説明

タイル連結体及びその製造方法

【課題】隣接するセラミックス製タイル同士が直接に連結されているタイル連結体と、その製造方法とを提供する。
【解決手段】タイル連結体11は10個のタイル1〜10が融着により連結されて一体化されたものである。タイル連結体11を製造するには、通常のタイル用原料坏土に発泡剤を添加しておき、焼成時にタイルが発泡するようにしておく。発泡剤入りの坏土をプレス成形装置等を用いて各タイル1〜10の外形を有した成形体1’〜10’を成形する。焼成過程において、成形体が焼結すると共に、発泡剤からのガスにより焼結体が膨張する。これにより、タイル同士が融着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚のセラミックス製のタイルを連結したタイル連結体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のタイルを連結したタイルユニットを壁面に張り付け施工すると、タイルを1枚ずつ張り付け施工する場合に比べ、施工効率が著しく向上する。このようなタイルユニットとして、複数枚のタイルが縦横に配置され、隣接するタイル同士が紙を糊付けすることによって連結された紙張りタイルユニットが広く用いられている。
【0003】
このような紙張りタイルユニットは、一体の剛体物ではなく、タイル張り施工時に各タイルが揺れ動き得るため、若干取り扱いにくい。また、タイル張り後、水で湿らせて紙を剥し、且つ付着した糊を除去する作業も必要となり、作業工数が多い。
【0004】
陶磁器製の複数枚のタイル同士を剛に接合したタイルパネルの製造方法が特開平7−173918号に記載されている。この特開平7−173918号では、複数枚のタイルを目地間隔を隔てて並べるとともに該目地間隙に粉末状発泡性セラミックス原料を充填し、しかる後これを焼成して各タイルを発泡セラミックスにて接合し、パネル化する。
【特許文献1】特開平7−173918号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特開平7−173918号のタイルパネルの製造方法では、タイルを製造する工程(主として、坏土の成形工程及び焼成工程とからなる。)と、タイルを発泡セラミックスにて接合すべく粉末状発泡性セラミックス原料をタイル間に充填し焼成する工程とを行うため、2回の焼成が不可欠である。このように2回の焼成工程を経ることは、燃料コストが2倍かかるだけでなく、製造に要する工数及び時間も約2倍かかることになり、生産性が低い。
【0006】
また、タイル目地間に粉末状発泡性セラミックス原料を充填して焼成する場合、粉末状発泡性セラミックス原料が過度に膨張すると、粉末状発泡性セラミックス原料由来の目地がタイル前面よりも前方に膨出してしまい、不良品となる。粉末状発泡性セラミックス原料がタイルの表面(前面)に付着残留していた場合、この粉末状発泡性セラミックス原料由来の異物がタイル表面に固着してしまい、不良品となる。
【0007】
さらに、各目地部に均等量の粉末状発泡性セラミックス原料を充填し、且つ均等圧にて押し填めておかないと、目地内の焼結物(目地セラミックス)が不均一となり、タイルパネルの見栄えが悪くなる。例えば、タイルパネルの周縁部に臨む目地間隙にあっては、そこから粉末状発泡性セラミックス原料が崩落する如く脱落してしまうため、目地内の焼結物(目地セラミックス)の量が不足し、あたかも目地填め不足であるかの如き外観となってしまう。
【0008】
仮に発泡を極めて均一に行わせ得たとしても、発泡焼成物よりなる目地セラミックスの表面は、セメント系目地材を充填する従来のタイル張り仕上げ壁の目地に比べると凹凸がある不揃いのものであり、美感に欠ける。
【0009】
加えて、高温で十分に焼成したタイルと、目地部の粉末状発泡性セラミックス原料の焼成体とでは、質感が明らかに異なり、外観上の異和感が解消されない。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、隣接するセラミックス製タイル同士が直接に連結されているタイル連結体と、その製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のタイル連結体は、複数枚のセラミックス製のタイルが連結されてなるタイル連結体であって、隣接するタイル同士が直接に接して融着することにより連結されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のタイル連結体は、請求項1において、タイルのセラミックス成分自体が相互間で拡散してタイル同士が融着していることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のタイル連結体は、請求項1又は2において、隣接するタイル同士の突き合わせ部にタイルの少なくとも前面の角縁が融着せずに残存し、該タイル連結体の前面において両タイル間に筋状に継目が存在していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のタイル連結体は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該タイル連結体の前面において隣接するタイル同士の突き合わせ部を挟んで両タイルに段差が存在することを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のタイル連結体は、請求項1ないし4のいずれか1項において、各タイルは表面が凹凸面となっている割石調タイルであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6のタイル連結体は、請求項1ないし5のいずれか1項において、隣接するタイル同士はタイルの焼成工程において融着したものであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7のタイル連結体は、請求項6において、タイルは焼成工程において発泡した発泡タイルであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8のタイル連結体の製造方法は、請求項7に記載のタイル連結体を製造する方法であって、焼成によりガスを発生して焼成過程でタイルを膨張させるガス発生剤を含んだ坏土のタイル用成形体を複数枚、並列配置し、焼成して該成形体を焼結させると共に、焼成過程においてタイルを膨張させ、隣接するタイル同士を直に融着させることを特徴とするものである。
【0019】
請求項9のタイル連結体の製造方法は、請求項8において、タイル用成形体同士を当接させて並列配置しておくことを特徴とするものである。
【0020】
請求項10のタイル連結体の製造方法は、請求項8又は9において、複数枚の前記タイル用成形体を焼成用トレーの上に並列配置して焼成するようにした方法であって、当接させて並列配置された複数枚のタイル用成形体のうち、並列方向の最も端に位置するタイル用成形体の外側に、タイルの横ずれを防止するための位置決め材を配置しておくことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のタイル連結体は、成形体のタイル同士が直接に接して融着により連結されているものであり、外観上の異和感をもたらすおそれのある目地セラミックスが存在しない。
【0022】
本発明では、タイル同士をフラックス成分(例えば珪石ソーダ系、硼珪酸ソーダ系等のガラス成分)をタイル用成形体の木端面に塗布したりすることなく、製造することができる。
【0023】
本発明では、上記融着は、タイルの木端面の全体が溶融して隣接するタイルの木端面に連結一体化するものではなく、タイル同士の突き合わせ部にタイルの角縁が残存し、両タイル間に筋状に継目が存在する程度に行われるのが好ましい。これにより、各タイルが別個の独立したタイルとして視覚され、タイル連結体がタイル集合体として視覚される。このタイル連結体を壁面に複数枚張り付け施工すると、多数のタイルを、手張りにより突き付けて施工した高級感に富むタイル仕上り壁が構築される。
【0024】
このタイルの突き合わせ部を挟んで両タイルの前面に段差が存在すると、凹凸感を有した意匠性に富むタイル仕上げ壁を構築することができる。このタイルの表面(前面)を割石調の凹凸面とすることにより、意匠性がさらに高くなる。
【0025】
タイルが発泡タイルであるタイル連結体は、本発明方法により製造することができる。
【0026】
この製造方法では、タイルの焼成とタイル同士の融着とを1回の焼成で行うことができ、製造コストを低くし、製造時間を短縮することが可能である。
【0027】
この場合、タイル成形体同士を当接させて並列配置しておくことにより、タイル同士の融着を効率よく行うことができる。
【0028】
なお、焼成途中でタイルが膨張すると、タイル同士が押し合って相互に離反しようとするので、この離反(横ずれ)を阻止するための位置決め材を配置しておき、焼成途中でタイル同士を押し付け合わせて融着を促進させると共に、タイル連結体の寸法精度を高めることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係るタイル連結体の斜視図、第2図はタイル連結体の製造方法を示す断面図、第3図はタイル同士の融着機構を説明する模式的な断面図である。
【0030】
第1図の通り、この実施の形態のタイル連結体11は10個のタイル1〜10が融着により連結されて一体化されたものである。
【0031】
各タイル1〜10はそれぞれ長方形状であり、タイル1〜4の連結体が細長い長方形を呈し、タイル5〜10の連結体が細長い長方形を呈している。タイル1〜4の長方形連結体に対しタイル5〜10の長方形連結体が若干長手方向にずれた配置となっている。このタイル連結体11は、上記の各長方形連結体の長手方向が水平方向となるように壁面に対し接着剤やモルタルを用いて張り付け施工される。
【0032】
この実施の形態では、各タイルの前面は凹凸を有した割石調である。隣接する各タイル前面には、段差がある。ただし、一部のタイル例えばタイル8,9間の継目付近には殆ど段差がない。
【0033】
このタイル連結体11の水平方向(例えば、タイル6〜10を結ぶ方向)の長さは、60〜260mm程度が好適であり、上下方向(例えばタイル3,5,6を結ぶ方向)の幅は60〜260mm程度が好適である。
【0034】
このタイル連結体11を製造するには、通常のタイル用原料坏土に発泡剤を添加しておき、焼成時にタイルが発泡するようにしておく。タイル用原料坏土としては、長石、珪砂、陶土、粘土、シャモット、廃ガラス等を適宜の割合で調合したものが用いられる。この坏土の好適な配合の一例は、長石45〜65重量部、珪砂3〜7重量部、粘土20〜40重量部、廃ガラス8〜12重量部(合計で100重量部)であるが、これに限定されない。
【0035】
発泡剤としては、炭化珪素、カーボン等が用いられるが、炭化珪素が好適である。炭化珪素の配合量は、坏土100重量部に対し0.01〜0.20重量部程度が好適である。
【0036】
この発泡剤入りの坏土をプレス成形装置等を用いて各タイル1〜10の外形を有した成形体1’〜10’を成形する。なお、1’,2’,4’,7’〜10’は図示が省略されている。第2図は第1図のII−II線に沿う焼成前の断面を示している。
【0037】
各成形体1’〜10’を焼成用トレー20の上に、タイル連結体11における各タイル1〜10の配置と同一配置となるように配置する。このトレーはアルミナ等の高耐火度のセラミックス焼成体よりなる。
【0038】
なお、この実施の形態では、トレー20の大きさはタイル連結体11の複数個分の大きさを有しており、トレー20上に成形体1’〜10’の組み合わせが複数セット配置される。トレー20の周囲には土手部21が設けられており、トレー20を複数段積み重ねてトンネル窯などの焼成炉内に送り込むことが可能となっている。
【0039】
トレー20上に成形体1’〜10’を配置するときには、トレー20上にアルミナ粉などの高耐火度粉末を散布しておき、タイルがトレー20に融着しないようにしておくのが好ましい。
【0040】
この実施の形態では、隣接する成形体1’〜10’を突き付けるようにして配置する。1つの成形体1’〜10’のセットと、それに隣接するセットの成形体1’〜10’のセットとの間には、アルミナ等よりなるスペーサ23を配置する。また、土手部21と成形体1’〜10’のセットとの間にもアルミナ等よりなるスペーサ22を介在させておく。
【0041】
このように成形体1’〜10’をトレー20上に並列配置した後、例えば1200〜1250℃で30〜45時間焼成する。
【0042】
この焼成過程において、成形体が焼結すると共に、発泡剤からのガス発生により焼結体が膨張する。炭化珪素の配合量が上記の通り0.01〜0.20wt%程度であると、線膨張率は0〜5%程度である。
【0043】
このように焼成過程で焼結体が膨張することにより、タイルのセラミックス成分自体がタイル相互間で拡散するようにして、隣接するタイル1〜10同士がしっかりと融着して連結し、タイル連結体11となる。なお、上記の焼成温度及び時間であると、各タイル1〜10の木端面(側面)の全面が溶融付着するのではなく、木端面が部分的に融着する。
【0044】
この融着プロセスについて第3図を参照して説明する。なお、(a)図は成形体3’と5’との突き合わせ部の縦断面図、(b)図は(a)図のB部の拡大図、(c)図は焼結体のB部分の断面図である。
【0045】
成形体1’〜10’を突き合わせた状態では、第3図(b)の通り、ミクロ的に見ると、成形体の木端面のうち一部同士が当接し、他の部分では離隔して隙間があいている。焼成過程では、焼結体が膨張して焼結体同士が押し付け合わされ、当初から当接していた箇所や、隙間が小さい箇所では、第3図(c)の通り、タイル焼結体同士が融着する。
【0046】
隙間が大きかった箇所では、焼結後でもクリアランスCが残存する。
【0047】
特に、坏土を乾式プレス成形する場合には、金型に抜き勾配を設ける関係上、タイル成形体の前面近くでは、(b)図の通り、木端面間に比較的大きなクリアランスCがあいている。
【0048】
従って、(c)図の通り、焼結後でも、タイル同士が突き合う部分では、ミクロ的にはクリアランスCが残存し、このクリアランスCが筋状のタイル目地として視覚される。この結果、タイル連結体11は、連続一様なのっぺりとした1枚物ではなく、独立した各タイル1〜10が突き付けられたものとして視認されるようになる。
【0049】
なお、タイルが焼成中に膨張するが、タイル連結体11の短手幅方向にあっては成形体並列配置体の両側にスペーサ22,23が存在し、短手幅方向にはタイル連結体11が広がらない。従って、タイル連結体11の製品にあっては、短手幅方向寸法が良好になる。このため、このタイル連結体を張り付け施工する際に、タイルの水平目地を揃えることが容易である。
【0050】
複数の該タイル連結体11を用いてタイル張り施工したタイル壁は、各タイル1〜10が直に突き付けられ、しかもタイル1〜10の前面が割石調であり、水平目地が良く通った美麗で意匠性に富んだものとなる。
【0051】
なお、第1図は本発明の一例であり、図示以外のタイル配列、タイル枚数、タイル大きさとしてもよいことは明らかである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例について説明する。
【0053】
実施例1
坏土として次の調合のものを用いた。
長石55重量部
珪砂5重量部
粘土30重量部
廃ガラス10重量部
【0054】
この坏土100重量部に対し、炭化珪素0.01重量部を配合し、十分に粉砕、混合した。この発泡剤入り坏土を用いて成形体1’〜10’をプレス成形した。各成形体の長辺と短辺の寸法は次の通りである。
成形体1’:70×25mm
成形体2’:70×40mm
成形体3’:55×65mm
成形体4’:135×65mm
成形体5’:135×25mm
成形体6’:85×40mm
成形体7’:50×40mm
成形体8’:40×65mm
成形体9’:80×40mm
成形体10’:80×25mm
【0055】
各成形体1’〜10’を第2図の如くトレー20上に第1図のパターンに並列配置した。
次いで、トンネル窯にて1210℃×45Hr焼成した。
【0056】
この結果、第1図に示すタイル連結体11が得られた。このタイル連結体11の各タイル間には、筋状の目地線が明瞭に視認され、高級感に富むものであった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施の形態に係るタイル連結体の斜視図である。
【図2】タイル連結体の製造方法を示す断面図である。
【図3】タイル同士の融着機構を説明する模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1〜10 タイル
11 タイル連結体
20 焼成用トレー
21 土手部
22,23 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のセラミックス製のタイルが連結されてなるタイル連結体であって、
隣接するタイル同士が直接に接して融着することにより連結されていることを特徴とするタイル連結体。
【請求項2】
請求項1において、タイルのセラミックス成分自体が相互間で拡散してタイル同士が融着していることを特徴とするタイル連結体。
【請求項3】
請求項1又は2において、隣接するタイル同士の突き合わせ部にタイルの少なくとも前面の角縁が融着せずに残存し、該タイル連結体の前面において両タイル間に筋状に継目が存在していることを特徴とするタイル連結体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該タイル連結体の前面において隣接するタイル同士の突き合わせ部を挟んで両タイルに段差が存在することを特徴とするタイル連結体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、各タイルは表面が凹凸面となっている割石調タイルであることを特徴とするタイル連結体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、隣接するタイル同士はタイルの焼成工程において融着したものであることを特徴とするタイル連結体。
【請求項7】
請求項6において、タイルは焼成工程において発泡した発泡タイルであることを特徴とするタイル連結体。
【請求項8】
請求項7に記載のタイル連結体を製造する方法であって、
焼成によりガスを発生して焼成過程でタイルを膨張させるガス発生剤を含んだ坏土のタイル用成形体を複数枚、並列配置し、
焼成して該成形体を焼結させると共に、焼成過程においてタイルを膨張させ、隣接するタイル同士を直に融着させることを特徴とするタイル連結体の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、タイル用成形体同士を当接させて並列配置しておくことを特徴とするタイル連結体の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、複数枚の前記タイル用成形体を焼成用トレーの上に並列配置して焼成するようにした方法であって、
当接させて並列配置された複数枚のタイル用成形体のうち、並列方向の最も端に位置するタイル用成形体の外側に、タイルの横ずれを防止するための位置決め材を配置しておくことを特徴とするタイル連結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−99594(P2007−99594A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295127(P2005−295127)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】