説明

タンデムプレスライン

【課題】プレス速度が高速から低速に切り換えられた場合でも加工精度を維持できるようにする。
【解決手段】高速側ラインマスター制御信号Smhから低速側ラインマスター制御信号Smlに切換えられた場合に各プレスを同期高速プレス制御から同期低速プレス制御に切換える。そして、スライド位置が加工領域内にあると判別されたプレスでは、少なくともスライド位置が加工領域内にある間は同期低速プレス制御から低速側ラインマスター制御信号Smlに同期しない非同期高速プレス個別制御信号Sphnに基づく非同期高速プレス制御に切換え可能でかつプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス制御から同期低速プレス制御に再切換え可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
プレスと搬送装置とをライン方向に交互に配置したタンデムプレスラインであり、ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号を用いて当該各プレスを同期プレス制御可能であるとともに該ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号を用いて当該各搬送装置を同期搬送制御可能に形成されたタンデムプレスラインに関する。
【0002】
プレスと搬送装置とをライン方向に交互に配置したタンデムプレスラインが知られている。ワーク搬送方向の上流側の材料供給装置から最初(第1番目)のプレスにワーク(材料)を搬送し、次々のプレスにワーク(半加工製品)を搬送し、最後のプレスで製品(ワーク)とする。この製品は、その下流側に配置された製品取扱装置に引き渡される。
【0003】
この従来タンデムプレスラインでは、交互断続運転方式が採用されている。すなわち、各プレスを上死点で停止させた状態で、各搬送装置を1サイクル運転させる。各前段工程用プレスからワークを取り出し、当該各後段工程用プレスにワークを引き渡す。このワーク搬送後に搬送装置(搬送部材)をプレスとの干渉回避位置に待機させる。しかる後に、各プレスを1サイクル運転させ、当該各プレス加工を実行させる。その後に、上死点に停止させる。
【0004】
かかる交互断続運転方式は、プレスと搬送装置とを交互に運転させる方式であるから、プレスと搬送装置との構成要素が衝突(干渉)することを確実に回避できる利点はある。しかし、生産性の点からすると、無駄時間が多く非常に不利である。
【0005】
そこで、プレスと搬送装置とを同時並行運転するプレスラインが提案(例えば、特許文献1)されている。この提案プレスラインでは、上流側プレスと下流側プレスとのクランク角度差を一定とするように、下流側プレスを上流側プレスに追従させつつ速度制御する。また、搬送装置は、上流側プレスの動作および下流側プレスの動作のそれぞれに追従搬送制御させ、その中間では単独中間搬送制御させる。つまり、追従先切換え同時並行運転方式である。この提案によれば、交互断続運転方式の場合に比較して干渉回避をしつつ無駄時間を削減による生産性を向上できるとされている。
【0006】
しかし、この追従先切換え同時並行運転方式は、クラッチの係合・解放およびブレーキの制動を一掃化してフェーシングの磨耗を低減すること、すなわちメンテナンスコストおよびメンテナンス頻度を低減することを目的としている。したがって、クラッチ・ブレーキやフライホイールを具備しないサーボプレスに導入するプレスラインでは、利益がないので採用し難い。
【0007】
すなわち、高速制御可能側の上流側プレスと下流側プレスとの相対関係を先に決めてから、機械的慣性の大きく比較的に低速制御側(高速制御困難側)の搬送装置の動作を切換え追従制御させるには、上・下流側プレス間の相対関係に時間的に大きな余裕が必要である。生産性向上はあまり期待できない。そもそも、上・下流側両プレス間のクランク角度差を一定とすることは、上・下流側両プレスのスライドモーションが同一である場合に限って言えることである。つまり、プレスごとに当該各プレス加工に最適なスライドモーションを設定して運転するプレスラインでは、クランク角度差を一定とする意味がなく、その観念さえも生じない。
【0008】
ところで、生産性は、局部(隣接プレス間)的な関係にとどまらず、プレスライン全体として考えるべきである。かかる観点から提案(例えば、特許文献2)された全体統括管理運転方式では、上位コントローラ側で各プレスの動作が最適・最速となるプレス用モーションパラメータおよび各搬送装置の動作が最適・最速となる搬送用モーションパラメータ並びに並行運転進行用の位相信号を生成して複数の下位コントローラに出力し、各プレスおよび各搬送装置が当該各下位コントローラからの信号を受けて運転するように形成されている。すなわち、ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号を用いて当該各プレスを同期プレス制御しかつ該ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号を用いて当該各搬送装置を同期搬送制御する方式である。したがって、各プレス加工精度(品質)および干渉回避を担保しつつ各プレス及び各搬送装置の最大的能力を発揮できる統括管理運転を実行できるから、生産性を大幅に向上できる。
【0009】
さらに、全体統括管理運転方式に関して、個別停止制御装置を設けたプレスラインの提案(例えば、特許文献3)がされている。この提案では、プレスまたは搬送装置の一部で異常が発生した場合に、異常発生装置は停止させ、干渉の虞ある装置は干渉回避位置で停止させ、正常運転中の装置は通常の停止位置に停止させる。つまり、ライン全体の緊急停止を防止する。したがって、正常運転中の装置による不良品の発生を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/096533A1公報
【特許文献2】特開2008−246529号公報
【特許文献3】特開2009−172662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、提案(特許文献3)方式では、正常運転中であった装置による不良品の発生は防止することができたとしても、異常が発生したことを根拠として、停止されるまでの時間差はあるものの、異常発生装置、干渉発生の虞ある装置および正常運転中の装置の全てが停止される。上記の緊急停止に類するライン全体停止を是認していることに相違ない。この考え方は、交互断続運転方式によるサイクル毎強制停止を一掃化しようとする先提案(特許文献1)の主旨、最終的な生産性向上の趣旨に反するといえる。また、各プレスおよび搬送装置の停止位置は、異常発生時における運転状態等によってまちまちである。つまり、停止位置がバラバラなので再起動運転までに多大な労力と時間が掛る。これも生産性を低下させる。
【0012】
しかしながら、ライン運転中に機械的、電気的、さらには人為的な事由に起因した異常事態が発生することは事実である。一方において、生産性および品質の向上は一段と強く求められる。かくして、異常発生があっても生産性の大幅な低下を招くライン全停止は回避することが望ましい。例えば、一時的に運転速度を下げてやれば、その期間中に異常を取り除くこともできる場合がある。
【0013】
しかし、異常を取り除くためにライン運転速度を下げると、ライン全停止の場合に比較して生産性の大幅低下は招来しないが、加工品質(精度)が劣悪化する虞がある。不良品(精度低下品)の発生は生産コスト高となる。実質的生産性の低下に繋がる。かくして、ライン停止を回避しつつ異常発生原因を払拭可能でかつ連続運転可能で、実質的生産性を維持・向上できるタンデムプレスラインの開発が要請されている。
【0014】
本発明の目的は、高速プレス運転から低速プレス運転に切換え可能でかつ切換え後もプレス加工精度を維持できるタンデムプレスラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、幾多の実機運用実績の分析から、異常発生原因の中には運転速度を下げた期間中に機械的微調整や人手を介することにより、ライン全停止をしなくても、その異常発生原因を解消できる場合が多いこと、不良品の発生防止が実質的生産性の向上に直結することに着目し、異常発生時にはライン停止を回避するためにライン運転速度を低速側に切換え可能でかつライン速度の低速側への切換え後も加工領域内でのプレス速度を切換え前の高速側速度相当に維持可能に形成され、前記目的を達成することができる。
【0016】
すなわち、請求項1の発明に係るタンデムプレスラインは、プレスと搬送装置とをライン方向に交互に配置し、ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号を用いて当該各プレスを同期プレス制御可能であるとともに該ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号を用いて当該各搬送装置を同期搬送制御可能に形成されたタンデムプレスラインにおいて、高速側ラインマスター制御信号から低速側ラインマスター制御信号に切換えられた場合に各プレスを低速側ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する低速側プレス個別制御信号を用いた同期低速プレス制御に切換え可能に形成し、同期低速プレス制御中のプレスごとに当該スライド位置が加工領域内にあるか否かを判別可能に形成し、スライド位置が加工領域内にあると判別されたプレスでは、少なくともスライド位置が加工領域内にある間は同期低速プレス制御から低速側ラインマスター制御信号に同期しない非同期高速プレス個別制御信号に基づく非同期高速プレス制御に切換え可能に形成し、非同期高速プレス制御中のスライド位置がプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス制御を停止可能であるとともに低速側ラインマスター制御信号がプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス個別制御信号から低速側プレス個別制御信号に再同期切換え可能かつそれまで停止していた非同期高速プレス制御から該同期低速プレス制御に自動切換え可能に形成されている。
【0017】
請求項2の発明は、プレスラインの構成要素機器とワークとの関与状態が連続運転困難状態である場合に高速側ラインマスター制御信号から低速側ラインマスター制御信号に自動切換え可能である。また、請求項3の発明は、構成要素機器である製品取扱装置に多数の製品が停滞していることが認められた場合に連続運転困難状態と検出する。
【0018】
請求項4の発明は、非同期高速プレス個別制御信号が、高速側ラインマスター制御信号の中の加工領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速プレス個別制御信号とされている。請求項5の発明は、非同期高速プレス個別制御信号が、高速側ラインマスター制御信号に対応するプレス個別制御信号とは別個の精度維持専用高速プレス個別制御信号とされている。また、請求項6の発明は、プレス再同期化ポイントが上死点とされている。
【0019】
請求項7の発明は、高速側ラインマスター制御信号から低速側ラインマスター制御信号に切換えられた場合に各搬送装置を低速側ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する低速側搬送個別制御信号を用いた同期低速搬送制御に切換え可能に形成し、同期低速搬送制御中の搬送装置ごとに当該搬送部材位置がリターン搬送領域内にあるか否かを判別可能に形成し、搬送部材位置がリターン搬送領域内にあると判別された搬送装置では、搬送部材位置が少なくともリターン搬送領域内にある間は同期低速搬送制御から低速側ラインマスター制御信号に同期しない非同期高速搬送個別制御信号に基づく非同期高速搬送制御に切換え可能に形成し、非同期高速搬送制御中の搬送部材位置が搬送再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速搬送制御を停止可能であるとともに低速側ラインマスター制御信号が搬送再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速搬送個別制御信号から低速側搬送個別制御信号に再同期切換え可能かつそれまで停止していた非同期高速搬送制御から該同期低速搬送制御に自動切換え可能に形成されている。
【0020】
請求項8の発明は、非同期高速搬送個別制御信号が、高速側ラインマスター制御信号の中のリターン搬送領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速搬送個別制御信号とされている。請求項9の発明は、非同期高速搬送個別制御信号が、高速側ラインマスター制御信号に対応する搬送個別制御信号とは別個の退避専用高速搬送個別制御信号とされている。また、請求項10の発明は、搬送再同期化ポイントが搬送中間位置とされている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、高速プレス運転から低速プレス運転に切換えてもプレス加工精度(品質)を維持することができるとともに、ライン全停止することなく連続運転ができるので実質的生産性を維持・向上できる。しかも、運転継続中に異常原因を払拭すれば、元の高速プレス運転に戻せるから実質的生産性を一段と向上できる。
【0022】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の場合と同様な効果を奏することができる他、さらにライン全停止を確実に回避できる。請求項3の発明によれば、請求項2の発明の場合と比較して一段と確実・適時の低速化切換えが行える。
【0023】
請求項4の発明によれば、請求項1〜3の各発明の効果に加え、さらに非同期であるが切換え前の高速側プレス個別制御信号を有効利用できるから信号形成が容易でかつ信頼性が高い。また、請求項5の発明によれば、請求項1〜3の各発明の効果に加え、さらに非同期高速プレス個別制御信号の選択自由性が広くかつ信号形式の単純化が容易である。さらに、請求項6の発明によれば、請求項1〜5の各発明の効果に加え、さらに低速プレス運転に戻すための再同期を一段と確実かつ安定して行える。
【0024】
請求項7の発明によれば、請求項1〜6の各発明の場合と同様な効果を奏することができる他、さらに、搬送部材位置をプレスから離反させるためのリターン搬送を高速化できるので一段と確実な干渉回避を担保できる。
【0025】
請求項8の発明によれば、請求項7の発明の効果に加え、さらに非同期であるが切換え前の高速側搬送個別制御信号を有効利用できるから信号形成が容易でかつ信頼性が高い。また、請求項9の発明によれば、請求項7の発明の効果に加え、さらに非同期高速搬送個別制御信号の選択自由性が広くかつ信号形式の単純化も容易である。さらに、請求項10の発明によれば、請求項7〜9の各発明の効果に加え、さらに低速搬送運転に戻すための再同期を一段と確実かつ安定して行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係るタンデムプレスラインを説明するためのブロック図である。
【図2】同じく、プレスおよび搬送装置並びに各コントローラの全体的構成を説明するための図である。
【図3】同じく、プレスと搬送装置との干渉回避策を説明するための図である。
【図4】同じく、プレスモーションおよび搬送モーションを説明するためのタイミングチャートである。
【図5】同じく、プレス側の運転速度切換え動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】同じく、搬送装置側の運転速度切換え動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本タンデムプレスラインは、図1、図2に示す如く、高速側ラインマスター制御信号Smhから低速側ラインマスター制御信号Smlに切換えられた場合に各プレス10を低速側ラインマスター制御信号Smlに対応しかつこれに同期する低速側プレス個別制御信号Splを用いた同期低速プレス制御に切換え可能で、同期低速プレス制御中のプレス10ごとに当該スライド位置が加工領域(Aprs)内にあるか否かを判別可能で、加工領域内にあると判別されたプレス10では同期低速プレス制御から低速側ラインマスター制御信号Smlに同期しない非同期高速プレス個別制御信号Sphnに基づく非同期高速プレス制御に切換え可能で、非同期高速プレス制御中のスライド位置がプレス再同期化ポイント(UDP)に到達したことを条件に非同期高速プレス制御を停止可能であるとともに低速側ラインマスター制御信号Smlがプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス個別制御信号Sphnから低速側プレス個別制御信号Splに再同期切換え可能かつそれまで停止していた非同期高速プレス制御から同期低速プレス制御に自動切換え可能に形成されている。
【0029】
確認的に、タンデムプレスラインは、複数(A〜N)のプレス10と複数(A〜N+1)の搬送装置30を図1に示す如くライン方向(X方向)に交互に配置し、ラインマスター制御信号Smに対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号Spを用いて各プレス10を同期プレス制御可能であるとともにラインマスター制御信号Smに対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号Stを用いて当該各搬送装置30を同期搬送制御可能に構築されている。
【0030】
この実施の形態では、上流側に材料供給装置51が配置され、下流側に製品取扱装置54が配置されている。この製品取扱装置54は、製品排出シューター55とスタッカー56とからなる。搬送装置30Aは、ワーク(材料)を材料供給装置51から取り出してプレス10Aに搬送する。各搬送装置30B、…、30Nは、各上流側プレス(例えば、10A)から各下流側プレス(10B)にワーク(半製品)を搬送する。搬送装置30N+1は、ワーク(製品)を製品取扱装置54に引き渡す。ワーク1は製品排出シューター55上において列を成してX方向に連続(または、間歇)して移送され、スタッカー56に積み重ね収納される。
【0031】
図2において、各プレス10(10A)は、サーボプレス構造であり、クラウン11内のクランク軸をサーボモータで回転制御することにより、設定された自由なプレス用モーションに従ってスライド12を昇降運動させることができる。スライド12の下面に上金型13(13A)が取り付けられ、ベッド(乃至ボルスタ)15の上面に下金型14(14A)が取り付けられている。17はコラムである。列配置された各プレス10は、各前段プレス10で加工されかつそこから引き渡されたワーク1に自機プレス加工を施し、自機プレス加工後に各後段プレス10にワーク1を引き渡す。
【0032】
各搬送装置30(30B)は、サーボモータ駆動方式であり、本体31に装着された搬送機構部32と搬送アーム(図示省略)と吸着ヘッド(搬送部材)33とバキュームカップ34とを含み、設定された搬送用モーションに従ってワーク1をX方向に搬送(搬入、搬出)することができる。搬送アームは多節多枝型揺動タイプで吸着ヘッド(搬送部材)33の姿態を常に水平状態に保持することができる。すなわち、搬送機構部32は、搬送アームを揺動しつつ図2の搬送中間位置Zを中心に吸着ヘッド(搬送部材)33を上流側プレス(10A)に移動(TR1、TR2)させ、下流側プレス(10B)にも移動(TR3、TR4)させることができる。
【0033】
経時的には、図2に示す搬送装置30Bは、上流側プレス10Aのスライド12の上昇時に吸着ヘッド33をプレス10Aに移動(TR1)させかつバキュームカップ34を働かせて下金型14Aからワーク1を取り出し、引き続き吸着ヘッド33を元の位置(搬送中間位置Z)に戻し移動(TR2)する。次いで、下流側プレス10Bのスライド12が図4に示す加工領域(Aprs)内に下降して来るまでに、吸着ヘッド33を移動(TR3)させてワーク1を図2のワーク開放位置Prrで静止させかつ下金型14Bに引き渡す。この引渡し後速やかに、吸着ヘッド33を移動(TR4…リターン搬送)させて再び搬送中間位置Zに静止する。
【0034】
バキュームカップ34は、コンプレッサ、アキュムレータ等を含む真空生成装置(図示省略)に接続されている。吸着ヘッド33に装着されるバキュームカップ34の個数は、所定の負圧(真空度)が成立した状態でワーク1を安定保持するのに十分な複数(例えば、8個)とされる。
【0035】
なお、搬送装置の方式・構造はこれに限定されない。搬送部材(33)はワーク1を保持・解放することができれば、真空引き構造でなくてもよい。例えば、電磁吸着方式である。また、吸着ヘッド(搬送部材)33の搬送構造は、搬送アーム構造でなくても実施できる。例えば、スライダー構造である。
【0036】
図2において、上位コントローラ60は、プレスライン全体を統括管理しつつ各構成要素(機器・装置)を適時に適量だけ駆動制御する機能をもつ。この実施の形態では、上位コントローラ60は、発振回路やCPUなどを内蔵する制御部65、各種プログラムや固定データを記憶保持するための不揮発性メモリ66、迅速処理化等のために実行プログラムやランニングデータの一時記憶のためのメモリ67およびインターフェース68を含む構造とされている。
【0037】
下位コントローラ(各プレス用コントローラ21および各搬送用コントローラ41)の構造は、上位コントローラ60の場合と同様な構造である。つまり、各プレス用コントローラ21は、発振回路やCPU等を内蔵する制御部25、不揮発性メモリ26、メモリ27およびインターフェース28を含む。また、各搬送用コントローラ41も発振回路やCPU等を内蔵する制御部45、不揮発性メモリ46、メモリ47およびインターフェース48を含む。なお、各プレス用コントローラ21および各搬送用コントローラ41が少数台である場合等においては、これらを上位コントローラ60内に一体的に組込む構造とすることも可能である。
【0038】
表示操作盤70は、表示部72および操作部74を含み、操作部74で各種データ(位置データ、パラメータ等)の入力(設定、変更)等を行い、表示部72で入力データ等の確認や運転状態を監視することができる。この表示部72は、タッチパネル型として操作部(74)の一部または全部を兼用可能に形成することができる。
【0039】
さて、上位コントローラ60から生成・出力されるラインマスター制御信号Smは、プレスラインの全体を総括管理しつつ全てのライン構成要素機器(51、10、30、54等)を能率的で円滑かつ安定して駆動制御するための制御信号であり、この実施の形態では、位相信号と各構成要素機器の起動・停止タイミング信号等との組み合わせとされている。位相信号としては、時間信号、クランク角度信号や工程進行番号信号などをもって形成することができる。この実施の形態では、図4の横軸に示すように時間信号とされ、最小分解能は例えば1msとされる。起動・停止タイミング信号は、設定時間(値)として形成される。
【0040】
ラインマスター制御信号生成手段(65、66)は、信号生成制御プログラムを格納させた不揮発性メモリ66とこのプログラムを実行する制御部65とから形成され、操作部74から入力された各種データ・パラメータを利用して生成する。生成過程や内容は、表示部72で確認することができる。生成されたラインマスター制御信号Smは、不揮発性メモリ66に記憶保持される。
【0041】
なお、このラインマスター制御信号生成手段をラインマスター制御信号生成手段(65、66)と現したように、以下の説明において何々手段の後に符号[例えば、(25、26)]が括弧書きされている場合は、当該何々手段が各符号(25、26)相当の各機器の組合せとして構成されていることを意味する。
【0042】
ラインマスター制御信号Smの生成手順としては、特に限定されないが、この実施の形態では、まずプレス10ごとに最適なプレス用モーション(時間−スライド高さ)を決める。プレス用モーションとしては、図4に示すプレス10Aの場合は上金型13Aの最下点軌跡R13aであり、プレス10Bの場合は上金型13Bの最下点軌跡R13bである。
【0043】
すなわち、プレス個別制御信号生成手段(65、66)を働かせて、位相信号とパラメータ(スライド位置、スライド速度や、加工領域、上死点UDP等)とから規定されるプレス用モーション(プレス個別制御信号Sp)R13a、R13bを生成する。生成されたプレス個別制御信号Spも不揮発性メモリ66に記憶保持される。
【0044】
次いで、搬送装置30ごとに最適な搬送用モーション[時間−吸着ヘッド(搬送部材)の位置]を決める。搬送用モーションとしては、図2、図4に示す搬送装置30Bの場合は、吸着ヘッド33の上流側プレス10Aに対する引取り往動軌跡TR1と引取り復動軌跡TR2であり、下流側プレス10Bに対する引渡し往動軌跡TR3と引渡し復動軌跡(リターン搬送軌跡)TR4である。
【0045】
すなわち、搬送個別制御信号生成手段(65、66)を働かせて、位相信号とパラメータ(吸着ヘッド位置、搬送速度や、ワーク解放位置、搬送中間位置Z等)とから規定される搬送用モーション(搬送個別制御信号St)R33b、R33aを生成する。生成された搬送個別制御信号Stも不揮発性メモリ66に記憶保持される。
【0046】
なお、図4に示す搬送用モーション(TR1、TR2、TR3、TR4)R33b、R33aは、プレス用モーションR13b、R13aの場合と異なり二重線として表示してある。干渉発生有無検討は、図4の上段側に示した吸着ヘッド33がワーク1を吸着保持している場合の材料搬送幅Wwkと、吸着保持していない場合の搬送装置幅Wtrsとのそれぞれについて行う必要があることを理由とする。プレス幅Wprsは変わらない。
【0047】
ラインマスター制御信号Smは、このようにして生成されたプレス用モーション(プレス個別制御信号Sp)R13a、R13bと搬送用モーション(搬送個別制御信号St)R33b、R33aとを位相方向に単に配列するだけで形成してしまったのでは意味がない。つまり、プレス10側の要素(スライド12やワーク1)と搬送装置30側の要素(吸着ヘッド33やワーク1)との干渉(衝突)を確実に回避できるものとして生成されなければならない。プレスラインの生産性向上についての検討の際は、運転速度の高速化のみならず、干渉発生の有無を確認するための時間短縮化および干渉回避を確実とするラインマスター制御信号Smの生成の迅速化を十分に吟味すべきである。
【0048】
プレス10側の上記要素および搬送装置30側の上記要素が複雑である場合には、相対位置関係の検証必要個所が数千点に及ぶことも稀ではない。ワーク1の形状が複雑な場合には、検証必要個所は一段と増す。すなわち、運転高速化の一助としてプレス10側要素と搬送装置30側要素の相対位置関係を干渉回避できるギリギリの接近距離(例えば、数mm)とすると、検証必要個所の多さから各プレス用モーションおよび各搬送用モーション、ひいてはラインマスター制御信号Smの生成完了までに莫大な労力と時間を費やすことになる。これでは、却って生産性の低下を招く虞が強い。
【0049】
そこで、この実施の形態では、図3に示すプレス10側の要素(13A、14A)を内包するプレス側干渉ボックス19BX、ワーク1を保持した状態の搬送装置30側の要素(1,33A)を内包する搬送側干渉ボックス39AXおよびワーク1を保持しない状態の要素(33B)を内包する搬送側干渉ボックス39BXなる概念を導入する。すなわち、要素間の相対位置関係の確認容易化のために単純化された干渉ボックスを利用して干渉発生有無を自動かつ高速でチェック可能に形成し、干渉回避を確約できるラインマスター制御信号Smを迅速に生成する。結果として、ラインマスター制御信号Sm等の生成作業時間と実際運転時間とを含む総合的生産性つまり実質的生産性の大幅な向上を企図する。
【0050】
図2、図4を参照し、プレス10A、10B間に配設された搬送装置30Bの搬送用モーションR33bは、プレス10Bのスライド12(上金型13A)が加工領域(Aprs)内にある場合つまりプレス干渉領域(Iprs)内に侵入している間は吸着ヘッド(搬送部材)33を当該加工領域(Aprs)内に侵入させない。つまり、搬送装置干渉脱出領域(NItrs)内にとどめる。一方、吸着ヘッド33がプレス幅Wprs(搬送装置干渉領域Itrs)内に侵入する場合は、スライド12(上金型13A)が図4の搬入上面高さHiおよび搬出上面高さHoより上方位置に上昇している場合に限られる。したがって、干渉は発生しない。
【0051】
プレス10Bの下流側に配置された搬送装置30Cの搬送用モーションR33cは、プレス10Bのスライド12(上金型13B)が加工領域(Aprs)内にある場合つまりプレス干渉領域(Iprs)内に侵入している間は吸着ヘッド(搬送部材)33を当該加工領域(Aprs)内に侵入させない。一方、吸着ヘッド33がプレス幅Wprs(搬送装置干渉領域Itrs)内に侵入する場合は、スライド12(上金型13B)が加工領域(Aprs)より上方位置に上昇している場合に限られる。したがって、干渉は発生しない。
【0052】
ここに、ラインマスター制御信号生成手段(65、66)は、プレス用モーションおよび搬送用モーションを同じマスター位相信号(時間)に関係付け(特定)したラインマスター制御信号Smを生成することができる。図4に示す場合は、搬送装置30Cが上流側プレス10Bからワーク1を取り出して下流側の搬送中間位置Zに向けてワーク1の搬出(TR2)を開始すると同時的に、搬送装置30Bがプレス10Bに新たなワーク1を搬入(TR3)し始める。
【0053】
この際、搬送装置30Bと搬送装置30Cとは、位置Pnrにおいて最接近する。つまり、ラインマスター制御信号Smとしては、無駄時間を最短化するようにマスター位相信号(時間)を形成する。この場合におけるライン制御余裕時間Tpsを確保しておくことも必要である。机上と現場との誤差等の是正に有効である。
【0054】
ライン運転の説明に先立ち、図5および図6について説明しておく。図5は、上位コントローラ60側の動作(S10〜S13)と各プレス用コントローラ21側の動作(S14〜S21)とを一体的に表現してある。同様に、図6は、上位コントローラ60側の動作(S30〜S33)と各搬送用コントローラ41側の動作(S34〜S41)とを一体的に表現してある。いずれも説明便宜のためである。Sはステップ、YはYES,NはNOを意味する。表現の簡素化である。
【0055】
図2の表示操作盤70において、ラインマスター制御信号Smを選択(設定)する(図5のS10でYES)。ここでは、任意のラインマスター制御信号Smの中から相対的に高速側であるラインマスター制御信号Smhを選択したとする。すると、プレス個別制御信号生成出力手段(65、66)が、対応するプレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphを生成する(S11)。この実施の形態では、高速側プレス個別制御信号Sphは先に生成・記憶されているので、今回選択の高速側ラインマスター制御信号Smhに対応するプレス10ごとの高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphを不揮発性メモリ66から読み出せばよい。
【0056】
このように生成(読出)された各高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphは、各プレス10(21)に出力(送信)される。各プレス用コントローラ21では、記憶制御手段(25、26)が入力(受信)された高速側プレス個別制御信号Sphを不揮発性メモリ26(または、メモリ27)に記憶する。
【0057】
同時的かつ同様に、搬送個別制御信号生成手段(65、66)が、対応する搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthを生成する(S30でYES、S31)。この実施の形態では、高速側搬送個別制御信号Sthは先に生成・記憶されているので、今回選択の高速側ラインマスター制御信号Smhに対応する搬送装置30ごとの高速側搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthを不揮発性メモリ66から読み出せばよい。
【0058】
このように生成(読出)された各高速側搬送個別制御信号Sthは、各搬送装置30(41)に出力(送信)される。各搬送用コントローラ41では、記憶制御手段(45、46)が入力(受信)された高速側搬送個別制御信号Sthを不揮発性メモリ46(または、メモリ47)に記憶する。
【0059】
表示操作盤70において運転開始指令を発すると、同期運転指令制御手段(65、66)は、スタンバイ状態にある各プレス用コントローラ21に同期運転指令(ラインマスター制御信号Smh)を出力する(S12)。同様に、スタンバイ状態にある各搬送用コントローラ41に同じ同期運転指令(ラインマスター制御信号Smh)を出力する(S32)。
【0060】
かくして、各プレス用コントローラ21は、ラインマスター制御信号Smhに対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号Sphを用いて当該各プレス10を同期高速プレス制御する。これと並行して、各搬送用コントローラ41は、ラインマスター制御信号Smhに対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号Sthを用いて当該各搬送装置30を同期高速搬送制御する。つまり、図4に示すように、干渉なく円滑かつ安定したプレス製品の生産ができる。
【0061】
このプレスラインの連続運転中において、異常が発生することがある。異常発生原因を分析すると、必ずしもラインを停止させなくても解消できる場合が多い。しかも、解消容易な異常発生原因の殆どは、ラインを低速運転することで正常化でき得る。例えば、バキュームカップ34の成立負圧が低いあるいは各バキュームカップ34の負圧にバラツキあるためにワーク1の保持姿態が不安定である場合には、アキュムレータの内圧が安定するまでの時間待ちをすればよい。また、製品排出シューター55に想定以上の製品(1)が停滞した場合には、適当数に手直しされるまで時間稼ぎ(プレスからの排出インターバルを長くする。)をすればよい。スタッカー56に想定以上の多数の製品(1)が積重収納されてしまう虞があるときも同様である。
【0062】
異常発生時には、表示操作盤70において、相対的に低速側のラインマスター制御信号Smlに選択的に切換えることができる(図5のS10でYES)。すると、プレス個別制御信号生成出力手段(65、66)が、ラインマスター制御信号Smlに対応するプレス10ごとの低速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Splを生成(読出)する(S11)。
【0063】
なお、1つの低速側ラインマスター制御信号Smlに対して複数の低速側プレス個別制御信号Splの中から1つの低速側プレス個別制御信号Splを選択可能に形成しておいてもよい。低速側搬送個別制御信号Stlの場合も同様である。
【0064】
各低速側プレス個別制御信号Splは、当該各プレス10(21)に出力(送信)される。各プレス用コントローラ21では、記憶制御手段(25、26)が入力(受信)した高速側プレス個別制御信号Sphの場合と同様に今回受信の低速側プレス個別制御信号Splを不揮発性メモリ26(または、メモリ27)に記憶する。
【0065】
この段階で、この実施の形態では、不揮発性メモリ26(27)に先の高速側プレス個別制御信号Sphと切換え後の低速側プレス個別制御信号Splとが記憶されている。なお、装置構築形式としては、全てのプレス個別制御信号Spを予め不揮発性メモリ26に記憶させておき、選択されたラインマスター制御信号Smに対応するプレス個別制御信号Spを特定するように形成してもよい。また、上位コントローラ60と各プレス用コントローラ21とを一体的に構築し、プレス個別制御信号Spを共用可能に形成しても実施することができる。
【0066】
さらに、不揮発性メモリ26には、2種類(Sphnp、Sphnq)の非同期高速プレス個別制御信号Sphnが記憶されている。1種目は高速側ラインマスター制御信号Smhの中の加工領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速プレス個別制御信号Sphnpである。2種目は高速側ラインマスター制御信号Smhに対応するプレス個別制御信号Sphとは別個の精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqである。どちらの高速プレス個別制御信号(Sphnp、Sphnq)を用いて非同期高速プレス運転(図5のS17、S19)を実行させるかについては、選択(設定変更)しておくことができる。
【0067】
同時的かつ同様に、搬送個別制御信号生成出力手段(65、66)が、低速側ラインマスター制御信号Smlに対応する低速側搬送個別制御信号(搬送用モーション)Stlを生成(読出)する(S30でYES、S31)。このように生成(読出)された低速側搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthは、各搬送装置30(41)に出力(送信)される。各搬送用コントローラ41では、記憶制御手段(45、46)が入力(受信)した低速側搬送個別制御信号Stlを先の高速側搬送個別制御信号Sthの場合と同様に不揮発性メモリ46(または、メモリ47)に記憶する。
【0068】
この段階で、不揮発性メモリ46(47)には、先の高速側搬送個別制御信号Sthと切換え後の低速側搬送個別制御信号Stlとが記憶されている。なお、装置構築形式としては、全ての搬送個別制御信号Stを予め不揮発性メモリ46に記憶させておき、選択されたラインマスター制御信号Smに対応する搬送個別制御信号Stを特定するように形成してもよい。また、上位コントローラ60と各搬送用コントローラ41とを一体的に構築し、搬送個別制御信号Stを共用可能に形成しても実施することができる。
【0069】
さらに、不揮発性メモリ46には、2種類(Sthnp、Sthnq)の非同期高速搬送個別制御信号Sthnが記憶されている。1種目は高速側ラインマスター制御信号Smhの中のリターン搬送領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速搬送個別制御信号Sthnpである。2種目は高速側ラインマスター制御信号Smhに対応する搬送個別制御信号Sthとは別個の退避専用高速搬送制御信号Sthnqである。リターン搬送領域では吸着ヘッド33はワーク1を吸着しておらずその搬送動作負荷は小さい。したがって、退避専用高速搬送の速度を、高速側搬送個別制御信号Sthの場合の速度よりも一段と高速とすることもできる。どちらの高速搬送個別制御信号(Sthnp、Sthnq)を用いて非同期高速搬送運転(図6のS37、S39)を実行させるかについては、選択(設定変更)しておくことができる。
【0070】
表示操作盤70において運転開始指令を発すると、同期運転指令制御手段(65、66)は、スタンバイ状態にある各プレス用コントローラ21に同期運転指令(ラインマスター制御信号Sml)を出力する(S12)。同様に、スタンバイ状態にある各搬送用コントローラ41に同期運転指令(ラインマスター制御信号Sml)を出力する(S32)。
【0071】
かくして、各プレス用コントローラ21は、ラインマスター制御信号Smlに対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号Splを用いて当該各プレス10を同期低速プレス制御する。これと並行して各搬送用コントローラ41は、ラインマスター制御信号Smlに対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号Stlを用いて当該各搬送装置30を同期低速搬送制御する。
【0072】
つまり、ラインを低速運転に切り換えられるから、バキュームカップ34の負圧安定時間を稼げ、あるいはワーク1の保持姿態を安定かつ確実とすることができる。また、製品排出シューター55に想定以上の製品(1)が停滞した場合には作業員が幾つかを間引くことができ、あるいはスタッカー56を交換することもできる。すなわち、異常発生原因を解消できる。
【0073】
この高速運転から低速運転への切換えは自動的に行える。自動切換えか手動切換えかは選択することができる。
【0074】
すなわち、構成要素機器(バキュームカップ34)とワーク1との関与状態が連続運転困難を予測させる状態であるか否かを検出可能かつ連続運転困難状態であると検出された場合に、高速側ラインマスター制御信号Smhから低速側ラインマスター制御信号Smlに自動切換え可能に形成してある。例えば、アキュムレータ内圧を検出し、検出圧力が設定値以下である場合に切り換える。自動切換が選択設定されていることを条件に、S10(S30)でYES判断する。
【0075】
さらに、この実施の形態では、構成要素機器をプレスラインの下流側に配置された製品取扱装置54(55、56)とし、製品取扱装置54に多数の製品(1)が停滞していることが認められた場合(図2に示す光電センサー57により連続運転困難状態が検出された場合。)でかつ自動切換が選択されていることを条件に、S10(S30)でYES判断するものと形成してある。
【0076】
なお、複数個の光電センサー57を設け、製品排出シューター55において連続運転困難状態を検出した場合と、スタッカー56において連続運転困難状態を検出した場合とで、低速化程度を異なるものとすることができる。つまり、ある1つの高速側ラインマスター制御信号Smhに対する複数の低速側ラインマスター制御信号Smlの中から連続運転困難程度に応じた1つの低速側ラインマスター制御信号Smlを自動選択可能に形成してもよい。また、ライン特定場所(製品排出シューター55および/またはスタッカー56)における連続運転困難程度(製品停滞度合)ごとに対応する低速側ラインマスター制御信号Smlを自動選択可能に形成することができる。
【0077】
次に、手動選択切換えの場合であれ、自動選択切換えの場合であれ、異常解消を目的として低速化プレス運転に入ると各プレス10のプレス用モーションは変化する。図4のプレス10A、10Bについてのプレス用モーションが高速プレス運転の場合とすれば、低速プレス運転の場合のプレス用モーションは図4の場合よりも横軸(時間)方向に拡張(延長)したものとなる。当然に、加工領域Aprs内でのスライド12(13)の下降速度も低速化する。
【0078】
高速同期プレス運転から低速同期プレス運転に切換えられると、これからプレス成形(加工)に突入するプレス10や加工中のプレス10においては、ワーク1と金型13、14との相対速度が変化してしまうので、品質(加工精度)が低下してしまう。生産性およびコスト管理の点から不良品の発生は許され難い。つまり、異常発生時のプレス停止を回避できたとしても、不良品が生じたのでは実質的効果は薄い。
【0079】
ここにおいて、本発明の技術的特徴は、ライン速度を低速化方向に切換えられてプレス運転に移行した場合でも、その切換え前の品質(加工精度)と同じ品質(加工精度)の製品を生産できることである。
【0080】
図5において、各プレス用コントローラ21は、上位コントローラ60から送信(S13でYES)される情報、つまり選択切換え(S10)が低速化方向である旨の情報を受信する。この情報は専用の信号でも、低速側プレス個別制御信号Splを兼用することにしてもよい。なお、図5の場合は、上位コントローラ60から各プレス用コントローラ21に選択切換え(S10)が高速化方向である旨の情報を送信する必要はない。
【0081】
各プレス用コントローラ21は、低速化方向である旨の情報を受信すると、同期中であるか否かを判別する。すなわち、同期中判別手段(25、26)が低速側ラインマスター信号Smlの位相に同期させた低速側プレス個別制御信号Splによる低速プレス運転であるか否かを判別(S14)する。同期中であれば、加工領域内判別手段(25、26)が、スライド高さが加工領域Aprsより高いか否かを判別(S15)する。加工領域より高ければ(S15でYES)ば、スライド12の同期低速プレス運転を続行する。
【0082】
やがてスライド12が下降して加工領域Aprsの高さ以下になる(S15でNO)と、同期解除制御手段(25、26)がその同期を解除する(S16)。低速側ラインマスター信号Smlの位相に同期させた低速側プレス個別制御信号Splによる同期低速プレス運転を中断する意味である。
【0083】
かくして、非同期高速プレス運転制御手段(25、26)は、非同期高速プレス個別制御信号Sphnを出力(S17)して非同期高速プレス運転に切り換える。この非同期高速プレス運転(制御)は、少なくともスライド(12)位置が加工領域(Aprs)内にある間は実行される。この実施の形態では、プレス再同期化ポイント(上死点)に到達するまで、実行される。再同期化の便宜かつその容易化のためである。
【0084】
上記した抜出高速プレス個別制御信号Sphnpが選択されている場合は、先の高速側ラインマスター制御信号Smhの中の加工領域部分を含む一定範囲と同じ範囲のプレス用モーション(抜出高速プレス個別制御信号Sphnp)に従い非同期高速プレス運転をする。この際の高速プレス運転位相信号は、制御部25内の発振回路のパルス信号を利用して生成される位相信号であり、高速側ラインマスター制御信号Smhを形成するマスター位相信号と同等の位相信号とされる。したがって、切換え前と全く同じ加工品質(精度)を担保できる。
【0085】
一方、上記の精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqが選択されている場合は、生成・記憶されていた精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqで規定されるプレス用モーションに従い非同期高速プレス運転をする。この際の高速プレス運転用位相信号を含む部分的プレス用モーションは、自由に決めることができる。つまり、選択自由性が大きい。プレス用コントローラ21側で自由に決めた精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqは、高速側ラインマスター制御信号Smhと無縁であるが高速側ラインマスター制御信号Smhに同期させてプレス運転した場合の加工品質(精度)と同等以上の品質を達成できるものとされているから、精度維持が保障される。
【0086】
非同期であると判別(S14でNO)されると、プレス再同期化ポイント到達判別手段(25、26)が、非同期高速プレス運転中にスライド12の高さがプレス再同期化ポイント(上死点)に到達したか否かを判別(S18)する。上死点UDPよりも低いときは未到達と判別(S18でYES)されるので、非同期高速プレス個別制御信号Sphnによる非同期高速プレス運転が継続される(S19)。この間も、低速側プレス個別制御信号Splつまり低速側ラインマスター信号Smlのマスター位相信号は進行している。進行(位相指示)過程は、表示部72で目視確認することができる。
【0087】
スライド高さが上死点UDPに到達したと判別(S18でNO)されると、非同期高速プレス制御停止制御手段(25、26)が非同期高速プレス運転を停止する。つまり、非同期高速プレス個別制御信号Sphnの非同期高速プレス用位相が上死点を指す位相と等しくなった場合に当該位相信号の進行(歩進)を停止する。
【0088】
この停止中に、後を追いかけて来た低速側ラインマスター信号Sml(低速側プレス個別制御信号Spl)のマスター位相が、停止中の非同期高速プレス用位相と同じ位相になる[到達(指示)する]と、プレス個別制御信号再同期制御手段(25、26)が非同期高速プレス個別制御信号Sphnから低速側プレス個別制御信号Splに切換え制御する、つまり再同期させる(ST21)。かくして、プレス10は同期低速プレス運転に戻る(S10でNO、ST14)。異常発生原因の究明や対処を続けることができる。
【0089】
この同期低速プレス運転中に、ライン異常原因が解消された場合、表示操作盤70において、元(またはそれ以上)の高速側のラインマスター制御信号Smhに選択的に切換える(図5のS10でYES)。この切換えは、光電センサー57等の非検出状態信号を利用して自動切換えに設定されている場合もある。
【0090】
すると、プレス個別制御信号生成出力手段(65、66)が、ラインマスター制御信号Smhに対応するプレス10ごとの高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphを生成(読出)する。各高速側プレス個別制御信号Sphは、各プレス10(21)に出力(送信)される(S11、S12)。当該各プレス用コントローラ21では、同期高速プレス運転を行う。S14方向には進まない。
【0091】
なお、元の高速側のラインマスター制御信号Smhを選択した場合は、各プレス用コントローラ21には先の高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphが記憶保持されているので、上位コントローラ60側からは、当該マスター位相信号だけを送信するだけでよい。
【0092】
さらに、品質(加工精度)を担保した上で、干渉回避を一層完璧なものとしておくことが好ましい。そこで、各搬送装置30では、低速側ラインマスター信号Smlに同期する低速搬送運転中であっても、リターン搬送に関しては非同期高速運転できる。
【0093】
すなわち、図6において、各搬送用コントローラ41は、上位コントローラ60から送信(S33でYES)される情報、つまり選択切換え(S30)が低速化方向である旨の情報を受信する。この情報は専用の信号でも、低速側搬送個別制御信号Stlを兼用することにしてもよい。なお、図6の場合は、上位コントローラ60から各搬送用コントローラ41に選択切換え(S10)が高速化方向である旨の情報を送信する必要はない。
【0094】
各搬送用コントローラ41は、低速化方向である旨の情報を受信すると、同期中であるか否かを判別する。すなわち、同期中判別手段(45、46)が低速側ラインマスター信号Smlの位相に同期させた低速側搬送個別制御信号Stlによる低速搬送運転であるか否かを判別(S34)する。同期中であれば、リターン搬送領域内判別手段(45、46)が、搬送部材(吸着ヘッド33)がリターン搬送(TR4)領域内であるか否かを判別(S35)する。図5のS35では、吸着ヘッド33がワーク開放位置Prrを通過したか否かでリターン搬送領域内であるか否かを判別するようにしてある。つまり、ワーク1をプレス10(14)に引渡し済みであるか否かを確認する。ワーク開放位置Prrを通過する以前(S35でNO)であれば、搬送装置30の同期低速搬送運転を続行する。
【0095】
搬送部材(吸着ヘッド33)がワーク開放位置Prrを通過(S35でYES)したならば、同期解除制御手段(45、46)がその同期を解除する(S36)。低速側ラインマスター信号Smlの位相に同期させた低速側搬送個別制御信号Stlによる同期低速搬送運転を中断する意味である。
【0096】
かくして、非同期高速搬送運転制御手段(45、46)は、非同期高速搬送個別制御信号Sthnを出力(S37)して非同期高速搬送運転に切り換える。この非同期高速搬送運転(制御)は、少なくとも搬送部材(33)位置がリターン搬送領域(TR4)内にある間は実行される。この実施の形態では、搬送再同期化ポイントである搬送中間位置Zに到達するまで、実行される。再同期化の便宜かつその容易化のためである。
【0097】
上記した抜出高速搬送個別制御信号Sthnpが選択されている場合は、先の高速側ラインマスター制御信号Smhの中のリターン搬送領域部分を含む一定範囲と同じ範囲の搬送用モーション(抜出高速搬送個別制御信号Sthnp)に従い非同期高速搬送運転をする。この際の高速搬送運転位相信号は、制御部45内の発振回路のパルス信号を利用して生成される位相信号であり、高速側ラインマスター制御信号Smhを形成するマスター位相信号と同等の位相信号とされる。ワーク1の形状的なバラツキ等があったとしても、搬送装置30(33)とプレス10(13)との干渉回避を完璧化できる。
【0098】
一方、上記の退避専用高速搬送制御信号Sthnqが選択されている場合は、生成・記憶されていた退避専用高速搬送制御信号Sthnqで規定される搬送用モーションに従い非同期高速搬送運転をする。この際の高速搬送運転用位相信号を含む部分的搬送用モーションは、自由に決めることができる。つまり、選択自由性が大きい。搬送用コントローラ41側で自由に決めた退避専用高速搬送制御信号Sthnqは、高速側ラインマスター制御信号Smhと無縁であるが高速側ラインマスター制御信号Smhに同期させて搬送運転した場合の干渉回避効果と同等以上の干渉回避効果を達成できる。
【0099】
非同期であると判別(S34でNO)されると、搬送再同期化ポイント到達判別手段(45、46)が、非同期高速搬送運転中に吸着ヘッド33がワーク解放位置Prrを通過したか否か(リターン搬送領域内にあるか否か)を判別(S38)する。リターン搬送領域内にあると判別(S38でYES)されると、非同期高速搬送個別制御信号Sthnによる非同期高速搬送運転が継続される(S39)。この間も、低速側搬送個別制御信号Stlつまり低速側ラインマスター信号Smlの位相信号は進行している。進行(位相指示)過程は、表示部72で目視確認することができる。
【0100】
吸着ヘッド33が搬送中間位置Zに到達すると、吸着ヘッド33がリターン搬送領域内にないと判別(S38でNO)されるので、非同期高速搬送制御停止制御手段(45、46)が非同期高速搬送運転を停止する。つまり、非同期高速搬送個別制御信号Sthnの位相の進行(歩進)を停止する。
【0101】
この停止中に、後を追いかけて来た低速側ラインマスター信号Sml(低速側搬送個別制御信号Stl)のマスター位相が、停止中の非同期高速搬送用位相と同じ位相になる[到達(指示)する]と、搬送個別制御信号再同期制御手段(45、46)が非同期高速搬送個別制御信号Sthnから低速側搬送個別制御信号Stlに切換え制御する、つまり再同期させる(ST41)。かくして、搬送装置30は同期低速搬送運転に戻る(S30でNO、ST34)。
【0102】
この同期低速搬送運転中に、ライン異常発生原因が解消された場合、表示操作盤70において、元(またはそれ以上)の高速側のラインマスター制御信号Smhに選択的に切換える(図6のS30でYES)。この切換えは、プレス10側で説明したように光電センサー57等の非検出状態信号を利用して自動切換えに設定されている場合もある。
【0103】
すると、搬送個別制御信号生成手段(65、66)が、ラインマスター制御信号Smhに対応する搬送装置30ごとの高速側搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthを生成(読出)する。各高速側搬送個別制御信号Sthは、各搬送装置30(41)に出力(送信)される(S31、S32)。各搬送装置用コントローラ41では、同期高速搬送運転を行う。S34方向には進まない。
【0104】
なお、元の高速側ラインマスター制御信号Smhを選択した場合は、各プレス用コントローラ21には先の高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphが記憶保持されているので、上位コントローラ60側からは、当該マスター位相信号だけを送信するだけでよい。
【0105】
かかる実施の形態の作用・動作を説明する。
【0106】
(同期高速運転)
操作部74を用いて当該製品を生産するのに最適なラインマスター制御信号Sm(Smh)を選択してライン運転を指令する。各プレス用コントローラ21が当該プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphを出力しかつ当該各プレス10をラインマスター制御信号Smhのマスター位相に同期させてプレス運転する(図5のS10〜12)。同時に、各搬送用コントローラ41が当該搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthを出力しかつ当該各搬送装置30をラインマスター制御信号Smhのマスター位相に同期させて搬送運転する(図6のS30〜32)。
【0107】
(同期低速運転)
例えば、製品取扱装置54に多くの製品が停滞したために連続運転困難状態が予想される場合に、光電センサー57が働き、ラインマスター制御信号Smを選択切換えする。これまでの比較的に高速側(Smh)であるものから低速側ラインマスター制御信号Smlに切り換える。各プレス用コントローラ21が当該低速プレス個別制御信号(プレス用モーション)Splを出力しかつ当該各プレス10を低速側ラインマスター制御信号Smlのマスター位相に同期させて同期低速プレス運転する(図5のS10〜12)。同時に、各搬送用コントローラ41が当該低速搬送個別制御信号(搬送用モーション)Stlを出力しかつ当該各搬送装置30を低速側ラインマスター制御信号Smlのマスター位相に同期させて同期低速搬送運転する(図6のS30〜32)。手動切換えの場合も同じである。低速化方向である旨は、各プレス用コントローラ21および各搬送用コントローラ41に伝えられる(S13,S33)。
【0108】
(非同期高速運転)
各プレス用コントローラ21は、スライド高さが加工領域に入ると同期を解除(低速プレス個別制御信号が出力停止)し、非同期プレス個別制御信号Sphnを出力する。当該プレス10は非同期高速プレス運転される(S14〜S19)。切換え前の製品精度を担保できる。なお、低速プレス個別制御信号Splつまりは低速側ラインマスター信号Smlのマスター位相は低速進行している。また、各搬送用コントローラ41は、吸着ヘッド33がリターン搬送領域に入ると同期を解除(低速搬送個別制御信号が出力停止)し、非同期搬送個別制御信号Sthnを出力する。当該搬送装置30は非同期高速搬送運転される(S14〜S19)。干渉回避が一段と確実である。なお、低速搬送個別制御信号Stlつまりは低速側ラインマスター信号Smlの位相は、上記と同じに低速進行している。
【0109】
(再同期化)
スライド12が上死点(位置)UDPに来ると、再同期される(S18〜S21)。すなわち、非同期高速プレス運転から同期低速プレス運転に移行される。この間に、停滞中の製品を適正に手直し等することができる。以上の切換えは1サイクル毎に1回実行される。また、吸着ヘッド33が搬送中間位置Zに来ると、再同期される(S38〜S41)。すなわち、非同期高速搬送運転から同期低速搬送運転に移行される。干渉発生が起きないからである。以上の切換えは1サイクル毎に1回実行される。
【0110】
(同期高速運転への復帰)
製品取扱装置54の連続運転困難状態が解消されると、光電センサー57がOFFしラインマスター制御信号Smを選択切換える。これまでの比較的に低速側(Sml)であるものから元の高速側ラインマスター制御信号Smhに切換える。各プレス用コントローラ21が当該高速プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphを出力しかつ当該各プレス10を高速側ラインマスター制御信号Smhのマスター位相信号に同期させて同期高速プレス運転する(図5のS10〜12)。同時に、各搬送用コントローラ41が当該高速搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthを出力しかつ当該各搬送装置30を高速側ラインマスター制御信号Smhの位相信号に同期させて同期高速搬送運転する(図6のS30〜32)。手動切換えの場合も同じである。図5、図6の場合は、高速化方向である旨は、各プレス用コントローラ21および各搬送用コントローラ41に伝えられない。よって、生産を一時的も停止させることがない。高い生産性および製品品質(精度)を維持できる。
【0111】
しかして、この実施の形態によれば、ラインマスター制御信号Smの高低切換がなされた場合(Smh→Sml)に各プレス10を同期低速プレス制御に切換え、スライド位置が加工領域内にあると判別されたプレス10では同期低速プレス制御から非同期高速プレス個別制御信号Sphnに基づく非同期高速プレス制御に切換え、スライド位置がプレス再同期化ポイント(UDP)に到達したことを条件に非同期高速プレス制御を停止させ、低速側ラインマスター制御信号Smlがプレス再同期化ポイントに到達(指示)したことを条件にそれまで停止していた非同期高速プレス個別制御信号Sphnから追いついて来た低速側プレス個別制御信号Splに再同期切換えしかつ非同期高速プレス制御から同期低速プレス制御に自動切換えできるように形成されているので、高速プレス運転から低速プレス運転に切換えてもプレス加工精度(品質)を維持することができる。ライン全停止することなく連続運転(運転継続)することができるから実質的生産性を維持・向上できる。しかも、運転継続中に異常原因を払拭すれば、元の高速プレス運転に戻せるから、実質的生産性を一段と向上できる。
【0112】
また、プレスラインの構成要素機器(54)とワーク1との関与状態が連続運転困難状態であると検出された場合に高速側ラインマスター制御信号Smhから低速側ラインマスター制御信号Smlに自動切換えできるように形成されているので、低速プレス運転中に連続運転困難状態を解消(正常な関与関係に戻す)できる。つまり、ライン全停止を確実に回避できかつ生産性を維持できる。
【0113】
構成要素機器である製品取扱装置54に多数の製品(1)が停滞していることが認められた場合に連続運転困難状態として検出するので、一段と確実・適時の低速化切換えが行える。
【0114】
非同期高速プレス個別制御信号Sphnが高速側ラインマスター制御信号Smhのプレス用モーションに対応するが当該マスター位相信号には同期はしない抜出高速プレス個別制御信号Sphnpから形成されているので、非同期であるが高速側プレス個別制御信号(プレス用モーション)Sphに相当する信号を有効利用できる。よって、信号形成が容易でかつ信頼性が高い。
【0115】
非同期高速プレス個別制御信号Sphnが高速側ラインマスター制御信号に対応するプレス個別制御信号Sphとは別個の精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqから形成されているので、非同期高速プレス個別制御信号の選択自由性が広くかつ信号形式の単純化が容易である。
【0116】
抜出高速プレス個別制御信号Sphnpおよび精度維持専用高速プレス個別制御信号Sphnqのいずれも1サイクル中の一部のモーションとして作成(生成)すれば良いから、1サイクル全部のプレス用モーションを作成(生成)する場合に比較して、簡潔かつ迅速に作成できる。
【0117】
プレス再同期化ポイントが上死点UDPとされているので、プレス再同期化ポイント(上死点)の狂いがない。よって、低速プレス運転に戻すための再同期を一段と確実かつ安定して行える。
【0118】
さらに、低速側搬送個別制御信号Stlを用いた同期低速搬送制御中に搬送部材(33)位置がリターン搬送領域内にあると判別された搬送装置30では、同期低速搬送制御から非同期高速搬送個別制御信号Sthnに基づく非同期高速搬送制御に切換え、搬送部材位置が搬送再同期化ポイント(搬送中間位置Z)に到達したことを条件に非同期高速搬送制御を停止し、低速側ラインマスター制御信号Smlが搬送再同期化ポイントに到達(指示)したことを条件にそれまで停止していた非同期高速搬送個別制御信号Sthnから追いついて来た低速側搬送個別制御信号Stlに再同期切換えしかつ非同期高速搬送制御から同期低速搬送制御に自動切換えすることができる。すなわち、搬送部材(33)位置をプレス10から離反させるためのリターン搬送を高速化できるように形成されているので、一段と確実な干渉回避を担保できる。
【0119】
さらにまた、非同期高速搬送個別制御信号Sthnが高速側ラインマスター制御信号Smhの搬送用モーションに対応するが当該マスター位相信号には同期しない抜出高速搬送個別制御信号Sthnpから形成されているので、非同期であるが高速側搬送個別制御信号(搬送用モーション)Sthに相当する信号を有効利用できる。よって、信号形成が容易でかつ信頼性が高い。
【0120】
非同期高速搬送個別制御信号Sthnが高速側ラインマスター制御信号に対応する搬送個別制御信号Sphとは別個の退避専用高速搬送個別制御信号Sthnqから形成されているので、非同期高速搬送個別制御信号の選択自由性が広くかつ信号形式の単純化も容易である。
【0121】
抜出高速搬送個別制御信号Sthnpおよび退避専用搬送個別制御信号Sphnqのいずれも1サイクル中の一部のモーションとして作成(生成)すれば良いから、1サイクル全部のプレス用モーションを作成(生成)する場合に比較して、簡潔かつ迅速に作成できる。
【0122】
搬送再同期化ポイントが搬送中間位置Zとされているので、搬送再同期化ポイント(搬送中間位置)の狂いがない。よって、低速搬送運転に戻すための再同期を一段と確実かつ安定して行える。
【符号の説明】
【0123】
1 ワーク
10 プレス
12 スライド
13 上金型
14 下金型
21 プレス用コントローラ(下位コントローラ)
30 搬送装置
33 吸着ヘッド(搬送部材)
41 搬送用コントローラ(下位コントローラ)
51 材料供給装置
54 製品取扱装置
60 上位コントローラ
65 制御部
70 表示操作盤
72 表示部
74 操作部
Sm ラインマスター制御信号
Smh、Sml 高速側ラインマスター制御信号、低速側ラインマスター制御信号
Sph、Spl 高速側プレス個別制御信号、低速側プレス個別制御信号
Sphn 非同期高速プレス個別制御信号
Sth、Stl 高速側搬送個別制御信号、低速側搬送個別制御信号
Sthn 非同期高速搬送個別制御信号


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスと搬送装置とをライン方向に交互に配置し、ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各プレス個別制御信号を用いて当該各プレスを同期プレス制御可能であるとともに該ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する各搬送個別制御信号を用いて当該各搬送装置を同期搬送制御可能に形成されたタンデムプレスラインにおいて、
高速側ラインマスター制御信号から低速側ラインマスター制御信号に切換えられた場合に各プレスを低速側ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する低速側プレス個別制御信号を用いた同期低速プレス制御に切換え可能に形成し、
同期低速プレス制御中のプレスごとに当該スライド位置が加工領域内にあるか否かを判別可能に形成し、
スライド位置が加工領域内にあると判別されたプレスでは、少なくともスライド位置が加工領域内にある間は同期低速プレス制御から低速側ラインマスター制御信号に同期しない非同期高速プレス個別制御信号に基づく非同期高速プレス制御に切換え可能に形成し、
非同期高速プレス制御中のスライド位置がプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス制御を停止可能であるとともに低速側ラインマスター制御信号がプレス再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速プレス個別制御信号から低速側プレス個別制御信号に再同期切換え可能かつそれまで停止していた非同期高速プレス制御から該同期低速プレス制御に自動切換え可能に形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項2】
請求項1記載のタンデムプレスラインにおいて、
プレスラインの構成要素機器とワークとの関与状態が連続運転困難を予測させる状態であるか否かを検出可能かつ連続運転困難状態であると検出された場合に前記高速側ラインマスター制御信号から前記低速側ラインマスター制御信号に自動切換え可能に形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項3】
請求項2記載のタンデムプレスラインにおいて、
前記構成要素機器がプレスラインの下流側に配置された製品取扱装置であり、製品取扱装置に多数の製品が停滞していることが認められた場合に連続運転困難状態であると検出可能に形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたタンデムプレスラインにおいて、
前記非同期高速プレス個別制御信号が前記高速側ラインマスター制御信号の中の加工領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速プレス個別制御信号から形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたタンデムプレスラインにおいて、
前記非同期高速プレス個別制御信号が前記高速側ラインマスター制御信号に対応する前記プレス個別制御信号とは別個の精度維持専用高速プレス個別制御信号から形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたタンデムプレスラインにおいて、
前記プレス再同期化ポイントが上死点とされている、タンデムプレスライン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載されたタンデムプレスラインにおいて、
高速側ラインマスター制御信号から低速側ラインマスター制御信号に切換えられた場合に各搬送装置を低速側ラインマスター制御信号に対応しかつこれに同期する低速側搬送個別制御信号を用いた同期低速搬送制御に切換え可能に形成し、
同期低速搬送制御中の搬送装置ごとに当該搬送部材位置がリターン搬送領域内にあるか否かを判別可能に形成し、
搬送部材位置がリターン搬送領域内にあると判別された搬送装置では、少なくとも搬送部材位置がリターン搬送領域内にある間は同期低速搬送制御から低速側ラインマスター制御信号に同期しない非同期高速搬送個別制御信号に基づく非同期高速搬送制御に切換え可能に形成し、
非同期高速搬送制御中の搬送部材位置が搬送再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速搬送制御を停止可能であるとともに低速側ラインマスター制御信号が搬送再同期化ポイントに到達したことを条件に非同期高速搬送個別制御信号から低速側搬送個別制御信号に再同期切換え可能かつそれまで停止していた非同期高速搬送制御から該同期低速搬送制御に自動切換え可能に形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項8】
請求項7記載のタンデムプレスラインにおいて、
前記非同期高速搬送個別制御信号が前記高速側ラインマスター制御信号の中のリターン搬送領域部分を含む一定範囲を抜出した形式の抜出高速搬送個別制御信号から形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項9】
請求項7記載のタンデムプレスラインにおいて、
前記非同期高速搬送個別制御信号が前記高速側ラインマスター制御信号に対応する前記搬送個別制御信号とは別個の退避専用高速搬送個別制御信号から形成されている、タンデムプレスライン。
【請求項10】
請求項2から7までのいずれか1項に記載されたタンデムプレスラインにおいて、
前記搬送再同期化ポイントが搬送中間位置とされている、タンデムプレスライン。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−228719(P2012−228719A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99257(P2011−99257)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】