センサレス・ブラシレスモータ制御装置及びそれを用いた電動流体ポンプ
【課題】、低コストで構成でき、かつ、モータ起動から電流制御へ切り替えをスムーズに行うことでセンサレス・ブラシレスモータを安定に制御することができるセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とそれを用いた電動流体ポンプを提供する。
【解決手段】インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によってインバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、センサレス・ブラシレスモータの起動後、インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、制御モード切替判定手段の出力に応じて電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えた。
【解決手段】インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によってインバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、センサレス・ブラシレスモータの起動後、インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、制御モード切替判定手段の出力に応じて電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレス・ブラシレスモータ制御装置及びそれを用いた電動流体ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費向上や環境問題からガソリンエンジンと電動モータで駆動するハイブリッド車が実用化されている。ハイブリッド車は、車両停車時にエンジンを停止させる、いわゆるアイドルストップ制御を採用している。アイドルストップ時には、変速機のオイル循環系や変速機を動作させるクラッチ等のアクチュエータを駆動するための油圧力確保が必要となる。ハイブリッド車には、油圧力確保のための電動オイルポンプが搭載されている。
【0003】
電動オイルポンプの駆動には、センサレス・ブラシレスモータが用いられている。センサレス・ブラシレスモータは、位置センサがないためにモータ回転が低速になるに従って脱調するおそれがある。そこで、モータの低回転数時には、マイコン制御により、モータを電流制御から回転数制御へ切替えるセンサレス・ブラシレスモータ制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、三相インバータ電流iu,iv,iwをシャント抵抗で検出してモータの駆動回路(通電回路)へフィードバックし、各相の誘起電圧演算を行ってモータを制御するモータ制御装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−166436号公報
【特許文献2】特開2006−254626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、モータの制御をマイコンにより行う制御装置については、一般にマイコン自体が高価なものである点、及びマイコン特有のリセット機能も必要となるため電源回路が複雑化する点により、高コストなハードウェア構成となってしまう。
【0007】
また、センサレス・ブラシレスモータをインバータで起動する場合には、モータ特有の起動モードがあり、モータの起動後、電流制御モードに切替えた場合には電流制御応答は遅くなる。ひいては、モータによって駆動する電動流体ポンプの性能が低下する。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、低コストで構成でき、かつ、モータ起動から電流制御へ切り替えをスムーズに行うことでセンサレス・ブラシレスモータを安定かつ高速に制御することができるセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とそれを用いた電動流体ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係るセンサレス・ブラシレスモータ制御装置は、インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によって前記インバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、センサレス・ブラシレスモータの起動後、前記インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、前記電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、該制御モード切替判定手段の出力に応じて前記電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る電動流体ポンプは、センサレス・ブラシレスモータと、センサレス・ブラシレスモータを駆動制御するセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とを用いて駆動する電動流体ポンプにおいて、上記のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置によって駆動されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで構成でき、かつ、モータ起動から電流制御へ切り替えをスムーズに行うことでセンサレス・ブラシレスモータを安定かつ高速に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの構成の概略を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のDuty/V変換手段の構成を示す回路図である。
【図4】図2の制御モード切替手段と電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。
【図5】図4の制御モード切替手段の制御モード切替動作を説明するためのグラフである。
【図6】図2の電流検出手段の構成を示す回路図である。
【図7】図6の電流検出手段のモータ電流検出動作を説明するためのタイムチャートである。
【図8】図2のモータ回転検出手段と低速回転時トルクアップ制御手段の構成を示す回路図である。
【図9】図8の低速回転時トルクアップ制御手段の動作を説明するためのトルクアップ制御特性を示すグラフである。
【図10】図2の制御モード切替判定手段の構成を示す回路図である。
【図11】センサレス制御モードから電流制御モードへ制御モードの切替動作を説明するためのタイムチャートである。
【図12】第2の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおける制御モード切替手段、電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。
【図13】第3の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおけるDuty/V変換手段の構成を示す回路図である。
【図14】図13のDuty/V変換手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図15】第4の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおけるモータ回転検出手段の構成を示す回路図である。
【図16】図15のモータ回転検出手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図17】第5の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおける制御モード切替判定手段の構成を示す回路図である。
【図18】図17の制御モード切替判定手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの構成を示すブロック図である。
【0014】
電動流体ポンプは、潤滑用油、アクチュエータ駆動用油、冷却用冷却水を吸入、吐出させるポンプである。図1に示すように、電動流体ポンプ1は、直結されたセンサレス・ブラシレスモータ2(以下、単に「モータ」と称する)により駆動される。モータ2は、センサレス・ブラシレスモータ制御装置(以下、単に「モータ制御装置」と称する)により制御されて駆動する。モータ制御装置は、モータ2を駆動するインバータ3と、インバータ3を制御するインバータ駆動回路4と、インバータ駆動回路4に制御指令を出すトルク制御手段5とを有する。
【0015】
トルク制御手段5は、上位の自動変速機制御装置(AT制御装置)等の上位制御装置(図示せず)からのPWM制御信号(又はアナログ信号)の電流指令を受けてインバータ駆動回路4、インバータ3を介してモータ2に流れる電流を電流指令の電流値と一致するように制御する。
【0016】
モータ2の回転時には、インバータ3やインバータ駆動回路4からトルク制御手段5へそれぞれモータ2の駆動情報(モータ電流、回転数等)をフィードバックする。
【0017】
図2は、図1のモータ制御装置の詳細な構成を示すブロック図である。図2に示すように、トルク制御手段5は、Duty/V変換手段51と、制御モード切替手段52と、電流検出手段53と、電流偏差演算手段54と、電流制御手段55と、回転検出手段56と、低速回転時トルクアップ制御手段57と、制御モード切替判定手段58とを有する。
【0018】
インバータ駆動回路手段4は、起動制御手段、センサレス制御手段、PWM制御手段、過電流検出手段、電流リミッタ手段、プリドライバ手段等を内蔵したインバータICで構成されている。
【0019】
インバータ3は、6個のパワーMOSFET31と、各パワーMOSFET31のゲートに各々設けられたゲート抵抗32を有する。インバータ3は、インバータ駆動回路4からゲート抵抗32を介してパワーMOSFET31のゲートへ出力されるPWM信号により動作する。インバータ3は、U,V,Wの出力端子からモータ2の各相(U相,V相,W相)へそれぞれ電圧を印可し、モータ2を回転駆動させる。
【0020】
インバータ駆動回路4の出力信号は、インバータ3のパワーMOSFET下側(3個)駆動用PWMパルス(UN,VN,WN)としてトルク制御手段5へ入力される。
【0021】
トルク制御手段5、インバータ駆動手段4、インバータ3等の電源に用いる電源フィルタ7は、インダクタンスLf及びコンデンサCfの簡単な要素で構成される。
【0022】
次に、トルク制御手段5、インバータ駆動回路手段4、インバータ3を有するモータ制御装置の動作を説明する。
【0023】
トルク制御手段5のDuty/V変換手段51へ上位制御装置から電流指令であるPWMパルスのDuty信号PSIGが入力されると、Duty/V変換手段51では、パルスのDuty信号をアナログ信号に変換し、電流指令Iuとして制御モード切替手段52へ出力する。なお、電流指令PSIGがアナログ信号である場合、Duty/V変換手段51を介さずに直接に制御モード切替手段52へ電流指令PSIGを入力してもよい。
【0024】
制御モード切替手段52には、Duty/V変換手段51から電流指令Iuが入力され、電流検出手段53から電流フィードバック信号VbHが入力され、低速回転時トルクアップ制御手段57からモータ電流指令アップ信号Vtuが入力される。また、制御モード切替手段52は、制御モード切替判定手段58から入力される制御モード切替判定信号CHANGFGにより電流制御のフィードバック制御ゲインを切替える。制御ゲインの切替や、その切替タイミングについては後述する(図5、図11参照)。
【0025】
制御モード切替手段52は、電流指令値Iu1と電流フィードバック値Iufとを出力し、電流偏差演算手段54で演算された偏差値を電流制御手段55へ出力する。電流制御手段55では、一次遅れ補償により安定化された電流制御を行い、アナログ信号ASIGをインバータ駆動回路4へ出力する。
【0026】
インバータ駆動回路4では、起動制御、センサレス・ブラシレス制御等のモータ制御に必要な一連の制御を行い、インバータ3を介してモータ2を回転させ、電動流体ポンプ1を駆動する。モータ2の駆動により、モータ2に設けられた電流検出用のシャント抵抗6には、電源電流が流れる。シャント抵抗6の両端電圧を電源電流Ibとして検出し、電流検出手段53へフィードバックし電流制御が行われる。
【0027】
以下、Duty/V変換手段51、制御モード切替手段52、電流偏差演算手段54、電流制御手段55、電流検出手段53、回転検出手段56、低速回転時トルクアップ制御手段57、制御モード切替判定手段58の構成及び動作について順次説明する。
[Duty/V変換手段51]
図3はDuty/V変換手段51の回路構成例を示す回路図である。
【0028】
図3に示すように、Duty/V変換手段51は、入力抵抗512,513及び出力抵抗514が接続されたトランジスタ511を有し、トランジスタ511は上位制御装置から入力される電流指令PSIGのパルス信号を反転させる。
【0029】
トランジスタ511の方形波の出力は、フィルタ用の抵抗515とコンデンサ516とにより平滑化され、バッファアンプ517を介してアナログ信号の電流指令値Iuが出力される。
【0030】
本実施形態では、Duty/V変換手段51をアナログ素子で構成しているが、デジタル素子で構成してもよい。
[制御モード切替手段52・電流制御手段55・電流偏差演算手段54]
図4は、制御モード切替手段と電流制御手段の構成を示す回路図である。
【0031】
図4に示すように、電流偏差演算手段54と電流制御手段55は一体化された構成であり、それらの構成及び動作に関する説明は電流制御手段55として説明する。
【0032】
電流制御手段55は、演算増幅器551(制御ゲインGは、例えば、40〜50)と、フィードバック抵抗553(抵抗値:R3)と、フィードバック抵抗553と並列に接続されたコンデンサ554とを有する。
【0033】
演算増幅器551は、Duty/V変換手段51からの入力信号である電流指令値Iu(電圧値:e1)、低速回転時トルクアップ制御手段57からの入力信号であるモータ電流指令アップ信号Vtu(電圧値:e2)、電流検出手段53からの入力信号である電流フィードバック信号VbH(電圧値:e3)が入力され、インバータ駆動回路4へアナログ信号ASIG(電圧値:ez)を出力するものである。
【0034】
演算増幅器551の入力端子には、1つの入力抵抗521(抵抗値:R1)と1つの入力抵抗552(抵抗値:R2)を直列接続したものを1対の入力抵抗として接続され、上記の電流指令値Iu、モータ電流指令アップ信号Vtu、電流フィードバック信号VbHが入力抵抗(抵抗値:R1+R2)を介して入力される。これらの入力信号のうち、電流指令値Iu及びモータ電流指令アップ信号Vtuは、演算増幅器551の+入力端子に入力され、電流フィードバック信号VbHは、演算増幅器551の−入力端子に入力される。また、−入力端子には、さらに1対の入力抵抗が接続され、この入力抵抗は接地されている(入力電圧:e0)。各入力抵抗521には、入力抵抗521と並列にアナログスイッチ523がそれぞれ接続され、アナログスイッチ523は、制御モード切替判定手段58から出力される制御モード切替判定信号CHANGFGによりON、OFFされて、電流制御の制御ゲインを切替える。制御モード切替判定信号CHANGFGの動作タイミングについては後述する(図10、図11参照)。
【0035】
フィードバック抵抗553とコンデンサ554は、演算増幅器551の−入力端子と出力端子間に接続されたものと、+入力端子とGND間に接続されたものがある。フィードバック抵抗553とコンデンサ554は、フィードバック制御時の制御安定化のための制御補償を行う一次遅れ補償要素を構成する。
【0036】
演算増幅器551の出力端子には、ダイオード555と出力抵抗556が接続され、ダイオオード555と出力抵抗556は、出力電圧ezの最大値を電圧Vccへクランプする。
【0037】
ここで、電流制御手段55の出力電圧(ez)、入力電圧(e0〜e3)及び制御ゲインG(R3/R1+R2)は、次の式(1)のような関係となる。
ez=(R3/R1+R2)(e1+e2−e0−e3) …(1)
通常の運転時(モータが中高速回転時)は、モータ電流指令アップ信号Vtu(e2)とe0は0であり、電流指令値Iu(e1)と電流フィードバック信号VbH(e3)とは同じ値になるので、制御ゲインGは、入力抵抗521,522とフィードバック抵抗553との比:R3/R1+R2で決定される。従って、入力抵抗R1を変えることにより、例えば、センサレス起動モードにおけるモータ起動時に、電流指令値Iu(e1)に対する出力電圧(ez)の制御ゲインGを“1”にすることができる。また、入力抵抗R1を変えることにより、電流制御モード時に電流制御系の応答が速くなるように、制御ゲインGを“数十倍”にすることができる。
【0038】
図5は、制御モード切替手段52の制御モード切替動作を説明するためのグラフである。図5中、横軸はPWMパルス信号のDuty入力の場合及びアナログ電圧入力の場合の入力信号電圧を表し、縦軸はモータ電流Iu(実線)及び電流制御ゲインG(一点鎖線)を表す。
【0039】
制御モード切替手段52によって切替えられる制御モードには、オープンループでセンサレスでモータ2を起動するセンサレス起動モードと、モータ起動後に電流フィードバック制御による電流制御を行う電流制御モードとがある。
【0040】
センサレス起動モードでは、制御ゲインGを“1”に設定し、オープンループでモータ2を起動させる。モータ起動後、電流制御モードへ切替えた場合には、電流制御手段55の制御ゲインGを“数十倍”にして電流制御応答を速くし電流制御を行う。その場合の電流制御としては、制御入力(入力電圧)の変化に応じてモータ電流Iuを増加させる制御を行う。このように、モータ起動時は、オープンループでセンサレスでモータ2を起動し、モータ起動後は、電流フィードバック制御による電流制御を行うように制御モードを切替えることにより、モータ2をスムーズに安定して動作させることができる。なお、モータ起動時及び制御モード切替時のタイムシーケンスの詳細については後述する(図11参照)。
[電流検出手段53]
図6は、電流検出手段53の構成を示す回路図である。
【0041】
図6に示すように、電流検出手段53は、演算増幅器531、アナログスイッチ532、アナログスイッチ532のゲート駆動用ダイオード533、電圧ホールド用コンデンサ534、バッファアンプ535、制御モード切替用のトランジスタスイッチ536とを備える。
【0042】
演算増幅器531にはフィードバック抵抗531aと入力抵抗531bが接続されている。演算増幅器531は、電源電流Ibとして図2のシャノン抵抗6(数十mmΩ)の両端の電圧が入力されると、増幅して電圧Vbを出力する。
【0043】
アナログスイッチ532には、動作安定化用の入力抵抗537と出力抵抗538,539が接続されている。制御モード切替用のトランジスタスイッチ536のゲートには、入力抵抗536a、536bが接続されており、モード切替判定信号CHANGFGが入力される。
【0044】
ゲート駆動用ダイオード533には、インバータ3を制御する3相分のPWMパルスの制御信号PWM UN,PWM VN,PWM WNが入力され、入力信号ごとにゲート駆動用ダイオードが設けられている(図では3個)。
【0045】
電流検出手段53の動作を説明する。
【0046】
図7は、電流検出手段53のモータ電流検出動作を説明するためのタイムチャートである。ただし、図7の動作波形は、3相インバータの1相分の動作波形を示したものである。
【0047】
図7において、電流制御に用いるべき情報は、図7(b)に示すような動作波形を有するモータ電流(インバータ電流)iuである。しかしながら、モータ電流iuを直接検出するための検出回路は、その構成が複雑であり高価である。従って、一般的には、図7(c)に示すように、断続する電源電流ibをシャント抵抗を用いて検出し、フィルタで平均化して用いている。しかしながら、電源電流ibを平均化して用いる方法では、フィルタの時定数により電流検出に遅れが生じるために電流制御の応答を速くすることができない。また、モータ電流iuと電源電流ibとの関係は、PWMパルスのDuty(α)により変化し、iu=ib/αの関係となり、モータ電流iuと電源電流ibとは1対1とならない問題がある。
【0048】
そこで、電流検出手段53では、まず、検出した電源電流ibを演算増幅器531で増幅し電圧Vbとし、図7(a)に示すように、アナログスイッチ532のゲートにPWMパルスの制御用信号(PWM制御用ゲートパルス信号)PWM UN,PWM VN,PWM WNを入力し、パルスの立下りに同期させてアナログスイッチ532をOFFさせる。これにより、図7(d)に示すように、アナログスイッチ532のOFF直前の電源電流値(演算増幅器531の出力電圧Vbに相当)が電圧ホールド用コンデンサ534にホールドする。すなわち、電源電流ibのOFF期間の電圧をコンデンサ534にホールドすることで、電流検出手段53から出力される電圧は断続しない検出値となり、モータ電流iuの波形に近い検出値が得られる。
【0049】
電源電流検出信号としての電圧信号(ホールド用コンデンサ534の電圧)は、バッファアンプ535を介して電流フィードバック信号VbHとして出力される。
【0050】
ただし、図6に戻り、電圧ホールド用コンデンサ534には、制御モード切替用のトランジスタスイッチ536が並列に接続されている。トランジスタスイッチ536は、インバータ3のセンサレス起動モードの間は、モータ電流のフィードバックを停止させるためのスイッチであり、そのセンサレス起動モードから電流制御モードへの切替タイミングについては後述する(図11参照)。
【0051】
なお、電圧ホールド用コンデンサ534は、フィルタ用コンデンサとは異なり、PWMのOFF期間のみ電圧をホールドできればよいものである。すなわち、インバータ3等のPWMの周波数は、一般的に数十kHzと高いので、ホールドする時間は短く、電圧ホールド用コンデンサ534を小容量のコンデンサで構成してよい。
[回転検出手段56・低速回転時トルクアップ制御手段57]
図8は、モータ回転検出手段56と低速回転時トルクアップ制御手段57の構成を示す回路図である。
【0052】
図8に示すように、モータ回転検出手段56は、モノステーブルマルチバイブレタ(MM)561と、バッファアンプ562を備える。MM561には、時定数設定用の抵抗563及びコンデンサ564が接続されている。MM561への入力信号は、インバータ駆動回路4からモータ回転信号OUTFGである。また、MM561の出力端子側(バッファアンプ562の入力端子側)には、パルス信号を平滑してアナログ信号に変換する平滑用コンデンサ565及び抵抗566が接続されている。MM561から出力されるパルス信号は、平滑用コンデンサ565及び抵抗566でアナログ信号に変換され、そのアナログ信号はバッファアンプ562に増幅されてモータ回転数信号Vnとして低速回転時トルクアップ制御手段57に入力される。
【0053】
低速回転時トルクアップ制御手段57は、演算増幅器573と、スイッチ用トランジスタ578とを有する。演算増幅器573には、フィードバック抵抗571、入力抵抗572が接続されている。演算増幅器573の−入力端子には、入力抵抗572を介して、モータ回転数信号Vnの動作閾値を決定する電圧Va設定用分圧抵抗574,575が接続されている。スイッチ用トランジスタ578は、演算増幅器573の+入力端子側に接続され、スイッチ用トランジスタ578にはベース抵抗576,577を介して入力されるモード切替判定信号CHANGFGが入力される。
【0054】
回転検出手段56及び低速回転時トルクアップ制御手段57の動作を説明する。
【0055】
モータ回転検出手段56のMM561へ入力されるパルス信号であるモータ回転信号OUTFGは、モータ回転数に比例してパルス周波数が増加するものである。MM561の出力パルスのON時間を、時定数設定用の抵抗563及びコンデンサ564を用いてモータ最大回転数でパルスのDutyが略最大となるように予め設定する。この設定により、モータの低速回転時には、パルスのDutyは小さくなる。モータ2の回転数の変化がDutyの変化となって表れたパルス信号を、平滑用コンデンサ565及び抵抗566で平滑すると、電圧がモータ回転数に比例したアナログ信号のモータ回転数信号Vnが得られる。
【0056】
モータ回転数信号Vnが低速回転時トルクアップ制御手段57へ入力されると、低速回転時トルクアップ制御手段57は、モータ電流指令アップ信号Vtuを出力する。
【0057】
モータ電流指令アップ信号Vtuについて図9を用いて説明する。
【0058】
一般に、本実施形態でも採用しているセンサレス・ブラシレスモータは、位置センサを有していないため、モータ2の低速回転時にモータ2に高負荷が掛かると、脱調を起こし、モータ2が停止する場合がある。そこで、本実施形態では、モータ2の低速回転時には、モータ電流iuを大きくするように電流制御手段55(制御モード切替手段52)へ指令する信号を出力し、モータ低速回転時の脱調を防止する。
【0059】
図9は、低速回転時トルクアップ制御手段の動作を説明するためのトルクアップ制御特性を示すグラフである。図9中、横軸はモータの回転数Na(モータ回転数信号Vn)を表し、縦軸は、モータ電流指令アップ信号Vtuを表している。
【0060】
定常状態(中高速回転)で運転中にモータに加わる負荷が増加すると、モータ回転数Na(Vn)が低下する。図9に示すように、低速回転時トルクアップ制御手段57では、モータ回転数Naが閾値N0よりも低下すると、徐々にモータ電流指令アップ信号Vtuを上昇させてモータ電流iuを増加させるトルクアップ制御を行う。
【0061】
ただし、モータ電流指令アップ信号Vtuの最大値は、モータ2の最大電流許容値とする。また、モータ電流指令アップ信号Vtu上昇率ΔVtuは、負荷との関係を考慮して最適となるように、例えば、特性線57a〜57cのいずれかとなるように設定する。モータ電流指令アップを開始するモータ回転数Naの閾値N0は、モータの負荷によりN1〜N2の範囲内で最適な値に設定する。
【0062】
以上、低速回転時トルクアップ制御手段57により出力されるモータ電流指令アップ信号Vtuにより、モータに加わる負荷が大きい場合の脱調を防止することができる。
[制御モード切替判定手段58]
図10は、制御モード切替判定手段58の構成を示す回路図である。
【0063】
図10に示すように、制御モード切替判定手段58は、リトリガブルモノステーブルマルチバイブレタ(RMM)583と、モノステーブルマルチバイブレタ(MM)586と、フリップフロップ(FF)回路587と、トランジスタスイッチ589とを備える。RMM583には、時定数を決定する外部コンデンサ581と外部抵抗582が接続され、MM586には、時定数を決定する外部コンデンサ584と外部抵抗585が接続されている。トランジスタスイッチ589には、入力抵抗588a,588b及び出力抵抗588cが接続されている。
【0064】
RMM583は、インバータ駆動回路4から入力されるモータ回転信号OUTFGからモータ起動信号STARTFGを出力するものである。MM586は、モータ起動信号STARTFGが入力され、モータ起動信号STARTFGのONから一定時間遅れてONするdelay信号(遅延時間td1は、例えば、470ms)を出力するものである。ただし、遅延時間td1は、モータ2の容量や特性によって最適に設定される。FF回路587は、RMM583から入力されるモータ起動信号STARTFGとMM586から入力されるdelay信号とから、モード切替判定信号CHANGFGを出力するものである。
【0065】
次に、制御モード切替判定手段58の動作の説明と共に、インバータ3の起動、制御モードの切替、インバータ3の停止までの一連の動作について説明する。
【0066】
図11は、センサレス制御モードと電流制御モードへ制御モードの切替動作を説明するためのタイムチャートである。
【0067】
図11に示すように、上位制御装置により電流指令PSIGが与えられると、インバータ3のPWMが起動してインバータ電流(モータ電流)iuを流し、センサレス制御モードで動作を開始する(タイミング111)。インバータ3の動作が安定し、モータ2が正常な回転数になると、インバータ駆動手段4からモータ回転信号OUTFGが発生する(タイミング112)。制御モード切替判定手段58は、モータ回転信号OUTFGの立上り時にモータ起動信号STARTFGをONする。その後、一定時間td1経過後、制御モード切替判定手段58は、モータ切替信号CHANGFGをONし、制御モード切替手段52、電流検出手段53、低速回転時トルクアップ制御手段57へ出力する(タイミング113)。
【0068】
PWM起動からモード切替判定信号CHANGFGの立上りまでの期間は、センサレス起動モードで動作し、電流制御手段55の制御ゲインGは“1”である。また、センサレス起動モード動作時には、電流検出手段53からの電流フィードバック信号はリセット状態である(上述した図6のトランジスタスイッチ536参照)。
【0069】
モード切替判定信号CHANGFGの立上りに同期して、センサレス制御モードから電流制御モードへ切替えるために、モード切替判定信号CHANGFGが入力されるモード切替手段52では制御ゲインGを“数十倍”へ切替えると同時に、電流検出手段53では電流フィードバック信号VbHを電流制御手段55(制御モード切替手段52)へフィードバックする。これらの動作により、センサレス起動モードから電流制御モードへの切替が完了する。
【0070】
また、モータ2の停止については、モータ回転信号OUTFGが停止すると(タイミング114)、停止してから時間td2経過後、モータ起動信号STARTFGがOFFし、モータ2が停止する(タイミング115)。
【0071】
本実施形態のモータ制御装置によれば、制御ゲインを1にしてモータ2を起動し、モータ2の起動後、センサレス起動モードから電流制御モードに切替える際に、制御ゲインを電流制御に適した値(本実施形態では数十倍)に切替えることにより、制御モードの切替がスムーズになり電流制御モード切替の安定性を向上させると共に、電流制御の応答速度を速くすることができる。また、本実施形態の制御装置を用いて電動流体ポンプ1を駆動する構成することにより、ポンプ駆動の安定性及び応答性に優れた電動流体ポンプを提供することができる。
【0072】
本実施形態のモータ制御装置によれば、フィードバック電流を、断続するインバータの電源電流に応じてサンプルホールドし、そのサンプルホールドした電流値をモータ電流として用いているので、モータから直接検出して得られるモータ電流iuに近似したモータ電流を検出することができ、電流指令値に対するモータ電流が1対1に比例する電流制御特性を得ることができる。
【0073】
本実施形態のモータ制御装置によれば、集積化可能なインバータ駆動回路4とアナログ回路、又はデジタル回路を用い、これらの回路より高価なマイコンを用いずに構成することができる。特に、マイコン特有のリセット機能により電源回路が複雑となる高価なハードウェアを省略することができるので、ハードウェア構成の簡単化、低コストを図ることができる。ひいては、本実施形態のモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの低コスト化を図ることができる。
【0074】
本実施形態のモータ制御装置によれば、電動流体ポンプ1に高負荷が掛かり、モータ2の回転が低下した場合でも、トルクアップ制御により低速回転時の脱調を防止することができる。
[第2の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図4の制御モード切替手段52と電流偏差演算手段54と電流制御手段55とを一体化し、図4とは回路構成の異なる電流制御手段59を備えた点において第1の実施形態と異なる。
【0075】
図12は、第2の実施形態のモータ制御装置における制御モード切替手段、電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。図12に示すように、電流制御手段59は、
演算増幅器591を有し、演算増幅器591は、アナログ入力信号の電流指令Iu(電圧:e1)と、電流フィードバック信号VbH(電圧:e3)と、モータ電流指令アップ信号Vtu(電圧:e2)とが入力され、アナログ信号ASIG(電圧:ez)を出力するものである。
【0076】
演算増幅器591の入力には、入力信号ごとに入力抵抗592が設けられ、電流指令Iuとモータ電流指令アップ信号Vtuはそれぞれ入力抵抗592を介して演算増幅器591の+入力端子に入力され、電流フィードバック信号VbHは入力抵抗592を介して演算増幅器591の−入力端子に入力される。また、−入力端子には、さらにもう1つの入力抵抗592が接続され、この入力抵抗592は接地されている(入力電圧:0)。
【0077】
演算増幅器591のフィードバック抵抗としては、フィードバック抵抗593(抵抗値:R2)とフィードバック抵抗594(抵抗値:R3)とが直列接続して1対としたものを、演算増幅器591の−入力端子と出力端子間に接続されたものと、演算増幅器591の+入力端子とGND間に接続されたものがある。フィードバック抵抗594には、フィードバック抵抗594と並列にアナログスイッチ595がそれぞれ接続され、アナログスイッチ595は、制御モード切替判定手段58から出力される制御モード切替判定信号CHANGFGによりON,OFFされて、電流制御の制御ゲインを切替える。また、互いに直列接続されたフィードバック抵抗593,594の両端には、コンデンサ596が並列に接続され、フィードバック抵抗593,594とコンデンサ596とで一次遅れ補償要素を構成している。演算増幅器591の出力端子に接続されているダイオード597と抵抗598は、出力電圧ezの最大値をVccへクランプする。
【0078】
ここで、本実施形態の電流制御部59の出力電圧ezと入力電圧(e0〜e3)及び制御ゲインG(R2+R3/R1)は、次の式(2)のような関係となる。
ez=(R2+R3/R1)(e1+e2−e0−e3) …(2)
図4の回路と同様に、通常の運転時は、モータ電流指令アップ信号Vtu(e2)とe0は0であり、電流指令値Iu(e1)と電流フィードバック信号VbH(e3)とは同じ値になるので、制御ゲインGは、入力抵抗592とフィードバック抵抗593,594との比:R2+R3/R1で決定される。従って、入力抵抗R3を変えることにより、例えば、センサレス起動モードにおけるモータ起動時に、電流指令値Iu(e1)に対する出力電圧(ez)の制御ゲインGを“1”にすることができる。また、入力抵抗R1を変えることにより、電流制御モード時に電流制御系の応答が速くなるように、制御ゲインGを“数十倍”にすることができる。
[第3の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2のDuty/V変換手段51をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0079】
図13は、デジタル回路で構成したDuty/V変換手段の回路図である。図13に示すように、本実施形態のDuty/V変換手段60は、U/D(アップダウン)カウンタ601と、U/Dカウンタ601のカウント値をラッチするラッチ回路602と、ラッチしたデジタルデータをアナログ値へ変換するD/Aコンバータ603と、上位制御装置から電流指令PSIGのPWMのパルスが入力され、U/Dカウンタ601へのカウンタ入力パルスを発生するDタイプのフリップフロップ回路(以下、D−FF回路)604,605と、D−FF回路604,605の出力を加算するNAND回路606と、D−FF回路604,605へクロックを供給するクロック発生回路607とで構成される。
【0080】
Duty/V変換手段60の動作について図14を用いて説明する。
【0081】
図14は、Duty/V変換手段60の動作タイミングを示すタイムチャートである。図14において、上位制御装置から電流指令PSIGのPWMパルスのDutyが変えられてU/Dカウンタ601とD−FF回路604,605へ入力される。U/Dカウンタ601へは、クロック発生回路607から常時クロック(例えば、10μs)が入力される。D−FF回路604,605はそれぞれ出力信号1Q(負)と2Q(正)を出力し、NAND回路606は、2つの出力信号1Q(負)と2Q(正)とのNAND出力であるカウンタ入力パルスPc生成し、U/Dカウンタ601とラッチ回路602へ出力する。
【0082】
電流指令値IuのDuty/V変換動作は、電流指令PSIGとクロックとカウンタ入力パルスPcを用いて行われる。具体的には、図14において、U/Dカウンタ601は、電流指令PSIGがONするとカウントアップを開始し、カウント値を増加させる(タイミング60a)。電流指令PSIGがOFFすると、カウンタ入力パルスPcの立下りに同期してラッチ回路602がU/Dカウンタ601のカウント値をラッチする(タイミング60b)。その後、カウンタ601は、カウンタ入力パルスPcの立上りに同期してカウント値をリセットする(タイミング60c)。カウンタ入力パルスPcの立下りに同期してラッチされたカウント値は、D/Aコンバータ603によりデジタル信号からアナログ信号の電流指令値Iuへ変換される。
【0083】
カウンタ601のカウント値のラッチされる値は、電流指令PSIGのPWMがONしている時間により変わるので、電流指令PSIGのPWMのDutyを計測することができる。
【0084】
すなわち、本実施形態のDuty/V変換手段60は、図3のアナログ方式のDuty/Vと同様に、電流指令PSIGをアナログ信号の電流指令Iuに変換することができる。
[第4の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2のモータ回転検出手段56をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0085】
図15は、デジタル回路で構成したモータ回転検出手段の回路図である。図15に示すように、モータ回転検出手段61は、図13のDuty/V変換手段60と同様に、U/Dカウンタ611、ラッチ回路612、D/Aコンバータ613、2つのD−FF回路614,615、NAND回路616、クロック発生回路617を備え、さらに、サンプルパルスPsを発生するサンプル時間発生回路618を備える。モータ回転検出手段61がDuty/V変換手段60と異なるところは、サンプル時間発生回路618を追加し、U/Dカウンタ611へモータ回転信号OUTFGとサンプルパルスPs(例えば、0.1sec)とが入力される点である。
【0086】
モータ回転検出手段61の動作について図16を用いて説明する。
【0087】
図16は、モータ回転検出手段61の動作タイミングを示すタイムチャートである。図16において、U/Dカウンタ611のCLOCK入力にモータ回転信号OUTFGが入力されると、U/Dカウンタ611は、OUTFGのONと同時にサンプルパルスPsのカウントを開始し、カウント値を増加させる(タイミング61a)。モータ回転信号OUTFGがOFFすると、カウント値はラッチ回路612でラッチされ、U/Dカウンタのカウント値はリセットされる(タイミング61b)。モータ2の回転数の変化によりモータ回転信号OUTFGのON時間が変化するので、その変化に応じてラッチされたカウント値(ラッチ値)が変わる。ラッチ値はD/Aコンバータ613でアナログ信号に変換され出力される。すなわち、モータ回転検出手段61では、パルス信号であるモータ回転信号OUTFGが、モータ回転数を示すアナログ電圧Vnとして出力される。
【0088】
本実施形態では、モータ回転検出手段61をデジタル回路で構成することにより、図8のアナログ素子で構成したモータ回転検出手段56に比べて、外部コンデンサ564,565等が不要になる。したがって、モータ回転検出手段61を構成する回路の集積化が容易となり、ひいてはモータ回転検出手段61の小型化、低コスト化を図ることができる。
[第5の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2の制御モード切替判定手段58をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0089】
図17は、デジタル回路で構成した制御モード切替判定手段62の回路図である。図17に示すように、制御モード切替判定手段62は、主に、モータ回転信号OUTFGからモータ起動信号STARTFGを生成するSTARTFG信号生成部620aと、制御モード切替判定信号CHANGFGの遅れ時間td1(delay信号)を生成するdelay信号生成部620bと、モード切替判定信号CHANGFGを生成するCHANGFG信号生成部620cとで構成される。
【0090】
STARTFG信号生成部620aは、カウンタ622aと、カウンタ622aへの入力パルスPcaを発生させる2つのDタイプのフリップフロップ(D−FF)回路623a,624a及びNAND回路625aと、カウンタ622a及びD−FF623a,624aへクロックを供給するクロック発生回路626(クロック周期は、例えば、10μs)と、タイマのデータを設定するプリセットデータ設定回路627aと、カウンタ622aの出力及び入力パルスPcaが入力されモータ起動信号STARTFGを出力するリセットセットタイプのフリップフロップ(RS−FF)回路621aとを有する。
【0091】
delay信号生成部620bは、上記のモータ起動信号生成部620aと同様に、カウンタ622bと、カウンタ622bへの入力パルスPcbを発生させる2つのDタイプのフリップフロップ(D−FF)回路623b,624b及びNAND回路625bと、カウンタ622b及びD−FF623b,624bへクロックを供給するクロック発生回路626(モータ起動信号生成部620aのクロック発生回路と共通)と、タイマのデータを設定するプリセットデータ設定回路627bと、カウンタ622bの出力及び入力パルスPcaが入力されモータdelay信号を出力するリセットセットタイプのフリップフロップ(RS−FF)回路621bとを有する。
【0092】
モード切替判定信号生成部620cは、図10の制御モード切替判定手段58と同様に、FF回路587と、入力抵抗588a,588b及び出力抵抗588cが接続されたトランジスタスイッチ589とで構成される。
【0093】
制御モード切替判定手段62の動作について図18を用いて説明する。
【0094】
図18は、制御モード切替判定手段62の動作タイミングを示すタイムチャートである。
【0095】
まず、モータ起動信号STSRTFGについて説明する。モータ回転信号OUTFGがD−FF回路623aに入力されると、D−FF623aは出力信号1Q(正)を出力し、D−FF624aは出力信号2Q(負)を出力し、NAND回路625aは、2つの出力信号1Q(正)と2Q(負)とのNAND出力であるカウンタ入力パルスPcaを出力する。
【0096】
図18に示すように、最初のモータ回転信号OUTFGの立上りでカウンタ入力パルスPcaがカウンタ622aとRS−FF回路621aへ入力されると、RS−FF回路621aはセットされ、モータ起動信号STARTFGを出力する(タイミング62a)。
【0097】
モータ回転中に、モータ起動信号STARTFGがON状態を維持し続けてモータ2が回転状態であることを検出するには、モータ起動信号STARTFGのリセット時間td2を設定するプリセットデータ設定手段で設定できる。すなわち、モータ回転信号OUTFGのパルス周期が決定されるモータ最低回転数検出時間よりも長い時間となるようにtd2(例えば、64ms以上)を設定しておけばよい。
【0098】
モータ起動信号STARTFGのリセットは、モータ回転信号OUTFGの最後のパルス発生からプリセットデータ設定回路672aで設定したtd2後にリセットされる(タイミング62b)。
【0099】
モード切替判定信号CHANGFGについて説明する。モード起動信号STRATFGがONすると、カウンタ622bへパルスPcb(負)が入力され、カウンタ622bではカウント値のカウントアップを開始する。カウント値がプリセットデータ設定手段627bで設定されたdelay時間td1に達すると、RS−FF回路621bはリセットされる。なお、delay時間td1は、プリセットデータ設定回路627bにより外部から設定可能であり、td1の最適な時間は、モータ2の特性によって適宜設定される。RS−FF回路621bのリセット信号は、モード切替判定信号生成部のFF回路587へ入力され、FF回路587がONする。OFFのタイミングは、モータ起動信号STARTFGの立下りに同期させている。すなわち、dalay信号生成部620b及びモード切替判定信号生成部620cは、モータ起動信号STARTFGが発生してtd1時間経過後、モード切替判定信号CHANGFGをセット(ON)する。
【0100】
モード切替判定信号CHANGFGのリセット(OFF)は、モータ起動信号STARTFGがOFFするタイミングで行われる。
【0101】
本実施形態では、制御モード切替判定手段62をデジタル回路で構成することにより、図10のアナログ素子で構成した制御モード切替判定手段58に比べて、外部コンデンサ581,584等が不要になる。したがって、制御モード切替判定手段62を構成する回路の集積化が容易となり、ひいては制御モード切替判定手段62の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0102】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定される。例えば、第3〜第5の実施形態では、それぞれDuty/V変換手段60、モータ回転検出手段手段61、制御モード切替判定手段62について個別に説明したが、これらのDuty/V変換手段60、モータ回転検出手段手段61、制御モード切替判定手段62を少なくとも2つ以上同時に用いてモータ制御装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…電動流体ポンプ 2…センサレス・ブラシレスモータ 3…インバータ 4…インバータ駆動回路 5…トルク制御手段 52…制御モード切替手段 53…電流検出手段 55…電流制御手段 57…低速回転時トルクアップ制御手段 58…制御モード切替判定手段 531…増幅器 532… スイッチ 534…コンデンサ ib…電源電流 iu…モータ電流 VbH…サンプルホールド電流値
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレス・ブラシレスモータ制御装置及びそれを用いた電動流体ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費向上や環境問題からガソリンエンジンと電動モータで駆動するハイブリッド車が実用化されている。ハイブリッド車は、車両停車時にエンジンを停止させる、いわゆるアイドルストップ制御を採用している。アイドルストップ時には、変速機のオイル循環系や変速機を動作させるクラッチ等のアクチュエータを駆動するための油圧力確保が必要となる。ハイブリッド車には、油圧力確保のための電動オイルポンプが搭載されている。
【0003】
電動オイルポンプの駆動には、センサレス・ブラシレスモータが用いられている。センサレス・ブラシレスモータは、位置センサがないためにモータ回転が低速になるに従って脱調するおそれがある。そこで、モータの低回転数時には、マイコン制御により、モータを電流制御から回転数制御へ切替えるセンサレス・ブラシレスモータ制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、三相インバータ電流iu,iv,iwをシャント抵抗で検出してモータの駆動回路(通電回路)へフィードバックし、各相の誘起電圧演算を行ってモータを制御するモータ制御装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−166436号公報
【特許文献2】特開2006−254626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、モータの制御をマイコンにより行う制御装置については、一般にマイコン自体が高価なものである点、及びマイコン特有のリセット機能も必要となるため電源回路が複雑化する点により、高コストなハードウェア構成となってしまう。
【0007】
また、センサレス・ブラシレスモータをインバータで起動する場合には、モータ特有の起動モードがあり、モータの起動後、電流制御モードに切替えた場合には電流制御応答は遅くなる。ひいては、モータによって駆動する電動流体ポンプの性能が低下する。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、低コストで構成でき、かつ、モータ起動から電流制御へ切り替えをスムーズに行うことでセンサレス・ブラシレスモータを安定かつ高速に制御することができるセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とそれを用いた電動流体ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係るセンサレス・ブラシレスモータ制御装置は、インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によって前記インバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、センサレス・ブラシレスモータの起動後、前記インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、前記電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、該制御モード切替判定手段の出力に応じて前記電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る電動流体ポンプは、センサレス・ブラシレスモータと、センサレス・ブラシレスモータを駆動制御するセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とを用いて駆動する電動流体ポンプにおいて、上記のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置によって駆動されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで構成でき、かつ、モータ起動から電流制御へ切り替えをスムーズに行うことでセンサレス・ブラシレスモータを安定かつ高速に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの構成の概略を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のDuty/V変換手段の構成を示す回路図である。
【図4】図2の制御モード切替手段と電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。
【図5】図4の制御モード切替手段の制御モード切替動作を説明するためのグラフである。
【図6】図2の電流検出手段の構成を示す回路図である。
【図7】図6の電流検出手段のモータ電流検出動作を説明するためのタイムチャートである。
【図8】図2のモータ回転検出手段と低速回転時トルクアップ制御手段の構成を示す回路図である。
【図9】図8の低速回転時トルクアップ制御手段の動作を説明するためのトルクアップ制御特性を示すグラフである。
【図10】図2の制御モード切替判定手段の構成を示す回路図である。
【図11】センサレス制御モードから電流制御モードへ制御モードの切替動作を説明するためのタイムチャートである。
【図12】第2の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおける制御モード切替手段、電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。
【図13】第3の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおけるDuty/V変換手段の構成を示す回路図である。
【図14】図13のDuty/V変換手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図15】第4の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおけるモータ回転検出手段の構成を示す回路図である。
【図16】図15のモータ回転検出手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図17】第5の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータにおける制御モード切替判定手段の構成を示す回路図である。
【図18】図17の制御モード切替判定手段の動作を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの構成を示すブロック図である。
【0014】
電動流体ポンプは、潤滑用油、アクチュエータ駆動用油、冷却用冷却水を吸入、吐出させるポンプである。図1に示すように、電動流体ポンプ1は、直結されたセンサレス・ブラシレスモータ2(以下、単に「モータ」と称する)により駆動される。モータ2は、センサレス・ブラシレスモータ制御装置(以下、単に「モータ制御装置」と称する)により制御されて駆動する。モータ制御装置は、モータ2を駆動するインバータ3と、インバータ3を制御するインバータ駆動回路4と、インバータ駆動回路4に制御指令を出すトルク制御手段5とを有する。
【0015】
トルク制御手段5は、上位の自動変速機制御装置(AT制御装置)等の上位制御装置(図示せず)からのPWM制御信号(又はアナログ信号)の電流指令を受けてインバータ駆動回路4、インバータ3を介してモータ2に流れる電流を電流指令の電流値と一致するように制御する。
【0016】
モータ2の回転時には、インバータ3やインバータ駆動回路4からトルク制御手段5へそれぞれモータ2の駆動情報(モータ電流、回転数等)をフィードバックする。
【0017】
図2は、図1のモータ制御装置の詳細な構成を示すブロック図である。図2に示すように、トルク制御手段5は、Duty/V変換手段51と、制御モード切替手段52と、電流検出手段53と、電流偏差演算手段54と、電流制御手段55と、回転検出手段56と、低速回転時トルクアップ制御手段57と、制御モード切替判定手段58とを有する。
【0018】
インバータ駆動回路手段4は、起動制御手段、センサレス制御手段、PWM制御手段、過電流検出手段、電流リミッタ手段、プリドライバ手段等を内蔵したインバータICで構成されている。
【0019】
インバータ3は、6個のパワーMOSFET31と、各パワーMOSFET31のゲートに各々設けられたゲート抵抗32を有する。インバータ3は、インバータ駆動回路4からゲート抵抗32を介してパワーMOSFET31のゲートへ出力されるPWM信号により動作する。インバータ3は、U,V,Wの出力端子からモータ2の各相(U相,V相,W相)へそれぞれ電圧を印可し、モータ2を回転駆動させる。
【0020】
インバータ駆動回路4の出力信号は、インバータ3のパワーMOSFET下側(3個)駆動用PWMパルス(UN,VN,WN)としてトルク制御手段5へ入力される。
【0021】
トルク制御手段5、インバータ駆動手段4、インバータ3等の電源に用いる電源フィルタ7は、インダクタンスLf及びコンデンサCfの簡単な要素で構成される。
【0022】
次に、トルク制御手段5、インバータ駆動回路手段4、インバータ3を有するモータ制御装置の動作を説明する。
【0023】
トルク制御手段5のDuty/V変換手段51へ上位制御装置から電流指令であるPWMパルスのDuty信号PSIGが入力されると、Duty/V変換手段51では、パルスのDuty信号をアナログ信号に変換し、電流指令Iuとして制御モード切替手段52へ出力する。なお、電流指令PSIGがアナログ信号である場合、Duty/V変換手段51を介さずに直接に制御モード切替手段52へ電流指令PSIGを入力してもよい。
【0024】
制御モード切替手段52には、Duty/V変換手段51から電流指令Iuが入力され、電流検出手段53から電流フィードバック信号VbHが入力され、低速回転時トルクアップ制御手段57からモータ電流指令アップ信号Vtuが入力される。また、制御モード切替手段52は、制御モード切替判定手段58から入力される制御モード切替判定信号CHANGFGにより電流制御のフィードバック制御ゲインを切替える。制御ゲインの切替や、その切替タイミングについては後述する(図5、図11参照)。
【0025】
制御モード切替手段52は、電流指令値Iu1と電流フィードバック値Iufとを出力し、電流偏差演算手段54で演算された偏差値を電流制御手段55へ出力する。電流制御手段55では、一次遅れ補償により安定化された電流制御を行い、アナログ信号ASIGをインバータ駆動回路4へ出力する。
【0026】
インバータ駆動回路4では、起動制御、センサレス・ブラシレス制御等のモータ制御に必要な一連の制御を行い、インバータ3を介してモータ2を回転させ、電動流体ポンプ1を駆動する。モータ2の駆動により、モータ2に設けられた電流検出用のシャント抵抗6には、電源電流が流れる。シャント抵抗6の両端電圧を電源電流Ibとして検出し、電流検出手段53へフィードバックし電流制御が行われる。
【0027】
以下、Duty/V変換手段51、制御モード切替手段52、電流偏差演算手段54、電流制御手段55、電流検出手段53、回転検出手段56、低速回転時トルクアップ制御手段57、制御モード切替判定手段58の構成及び動作について順次説明する。
[Duty/V変換手段51]
図3はDuty/V変換手段51の回路構成例を示す回路図である。
【0028】
図3に示すように、Duty/V変換手段51は、入力抵抗512,513及び出力抵抗514が接続されたトランジスタ511を有し、トランジスタ511は上位制御装置から入力される電流指令PSIGのパルス信号を反転させる。
【0029】
トランジスタ511の方形波の出力は、フィルタ用の抵抗515とコンデンサ516とにより平滑化され、バッファアンプ517を介してアナログ信号の電流指令値Iuが出力される。
【0030】
本実施形態では、Duty/V変換手段51をアナログ素子で構成しているが、デジタル素子で構成してもよい。
[制御モード切替手段52・電流制御手段55・電流偏差演算手段54]
図4は、制御モード切替手段と電流制御手段の構成を示す回路図である。
【0031】
図4に示すように、電流偏差演算手段54と電流制御手段55は一体化された構成であり、それらの構成及び動作に関する説明は電流制御手段55として説明する。
【0032】
電流制御手段55は、演算増幅器551(制御ゲインGは、例えば、40〜50)と、フィードバック抵抗553(抵抗値:R3)と、フィードバック抵抗553と並列に接続されたコンデンサ554とを有する。
【0033】
演算増幅器551は、Duty/V変換手段51からの入力信号である電流指令値Iu(電圧値:e1)、低速回転時トルクアップ制御手段57からの入力信号であるモータ電流指令アップ信号Vtu(電圧値:e2)、電流検出手段53からの入力信号である電流フィードバック信号VbH(電圧値:e3)が入力され、インバータ駆動回路4へアナログ信号ASIG(電圧値:ez)を出力するものである。
【0034】
演算増幅器551の入力端子には、1つの入力抵抗521(抵抗値:R1)と1つの入力抵抗552(抵抗値:R2)を直列接続したものを1対の入力抵抗として接続され、上記の電流指令値Iu、モータ電流指令アップ信号Vtu、電流フィードバック信号VbHが入力抵抗(抵抗値:R1+R2)を介して入力される。これらの入力信号のうち、電流指令値Iu及びモータ電流指令アップ信号Vtuは、演算増幅器551の+入力端子に入力され、電流フィードバック信号VbHは、演算増幅器551の−入力端子に入力される。また、−入力端子には、さらに1対の入力抵抗が接続され、この入力抵抗は接地されている(入力電圧:e0)。各入力抵抗521には、入力抵抗521と並列にアナログスイッチ523がそれぞれ接続され、アナログスイッチ523は、制御モード切替判定手段58から出力される制御モード切替判定信号CHANGFGによりON、OFFされて、電流制御の制御ゲインを切替える。制御モード切替判定信号CHANGFGの動作タイミングについては後述する(図10、図11参照)。
【0035】
フィードバック抵抗553とコンデンサ554は、演算増幅器551の−入力端子と出力端子間に接続されたものと、+入力端子とGND間に接続されたものがある。フィードバック抵抗553とコンデンサ554は、フィードバック制御時の制御安定化のための制御補償を行う一次遅れ補償要素を構成する。
【0036】
演算増幅器551の出力端子には、ダイオード555と出力抵抗556が接続され、ダイオオード555と出力抵抗556は、出力電圧ezの最大値を電圧Vccへクランプする。
【0037】
ここで、電流制御手段55の出力電圧(ez)、入力電圧(e0〜e3)及び制御ゲインG(R3/R1+R2)は、次の式(1)のような関係となる。
ez=(R3/R1+R2)(e1+e2−e0−e3) …(1)
通常の運転時(モータが中高速回転時)は、モータ電流指令アップ信号Vtu(e2)とe0は0であり、電流指令値Iu(e1)と電流フィードバック信号VbH(e3)とは同じ値になるので、制御ゲインGは、入力抵抗521,522とフィードバック抵抗553との比:R3/R1+R2で決定される。従って、入力抵抗R1を変えることにより、例えば、センサレス起動モードにおけるモータ起動時に、電流指令値Iu(e1)に対する出力電圧(ez)の制御ゲインGを“1”にすることができる。また、入力抵抗R1を変えることにより、電流制御モード時に電流制御系の応答が速くなるように、制御ゲインGを“数十倍”にすることができる。
【0038】
図5は、制御モード切替手段52の制御モード切替動作を説明するためのグラフである。図5中、横軸はPWMパルス信号のDuty入力の場合及びアナログ電圧入力の場合の入力信号電圧を表し、縦軸はモータ電流Iu(実線)及び電流制御ゲインG(一点鎖線)を表す。
【0039】
制御モード切替手段52によって切替えられる制御モードには、オープンループでセンサレスでモータ2を起動するセンサレス起動モードと、モータ起動後に電流フィードバック制御による電流制御を行う電流制御モードとがある。
【0040】
センサレス起動モードでは、制御ゲインGを“1”に設定し、オープンループでモータ2を起動させる。モータ起動後、電流制御モードへ切替えた場合には、電流制御手段55の制御ゲインGを“数十倍”にして電流制御応答を速くし電流制御を行う。その場合の電流制御としては、制御入力(入力電圧)の変化に応じてモータ電流Iuを増加させる制御を行う。このように、モータ起動時は、オープンループでセンサレスでモータ2を起動し、モータ起動後は、電流フィードバック制御による電流制御を行うように制御モードを切替えることにより、モータ2をスムーズに安定して動作させることができる。なお、モータ起動時及び制御モード切替時のタイムシーケンスの詳細については後述する(図11参照)。
[電流検出手段53]
図6は、電流検出手段53の構成を示す回路図である。
【0041】
図6に示すように、電流検出手段53は、演算増幅器531、アナログスイッチ532、アナログスイッチ532のゲート駆動用ダイオード533、電圧ホールド用コンデンサ534、バッファアンプ535、制御モード切替用のトランジスタスイッチ536とを備える。
【0042】
演算増幅器531にはフィードバック抵抗531aと入力抵抗531bが接続されている。演算増幅器531は、電源電流Ibとして図2のシャノン抵抗6(数十mmΩ)の両端の電圧が入力されると、増幅して電圧Vbを出力する。
【0043】
アナログスイッチ532には、動作安定化用の入力抵抗537と出力抵抗538,539が接続されている。制御モード切替用のトランジスタスイッチ536のゲートには、入力抵抗536a、536bが接続されており、モード切替判定信号CHANGFGが入力される。
【0044】
ゲート駆動用ダイオード533には、インバータ3を制御する3相分のPWMパルスの制御信号PWM UN,PWM VN,PWM WNが入力され、入力信号ごとにゲート駆動用ダイオードが設けられている(図では3個)。
【0045】
電流検出手段53の動作を説明する。
【0046】
図7は、電流検出手段53のモータ電流検出動作を説明するためのタイムチャートである。ただし、図7の動作波形は、3相インバータの1相分の動作波形を示したものである。
【0047】
図7において、電流制御に用いるべき情報は、図7(b)に示すような動作波形を有するモータ電流(インバータ電流)iuである。しかしながら、モータ電流iuを直接検出するための検出回路は、その構成が複雑であり高価である。従って、一般的には、図7(c)に示すように、断続する電源電流ibをシャント抵抗を用いて検出し、フィルタで平均化して用いている。しかしながら、電源電流ibを平均化して用いる方法では、フィルタの時定数により電流検出に遅れが生じるために電流制御の応答を速くすることができない。また、モータ電流iuと電源電流ibとの関係は、PWMパルスのDuty(α)により変化し、iu=ib/αの関係となり、モータ電流iuと電源電流ibとは1対1とならない問題がある。
【0048】
そこで、電流検出手段53では、まず、検出した電源電流ibを演算増幅器531で増幅し電圧Vbとし、図7(a)に示すように、アナログスイッチ532のゲートにPWMパルスの制御用信号(PWM制御用ゲートパルス信号)PWM UN,PWM VN,PWM WNを入力し、パルスの立下りに同期させてアナログスイッチ532をOFFさせる。これにより、図7(d)に示すように、アナログスイッチ532のOFF直前の電源電流値(演算増幅器531の出力電圧Vbに相当)が電圧ホールド用コンデンサ534にホールドする。すなわち、電源電流ibのOFF期間の電圧をコンデンサ534にホールドすることで、電流検出手段53から出力される電圧は断続しない検出値となり、モータ電流iuの波形に近い検出値が得られる。
【0049】
電源電流検出信号としての電圧信号(ホールド用コンデンサ534の電圧)は、バッファアンプ535を介して電流フィードバック信号VbHとして出力される。
【0050】
ただし、図6に戻り、電圧ホールド用コンデンサ534には、制御モード切替用のトランジスタスイッチ536が並列に接続されている。トランジスタスイッチ536は、インバータ3のセンサレス起動モードの間は、モータ電流のフィードバックを停止させるためのスイッチであり、そのセンサレス起動モードから電流制御モードへの切替タイミングについては後述する(図11参照)。
【0051】
なお、電圧ホールド用コンデンサ534は、フィルタ用コンデンサとは異なり、PWMのOFF期間のみ電圧をホールドできればよいものである。すなわち、インバータ3等のPWMの周波数は、一般的に数十kHzと高いので、ホールドする時間は短く、電圧ホールド用コンデンサ534を小容量のコンデンサで構成してよい。
[回転検出手段56・低速回転時トルクアップ制御手段57]
図8は、モータ回転検出手段56と低速回転時トルクアップ制御手段57の構成を示す回路図である。
【0052】
図8に示すように、モータ回転検出手段56は、モノステーブルマルチバイブレタ(MM)561と、バッファアンプ562を備える。MM561には、時定数設定用の抵抗563及びコンデンサ564が接続されている。MM561への入力信号は、インバータ駆動回路4からモータ回転信号OUTFGである。また、MM561の出力端子側(バッファアンプ562の入力端子側)には、パルス信号を平滑してアナログ信号に変換する平滑用コンデンサ565及び抵抗566が接続されている。MM561から出力されるパルス信号は、平滑用コンデンサ565及び抵抗566でアナログ信号に変換され、そのアナログ信号はバッファアンプ562に増幅されてモータ回転数信号Vnとして低速回転時トルクアップ制御手段57に入力される。
【0053】
低速回転時トルクアップ制御手段57は、演算増幅器573と、スイッチ用トランジスタ578とを有する。演算増幅器573には、フィードバック抵抗571、入力抵抗572が接続されている。演算増幅器573の−入力端子には、入力抵抗572を介して、モータ回転数信号Vnの動作閾値を決定する電圧Va設定用分圧抵抗574,575が接続されている。スイッチ用トランジスタ578は、演算増幅器573の+入力端子側に接続され、スイッチ用トランジスタ578にはベース抵抗576,577を介して入力されるモード切替判定信号CHANGFGが入力される。
【0054】
回転検出手段56及び低速回転時トルクアップ制御手段57の動作を説明する。
【0055】
モータ回転検出手段56のMM561へ入力されるパルス信号であるモータ回転信号OUTFGは、モータ回転数に比例してパルス周波数が増加するものである。MM561の出力パルスのON時間を、時定数設定用の抵抗563及びコンデンサ564を用いてモータ最大回転数でパルスのDutyが略最大となるように予め設定する。この設定により、モータの低速回転時には、パルスのDutyは小さくなる。モータ2の回転数の変化がDutyの変化となって表れたパルス信号を、平滑用コンデンサ565及び抵抗566で平滑すると、電圧がモータ回転数に比例したアナログ信号のモータ回転数信号Vnが得られる。
【0056】
モータ回転数信号Vnが低速回転時トルクアップ制御手段57へ入力されると、低速回転時トルクアップ制御手段57は、モータ電流指令アップ信号Vtuを出力する。
【0057】
モータ電流指令アップ信号Vtuについて図9を用いて説明する。
【0058】
一般に、本実施形態でも採用しているセンサレス・ブラシレスモータは、位置センサを有していないため、モータ2の低速回転時にモータ2に高負荷が掛かると、脱調を起こし、モータ2が停止する場合がある。そこで、本実施形態では、モータ2の低速回転時には、モータ電流iuを大きくするように電流制御手段55(制御モード切替手段52)へ指令する信号を出力し、モータ低速回転時の脱調を防止する。
【0059】
図9は、低速回転時トルクアップ制御手段の動作を説明するためのトルクアップ制御特性を示すグラフである。図9中、横軸はモータの回転数Na(モータ回転数信号Vn)を表し、縦軸は、モータ電流指令アップ信号Vtuを表している。
【0060】
定常状態(中高速回転)で運転中にモータに加わる負荷が増加すると、モータ回転数Na(Vn)が低下する。図9に示すように、低速回転時トルクアップ制御手段57では、モータ回転数Naが閾値N0よりも低下すると、徐々にモータ電流指令アップ信号Vtuを上昇させてモータ電流iuを増加させるトルクアップ制御を行う。
【0061】
ただし、モータ電流指令アップ信号Vtuの最大値は、モータ2の最大電流許容値とする。また、モータ電流指令アップ信号Vtu上昇率ΔVtuは、負荷との関係を考慮して最適となるように、例えば、特性線57a〜57cのいずれかとなるように設定する。モータ電流指令アップを開始するモータ回転数Naの閾値N0は、モータの負荷によりN1〜N2の範囲内で最適な値に設定する。
【0062】
以上、低速回転時トルクアップ制御手段57により出力されるモータ電流指令アップ信号Vtuにより、モータに加わる負荷が大きい場合の脱調を防止することができる。
[制御モード切替判定手段58]
図10は、制御モード切替判定手段58の構成を示す回路図である。
【0063】
図10に示すように、制御モード切替判定手段58は、リトリガブルモノステーブルマルチバイブレタ(RMM)583と、モノステーブルマルチバイブレタ(MM)586と、フリップフロップ(FF)回路587と、トランジスタスイッチ589とを備える。RMM583には、時定数を決定する外部コンデンサ581と外部抵抗582が接続され、MM586には、時定数を決定する外部コンデンサ584と外部抵抗585が接続されている。トランジスタスイッチ589には、入力抵抗588a,588b及び出力抵抗588cが接続されている。
【0064】
RMM583は、インバータ駆動回路4から入力されるモータ回転信号OUTFGからモータ起動信号STARTFGを出力するものである。MM586は、モータ起動信号STARTFGが入力され、モータ起動信号STARTFGのONから一定時間遅れてONするdelay信号(遅延時間td1は、例えば、470ms)を出力するものである。ただし、遅延時間td1は、モータ2の容量や特性によって最適に設定される。FF回路587は、RMM583から入力されるモータ起動信号STARTFGとMM586から入力されるdelay信号とから、モード切替判定信号CHANGFGを出力するものである。
【0065】
次に、制御モード切替判定手段58の動作の説明と共に、インバータ3の起動、制御モードの切替、インバータ3の停止までの一連の動作について説明する。
【0066】
図11は、センサレス制御モードと電流制御モードへ制御モードの切替動作を説明するためのタイムチャートである。
【0067】
図11に示すように、上位制御装置により電流指令PSIGが与えられると、インバータ3のPWMが起動してインバータ電流(モータ電流)iuを流し、センサレス制御モードで動作を開始する(タイミング111)。インバータ3の動作が安定し、モータ2が正常な回転数になると、インバータ駆動手段4からモータ回転信号OUTFGが発生する(タイミング112)。制御モード切替判定手段58は、モータ回転信号OUTFGの立上り時にモータ起動信号STARTFGをONする。その後、一定時間td1経過後、制御モード切替判定手段58は、モータ切替信号CHANGFGをONし、制御モード切替手段52、電流検出手段53、低速回転時トルクアップ制御手段57へ出力する(タイミング113)。
【0068】
PWM起動からモード切替判定信号CHANGFGの立上りまでの期間は、センサレス起動モードで動作し、電流制御手段55の制御ゲインGは“1”である。また、センサレス起動モード動作時には、電流検出手段53からの電流フィードバック信号はリセット状態である(上述した図6のトランジスタスイッチ536参照)。
【0069】
モード切替判定信号CHANGFGの立上りに同期して、センサレス制御モードから電流制御モードへ切替えるために、モード切替判定信号CHANGFGが入力されるモード切替手段52では制御ゲインGを“数十倍”へ切替えると同時に、電流検出手段53では電流フィードバック信号VbHを電流制御手段55(制御モード切替手段52)へフィードバックする。これらの動作により、センサレス起動モードから電流制御モードへの切替が完了する。
【0070】
また、モータ2の停止については、モータ回転信号OUTFGが停止すると(タイミング114)、停止してから時間td2経過後、モータ起動信号STARTFGがOFFし、モータ2が停止する(タイミング115)。
【0071】
本実施形態のモータ制御装置によれば、制御ゲインを1にしてモータ2を起動し、モータ2の起動後、センサレス起動モードから電流制御モードに切替える際に、制御ゲインを電流制御に適した値(本実施形態では数十倍)に切替えることにより、制御モードの切替がスムーズになり電流制御モード切替の安定性を向上させると共に、電流制御の応答速度を速くすることができる。また、本実施形態の制御装置を用いて電動流体ポンプ1を駆動する構成することにより、ポンプ駆動の安定性及び応答性に優れた電動流体ポンプを提供することができる。
【0072】
本実施形態のモータ制御装置によれば、フィードバック電流を、断続するインバータの電源電流に応じてサンプルホールドし、そのサンプルホールドした電流値をモータ電流として用いているので、モータから直接検出して得られるモータ電流iuに近似したモータ電流を検出することができ、電流指令値に対するモータ電流が1対1に比例する電流制御特性を得ることができる。
【0073】
本実施形態のモータ制御装置によれば、集積化可能なインバータ駆動回路4とアナログ回路、又はデジタル回路を用い、これらの回路より高価なマイコンを用いずに構成することができる。特に、マイコン特有のリセット機能により電源回路が複雑となる高価なハードウェアを省略することができるので、ハードウェア構成の簡単化、低コストを図ることができる。ひいては、本実施形態のモータ制御装置を用いた電動流体ポンプの低コスト化を図ることができる。
【0074】
本実施形態のモータ制御装置によれば、電動流体ポンプ1に高負荷が掛かり、モータ2の回転が低下した場合でも、トルクアップ制御により低速回転時の脱調を防止することができる。
[第2の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図4の制御モード切替手段52と電流偏差演算手段54と電流制御手段55とを一体化し、図4とは回路構成の異なる電流制御手段59を備えた点において第1の実施形態と異なる。
【0075】
図12は、第2の実施形態のモータ制御装置における制御モード切替手段、電流制御手段(偏差演算手段を含む)の構成を示す回路図である。図12に示すように、電流制御手段59は、
演算増幅器591を有し、演算増幅器591は、アナログ入力信号の電流指令Iu(電圧:e1)と、電流フィードバック信号VbH(電圧:e3)と、モータ電流指令アップ信号Vtu(電圧:e2)とが入力され、アナログ信号ASIG(電圧:ez)を出力するものである。
【0076】
演算増幅器591の入力には、入力信号ごとに入力抵抗592が設けられ、電流指令Iuとモータ電流指令アップ信号Vtuはそれぞれ入力抵抗592を介して演算増幅器591の+入力端子に入力され、電流フィードバック信号VbHは入力抵抗592を介して演算増幅器591の−入力端子に入力される。また、−入力端子には、さらにもう1つの入力抵抗592が接続され、この入力抵抗592は接地されている(入力電圧:0)。
【0077】
演算増幅器591のフィードバック抵抗としては、フィードバック抵抗593(抵抗値:R2)とフィードバック抵抗594(抵抗値:R3)とが直列接続して1対としたものを、演算増幅器591の−入力端子と出力端子間に接続されたものと、演算増幅器591の+入力端子とGND間に接続されたものがある。フィードバック抵抗594には、フィードバック抵抗594と並列にアナログスイッチ595がそれぞれ接続され、アナログスイッチ595は、制御モード切替判定手段58から出力される制御モード切替判定信号CHANGFGによりON,OFFされて、電流制御の制御ゲインを切替える。また、互いに直列接続されたフィードバック抵抗593,594の両端には、コンデンサ596が並列に接続され、フィードバック抵抗593,594とコンデンサ596とで一次遅れ補償要素を構成している。演算増幅器591の出力端子に接続されているダイオード597と抵抗598は、出力電圧ezの最大値をVccへクランプする。
【0078】
ここで、本実施形態の電流制御部59の出力電圧ezと入力電圧(e0〜e3)及び制御ゲインG(R2+R3/R1)は、次の式(2)のような関係となる。
ez=(R2+R3/R1)(e1+e2−e0−e3) …(2)
図4の回路と同様に、通常の運転時は、モータ電流指令アップ信号Vtu(e2)とe0は0であり、電流指令値Iu(e1)と電流フィードバック信号VbH(e3)とは同じ値になるので、制御ゲインGは、入力抵抗592とフィードバック抵抗593,594との比:R2+R3/R1で決定される。従って、入力抵抗R3を変えることにより、例えば、センサレス起動モードにおけるモータ起動時に、電流指令値Iu(e1)に対する出力電圧(ez)の制御ゲインGを“1”にすることができる。また、入力抵抗R1を変えることにより、電流制御モード時に電流制御系の応答が速くなるように、制御ゲインGを“数十倍”にすることができる。
[第3の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2のDuty/V変換手段51をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0079】
図13は、デジタル回路で構成したDuty/V変換手段の回路図である。図13に示すように、本実施形態のDuty/V変換手段60は、U/D(アップダウン)カウンタ601と、U/Dカウンタ601のカウント値をラッチするラッチ回路602と、ラッチしたデジタルデータをアナログ値へ変換するD/Aコンバータ603と、上位制御装置から電流指令PSIGのPWMのパルスが入力され、U/Dカウンタ601へのカウンタ入力パルスを発生するDタイプのフリップフロップ回路(以下、D−FF回路)604,605と、D−FF回路604,605の出力を加算するNAND回路606と、D−FF回路604,605へクロックを供給するクロック発生回路607とで構成される。
【0080】
Duty/V変換手段60の動作について図14を用いて説明する。
【0081】
図14は、Duty/V変換手段60の動作タイミングを示すタイムチャートである。図14において、上位制御装置から電流指令PSIGのPWMパルスのDutyが変えられてU/Dカウンタ601とD−FF回路604,605へ入力される。U/Dカウンタ601へは、クロック発生回路607から常時クロック(例えば、10μs)が入力される。D−FF回路604,605はそれぞれ出力信号1Q(負)と2Q(正)を出力し、NAND回路606は、2つの出力信号1Q(負)と2Q(正)とのNAND出力であるカウンタ入力パルスPc生成し、U/Dカウンタ601とラッチ回路602へ出力する。
【0082】
電流指令値IuのDuty/V変換動作は、電流指令PSIGとクロックとカウンタ入力パルスPcを用いて行われる。具体的には、図14において、U/Dカウンタ601は、電流指令PSIGがONするとカウントアップを開始し、カウント値を増加させる(タイミング60a)。電流指令PSIGがOFFすると、カウンタ入力パルスPcの立下りに同期してラッチ回路602がU/Dカウンタ601のカウント値をラッチする(タイミング60b)。その後、カウンタ601は、カウンタ入力パルスPcの立上りに同期してカウント値をリセットする(タイミング60c)。カウンタ入力パルスPcの立下りに同期してラッチされたカウント値は、D/Aコンバータ603によりデジタル信号からアナログ信号の電流指令値Iuへ変換される。
【0083】
カウンタ601のカウント値のラッチされる値は、電流指令PSIGのPWMがONしている時間により変わるので、電流指令PSIGのPWMのDutyを計測することができる。
【0084】
すなわち、本実施形態のDuty/V変換手段60は、図3のアナログ方式のDuty/Vと同様に、電流指令PSIGをアナログ信号の電流指令Iuに変換することができる。
[第4の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2のモータ回転検出手段56をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0085】
図15は、デジタル回路で構成したモータ回転検出手段の回路図である。図15に示すように、モータ回転検出手段61は、図13のDuty/V変換手段60と同様に、U/Dカウンタ611、ラッチ回路612、D/Aコンバータ613、2つのD−FF回路614,615、NAND回路616、クロック発生回路617を備え、さらに、サンプルパルスPsを発生するサンプル時間発生回路618を備える。モータ回転検出手段61がDuty/V変換手段60と異なるところは、サンプル時間発生回路618を追加し、U/Dカウンタ611へモータ回転信号OUTFGとサンプルパルスPs(例えば、0.1sec)とが入力される点である。
【0086】
モータ回転検出手段61の動作について図16を用いて説明する。
【0087】
図16は、モータ回転検出手段61の動作タイミングを示すタイムチャートである。図16において、U/Dカウンタ611のCLOCK入力にモータ回転信号OUTFGが入力されると、U/Dカウンタ611は、OUTFGのONと同時にサンプルパルスPsのカウントを開始し、カウント値を増加させる(タイミング61a)。モータ回転信号OUTFGがOFFすると、カウント値はラッチ回路612でラッチされ、U/Dカウンタのカウント値はリセットされる(タイミング61b)。モータ2の回転数の変化によりモータ回転信号OUTFGのON時間が変化するので、その変化に応じてラッチされたカウント値(ラッチ値)が変わる。ラッチ値はD/Aコンバータ613でアナログ信号に変換され出力される。すなわち、モータ回転検出手段61では、パルス信号であるモータ回転信号OUTFGが、モータ回転数を示すアナログ電圧Vnとして出力される。
【0088】
本実施形態では、モータ回転検出手段61をデジタル回路で構成することにより、図8のアナログ素子で構成したモータ回転検出手段56に比べて、外部コンデンサ564,565等が不要になる。したがって、モータ回転検出手段61を構成する回路の集積化が容易となり、ひいてはモータ回転検出手段61の小型化、低コスト化を図ることができる。
[第5の実施形態]
本実施形態のモータ制御装置は、上述した図2の制御モード切替判定手段58をデジタル回路で構成した点において第1の実施形態と異なる。
【0089】
図17は、デジタル回路で構成した制御モード切替判定手段62の回路図である。図17に示すように、制御モード切替判定手段62は、主に、モータ回転信号OUTFGからモータ起動信号STARTFGを生成するSTARTFG信号生成部620aと、制御モード切替判定信号CHANGFGの遅れ時間td1(delay信号)を生成するdelay信号生成部620bと、モード切替判定信号CHANGFGを生成するCHANGFG信号生成部620cとで構成される。
【0090】
STARTFG信号生成部620aは、カウンタ622aと、カウンタ622aへの入力パルスPcaを発生させる2つのDタイプのフリップフロップ(D−FF)回路623a,624a及びNAND回路625aと、カウンタ622a及びD−FF623a,624aへクロックを供給するクロック発生回路626(クロック周期は、例えば、10μs)と、タイマのデータを設定するプリセットデータ設定回路627aと、カウンタ622aの出力及び入力パルスPcaが入力されモータ起動信号STARTFGを出力するリセットセットタイプのフリップフロップ(RS−FF)回路621aとを有する。
【0091】
delay信号生成部620bは、上記のモータ起動信号生成部620aと同様に、カウンタ622bと、カウンタ622bへの入力パルスPcbを発生させる2つのDタイプのフリップフロップ(D−FF)回路623b,624b及びNAND回路625bと、カウンタ622b及びD−FF623b,624bへクロックを供給するクロック発生回路626(モータ起動信号生成部620aのクロック発生回路と共通)と、タイマのデータを設定するプリセットデータ設定回路627bと、カウンタ622bの出力及び入力パルスPcaが入力されモータdelay信号を出力するリセットセットタイプのフリップフロップ(RS−FF)回路621bとを有する。
【0092】
モード切替判定信号生成部620cは、図10の制御モード切替判定手段58と同様に、FF回路587と、入力抵抗588a,588b及び出力抵抗588cが接続されたトランジスタスイッチ589とで構成される。
【0093】
制御モード切替判定手段62の動作について図18を用いて説明する。
【0094】
図18は、制御モード切替判定手段62の動作タイミングを示すタイムチャートである。
【0095】
まず、モータ起動信号STSRTFGについて説明する。モータ回転信号OUTFGがD−FF回路623aに入力されると、D−FF623aは出力信号1Q(正)を出力し、D−FF624aは出力信号2Q(負)を出力し、NAND回路625aは、2つの出力信号1Q(正)と2Q(負)とのNAND出力であるカウンタ入力パルスPcaを出力する。
【0096】
図18に示すように、最初のモータ回転信号OUTFGの立上りでカウンタ入力パルスPcaがカウンタ622aとRS−FF回路621aへ入力されると、RS−FF回路621aはセットされ、モータ起動信号STARTFGを出力する(タイミング62a)。
【0097】
モータ回転中に、モータ起動信号STARTFGがON状態を維持し続けてモータ2が回転状態であることを検出するには、モータ起動信号STARTFGのリセット時間td2を設定するプリセットデータ設定手段で設定できる。すなわち、モータ回転信号OUTFGのパルス周期が決定されるモータ最低回転数検出時間よりも長い時間となるようにtd2(例えば、64ms以上)を設定しておけばよい。
【0098】
モータ起動信号STARTFGのリセットは、モータ回転信号OUTFGの最後のパルス発生からプリセットデータ設定回路672aで設定したtd2後にリセットされる(タイミング62b)。
【0099】
モード切替判定信号CHANGFGについて説明する。モード起動信号STRATFGがONすると、カウンタ622bへパルスPcb(負)が入力され、カウンタ622bではカウント値のカウントアップを開始する。カウント値がプリセットデータ設定手段627bで設定されたdelay時間td1に達すると、RS−FF回路621bはリセットされる。なお、delay時間td1は、プリセットデータ設定回路627bにより外部から設定可能であり、td1の最適な時間は、モータ2の特性によって適宜設定される。RS−FF回路621bのリセット信号は、モード切替判定信号生成部のFF回路587へ入力され、FF回路587がONする。OFFのタイミングは、モータ起動信号STARTFGの立下りに同期させている。すなわち、dalay信号生成部620b及びモード切替判定信号生成部620cは、モータ起動信号STARTFGが発生してtd1時間経過後、モード切替判定信号CHANGFGをセット(ON)する。
【0100】
モード切替判定信号CHANGFGのリセット(OFF)は、モータ起動信号STARTFGがOFFするタイミングで行われる。
【0101】
本実施形態では、制御モード切替判定手段62をデジタル回路で構成することにより、図10のアナログ素子で構成した制御モード切替判定手段58に比べて、外部コンデンサ581,584等が不要になる。したがって、制御モード切替判定手段62を構成する回路の集積化が容易となり、ひいては制御モード切替判定手段62の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0102】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定される。例えば、第3〜第5の実施形態では、それぞれDuty/V変換手段60、モータ回転検出手段手段61、制御モード切替判定手段62について個別に説明したが、これらのDuty/V変換手段60、モータ回転検出手段手段61、制御モード切替判定手段62を少なくとも2つ以上同時に用いてモータ制御装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…電動流体ポンプ 2…センサレス・ブラシレスモータ 3…インバータ 4…インバータ駆動回路 5…トルク制御手段 52…制御モード切替手段 53…電流検出手段 55…電流制御手段 57…低速回転時トルクアップ制御手段 58…制御モード切替判定手段 531…増幅器 532… スイッチ 534…コンデンサ ib…電源電流 iu…モータ電流 VbH…サンプルホールド電流値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によって前記インバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
センサレス・ブラシレスモータの起動後、前記インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、前記電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、該制御モード切替判定手段の出力に応じて前記電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えたことを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記制御モード切替判定手段は、前記制御ゲインの切替時に電源電流を前記電流制御手段にフィードバックさせる電流制御モードを開始させ、前記電源電流のフィードバック切替後、制御モード切替手段は、前記モータ電流に応じて動作することを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記電流検出手段は、前記インバータのU,V,Wの各相のPWM制御用ゲートパルス信号によって電源電流値のホールドのオンオフを切替えるスイッチと、信号増幅器の出力信号電圧をサンプルホールドする電圧ホールド用コンデンサとを備え、電流が断続するインバータの電源電流を電圧として検出し、前記各相のPWM制御用ゲートパルス信号の立ち下がりに同期させて電源電流がOFFとなる直前の値を前記電圧ホールド用コンデンサにホールドし、そのホールドした電圧を前記モータ電流として前記制御モード切替手段に出力することを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
さらに、前記センサレス・ブラシレスモータの低回転時に、モータ電流を増加させるためのモータ電流指令アップ信号を前記制御モード切替手段に出力する低速回転時トルクアップ制御手段を備え、
前記制御モード切替手段は、前記モータ電流指令アップ信号を電流指令値に加算し、かつ、制御モード切替判定手段の出力信号に応じて制御されることを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記制御モード切替判定手段はデジタル回路素子で構成されることを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項6】
センサレス・ブラシレスモータと、該センサレス・ブラシレスモータを駆動制御するセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とを用いて駆動する電動流体ポンプにおいて、
請求項1乃至5のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置により駆動・制御されることを特徴とする電動流体ポンプ。
【請求項1】
インバータと、インバータを駆動するインバータ駆動回路と、上位制御手段からの電流指令によって前記インバータ駆動回路を制御し一次遅れ補償手段を有する電流制御手段とを備えたセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
センサレス・ブラシレスモータの起動後、前記インバータ駆動回路からのモータ回転検出信号に応じて、前記電流制御手段の制御ゲインの切替を判定する制御モード切替判定手段と、該制御モード切替判定手段の出力に応じて前記電流制御手段の制御ゲインを切替える制御モード切替手段とを備えたことを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記制御モード切替判定手段は、前記制御ゲインの切替時に電源電流を前記電流制御手段にフィードバックさせる電流制御モードを開始させ、前記電源電流のフィードバック切替後、制御モード切替手段は、前記モータ電流に応じて動作することを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記電流検出手段は、前記インバータのU,V,Wの各相のPWM制御用ゲートパルス信号によって電源電流値のホールドのオンオフを切替えるスイッチと、信号増幅器の出力信号電圧をサンプルホールドする電圧ホールド用コンデンサとを備え、電流が断続するインバータの電源電流を電圧として検出し、前記各相のPWM制御用ゲートパルス信号の立ち下がりに同期させて電源電流がOFFとなる直前の値を前記電圧ホールド用コンデンサにホールドし、そのホールドした電圧を前記モータ電流として前記制御モード切替手段に出力することを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
さらに、前記センサレス・ブラシレスモータの低回転時に、モータ電流を増加させるためのモータ電流指令アップ信号を前記制御モード切替手段に出力する低速回転時トルクアップ制御手段を備え、
前記制御モード切替手段は、前記モータ電流指令アップ信号を電流指令値に加算し、かつ、制御モード切替判定手段の出力信号に応じて制御されることを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置において、
前記制御モード切替判定手段はデジタル回路素子で構成されることを特徴とするセンサレス・ブラシレスモータ制御装置。
【請求項6】
センサレス・ブラシレスモータと、該センサレス・ブラシレスモータを駆動制御するセンサレス・ブラシレスモータ制御装置とを用いて駆動する電動流体ポンプにおいて、
請求項1乃至5のいずれか1項記載のセンサレス・ブラシレスモータ制御装置により駆動・制御されることを特徴とする電動流体ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−233301(P2010−233301A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76342(P2009−76342)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000232999)株式会社日立カーエンジニアリング (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000232999)株式会社日立カーエンジニアリング (141)
【Fターム(参考)】
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