説明

タップ

【課題】環境汚染の予防を図ることができるタップを提供すること。
【解決手段】タップ1によれば、溝4に開口形成される吸引路6を備えると共に、その吸引路6が、排出路5を介してシャンク2後端面の開口に連通されるように構成されているので、排出路5を介して吸気を行うことで、切削加工時に生成される切り屑を吸引路6から強制的に吸引し、その吸引した切り屑を排出路5を介してシャンク2後端面の開口から排出することができる。よって、従来品と比較して、切り屑を排除するための切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができ、環境汚染の予防を図ることができる。更に、切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができれば、切削液の回収コストを低減することができるので、その分、加工コストの削減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タップに関し、特に、環境汚染の予防を図ることができるタップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、タップによる切削加工において、切削液を供給して、切り屑を排除することは、工具寿命の延長や加工精度の確保などのために重要である。
【0003】
切削液の供給方法としては、外部から切削液を供給する外部給油方式が一般的であるが、この方式では、遠心力によって切削液が飛散し、供給が不十分となるという問題点がある。そこで、従来より、外部給油方式よりも給油効果の点で優れた方式、即ち、タップの内部に貫通させた油穴から切削液を供給する内部給油方式に関する技術が種々提案されている(特許文献1および特許文献2)。
【特許文献1】特開平7−63894号公報
【特許文献2】特開平11−333630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、切削液には塩素やリン等の有害な物質が含まれているため、切削液を使用する場合には、環境汚染の誘因となるという問題点があった。その結果、切削液を完全に回収する必要があり、その分、コストが嵩むため、近年では、切削液の使用を抑制し得る技術の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、切削液の使用を抑制して、環境汚染の予防を図ることができるタップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を解決するために請求項1記載のタップは、食付き部を有するねじ部と、そのねじ部に連設されるシャンクと、前記ねじ部の外周面に凹設される溝とを備え、前記シャンクの軸心回りに回転されることで、前記ねじ部によって被加工物にめねじを切削加工するものであって、前記シャンクの後端面から前記ねじ部にかけて前記シャンクの軸心に沿う直線状に延設されると共に断面円形状に形成される排出路と、その排出路に連通されると共に前記溝に開口形成される吸引路とを備え、その吸引路は、前記溝に開口される開口部の面積が前記排出路に連通される連通部の面積よりも大きく構成され、前記排出路を介して吸気が行われることで、切削加工時に生成される切り屑を前記吸引路から吸引し、前記排出路を介して前記シャンク後端面の開口から排出するように構成されている。
【0007】
請求項2記載のタップは、請求項1記載のタップにおいて、前記吸引路の開口部は、前記食付き部の範囲内に位置するように構成されている。
【0008】
請求項3記載のタップは、請求項1又は2に記載のタップにおいて、前記吸引路の開口部は、円形状に形成されると共に、その開口部の直径は、前記ねじ部の外径の20%以上、かつ、50%以下の大きさに設定されている。
【0009】
請求項4記載のタップは、請求項1から3のいずれかに記載のタップにおいて、前記吸引路は、円錐形状に形成されると共に、その吸引路のテーパ角度は、85°以上、かつ、95°以下の大きさに設定されている。
【0010】
請求項5記載のタップは、請求項1から4のいずれかに記載のタップにおいて、前記吸引路は、その吸引路の軸心を前記シャンクの軸心に対して傾斜させ、前記開口部が前記ねじ部の先端側へ向くように構成されている。
【0011】
請求項6記載のタップは、請求項1から5のいずれかに記載のタップにおいて、前記溝は、少なくとも前記食付き部の範囲に延設され、その溝の延設長さは、前記ねじ部の範囲に対応する長さよりも短く構成されている。
【0012】
請求項7記載のタップは、請求項1から6のいずれかに記載のタップにおいて、前記排出路は、前記シャンクの後端面から前記ねじ部の先端面にかけて貫通形成されると共に、
その排出路内であって前記ねじ部の先端に配設される栓部材を備えている。
【0013】
請求項8記載のタップは、請求項1から6のいずれかに記載のタップにおいて、前記排出路は、前記シャンクの後端面から前記ねじ部の先端面にかけて貫通形成されると共に、
前記ねじ部の先端面に突起状に設けられる突起部を備えている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のタップによれば、溝に開口形成される吸引路を備えると共に、その吸引路が、排出路を介してシャンク後端面の開口に連通されるように構成されているので、排出路を介して吸気を行うことで、切削加工時に生成される切り屑を吸引路から強制的に吸引し、その吸引した切り屑を排出路を介してシャンク後端面の開口から排出することができる。
【0015】
よって、従来品と比較して、切り屑を排除するための切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができ、環境汚染の予防を図ることができるという効果がある。更に、切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができれば、切削液の回収コストを低減することができるので、その分、加工コストの削減を図ることができるという効果がある。
【0016】
また、吸引路から吸引された切り屑をシャンク後端面の開口から排出することができるので、切り屑が被加工物上に散乱することを回避して、清掃作業の簡略化を図ることができると共に、被加工物上に散乱した切り屑に起因して、加工精度が低下することを未然に回避することができるという効果がある。
【0017】
また、吸引路を溝に開口形成し、かかる吸引路から切り屑を吸引するように構成されているので、その分、溝による切り屑の収容能力を低く設定することができる。即ち、溝の容積(即ち、溝の幅や深さなど)を小さくしても、切り屑詰まりを抑制することができるので、溝の容積を小さくした分、工具断面積を大きくすることができる。その結果、ねじ部の剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0018】
また、吸引路の開口部の面積が連通部の面積よりも大きく構成されているので、切り屑の吸引性能の向上を図ることができるという効果がある。即ち、開口部の面積が連通部の面積よりも小さい場合には、溝内に収容された切り屑(例えば、吸引路から離れた位置にある切り屑)を十分に吸引することができず、吸引性能の低下を招くところ、本発明によれば、開口部の面積を連通部の面積よりも大きく構成することで、溝内に収容された切り屑を確実に吸引することができる。
【0019】
また、排出路の一端がシャンク後端面に開口するように構成されているので、例えば、シャンク側面に開口する場合と比較して、切り屑を排出するためのホルダの構造を簡素化することができるという効果がある。
【0020】
請求項2記載のタップによれば、請求項1記載のタップの奏する効果に加え、吸引路の開口部は、食付き部の範囲内に位置するように構成されているので、食付き部において生成される切り屑を、その食付き部の範囲内において早期に吸引することができる。よって、切り屑詰まりを抑制することができるという効果がある。
【0021】
請求項3記載のタップによれば、請求項1又は2に記載のタップの奏する効果に加え、吸引路の開口部は、円形状に形成されると共に、その開口部の直径は、ねじ部の外径の20%以上、かつ、50%以下の大きさに設定されているので、切り屑の吸引性能の向上と工具寿命の向上との両立を図ることができるという効果がある。
【0022】
即ち、開口部の直径がねじ部の外径の20%よりも小さい場合には、溝内に収容された切り屑(例えば、吸引路から離れた位置にある切り屑)を十分に吸引することができず、吸引性能の低下を招くところ、本発明によれば、開口部の直径をねじ部の外径の20%以上の大きさに設定することで、溝内に収容された切り屑を確実に吸引することができる。
【0023】
一方、開口部の直径がねじ部の外径の50%よりも大きい場合には、吸引性能は向上するが、その分、ねじ部の剛性低下を招くところ、開口部の直径をねじ部の外径の50%以下の大きさに設定することで、ねじ部の剛性を確保することができる。これにより、切り屑の吸引性能の向上を図りつつ、工具寿命の向上を図ることができる。
【0024】
請求項4記載のタップによれば、請求項1から3のいずれかに記載のタップの奏する効果に加え、吸引路は、円錐形状に形成されると共に、その吸引路のテーパ角度は、85°以上、かつ、95°以下の大きさに設定されているので、切り屑詰まりの抑制と工具寿命の向上との両立を図ることができるという効果がある。
【0025】
即ち、吸引路のテーパ角度が85°よりも小さい場合、つまり、開口部の開口面積が小さい場合には、開口部に切り屑が引っ掛かり、切り屑詰まりを起こし易いところ、本発明によれば、吸引路のテーパ角度を85%以上の大きさに設定することで、開口部の開口面積を十分に確保することができ、開口部への切り屑の引っ掛かりを抑制することができる。
【0026】
一方、吸引路のテーパ角度が95°よりも大きい場合、つまり、開口部の開口面積が大きい場合には、切り屑詰まりは抑制できるが、その分、ねじ部の肉厚が薄くなり、ねじ部の剛性低下を招くところ、本発明によれば、吸引路のテーパ角度を95°以下の大きさに設定することで、ねじ部の剛性を確保することができる。これにより、切り屑詰まりを抑制しつつ、工具寿命の向上を図ることができる。
【0027】
請求項5記載のタップによれば、請求項1から4のいずれかに記載のタップの奏する効果に加え、吸引路は、その吸引路の軸心をシャンクの軸心に対して傾斜させ、開口部がねじ部の先端側へ向くように構成されているので、切削加工時に生成され重力によってねじ部の先端側へ落下した切り屑を確実に吸引することができる。よって、切り屑の排出性能の向上を図ることができるという効果がある。
【0028】
また、吸引路の軸心をシャンクの軸心に対して傾斜させ、開口部がねじ部の先端側へ向くように構成することで、開口部を食付き部の刃先面方向に向けることができるので、食付き部において生成される切り屑をスムーズに吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができるという効果がある。
【0029】
請求項6記載のタップによれば、請求項1から5のいずれかに記載のタップの奏する効果に加え、溝は、少なくとも食付き部の範囲に延設されているので、食付き部において生成される切り屑を、その食付き部の全範囲において収容することができる。また、溝の延設長さは、ねじ部の範囲に対応する長さよりも短く構成されているので、工具断面積を大きくすることができる。その結果、ねじ部の剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0030】
請求項7記載のタップによれば、請求項1から6のいずれかに記載のタップの奏する効果に加え、排出路内であってねじ部の先端側に配設される栓部材を備えているので、排出路をシャンクの後端面からねじ部の先端面にかけて貫通形成した場合でも、栓部材によって排出路のねじ部先端側の開口を閉塞することができる。これにより、排出路を介して吸気を行う際には、吸引路に十分な負圧を与えることができる。更に、排出路を貫通形成することができれば、排出路を止まり穴として構成する場合と比較して、吸引路の開口部をねじ部の先端側に位置させることができるので、溝内に収容された切り屑を確実に吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができるという効果がある。
【0031】
請求項8記載のタップによれば、請求項1から6のいずれかに記載のタップの奏する効果に加え、ねじ部の先端面に設けられる突起部を備えているので、排出路をシャンクの後端面からねじ部の先端面にかけて貫通形成した場合でも、突起部によって排出路のねじ部先端側の開口を閉塞することができる。これにより、排出路を介して吸気を行う際には、吸引路に十分な負圧を与えることができる。更に、排出路を貫通形成することができれば、排出路を止まり穴として構成する場合と比較して、吸引路の開口部をねじ部の先端側に位置させることができるので、溝内に収容された切り屑を確実に吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の第1実施の形態におけるタップ1について説明する。図1(a)は、タップ1の正面図であり、図1(b)は、図1(a)の矢印Ib方向から視たタップ1の側面図である。
【0033】
タップ1は、加工機械(図示せず)から伝達される回転力によって被加工物の下孔(図示せず)にめねじを切削加工するための工具であり、図1に示すように、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金からソリッドタイプの工具として構成されると共に、シャンク2と、そのシャンク2に連設されるねじ部3とを主に備えて構成されている。但し、タップ1は、超硬合金に限られず、高速度工具鋼から構成されても良い。
【0034】
シャンク2は、ホルダ10(図3参照)を介して加工機械に保持される部位であり、図1に示すように、軸心O1を有する円柱状に形成されている。
【0035】
ねじ部3は、シャンク2を介して加工機械から伝達される回転力によって回転しつつ切削加工を行うための部位であり、図1に示すように、食付き部3aと、その食付き部3aに連設される完全山部3bとを備えて構成されている。また、ねじ部3の外周面には、3本の溝4が軸心O1と略平行にそれぞれ凹設されている。なお、本実施の形態では、ねじ部3の外径Dsが8mmに構成されている。
【0036】
食付き部3aは、被加工物の下孔に切削加工を施すことでめねじを切削するための部位であり、図1(a)に示すように、ねじ部3の先端側(図1(a)右側)へ向かうにつれて外径が小径となるテーパ状に形成されている。なお、本実施の形態では、食付き部3aの山数が5山に構成されている。
【0037】
完全山部3bは、食付き部3aによって切削しためねじの仕上げを行うための部位であり、被加工物の下孔に形成すべきめねじの形状と略同一形状に形成されている。なお、本実施の形態では、完全山部3bの山数が12山に構成されている。
【0038】
溝4は、切削加工時に食付き部3aにおいて生成される切り屑を収容するための部位であり、図1に示すように、略直線状に形成されると共にねじ部3の先端面(図1(a)右側面)から完全山部3bの11山目に対応する位置まで延設されている。
【0039】
この溝4は、円盤状の砥石を回転させつつねじ部3の先端側からねじ部3の後端側(図1(a)左側)へ向けて軸心O1方向へ平行移動させることで形成される。これにより、溝4は、ねじ部3の先端側における溝底の形状が軸心O1と略平行に形成されると共に、ねじ部3の後端側における溝底の形状が砥石の形状に対応して切り上がって形成され、ねじ部3の後端側へ向かうにつれて溝底径が大径となるように形成されている(図2参照)。なお、本実施の形態では、軸心O1と略平行に形成されるねじ部3の先端側における溝4の溝底径Dgが3.52mmに構成されている。
【0040】
また、図1に示すように、タップ1の内部には、排出路5が設けられている。排出路5は、後述するように、切削加工時に吸気が行われる部位であり、シャンク2及びねじ部3にドリル加工を施すことにより断面円形状に形成されると共に、シャンク2の後端面(図1(a)左側面)からねじ部3の食付き部3aにかけて軸心O1に沿う直線状に延設されている。なお、本実施の形態では、排出路5の直径Dhが2.5mmに構成されている。
【0041】
更に、図1に示すように、タップ1には、溝4に開口形成されると共に排出路5に連通される吸引路6が設けられている。ここで、図2を参照して、吸引路6の詳細構成について説明する。図2は、図1(b)のII−II線におけるタップ1の断面図である。なお、図2では、シャンク2の軸心O1方向長さを省略して図示している。
【0042】
吸引路6は、切削加工時に排出路5を介して吸気が行われることで、食付き部3aにおいて生成される切り屑を吸引するための部位であり、図2に示すように、円錐形状に形成され、溝4に開口される開口部6aの面積が排出路5に連通される連通部6bの面積よりも大きく構成されている。
【0043】
また、吸引路6は、その軸心O2をシャンク2の軸心O1に対して直交させて構成されると共に、開口部6aが食付き部3aの範囲内に位置するように構成されている。なお、請求項2記載の食付き部の範囲内とは、図2に示すように、タップ1をシャンク2の軸心O1と直角な方向から視た場合における、食い付き部3aの範囲内を意味する。
【0044】
なお、本実施の形態では、開口部6aの直径Doが2.5mmに構成されると共に、吸引路6のテーパ角度θが90°に構成されている。
【0045】
次に、上述のように構成されるタップ1を用いた切り屑の回収方法について、図3を参照して説明する。図3は、ホルダ10に保持されたタップ1の断面図である。なお、図3では、ホルダ10の一部を省略して図示している。また、図3では、切り屑の移動方向を矢印A,Bにより模式的に示している。
【0046】
タップ1は、図3に示すように、シャンク2がホルダ10に保持されることで加工機械(図示せず)に取り付けられる。また、切削加工時には、ポンプ(図示せず)によって加工機械側からホルダ10の内部に形成された内部空間11の吸気が行われる。これにより、タップ1は、排出路5を介して吸気が行われる。
【0047】
この場合、上述したように、排出路5には、溝4に開口形成される吸引路6が連通されているので、切削加工時には、矢印Aで示すように、食付き部3aにおいて生成される切り屑を吸引路6から強制的に吸引することができる。
【0048】
また、ポンプによる吸気が継続して行われることで、矢印Bで示すように、吸引路6から吸引した切り屑を排出路5を介してシャンク2後端面(図2上側面)から排出することができる。
【0049】
次に、タップ1を用いて行った切削試験について、図4を参照して説明する。図4は、切削試験の試験結果を示す図である。
【0050】
切削試験は、タップ1によって所定の切削条件で被加工物の下穴にめねじを切削加工した場合に、切削加工時に生成される切り屑の排出性能を調べるための試験である。なお、本切削試験では、切り屑の吸引率(生成された切り屑と吸引した切り屑との割合)によって排出性能の良否を判定する。
【0051】
切削試験の詳細諸元は、被加工物:JIS−ADC12、使用機械:縦型マシニングセンタ、切削速度:15m/min、下穴直径:6.8mm、加工深さ:20mmである。
【0052】
また、切削試験には、本実施の形態で説明したタップ1(以下、「本発明品」と称す。)と、吸引路6の開口部6aの直径Doを一定の範囲内(1mmから4.5mmまでの範囲)で種々に変更したタップとを用いて行った。但し、開口部6aの直径Do以外の構成(例えば、連通部6bの直径)については、同一とされている。
【0053】
切削試験の試験結果によれば、図4に示すように、本発明品を用いた場合には、切り屑の吸引率が100%となり、切削加工時に生成される切り屑を全て吸引できたことを理解できる。よって、切り屑の排出性能は良好であった。
【0054】
同様に、開口部6aの直径Doを2mm、3mm、3.5mm及び4mmとした場合にも、切り屑の吸引率がそれぞれ100%となり、切削加工時に生成される切り屑を全て吸引できたことを理解できる。よって、切り屑の排出性能はそれぞれ良好であった。
【0055】
また、開口部6aの直径Doを1mm及び1.5mmとした場合には、切り屑の吸引率がそれぞれ20%及び50%となり、切削加工時に生成される切り屑を全て吸引できなかったことを理解できる。よって、切り屑の排出性能はそれぞれ不良であった。
【0056】
これは、開口部6aの直径Doが小さいため、溝4内に収容された切り屑(例えば、吸引路から離れた位置にある切り屑)を十分に吸引することができなかったことが原因であると考えられる。
【0057】
一方、開口部6aの直径Doを4.5mm及び5mmとした場合には、タップが折損した。これは、開口部6aの直径Doが大きいため、ねじ部3の剛性が低下したことが原因であると考えられる。
【0058】
この結果より、開口部6aの直径Doは、ねじ部3の外径Dsの20%以上、かつ、50%以下の大きさに設定することが望ましい。即ち、開口部6aの直径Doがねじ部3の外径Dsの20%よりも小さい場合には、溝4内に収容された切り屑(例えば、吸引路から離れた位置にある切り屑)を十分に吸引することができず、吸引性能の低下を招くところ、開口部6aの直径Doをねじ部3の外径Dsの20%以上の大きさに設定することで、溝4内に収容された切り屑を確実に吸引することができる。
【0059】
一方、開口部6aの直径Doがねじ部3の外径Dsの50%よりも大きい場合には、吸引性能は向上するが、その分、ねじ部3の剛性低下を招くところ、開口部6aの直径Doをねじ部3の外径Dsの50%以下の大きさに設定することで、ねじ部3の剛性を確保することができる。これにより、吸引性能の向上を図りつつ、工具寿命の向上を図ることができ、切り屑の吸引性能の向上と工具寿命の向上との両立を図ることができる。
【0060】
上述したように、第1実施の形態におけるタップ1によれば、溝4に開口形成される吸引路6を備えると共に、その吸引路6が、排出路5を介してシャンク2後端面の開口に連通されるように構成されているので、排出路5を介して吸気を行うことで、切削加工時に生成される切り屑を吸引路6から強制的に吸引し、その吸引した切り屑を排出路5を介してシャンク2後端面の開口から排出することができる。
【0061】
よって、従来品と比較して、切り屑を排除するための切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができ、環境汚染の予防を図ることができる。更に、切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができれば、切削液の回収コストを低減することができるので、その分、加工コストの削減を図ることができる。
【0062】
また、吸引路6から吸引された切り屑をシャンク2後端面の開口から排出することができるので、切り屑が被加工物上に散乱することを回避して、清掃作業の簡略化を図ることができると共に、被加工物上に散乱した切り屑に起因して、加工精度が低下することを未然に回避することができる。
【0063】
また、吸引路6を溝4に開口形成し、かかる吸引路6から切り屑を吸引するように構成されているので、その分、溝4による切り屑の収容能力を低く設定することができる。即ち、溝4の容積(即ち、溝4の幅や深さなど)を小さくしても、切り屑詰まりを抑制することができるので、溝4の容積を小さくした分、工具断面積を大きくすることができる。その結果、ねじ部3の剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0064】
また、吸引路6の開口部6aの面積が連通部6bの面積よりも大きく構成されているので、切り屑の吸引性能の向上を図ることができる。即ち、開口部6aの面積が連通部6bの面積よりも小さい場合には、溝4内に収容された切り屑(例えば、吸引路から離れた位置にある切り屑)を十分に吸引することができず、吸引性能の低下を招くところ、開口部6aの面積を連通部6bの面積よりも大きく構成することで、溝4内に収容された切り屑を確実に吸引することができる。
【0065】
また、排出路6の一端がシャンク2後端面に開口するように構成されているので、例えば、シャンク2側面に開口する場合と比較して、切り屑を排出するためのホルダ10の構造を簡素化することができる。
【0066】
また、吸引路6の開口部6aは、食付き部3aの範囲内に位置するように構成されているので、食付き部3aにおいて生成される切り屑を、その食付き部3aの範囲内において早期に吸引することができる。よって、切り屑詰まりを抑制することができる。
【0067】
また、溝4は、ねじ部3の先端面から完全山部3bの11山目に対応する位置まで延設されることで、食付き部3aの範囲に延設されているので、食付き部3aにおいて生成される切り屑を、その食付き部3aの全範囲において収容することができる。また、溝4の延設長さは、ねじ部3の範囲に対応する長さよりも短く構成されているので、工具断面積を大きくすることができる。その結果、ねじ部3の剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0068】
なお、本実施の形態では、吸引路6のテーパ角度θを90°に構成したが、85°以上、かつ、95°以下の大きさに設定することが望ましい。
【0069】
即ち、吸引路6のテーパ角度θが85°よりも小さい場合、つまり、開口部6aの開口面積が小さい場合には、開口部6aに切り屑が引っ掛かり、切り屑詰まりを起こし易いところ、吸引路6のテーパ角度θを85%以上の大きさに設定することで、開口部6aの開口面積を十分に確保することができ、開口部6aへの切り屑の引っ掛かりを抑制することができる。
【0070】
一方、吸引路6のテーパ角度θが95°よりも大きい場合、つまり、開口部6aの開口面積が大きい場合には、切り屑詰まりは抑制できるが、その分、ねじ部3の肉厚が薄くなり、ねじ部3の剛性低下を招くところ、吸引路6のテーパ角度θを95°以下の大きさに設定することで、ねじ部3の剛性を確保することができる。これにより、切り屑詰まりを抑制しつつ、工具寿命の向上を図ることができ、切り屑詰まりの抑制と工具寿命の向上との両立を図ることができる。
【0071】
次に、図5を参照して、第2実施の形態におけるタップ101について説明する。図5(a)は、タップ101の正面図であり、図5(b)は、図5(a)の矢印Vb方向から視たタップ101の側面図である。
【0072】
第1実施の形態におけるタップ1では、排出路5が止まり穴として構成される場合を説明したが、第2実施の形態におけるタップ101では、排出路5が貫通穴として構成されている。なお、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0073】
タップ101は、図5に示すように、排出路5がシャンク2の後端面(図5(a)左側面)からねじ部3の先端面(図5(a)右側面)にかけて貫通形成されている。この排出路5内には、図5に示すように、栓部材107が配設されている。なお、本実施の形態では、排出路5を貫通形成することにより、センタ穴が除去されている。
【0074】
ここで、図6を参照して、栓部材107の詳細構成について説明する。図6は、図5(b)のVI−VI線におけるタップ101の断面図である。なお、図6では、シャンク2の軸心O1方向の長さを省略して図示している。
【0075】
栓部材107は、図6に示すように、排出路107の直径Dhと略同一径の円柱状に構成されると共に、排出路5内であってねじ部3の先端(図6下側)に圧入されている。
【0076】
上述したように、第2実施の形態におけるタップ101によれば、排出路5内であってねじ部3の先端側に配設される栓部材107を備えているので、排出路5をシャンク2の後端面からねじ部3の先端面にかけて貫通形成した場合でも、栓部材107によって排出路5のねじ部3先端側の開口を閉塞することができる。これにより、排出路5を介して吸気を行う際には、吸引路6に十分な負圧を与えることができる。
【0077】
更に、排出路5を貫通形成することができれば、排出路5を止まり穴として構成する場合と比較して、吸引路6の開口部6aをねじ部3の先端側に位置させることができるので、溝4内に収容された切り屑を確実に吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができる。
【0078】
次に、図7を参照して、第3実施の形態におけるタップ201について説明する。図7(a)は、タップ201の正面図であり、図7(b)は、図7(a)の矢印VIIb方向から視たタップ201の側面図である。
【0079】
第2実施の形態におけるタップ101では、排出路5のねじ部3先端側の開口が栓部材107によって閉塞される場合を説明したが、第3実施の形態におけるタップ201では、ねじ部3の先端面に突起部208を備え、その突起部208によって排出路5のねじ部3先端側の開口を閉塞するように構成されている。なお、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0080】
タップ201は、図7に示すように、ねじ部3の先端面(図7(a)右側面)に突起部208が設けられている。突起部208は、図7に示すように、ねじ部3の外径Dsよりも小径の円柱状に形成され、軸心O1と同心に設けられている。この突起部208には、図7に示すように、溝4が凹設されている。
【0081】
また、図7に示すように、タップ201には、吸引路6が設けられている。ここで、図8を参照して、吸引路6の詳細構成について説明する。図8は、図7(b)のVIII−VIII線におけるタップ201の断面図である。なお、図8では、シャンク2の軸心O1方向長さを省略して図示している。
【0082】
吸引路6は、図8に示すように、円錐形状に形成されると共に、その軸心O2をシャンク2の軸心O1に対して傾斜させ、開口部6aがねじ部3の先端側(図8下側)へ向くように構成されている。即ち、開口部6aを食付き部3aの刃先面方向に向けて構成されている。また、吸引路6は、開口部6aが食付き部3aの範囲内に位置するように構成されている。
【0083】
上述したように、第3実施の形態におけるタップ201によれば、ねじ部3の先端面に設けられる突起部208を備えているので、排出路5をシャンク2の後端面からねじ部3の先端面にかけて貫通形成した場合でも、突起部208によって排出路5のねじ部3先端側の開口を閉塞することができる。これにより、排出路5を介して吸気を行う際には、吸引路6に十分な負圧を与えることができる。
【0084】
更に、排出路5を貫通形成することができれば、排出路5を止まり穴として構成する場合と比較して、吸引路6の開口部6aをねじ部3の先端側に位置させることができるので、溝4内に収容された切り屑を確実に吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができる。
【0085】
また、吸引路6は、その吸引路6の軸心O2をシャンク2の軸心O1に対して傾斜させ、開口部6aがねじ部3の先端側へ向くように構成されているので、切削加工時に生成され重力によってねじ部3の先端側へ落下した切り屑を確実に吸引することができる。よって、切り屑の排出性能の向上を図ることができる。
【0086】
また、吸引路6の軸心O2をシャンク2の軸心O1に対して傾斜させ、開口部6aがねじ部3の先端側へ向くように構成することで、開口部6aを食付き部3aの刃先面方向に向けることができるので、食付き部3aにおいて生成される切り屑をスムーズに吸引することができ、切り屑の吸引性能の向上を図ることができる。
【0087】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0088】
例えば、上記各実施の形態では、溝4が軸心O1と略平行に凹設される、いわゆる直溝タップの場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、スパイラルタップとして構成しても良い。
【0089】
また、上記各実施の形態では、3本の溝4を備える場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、1本または2本、或いは、4本以上の溝4を備えて構成しても良い。なお、1本または2本の溝4を備えて構成する場合には、溝4による切り屑の収容能力が低下することで、切り屑の排出性能が低下する一方、4本以上の溝4を備えて構成する場合には、ねじ部3の剛性が低下するため、3本の溝4を備えて構成することが望ましい。
【0090】
また、上記各実施の形態では、吸引路6が円錐形状に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、断面矩形状に構成しても良い。
【0091】
また、上記各実施の形態では、食付き部3a及び完全山部3bがねじ部3に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、食付き部3a及び完全山部3bを着脱可能なスローアウェイチップにより構成することで、タップ1,101をスローアウェイタップとして構成しても良い。この場合には、チップを交換することで工具寿命の向上を図ることができる。
【0092】
また、上記各実施の形態では、排出路5をドリル加工により形成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、放電加工により形成しても良い。この場合には、工具寿命の向上を図ることができる。即ち、排出路5をドリル加工により形成する場合には、吸気路5の加工時にドリルが振れることで、ねじ部3の肉厚が薄くなり、その剛性の低下を招くところ、排出路5を放電加工により形成することで、ねじ部3の剛性を確保することができる。その結果、工具寿命の向上を図ることができる。
【0093】
更に、上記第1実施の形態および第3実施の形態では、排出路5をドリル加工することで、排出路5が円柱形状に形成される円柱状部と、ドリルの先端角に対応して円錐形状に形成される円錐状部とを有して構成され、その円柱状部に吸引路6が連通される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、排出路5の円錐状部に吸引路6が連通するように構成しても良い。この場合には、吸引路6が排出路5の円柱状部に連通される場合と比較して、排出路5の延設長さを短くすることができるので、その分、工具断面積を大きくすることができる。その結果、ねじ部3の剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができる。
【0094】
また、上記第2実施の形態では、栓部材107が排出路5内に圧入される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、かしめ、溶接、或いは、ねじ止め等によって固定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】(a)は、本発明の第1実施の形態におけるタップの正面図であり、(b)は、図1(a)の矢印Ib方向から視たタップの側面図である。
【図2】図1(b)のII−II線におけるタップの断面図である。
【図3】ホルダに保持されたタップの断面図である。
【図4】切削試験の試験結果を示す図である。
【図5】(a)は、第2実施の形態におけるタップの正面図であり、(b)は、図5(a)の矢印Vb方向から視たタップの側面図である。
【図6】図5(b)のVI−VI線におけるタップの断面図である。
【図7】(a)は、第3実施の形態におけるタップの正面図であり、(b)は、図7(a)の矢印VIIb方向から視たタップの側面図である。
【図8】図7(b)のVIII−VIII線におけるタップの断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1 タップ
2 シャンク
3 ねじ部
3a 食付き部
4 溝
5 排出路
6 吸引路
6a 開口部
6b 連通部
107 栓部材
208 突起部
Do 開口部の直径
Ds ねじ部の外径
O1 シャンクの軸心
O2 吸引路の軸心
θ 吸引路のテーパ角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食付き部を有するねじ部と、そのねじ部に連設されるシャンクと、前記ねじ部の外周面に凹設される溝とを備え、前記シャンクの軸心回りに回転されることで、前記ねじ部によって被加工物にめねじを切削加工するタップにおいて、
前記シャンクの後端面から前記ねじ部にかけて前記シャンクの軸心に沿う直線状に延設されると共に断面円形状に形成される排出路と、
その排出路に連通されると共に前記溝に開口形成される吸引路とを備え、
その吸引路は、前記溝に開口される開口部の面積が前記排出路に連通される連通部の面積よりも大きく構成され、
前記排出路を介して吸気が行われることで、切削加工時に生成される切り屑を前記吸引路から吸引し、前記排出路を介して前記シャンク後端面の開口から排出するように構成されていることを特徴とするタップ。
【請求項2】
前記吸引路の開口部は、前記食付き部の範囲内に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のタップ。
【請求項3】
前記吸引路の開口部は、円形状に形成されると共に、その開口部の直径は、前記ねじ部の外径の20%以上、かつ、50%以下の大きさに設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のタップ。
【請求項4】
前記吸引路は、円錐形状に形成されると共に、その吸引路のテーパ角度は、85°以上、かつ、95°以下の大きさに設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のタップ。
【請求項5】
前記吸引路は、その吸引路の軸心を前記シャンクの軸心に対して傾斜させ、前記開口部が前記ねじ部の先端側へ向くように構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のタップ。
【請求項6】
前記溝は、少なくとも前記食付き部の範囲に延設され、その溝の延設長さは、前記ねじ部の範囲に対応する長さよりも短く構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のタップ。
【請求項7】
前記排出路は、前記シャンクの後端面から前記ねじ部の先端面にかけて貫通形成されると共に、
その排出路内であって前記ねじ部の先端に配設される栓部材を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のタップ。
【請求項8】
前記排出路は、前記シャンクの後端面から前記ねじ部の先端面にかけて貫通形成されると共に、
前記ねじ部の先端面に突起状に設けられる突起部を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のタップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−142843(P2008−142843A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333569(P2006−333569)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成18年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究(吸引式切り屑完全回収型次世代切削加工システムの開発)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)