説明

タンパク質酸化抑制剤

【課題】 従来製品と比べ、角層タンパク質に対して顕著に強い抗酸化力を示す抗酸化組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は下記の一般式(I)で表されるジヒドロカルコン誘導体
【化1】


(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、R3は、水素原子又は単糖もしくはオリゴ糖の残基を示す。)を有効成分として含有する、角層タンパク質の酸化を抑制する又は角層酸化タンパク質の酸化度は低減させる抗酸化組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は角層タンパク質の酸化を特異的に抑制する、及び/又は角層酸化タンパク質の酸化度を低減させるのに有効な成分としてジヒドロカルコン誘導体を含有する、抗酸化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の加齢に伴う老化や光老化との関係で、角層酸化タンパク質の研究が盛んに行われている。酸化タンパク質とは、酸化を受けた結果カルボニル基の導入されたタンパク質をいい、一般に、タンパク質におけるLys、Arg、Proといったアミノ酸残基のNH2基が直接酸化されてカルボニル基となった結果生成されたものと、脂質が酸化して過酸化脂質、更には分解して反応性の高いアルデヒドとなり、それがタンパク質と結合することで生成されたものとがある。酸化タンパク質は老化関連での研究が豊富にされており、加齢(脳、肝、線維芽細胞)、アルツハイマー病、早老症(Werner症候群)等において増加することが認められている。
【0003】
皮膚においても、タンパク質が直接的に酸化される場合、また皮膚表面の皮脂がフリーラジカルによって酸化し、過酸化脂質が生成することでタンパク質の酸化は開始される場合があると考えられる。いったん過酸化脂質が生成されると、酸化は連鎖的に進行し、肌表面に刺激を与えるだけにとどまらず、角質層の奥まで入り込んで細胞にダメージを与える。このようにして、皮脂、皮膚タンパク質の酸化は肌本来がもつうるおい、はり、明るさ等を保つ機能をことごとく低下させると考えられる。従って、表皮の角層タンパク質の酸化を予防したり、その酸化度を低減させることが必要とされる。
【0004】
従来より皮膚外用剤に抗酸化剤を配合し酸化傷害を防御する試みがなされており、天然の抗酸化剤としてのα―トコフェロール(ビタミンE)やアスコルビン酸(ビタミンC)及びそれらの各種誘導体の需要が高まってきているが、その酸化防止作用は弱く、効果の点で必ずしも十分に満足し得るものとはいえないものである。従って、より強い抗酸化力があり、安全性上も問題のない優れた角層タンパク質の抗酸化剤の提供が期待される。
【0005】
【特許文献1】特開2002-275468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下記の一般式(I)で表されるジヒドロカルコン誘導体
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、R3は、水素原子又は単糖もしくはオリゴ糖の残基を示す。)は抗酸化力を有する化合物として知られている(特開2002-275468号公報)。本発明者は、かかる誘導体を角層に適用し、角層タンパク質の酸化抑制効果を調べたところ、その抑制作用はα―トコフェロールやアスコルビン酸の作用よりも顕著に強く、具体的には35〜40倍も強いことがわかった。ジヒドロカルコン酸の血液タンパク質(赤血球膜ゴースト)に対する抗酸化力がα―トコフェロールよりも2倍程強いことは同特開2002-275468号公報に開示されているが、角層上に存在するタンパク質に対し、これほど強い抗酸化力を示すことは驚くべき事実である。本発明はこのような驚くべき発見に基づくものであり、従来製品と比べ、角層タンパク質に対して顕著に強い抗酸化力を示す抗酸化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、以下の発明を提供する。
(1)下記の一般式(I)で表されるジヒドロカルコン誘導体
【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、R3は、水素原子又は単糖もしくはオリゴ糖の残基を示す。)を有効成分として含有する、角層タンパク質の酸化を抑制する又は角層酸化タンパク質の酸化度を低減させる抗酸化組成物。
(2)前記ジヒドロカルコン誘導体が、ヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ナリルチンジヒドロカルコン、エリオシトリンジヒドロカルコン、ネオポンシリンジヒドロカルコン、ナリンジンジヒドロカルコン、ネオエリオシトリンジヒドロカルコン、ポンシリンジヒドロカルコン、ヘスペレチンジヒドロカルコングルコシド、ナリンゲニンジヒドロカルコングルコシド、エリオジクチオールジヒドロカルコングルコシド、イソサクラネチンジヒドロカルコングルコシド、ヘスペレチンジヒドロカルコン、ナリンゲニンジヒドロカルコン、エリオジクチオールジヒドロカルコン及びイソサクラネチンジヒドロカルコンから成る群から選ばれる1又は数種である、(1)の抗酸化組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、角層タンパク質の酸化を特異的に抑制する抗酸化組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
角層は表皮角化細胞が終末分化して形成された角層細胞と、それをとりまく細胞間脂質から構成される。角層細胞は構造タンパク質たるケラチンを主成分とし、それを包むコーニファイドエンベロープ(「角化肥厚膜」)から構成される。角層タンパク質は紫外光、化学系酸化剤、大気汚染物質などの様々な因子に対する暴露や加齢に伴い、酸化を受けた結果カルボニル基が導入される。このような酸化には、タンパク質におけるLys、Arg、Proといったアミノ酸残基のNH2基が直接酸化されてカルボニル基となる場合と、脂質が酸化して過酸化脂質、更には分解して反応性の高いアルデヒドとなり、それがタンパク質と結合することで起こる場合とが考えられる。
【0010】
本発明に係る上記ジヒドロカルコン誘導体を含有する抗酸化組成物は、角層に適用することで、角層上に存在するタンパク質の上記酸化を抑制したり、その結果として角層酸化タンパク質の酸化状態を低減させることができる。
【0011】
本発明の抗酸化組成物の有効成分として用いるジヒドロカルコン誘導体または薬学的に許容されるその塩は、前記の一般式(1)で表される。ジヒドロカルコン化合物の薬学的に許容されるその塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩、さらにアンモニウム塩およびトリメチルアンモニウム、トリエチルアミンアンモニウムのようなトリアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0012】
本発明に係る上記のジヒドロカルコン化合物の具体例としては、ヘスペリジンジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 がメトキシ基、R3 がルチノシドである。)、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 がメトキシ基、R3 がネオヘスペリドシドである。)、ナリルチンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 が水酸基、R3 がルチノシドである。)、エリオシトリンジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 が水酸基、R3 がルチノシドである。)、ネオポンシリンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 がメトキシ基、R3 がルチノシドである。)、ナリンジンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 が水酸基、R3 がネオヘスペリドシドである。)、ネオエリオシトリンジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 が水酸基、R3 がネオヘスペリドシドである。)、ポンシリンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 がメトキシ基、R3がネオヘスペリドシドである。)、ヘスペレチンジヒドロカルコングルコシド(式中のR1 が水酸基、R2 がメトキシ基、R3 がグルコシドである。)、ナリンゲニンジヒドロカルコングルコシド(式中のR1 が水素原子、R2 が水酸基、R3 がグルコシドである。)、エリオジクチオールジヒドロカルコングルコシド(式中のR1 が水酸基、R2 が水酸基、R3 がグルコシドである。)、イソサクラネチンジヒドロカルコングルコシド(式中のR1 が水素原子、R2 がメトキシ基、R3 がグルコシドである。)、ヘスペレチンジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 がメトキシ基、R3 が水素原子である。)、ナリンゲニンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 が水酸基、R3 が水素原子である。)、エリオジクチオールジヒドロカルコン(式中のR1 が水酸基、R2 が水酸基、R3 が水素原子である。)、イソサクラネチンジヒドロカルコン(式中のR1 が水素原子、R2 がメトキシ基、R3 が水素原子である。)等が挙げられる。
【0013】
本発明の抗酸化組成物は、通常、上記ジヒドロカルコン誘導体を水やエタノール等の水性溶媒に含有させて用いられる。本発明の抗酸化組成物における上記ジヒドロカルコン誘導体の配合量は特に限定されないが、固形分換算で0.0001〜2質量%、特に0.001〜0.1質量%程度の範囲が好ましい。尚、本発明に係る抗酸化組成物を入浴剤として調製する場合、使用時に通常100〜1000倍程度に希釈されるので、配合はそれを加味した高濃度で処方されるのが好ましい。上記水性溶媒としては、低級アルコールが好ましく、低級アルコールの含有量は、本発明の薬剤中に、20〜80質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。
【0014】
また、本発明の抗酸化組成物には、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、その他の美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。むろん、上記ジヒドロカルコン誘導体は、ビタミンE、ビタミンC、甘草抽出物、BHT、BHA等の他の抗酸化剤と、本発明の効果を損なわない範囲内において併用可能である。
【0015】
その他、薬剤の用途に合わせ、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0016】
本発明の抗酸化組成物は、その用途に合わせ、例えば化粧料、医薬品、医薬部外品等の外用剤、例えば化粧水、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤、軟膏、ヘアーローション、ヘアートニック、ヘアーリキッド、シャンプー、リンス、養毛・育毛剤等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【実施例】
【0017】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。
実験1
ジヒドロカルコン(DC)誘導体の角層タンパク質の酸化抑制効果の検討
ヒト皮膚に透明な粘着テープを貼付して直ちに剥がし、角層最外層を非侵襲的に採取した。そのテープを、酸化剤としてNaClO 0.02mM及び抗酸化剤として0.001〜0.008mMのヘスペリジンジヒドロカルコン又はネオヘスペリジンカルコンを含む溶液中に37℃で16時間インキュベートした。コントロールには抗酸化剤を含ませなかった。その後、20μMのフルオレセイン−5−チオセミカルバジド(モレキュラープローブス社製)の100mMのMES−Na緩衝液(pH5.5)に室温にて1時間浸し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)にて十分に洗浄した後、蛍光顕微鏡(オリンパス社BX52)にて観察した。数値化に際しては、画像から背景と細胞を分離し、総面積当たりの平均輝度を求めた。
その結果を図1に示す。その結果、ジヒドロカルコン誘導体は0.008%といった低濃度で、角層タンパク質のNaClOによる酸化を抑制することが明らかとなった。
【0018】
実験2 ビタミンCとの比較
ヒト皮膚に透明な粘着テープを貼付して直ちに剥がし、角層最外層を非侵襲的に採取した。そのテープを、酸化剤としてNaClO 0.02mM及び抗酸化剤として0.001〜1mMの各抗酸化剤(ヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオヘスペリジンカルコン、又はビタミンC)を含む溶液中に37℃で16時間インキュベートした。その後、20μMのフルオレセイン−5−チオセミカルバジド(モレキュラープローブス社製)の100mMのMES−Na緩衝液(pH5.5)に室温にて1時間浸し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)にて十分に洗浄した後、蛍光顕微鏡(オリンパス社BX52)にて観察した。数値化に際しては、画像から背景と細胞を分離し、総面積当たりの平均輝度を求めた。
【0019】
その結果を図2に示す。ビタミンCと比べ、ジヒドロカルコン誘導体は、特に低濃度(0.1mM以下)において、顕著な抗酸化力を示すことが明らかとなった。
【0020】
実験3 各種ジヒドロカルコン誘導体の角層タンパク質の酸化抑制効果
ヒト皮膚に透明な粘着テープを貼付して直ちに剥がし、角層最外層を非侵襲的に採取した。そのテープを、酸化剤としてNaClO 0.02mM及び抗酸化剤として0.01又は0.1質量%の各抗酸化剤を含む溶液中に37℃で16時間インキュベートした。その後、20μMのフルオレセイン−5−チオセミカルバジド(モレキュラープローブス社製)の100mMのMES−Na緩衝液(pH5.5)に室温にて1時間浸し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)にて十分に洗浄した後、蛍光顕微鏡(オリンパス社BX52)にて観察した。数値化に際しては、画像から背景と細胞を分離し、総面積当たりの平均輝度を求めた。
【0021】
使用した抗酸化剤は以下のとおりである:
ナリルチンジヒドロカルコン
エリオシトリンジヒドロカルコン
ネオポンシリンジヒドロカルコン
ネオヘスペリジンジヒドロカルコン
ネオエリオシトリンジヒドロカルコン
ヘスペレチンジヒドロカルコングルコシド
ナリンゲニンジヒドロカルコングルコシド
エリオジクチオールジヒドロカルコングルコシド
ヘスペレチンジヒドロカルコン
ナリンゲニンジヒドロカルコン
エリオジクチオールジヒドロカルコン
イソサクラネチンジヒドロカルコン
C:ビタミンC
E:ビタミンE
N:NaClOのみ(抗酸化剤なし)
【0022】
その結果を図3に示す。ジヒドロカルコン誘導体は全て、ビタミンCやEに比べ、顕著な抗酸化力を示すことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ジヒドロカルコン誘導体の角層タンパク質の酸化抑制効果。
【図2】ビタミンCとの比較におけるジヒドロカルコン誘導体の角層タンパク質の酸化抑制効果。
【図3】各種ジヒドロカルコン誘導体の角層タンパク質の酸化抑制効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されるジヒドロカルコン誘導体
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又はアルコキシ基を示し、R3は、水素原子又は単糖もしくはオリゴ糖の残基を示す。)を有効成分として含有する、角層タンパク質の酸化を抑制する又は角層酸化タンパク質の酸化度を低減させる抗酸化組成物。
【請求項2】
前記ジヒドロカルコン誘導体が、ヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ナリルチンジヒドロカルコン、エリオシトリンジヒドロカルコン、ネオポンシリンジヒドロカルコン、ナリンジンジヒドロカルコン、ネオエリオシトリンジヒドロカルコン、ポンシリンジヒドロカルコン、ヘスペレチンジヒドロカルコングルコシド、ナリンゲニンジヒドロカルコングルコシド、エリオジクチオールジヒドロカルコングルコシド、イソサクラネチンジヒドロカルコングルコシド、ヘスペレチンジヒドロカルコン、ナリンゲニンジヒドロカルコン、エリオジクチオールジヒドロカルコン及びイソサクラネチンジヒドロカルコンから成る群から選ばれる1又は数種である、請求項1記載の抗酸化組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56831(P2006−56831A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240730(P2004−240730)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(000226415)日研化成株式会社 (30)
【Fターム(参考)】