説明

タイヤの金属ワイヤ検出方法及びその装置

【課題】仕様の異なるタイヤであっても金属ワイヤの端部位置の異常箇所を常に精度よく検出することのできるタイヤの金属ワイヤ検出方法及びその装置を提供する。
【解決手段】タイヤ1の外部から金属ワイヤ4までの距離に応じた電圧を第1のセンサ10によりタイヤ1の全周に亘って出力するとともに、タイヤ1の外部からタイヤ表面までの距離に応じた電圧を第2のセンサ20によりタイヤ1の全周に亘って出力し、第1のセンサ10の出力電圧から第1及び第2のセンサ10,20の出力電圧の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じて得た判定値が所定の判定基準値以上か否かを判定することにより、金属ワイヤ1の端部位置の異常を検出するようにしたので、他の金属ワイヤ7の存在により第1のセンサ10の出力電圧が大きくなっても、判定基準値を変更することなく検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常を検出するタイヤの金属ワイヤ検出方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗用車等に用いられる空気入りタイヤは、トレッド部の内側にベルト層を有し、ベルト層には補強用の多数の金属ワイヤが埋設されている。この金属ワイヤは両端がショルダー部の表層近傍に位置しているため、未加硫タイヤの成形時や加硫成型時に金属ワイヤの整列乱れを生じ、一部の金属ワイヤの端部がベルト層の外側に偏在した状態でタイヤが製造される場合がある。
【0003】
このような場合、金属ワイヤの端部がタイヤの外表面に露出していれば外観検査によって発見することができるが、タイヤの外表面に露出していない場合でも、適正な位置よりもタイヤの外側に位置している場合には、タイヤの使用中に外部に露出するおそれがあるため、完成タイヤの検査工程において、タイヤ内の金属ワイヤの端部が適正な位置にあるか否かを検査する必要がある。
【0004】
そこで、従来では、磁気センサによってタイヤの外部から金属ワイヤまでの距離をタイヤ全周に亘って測定することにより、金属ワイヤの端部位置の異常箇所を検出するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0005】
この検出方法では、金属ワイヤから磁気センサまでの距離が短くなると、磁気センサの出力電圧が大きくなるため、出力電圧が所定の基準値以上になった箇所があるか否かを判定することにより、金属ワイヤの端部位置の異常を検査するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−148049号公報
【特許文献2】特開2007−7915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、完成タイヤの検査工程においては、仕様の異なる複数種類のタイヤを検査する場合があるが、タイヤの種類によって金属ワイヤの位置や密度が異なる場合が多く、ベルト層以外の部分(例えばサイドウォール部)にも金属製の補強材が埋設されている場合もある。このような場合、磁気センサの出力電圧もタイヤの種類によって変動するため、例えば金属ワイヤの本数が多い仕様のタイヤや、他の部分に金属製の補強材を有するタイヤの場合には、磁気センサの出力値が大きくなって誤検出を生じやすくなり、精度よく検査を行うことができなかった。このため、誤検出を防止するためには、磁気センサの出力電圧に対する判定基準値をタイヤの種類ごとに変更しなければならず、検査の効率を低下させるという問題点があった。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、仕様の異なるタイヤであっても金属ワイヤの端部位置の異常箇所を常に精度よく検出することのできるタイヤの金属ワイヤ検出方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、タイヤ内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常を検出するタイヤの金属ワイヤ検出方法において、前記タイヤの外部から金属ワイヤまでの距離に応じた検出値を第1のセンサによりタイヤの全周に亘って出力するとともに、タイヤの外部からタイヤの表面までの距離に応じた検出値を第2のセンサによりタイヤの全周に亘って出力し、第1のセンサの検出値から第1及び第2のセンサの検出値の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じた値が所定の判定基準値以上か否かを判定することにより、金属ワイヤの端部位置の異常を検出するようにしている。
【0010】
また、本発明は前記目的を達成するために、タイヤ内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常を検出するタイヤの金属ワイヤ検出装置において、前記タイヤの外部から金属ワイヤまでの距離に応じた検出値をタイヤの全周に亘って出力する第1のセンサと、タイヤの外部からタイヤ表面までの距離に応じた検出値をタイヤの全周に亘って出力する第2のセンサと、第1のセンサの検出値から第1及び第2のセンサの検出値の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じた値が所定の判定基準値以上か否かを判定する判定処理部とを備えている。
【0011】
これにより、第1のセンサの検出値から第1及び第2のセンサの検出値の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じた値を判定値として、判定値が所定の判定基準値以上か否か判定されることから、例えば他の金属ワイヤの存在により第1のセンサの検出値が大きくなっても、判定値の大きさは他の金属ワイヤを有しないタイヤの場合と変わらないため、他の金属ワイヤを有するタイヤの場合でも判定基準値を変更することなく検出が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば他の金属ワイヤを有する他の仕様のタイヤを検査する場合、他の金属ワイヤの存在により第1のセンサの検出値が大きくなっても、判定基準値を変更することなく検出することができるので、他の金属ワイヤの有無に拘わらず金属ワイヤの端部位置の異常箇所を常に精度よく検出することができる。これにより、仕様の異なる複数種類のタイヤを検査する場合でも、判定基準値をタイヤの種類ごとに変更する必要がなく、検査効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示す金属ワイヤ検出装置の要部正面図
【図2】金属ワイヤ検出装置の構成を示すブロック図
【図3】第1の検出例を示す金属ワイヤ検出装置の要部拡大正面図
【図4】第1の検出例における電圧の波形を示す図
【図5】第2の検出例を示す金属ワイヤ検出装置の要部拡大正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至図5は本発明の一実施形態を示すもので、同図に示す金属ワイヤ検出装置はタイヤ1内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常箇所を検出するためのものである。
【0015】
タイヤ1はトレッド部2の内側にベルト層3を有し、ベルト層3には補強用の多数の金属ワイヤ4が埋設されている。金属ワイヤ4はタイヤ周方向に対して所定の傾斜角度をなすように互いに間隔をおいて配列され、その両端はショルダー部5の表層近傍に位置している。
【0016】
本実施形態の金属ワイヤ検出装置は、タイヤ1の外部から金属ワイヤ4までの距離に応じた検出値(電圧)をタイヤ1の全周に亘って出力する第1のセンサ10と、タイヤ1の外部からタイヤ表面までの距離に応じた検出値(電圧)をタイヤ1の全周に亘って出力する第2のセンサ20と、第1及び第2のセンサ10,20が取付けられたセンサユニット30と、第1のセンサ10の出力電圧を増幅して出力する第1の増幅器40と、第1及び第2のセンサ10,20の出力電圧の差を増幅して出力する第2の増幅器50と、第1及び第2の増幅器40,50の出力電圧に基づいて金属ワイヤ4の端部異常箇所の有無を判定する判定処理部60とを備えている。
【0017】
第1のセンサ10は、周知の磁気センサからなり、金属ワイヤ4との距離に応じた電圧を第1の増幅器40に出力するようになっている。
【0018】
第2のセンサ20は、レーザー等を用いる周知の光センサからなり、タイヤ表面との距離に応じた電圧を第2の増幅器50に出力するようになっている。
【0019】
センサユニット30は第1及び第2のセンサ10,20がそれぞれ同一方向に臨むように固定された基板31と、基板31に取付けられたローラ32とを備え、基板31は支持部材33を介して図示しない駆動部により移動自在に設けられている。このセンサユニット30は、ローラ32がタイヤ表面に当接することにより、第1及び第2のセンサ10,20とタイヤ表面との間に所定間隔が保持されるようになっており、タイヤ1が周方向に回転すると、ローラ32がタイヤ表面に接触しながら回転し、第1及び第2のセンサ10,20の検出がタイヤ周方向に亘って連続的に行われるようになっている。
【0020】
第1の増幅器40は、第1のセンサ10から出力される電圧が入力され、この電圧を増幅して得られる電圧をタイヤ1の全周に亘る波形として判定処理部60に出力するようになっている。
【0021】
第2の増幅器50は、第1のセンサ10と第2のセンサ20からそれぞれ出力される電圧が入力され、これらの電圧の差を増幅して得られる電圧を判定処理部60に出力するようになっている。
【0022】
判定処理部60は、A/D変換器、比較器、マイクロコンピュータ等から構成され、第2の増幅器50から出力される電圧値をタイヤ全周に亘って平均し、第1の増幅器40から出力される電圧値と比較することにより、金属ワイヤ4の端部異常箇所の有無を判定するようになっている。この判定処理部60では、金属ワイヤ4の端部異常箇所がないと判定した場合は「正常」の判定信号を出力し、金属ワイヤ4の端部異常箇所があると判定した場合は「異常」の判定信号を出力するとともに、異常箇所のタイヤ周方向の位置データ(回転角度)を出力するようになっている。
【0023】
以上のように構成された金属ワイヤ検出装置においては、例えばユニフォミティー試験機に保持されたタイヤのショルダー部5にセンサユニット30を移動し、センサユニット30のローラ32をタイヤ表面に当接させ、ユニフォミティー試験機によってタイヤを回転させる際に同時に測定を行う。その際、タイヤ全周に亘る測定が完了すると、判定処理部60から判定信号が出力される。
【0024】
この場合、判定処理部60では、第1のセンサ10から出力される電圧をAn (n=1,2,3,…) 、第2のセンサ20から出力される電圧をBn (n=1,2,3,…) 、第1及び第2のセンサ10,20から出力される電圧の差のタイヤ全周に亘る平均値を(A−B)、第1のセンサ10の出力電圧An から電圧差の平均値(A−B)を減じた値を判定値Cn (n=1,2,3,…) とし、判定値Cn を、
Cn =An −(A−B) …(1)
とすれば、判定値Cn を所定の判定基準値Dと比較することにより、判定値Cn が判定基準値D以上の場合に「異常」と判定する。この場合、センサユニット30のローラ32がタイヤ表面に当接することにより、第2のセンサ20からタイヤ表面までは所定距離に保たれるため、第2のセンサ20の出力電圧Bn はタイヤ全周に亘ってほぼ一定となる。従って、第1のセンサ10の出力電圧An がその平均値Aとほぼ同じ値であれば、判定値Cn は式(1) より第2のセンサ20の出力電圧の平均値Bとほぼ等しくなるので、判定基準値Dは第2のセンサ20の出力電圧よりも大きい所定の電圧に予め設定しておくことができる。
【0025】
即ち、図3(a) 及び図4(a) の第1の検出例に示すように、金属ワイヤ4が適正な位置にある場合は、判定値Cn が判定基準値Dよりも小さい値となり、判定処理部60によって「正常」と判定される。また、図3(b) 及び図4(b) に示すように、一部の金属ワイヤ4がタイヤ1の外部に露出していた場合には、その箇所θn の第1のセンサ10の出力値An が急激に大きくなるため、判定値Cn が判定基準値D以上となり、判定処理部60によって「異常」と判定される。更に、金属ワイヤ4がタイヤ1の外部に露出していない場合でも、図3(c) 及び図4(c) に示すように、一部の金属ワイヤ4が適正な位置よりもタイヤ1の外側に位置している場合、その箇所θn の判定値Cn が判定基準値D以上となれば、判定処理部60によって「異常」と判定される。
【0026】
ここで、図5の第2の検出例に示すように、ベルト層3の金属ワイヤ4以外に、サイドウォール部6を補強する他の金属ワイヤ7が埋設されている場合、他の金属ワイヤ7の存在によって第1のセンサ10の出力電圧が大きくなるが、本実施形態の検出方法では、前述したように第1のセンサ10の出力電圧An から第1及び第2のセンサ10,20の出力電圧の差の平均値(A−B)を減じた値を判定値Cn としているため、判定値Cn の大きさは第1の検出例の場合と変わらず、他の金属ワイヤ7を有するタイヤに対して判定基準値Dを変更する必要がない。
【0027】
例えば、第1の検出例において、第1のセンサ10の出力電圧の平均値Aを3V、第2のセンサ20の出力電圧を2Vとすると、第1のセンサ10の出力電圧An が平均値Aと同じ3Vの場合は、
Cn =3−(3−2)=2V …(2)
となり、第1のセンサ10の出力電圧An が平均値Aよりも大きい3.5Vの場合は、
Cn =3.5−(3−2)=2.5V …(3)
となる。
【0028】
また、第2の検出例において、第1のセンサ10の出力電圧の平均値Aを5V、第2のセンサ20の出力電圧を2Vとすると、第1のセンサ10の出力電圧An が平均値Aと同じ5Vの場合は、
Cn =5−(5−2)=2V …(4)
となり、第1のセンサ10の出力電圧An が平均値Aよりも大きい5.5Vの場合は、
Cn =5.5−(5−2)=2.5V …(5)
となる。
【0029】
従って、第2の検出例のように他の金属ワイヤ7の存在により第1のセンサ10の出力電圧An が大きくなっても、判定値Cn の大きさは第1の検出例と変わらないため、第2の検出例においても判定基準値Dを変更することなく検出が可能となる。
【0030】
このように、本実施形態によれば、タイヤ1の外部から金属ワイヤ4までの距離に応じた電圧を第1のセンサ10によりタイヤ1の全周に亘って出力するとともに、タイヤ1の外部からタイヤ表面までの距離に応じた電圧を第2のセンサ20によりタイヤ1の全周に亘って出力し、第1のセンサ10の出力電圧An から第1及び第2のセンサ10,20の出力電圧の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じて得た判定値Cn が所定の判定基準値D以上か否かを判定することにより、金属ワイヤ1の端部位置の異常を検出するようにしたので、他の金属ワイヤ7の存在により第1のセンサ10の出力電圧が大きくなっても、判定基準値Dを変更することなく検出することができ、他の金属ワイヤ7の有無に拘わらず金属ワイヤ4の端部位置の異常箇所を常に精度よく検出することができる。これにより、仕様の異なる複数種類のタイヤを検査する場合でも、判定基準値Dをタイヤの種類ごとに変更する必要がなく、検査効率の向上を図ることができる。
【0031】
尚、前記実施形態では、ベルト層3の金属ワイヤ4以外にサイドウォール部6の金属ワイヤ7を有する場合を例示したが、ベルト層3の金属ワイヤ4の本数、外径寸法、配置等が異なることにより第1のセンサ10の出力電圧が変わる場合でも、前述と同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、前記実施形態では、判定基準値Dを第2のセンサ20の出力電圧よりも大きい所定の電圧に予め設定するようにしたものを示したが、判定基準値Dを固定せず、第2のセンサ20の出力電圧のタイヤ全周に亘る平均値を一回の検出動作ごとに算出し、これに所定の電圧を加えた値を判定基準値Dとして毎回設定するようにすれば、タイヤ表面からの距離がタイヤの形状等によって変動した場合でも、検出精度を低下させることがないという利点がある。これにより、例えばローラ32を用いずにセンサユニット30を非接触でタイヤ表面に近接させるようにすることも可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…タイヤ、4,7…金属ワイヤ、10…第1のセンサ、20…第2のセンサ、60…判定処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常を検出するタイヤの金属ワイヤ検出方法において、
前記タイヤの外部から金属ワイヤまでの距離に応じた検出値を第1のセンサによりタイヤの全周に亘って出力するとともに、タイヤの外部からタイヤの表面までの距離に応じた検出値を第2のセンサによりタイヤの全周に亘って出力し、
第1のセンサの検出値から第1及び第2のセンサの検出値の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じた値が所定の判定基準値以上か否かを判定することにより、金属ワイヤの端部位置の異常を検出する
ことを特徴とするタイヤの金属ワイヤ検出方法。
【請求項2】
一回の検出動作ごとに検出される第2のセンサの検出値に所定の値を加えた値を前記判定基準値として毎回設定する
ことを特徴とする請求項1記載のタイヤの金属ワイヤ検出方法。
【請求項3】
タイヤ内の表層近傍に位置する金属ワイヤの端部位置の異常を検出するタイヤの金属ワイヤ検出装置において、
前記タイヤの外部から金属ワイヤまでの距離に応じた検出値をタイヤの全周に亘って出力する第1のセンサと、
タイヤの外部からタイヤ表面までの距離に応じた検出値をタイヤの全周に亘って出力する第2のセンサと、
第1のセンサの検出値から第1及び第2のセンサの検出値の差のタイヤ全周に亘る平均値を減じた値が所定の判定基準値以上か否かを判定する判定処理部とを備えた
ことを特徴とするタイヤの金属ワイヤ検出装置。
【請求項4】
前記第1のセンサに磁気センサを用いた
ことを特徴とする請求項3記載のタイヤの金属ワイヤ検出装置。
【請求項5】
前記第2のセンサに光センサを用いた
ことを特徴とする請求項3または4記載のタイヤの金属ワイヤ検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−21891(P2011−21891A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164402(P2009−164402)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】