説明

タンデムプレスシステム

【課題】ワーク搬送速度が早く生産性の高いタンデムプレスシステムを提供する。
【解決手段】プレス間に設けるワーク搬送装置10を、第1,2,3の回動軸18,28,38を中心に回動可能に装着された第1,2,3のアーム21,31,41と、第3のアーム41の先端側に設けられかつワークの吸着手段と、第3のアーム側の第4の回動軸48を利用して吸着手段51の姿勢を調整可能な姿勢調整手段を具備し、第1のアーム21を第1の回動軸18を中心に回動させかつ第2のアーム31を第2の回動軸28を中心に回動させるとともに第3のアーム41を第3の回動軸38を中心に回動させつつ、吸着手段51をプレス加工領域内に移動可能でかつ吸着手段の姿勢を調整可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプレスがX方向にタンデム配列され、ワーク搬送装置を用いて上流側プレスから下流側プレスにワークを搬送しつつ各プレスにプレス加工させるタンデムプレスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるトランスファプレスシステムとタンデムプレスシステムとを比較する。
【0003】
前者は、ワーク搬送方向(X方向)に配列された複数の金型(ステージ)を有し、プレスの前後方向(Y方向…X方向と直交する。)に3次元運動可能でX方向に長い1対のフィードバーを設け、両フィードバーに設けた多数のフィンガーや吸着手段を同期運動させてワーク(プレス加工物)を各ステージに順番に搬送しつつプレス加工する構造である。
【0004】
後者は、図7に示す如く、複数のプレス(任意の前後プレスを1M,1Nとして表す。)をX方向にタンデム配列し、従来の各プレス(1MP,1NP)間に設けたワーク搬送装置10Pを用いて上流側プレス1Mから下流側プレス1Nにワークを搬送しつつ各プレスにプレス加工させる構造である。
【0005】
つまり、前者はプレスとワーク搬送装置とが一体的に構築され、後者は複数プレス1Pと複数ワーク搬送装置10Pとの組合せにより構築されている。後者の方が、生産の運用の実際において、小回りが利くといえる。なお、図7において、2はクラウン、3はコラム、4はコンロッド、5がスライド、8はボルスタである。スライド5は、スライドガイド5Gに沿って上下方向(Z方向)に摺動自在に装着されている。上金型6はスライド下面に取付けられ、下金型7はボルスタ上面に取付けられている。金型交換作業により各金型を交換することができる。
【0006】
また、後者は、システム構築上も、小回りが利くといえる。つまり、プレス(機械)1Pおよびワーク搬送装置10Pの選択自由性が広い。反面において、採用されたワーク搬送装置10Pの種類や構造によっては、生産能率の向上の観点からすると、不備な点(問題点)が見受けられる。すなわち、生産において重要な金型交換作業を迅速に行なえず、危険性が潜むという問題である。そこで、従来プレスシステムを、金型交換等の作業性と採用されたワーク搬送装置の方式・構造との関係において比較検討する。
【0007】
ワーク搬送装置10Pとして、工期および装置経済が優位で入手容易な汎用性の多関節ロボット(特許文献1を参照)を採用する場合がある。このロボット(従来例1)は、固定ベース1、旋回ヘッド3、平行四辺形リンク機構(固定ベース1、第1アーム5、リンク9、補助リンク7等)、第2アーム12を具備し、平行四辺形リンク機構等を水平面内で旋回運動させる水平面内旋回方式である。ばね装置20を設けてあるので、旧来ロボットに比較して、第2アーム12の動作角度を小さくできるとされている。
【0008】
しかし、この水平面内旋回方式のロボット構造では、固定ベース1や駆動源(サーボモータ4等)を設置場所(図7の作業用床面71)に配置(固定)しなければならないので、金型周辺の作業や金型交換に伴う調整作業が難しく、危険性を伴う。つまり、タンデムプレスシステムのワーク搬送装置10Pとしては不向きである。
【0009】
対するものとして、垂直面内直動変換・揺動方式のワーク搬送装置(特許文献2を参照)が提案されている。この装置10P(従来例2)は、ワーク把持部15と、V字形状に配設された1対のスライド駆動手段11,12と、各スライダ4,5とワーク把持部15とを結ぶリンク8,6(1対リンク7を含む平行四辺形リンク機構)とから構成され、2つの直線運動を2つのリンクの角度運動に変換しつつ、ワーク把持部15をワーク搬送(X)方向に往復移動させる構成で、駆動源(サーボモータ19等)を含む全体構造は、クラウン側の上部空間(図7の上部設置空間73)内に配置されている。つまり、第1スライドと第2スライドとの組合せによりリンク機構全体を旋回させ、かつこれに連結されたワーク把持部15をX方向に移動させる。したがって、従来例1に比較すれば、作業用床面(71)上を空けることができるから、金型交換に伴う調整作業が比較的に容易である。
【0010】
この従来例2は、直動スライド・スイングアーム方式のワーク搬送装置(従来例2P…特許文献3を参照)の欠点[金型交換作業が困難、高重量で大型、床面上に過大(背高)な設置空間を必要とする等]を解消するものとして提案されている。因みに、この従来例2Pは、作業用床面に設置された支柱およびスライダ等を含む直動装置45,スライドブロック37,ガイドロッド32,スイングアーム24,出力部25,クランパー21を備え、直動装置45によりガイドブロック32を上下動させかつ揺動サーボモータ41でガイドロッド32を揺動させることで、その先端(駆動点33)を位置決めしかつその動きをレバー比で拡大してクロスバー18(ワーク把持具)の位置決めを行なう構成である。したがって、金型交換作業が難しく、高重量で大型になる。
【0011】
次に、プレス間に架設されたビーム11に沿って移動するキャリア13の水平運動と、揺動台19の揺動運動と、揺動台19の揺動中心とクロスバー17(バキュームカップ53)との相対距離を変化させる伸縮運動との合成運動、およびクロスバー17の回動によるチルト運動の組合せにより、ワークWをT方向に搬送可能に形成されたワーク搬送装置(従来例3)が提案(特許文献4を参照)されている。
【0012】
かかる従来例3(水平・揺動・伸縮・回動運動方式)によれば、従来例2の場合と同様に作業用床面上を空けることができ、かつ従来例2(、2P)の場合に比較してXおよびY方向の小型化も達成できると思われる。
【特許文献1】特開平10−118967号公報
【特許文献2】特開2004−344899号公報
【特許文献3】米国特許第6382400号公報
【特許文献4】特開2005−161406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、プレス乃至プレスシステムでは、プレス側とワーク搬送装置側との関与にまつわる固有的な技術事項が存在する。すなわち、構成要素間の干渉を回避し、生産計画を満たすことができるワーク搬送速度が得られ、装置経済が優位でかつ安定運転を保障できる必要がある。つまり、ワーク搬送装置側の事情のみから安易にワーク搬送装置を選択してはならない。しかも、一段と厳しい要請(例えば、コスト低減化、製品の高精度化、高速化、小型・軽量化およびメンテナンスの容易化等)に応えられるものでなければならない。
【0014】
しかるに、従来例1の場合は、上記不利の他に、金型とワーク搬送装置との干渉が避けられないという致命的な問題がある。因みに、従来例1の欠点(金型交換作業の困難性)を解消すべく、従来例1の場合とは逆に、駆動源(サーボモータ4等)や固定ベース1の設置場所を作業用床面上から上部設置空間73内に変更した吊下げ構造の従来例1Aを仮想する。
【0015】
しかし、この仮想従来例1Aでも、面内旋回方式の構造上、補助リンク廻り構造物(7等)がプレス加工領域内に入り込みかつ水平面内で旋回運動することに変わりはないので、金型との干渉が避けられない。結果として、従来例1(、1A)は金型の種類に対する適応性が狭い。格別で高価な金型を導入できたとしても、生産速度(spm…プレス速度)を大幅に低下させた運転をせざるを得ない。
【0016】
従来例2の場合は、ワーク把持部15を金型上方に移動させるには、その図1〜図5からも明らかの通り、可動構造体(第1リンク7,ワーク把持部15等)をスライドとボルスタ(金型)との間(上下方向の空間)に右傾斜方向(または左傾斜方向)から突っ込み移動させなければならない。つまり、スライドとの干渉が生じ易い。
【0017】
干渉回避策としては、スライドに突っ込み用の空間(複雑な加工による切欠溝)を設ける必要がある。この策は、プレスの主要構成要素(スライド)に手を加えることになるので、機械的な強度低下や振動を引き起こす原因となり、プレス加工精度に大きな影響を及ぼす。加工経済上も不利である。また、スライドの揺れ防止のためには、コラムとの間に設けるスライドガイド5Gを上記の切欠溝を避けた上方部分に位置変更(大規模改造)する必要があるので、コスト高およびプレス加工精度の低下を招く。
【0018】
さらに、従来例2は、3つのスライド4a,4b、5をV字部材16に沿いかつ各移動速度と各現在位置とを連関させながら往復移動させつつ、1対のリンク7(7a,7b)、8を揺動させる。構造複雑で、摺動部のメンテナンスに手間が掛かり、運転制御シーケンスの設定変更も大変である。一段のワーク搬送高速化は難しい。しかも、X方向の距離を小さくすることによる搬送速度の高速化は期待できない。
【0019】
従来例3は、従来例2の場合と比較して、前後プレス間のX方向距離の短縮化およびプレス高さ方向の小型化が期待できる。しかし、ワークWと金型との干渉は、モーションパターン(M)に基づく搬送により避けられると考えられるが、従来例2の場合と同様に突っ込み移動があるので、一定速度以上で昇降するスライド6との干渉は避けられない筈である。スライド速度が高く、プレス間距離が小さく、上下方向空間が狭くなるほどに干渉回避が難しくなる。すなわち、キャリア13の停止後に傾斜させた揺動体19からフィードレバー18を押し出すことで、クロスバー17に設けられた腕木付バキュームカップ53を、図1に示されたようにスライド6と金型との間に位置決めする構造である。従来例2の場合と同様にスライド6との干渉が発生する、つまり、上記した従来例2の場合と同様な問題が残る。
【0020】
このように、汎用の従来例1に対する専用機的な従来例2、3は、金型交換作業の重要性を認識しかつ作業用床面上を空とするために、ワーク搬送装置10Pを金型の搬入・搬出領域(作業用床面)よりも上方の位置(上方設置空間73)に配置することを当然としている。また、トランスファプレスの場合の慣習からか、ワークの搬送軌跡は一定(水平状態)を良として計画さているように見受けられる。これらを前提としつつ、主に搬送高速化を図るべく工夫されている。
【0021】
しかしながら、例えば、プレス間距離や上方設置空間73を小さくするために、必要とする機能別構成要素を重畳的に組合せた構造であるから、構造および動作は複雑化する一方である。つまり、装置軽量・小型化、負荷の軽減化、取扱い容易化、コスト低減化を含む構造簡単で生産性の高いシステムを構築可能であるとともに、金型交換作業の容易化および干渉回避性を担保しつつワーク搬送速度の高速化を図れるワーク搬送装置およびこれを具備するタンデムプレスシステムの開発が強く望まれている。さらに、騒音が大きく、プレス間距離が長い場合に不利となる直動ガイドを含む構造は、採用が難しいとの指摘がある。
【0022】
本発明の目的は、干渉回避性を担保しつつワーク搬送速度の高速化を図れ、構造簡単で生産性の高いタンデムプレスシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、A:ワーク吸着位置およびワーク解放位置の位置決め精度を担保できるならば、搬送軌跡は直線状に限定されない筈であること。途中の搬送速度の厳密な一定化も必要でないこと。B:アームの回動運動だけで、ワークを搬送することができるならば、構造を飛躍的に簡素化できかつ搬送負荷の軽減、搬送速度の高速化に有効であること。C:吸着手段を斜め方向から突っ込み移動させることなくかつ上方側から金型に接近・離反できれば、金型との干渉も防止できること。等の多数の実機運用を参照した分析を含む試験・研究を基礎としかつ飛躍的な搬送高速化、構造簡素化等を実現可能とするために創出されたものである。つまり、上記した多数の固有的技術事項や事象を一つずつ潰すように段階的かつ重畳的に構築していた従来例1〜3の考え方とは決別し、それらを一挙に解決すべきとする発想の転換に基づく。
【0024】
すなわち、本発明は、ワーク搬送装置を、アームを回動運動させる構造簡単なアーム回動機構を基本とし、第1のアームの下端側をX方向に往復移動させつつ、第2,3のアームを第1のアームの下端側の移動位置に対応させて回動させつつ吸着手段をスライドと金型との間にほぼ水平方向から移動させかつ位置決めさせることで、ワーク搬送可能に形成した、ことを特徴とする。
【0025】
詳しくは、請求項1の発明に係るタンデムプレスシステムは、複数のプレスがX方向にタンデム配列され、ワーク搬送装置を用いて上流側プレスから下流側プレスにワークを搬送しつつ各プレスにプレス加工させるタンデムプレスシステムにおいて、前記ワーク搬送装置が、前記X方向の上流側プレスと下流側プレスとの中間位置に設けられかつX方向と直交するY方向に延びる第1の回動軸と、上端側が第1の回動軸を中心に回動可能に装着されかつ第1の回動軸を中心とする回動により下端側をX方向に往復移動可能に形成された第1のアームと、基端側が第1のアームの下端側に設けられたY方向に延びる第2の回動軸を中心に回動可能に装着された第2のアームと、基端側が第2のアームの先端側に設けられたY方向に延びる第3の回動軸を中心に回動可能に装着された第3のアームと、この第3のアームの先端側に設けられかつワークを吸着・解放可能に形成された吸着手段と、第3のアームの先端側に設けたY方向に延びる第4の回動軸を利用して吸着手段の姿勢を調整可能な姿勢調整手段を具備し、第1のアームを第1の回動軸を中心に回動させかつ第2のアームを第2の回動軸を中心に回動させるとともに、第3のアームを第3の回動軸を中心に回動させつつ吸着手段をプレス加工領域内に移動可能に形成されている、ことを特徴とする。
【0026】
また、請求項2の発明は、Y方向に離隔配設された1対のアーム回動機構が同期搬送動作可能に形成されている。
【0027】
また、請求項3の発明は、Y方向に離隔配設された2組のアーム回動機構のそれぞれが独立搬送動作可能に形成されている。
【0028】
さらに、請求項4の発明は、第1のアームの回動運動に、第2のアーム、第3のアームの回動運動と吸着手段の回動運動とを連関させ、吸着手段の姿勢を自動的に調整可能に形成されている。
【0029】
さらに、請求項5の発明は、ワークが薄板形状材で、吸着手段がバキューム吸着方式とされている。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明によれば、干渉回避性を担保しつつ、ワーク搬送速度の一段の高速化が図れ、構造簡単で生産性の高いタンデムプレスシステムを提供することができる。
【0031】
請求項2の発明によれば、構成要素(回動軸,駆動源等)や駆動制御の簡素化並びに一層のコスト低減を促進できるとともに、ワーク姿勢を正確に維持した確実かつ安定した搬送を行なえる。
【0032】
また、請求項3の発明によれば、例えば、上流側プレスでのワーク姿勢と下流側プレスでのワーク姿勢を変えたワーク搬送ができる。つまり、プレス加工態様に対する適応性を拡大できる。
【0033】
また、請求項4の発明によれば、吸着手段の姿勢を自動的に行なえかつ制御単純化によるワーク搬送速度の高速化にも有効である。
【0034】
さらにまた、請求項5の発明によれば、ワークを一段と確実かつ無傷で吸着・搬送できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
(第1の実施の形態)
本タンデムプレスライン(1M,10,1N等)は、図1〜図5に示す如く、複数のプレス1がX方向にタンデム配列され、かつワーク搬送装置10が第1の回動軸18を中心に回動可能に装着された第1のアーム21と、第2の回動軸28を中心に回動可能に装着された第2のアーム31と、第3の回動軸38を中心に回動可能に装着された第3のアーム41と、この第3のアーム41の先端側に設けられかつワークを吸着・解放可能な吸着手段と、第3のアームの先端側に設けたY方向に延びる第4の回動軸48を利用して吸着手段51の姿勢を調整可能な姿勢調整手段を具備し、第1のアーム21を第1の回動軸18を中心に回動させかつ第2のアーム31を第2の回動軸28を中心に回動させるとともに第3のアーム41を第3の回動軸38を中心に回動させつつ、吸着手段51をプレス加工領域内に移動可能に形成されている。
【0037】
この実施の形態では、X方向の上流側(プレス1M)から下流側(プレス1N)を見た側面図である図2に示すように、第1のアーム21と第2のアーム31と第3のアーム41とを含むアーム回動機構が、Y方向に離隔配設された1対からなりかつ各第1の回動軸18がエコライザ軸を形成するように一体的に連結されている。つまり、各アーム回動機構は、同期搬送動作可能に形成されている。
【0038】
従来例2(2つの往復直線運動と2つのリンク揺動運動との組合せ構造)および従来例3(揺動運動と往復直線運動と上下動運動と水平運動とを組合せ構造)の場合と比較して、本願発明に係る搬送駆動構造(アーム回動機構…回動運動のみでワーク搬送可能な構造)は、大幅に簡素化されていると理解される。この搬送駆動構造の簡素化は、結果としてワーク搬送速度の大幅な高速化を達成するために極めて有効である。また、構造が簡単で小型であるから、頭上の有効自由空間を大きくとれる。作業者は金型搬入・搬出等を形成する作業用床面71において金型交換に伴う調整作業等を安全かつ迅速に行なえる。プレス構築上の負荷(荷重)を大きくする必要も無い。
【0039】
さて、確認的に、タンデムプレスシステムの基本的構成・機能は、図7に示した従来例の場合と同様に、複数のプレス1がX方向(ワーク搬送方向)にタンデム配列されかつワーク搬送装置10を用いて上流側プレス1Mから下流側プレス1Nにワーク57を搬送しつつ各プレス1にプレス加工させるように形成されている。
【0040】
図2(側面図)、図3(平面図)、図4(一部を断面した正面図)において、第1の回動軸18は、X方向と直交するY方向(プレス前後方向)の上流側プレス1Mと下流側プレス1Nとの中間位置に設けられかつY方向に延びる。この第1の回動軸18は、X方向およびY方向に直交するZ方向(上下方向)においては、作業用床面71の高い位置に設けられる。
【0041】
図2において、第1の回動軸18は、プレス前側(F)のアーム回動機構(21F等)の第1の回動軸(18F)と、プレス後側(R)のアーム回動機構(21R等)の第1の回動軸(18R)とを一体的に形成した共通軸(エコライザ軸)を形成する。同様に、詳細後記の第4の回動軸48も、プレス前側の第4の回動軸(48F)とプレス後側の第4の回動軸(48R)とを一体的に形成した共通軸(エコライザ軸)を形成する。
【0042】
この第1の回動軸18は、図2に示す固定ベース11(前後1対のベース軸受17)に回転自在に装着され、減速機(図示省略)を介して連結された第1の駆動源により右回転方向および左回転方向に回動される。この第1の駆動源は、前後2台のアーム回動機構(21F、21R等)に共通でかつ固定ベース11に固着された1台の第1のモータ19を含む。
【0043】
第1のアーム21Fは、上端側22が第1の回動軸18に同期回転連結具(キーやスプライン)を介して連結されている。つまり、第1の回動軸18を中心に同期回動可能に装着されている。この第1の回動軸18を中心とする回動運動により、第1のアーム21Fの下端側26を、図4に示す如く、X方向に往復移動させることができる。すなわち、第1のアーム21Fは、上端部22が回動中心とされかつ本体部24,下端側26を含む全体として、X方向に回動(あるいは揺動乃至旋回)運動可能である。第1のアーム21Rも、第1のアーム21Fの場合と同様であり、かつ第1のアーム21Fの回動運動と同期して回動運動する。
【0044】
第1のアーム21F、21Rの上端部22等を含む回動機構中心部は、安全のために、図1に示すアーム回動機構用ケース15F、15Rで覆われている。
【0045】
なお、「第1のアーム21が第1の回動軸18を中心として回動する。」とは、「第1の回動軸18の中心軸線を中心に回動する。」という意味である。ベース軸受17(固定ベース11)に枢着された第1の回動軸18に第1のアーム21の上端側22を被嵌しかつキー等を用いて回動方向に一体的に固定(相対回動不能)し、第1のアーム21を第1の回動軸(元側)18の回動により、それと同期回動させる、いわゆる元側回動構造である。
【0046】
ただし、先側回動構造として実施することもできる。因みに、この先側回動構造は、固定ベース11に回動不能に固定された第1の回動軸18に、第1のアーム21の上端側22を回転自在に嵌装させ、第1の駆動源(19)を用いて静止側である第1の回動軸18を中心として可動側である第1のアーム21自体(先側)を回動させる構造である。
【0047】
詳細後記の第2の回動軸28と第2のアーム31との関係並びに第3の回動軸38と第3のアーム41との関係も、同様な元側回動構造として構築してある。ただし、先側回動構造として実施するこができる。
【0048】
第1の駆動源は、第1の回動軸18に連結された第1のサーボモータ19と、第1のモータドライバ19Dとからなる。第1のモータドライバ19Dは、図5の駆動制御装置61から出力される制御指令に基づき、第1のサーボモータ19を速度・位置(角度)制御しつつ第1の回動軸18を回動駆動することができる。サーボモータ駆動用電力は、商用電源を入力とする駆動電源生成装置(図示省略)で生成されかつ出力される。
【0049】
かかる第1の駆動源(19等)や駆動電源生成装置は、図2に示す如く、作業用床面71の上方に配設される。但し、作業用床面(71)の下方に設けても実施することができる。
【0050】
先側回動構造として実施する場合には、第1のサーボモータ19側に駆動歯車,ウオーム歯車等を設けかつ第1のアーム21側に従動歯車,ウオームホイール等を設け、第1のアーム21全体を第1の回動軸18の周りにその軸線を中心として回動可能に形成すればよい。第2のアーム31、第3のアーム41、吸着手段51(52)も、先側回動構造とする場合は、同様にして構築することができる。
【0051】
第1のアーム21の上端側22は、Y方向の位置を拘束した状態(Y方向の変位不能状態)で、第1の回動軸18に装着されている。
【0052】
プレス停止時には、第1のアーム21を、図4に示すようにX方向の一方側(プレス1M側または1N側)に傾けた状態で静止させておけば、金型の搬入・搬出および交換作業に際して邪魔にならない。したがって、第1のアーム21の形態設計に関する自由度が大幅に拡大する。例えば、アーム断面形状やその寸法を充分な剛性を担保しつつ小型・軽量化できる。この点からも、負荷軽減に伴う搬送高速化を促進で、コスト低減にも有効である。
【0053】
このように、アーム(21,31,41)の回動運動のみでワーク57を搬送することができる構造(本発明)は、以下の技術的根拠および実験を通した確認事実(技術的認識)を背景として、はじめて創出(成立)するものと確信される。
【0054】
すなわち、ワーク(薄板形状材)57の搬送は、所定のサイクル時間内にプレス1Mの下金型(7)上の所定位置からプレス1Nの下金型(7)上の所定位置に移動させかつ後者位置に正確に位置決めしなければならない。しかしながら、搬送速度は、常に一定(単位時間当たりの速度が一定)としなければならない理由や制約は見当たらない。その途中に、一定幅の速度変動があっても差し支えない筈である。また、前者位置から後者位置までの搬送軌跡を常に一定(例えば、下金型7の上部面から所定高の一直線状経路を維持する。)としなければならない理由・制約もない。
【0055】
しかるに、従来例2、3等では、トランスファプレスの場合に多く採用されている全ステージを共通の一体的構造(例えば、3次元駆動方式のワーク搬送装置)による搬送方法や過去の慣習から、搬送中の全域(または、殆ど)において一直線状経路(軌跡)に沿いかつ一定速度で搬送するという考え方が採られている。かくして、V字形状ガイドに沿う2つのスライドを複雑な直線往復移動をさせ、あるいは格別に設けたキャリア等を用いて水平移動させる、騒音が大きく、複雑で大型な構造になっていた。
【0056】
本発明においては、上記した発想の転換の下に、第1のアーム21の下端側26を円弧状軌跡R1(図4を参照)に沿って移動させかつ回動傾斜角度によってX方向の移動速度が一定範囲内で変動することを許容する。また、第3の回動軸38(第2のアーム31の先端側36)を円弧状軌跡R2に沿って移動させかつ回動角度によってX方向の移動速度が一定範囲内で変動することを許容する。さらに、第4の回動軸48(第3のアーム41の先端側46)を円弧状軌跡R3に沿って移動させかつ回動角度によってX方向の移動速度が一定範囲内で変動することを許容する。つまり、簡単な構造(アーム21,31,41)の回動運動でワーク57を搬送することができる。
【0057】
しかも、第2のアーム31と第3のアーム41とで、吸着手段51のみを水平方向からスライド昇降領域内に出入りさせることができるから、従来例2、3の場合と異なり、第1のアーム21(第2のアーム31、第3のアーム41)とスライド5との干渉を一段と確実に回避させることができる。また、下金型7の上面部よりも上方において出入りさせることができるから、従来例1の場合と異なり、第1のアーム21はもとより吸着手段51との干渉も回避できる。さらに、プレス間距離が一定の場合、第1のアーム21と第2および第3のアーム31,41とを同時に回動できるから、ワーク搬送時間の短縮(搬送速度の高速化)ができる。
【0058】
さらに、第1のアーム21の回動傾斜角度を小さく抑えても、ワーク搬送距離を大きく採れる。反対に、プレス間距離が狭いシステムの場合には、第1のアーム21の回動傾斜角度を小さくすることで、適応できる。既存のプレスラインシステムへの導入も極めて簡単にできる。スライド5の側面壁に接触(干渉)する事態を完全回避できる。
【0059】
ここに、吸着手段51のX方向の搬送距離は、第1のアーム21の長さをLとした場合、図4に示す傾斜(角度θ)状態にある第1のアーム21のX方向長さL1(=L×Sinθ)と、水平状態にある第2のアーム31のX方向長さL2と第3のアーム41のX方向長さL3との和(=L1+L2+L3)であるが、中立状態(第1のアーム21が垂直状態)における作業用床面(71)上の高さは、第2のアーム31(または、第3のアーム41)の長さには関係なく、第1のアーム21の作業用床面(71)上の長さと第3のアーム41(または、第2のアーム31)とで決まる。つまり、ワーク搬送距離が所定値の場合において、金型交換に伴う調整作業等に有効利用可能な作業用床面(71)上のZ方向の自由空間を拡大できる。一方、作業用床面(71)上の第1のアーム21の長さ(垂直方向長さ)を一定としても、第2,第3のアーム31,41の長さを変えるだけで、大きなワーク搬送距離(プレス間距離)に対しても適応できる。
【0060】
また、第1のアーム21の傾斜突っ込み移動がないので、スライド5に特異的な切欠きを設けなくても、スライド5との干渉を回避できる。つまり、従来例2、3におけるスライドの切欠加工およびこれに起因する不利(剛性低下、コスト高等)を招く心配がない。スライドガイド5Gを安定ガイド位置から上方位置に移し変える不都合(不利益)も払拭できる。しかも、図4に示す傾斜(角度θ)を小さくすることができるので、プレス間距離の短小化にも追従できる。この点からも、搬送の高速化を促進できる。
【0061】
また、第1のアーム21の傾斜回動運動と第2,第3のアーム31,41の回動運動とを並行して実行させれば、ワーク搬送の高速化を一段と促進できる。なお、第4の回動軸48の回動運動をも同時的に実行させれば、ワーク着脱の迅速化を通じた搬送全工程の高速化を一段と助長できる。
【0062】
図2〜図4において、第2のアーム31Fは、基端側32が第2の回動軸28に同期回転連結具(キーやスプライン)を介して連結され、第2の回動軸28を中心に回動可能に装着されている。第2の回動軸28は、第1のアーム21の下端側26に設けられかつY方向に延びる。第2の回動軸28(基端側32)を中心とする回動運動により、第2のアーム31Fの本体部34,先端側36を含む全体をX方向およびZ方向に往復移動させることができる。すなわち、第2のアーム31Fは、アーム回動機構を第1のアーム21Fのみから構築する場合と比較して、プレス間距離が一定の場合において作業用床面71の上方必要空間を狭小化できる。第2のアーム31Rも、第2のアーム31Fの場合と同様であり、かつ第2のアーム31Fの回動運動と同期して回動運動する。
【0063】
第2のアーム31F(31R)用の第2の駆動源は、図4に示すごとく、第1の回動軸18の中空部を貫通する第2のエコライザ軸281に減速機(図示省略)を介して連結された第2のサーボモータ29と、第2のモータドライバ29Dとからなる。第2のモータドライバ29Dは、図5の駆動制御装置61から出力される制御指令に基づき、第2のサーボモータ29を速度・位置(角度)制御しつつ第2のエコライザ軸(28)を回動駆動することができる。
【0064】
この第2のエコライザ軸281の前後(両)側にはスプロケット(図示省略)が固着され、第2の回動軸28にも対応するスプロケット(図示省略)が固着され、これらスプロケット間にはタイミングベルト(図示省略)が張設されている。したがって、第2の駆動源(第2のサーボモータ29)により第2のエコライザ軸281を回動駆動すれば、動力伝達機構(スプロケット、タイミングベルト、スプロケット)を介して第2の回動軸28を速度・位置(角度)制御しつつ、第2のアーム31Fを第2の回動軸28の軸線を中心としてかつ第2の回動軸28と一体的に回動駆動することができる。この第2の駆動源(29等)も図2に示すように作業用床面(2階)61の上方に配設されている。
【0065】
第3のアーム41Fは、基端側42が第3の回動軸38に同期回転連結具(キーやスプライン)を介して連結され、第3の回動軸38を中心に回動可能に装着されている。第3の回動軸38は、第2のアーム31の先端側36に設けられかつY方向に延びる。第3の回動軸38(基端側42)を中心とする回動運動により、第3のアーム41Fの本体部44,先端側46を含む全体をX方向およびZ方向に往復移動させることができる。第3のアーム41Rも、第3のアーム41Fの場合と同様であり、かつ第3のアーム41Fの回動運動と同期して回動運動する。
【0066】
第3のアーム41F(41R)用の第3の駆動源は、第2の駆動源の場合と同様な構造とされ、第3のサーボモータ39と、第3のモータドライバ39Dとからなる。第3のモータドライバ39Dは、図5の駆動制御装置61から出力される制御指令に基づき、第3のサーボモータ39を速度・位置(角度)制御しつつ第2のエコライザ軸を回動駆動することができる。この場合の動力伝達機構(図示省略)は、第1,第2のアーム21,31および第1の回動軸(エコライザ軸)18に沿わせて配置されたタイミングベルト等からなり、第3のアーム41F(41R)の回動用の動力を伝達する。第2のアーム31(36)を静止側として、第3の回動軸38を可動側とする。
【0067】
また、第1のアーム21(第2のアーム31)は、上流(下流)のプレス1M(1N)側の金型交換作業に際しては、図4に示すようにその下流(上流)のプレス1N(1M)側に傾斜状態で待機させることができるから、交換作業を迅速、安全に行なえる。第1のアーム21を起立(第2のアーム31を垂下)させた中立状態で待機させれば、両側のプレス1M、1Nに関する諸作業等を同時的かつそれぞれを円滑に行なえる。
【0068】
次に、姿勢調整手段は、吸着手段51(バキュームカップ53)の姿勢を調整する手段で、この実施の形態では、自重調整方式と強制調整方式との組合せとして構築してある。なお、自重調整方式だけまたは強制調整方式だけでも実施することができる。
【0069】
ここに、「姿勢調整手段が第3のアーム41の先端側46に設けたY方向に延びる第4の回動軸48を利用して吸着手段51の姿勢を調整可能に形成されている。」中の「第4の回動軸48を利用して」とは、“第4の回動軸48(静止側)を吸着手段51(可動側)の回動中心とする。”という意味および“可動側である第4の回動軸48自体を第4の軸受47を静止側として回動させることで吸着手段51(可動側)を同期回動させる。”という意味を含む。
【0070】
自重調整方式は、第3のアーム41の先端側46(第4の回動軸48)に吸着手段51を回転自在に装着しておき、アームの回動傾斜角度の大小に拘わらずに、吸着手段51の自重を利用しかつ第4の回動軸48を回動中心として相対回動を誘起させることで、一定の姿勢(例えば、吸着面55を下向きにする。)を保持する方式である。
【0071】
この実施の形態では、図2、図4に示す如く、第3のアーム41の先端側46に設けたY方向に延びる第4の回動軸48に吸着手段51(53)を回転自在に装着しかつ吸着手段51の自重の働きにより吸着面55を常に下方に向けた姿勢に調整可能に形成してある。第4の回動軸48に保持された吸着手段51のみをZ方向の上・下金型6・7間に出入りさせるだけでよいと理解される。第1のアーム21(および第2のアーム31の大部分)は、スライド5(上金型6)の下方に出入りすることはない。したがって、スライド5や上金型6との干渉回避が完璧となる。また、吸着面55を下金型7に接近させた状態で、ワーク57を吸着あるいは解放することができる。
【0072】
強制調整方式は、第3のアーム41の先端側46に吸着手段51を第4の回動軸48に相対回転不能に装着しておく。そして、吸着手段51を第4の回動軸48の回動に伴って同期回動させることで、強制的に吸着手段51の姿勢(例えば、吸着面55の傾斜角度)を調整可能に形成される。
【0073】
この実施の形態の場合は、吸着手段51を、第3のアーム41の先端側46(第4の軸受47)に回転自在に装着(枢着)されたY方向に延びる第4の回動軸48を中心に回動不能として装着する。この第4の回動軸48の回動により、吸着手段51(吸着面55)の傾斜角度を自動的に調整できるように形成してある。
【0074】
第4の回動軸48は、第4のサーボモータ49の回転により回動される。この第4のサーボモータ49は、図5に示す第4のモータドライバ49Dとともに第4の駆動源を形成する。この第4の駆動源も、図2等では図示省略したが、第3のサーボモータ39の場合と同様に作業用床面71の上方(固定ベース11側)に配設されている。動力伝達機構(図示省略)は、第1,第2,第3のアーム21,31,41および第1の回動軸(エコライザ軸)18に沿わせて配置されたタイミングベルト等からなり、吸着手段51の姿勢調整用の動力を伝達する。第3のアーム41(46)を静止側として、第4の回動軸48を可動側とする。かくして、アームの回動傾斜角度の大小に拘わらずに、例えば吸着面55のワーク57(乃至金型6,7)に対する接近(および離反)の際の傾きを設定変更できる。
【0075】
なお、第3,第4のサーボモータ39,49は、他のモータ19、29よりも小型・小容量なので、第2,第3のアーム31,41の先端側36,46に取付けることでも実施することができる。このように構築すれば、動力伝達機構を省略することができる。
【0076】
因みに、第1,第2,第3,第4のサーボモータ19,29,39,49は、静止(ホールド)トルクの維持機能をもつ。電磁ブレーキ機能を設けることも好ましい。
【0077】
さらに、この実施の形態では、自重調整方式と強制調整方式とを選択的に動作できるように構成してある。第4の回動軸48と吸着手段51(52)とは、クラッチ(・ブレーキ)を介して連結されている。自重調整方式を選択する場合はクラッチをOFF状態として、両者48,51の機械的連結を相対回動可能に切換える。強制調整方式を選択する場合にはクラッチをON状態として、両者48,51の機械的連結を相対回動不能に切換える。
【0078】
吸着手段51は、ワーク57を吸着解放可能な手段であり、バキュームカップや電磁マグネット等から形成される。この実施の形態では、ワーク57が図2、図3に示す薄板形状材であるから、バキュームカップ53を採用している。複数のバキュームカップ53は、図3、図4に示す如く、第4の回動軸48に固定された複数の保持部材52に相対回転不能状態で取付けられている。つまり、バキュームカップ53の吸着面55の姿勢(向き)は、第1,第2,第3のアーム21,31,41の傾斜角度の関係を踏まえかつ第4の回動軸48の傾斜角度に対応するものとして決まる。
【0079】
図5において、駆動制御装置61は、制御部(CPU,ROM,RAM),シーケンス記憶部(ハードディスク装置),設定・表示部62およびセンサー部63等を含み、姿勢調整手段の駆動制御手段を形成する各モータドライバ19D・29D・39D・49Dに回転駆動制御信号を出力して当該各サーボモータ19・29・39・49を回転駆動制御する。バキュームコントローラ65に吸着・解放制御信号を出力して吸着手段51(各バキュームカップ53)の吸着・解放を制御する。
【0080】
ワーク搬送プログラムを構成する基本的な固定的情報(例えば、ワーク搬送情報、姿勢調整情報、吸着・開放情報等)はハードディスク装置(図示省略)に格納されており、選択的情報(例えば、ワーク57の種類)は表示部(62)の表示を参照しつつ設定部(62)を用いて設定変更(選択)でき、この情報もハードディスク装置に記憶される。
【0081】
プレス運転に際しては、設定部(62)を用いて複数のワーク搬送プログラムの中からその1つを選択設定することができる。制御部は選択設定されたワーク搬送プログラムを実行する。なお、プレス1側の各種動作(例えば、スライド昇降動作)は、図示しないプレス運転制御盤からの信号により実行される。このプレス1側の動作は、プレス動作信号としてかつ通信線69を介して伝送され、駆動制御装置61はこのプレス動作信号を用いてタイミング同期させつつワーク搬送を行なう。
【0082】
ワーク搬送運転に関しては、駆動制御指令に基づき、駆動制御装置61が、第1の回動軸18を中心とする第1のアーム21の回動運動に、第2の回動軸28を中心とする第2のアーム31の回動運動および第3の回動軸38を中心とする第3のアーム41の回動運動とを連関(例えば、連動)させつつ、吸着手段51を搬送する。これらと並行して、第4の回動軸48を中心とする吸着手段51の回動運動を連動させることで、吸着手段51(バキュームカップ53)の姿勢を所定姿勢に調整可能に駆動制御することができる。一段の搬送高速化を促進できる。
【0083】
なお、第1,第2のアーム21,31および第3のアーム41の回動運動中は、自重調整方式(姿勢調整手段)のみを働かせかつ強制調整方式は休止状態とした運転を選択することができる。運用の実際は、これを選択する方が好ましい場合が多い。
【0084】
これを選択した場合は、第1,第2のアーム21,31および第3のアーム41の回動運動終了直前(または直後)に強制調整方式を働かせる。この際、自重調整方式は休止状態とする。つまり、第4の回動軸48の傾斜角度を変化させることにより、ワーク57に対するバキュームカップ53の吸着面55の姿勢(向き)を微妙に調整することができる。吸着面55をワーク面に全面的に平行姿勢で接近・吸着させ、ワーク面に対して吸着面55を傾斜させた状態で部分的に接近・吸着させつつ最終的には全面的に平行姿勢で吸着させるソフトタッチ方式での運転ができる。
【0085】
なお、第3のアーム41(先端側46)に対する第4の回動軸48の傾斜角度を絶対量として管理しつつ、第3のアーム41の回動運動中に強制調整方式を起動して常に吸着手段51の姿勢調整を行なえば、この点からも搬送高速化を図れる。
【0086】
まず、アーム回動機構の基本動作(作用)を説明する。
【0087】
図4において、2点鎖線で示した垂直状態(中立状態)を基準とした場合、上流側プレス1Mに半加工品(ワーク57)を取出しに向かう取出し搬送の場合を考える。駆動制御装置61は、第1の回動軸18(第1のアーム21)を右回転方向に角度(+θ1)だけ回動させ、この角度(+θ1)に対応させて第2の回動軸28(第2のアーム31)を右回転方向に角度(+θ2)だけ回動させるとともに、第1の回動軸18(第1のアーム21)の回動角度(+θ1)および第2の回動軸28(第2のアーム31)の回動角度(+θ2)に対応させて第3の回動軸38(第3のアーム41)を左回転方向に角度(−θ3)だけ回動させる。これにより、第3のアーム41を水平状態に保持する。すると、第3のアーム41の先端側46(吸着手段51)を、プレス1Mの下金型7上に位置決めできる。これまでは、自重調整方式により吸着面55は常に下向きである。その後に、強制調整方式を働かせて、第4の回動軸48を左回転方向に角度(−θ4)[または、右回転方向に角度(+θ4)]だけ回動させつつ、吸着手段51の姿勢を予め設定された姿勢(ワーク57に対する傾斜角度)に自動調整する。
【0088】
下流側プレス1Nに半加工品(57)を送り出し搬送する場合を考える。駆動制御装置61は、第1の回動軸18(第1のアーム21)を左回転方向に角度(−θ1)だけ回動させ、この角度(−θ1)に対応させて第2の回動軸28(第2のアーム31)を左回転方向に角度(−θ2)だけ回動させるとともに第1の回動軸18(第1のアーム21)の回動角度(−θ1)および第2の回動軸28(第2のアーム31)の回動角度(−θ2)に対応させて第3の回動軸38(第3のアーム41)を右回転方向に角度(+θ3)だけ回動させることで、第3のアーム41を水平状態に保持する。その後に、強制調整方式を働かせて、第4の回動軸48を右回転方向に角度(+θ4)[または、左回転方向に角度(−θ4)]だけ回動しつつ、吸着手段51の姿勢を予め設定された姿勢(ワーク57に対する傾斜角度)に自動調整する。
【0089】
吸着手段51は、第3のアーム41(先端側46)の第4の回転軸48に固着された複数の保持部材52と、各保持部材52に取付けられたバキュームカップ53とからなる。図6に示すバキュームコントローラ65は、各バキュームカップ53とは多枝接続具(図示省略)およびチューブを介して連通されている。多枝接続具として、中空構造とした第4の回動軸48の一部から形成することもできる。
【0090】
次に、プレスライン全体としての作用・動作等々を説明する。
【0091】
(製造)
プレス1M、1Nに関し、従来例2、3の場合と異なり、スライド5に干渉防止用の特殊切欠加工を施す必要がないので、コストを低減できる。スライド切欠加工に伴うスライドガイド5Gの設置高さ変更や高さ制限をする必要がないから、プレス加工精度を高く保持できる。
【0092】
ワーク搬送装置10に関し、第1,第2,第3のアーム21,31,41の形態や剛性の選択自由性が広い。プレス間距離の長短に対する適応性が広い。特性的には、回動用負荷が小さく、高速回動性に優れ、位置決め精度も高い。駆動制御も容易である。全体として、構造簡単で小型・軽量であるから、低コストで具現化できる。
【0093】
(組立て)
プレス1M,1Nの各組立作業に並行して、ワーク搬送装置10の組立てができるから、大幅な工期短縮およびコスト低減ができる。システム全体として、小型・軽量化を図れる。プレス間距離を小さくでき、ワーク搬送の高速化に有効である。
【0094】
(プレス運転)
プレス運転のスタンバイ状態では、図4に示すように、第1のアーム21は中立位置(下向き起立状態)とされ、第2のアーム31は第2の回動軸28を保持点として下向き起立状態とされ、かつ第3のアーム41は第3の回動軸38を支持点として上向き起立状態とされ、バキュームカップ53(吸着手段51)の吸着面55は、姿勢調整手段(自重調整方式)の働きで、下向き状態に保持されている。
【0095】
図5に示す駆動制御装置61は、通信線69を通してプレス運転制御盤からプレス運転情報を受けてプレス運転を確認すると、ワーク搬送装置10を駆動制御する。まず、上流側のプレス1Mのプレス加工終了以前に、第1のアーム21が図4に示すプレス1M側に回動(右回転:+θ)し始める。上流側に傾斜する。第2のアーム31も右回転(+θ)方向に回動し始め、第3のアーム41は左回転(−θ)方向に回動し始める。つまり、第2および第3アーム31,41を水平状態に維持するように回動制御される。このようにアーム(21,31,41)の回動運動だけでよいから、搬送制御が容易である。吸着手段51は、自重調整方式の働きで、第4の回動軸48を中心として右回転(+θ)方向に回動しつつ、吸着面55を下向きに維持する。なお、例えばアーム(21,31,41)の回動終了後に、自重調整方式から強制調整方式に切換え、吸着面55の姿勢(傾き)を自動調整することができる。
【0096】
スライド5の上昇に伴い、第1〜第3のアーム21,31,41等が更に回動して吸着手段51を下金型7に搬送しつつ吸着面55を下降させて下金型7に当接させる。負荷も小さく、高精度位置決めができる。これと同時的にバキュームコントローラ65が働く。つまり、上流側プレス1Mの半加工品(ワーク47)を各バキュームカップ53で吸着する。
【0097】
(ワーク搬送)
次のプレス加工のためにスライド5が下降して来る以前に、第1のアーム21は左回転(−θ)され、第2のアーム31も左回転(−θ)され、第3のアーム41は右回転(+θ)され、かつ吸着手段51は第4の回動軸48を中心として左回転(−θ)方向に回動しつつ、ワーク57をX方向の下流側プレス1Nに向けて搬送する。第1のアーム21は下流側に傾斜する。アーム(21,31,41)の回動運動だけなので、高速搬送(例えば、15〜20spm相当速度)できる。バキュームカップ53の吸着面55は下向き状態に保持されている。
【0098】
各アーム(21,31)は原則としてスライド昇降領域内には立ち入らず、スライド5の昇降領域内には第3のアーム41および第4の回動軸48に保持された吸着手段51(バキュームカップ53)だけが搬入される。したがって、スライド5との干渉および金型(6,7)との干渉を確実に回避できる。
【0099】
下流側プレス1Nの下金型(7)上に接近させた状態でバキュームカップ53を停止させ、ワーク57を離して下金型7にセットする。この場合も、自重調整方式から強制調整方式に切換え、吸着面55の姿勢(傾き)を自動調整することができる。その後、第1のアーム21が回動(右回転方向:+θ)され、第2のアーム31が右回転(+θ)方向に回動され、第3のアーム41が回動(左回転方向:−θ)される。
【0100】
(プレス停止)
プレス停止では、上記のスタンバイ状態の場合と同じく、第1のアーム21は中立状態(中立位置)で下向き起立状態とされ、第2のアーム31も下向き起立(垂下)状態とされ、第3のアーム41は上向き起立状態とされる。バキュームカップ53(吸着手段51)の吸着面55は、下向き状態に保持される。
【0101】
(金型交換)
金型交換作業に先立って、第1のアーム21および第2のアーム31等は、X方向の邪魔にならない位置(プレス1M側または1N側)に傾斜停止させておく。作業用床面71の殆どが空くので、金型の搬入・搬出後の金型交換に伴う調整作業を容易かつ迅速に行なえる。
【0102】
かかる構成とされた第1の実施の形態によれば、ワーク搬送装置10が第1のアーム21と第2のアーム31と第3のアーム41と吸着手段51と姿勢調整手段を具備し、第1のアーム21を第1の回動軸18を中心に回動させかつ第2のアーム31を第2の回動軸28を中心に回動させるとともに第3のアーム41を第3の回動軸38を中心に回動させつつ、吸着手段51をプレス加工領域内に移動可能でかつ吸着手段の姿勢を調整可能に形成されているので、干渉回避性を担保しつつ、ワーク搬送速度の一段の高速化が図れ、構造簡単で生産性の高いタンデムプレスシステムを提供することができるとともに、プレス間距離を一段と短縮化できかつワーク搬送の高速化を促進できる。しかも、プレス間距離の大小に対する適応性が広く、一段と正確で安定した姿勢調整を行なえる。
【0103】
また、Y方向に離隔配設された1対のアーム回動機構が同期搬送動作可能に形成されているから、構成要素(回動軸,駆動源等)や駆動制御の簡素化並びに一層のコスト低減を促進できるとともに、ワーク姿勢を正確に維持した確実かつ安定した搬送を行なえる。
【0104】
さらに、第1のアーム21の回動運動に、第2,3のアーム31,41の回動運動と吸着手段51の回動運動とを連関させ、吸着手段51の姿勢を自動的に調整可能に形成されているので、制御単純化によるワーク搬送速度の高速化にも有効である。
【0105】
さらにまた、ワーク57が薄板形状材で、吸着手段51がバキューム吸着方式であるから、一段と確実かつ無傷で吸着搬送できる。
【0106】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、基本的な構成・機能が第1の実施形態の場合と同様とされているが、Y方向に離隔配設されたアーム回動機構(第1のアーム21F,21R等々)を独立搬送動作可能に形成されている。
【0107】
図6において、第1の回動軸18、第1のサーボモータ19(第1のモータ用ドライバ)、第2のサーボモータ29(第2のモータ用ドライバ)および第3のサーボモータ39(第3のモータ用ドライバ)は、各1対(18F,18R、19F,19R、29F,29R、39F,39R)とされ、前後(図で左右)に離隔配設されている。第4の回動軸48も1対(48F,48R)とされ、かつ吸着手段51も各回動軸48F,48Rに対応するように2分割化されている。
【0108】
また、駆動制御装置61は、非同期運転モードに切換えられると、2台のアーム回動機構を構成する前側機構(19F,29F,39F,49F)と後側機構(19R,29R,39R,49R)とを、それぞれのタイミングで独立動作させる。したがって、搬送途中にワーク57の姿勢を調整して、上流側プレス1Mのワーク姿勢と下流側プレス1Nのワーク姿勢とを変えることができる。プレス加工の多様化に対する適応性を大幅に拡大できる。金型に対する適応性も広い。
【0109】
(第3の実施の形態)
この実施の形態は、基本的な構成・機能が第2の実施形態の場合と同様とされているが、第2の実施形態の場合とは異なり、アーム回動機構(第1のアーム21、第2の回動軸28、第2のアーム31、第3の回動軸38、第4のアーム41、第4の回動軸48等)をプレス前後(Y方向)の一方のみに設け、ワーク搬送装置10を構築してある。
【0110】
かかる実施の形態では、第4の回動軸48のY方向長さをボルスタ8の反対端面まで届くように長くする。また、カンチレバー形式となる分だけ機械剛性を高めておくのが好ましい。
【0111】
なお、この構成は、図6から容易に想定できるので、図面は省略する。
【0112】
かくして、この第3の実施形態によれば、小型プレス1でワーク57が小さい場合に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、複数のプレスをタンデム配置しかつ各プレス間にワーク搬送装置を設けたタンデムプレスシステムに関し、ワーク搬送速度の高速化および生産性の向上に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための外観斜視図である。
【図2】同じく、図1の矢視線A−Aに基づくプレス1Nの側面図である。
【図3】同じく、図2の矢視線B−Bに基づくプレス1M(およびプレス1N)の平面図である。
【図4】同じく、図3の矢視線C−Cに基づく一部を断面した正面図である。
【図5】同じく、駆動制御盤を説明するためのブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施形態を説明するための側面図である。
【図7】従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0115】
1 プレス
3 コラム
5 スライド
8 ボルスタ
10 ワーク搬送装置
18 第1の回動軸(第1のエコライザ軸)
21 第1のアーム
22 上端側
26 下端側
28 第2の回動軸
281 第2のエコライザ軸
31 第2のアーム
32 基端側
36 先端側
38 第3の回動軸
41 第3のアーム
42 基端側
46 先端側
48 第4の回動軸
51 吸着手段
53 バキュームカップ
55 吸着面
57 ワーク
61 駆動制御装置
71 作業用床面
75 Y方向空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレスがX方向にタンデム配列され、ワーク搬送装置を用いて上流側プレスから下流側プレスにワークを搬送しつつ各プレスにプレス加工させるタンデムプレスシステムにおいて、
前記ワーク搬送装置が、
前記X方向の上流側プレスと下流側プレスとの中間位置に設けられかつX方向と直交するY方向に延びる第1の回動軸と、
上端側が第1の回動軸を中心に回動可能に装着されかつ第1の回動軸を中心とする回動により下端側をX方向に往復移動可能に形成された第1のアームと、
基端側が第1のアームの下端側に設けられたY方向に延びる第2の回動軸を中心に回動可能に装着された第2のアームと、
基端側が第2のアームの先端側に設けられたY方向に延びる第3の回動軸を中心に回動可能に装着された第3のアームと、
この第3のアームの先端側に設けられかつワークを吸着・解放可能に形成された吸着手段と、
第3のアームの先端側に設けたY方向に延びる第4の回動軸を利用して吸着手段の姿勢を調整可能な姿勢調整手段を具備し、
第1のアームを第1の回動軸を中心に回動させかつ第2のアームを第2の回動軸を中心に回動させるとともに、第3のアームを第3の回動軸を中心に回動させつつ吸着手段をプレス加工領域内に移動可能に形成されている、タンデムプレスシステム。
【請求項2】
前記第1の回動軸,前記第1のアーム,前記第2のアーム,前記第3のアームおよび前記第4の回動軸を含むアーム回動機構がY方向に離隔配設された2組とされ、各第1の回動軸がエコライザ軸を形成するように一体的に連結されかつ各第4の回動軸がエコライザ軸を形成するように一体的に連結され、各アーム回動機構が同期搬送動作可能に形成されている、請求項1記載のタンデムプレスシステム。
【請求項3】
前記第1の回動軸,前記第1のアーム,前記第2のアーム,前記第3のアームおよび前記第4の回動軸を含むアーム回動機構がY方向に離隔配設された2組とされ、各アーム回動機構がそれぞれに独立搬送動作可能に形成されている、請求項1記載のタンデムプレスシステム。
【請求項4】
駆動制御指令に基づき、前記第1の回動軸を中心とする前記第1のアームの回動運動に、前記第2の回動軸を中心とする前記第2のアームの回動運動と,前記第3の回動軸を中心とする前記第3のアームの回動運動と,前記第4の回動軸を中心とする前記吸着手段の回動運動とを連関させつつ、前記吸着手段の姿勢を調整駆動制御する調整駆動制御装置が設けられている、請求項1〜3までのいずれか1項に記載されたタンデムプレスシステム。
【請求項5】
前記ワークが薄板形状材とされ、かつ前記吸着手段が複数のバキュームカップを有するバキューム吸着方式とされている、請求項1〜4までのいずれか1項に記載されたタンデムプレスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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