説明

タービン翼

【課題】タービン静翼1における静翼本体3の前縁側翼面3a付近のフィルム効率を高めて、タービン静翼1の冷却性能を高いレベルまで向上させること。
【解決手段】静翼本体3の前縁側翼面3aに複数の前縁側フィルム冷却孔11がフロント冷却通路7に連通して形成され、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面がスパン方向SDに沿った断面に平行な方向PDへ延びかつ角部にRを付けた矩形の長孔形状を呈し、スパン方向SDに沿った断面において、各前縁側フィルム冷却孔11の孔中心線11cが厚み方向TDに対して傾斜し、各前縁側フィルム冷却孔11の孔壁面の出口側部分11eが孔中心線11cよりも厚み方向TDに対して更に傾斜してあること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機エンジン、産業用ガスタービンエンジン等のガスタービンエンジンのタービンに用いられるタービン翼に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ガスタービンエンジンの稼働中に燃焼ガスに曝されるタービン翼は、ガスタービンエンジンの圧縮機又はファンから抽気した冷却空気(圧縮空気の一部)利用して冷却可能になっている。
【0003】
具体的には、タービン翼の内部には、冷却空気を流入可能な冷却通路が形成されており、タービン翼の翼面には、冷却空気を噴き出し可能な複数なフィルム冷却孔が冷却通路に連通して形成されている。そのため、ガスタービンエンジンの稼動中に、冷却通路に流入した冷却空気が複数のフィルム冷却孔から噴き出されることにより、タービン翼の翼面を覆うフィルム冷却層を形成して、タービン翼に対してフィルム冷却を行うことができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1及び特許文献2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−162224号公報
【特許文献2】特開平7−63002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、ガスタービンエンジンの高出力化の要請に伴い、タービンの入口側の燃焼ガスの温度が非常に高くなる傾向にある。そのため、タービン翼の翼面、特に、燃焼ガスの衝突によって部材温度が高くなり易い、タービン翼の前縁側翼面付近(前縁側翼面を含む)のフィルム効率を高めて、タービン翼の冷却性能を高いレベルまで向上させることが急務になっている。
【0007】
そこで、本発明は、前縁側翼面付近を十分に冷却することができる、新規な構成のタービン翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、前述の課題を解決するために、試行錯誤を繰り返した結果、タービン翼の前縁側翼面に形成されたフィルム冷却孔の孔断面がスパン方向に沿った断面に平行な方向へ延びた長孔形状を呈している場合(発明例に係るタービン翼の場合、図5(a)(b)参照)には、所定の条件を満たすことにより、フィルム冷却孔の孔断面(流路断面)が円形状又は楕円形状を呈している場合(比較例1及び比較例2に係るタービン翼の場合、図6(a)(b)及び図7(a)(b)参照)に比較して、図9(a)(b)(c)から図11(a)(b)(c)に示すように、フィルム冷却孔から噴き出された冷却空気のタービン翼の前縁側翼面に対する浮き上がり(剥離)を抑制しつつ、タービン翼の翼面(前縁側翼面)において冷却空気をスパン方向へ十分に拡散させることができるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。また、前述の所定の条件は、スパン方向に沿った断面においてフィルム冷却孔の孔中心線が厚み方向に対して傾斜していること、及びスパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔壁面における出口側でかつ鈍角側の部分(所定の出口側部分)が孔中心線よりも厚み方向に対して更に傾斜していることである。
【0009】
ここで、図5(a)は、発明例に係るタービン翼の前縁側翼面のスパン方向に沿った部分断面図、図5(b)は、図5(a)におけるVB-VB線に沿った断面図、図6(a)は、比較例1に係るタービン翼の前縁側翼面のスパン方向に沿った部分断面図、図6(b)は、図6(a)におけるVIB-VIB線に沿った断面図、図7(a)は、比較例2に係るタービン翼の前縁側翼面のスパン方向に沿った部分断面図、図7(b)は、図7(a)におけるVIIB-VIIB線に沿った断面図、図8は、タービン翼の前縁側翼面のよどみ点等を説明する模式的な図である。また、図9(a)(b)(c)は、発明例に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図、図10(a)(b)(c)は、比較例1に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図、図11(a)(b)(c)は、比較例2に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図であって、図9(a)(b)(c)から図11(a)(b)(c)における温度分布状態は、3次元定常粘性CFD(Computational Fluid Dynamics)解析(解析条件として、前側翼面付近のレイノズル数≒9×104、ブロー比=2.0)より求めたものである。更に、図9(a)(b)(c)から図11(a)(b)(c)中において、温度の高い領域の部分は、燃焼ガスに相当する部分であって、温度の低い領域(温度のより低い領域を含む)の部分は、冷却空気と燃焼ガスとの混合があまり進んでなく、冷却空気が冷却性能を十分に有している領域であって、55°、65°、75°は、前縁側翼面のよどみ点から下流側(主流の流れ方向からみて下流側)に変位した角度を示しており(図8参照)、フィルム冷却孔の出口側開口部の位置をよどみ点から下流側に55°変位した箇所に予め設定してある。なお、発明例に係るタービン翼のフィルム冷却孔の孔断面、比較例1に係るタービン翼のフィルム冷却孔の孔断面、及び比較例2に係るタービン翼のフィルム冷却孔の孔断面は、同じ面積に予め設定してある(図5(b)、図6(b)、及び図7(b)参照)。
【0010】
本発明の特徴は、ガスタービンエンジンのタービンに用いられ、冷却空気を利用して冷却可能なタービン翼であって、内部に冷却空気を流入可能な冷却通路が形成され、前縁側翼面に冷却空気を噴き出し可能な複数なフィルム冷却孔が前記冷却通路に連通して形成され、各フィルム冷却孔の孔断面(流路断面)がスパン方向に沿った断面に平行な方向へ延びた長孔形状を呈し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔中心線が厚み方向に対して傾斜し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔壁面における出口側でかつ鈍角側の部分(所定の出口側部分)が前記孔中心線よりも前記厚み方向に対して更に傾斜していることを要旨とする。
【0011】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「タービン翼」とは、タービン動翼及びタービン静翼を含む意であって、「孔断面」とは、孔中心線に垂直な断面のことをいう。また、「出口側」とは、冷却空気の流れ方向からみて出口側のことをいい、「鈍角側」とは、翼面とのなす角が鈍角になる側(領域)のことをいう。
【0012】
本発明の特徴によると、前記ガスタービンエンジンの稼動中に、前記冷却通路に流入した冷却空気が複数の前記フィルム冷却孔から噴き出されることにより、前記タービン翼の前縁側翼面付近にフィルム冷却層を形成して、前記タービン翼の前縁側翼面付近を十分にフィルム冷却を行うことができる。
【0013】
ここで、各フィルム冷却孔の孔断面がスパン方向に沿った断面に平行な方向へ延びた長孔形状を呈し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔中心線が厚み方向に対して傾斜し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔における孔壁面の所定の出口側部分が前記孔中心線よりも前記厚み方向に対して更に傾斜しているため、前述の新規な知見を適用すると、各フィルム冷却孔の孔断面が円形状又は楕円形状を呈している場合に比較して、各フィルム冷却孔から噴き出された冷却空気の前記タービン翼の翼面に対する浮き上がり(剥離)を抑制しつつ、前記タービン翼の前縁側翼面において冷却空気を前記スパン方向に十分に拡散させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各フィルム冷却孔から噴き出された冷却空気の前記タービンの前縁側翼面に対する浮き上がりを抑制しつつ、前記タービン翼の前縁側翼面において冷却空気を前記スパン方向に十分に拡散させることができるため、前記タービン翼の前縁側翼面付近のフィルム効率を高めて、前記タービン翼の冷却性能を高いレベルまで向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るタービン静翼の側面図であって、一部破断してある。
【図2】図2(a)は、本発明の実施形態に係るタービン静翼の前縁側翼面のスパン方向に沿った部分断面図、図2(b)は、図2(a)におけるIIB-IIB線に沿った拡大断面図、図2(c)は、図2(a)における矢視部IICの拡大図、図2(d)は、図2(a)における矢視部IIDの拡大図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係るタービン静翼の斜視図である。
【図4】図4は、図1におけるIV-IV線に沿った拡大断面図である。
【図5】図5(a)は、発明例に係るタービン翼の前縁側の部分断面図、図5(b)は、図5(a)におけるVB-VB線に沿った断面図である。
【図6】図6(a)は、比較例1に係るタービン翼の前縁側の部分断面図、図6(b)は、図6(a)におけるVIB-VIB線に沿った断面図である。
【図7】図7(a)は、比較例2に係るタービン翼の前縁側の部分断面図、図7(b)は、図7(a)におけるVIIB-VIIB線に沿った断面図である。
【図8】図8は、タービン翼の前縁側翼面のよどみ点等を説明する模式的な図である。
【図9】図9(a)(b)(c)は、発明例に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図である。
【図10】図10(a)(b)(c)は、比較例1に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図である。
【図11】図11(a)(b)(c)は、比較例2に係るタービン翼の前縁側翼面付近の温度分布状態を示す図である。
【図12】図12は、発明例に係るタービン翼、比較例1に係るタービン翼、及び比較例2に係るタービン翼について、前縁側翼面のよどみ点からの距離とフィルム効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図1から図4を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向(主流の流れ方向からみて上流方向)、「FR」は、後方向(主流の流れ方向からみて下流方向)を指してある。
【0017】
図1、図3、及び図4に示すように、本発明の実施形態に係るタービン静翼1は、航空機エンジン又は産業用ガスタービンエンジン等のガスタービンエンジンのタービン(図示省略)に用いられ、ガスタービンエンジンの圧縮機(図示省略)又はファン(図示省略)から抽気した冷却空気(圧縮空気の一部)CAを利用して冷却可能である。そして、本発明の実施形態に係るタービン静翼1の具体的な構成は、次のようになる。
【0018】
タービン静翼1は、ロストワックス精密鋳造によって製造(成型)されるものであって、中空状の静翼本体(翼本体)3を備えている。また、静翼本体3の内部には、リブ壁(隔壁)5が設けられおり、静翼本体3の内部は、リブ壁5によって冷却空気CAを流入可能な2つの冷却通路(フロント冷却通路7とリア冷却通路9)に前後に区画されている。換言すれば、静翼本体3の内部には、フロント冷却通路7とリア冷却通路9が前後に形成されている。そして、静翼本体3の前縁側翼面3a(タービン静翼1の前縁側翼面3a)には、冷却空気CAを噴き出し可能な複数の前縁側フィルム冷却孔11がフロント冷却通路7に連通して形成されており、静翼本体3の腹側翼面3v(タービン静翼1の腹側翼面3v)には、冷却空気CAを噴き出し可能な複数の腹側フィルム冷却孔13がフロント冷却通路7又はリア冷却通路9に連通して形成されており、静翼本体3の後縁側翼面3p(タービン静翼1の後縁側翼面3p)には、冷却空気CAを噴き出し可能な複数の後縁側フィルム冷却孔15がリア冷却通路9に連通して形成されている。なお、静翼本体3の背側翼面3b(タービン静翼1の背側翼面3b)に冷却空気CAを噴き出し可能な複数の背側側フィルム冷却孔(図示省略)がフロント冷却通路7又はリア冷却通路9に連通して形成されるようにしても構わない。
【0019】
静翼本体3の基端側には、円弧状のインナーバンド17が一体形成されており、静翼本体3の先端側には、円弧状のアウターバンド19が一体形成されている。また、アウターバンド19における静翼本体3のフロント冷却通路7に整合する位置には、フロント挿通穴21が形成されており、アウターバンド19における静翼本体3のリア冷却通路9に整合する位置には、リア挿通穴23が形成されている。換言すれば、アウターバンド19には、静翼本体3のフロント冷却通路7に連通したフロント挿通穴21、及び静翼本体3のリア冷却通路9に連通したリア挿通穴23が前後に形成されている。
【0020】
静翼本体3のフロント冷却通路7内には、パイプ状のフロントインサート25が配設されており、このフロントインサート25の上部は、アウターバンド19のフロント挿通穴21に挿通してあって、フロントインサート25の外周面には、静翼本体3のフロント冷却通路7の内壁面に向かって冷却空気CAを噴き出す複数のフロントインピンジ冷却孔27が形成されている。また、静翼本体3のリア冷却通路9内には、パイプ状のリアインサート29が配設されており、このリアインサート29の上部は、アウターバンド19のリア挿通穴23に挿通してあって、リアインサート29の外周面には、静翼本体3のリア冷却通路9の内壁面に向かって冷却空気CAを噴き出す複数のリアインピンジ冷却孔31が形成されている。
【0021】
続いて、本発明の実施形態の要部について説明する。
【0022】
図2(a)(c)(d)に示すように、各前縁側フィルム冷却孔11の入口側開口部(入口側開口部の形状)及び出口側開口部(出口側開口部の形状)は、それぞれ、スパン方向SDへ延びかつ角部にRつけた矩形の長孔形状を呈している。また、図2(a)(b)に示すように、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面は、スパン方向SDに沿った断面に平行な方向PDへ延びかつ角部にRを付けた矩形の長孔形状を呈している。そして、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面(孔断面の断面形状)のアスペクト比(長短比)は、1.1〜3.0、好ましくは1.5〜2.5に設定されている。各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面のアスペクト比を1.1以上に設定されるようにしたのは、1.1未満に設定されると、各前縁側フィルム冷却孔11から噴き出された冷却空気CAが静翼本体3の前縁側翼面3aにおいてスパン方向SDへ十分に拡散することが困難になるからである。一方、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面のアスペクト比を3.0以下に設定されるようにしたのは、3.0を越えて設定されると、各前縁側フィルム冷却孔11の加工(放電加工)が困難になるからである。
【0023】
図2(a)に示すように、スパン方向SDに沿った断面(スパン方向SDに平行な断面)において、各前縁側フィルム冷却孔11の孔中心線11cは、厚み方向(静翼本体3の厚み方向)TDに対して傾斜してある。そして、各前縁側フィルム冷却孔11の孔中心線11cの厚み方向TDに対する傾斜角θcは、20〜60度、好ましくは、30〜50度に設定されている。傾斜角θcを20度以上に設定されるようにしたのは、20度未満に設定されると、前縁側フィルム冷却孔11の加工が困難になる上に、前縁側フィルム冷却孔11の周辺の応力集中が高くなるからである。一方、傾斜角θcを60度以下に設定されるようにしたのは、60度を超えて設定されると、冷却空気CAの浮き上がり(剥離)が顕著になり、冷却性能が低下するからである。
【0024】
スパン方向SDに沿った断面において、各前縁側フィルム冷却孔11の孔壁面における出口側でかつ鈍角側の部分(所定の出口側部分)11eは、各前縁側フィルム冷却孔11の孔中心線11cよりも厚み方向TDに対して更に傾斜してある。そして、各前縁側フィルム冷却孔11の孔壁面における所定の出口側部分11eの厚み方向TDに対する傾斜角θeは、5〜20度、好ましくは、5〜10度である。傾斜角θeを5度以上に設定されるようにしたのは、5度未満に設定されると、冷却空気CAをスパン方向へ十分に拡散させることができなくなるからである。一方、傾斜角θeを20度以下に設定されるようにしたのは、20度を超えて設定されると、前縁側フィルム冷却孔11の内部で流れの剥離が生じ易くなって、冷却性能が低下するからである。
【0025】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0026】
ガスタービンエンジンの稼働中に、フロントインサート25内に流入した冷却空気CAが複数のフロントインピンジ冷却孔27から静翼本体3のフロント冷却通路7の内壁面に向かって噴き出される共に、リアインサート29内に流入した冷却空気CAが複数のリアインピンジ冷却孔31から静翼本体3のリア冷却通路9の内壁面に向かって噴き出される。これにより、タービン静翼1(静翼本体3)に対してインピンジ冷却(内部冷却)を行うことができる。
【0027】
また、タービン静翼1のインピンジ冷却に寄与した冷却空気CA、換言すれば、静翼本体3のフロント冷却通路7及びリア冷却通路9に流入した冷却空気CAが複数の前縁側フィルム冷却孔11、複数の腹側フィルム冷却孔13、及び複数の後縁側フィルム冷却孔15から噴き出される。これにより、タービン静翼1における静翼本体3の前縁側翼面3a及び腹側翼面3v等を覆うフィルム冷却層(図示省略)を形成して、タービン静翼1に対してフィルム冷却を行うことができる。
【0028】
ここで、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面がスパン方向SDに沿った断面に平行な方向PDへ延びた長孔形状を呈し、スパン方向SDに沿った断面において各前縁側フィルム冷却孔11の孔中心線11cが厚み方向TDに対して傾斜し、スパン方向SDに沿った断面において各前縁側フィルム冷却孔11における孔壁面の所定の出口側部分11eが孔中心線11cよりも厚み方向TDに対して更に傾斜しているため、前述の新規な知見を適用すると、各前縁側フィルム冷却孔11の孔断面が円形状又は楕円形状を呈している場合に比較して、各前縁側フィルム冷却孔11から噴き出された冷却空気CAのタービン静翼1における静翼本体3の前縁側翼面3aに対する浮き上がり(剥離)を抑制しつつ、タービン静翼1における静翼本体3の前縁側翼面3aにおいて冷却空気CAをスパン方向SDに十分に拡散させることができる。
【0029】
従って、本発明の実施形態によれば、タービン静翼1における静翼本体3の前縁側翼面3a付近のフィルム効率を高めて、タービン静翼1の冷却性能を高いレベルまで向上させることができる。なお、フィルム効率は、燃焼ガスの温度をTf、フィルム冷却層の温度をTf、冷却空気CAの温度をTcとした場合に、フィルム効率=(Tg−Tf)/(Tg−Tc)で定義されるものである。
【0030】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限るものでなく、例えばタービン静翼1に適用した技術的思想をタービン動翼に適用する等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例について図12を参照して説明する。
【0032】
発明例に係るタービン翼(図5(a)(b)参照)、比較例1に係るタービン翼(図6(a)(b)参照)、及び比較例2に係るタービン翼(図7(a)(b)参照)の前縁側翼面付近のフィルム効率(スパン方向の平均のフィルム効率)について3次元定常粘性CFD解析(解析条件として、前側翼面付近のレイノズル数≒9×104、ブロー比=2.0)を行い、その結果をまとめると、図12に示すようになる。即ち、発明例に係るタービン翼の前縁側翼面付近のフィルム効率は、比較例1及び比較例2に係るタービン翼の前縁側翼面付近のフィルム効率に比べて十分に高いことが確認された。なお、図12中における横軸の前縁側翼面のよどみ点からの距離は、フィルム冷却孔の孔断面の代表直径(同じ断面積を有する円孔の直径)で除することにより無次元化してある。
【符号の説明】
【0033】
CA 冷却空気
PD スパン方向に沿った断面に平行な方向
SD スパン方向
TD 厚み方向
1 タービン静翼
3 静翼本体(翼本体)
3a 静翼本体の前縁側翼面
3b 静翼本体の背側翼面
3p 静翼本体の後縁側翼面
3v 静翼本体の腹側翼面
7 フロント冷却通路
9 リア冷却通路
11 前縁側フィルム冷却孔
11c 前縁側フィルム冷却孔の孔中心線
θc 孔中心線11cの厚み方向TDに対する傾斜角
11e 所定の出口側部分
θe 所定の出口側部分11eの厚み方向に対する傾斜角
13 腹側フィルム冷却孔
15 後縁側フィルム冷却孔
25 フロントインサート
27 フロントインピンジ冷却孔
29 リアインサート
31 リアインピンジ冷却孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジンのタービンに用いられ、冷却空気を利用して冷却可能なタービン翼であって、
内部に冷却空気を流入可能な冷却通路が形成され、前縁側翼面に冷却空気を噴き出し可能な複数なフィルム冷却孔が前記冷却通路に連通して形成され、各フィルム冷却孔の孔断面がスパン方向に沿った断面に平行な方向へ延びた長孔形状を呈し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔中心線が厚み方向に対して傾斜し、前記スパン方向に沿った断面において各フィルム冷却孔の孔壁面における出口側でかつ鈍角側の部分が前記孔中心線よりも前記厚み方向に対して更に傾斜していることを特徴とするタービン翼。
【請求項2】
各フィルム冷却孔の前記孔断面のアスペクト比が1.1〜3.0に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のタービン翼。
【請求項3】
各フィルム冷却孔の前記孔中心線の前記厚み方向に対する傾斜角は、20〜60度に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタービン翼。
【請求項4】
各フィルム冷却孔の壁面における出口側でかつ鈍角側の部分の前記厚み方向に対する傾斜角は、5〜20度に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のタービン翼。
【請求項5】
前縁側翼面を除く翼面に冷却空気を噴き出し可能な複数の別のフィルム冷却孔が前記冷却通路に連通して形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載のタービン翼。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate