説明

ソイルセメント壁構築工法及び掘削機

【課題】ソイルセメント壁を構築するにあたり、地盤中に注入する安定液と掘削土砂との混合物の流動性を確保するとともに、使用水量を低減することが可能なソイルセメント壁構築工法、及びそれに使用する掘削機を提供する。
【解決手段】ハイドロフレーズ掘削機10を用いたソイルセメント壁構築工法は、掘削機10によって地盤を下方に掘削するとともに、その掘削箇所周辺に掘削用安定液と気泡とを注入する掘削工程S10と、掘削工程後、掘削機10周辺に造成用安定液を注入するとともに、ロータリーカッター14を回転させて、掘削工程S10で地盤の掘削時に生じた掘削土砂と、掘削用或いは造成用安定液とを攪拌混合しながら、掘削機10を引き上げる造成工程S20と、造成工程S20で攪拌混合された、掘削土砂と安定液との混合物を硬化させる養生工程S30と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント壁を構築するにあたり、特に、地盤中に注入する安定液と掘削土砂との混合物の流動性を確保するとともに、使用水量を低減できるソイルセメント工法及びそれに使用する掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフレーズ掘削機は、水平の回転軸を有するロータリーカッターを下部に複数備えた水平多軸回転式掘削機であり、クレーン等によりロータリーカッターが地盤に接触するように吊り下げられ、カッターを回転させながら本体を下方に降ろしていくことにより、地盤を鉛直下方に掘削する装置である。
【0003】
従来より、本出願人は、このようなハイドロフレーズ掘削機を用いてソイルセメント壁を構築する工法を提案している(例えば、特許文献1)。
特許文献1では、ハイドロフレーズ掘削機を用いて、掘削機に設置されたノズルから水又はセメント系懸濁液を注入しながら地盤を鉛直下方に掘削し、掘削機を所定の深度に到達させた後、ロータリーカッターを回転駆動させてセメント系懸濁液と掘削土砂とを攪拌混合させながら、掘削機を地上まで引き上げ、最後にセメント系懸濁液と掘削土砂との混合物で満たされた掘削孔に芯材を建て込み、混合物を硬化させることによりソイルセメント壁を構築する工法を開示している。
【特許文献1】特開平9−273150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示する工法では、例えば、礫質地盤や硬質粘土等の地盤においてソイルセメント壁を施工する場合、水又はセメント系懸濁液と掘削土砂との混合物の流動性が低下し、これによりロータリーカッターの回転抵抗が大きくなることから掘削効率が低下してしまうことがある。
【0005】
また、遮水性や強度の高い高品質なソイルセメント壁を形成するためには、掘削土砂とセメント系懸濁液とを充分に攪拌混合する必要があるが、混合物の流動性が低下するにつれてロータリーカッターによる攪拌混合がなされにくくなることから、これを補うために攪拌掘削機の引き上げ速度を通常よりも遅くして攪拌時間を長くする必要がある。さらに、混合物の流動性が低下すると、掘削土砂の掘削孔外への排出効率も低下する。
【0006】
これらの結果、ソイルセメント壁の施工期間が延長することになり、施工コストが増大してしまう。
【0007】
また、流動性低下を回避するための処置として、混合物へ注入する水量を増加させて流動性を改善させることも考えられるが、水量の増加にともなって地盤から排出される排泥の量が増加してしまう。しかし、排泥は産業廃棄物として処理しなければならないため、水量の増加は産業廃棄物を増加させることになる。さらに、ソイルセメント壁を構築する際に用いる水量が増加するにつれてソイルセメント壁の強度も低下する。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ソイルセメント壁を構築するにあたり、地盤中に注入する安定液と掘削土砂との混合物の流動性を確保するとともに、使用水量を低減することが可能なソイルセメント壁構築工法、及びそれに使用する掘削機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、水平の回転軸を有するロータリーカッターを下部に複数備えた水平多軸回転式掘削機を用いたソイルセメント壁構築工法であって、
前記掘削機によって前記地盤を下方に掘削しながら、その掘削箇所周辺に掘削用安定液と気泡とを注入する掘削工程と、
前記掘削工程後、前記掘削機周辺に造成用安定液を注入するとともに、前記ロータリーカッターを回転させて、前記掘削工程で地盤の掘削時に生じた掘削土砂と、前記掘削用或いは造成用安定液とを攪拌混合しながら、前記掘削機を引き上げる造成工程と、
前記造成工程で攪拌混合された、前記掘削土砂と前記安定液との混合物を硬化させる養生工程と、を備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0010】
本発明のソイルセメント壁構築工法によれば、掘削工程で掘削機により地盤を掘削する際にその周辺に気泡を注入することにより、ベアリング効果(掘削土砂・掘削用安定液・気泡の混合物が流動するときに、球形微粒子である気泡が掘削土砂や掘削安定液中の粒子間に介在することにより、掘削土砂や安定液中の粒子間の摩擦が低減する効果)によって、掘削土砂と安定液との混合物の流動性を向上させることができる。これにより、ロータリーカッターの回転抵抗が小さくなるとともに、掘削機のブレード等への掘削土砂の付着も軽減され、掘削効率を向上させることができる。
【0011】
また、流動性が向上することで、造成工程でも良好に混合物を攪拌混合することができるので、掘削機の引き上げ速度を速めることができる。さらに、掘削土砂の掘削孔外への排出効率も向上する。これらの結果、ソイルセメント壁の施工期間の短縮が可能となり、施工コスト軽減に寄与する。
【0012】
また、気泡により流動性を確保することで、掘削及び造成時に注入又は安定液に混合する水量が低減されることにより、地盤から排出される排泥量も低減でき、産業廃棄物の発生を抑制できる。また、少ない水量でソイルセメントを硬化させることができるので、ソイルセメント壁の強度及び遮水性も向上する。さらに、気泡と安定液内の水とが混合して不飽和状態となるため、安定液の止水性が向上し、より一層ソイルセメント壁の遮水性が向上する。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記気泡として、タンパク系の発泡剤や界面活性剤を発泡させたもの、又は前記発泡剤と水溶性の高分子の水溶液と空気とを混合して泡状にしたものを用いることを特徴とする。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記掘削用安定液として、水とベントナイトとを混合したベントナイト液を用いることを特徴とする。
第4の発明は、第1又は2の発明において、前記掘削用安定液として、水のみを用いることを特徴とする。
本発明のソイルセメント壁構築工法によれば、排出された排泥は、産業廃棄物として処理が必要なベントナイトを含んでおらず、気泡が消泡した後に残土として再利用できる。
【0015】
第5の発明は、第1〜4の何れかの発明において、前記造成用安定液として、セメントミルクを用いることを特徴とする。
第6の発明は、第1〜5の何れかの発明において、前記造成用安定液として、前記セメントミルクに前記気泡を消泡させる消泡剤を配合したものを用いることを特徴とする。
本発明のソイルセメント壁構築工法によれば、掘削工程で掘削孔内に注入した気泡を、造成工程で速やかに消泡することができ、これにより、さらに排泥量を低減することができるとともに、より高品質なソイルセメント壁を構築することができる。
【0016】
第7の発明は、第1〜6の何れかの発明において、前記造成工程では、前記掘削機を上下に揺動させながら、前記掘削機を前記掘削孔から引き上げることを特徴とする。
本発明のソイルセメント壁構築工法によれば、掘削土砂と安定液との混合物をより一層均一に混合することができるので、高品質なソイルセメント壁を構築することができる。
【0017】
第8の発明は、回転軸が水平な略円筒形のロータリーカッターを下部に複数備え、前記ロータリーカッターを地盤に接触させた状態で回転させることにより、前記地盤を下方に掘削する水平多軸回転式掘削機であって、前記地盤の掘削時に、その掘削箇所周辺に気泡を注入する注入管を備えることを特徴とする。
第9の発明は、第8の発明において、前記注入管の注入口を、前記ロータリーカッターの回転軸よりも下方に設けたことを特徴とする。
本発明の水平多軸回転式掘削機によれば、気泡がロータリーカッターの回転軸よりも下方の掘削箇所周辺に注入されることになるので、気泡を、掘削土砂及びその他注入される安定液等と良好に攪拌混合することができる。
【0018】
第10の発明は、第8又は9の発明において、前記注入口は、前記気泡が水平又は上向きに注入されるように設けられていることを特徴とする。
本発明の水平多軸回転式掘削機によれば、注入管の先端が、掘削機の掘削方向である下方と異なる方向に向いているので、掘削時に外部から土砂等が浸入して配管詰まりを引き起こすのを抑制する。
【0019】
第11の発明は、第8〜10の何れか一の発明において、前記注入口には、外部からの流体又は粒子の浸入を防止するキャップが備えられていることを特徴とする。
本発明の水平多軸回転式掘削機によれば、掘削時に、注入管の先端外部から流体が逆流したり、土砂等が浸入したりして、気泡の注入が阻害されることを防止する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ソイルセメント壁を構築するにあたり、地盤中に注入する安定液と掘削土砂との混合物の流動性を確保するとともに、使用水量を低減することが可能なソイルセメント壁構築工法、及びそれに使用する掘削機を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法を実施するのに使用するハイドロフレーズ掘削機10を示し、同図(a)は正面図、同図(b)は側面図である。
図1に示すように、ハイドロフレーズ掘削機10は、掘削機本体12と、掘削機本体12の下端にロータリーカッター14とを備える。
【0022】
掘削機本体12は、クレーン等で吊り下げる複数のワイヤー16が取り付けられるとともに、ロータリーカッター14を支承する部分である。具体的に吊上げには、ワイヤー16が掘削機本体12上部の各吊り治具18に掛けられる。また、掘削機本体12の下端中央には、空気を噴射するエアーノズル20が設けられており、地上等に設置されるコンプレッサー等からホースが接続されている。
【0023】
ロータリーカッター14は、円筒形の回転ドラム22の外周に複数のカッタビット24が突出するように設けられたものであり、掘削機本体12下部の正面側と背面側とに夫々2個、回転軸が水平かつ互いに平行になるように並設されている。各ロータリーカッター14は、例えば、地上等から配管される油圧系統によって駆動される油圧モータにより回転し、地盤掘削時には、通常、掘削機10下方にある流体を内側に巻き込むような方向(図中矢印方向)に回転する。
【0024】
図2は、図1(a)のロータリーカッター14部分の拡大図である。
図2に示すように、掘削機本体12には、ソイルセメント壁を構築する際に掘削孔内に注入する安定液と気泡とを別々に注入する専用の安定液注入管26及び気泡注入管28とが夫々、掘削機本体12の側面から下方に延長して、回転ドラム22の外周に沿いながら、掘削機本体12の下方中央に巻き込むように屈曲し、先端の注入口26a,28aが、ロータリーカッター14の回転軸14aよりも下方に位置するように設けられている。
【0025】
各注入口26a,28aは、その注入方向が、例えば水平方向から15°上向きになるように屈曲されている。さらに、各注入管の注入口には、外部から流体や土粒子が逆流して入り込むのを防止するキャップ30が取り付けられている。このキャップ30は、遠隔から制御可能な電磁弁、又は機械的に逆流を防止する逆止弁を用いることができる。
【0026】
次に、このようなハイドロフレーズ掘削機10を用いてソイルセメント壁を構築する工法について説明する。
図3は、本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法の工程を示す図である。
図3に示すように、ソイルセメント壁構築工法は、掘削工程S10と、造成工程S20と、養生工程S30とからなる。
【0027】
掘削工程S10では、掘削機10のロータリーカッター14を回転させるとともに、その周辺に安定液注入管26及び気泡注入管28からそれぞれ掘削用安定液及び気泡を注入し、またエアーノズル20から空気を噴射させながら、ワイヤー16を下ろして掘削機10を下方へ移動させることにより地盤を掘削する。
【0028】
掘削用安定液は、ベントナイトと水を混合したものである。掘削用安定液は、例えば、地上に設置されたプラント等で攪拌混合することにより生成され、配管を通じて安定液注入管26に移送される。
【0029】
気泡は、タンパク系の発泡剤や界面活性剤を発泡させたもの、或いは、タンパク系の発泡剤と水溶性の高分子の水溶液と空気とを混合して泡状にしたものである。起泡材となる水溶性高分子としては、セルロースエーテルであって、好ましくは、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを使用することができる。
気泡も掘削用安定液と同様に、地上に設置されたプラント等で水、起泡材、及び空気を攪拌混合することにより生成され、配管を通じて気泡注入管28に移送される。
【0030】
このようにロータリーカッター14で地盤を掘削する際に、その周辺部に気泡を注入することにより、掘削用安定液と掘削土砂とに気泡が混合されて、上記した気泡のベアリング効果により、これら混合物の流動性が向上して、掘削機10のロータリーカッター14の回転運動に抵抗する攪拌抵抗等の負荷が軽減される。
【0031】
また、気泡により流動性が確保できるので、注入すべき掘削用安定液の量を、通常の気泡を使用せずに掘削する場合と比べて少なくすることが可能である。なお、気泡を注入するにあたって、掘削中に混合物を採取して粘度を計測する等により混合物の流動性の変動を監視しておき、当該粘度に応じて注入管からの注入する気泡の量を随時調節することが好ましい。
【0032】
また、エアーノズル20による空気の噴射は、混合物に注入された空気が、掘削された排泥の浮上を促すことにより、掘削土砂を掘削孔から円滑に搬出できるようにすることを目的として行っている。
【0033】
なお、掘削工程S10では、掘削用安定液として、ベントナイトと水と混合したものを用いたが、これに少量のセメントを混入したものを用いてもよい。
【0034】
造成工程S20では、掘削工程S10により所定の深度まで掘り下げた後、気泡注入管28からの気泡の注入と、エアーノズル20からの空気の噴射とを停止し、安定液注入管26から注入する流体を掘削用安定液から造成用安定液に変更して、掘削機10を地盤に掘削された掘削孔から引き上げる。このとき、ロータリーカッター14を回転させるとともに掘削機10を上下に揺動させながら掘削機10を掘削孔から引き上げる。なお、造成用安定液の注入は、配管系統を切り替えることにより、気泡注入管28から行ってもよい。
【0035】
ここで造成用安定液としては、例えば、水とセメントとの混合物であるセメントミルクに、気泡の消泡を促進させる消泡剤を配合したものを用いる。
【0036】
図4は、掘削及び造成工程S20の掘削機10による掘削深度の時間変化を示すグラフであり、グラフは、縦軸が深度、横軸が時間を示している。
図4に示すように、掘削工程S10では、掘削機10を時間の経過とともに下方向へ移動させる。一方、造成工程S20では、掘削機10を上下に揺動させながら次第に上方へ移動させる。すなわち、造成工程S20では、掘削機10は同図グラフのようなノコギリ刃状の軌跡をとりながら移動していく。
【0037】
このように造成工程S20で掘削機10を上下に揺動させながら次第に上方へ移動させることにより、掘削土砂と掘削用或いは造成用安定液とが、満遍なく攪拌されて均一に混合されるとともに、造成用安定液中の消泡剤が気泡と混ざり合って消泡作用を促進させる。なお、気泡が消泡することによって掘削孔内の混合物の体積が減少することになるが、造成用安定液を追加的に注入することで当該減少分を補う。
【0038】
図3に示すように、掘削工程S10及び造成工程S20を行った後、最後に養生工程S30で、掘削土砂と造成用安定液の混合物を充分に養生することにより、ソイルセメント壁40が構築される。なお、養生前に混合物内に芯材を建て込んでもよい。
【0039】
次に、ハイドロフレーズ掘削機10を用いて、上述した工法によりソイルセメント壁を構築する実験を行ったので、以下にその詳細な仕様及び結果について説明する。
【0040】
図5は、実験を行ったサイトのボウリング調査による土質を示す表である。
図5に示すように、実験サイトの土質は、地表から深度4.5m程度までは埋土(スラグ)、深度4.5mから10.5m程度までは細砂、深度10.5mから12.1m程度までは砂混じりシルト、深度12.1mから16.9m程度までは細砂、深度16.9mから21.4m程度までは砂レキ、深度21.4mから25.6mまではシルト質細砂によって構成されている。
【0041】
図6は、本実験で構築したソイルセメント壁の寸法を示す斜視図である。
図6に示すように、図5に示した土質構造からなる実験サイトにおいて、幅2.40m、奥行き0.65m、深さ約20mの寸法のソイルセメント壁40を構築した。なお、ソイルセメント壁40として、上述した掘削工程S10で気泡を注入して構築したソイルセメント壁(以下、気泡入ソイルセメント壁という)を1つ構築し(エレメントA)、また比較用として気泡を注入せずに構築したソイルセメント壁(以下、気泡なしソイルセメント壁という)を3つ構築した(エレメントB〜B、詳細は後述)。
【0042】
図7は、ソイルセメント壁40の構築に用いた掘削用安定液、気泡、造成用安定液の配合表である。
図7に示すように、ソイルセメント壁40を構築するに際し、気泡なしと気泡入とに共通する掘削用安定液及び造成用安定液を構成する材料として、ベントナイト、セメント、及び水を用いた。
【0043】
気泡なしソイルセメント壁の構築時には、掘削用安定液として、水500Lにベントナイト50kgを混合した10%のベントナイト溶液を用いて、掘削時に地山体積率50%の割合で注入した。また、造成用安定液としては、水200Lにベントナイト5kgとセメント200kgとを混合したものを用いた。
一方、気泡入ソイルセメント壁の構築時には、掘削用安定液としては、水500Lにベントナイト25kgを混合した5%のベントナイト溶液を用いて、掘削時に地山体積率10%の割合で注入した。このとき、当該ベントナイト溶液とともに地山体積率の40%の割合で気泡を注入した。
【0044】
なお、気泡には、アルキルサルトフェート系の界面活性剤の原液を、水に対して重量比率5%を混入したものを用いた。
また、造成用安定液としては、気泡なしソイルセメント壁の構築の際に用いたものと同様の造成用安定液に、消泡剤を1.4kg配合したものを用いた。なお、消泡剤としては、消泡機能付与型界面活性剤を用いた。
【0045】
図8は、ソイルセメント壁40の構築時における掘削及び造成工程S20の掘削機10による掘削深度の時間変化を示すグラフである。
【0046】
図8に示すように、ソイルセメント壁の構築においては、各ソイルセメント壁(エレメントA、B〜B)とも、掘削工程S10の際に、掘削機10を時間の経過とともに下方向へ移動させ、造成工程S20の際に、掘削機10を上下に揺動させながら次第に上方へ移動させた。ただし、エレメントによって深度軌跡が異なる。
【0047】
エレメントA(気泡入)では、掘削工程S10において、気泡を注入しながら所定深度(20.6m)まで掘進した後、造成工程S20において、揺動の振幅を約3mとし、その移動速度を90cm/分として掘削機10を引き上げた。
【0048】
エレメントB〜B(気泡なし)では、掘削工程S10において、各エレメントとも所定深度まで掘進した後、造成工程S20において、揺動の振幅を約5mとし、その移動速度についてはエレメント毎に変更して掘削機10を引き上げた。具体的に移動速度を、エレメントBは60cm/分、エレメントBは90cm/分、エレメントBは120cm/分とした。このようにエレメントによって移動速度を変更したのは、移動速度が遅いほど、掘削土砂と造成用安定液との攪拌混合が良好になされるので、その効果を検証するためである。
【0049】
図9は、各ソイルセメント壁の構築の際に採取した泥土の性状を示す表である。表中の数値は、掘削工程S10時に所定深度で採取した泥土(以下、掘削泥土という)と造成工程S20時に採取した泥土(以下、造成泥土という)との、湿潤密度及びテーブルフロー値である。
【0050】
湿潤密度は、湿潤状態の泥土の単位体積当たり重量であり、湿潤密度が小さいほど掘削機10のロータリーカッター14が駆動する際に作用される攪拌抵抗等の負荷が軽減されることになる。
【0051】
テーブルフロー値は、「セメントの物理試験方法(JIS R5201−1981)」であって、流動性の高い泥状の混合物の流動性判定に用いられる土木学会規準の方法である。具体的には、フローテーブルの上に置かれた筒状のフローコーン内に試験流体を充填し、フローコーンを引き上げるとともに、フローテーブルを所定回数だけ上下に振動させたときの、試験流体の広がり径を測定するというものである。すなわち、広がり径が大きいほど流動性が良好であることを示す。掘削時において泥土のテーブルフロー値が200mm程度であれば、掘削用安定液としての性能を満足するとされている。
【0052】
図9に示すように、掘削泥土については、エレメントB〜B(気泡なし)では、湿潤密度が1.68〜1.74g/cmの範囲で分布しているのに対し、エレメントA(気泡入)では、深度により1.05〜1.33g/cmの範囲で分布しており、エレメントB〜Bよりもその値が低い。また、テーブルフロー値については、エレメントB〜B(気泡なし)では、全般的に200mm以下の値が多く見受けられるが、エレメントA(気泡入)では200mm以上の値の方が多い。
これは、エレメントA(気泡入)には、掘削時に気泡が注入されているので、掘削用安定液と掘削土砂との混合物中の空気量が増加して、その結果、ベアリング効果により流動性が高くなり、テーブルフロー値が上昇傾向になったと考えられる。
【0053】
一方、造成泥土については、エレメントB〜B(気泡なし)では、湿潤密度が1.64〜1.68g/cmの範囲で分布しているのに対し、エレメントA(気泡入)では、1.72g/cmと大きくなり、掘削泥土の場合と比べてエレメントAとエレメントB〜Bの大小関係が逆転している。また、テーブルフロー値については、エレメントB〜B(気泡なし)及びエレメントA(気泡入)とともに同程度の値を示す。
これは、造成用安定液に配合された消泡剤の消泡作用により、掘削泥土中の気泡が良好に消泡されたことを示している。
【0054】
図10は、各エレメント構築時に地盤中に注入した掘削用安定液、造成用安定液、気泡の注入量、及びその時の排泥量を表にまとめたものである。
【0055】
図10に示すように、掘削時においては、エレメントB〜Bでは13810〜19595Lの掘削用安定液を注入しているのに対し、エレメントAでは7760Lの掘削用安定液及び11000Lの気泡を注入している。ここで、気泡は、発泡液に水と空気を混入して約25倍に体積を膨張させたものであるので、実質的に液体としての注入量は、約440L(11000L÷25)となる。したがって、エレメントAの構築に際して掘削時に用いた空気を除いた実質的な掘削用安定液の量は、約8200L(7760L+約440L)となり、すなわちエレメントB〜Bで注入した量の半分程度の量となった。
【0056】
また、掘削時の排泥量は、エレメントB〜Bでは4.0〜12.0mであるのに対し、エレメントAでは13.0mと一見多い。しかし、エレメントAの排泥量は、排泥を採取した直後の気泡を含んだ量であり、その後しばらく静置した場合には、その体積が減少している。
【0057】
図11は、エレメントAの排泥の写真である。図中には、円筒状のビニル袋内に、エレメントAの掘削時に採取した排泥を封入し、排泥採取直後の升目と、排泥内の気泡が消泡したときの升目を示している。
【0058】
同図によれば、排泥採取直後に234mmであった升目が、気泡消泡時には100mmに減少しており、全体体積として約43%に減少している。
すなわち、掘削時のエレメントAの排泥量は、その後しばらく静置しておくことにより、気泡分が消失して13.0mから5.6m程度に減少する。
【0059】
造成時(図10参照)においては、エレメントB〜Bの構築では7475〜9640Lの造成用安定液を注入しているのに対し、エレメントAでは注入量が7230Lと同程度の量である。しかし、この時の造成時の排泥量は、エレメントB〜Bでは4.0〜6.0mであるのに対し、エレメントAでは排泥が全く排出されていない。
これは、エレメントAの造成用安定液に配合される消泡液が、掘削時に注入された気泡と混ざることにより気泡を消泡し、この消泡によって掘削孔内の混合物の体積が減少することになるが、その減少分を造成用安定液で補充したと考えられる。
【0060】
これにより、掘削時と造成時との排泥量合計は、エレメントB〜Bの構築時では8.0〜18.0mとなるのに対し、エレメントAの構築時では気泡消泡後に前述のとおり5.6m程度になる。
【0061】
次に、このようにして構築した各エレメントの材齢7日及び材齢28日の一軸圧縮強度と、材齢28日の透水係数と測定した。
図12は、各エレメントの一軸圧縮強度及び透水係数の測定結果を表にまとめたものである。一軸圧縮強度の測定はJIS A 1108に準拠し、透水係数測定は、JCI(社団法人日本コンクリート工学協会)のインプット法に準拠して行った。なお、各試験は再現性を確認するため、エレメント毎に3個の供試体を作製して試験を行い、その平均値を求めている。供試体の採取深度は、エレメント毎に表中に記載している。
【0062】
図12に示すように、材齢7日の一軸圧縮強度は、エレメントB〜Bが193.7〜369.2kN/mであるのに比べ、エレメントAは783.5kN/mと高い。
さらに、材齢28日の一軸圧縮強度は、エレメントB〜Bが566.3〜1037.2kN/mであるのに比べ、エレメントAは2108.4kN/mと同様に高い。
【0063】
また、材齢28日の透水係数は、エレメントBについては、B、B、B(透水係数:3.42×10−7〜2.08×10−6cm/sec)の順に高くなっている。これは、造成時における掘削機10の移動速度に依存しているものと考えられ、移動速度が遅いものほど造成用安定液と掘削土砂とが良く攪拌混合され、その結果、透水係数が低くなる(遮水性が向上する)傾向が顕著に現れている。
一方、エレメントAではエレメントBの造成時と同様の90cm/分で移動しているにもかかわらず、その透水係数は3.05×10−7cm/secとエレメントB〜Bの何れもよりも低く、遮水性に優れている。
【0064】
このように、エレメントAの強度及び遮水性が優れるのは、同じ寸法のエレメントを構築するのに使用した水量が、エレメントAの方がエレメントB〜Bよりも少ないためであると考えられる。
【0065】
以上説明したように本実形態に係るソイルセメント壁構築工法によれば、掘削工程S10で掘削機10により地盤を掘削する際にその周辺に気泡を注入することにより、気泡のベアリング効果によって、掘削土砂と安定液との混合物の流動性を向上させることができる。これにより、ロータリーカッター14の回転抵抗が小さくなるとともに、掘削機10のブレード等への掘削土砂の付着も軽減され、掘削効率を向上させることができる。
【0066】
また、流動性が向上することで、造成工程S20でも良好に混合物を攪拌混合することができるので、掘削機10の引き上げ速度を速めることができる。さらに、掘削土砂の掘削孔外への排出効率も向上する。これらの結果、ソイルセメント壁の施工期間の短縮が可能となり、施工コスト軽減に寄与する。
【0067】
また、気泡により流動性を確保することで、掘削及び造成時に注入又は安定液に混合する水量が低減されることにより、地盤から排出される排泥量も低減でき、産業廃棄物の発生を抑制できる。また、少ない水量でソイルセメントを硬化させることができ、ソイルセメント壁の強度及び遮水性も向上する。さらに、気泡と安定液内の水とが混合して不飽和状態となるため、安定液の止水性が向上し、より一層ソイルセメント壁の遮水性が向上する。
【0068】
また、本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法によれば、造成用安定液として、セメントミルクに気泡を消泡させる消泡剤を配合したものを用いることにより、掘削工程S10で掘削孔内に注入した気泡を、造成工程S20で速やかに消泡することができ、これにより、さらに排泥量を低減することができるとともに、高品質なソイルセメント壁を構築することができる。
【0069】
また、本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法では、造成工程S20で掘削機10を上下に揺動させながら、掘削機10を掘削孔から引き上げることにより、掘削土砂と安定液との混合物をより一層均一に混合することができるので、より高品質なソイルセメント壁を構築することができる。
【0070】
また、本実施形態に係るハイドロフレーズ掘削機10は、気泡の注入管の注入口が、ロータリーカッター14の回転軸よりも下方に設けられていることにより、気泡がロータリーカッター14の回転軸よりも下方の掘削箇所周辺に注入されることになるので、気泡を、掘削土砂及びその他注入される安定液等と良好に攪拌混合することができる。
【0071】
また、注入口が、気泡が上向きに注入されるように設けられていることにより、注入管の先端が、掘削機10の掘削方向である下方と異なる方向に向いているので、掘削時に外部から土砂等が浸入して配管詰まりを引き起こすのを抑制する。
【0072】
また、注入口には、外部からの流体又は粒子の浸入を防止するキャップ30が備えられていることにより、掘削時に、注入管の先端外部から流体が逆流したり、土砂等が浸入したりして、気泡の注入が阻害されることを防止する。
【0073】
なお、本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法では、掘削用安定液として水にベントナイトを配合したものを用いたが、掘削時に掘削孔の崩落や逸水等が生じないのであれば、ベントナイトは配合せず水のみを用いてもよい。これにより、排出される排泥は、産業廃棄物として処理が必要なベントナイトを含んでおらず、気泡が消泡した後に残土として再利用できる。
【0074】
また、本実施形態に係るハイドロフレーズ掘削機10は、各注入口の注入方向が、水平方向から15°上向きになるように屈曲されていることとしたが、これに限らず、水平方向としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法を実施するのに使用するハイドロフレーズ掘削機10を示し、同図(a)は正面図、同図(b)は側面図である。
【図2】図1(a)のロータリーカッター14部分の拡大図である。
【図3】本実施形態に係るソイルセメント壁構築工法の工程を示す図である。
【図4】掘削及び造成工程S20の掘削機10による掘削深度の時間変化を示すグラフである。
【図5】実験を行ったサイトのボウリング調査による土質を示す表である。
【図6】本実験で構築したソイルセメント壁の寸法を示す斜視図である。
【図7】ソイルセメント壁40の構築に用いた掘削用安定液、気泡、造成用安定液の配合表である。
【図8】ソイルセメント壁40の構築時における掘削及び造成工程S20の掘削機10による掘削深度の時間変化を示すグラフである。
【図9】各ソイルセメント壁の構築の際に採取した泥土の性状を示す表である。
【図10】各エレメント構築時に地盤中に注入した掘削用安定液、造成用安定液、気泡の注入量、及びその時の排泥量を表にまとめたものである。
【図11】エレメントAの排泥の写真である。
【図12】各エレメントの一軸圧縮強度及び透水係数の測定結果を表にまとめたものである。
【符号の説明】
【0076】
10 掘削機 12 掘削機本体
14 ロータリーカッター 14a 回転軸
16 ワイヤー 18 吊り治具
20 エアーノズル 22 回転ドラム
24 カッタビット 26 安定液注入管
28 気泡注入管 30 キャップ
40 ソイルセメント壁 S10 掘削工程
S20 造成工程 S30 養生工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平の回転軸を有するロータリーカッターを下部に複数備えた水平多軸回転式掘削機を用いたソイルセメント壁構築工法であって、
前記掘削機によって前記地盤を下方に掘削しながら、その掘削箇所周辺に掘削用安定液と気泡とを注入する掘削工程と、
前記掘削工程後、前記掘削機周辺に造成用安定液を注入するとともに、前記ロータリーカッターを回転させて、前記掘削工程で地盤の掘削時に生じた掘削土砂と、前記掘削用或いは造成用安定液とを攪拌混合しながら、前記掘削機を引き上げる造成工程と、
前記造成工程で攪拌混合された、前記掘削土砂と前記安定液との混合物を硬化させる養生工程と、を備えることを特徴とするソイルセメント壁構築工法。
【請求項2】
前記気泡として、タンパク系の発泡剤や界面活性剤を発泡させたもの、又は前記発泡剤と水溶性の高分子の水溶液と空気とを混合して泡状にしたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項3】
前記掘削用安定液として、水とベントナイトとを混合したベントナイト液を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項4】
前記掘削用安定液として、水のみを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項5】
前記造成用安定液として、セメントミルクを用いることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項6】
前記造成用安定液として、前記セメントミルクに前記気泡を消泡させる消泡剤を配合したものを用いることを特徴とする請求項5に記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項7】
前記造成工程では、前記掘削機を上下に揺動させながら、前記掘削機を引き上げることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のソイルセメント壁構築工法。
【請求項8】
回転軸が水平な略円筒形のロータリーカッターを下部に複数備え、前記ロータリーカッターを地盤に接触させた状態で回転させることにより、前記地盤を下方に掘削する水平多軸回転式掘削機であって、
前記地盤の掘削時に、その掘削箇所周辺に気泡を注入する注入管を備えることを特徴とする水平多軸回転式掘削機。
【請求項9】
前記注入管の注入口を、前記ロータリーカッターの回転軸よりも下方に設けたことを特徴とする請求項8に記載の水平多軸回転式掘削機。
【請求項10】
前記注入口は、前記気泡が水平又は上向きに注入されるように設けられていることを特徴とする請求項8又は9に記載の水平多軸回転式掘削機。
【請求項11】
前記注入口には、外部からの流体又は粒子の浸入を防止するキャップが備えられていることを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の水平多軸回転式掘削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−221764(P2009−221764A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68447(P2008−68447)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】