている「常法」とは、植物を育苗する際に通常行われている作業(潅水、照明、温度管理、播種、移植等)を通常の方法で行うことを指し、セル育苗システムでシステム化されている播種、発芽、移植、潅水等の工程を通常の使用方法で行う場合も含まれるものとする。
【0041】
本発明のセル育苗用培地は、下記の生育試験において、比較培地〔げんきくんセル専用N100;コープケミカル株式会社製〕で育苗した作物の生体重を100(地上部と地下部の合計重量)とした場合、相対指数が90以上の生体重を有する作物が得られる培地であることが好ましく、相対指数が95以上の生体重を有する作物が得られる培地であることがより好ましく、相対指数が100以上の生体重を有する作物が得られる培地であることが最も好ましい。
【0042】
〔生育試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗したハクサイの生体重(地上部と地下部の合計重量;単位g)を測定し、平均値で示す。
【0043】
本発明のセル育苗用培地のpHは、5.5〜7.5の範囲に入るようにすることが好ましい。pHが5.5未満の場合は酸性障害を受け、pHが7.5を超える場合は塩基性障害を受けるため、どちらの場合も作物の生育に悪影響を与える。
【0044】
本発明のセル育苗用培地の電気伝導度は、使用する資材の種類によっても異なるが、好ましくは0.5mS/cm以下で、より好ましくは0.4mS/cm以下であり、最も好ましくは0.3mS/cm以下ある。培地の電気伝導度が0.5mS/cmより高くなると植物成長阻害物質が活性化して、発芽率が低下したり、生育が悪化するため、好ましくない。
【0045】
本発明のセル育苗用培地は、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト等の鉱物質培土資材、その他必要な培土資材、及び肥料を混合することができる。
【0046】
なお、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト等の鉱物質資材は、粘土鉱物が含まれていないので、セルポットに付着する心配がなく、本発明のセル育苗用培地の資材として利用できる。これらの鉱物質資材の原料中の配合割合は、乾物換算で、好ましくは0〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜40重量%である。
【0047】
肥料は、窒素質肥料、リン酸質肥料、加里質肥料、熔成複合肥料、化成肥料、配合肥料、液状肥料、石灰質肥料、ケイ酸質肥料、苦土肥料、マンガン肥料、ホウ素質肥料、微量要素複合肥料等を使用することができるが、硝酸性窒素を含有する肥料と他の肥料を合わせて使用することが好ましい。硝酸性窒素は、土壌を使用しない育苗用培地での初期生育に有用である。硝酸性窒素を含有する肥料としては、硝酸アンモニア、硝酸アンモニアソーダ肥料、硝酸アンモニア石灰肥料、硝酸ソーダ、硝酸石灰、硝酸苦土肥料等が挙げられる。
【0048】
本発明のセル育苗用培地から抜き取られた苗は、すぐに容積の大きいプランター等へ移し替えることが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
なお、以下の実施例及び比較例において、培地のpH及び電気伝導度(EC)の測定は次のようにして行った。
〔培地pHと電気伝導度の測定(水浸出法(培地:水=1:5))〕
【0051】
セル育苗用培地(有姿:水分を含む)及び比較培地(有姿)を試料とする。各試料20gと水100mlをポリエチレンビンに入れて、30分攪拌して懸濁液を得る。pHメーター〔HORIBA (堀場製作所)製:F-21〕及び伝導率メーター〔同社製:DS-51〕を用いて、試料のpH及び電気伝導度を測定する。
【0052】
実施例1 セル育苗用培地A(本発明品)の製造
pH3.2のピートモスを76.5重量部(水分50重量%;乾物換算で65.5重量%)、1300℃で焼成した粒径0.9mm以下の粉炭10.0重量部(水分25.3重量%;乾物換算で13.0重量%)、バーミキュライト13.0重量部(水分4.7重量%;乾物換算で21.0重量%)及び肥料0.5重量部(乾物換算で0.5重量%)を回転ドラムに投入し、ドラムを回転させ、水を27.7重量部添加して5分間混合して、本発明のセル育苗用培地Aを製造した。
【0053】
なお、肥料は、硝酸アンモニウム、重過リン酸石灰、硫酸加里、炭酸カルシウム等を、培地1リットルあたり、アンモニア性窒素(AN)50mg/l、硝酸性窒素(NN)50mg/l、リン酸(P)600mg/l、加里(KO)200mg/lの量〔肥料分析法 農林水産省農業環境技術研究所発行 参照〕になるように調整して添加した。
【0054】
比較例1 比較培地A、B、Cについて
市販されている培地として、げんきくんセル専用N100(コープケミカル株式会社製)を比較培地A、ベストミックス(ニチアス株式会社製)を比較培地B、スミソイル(住友化学株式会社製)を比較培地Cとした。
【0055】
試験例1 培地の物性試験
本発明のセル育苗用培地Aと、比較培地の分析値を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例2(ハクサイ「黄ごころ80」の栽培試験 播種日:H17.7.20)
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に、実施例1で製造した本発明のセル育苗用培地A、及び比較例1の比較培地A、B、Cを、それぞれ1トレー(128穴)ずつ詰め、ハクサイを播種し、常法に従って14日間栽培し、抜取率(%)、葉数(枚)、草丈(cm)、地上部と地下部の生体重(g)を求めた。なお、抜取率は下記の試験方法で求め、葉数、草丈、生体重は平均値で表す。
【0058】
〔抜き取り試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗した培地をセルポットから常法に従って取り出したときに、ポットの型がくずれずに取り出せたもの(ポットの型をした成形体のまま取り出せたもの)の割合〔抜取率(%)〕を調べる。
【0059】
試験結果を表2に示す。また、ポットの型がくずれずに取り出せた苗の写真を図1に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
本発明のセル育苗用培地Aは抜取率が82.0%と高く、比較培地A、B、Cに比べて4〜10倍の差が出た。また本発明のセル育苗用培地Aは生育面でも優れており、葉数が比較培地Bと同数であった以外は、草丈、生体重(地上部、地下部)の全てにおいて比較培地より優れた生育を示した。
【0062】
また、比較培地A〔げんきくんセル専用N100〕で育苗したハクサイの生体重(地上部と地下部の合計重量)を100とした場合、本発明のセル育苗用培地Aで育苗したハクサイの生体重(地上部と地下部の合計重量)は相対指数で106となった。
【0063】
実施例3(ハクサイ「黄ごころ80」の栽培試験 播種日:H17.8.20)
育苗期間14日間を育苗期間12日間とした以外は、実施例2と同様にして栽培した。
試験結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
本発明のセル育苗用培地Aは抜取率が82.0%と高く、比較培地Bに比べて3.3倍、比較培地Cに対しては50倍以上の差が出た。また本発明のセル育苗用培地Aは生育面でも優れており、草丈で比較培地Bの方が若干優れていた以外は、葉数、生体重(地上部、地下部)の全てにおいて比較培地より優れた生育を示した。
【0066】
なお、育苗期間が12日間の実施例3におけるセル育苗用培地Aの地上部の生体重が、育苗期間14日間の実施例2におけるセル育苗用培地の生体重よりも高くなっているが、これは栽培時期(7月と8月)の違い等による実験誤差である。
【0067】
実施例4 セル育苗用培地B(本発明品)の製造
pH3.2のピートモスを72.0重量部(水分50重量%;乾物換算で63.5重量%)、粒径が2mmより大きな粒を2000μの篩(JIS規格)で篩って除去した粉炭15.0重量部(水分25.3重量%;乾物換算で20.0重量%、pH(水浸出法(粉炭:水=1:5))は9)、バーミキュライト12.6重量部(水分4.7重量%;乾物換算で16.0重量%)及び肥料0.4重量部(乾物換算で0.5重量%)を回転ドラムに投入し、ドラムを回転させ、水を30.0重量部添加して5分間混合して、本発明のセル育苗用培地Bを製造した。
【0068】
なお、肥料は、硝酸アンモニウム、重過リン酸石灰、硫酸加里、炭酸カルシウム等を、培地1リットルあたり、アンモニア性窒素(AN)50mg/l、硝酸性窒素(NN)50mg/l、リン酸(P)600mg/l、加里(KO)200mg/lの量〔肥料分析法 農林水産省農業環境技術研究所発行 参照〕になるように調整して添加した。
【0069】
比較例2 比較培地D(ピートモス培地)の製造
pH3.2のピートモス99.7重量部(水分50重量%、乾物換算で99.5重量%)、肥料0.3重量部(乾物換算で0.5重量%)を容器に入れ、水を添加して、十分混合して、水分68重量%の比較培地Dを製造した。
【0070】
なお、肥料は、硝酸アンモニウム、重過リン酸石灰、硫酸加里、炭酸カルシウム等を、培地1リットルあたり、アンモニア性窒素(AN)50mg/l、硝酸性窒素(NN)50mg/l、リン酸(P)600mg/l、加里(KO)200mg/lの量になるように調整して添加した。
【0071】
比較例3 比較培地E(ピートモス+消石灰培地)の製造
pH3.2のピートモス96.7重量部(水分50重量%、乾物換算で93.5重量%)、消石灰3.0重量部(乾物換算で6.0重量%)、肥料0.3重量部(乾物換算で0.5重量%)を容器に入れ、水を添加して、十分混合して、水分68重量%の比較培地Eを製造した。
【0072】
なお、肥料は、硝酸アンモニウム、重過リン酸石灰、硫酸加里、炭酸カルシウム等を、培地1リットルあたり、アンモニア性窒素(AN)50mg/l、硝酸性窒素(NN)50mg/l、リン酸(P)600mg/l、加里(KO)100mg/lの量になるように調整して添加した。
【0073】
試験例2 培地の物性試験
本発明のセル育苗用培地Bと、比較培地D、Eの分析値を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例5(ハクサイ「黄ごころ80」の栽培試験)
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に、実施例4で製造した本発明のセル育苗用培地B、及び比較例2、3で製造した比較培地D、Eを、それぞれ1トレー(128穴)ずつ詰め、ハクサイを播種し、常法に従って14日間栽培し、抜取率(%)、葉数(枚)、草丈(cm)、地上部と地下部の生体重(g)を求めた。なお、抜取率は下記の試験方法で求め、葉数、草丈、生体重は平均値で表す。
【0076】
〔抜き取り試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗した培地をセルポットから常法に従って取り出したときに、ポットの型がくずれずに取り出せたもの(ポットの型をした成形体のまま取り出せたもの)の割合〔抜取率(%)〕を調べる。
【0077】
試験結果を表5に示す。また、ポットの型がくずれずに取り出せた苗の写真を図2に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
本発明のセル育苗用培地Bは、抜取率が94.5%と高く、葉数、草丈、生体重(地上部、地下部)のいずれにおいても優れた生育を示した。
【0080】
これに対し、ピートモスに肥料成分を添加しただけの比較培地Dは、強酸性のため発芽数が低く、また発芽しても生育せず枯死する個体が多いなど、明らかに生育の障害が認められた。また、根は強酸性のため、種子の外に伸びておらず、地下部(根)の生体重は実質的に0gとなった。更に、培地に根を張らせることができないため、ポットからの抜取率は0%であった。
【0081】
ピートモスを消石灰で中和した比較培地Eは、生育障害は認められず抜取率は95.3%と高かったが、本発明のセル育苗用培地Bと比較すると、大きさが小さく、子葉の色が淡いなど、葉数、草丈、生体重のいずれの項目でも本発明のセル育苗用培地Bより劣った。特に、本発明のセル育苗用培地Bを100とした場合の生体重の相対指数は、地上部59%、地下部70%、合計63%と低かった。これは、緩衝作用の少ないピートモス主体の培地に、アルカリ分の強い消石灰を多量に添加したため、生理障害が引き起こされて、生育が悪化したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例2においてポットの型がくずれずに取り出せた苗の写真である。
【図2】実施例5においてポットの型がくずれずに取り出せた苗の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合することにより得られるセル育苗用培地。
【請求項2】
天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて混合することにより得られる請求項1記載のセル育苗用培地。
【請求項3】
天然セルロース系繊維材が、ピートモス、ヤシガラピート、ココナッツピート、ミズゴケ、樹皮及び泥炭から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載のセル育苗用培地。
【請求項4】
天然セルロース系繊維材が、繊維同士が絡み合った状態の天然セルロース系繊維材である請求項3記載のセル育苗用培地。
【請求項5】
有機・燃焼灰系中和剤が、粒径2mm以下の粉炭及び/又は石炭燃焼灰である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセル育苗用培地。
【請求項6】
pHが5.5〜7.5であり、かつ該培地の電気伝導度が0.5mS/cm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル育苗用培地。
【請求項7】
粘土鉱物の含有量が、0〜20重量%(乾物換算)である請求項1〜6のいずれか1項に記載のセル育苗用培地。
【請求項8】
下記の抜き取り試験において、抜取率が60%以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載のセル育苗用培地。
〔抜き取り試験〕
連結式セルポットトレー(ヤンマー株式会社製ヤンマートレイ30−128;直径3.0cm、高さ4.5cm、128穴)に培地を詰め、常法に従ってハクサイを14日間育苗する。育苗した培地をセルポットから常法に従って取り外したときに、ポットの型がくずれずに取り出せたもの(ポットの型をした成形体のまま取り出せたもの)の割合〔抜取率(%)〕を調べる。
【請求項9】
天然セルロース系繊維材50〜99重量%(乾物換算)及び有機・燃焼灰系中和剤1〜40重量%(乾物換算)を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて混合することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセル育苗用培地の製造方法。
【請求項10】
天然セルロース系繊維材、有機・燃焼灰系中和剤、肥料及び鉱物質資材を混合機に投入し、水を加えて混合する請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
鉱物質資材がパーライト、バーミキュライト及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種である請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
繊維同士が絡み合った状態の天然セルロース系繊維材と、粒径2mm以下の有機・燃焼灰系中和剤を含有する原料を混合機に投入し、水を加えて該原料を混合し、得られた混合物のpHを5.5〜7.5に調整する請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−275051(P2007−275051A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306399(P2006−306399)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000105419)コープケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】