ダイヤモンド被覆電極、およびダイヤモンド被覆電極の製造方法
【課題】ピンホールによる流体の浸入が少ない耐久性に優れたダイヤモンド被覆電極を提供する。
【解決手段】1層のダイヤモンド層24a・・の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶であるため、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなって電解液等の流体の浸入が抑制される。また、核付け処理を繰り返して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22a・・を所定の積層数N(≧3)だけ形成するため、ダイヤモンド多層膜22a・・の密着性が向上し、単に種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、ピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。ダイヤモンド多層膜22a・・の間にグラファイト層を設けることも、剥離に対する耐久性向上に有効である。
【解決手段】1層のダイヤモンド層24a・・の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶であるため、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなって電解液等の流体の浸入が抑制される。また、核付け処理を繰り返して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22a・・を所定の積層数N(≧3)だけ形成するため、ダイヤモンド多層膜22a・・の密着性が向上し、単に種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、ピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。ダイヤモンド多層膜22a・・の間にグラファイト層を設けることも、剥離に対する耐久性向上に有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド被覆電極に係り、特に、ピンホールによる流体の浸入が少ない耐久性に優れたダイヤモンド被覆電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極が、例えば産業廃液などを浄化したり所定の電解反応を行なわせたりする水処理用電極等として提案されている。しかしながら、通常のダイヤモンド被膜の結晶粒子は一般に粒径(粒子の最大直径)が2μm以上と大きいため、例えば図10に示すようにダイヤモンド被膜102を構成している多数のダイヤモンド結晶粒子104の間に比較的大きな隙間が生じ、その隙間がピンホール(穴状欠陥)となって電解液等が矢印(→)で示すように電極基材100の表面付近まで浸入し、ダイヤモンド被膜102が基材表面から剥離し易いという問題があった。
【0003】
一方、ダイヤモンド被膜の成膜条件(ガス圧やガス濃度など)を調整することにより粒径が1μm未満の微結晶ダイヤモンドから成る単層構造のダイヤモンド被膜を形成したり、種結晶生成処理と結晶成長処理とを繰り返すことにより微結晶で多層構造のダイヤモンド被膜を形成したりする技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。このような微結晶ダイヤモンドの技術をダイヤモンド被覆電極に適用すれば、微結晶化によりピンホールそのものが小さくなるだけでなく、表面の撥水効果により電解液等の流体の浸入が抑制されるため、被膜剥離に対する耐久性向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単層構造のダイヤモンド被膜の場合、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素が混入することが避けられず、脆くなるなどして耐久性が損なわれることがある一方、多層構造のダイヤモンド被膜の場合は十分な密着性が得られず、依然として剥離が生じ易いなど、何れの場合も未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ピンホールによる流体の浸入が少ない耐久性に優れたダイヤモンド被覆電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、(a) 結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程と、(b) ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理とその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、その結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を、前記核付け処理が行われた表面上に形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを有し、且つ、(c) 前記核付け工程および前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成することを特徴とする。
【0008】
上記核付け処理は、超音波装置内にダイヤモンド粒子およびアルコール液を入れ、その中に電極基材を挿入して基材表面、或いは基材表面上に設けられたダイヤモンド多層膜等の表面に微小凹凸を設ける表面荒し処理で、その上に設けられるダイヤモンド多層膜の密着性が向上する。
【0009】
第2発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、(a) ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理とその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、その結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、(b) 前記ダイヤモンド多層膜の上に、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程とを有し、且つ、(c) 前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくとも前記ダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成することを特徴とする。
【0010】
第3発明は、第2発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法において、(a) 結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程を有し、(b) 前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初に前記ダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って前記核付け工程で前記核付け処理を行うことを特徴とする。
【0011】
第4発明は、第2発明または第3発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法において、繰り返し行なわれる前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程は、前記電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極であって、(a) 1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、(b) 膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層とを有し、且つ、(c) 前記ダイヤモンド多層膜および前記グラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくともそのダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が前記電極基材の表面上に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法においては、結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行う核付け工程と、ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを、交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を形成する。その場合に、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下であるため、そのダイヤモンド層を構成しているダイヤモンド結晶粒子も粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶となり、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。
【0014】
また、結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行う核付け工程を繰り返して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜を3回以上形成するようにしたため、電極基材とダイヤモンド多層膜との間、およびダイヤモンド多層膜相互の間の密着性が向上し、単に多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、ピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。
【0015】
また、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程では、種結晶生成処理および結晶成長処理を交互に繰り返すことによって超微結晶のダイヤモンド多層膜を形成するため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較してグラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制され、この点でも被膜強度が向上して被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0016】
第2発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法は、ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、そのダイヤモンド多層膜の上に膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程とを有し、それ等の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくともダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を電極基材の表面上に形成する。すなわち、超微結晶のダイヤモンド多層膜が3回以上設けられる点は第1発明と同じであり、ピンホールそのものが小さくなるとともに、ダイヤモンド被膜の最表面がこのダイヤモンド多層膜の場合は、表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、ダイヤモンド被膜の最表面がグラファイト層の場合は、グラファイト層は非結晶であるためピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止される。
【0017】
また、本発明では各ダイヤモンド多層膜の間に非結晶のグラファイト層が設けられているため、本発明者等の実験によれば、単に多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対して一層優れた耐久性が得られるようになった。この理由は、グラファイト層は非結晶であるため、ピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止されるとともに、密着性が向上して被膜強度が高くなるためと考えられる。グラファイト層の膜厚Tgはダイヤモンド多層膜の膜厚Tdよりも小さいため、グラファイト層を設けたことに起因するダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制しつつ、被膜強度を向上させて剥離を防止することができる。
【0018】
また、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で形成されるダイヤモンド多層膜自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、第1発明と同様に単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0019】
更に、この第2発明では、ダイヤモンド多層膜を3回以上設ける際に、所定膜厚Tgのグラファイト層を設けるようにしたため、必ずしも一々核付け処理を行う必要がなく、例えば第4発明のように繰り返し行なわれる超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を、CVD装置の反応炉内に電極基材を保持したままCVD法によって行うことが可能となり、ダイヤモンド被覆電極の製造を容易に行うことができる。
【0020】
第3発明では、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初にダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って核付け工程で核付け処理を行うため、その核付け処理により電極基材とダイヤモンド被膜との密着性が高くなり、ダイヤモンド被膜の剥離が一層効果的に抑制される。
【0021】
第5発明は、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層とを有し、且つ、それ等のダイヤモンド多層膜およびグラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくともそのダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が電極基材の表面上に設けられているダイヤモンド被覆電極で、前記第1発明或いは第2発明の製造方法を用いて製造することができる。このようなダイヤモンド被覆電極においては、超微結晶のダイヤモンド多層膜が3回以上設けられるため、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、各ダイヤモンド多層膜の間に所定の膜厚Tgのグラファイト層が設けられているため、第2発明と同様にダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制しつつ被膜強度を向上させて剥離を適切に防止することができる。更に、超微結晶のダイヤモンド多層膜自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1発明の製造方法に従って製造されたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、(a) はダイヤモンド被膜が設けられた表層部分の拡大断面図、(b) はダイヤモンド被膜の中の一つのダイヤモンド多層膜を更に拡大してダイヤモンド結晶粒子Cの並び方を概念的に示したイメージ図である。
【図2】ダイヤモンド被膜をコーティングする際に好適に用いられるマイクロ波プラズマCVD装置の一例を説明する概略構成図である。
【図3】図2の装置を用いて第1発明に従って図1のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順を説明するフローチャートである。
【図4】図3の成膜手順に従って製造された本発明品を含む複数の試験品について耐久性を調べた結果を説明する図である。
【図5】ダイヤモンド多層膜とグラファイト層とが交互に設けられたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、ダイヤモンド被膜が設けられた表層部分の拡大断面図であり、図1の(a) に対応する図である。
【図6】図2の装置を用いて第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の一例を説明するフローチャートである。
【図7】図6の成膜手順に従って製造された本発明品を含む複数の試験品について耐久性を調べた結果を説明する図である。
【図8】第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の別の例を説明するフローチャートである。
【図9】第1発明、第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の一例を説明するフローチャートである。
【図10】従来の通常のダイヤモンド結晶粒子(粗結晶)で構成されたダイヤモンド被膜において、粒子間に生じるピンホールから所定の流体が電極基材の表面付近まで浸入する際の経路を説明するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、産業廃液などを浄化したり所定の電解反応を行なわせたりする水処理用のダイヤモンド被覆電極に好適に適用されるが、他の分野で用いられるダイヤモンド被覆電極にも同様に適用され得る。電極基材としては、銅や超硬合金、チタン等の金属が好適に用いられるが、グラファイト等の他の導電性材料を採用することもできる。電極基材の形状は、板状や棒状など適宜定められる。ダイヤモンドは本来電気的に絶縁体であるが、ダイヤモンドを結晶成長させる際に、例えばボロン(硼素;B)等の不純物をドーピングすることによって所定の導電性を持たせることができる。ドーピング量は不純物の種類によって適宜定められるが、例えばボロンの場合、0.05〜5原子%の範囲内が適当で、0.5〜1原子%の範囲内が望ましい。
【0024】
核付け処理を行う際に用いるダイヤモンドは、結晶粒径が30nm以下であれば良いが、20nm以下が望ましく、例えば5〜20nm程度の人工単結晶の市販品が好適に用いられる。
【0025】
種結晶生成処理および結晶成長処理を行う超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程の実施には、CVD(化学気相成長)法が好適に用いられ、特にマイクロ波プラズマCVD法が望ましいが、ホットフィラメントCVD法や高周波プラズマCVD法等の他のCVD法を用いることもできる。第2発明のグラファイト積層工程の実施に際しても、上記CVD法を用いてグラファイト層を形成することが可能で、第4発明のようにCVD装置の反応炉内に電極基材を保持したまま、供給する反応ガスを切り換えるなどして超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を連続して行うことができる。
【0026】
ダイヤモンド多層膜の1層のダイヤモンド層の膜厚Tcは200nm以下であれば良いが、100nm以下が望ましく、50nm以下が一層望ましい。膜厚Tcは一定であっても良いが、200nm以下の範囲で連続的に変化させたり段階的に変化させたりすることもできる。
【0027】
電極基材の表面に直接ダイヤモンド多層膜を形成するようにしても良いが、密着性を高めるためなど必要に応じて他の下地層を設け、その上にダイヤモンド多層膜を形成するようにしても良い。第1発明では、3回以上形成されるダイヤモンド多層膜は、互いに接するように直接重ねて積層しても良いが、それ等のダイヤモンド多層膜の間に、第2発明のようにグラファイト層を設けたり、その他の中間層を設けたりすることも可能である。ダイヤモンド多層膜の間に所定の膜厚Tgのグラファイト層を設ける場合、得られたダイヤモンド被覆電極は第5発明の一実施例である。ダイヤモンド多層膜の上にグラファイト層等の中間層が設けられる場合、中間層の表面に対して核付け処理を行い、その核付け処理が行われた表面上にダイヤモンド多層膜を形成すれば良い。
【0028】
第2発明では、少なくともダイヤモンド多層膜が3回以上形成されるようにすれば良く、ダイヤモンド被膜の最上層はダイヤモンド多層膜であっても良いしグラファイト層であっても良い。ダイヤモンド被覆電極の使用分野や要求性能等に応じて適宜選択できる。第5発明のダイヤモンド被覆電極についても同様である。第1発明の実施に際しても、必要に応じて最上層にグラファイト層等を設けることが可能である。
【0029】
グラファイト層は、その存在によるダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制する上で、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つダイヤモンド多層膜の膜厚Tdよりも小さくされるが、膜厚Tgは0.5μm以下が望ましく、或いはダイヤモンド多層膜の膜厚Tdの1/2以下とすることが望ましい。
【0030】
第3発明では、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初にダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って核付け工程で核付け処理を行うが、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程でダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って常に核付け工程で核付け処理を行うこともできる。第2発明の実施に際しては、このような核付け処理は必ずしも必要なく、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程のみを繰り返し行ってダイヤモンド被膜を形成しても良い。
【0031】
第4発明では、繰り返し行なわれる超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程が、電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれるが、第2発明の実施に際しては、CVD装置の反応炉内に電極基材を保持して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を行い、1積層周期分のダイヤモンド多層膜およびグラファイト層を形成した後、電極基材を一旦反応炉から外へ取り出し、例えば前記核付け処理等を行った後に再び反応炉内にセットして、次の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を行うようにしても良い。
【0032】
第5発明のダイヤモンド被覆電極は、第1発明或いは第2発明の製造方法を用いて好適に製造されるが、必ずしもそれ等の製造方法に限定されるものではなく、他の製造方法で製造しても差し支えない。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明方法(第1発明)に従って製造されたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、(a) はダイヤモンド被膜20が設けられた表層部分の拡大断面図、(b) はダイヤモンド被膜20の中の一つのダイヤモンド多層膜22aを更に拡大してダイヤモンド結晶粒子Cの並び方を概念的に示したイメージ図である。このダイヤモンド被覆電極10は、電極基材12の表面14上に図2のマイクロ波プラズマCVD装置30を用いて図3のフローチャートに従ってダイヤモンド被膜20をコーティングしたもので、電極基材12は超硬合金、銅等の金属板材にて構成されている。
【0034】
上記ダイヤモンド被膜20は、多数のダイヤモンド多層膜22a、22b、・・・22n(以下、特に区別しない場合は単にダイヤモンド多層膜22という)にて構成されており、それ等のダイヤモンド多層膜22の各膜厚Tdは400nm〜3μmの範囲内の略一定の大きさであり、総膜厚Ttは1.2μm〜30μmの範囲内である。このダイヤモンド多層膜22の数すなわち積層数Nは3以上で、且つ、目的とする総膜厚Ttとなるように膜厚Tdに応じて適宜定められる。また、それ等のダイヤモンド多層膜22は、それぞれ図1(b) に示すように多数のダイヤモンド層24a、24b、・・・24m(以下、特に区別しない場合は単にダイヤモンド層24という)を連続的に積層したもので、それ等のダイヤモンド層24の各膜厚Tcは略同じで30〜40nmの範囲内(例えば目標値35nm)であり、ダイヤモンド結晶粒子Cの粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶の多層構造を成している。
【0035】
図2のマイクロ波プラズマCVD装置30は、反応炉32、マイクロ波発生装置34、原料ガス供給装置36、真空ポンプ38、および電磁コイル40を備えて構成されている。円筒状の反応炉32内にはテーブル42が設けられ、ダイヤモンド被膜20をコーティングすべき複数の電極基材12が所定の姿勢でセット(配置)される。マイクロ波発生装置34は、例えば2.45GHz等のマイクロ波を発生する装置で、このマイクロ波が反応炉32内へ導入されることにより電極基材12が加熱されるとともに、マイクロ波発生装置34の電力制御によって加熱温度が調節される。
【0036】
原料ガス供給装置36は、メタン(CH4 )や水素(H2 )、一酸化炭素(CO)などの原料ガスを反応炉32内に供給するためのもので、それ等のガスボンベや流量を制御する流量制御弁、流量計などを備えて構成されているが、本実施例ではボロンをドーピングするために、例えば酸化ボロンをメタノールに溶かした液体を原料ガスに混ぜて反応炉32内に供給できるようになっている。真空ポンプ38は、反応炉32内の気体を吸引して減圧するためのもので、圧力計46によって検出される反応炉32内の圧力値が予め定められた所定の圧力値になるように、真空ポンプ38のモータ電流などがフィードバック制御される。電磁コイル40は、反応炉32内を取り巻くように反応炉32の外周側に円環状に配設されている。
【0037】
このようなマイクロ波プラズマCVD装置30を用いたダイヤモンド被膜20のコーティング処理は、図3のフローチャートに示す手順に従って行なわれる。図3のステップS1では、電極基材12を反応炉32内に配置するのに先立って、結晶粒径が5〜20nmのダイヤモンドの人工単結晶を用いて核付け処理を行う。この核付け処理は、超音波装置内にダイヤモンド粒子およびアルコール液を入れ、その中に電極基材12を挿入してその表面に微小凹凸を設ける表面荒し処理で、最初は基材表面14に核付け処理が行われるが、ステップS3の判断がNO(否定)の場合に行う2回目以降の核付け処理は、電極基材12の表面14上に設けられたダイヤモンド多層膜22に対して行われる。このステップS1は核付け工程で、例えば超音波装置を用いて作業者の手作業で行うことができる。結晶粒径が5〜20nmのダイヤモンドの人工単結晶は、例えば市販品を購入すれば良い。
【0038】
その後、電極基材12を反応炉32内にセットし、マイクロ波プラズマCVD法によりステップS2で超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を行う。この超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理は、前記ダイヤモンド多層膜22を形成するためのもので、ステップS2−1の種結晶生成処理およびステップS2−2の結晶成長処理を交互に繰り返すことによって行なわれる。
【0039】
ステップS2−1の種結晶生成処理は、ダイヤモンドの結晶成長を抑制して種結晶を生成するためのものである。具体的には、メタンの濃度が10%〜30%の範囲内で定められた設定値となるようにメタンおよび水素の流量調節を行うとともに、電極基材12の表面温度が700℃〜900℃の範囲内で定められた設定温度になるようにマイクロ波発生装置34を調節し、反応炉32内のガス圧が2.7×102 Pa〜2.7×103 Paの範囲内で定められた設定圧になるように真空ポンプ38を作動させ、その状態を0.1時間〜2時間継続する。これにより、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる多数の種結晶が生成され、前記核付け処理が行われた電極基材12の表面14上に付着させられる。また、ステップS2−3に続いて行う2回目以降の種結晶生成処理では、ステップS2−2の結晶成長処理で結晶成長させられた多数のダイヤモンド結晶粒子Cから成るダイヤモンド層24の表面上に、新たに生成された種結晶が層状に付着させられる。
【0040】
ステップS2−2の結晶成長処理では、上記ステップS2−1の種結晶生成処理で付着された種結晶を結晶成長させる。具体的には、メタンの濃度が1%〜4%の範囲内で定められた設定値になるようにメタンおよび水素の流量調節を行うとともに、電極基材12の表面温度が800℃〜900℃の範囲内で定められた設定温度になるようにマイクロ波発生装置34を調節し、反応炉32内のガス圧が1.3×103 Pa〜6.7×103 Paの範囲内で定められた設定圧になるように真空ポンプ38を作動させ、その状態を、ダイヤモンド層24の膜厚がTcとなるように予め定められた所定時間、具体的にはダイヤモンド結晶粒子Cの結晶長さ(結晶成長方向の長さ寸法)が膜厚Tcになる予め求められた処理時間だけ継続する。
【0041】
ステップS2−2に続いてステップS2−3を実行し、ダイヤモンド多層膜22が予め定められた目的とする膜厚Tdに達したか否かを判断する。具体的には、ステップS2−1の種結晶生成処理およびステップS2−2の結晶成長処理の処理回数が、膜厚Tdと前記ダイヤモンド層24の膜厚Tcとに応じて定められた設定回数(Td/Tc)に達したか否かを判断する。そして、その設定回数に達するまではステップS2−1およびS2−2を繰り返し実行し、設定回数に達したらステップS3を実行する。
【0042】
上記ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理に際しては、水素等の原料ガスを供給する際に、前記酸化ボロンをメタノールに溶かした液体をその原料ガスに混ぜて反応炉32内に所定の流量で供給することにより、そのダイヤモンド層24、更にはダイヤモンド多層膜22にボロンをドーピングする。ボロンのドーピング量(含有量)は、酸化ボロンを溶かした液体の供給流量を変更することによって調節でき、所定の導電性が得られるように例えば0.5〜1原子%の割合でボロンがドーピングされるように設定される。
【0043】
このステップS2は超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程であり、ダイヤモンド多層膜22が目的とする膜厚Tdに達してステップS2−3の判断がYES(肯定)になると、ステップS3を実行する。ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理は、例えばコンピュータを用いた制御装置によりマイクロ波プラズマCVD装置30の作動を制御して自動的に行なわれるようにすることができる。
【0044】
ステップS3では、ダイヤモンド多層膜22が予め定められた目的とする積層数Nに達したか否か、すなわちステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理の実行回数が積層数Nと同じ回数になったか否かを判断し、積層数Nと同じ回数になるまでステップS1およびS2を繰り返す。ステップS1およびS2が積層数Nと同じ回数だけ繰り返し実行されると、ダイヤモンド多層膜22が積層数Nだけ積層された目的とするダイヤモンド被膜20が形成されるとともに、ステップS3の判断がYESとなり、前記ダイヤモンド被覆電極10を製造するための一連のダイヤモンド被膜成膜処理が終了する。
【0045】
このように本実施例では、結晶粒径が5〜20nmの単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行うステップS1の核付け工程と、種結晶を生成する種結晶生成処理(ステップS2−1)およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理(ステップS2−2)を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜22を形成するステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを、交互に積層数N(≧3)と同じ回数だけ繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内の目的とするダイヤモンド被膜20を形成する。その場合に、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmであるため、そのダイヤモンド層24を構成しているダイヤモンド結晶粒子Cも粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶となり、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。
【0046】
また、5〜20nmの結晶粒径の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行うステップS1の核付け工程を繰り返して、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22を3回以上形成するようにしたため、電極基材12とダイヤモンド多層膜22との間、およびダイヤモンド多層膜22相互の間の密着性が向上し、単にステップS2の多結晶ダイヤモンド多層コーティング処理で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、上記のようにピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。
【0047】
また、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理では、種結晶生成処理(ステップS2−1)および結晶成長処理(ステップS2−2)を交互に繰り返すことによって超微結晶のダイヤモンド多層膜22を形成するため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較してグラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制され、この点でも被膜強度が向上して被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0048】
因に、前記積層数Nや総膜厚Ttが異なる5種類の試験品No1〜No5を用意し、所定の水処理を行なってダイヤモンド被膜20の剥離に対する耐久性を調べたところ、図4に示す結果が得られた。電極基材12は超硬合金板で、寸法(mm)は幅×厚さ×高さ=10×1×30である。
【0049】
図4において、試験品No1およびNo2は積層数N=1、2の比較品で、総膜厚Ttはある程度厚いが、何れも早期にダイヤモンド被膜20が剥離して電極寿命となった。これに対し、積層数Nが3以上の試験品No3〜No5は本発明品で、何れも240時間使用してもダイヤモンド被膜20が剥離することは無かった。このことから、所定の結晶粒径のダイヤモンドを用いて核付け処理するステップS1の核付け工程を繰り返して、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を実施し、ダイヤモンド多層膜22を所定の積層数N(≧3)だけ形成することが、そのダイヤモンド多層膜22の密着性を向上させて被膜強度を高くし、単に種結晶生成処理(ステップS2−1)および結晶成長処理(ステップS2−2)を繰り返すだけで所定の総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対する耐久性を向上させることに大きく寄与していることが分かる。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例1と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0051】
図5のダイヤモンド被覆電極50は、前記図1のダイヤモンド被覆電極10に比較して、前記多数のダイヤモンド多層膜22の上にそれぞれグラファイト層54a、54b、・・・54n(以下、特に区別しない場合は単にグラファイト層54という)が設けられている。各グラファイト層54の膜厚Tgは略同じで10nm〜1μmの範囲内であり、且つ前記ダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さい。ダイヤモンド多層膜22は、前記実施例1と同様に構成されており、前記図1(b) に示すように多数のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdは400nm〜3μmの範囲内である。また、グラファイト層54を含むダイヤモンド被膜52の総膜厚Ttは、同じく前記実施例1と同様に1.2μm〜30μmの範囲内とされている。本実施例では ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54を1積層周期として積層数N(≧3)だけ積層されているが、最上層のグラファイト層54nを省略することも可能である。このダイヤモンド被覆電極50は第5発明の一実施例である。
【0052】
そして、このようなダイヤモンド被覆電極50は、前記図2のマイクロ波プラズマCVD装置30を用いて例えば図6のフローチャートに示す手順に従ってダイヤモンド被膜52を形成することによって製造される。図6のステップR1、R2、R4はそれぞれ前記図3のステップS1、S2、S3と同じで、ステップR2の中のステップR2−1〜R2−3も前記ステップS2−1〜S2−3と同じであるが、ステップR2に続いてステップR3のグラファイト積層処理を実行するとともに、ステップR4に続いてステップR2以下を実行する点が相違する。ステップR3はグラファイト積層工程で、図6のフローチャートに従う製造手順は第2発明の一実施例である。
【0053】
ステップR3のグラファイト積層処理は、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したまま、ステップR2の微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理に連続して行なわれる。具体的には、水素ガスの供給を停止し、メタンガスのみを供給することにより、ダイヤモンド結晶粒子Cの結晶成長を停止して、非結晶のグラファイト層54を形成する。また、処理時間は、グラファイト層54の膜厚Tgに応じて予め定められる。次のステップR4では、ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54を1積層周期とする積層回数が予め定められた積層数N(≧3)と同じ回数に達したか否かを判断し、積層数Nと同じ回数になるまでステップR2およびR3を繰り返す。本実施例では、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したまま、ステップR2およびR3が積層数Nと同じ回数だけ連続して繰り返し行われる。これにより、ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54が積層数Nだけ積層された目的とするダイヤモンド被膜52が形成されるとともに、ステップR4の判断がYESとなり、前記ダイヤモンド被覆電極50を製造するための一連のダイヤモンド被膜成膜処理が終了する。ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理、ステップR3のグラファイト積層処理、およびステップR4の判断処理は、例えばコンピュータを用いた制御装置によりマイクロ波プラズマCVD装置30の作動を制御して自動的に行なわれるようにすることができる。
【0054】
本実施例では、ダイヤモンドの種結晶を生成するステップR2−1の種結晶生成処理、およびその種結晶を結晶成長させるステップR2−2の結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜22を形成するステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、そのダイヤモンド多層膜22の上に膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ膜厚Tdより小さいグラファイト層54を形成するステップR3のグラファイト積層工程とを有し、それ等のステップR2およびステップR3R3を繰り返し行い、少なくともダイヤモンド多層膜22を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜52を電極基材12の表面14上に形成する。すなわち、前記実施例1のダイヤモンド被膜20に比較して、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22を3回以上形成する際に、一々ステップR1で核付け処理を炉外で行う代わりに、所定膜厚Tgのグラファイト層54を設けるようにした点が相違する。
【0055】
したがって、超微結晶のダイヤモンド多層膜22が3回以上設けられる点は実施例1と同じであり、ピンホールそのものが小さくなるとともに、ダイヤモンド被膜52の最表面がこのダイヤモンド多層膜22の場合は、表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、本実施例のように最表面がグラファイト層54の場合は、グラファイト層54は非結晶であるためピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止される。
【0056】
また、各ダイヤモンド多層膜22の間に非結晶のグラファイト層54が設けられているため、本発明者等の実験によれば、単にステップR2の多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理(ステップR2−1)および結晶成長処理(ステップR2−2)を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対して一層優れた耐久性が得られるようになった。この理由は、グラファイト層54は非結晶であるため、ピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止されるとともに、密着性が向上して被膜強度が高くなるためと考えられる。グラファイト層54の膜厚Tgはダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さいため、グラファイト層54を設けたことに起因するダイヤモンド被膜52の脆弱化を抑制しつつ、被膜強度を向上させて剥離を適切に防止することができる。
【0057】
また、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で形成されるダイヤモンド多層膜22自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、実施例1と同様に単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0058】
更に、この実施例2では、ダイヤモンド多層膜22を3回以上設ける際に、所定膜厚Tgのグラファイト層を設けるようにしたため、必ずしも一々ステップR1の核付け処理を炉外で行う必要がなく、本実施例では繰り返し行なわれるステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびステップR3のグラファイト積層工程を、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したままCVD法によって連続して行うようにしたため、ダイヤモンド被膜52の成膜、更にはダイヤモンド被覆電極50の製造を容易に行うことができる。
【0059】
また、本実施例では、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で最初にダイヤモンド多層膜22を形成するのに先立ってステップR1の核付け工程が実施され、電極基材12の表面14に核付け処理が行われるため、その核付け処理により電極基材12とダイヤモンド被膜52との間の密着性が高くなり、ダイヤモンド被膜52の剥離が一層効果的に抑制される。
【0060】
因に、前記積層数Nや総膜厚Tt等が異なる6種類の試験品No1〜No6を用意し、所定の水処理を行なってダイヤモンド被膜52の耐久性を調べたところ、図7に示す結果が得られた。電極基材12は超硬合金板で、寸法(mm)は幅×厚さ×高さ=10×1×30である。なお、試験品No4の積層数Nの欄に記載の「3.5」は、ダイヤモンド多層膜22については4回形成したが、グラファイト層54は3回で、最表層がダイヤモンド多層膜22であることを意味する。他の試験品No1〜No3、No5、No6は、何れもダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54が同じ回数だけ積層され、最表層はグラファイト層54である。
【0061】
図7において、試験品No1は積層数N=2の比較品で、早期にダイヤモンド被膜52が剥離して電極寿命となった。試験品No5は、積層数N=2でグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも大きい比較品で、試験品No6は、積層数N=3であるがグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも大きい比較品で、それぞれ7分或いは15分程度でダイヤモンド被膜52が剥離した。これに対し、試験品No2〜No4は、積層数Nが3以上でグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さい本発明品で、何れも240時間使用してもダイヤモンド被膜52が剥離することは無く、優れた耐久性が得られた。
【実施例3】
【0062】
図8は、前記図5のダイヤモンド被膜52を前記図6とは異なる成膜方法で形成する場合で、ステップQ1〜Q3はそれぞれ前記ステップR2〜R4と同じであり、ステップR1の核付け工程を備えていない点が相違する。すなわち、核付け処理を行うことなく、最初からマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12をセットし、ステップQ1の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理およびステップQ2のグラファイト積層処理を積層数Nと同じ回数だけ連続して繰り返し行うことによりダイヤモンド被膜52を成膜する場合で、ダイヤモンド被膜52を完全にマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内で成膜することができる。この図8の成膜手順は、第2発明の実施例である。
【実施例4】
【0063】
図9は、前記図6の実施例2に比較して、ステップR4の判断がNO(否定)の場合に、ステップR1に戻って核付け処理を炉外で行い、その後にマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内でステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理およびステップR3のグラファイト積層処理を行う。すなわち、基材表面14だけでなくグラファイト層54の表面にもそれぞれ核付け処理が行われて表面に微小凹凸が設けられ、その上にダイヤモンド多層膜22が形成されるため、一層優れた密着性が得られて被膜強度が更に向上し、ダイヤモンド被膜52の耐久性が一層向上する。この図9の成膜手順は、第1発明および第2発明の実施例である。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10、50:ダイヤモンド被覆電極 12:電極基材 14:表面 20、52:ダイヤモンド被膜 22a・・・22n:ダイヤモンド多層膜 24a・・・24m:ダイヤモンド層 30:マイクロ波プラズマCVD装置(CVD装置) 32:反応炉 54:グラファイト層 C:ダイヤモンド結晶粒子 Tt:総膜厚 Tc:ダイヤモンド層の膜厚 Td:ダイヤモンド多層膜の膜厚 Tg:グラファイト層の膜厚
ステップS1、R1:核付け工程
ステップS2、R2、Q1:超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程
ステップS2−1、R2−1、Q1−1:種結晶生成処理
ステップS2−2、R2−2:Q1−2:結晶成長処理
ステップR3、Q2:グラファイト積層工程
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド被覆電極に係り、特に、ピンホールによる流体の浸入が少ない耐久性に優れたダイヤモンド被覆電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極が、例えば産業廃液などを浄化したり所定の電解反応を行なわせたりする水処理用電極等として提案されている。しかしながら、通常のダイヤモンド被膜の結晶粒子は一般に粒径(粒子の最大直径)が2μm以上と大きいため、例えば図10に示すようにダイヤモンド被膜102を構成している多数のダイヤモンド結晶粒子104の間に比較的大きな隙間が生じ、その隙間がピンホール(穴状欠陥)となって電解液等が矢印(→)で示すように電極基材100の表面付近まで浸入し、ダイヤモンド被膜102が基材表面から剥離し易いという問題があった。
【0003】
一方、ダイヤモンド被膜の成膜条件(ガス圧やガス濃度など)を調整することにより粒径が1μm未満の微結晶ダイヤモンドから成る単層構造のダイヤモンド被膜を形成したり、種結晶生成処理と結晶成長処理とを繰り返すことにより微結晶で多層構造のダイヤモンド被膜を形成したりする技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。このような微結晶ダイヤモンドの技術をダイヤモンド被覆電極に適用すれば、微結晶化によりピンホールそのものが小さくなるだけでなく、表面の撥水効果により電解液等の流体の浸入が抑制されるため、被膜剥離に対する耐久性向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単層構造のダイヤモンド被膜の場合、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素が混入することが避けられず、脆くなるなどして耐久性が損なわれることがある一方、多層構造のダイヤモンド被膜の場合は十分な密着性が得られず、依然として剥離が生じ易いなど、何れの場合も未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ピンホールによる流体の浸入が少ない耐久性に優れたダイヤモンド被覆電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、(a) 結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程と、(b) ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理とその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、その結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を、前記核付け処理が行われた表面上に形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを有し、且つ、(c) 前記核付け工程および前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成することを特徴とする。
【0008】
上記核付け処理は、超音波装置内にダイヤモンド粒子およびアルコール液を入れ、その中に電極基材を挿入して基材表面、或いは基材表面上に設けられたダイヤモンド多層膜等の表面に微小凹凸を設ける表面荒し処理で、その上に設けられるダイヤモンド多層膜の密着性が向上する。
【0009】
第2発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、(a) ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理とその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、その結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、(b) 前記ダイヤモンド多層膜の上に、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程とを有し、且つ、(c) 前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくとも前記ダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成することを特徴とする。
【0010】
第3発明は、第2発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法において、(a) 結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程を有し、(b) 前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初に前記ダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って前記核付け工程で前記核付け処理を行うことを特徴とする。
【0011】
第4発明は、第2発明または第3発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法において、繰り返し行なわれる前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程は、前記電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極であって、(a) 1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、(b) 膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層とを有し、且つ、(c) 前記ダイヤモンド多層膜および前記グラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくともそのダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が前記電極基材の表面上に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法においては、結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行う核付け工程と、ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを、交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を形成する。その場合に、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下であるため、そのダイヤモンド層を構成しているダイヤモンド結晶粒子も粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶となり、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。
【0014】
また、結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行う核付け工程を繰り返して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜を3回以上形成するようにしたため、電極基材とダイヤモンド多層膜との間、およびダイヤモンド多層膜相互の間の密着性が向上し、単に多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、ピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。
【0015】
また、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程では、種結晶生成処理および結晶成長処理を交互に繰り返すことによって超微結晶のダイヤモンド多層膜を形成するため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較してグラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制され、この点でも被膜強度が向上して被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0016】
第2発明のダイヤモンド被覆電極の製造方法は、ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、そのダイヤモンド多層膜の上に膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程とを有し、それ等の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくともダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を電極基材の表面上に形成する。すなわち、超微結晶のダイヤモンド多層膜が3回以上設けられる点は第1発明と同じであり、ピンホールそのものが小さくなるとともに、ダイヤモンド被膜の最表面がこのダイヤモンド多層膜の場合は、表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、ダイヤモンド被膜の最表面がグラファイト層の場合は、グラファイト層は非結晶であるためピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止される。
【0017】
また、本発明では各ダイヤモンド多層膜の間に非結晶のグラファイト層が設けられているため、本発明者等の実験によれば、単に多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対して一層優れた耐久性が得られるようになった。この理由は、グラファイト層は非結晶であるため、ピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止されるとともに、密着性が向上して被膜強度が高くなるためと考えられる。グラファイト層の膜厚Tgはダイヤモンド多層膜の膜厚Tdよりも小さいため、グラファイト層を設けたことに起因するダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制しつつ、被膜強度を向上させて剥離を防止することができる。
【0018】
また、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で形成されるダイヤモンド多層膜自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、第1発明と同様に単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0019】
更に、この第2発明では、ダイヤモンド多層膜を3回以上設ける際に、所定膜厚Tgのグラファイト層を設けるようにしたため、必ずしも一々核付け処理を行う必要がなく、例えば第4発明のように繰り返し行なわれる超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を、CVD装置の反応炉内に電極基材を保持したままCVD法によって行うことが可能となり、ダイヤモンド被覆電極の製造を容易に行うことができる。
【0020】
第3発明では、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初にダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って核付け工程で核付け処理を行うため、その核付け処理により電極基材とダイヤモンド被膜との密着性が高くなり、ダイヤモンド被膜の剥離が一層効果的に抑制される。
【0021】
第5発明は、1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層とを有し、且つ、それ等のダイヤモンド多層膜およびグラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくともそのダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が電極基材の表面上に設けられているダイヤモンド被覆電極で、前記第1発明或いは第2発明の製造方法を用いて製造することができる。このようなダイヤモンド被覆電極においては、超微結晶のダイヤモンド多層膜が3回以上設けられるため、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、各ダイヤモンド多層膜の間に所定の膜厚Tgのグラファイト層が設けられているため、第2発明と同様にダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制しつつ被膜強度を向上させて剥離を適切に防止することができる。更に、超微結晶のダイヤモンド多層膜自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1発明の製造方法に従って製造されたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、(a) はダイヤモンド被膜が設けられた表層部分の拡大断面図、(b) はダイヤモンド被膜の中の一つのダイヤモンド多層膜を更に拡大してダイヤモンド結晶粒子Cの並び方を概念的に示したイメージ図である。
【図2】ダイヤモンド被膜をコーティングする際に好適に用いられるマイクロ波プラズマCVD装置の一例を説明する概略構成図である。
【図3】図2の装置を用いて第1発明に従って図1のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順を説明するフローチャートである。
【図4】図3の成膜手順に従って製造された本発明品を含む複数の試験品について耐久性を調べた結果を説明する図である。
【図5】ダイヤモンド多層膜とグラファイト層とが交互に設けられたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、ダイヤモンド被膜が設けられた表層部分の拡大断面図であり、図1の(a) に対応する図である。
【図6】図2の装置を用いて第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の一例を説明するフローチャートである。
【図7】図6の成膜手順に従って製造された本発明品を含む複数の試験品について耐久性を調べた結果を説明する図である。
【図8】第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の別の例を説明するフローチャートである。
【図9】第1発明、第2発明に従って図5のダイヤモンド被膜をコーティングする際の手順の一例を説明するフローチャートである。
【図10】従来の通常のダイヤモンド結晶粒子(粗結晶)で構成されたダイヤモンド被膜において、粒子間に生じるピンホールから所定の流体が電極基材の表面付近まで浸入する際の経路を説明するイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、産業廃液などを浄化したり所定の電解反応を行なわせたりする水処理用のダイヤモンド被覆電極に好適に適用されるが、他の分野で用いられるダイヤモンド被覆電極にも同様に適用され得る。電極基材としては、銅や超硬合金、チタン等の金属が好適に用いられるが、グラファイト等の他の導電性材料を採用することもできる。電極基材の形状は、板状や棒状など適宜定められる。ダイヤモンドは本来電気的に絶縁体であるが、ダイヤモンドを結晶成長させる際に、例えばボロン(硼素;B)等の不純物をドーピングすることによって所定の導電性を持たせることができる。ドーピング量は不純物の種類によって適宜定められるが、例えばボロンの場合、0.05〜5原子%の範囲内が適当で、0.5〜1原子%の範囲内が望ましい。
【0024】
核付け処理を行う際に用いるダイヤモンドは、結晶粒径が30nm以下であれば良いが、20nm以下が望ましく、例えば5〜20nm程度の人工単結晶の市販品が好適に用いられる。
【0025】
種結晶生成処理および結晶成長処理を行う超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程の実施には、CVD(化学気相成長)法が好適に用いられ、特にマイクロ波プラズマCVD法が望ましいが、ホットフィラメントCVD法や高周波プラズマCVD法等の他のCVD法を用いることもできる。第2発明のグラファイト積層工程の実施に際しても、上記CVD法を用いてグラファイト層を形成することが可能で、第4発明のようにCVD装置の反応炉内に電極基材を保持したまま、供給する反応ガスを切り換えるなどして超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を連続して行うことができる。
【0026】
ダイヤモンド多層膜の1層のダイヤモンド層の膜厚Tcは200nm以下であれば良いが、100nm以下が望ましく、50nm以下が一層望ましい。膜厚Tcは一定であっても良いが、200nm以下の範囲で連続的に変化させたり段階的に変化させたりすることもできる。
【0027】
電極基材の表面に直接ダイヤモンド多層膜を形成するようにしても良いが、密着性を高めるためなど必要に応じて他の下地層を設け、その上にダイヤモンド多層膜を形成するようにしても良い。第1発明では、3回以上形成されるダイヤモンド多層膜は、互いに接するように直接重ねて積層しても良いが、それ等のダイヤモンド多層膜の間に、第2発明のようにグラファイト層を設けたり、その他の中間層を設けたりすることも可能である。ダイヤモンド多層膜の間に所定の膜厚Tgのグラファイト層を設ける場合、得られたダイヤモンド被覆電極は第5発明の一実施例である。ダイヤモンド多層膜の上にグラファイト層等の中間層が設けられる場合、中間層の表面に対して核付け処理を行い、その核付け処理が行われた表面上にダイヤモンド多層膜を形成すれば良い。
【0028】
第2発明では、少なくともダイヤモンド多層膜が3回以上形成されるようにすれば良く、ダイヤモンド被膜の最上層はダイヤモンド多層膜であっても良いしグラファイト層であっても良い。ダイヤモンド被覆電極の使用分野や要求性能等に応じて適宜選択できる。第5発明のダイヤモンド被覆電極についても同様である。第1発明の実施に際しても、必要に応じて最上層にグラファイト層等を設けることが可能である。
【0029】
グラファイト層は、その存在によるダイヤモンド被膜の脆弱化を抑制する上で、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つダイヤモンド多層膜の膜厚Tdよりも小さくされるが、膜厚Tgは0.5μm以下が望ましく、或いはダイヤモンド多層膜の膜厚Tdの1/2以下とすることが望ましい。
【0030】
第3発明では、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初にダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って核付け工程で核付け処理を行うが、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程でダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って常に核付け工程で核付け処理を行うこともできる。第2発明の実施に際しては、このような核付け処理は必ずしも必要なく、超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程のみを繰り返し行ってダイヤモンド被膜を形成しても良い。
【0031】
第4発明では、繰り返し行なわれる超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程が、電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれるが、第2発明の実施に際しては、CVD装置の反応炉内に電極基材を保持して超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を行い、1積層周期分のダイヤモンド多層膜およびグラファイト層を形成した後、電極基材を一旦反応炉から外へ取り出し、例えば前記核付け処理等を行った後に再び反応炉内にセットして、次の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびグラファイト積層工程を行うようにしても良い。
【0032】
第5発明のダイヤモンド被覆電極は、第1発明或いは第2発明の製造方法を用いて好適に製造されるが、必ずしもそれ等の製造方法に限定されるものではなく、他の製造方法で製造しても差し支えない。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明方法(第1発明)に従って製造されたダイヤモンド被覆電極の一例を説明する図で、(a) はダイヤモンド被膜20が設けられた表層部分の拡大断面図、(b) はダイヤモンド被膜20の中の一つのダイヤモンド多層膜22aを更に拡大してダイヤモンド結晶粒子Cの並び方を概念的に示したイメージ図である。このダイヤモンド被覆電極10は、電極基材12の表面14上に図2のマイクロ波プラズマCVD装置30を用いて図3のフローチャートに従ってダイヤモンド被膜20をコーティングしたもので、電極基材12は超硬合金、銅等の金属板材にて構成されている。
【0034】
上記ダイヤモンド被膜20は、多数のダイヤモンド多層膜22a、22b、・・・22n(以下、特に区別しない場合は単にダイヤモンド多層膜22という)にて構成されており、それ等のダイヤモンド多層膜22の各膜厚Tdは400nm〜3μmの範囲内の略一定の大きさであり、総膜厚Ttは1.2μm〜30μmの範囲内である。このダイヤモンド多層膜22の数すなわち積層数Nは3以上で、且つ、目的とする総膜厚Ttとなるように膜厚Tdに応じて適宜定められる。また、それ等のダイヤモンド多層膜22は、それぞれ図1(b) に示すように多数のダイヤモンド層24a、24b、・・・24m(以下、特に区別しない場合は単にダイヤモンド層24という)を連続的に積層したもので、それ等のダイヤモンド層24の各膜厚Tcは略同じで30〜40nmの範囲内(例えば目標値35nm)であり、ダイヤモンド結晶粒子Cの粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶の多層構造を成している。
【0035】
図2のマイクロ波プラズマCVD装置30は、反応炉32、マイクロ波発生装置34、原料ガス供給装置36、真空ポンプ38、および電磁コイル40を備えて構成されている。円筒状の反応炉32内にはテーブル42が設けられ、ダイヤモンド被膜20をコーティングすべき複数の電極基材12が所定の姿勢でセット(配置)される。マイクロ波発生装置34は、例えば2.45GHz等のマイクロ波を発生する装置で、このマイクロ波が反応炉32内へ導入されることにより電極基材12が加熱されるとともに、マイクロ波発生装置34の電力制御によって加熱温度が調節される。
【0036】
原料ガス供給装置36は、メタン(CH4 )や水素(H2 )、一酸化炭素(CO)などの原料ガスを反応炉32内に供給するためのもので、それ等のガスボンベや流量を制御する流量制御弁、流量計などを備えて構成されているが、本実施例ではボロンをドーピングするために、例えば酸化ボロンをメタノールに溶かした液体を原料ガスに混ぜて反応炉32内に供給できるようになっている。真空ポンプ38は、反応炉32内の気体を吸引して減圧するためのもので、圧力計46によって検出される反応炉32内の圧力値が予め定められた所定の圧力値になるように、真空ポンプ38のモータ電流などがフィードバック制御される。電磁コイル40は、反応炉32内を取り巻くように反応炉32の外周側に円環状に配設されている。
【0037】
このようなマイクロ波プラズマCVD装置30を用いたダイヤモンド被膜20のコーティング処理は、図3のフローチャートに示す手順に従って行なわれる。図3のステップS1では、電極基材12を反応炉32内に配置するのに先立って、結晶粒径が5〜20nmのダイヤモンドの人工単結晶を用いて核付け処理を行う。この核付け処理は、超音波装置内にダイヤモンド粒子およびアルコール液を入れ、その中に電極基材12を挿入してその表面に微小凹凸を設ける表面荒し処理で、最初は基材表面14に核付け処理が行われるが、ステップS3の判断がNO(否定)の場合に行う2回目以降の核付け処理は、電極基材12の表面14上に設けられたダイヤモンド多層膜22に対して行われる。このステップS1は核付け工程で、例えば超音波装置を用いて作業者の手作業で行うことができる。結晶粒径が5〜20nmのダイヤモンドの人工単結晶は、例えば市販品を購入すれば良い。
【0038】
その後、電極基材12を反応炉32内にセットし、マイクロ波プラズマCVD法によりステップS2で超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を行う。この超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理は、前記ダイヤモンド多層膜22を形成するためのもので、ステップS2−1の種結晶生成処理およびステップS2−2の結晶成長処理を交互に繰り返すことによって行なわれる。
【0039】
ステップS2−1の種結晶生成処理は、ダイヤモンドの結晶成長を抑制して種結晶を生成するためのものである。具体的には、メタンの濃度が10%〜30%の範囲内で定められた設定値となるようにメタンおよび水素の流量調節を行うとともに、電極基材12の表面温度が700℃〜900℃の範囲内で定められた設定温度になるようにマイクロ波発生装置34を調節し、反応炉32内のガス圧が2.7×102 Pa〜2.7×103 Paの範囲内で定められた設定圧になるように真空ポンプ38を作動させ、その状態を0.1時間〜2時間継続する。これにより、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる多数の種結晶が生成され、前記核付け処理が行われた電極基材12の表面14上に付着させられる。また、ステップS2−3に続いて行う2回目以降の種結晶生成処理では、ステップS2−2の結晶成長処理で結晶成長させられた多数のダイヤモンド結晶粒子Cから成るダイヤモンド層24の表面上に、新たに生成された種結晶が層状に付着させられる。
【0040】
ステップS2−2の結晶成長処理では、上記ステップS2−1の種結晶生成処理で付着された種結晶を結晶成長させる。具体的には、メタンの濃度が1%〜4%の範囲内で定められた設定値になるようにメタンおよび水素の流量調節を行うとともに、電極基材12の表面温度が800℃〜900℃の範囲内で定められた設定温度になるようにマイクロ波発生装置34を調節し、反応炉32内のガス圧が1.3×103 Pa〜6.7×103 Paの範囲内で定められた設定圧になるように真空ポンプ38を作動させ、その状態を、ダイヤモンド層24の膜厚がTcとなるように予め定められた所定時間、具体的にはダイヤモンド結晶粒子Cの結晶長さ(結晶成長方向の長さ寸法)が膜厚Tcになる予め求められた処理時間だけ継続する。
【0041】
ステップS2−2に続いてステップS2−3を実行し、ダイヤモンド多層膜22が予め定められた目的とする膜厚Tdに達したか否かを判断する。具体的には、ステップS2−1の種結晶生成処理およびステップS2−2の結晶成長処理の処理回数が、膜厚Tdと前記ダイヤモンド層24の膜厚Tcとに応じて定められた設定回数(Td/Tc)に達したか否かを判断する。そして、その設定回数に達するまではステップS2−1およびS2−2を繰り返し実行し、設定回数に達したらステップS3を実行する。
【0042】
上記ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理に際しては、水素等の原料ガスを供給する際に、前記酸化ボロンをメタノールに溶かした液体をその原料ガスに混ぜて反応炉32内に所定の流量で供給することにより、そのダイヤモンド層24、更にはダイヤモンド多層膜22にボロンをドーピングする。ボロンのドーピング量(含有量)は、酸化ボロンを溶かした液体の供給流量を変更することによって調節でき、所定の導電性が得られるように例えば0.5〜1原子%の割合でボロンがドーピングされるように設定される。
【0043】
このステップS2は超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程であり、ダイヤモンド多層膜22が目的とする膜厚Tdに達してステップS2−3の判断がYES(肯定)になると、ステップS3を実行する。ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理は、例えばコンピュータを用いた制御装置によりマイクロ波プラズマCVD装置30の作動を制御して自動的に行なわれるようにすることができる。
【0044】
ステップS3では、ダイヤモンド多層膜22が予め定められた目的とする積層数Nに達したか否か、すなわちステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理の実行回数が積層数Nと同じ回数になったか否かを判断し、積層数Nと同じ回数になるまでステップS1およびS2を繰り返す。ステップS1およびS2が積層数Nと同じ回数だけ繰り返し実行されると、ダイヤモンド多層膜22が積層数Nだけ積層された目的とするダイヤモンド被膜20が形成されるとともに、ステップS3の判断がYESとなり、前記ダイヤモンド被覆電極10を製造するための一連のダイヤモンド被膜成膜処理が終了する。
【0045】
このように本実施例では、結晶粒径が5〜20nmの単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行うステップS1の核付け工程と、種結晶を生成する種結晶生成処理(ステップS2−1)およびその種結晶を結晶成長させる結晶成長処理(ステップS2−2)を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜22を形成するステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程とを、交互に積層数N(≧3)と同じ回数だけ繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内の目的とするダイヤモンド被膜20を形成する。その場合に、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmであるため、そのダイヤモンド層24を構成しているダイヤモンド結晶粒子Cも粒径が膜厚Tcと略等しい超微結晶となり、ピンホールそのものが小さくなるとともに表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。
【0046】
また、5〜20nmの結晶粒径の単結晶のダイヤモンドを用いて核付け処理を行うステップS1の核付け工程を繰り返して、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理を実施し、所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22を3回以上形成するようにしたため、電極基材12とダイヤモンド多層膜22との間、およびダイヤモンド多層膜22相互の間の密着性が向上し、単にステップS2の多結晶ダイヤモンド多層コーティング処理で種結晶生成処理および結晶成長処理を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して被膜強度が高くなり、上記のようにピンホールによる流体の浸入が抑制されることと相まって剥離に対して優れた耐久性が得られるようになる。
【0047】
また、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理では、種結晶生成処理(ステップS2−1)および結晶成長処理(ステップS2−2)を交互に繰り返すことによって超微結晶のダイヤモンド多層膜22を形成するため、単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較してグラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制され、この点でも被膜強度が向上して被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0048】
因に、前記積層数Nや総膜厚Ttが異なる5種類の試験品No1〜No5を用意し、所定の水処理を行なってダイヤモンド被膜20の剥離に対する耐久性を調べたところ、図4に示す結果が得られた。電極基材12は超硬合金板で、寸法(mm)は幅×厚さ×高さ=10×1×30である。
【0049】
図4において、試験品No1およびNo2は積層数N=1、2の比較品で、総膜厚Ttはある程度厚いが、何れも早期にダイヤモンド被膜20が剥離して電極寿命となった。これに対し、積層数Nが3以上の試験品No3〜No5は本発明品で、何れも240時間使用してもダイヤモンド被膜20が剥離することは無かった。このことから、所定の結晶粒径のダイヤモンドを用いて核付け処理するステップS1の核付け工程を繰り返して、ステップS2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を実施し、ダイヤモンド多層膜22を所定の積層数N(≧3)だけ形成することが、そのダイヤモンド多層膜22の密着性を向上させて被膜強度を高くし、単に種結晶生成処理(ステップS2−1)および結晶成長処理(ステップS2−2)を繰り返すだけで所定の総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対する耐久性を向上させることに大きく寄与していることが分かる。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例1と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0051】
図5のダイヤモンド被覆電極50は、前記図1のダイヤモンド被覆電極10に比較して、前記多数のダイヤモンド多層膜22の上にそれぞれグラファイト層54a、54b、・・・54n(以下、特に区別しない場合は単にグラファイト層54という)が設けられている。各グラファイト層54の膜厚Tgは略同じで10nm〜1μmの範囲内であり、且つ前記ダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さい。ダイヤモンド多層膜22は、前記実施例1と同様に構成されており、前記図1(b) に示すように多数のダイヤモンド層24の膜厚Tcが30〜40nmの超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdは400nm〜3μmの範囲内である。また、グラファイト層54を含むダイヤモンド被膜52の総膜厚Ttは、同じく前記実施例1と同様に1.2μm〜30μmの範囲内とされている。本実施例では ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54を1積層周期として積層数N(≧3)だけ積層されているが、最上層のグラファイト層54nを省略することも可能である。このダイヤモンド被覆電極50は第5発明の一実施例である。
【0052】
そして、このようなダイヤモンド被覆電極50は、前記図2のマイクロ波プラズマCVD装置30を用いて例えば図6のフローチャートに示す手順に従ってダイヤモンド被膜52を形成することによって製造される。図6のステップR1、R2、R4はそれぞれ前記図3のステップS1、S2、S3と同じで、ステップR2の中のステップR2−1〜R2−3も前記ステップS2−1〜S2−3と同じであるが、ステップR2に続いてステップR3のグラファイト積層処理を実行するとともに、ステップR4に続いてステップR2以下を実行する点が相違する。ステップR3はグラファイト積層工程で、図6のフローチャートに従う製造手順は第2発明の一実施例である。
【0053】
ステップR3のグラファイト積層処理は、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したまま、ステップR2の微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理に連続して行なわれる。具体的には、水素ガスの供給を停止し、メタンガスのみを供給することにより、ダイヤモンド結晶粒子Cの結晶成長を停止して、非結晶のグラファイト層54を形成する。また、処理時間は、グラファイト層54の膜厚Tgに応じて予め定められる。次のステップR4では、ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54を1積層周期とする積層回数が予め定められた積層数N(≧3)と同じ回数に達したか否かを判断し、積層数Nと同じ回数になるまでステップR2およびR3を繰り返す。本実施例では、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したまま、ステップR2およびR3が積層数Nと同じ回数だけ連続して繰り返し行われる。これにより、ダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54が積層数Nだけ積層された目的とするダイヤモンド被膜52が形成されるとともに、ステップR4の判断がYESとなり、前記ダイヤモンド被覆電極50を製造するための一連のダイヤモンド被膜成膜処理が終了する。ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理、ステップR3のグラファイト積層処理、およびステップR4の判断処理は、例えばコンピュータを用いた制御装置によりマイクロ波プラズマCVD装置30の作動を制御して自動的に行なわれるようにすることができる。
【0054】
本実施例では、ダイヤモンドの種結晶を生成するステップR2−1の種結晶生成処理、およびその種結晶を結晶成長させるステップR2−2の結晶成長処理を交互に繰り返すことにより、1層のダイヤモンド層24の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜22を形成するステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、そのダイヤモンド多層膜22の上に膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ膜厚Tdより小さいグラファイト層54を形成するステップR3のグラファイト積層工程とを有し、それ等のステップR2およびステップR3R3を繰り返し行い、少なくともダイヤモンド多層膜22を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜52を電極基材12の表面14上に形成する。すなわち、前記実施例1のダイヤモンド被膜20に比較して、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で所定膜厚Tdのダイヤモンド多層膜22を3回以上形成する際に、一々ステップR1で核付け処理を炉外で行う代わりに、所定膜厚Tgのグラファイト層54を設けるようにした点が相違する。
【0055】
したがって、超微結晶のダイヤモンド多層膜22が3回以上設けられる点は実施例1と同じであり、ピンホールそのものが小さくなるとともに、ダイヤモンド被膜52の最表面がこのダイヤモンド多層膜22の場合は、表面の撥水効果が高くなることにより電解液等の流体の浸入が抑制される。また、本実施例のように最表面がグラファイト層54の場合は、グラファイト層54は非結晶であるためピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止される。
【0056】
また、各ダイヤモンド多層膜22の間に非結晶のグラファイト層54が設けられているため、本発明者等の実験によれば、単にステップR2の多結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で種結晶生成処理(ステップR2−1)および結晶成長処理(ステップR2−2)を繰り返すだけで目的とする総膜厚Ttとする場合に比較して、剥離に対して一層優れた耐久性が得られるようになった。この理由は、グラファイト層54は非結晶であるため、ピンホールが少なくて電解液等の流体の浸入が一層確実に防止されるとともに、密着性が向上して被膜強度が高くなるためと考えられる。グラファイト層54の膜厚Tgはダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さいため、グラファイト層54を設けたことに起因するダイヤモンド被膜52の脆弱化を抑制しつつ、被膜強度を向上させて剥離を適切に防止することができる。
【0057】
また、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で形成されるダイヤモンド多層膜22自体には、グラファイト等の非ダイヤモンド炭素の混入が抑制されるため、実施例1と同様に単層構造の微結晶ダイヤモンド被膜に比較して優れた被膜強度が得られるようになり、被膜剥離等に対して一層優れた耐久性が得られるようになる。
【0058】
更に、この実施例2では、ダイヤモンド多層膜22を3回以上設ける際に、所定膜厚Tgのグラファイト層を設けるようにしたため、必ずしも一々ステップR1の核付け処理を炉外で行う必要がなく、本実施例では繰り返し行なわれるステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程およびステップR3のグラファイト積層工程を、マイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12を保持したままCVD法によって連続して行うようにしたため、ダイヤモンド被膜52の成膜、更にはダイヤモンド被覆電極50の製造を容易に行うことができる。
【0059】
また、本実施例では、ステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で最初にダイヤモンド多層膜22を形成するのに先立ってステップR1の核付け工程が実施され、電極基材12の表面14に核付け処理が行われるため、その核付け処理により電極基材12とダイヤモンド被膜52との間の密着性が高くなり、ダイヤモンド被膜52の剥離が一層効果的に抑制される。
【0060】
因に、前記積層数Nや総膜厚Tt等が異なる6種類の試験品No1〜No6を用意し、所定の水処理を行なってダイヤモンド被膜52の耐久性を調べたところ、図7に示す結果が得られた。電極基材12は超硬合金板で、寸法(mm)は幅×厚さ×高さ=10×1×30である。なお、試験品No4の積層数Nの欄に記載の「3.5」は、ダイヤモンド多層膜22については4回形成したが、グラファイト層54は3回で、最表層がダイヤモンド多層膜22であることを意味する。他の試験品No1〜No3、No5、No6は、何れもダイヤモンド多層膜22およびグラファイト層54が同じ回数だけ積層され、最表層はグラファイト層54である。
【0061】
図7において、試験品No1は積層数N=2の比較品で、早期にダイヤモンド被膜52が剥離して電極寿命となった。試験品No5は、積層数N=2でグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも大きい比較品で、試験品No6は、積層数N=3であるがグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも大きい比較品で、それぞれ7分或いは15分程度でダイヤモンド被膜52が剥離した。これに対し、試験品No2〜No4は、積層数Nが3以上でグラファイト層54の膜厚Tgがダイヤモンド多層膜22の膜厚Tdよりも小さい本発明品で、何れも240時間使用してもダイヤモンド被膜52が剥離することは無く、優れた耐久性が得られた。
【実施例3】
【0062】
図8は、前記図5のダイヤモンド被膜52を前記図6とは異なる成膜方法で形成する場合で、ステップQ1〜Q3はそれぞれ前記ステップR2〜R4と同じであり、ステップR1の核付け工程を備えていない点が相違する。すなわち、核付け処理を行うことなく、最初からマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内に電極基材12をセットし、ステップQ1の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理およびステップQ2のグラファイト積層処理を積層数Nと同じ回数だけ連続して繰り返し行うことによりダイヤモンド被膜52を成膜する場合で、ダイヤモンド被膜52を完全にマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内で成膜することができる。この図8の成膜手順は、第2発明の実施例である。
【実施例4】
【0063】
図9は、前記図6の実施例2に比較して、ステップR4の判断がNO(否定)の場合に、ステップR1に戻って核付け処理を炉外で行い、その後にマイクロ波プラズマCVD装置30の反応炉32内でステップR2の超微結晶ダイヤモンド多層コーティング処理およびステップR3のグラファイト積層処理を行う。すなわち、基材表面14だけでなくグラファイト層54の表面にもそれぞれ核付け処理が行われて表面に微小凹凸が設けられ、その上にダイヤモンド多層膜22が形成されるため、一層優れた密着性が得られて被膜強度が更に向上し、ダイヤモンド被膜52の耐久性が一層向上する。この図9の成膜手順は、第1発明および第2発明の実施例である。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10、50:ダイヤモンド被覆電極 12:電極基材 14:表面 20、52:ダイヤモンド被膜 22a・・・22n:ダイヤモンド多層膜 24a・・・24m:ダイヤモンド層 30:マイクロ波プラズマCVD装置(CVD装置) 32:反応炉 54:グラファイト層 C:ダイヤモンド結晶粒子 Tt:総膜厚 Tc:ダイヤモンド層の膜厚 Td:ダイヤモンド多層膜の膜厚 Tg:グラファイト層の膜厚
ステップS1、R1:核付け工程
ステップS2、R2、Q1:超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程
ステップS2−1、R2−1、Q1−1:種結晶生成処理
ステップS2−2、R2−2:Q1−2:結晶成長処理
ステップR3、Q2:グラファイト積層工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、
結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程と、
ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理と該種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、該結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を、前記核付け処理が行われた表面上に形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と
を有し、且つ、前記核付け工程および前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成する
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項2】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、
ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理と該種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、該結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、
前記ダイヤモンド多層膜の上に、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程と
を有し、且つ、前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくとも前記ダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成する
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項3】
結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程を有し、
前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初に前記ダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って前記核付け工程で前記核付け処理を行う
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項4】
繰り返し行なわれる前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程は、前記電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれる
ことを特徴とする請求項2または3に記載のダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項5】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極であって、
1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、
膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層と
を有し、且つ、前記ダイヤモンド多層膜および前記グラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくとも該ダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が前記電極基材の表面上に設けられている
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極。
【請求項1】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、
結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程と、
ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理と該種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、該結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を、前記核付け処理が行われた表面上に形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と
を有し、且つ、前記核付け工程および前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程を交互に3回以上繰り返すことにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成する
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項2】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極の製造方法であって、
ダイヤモンドの種結晶を生成する種結晶生成処理と該種結晶を結晶成長させる結晶成長処理とを交互に繰り返すことにより、該結晶成長処理で設けられる1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜を形成する超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程と、
前記ダイヤモンド多層膜の上に、膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層を形成するグラファイト積層工程と
を有し、且つ、前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程を交互に繰り返し行い、少なくとも前記ダイヤモンド多層膜を3回以上形成することにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜を前記電極基材の表面上に形成する
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項3】
結晶粒径が30nm以下の単結晶のダイヤモンドを用いて表面に核付け処理を行う核付け工程を有し、
前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程で少なくとも最初に前記ダイヤモンド多層膜を形成するのに先立って前記核付け工程で前記核付け処理を行う
ことを特徴とする請求項2に記載のダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項4】
繰り返し行なわれる前記超微結晶ダイヤモンド多層コーティング工程および前記グラファイト積層工程は、前記電極基材をCVD装置の反応炉内に保持したままCVD法によって行なわれる
ことを特徴とする請求項2または3に記載のダイヤモンド被覆電極の製造方法。
【請求項5】
所定の電極基材の表面に導電性を有するダイヤモンド被膜がコーティングされているダイヤモンド被覆電極であって、
1層のダイヤモンド層の膜厚Tcが200nm以下の超微結晶多層構造で、全体の膜厚Tdが400nm〜3μmの範囲内のダイヤモンド多層膜と、
膜厚Tgが10nm〜1μmの範囲内で且つ前記膜厚Tdより小さいグラファイト層と
を有し、且つ、前記ダイヤモンド多層膜および前記グラファイト層が交互に繰り返し積層されて、少なくとも該ダイヤモンド多層膜が3回以上形成されることにより、総膜厚Ttが1.2μm〜30μmの範囲内のダイヤモンド被膜が前記電極基材の表面上に設けられている
ことを特徴とするダイヤモンド被覆電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−80130(P2011−80130A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234858(P2009−234858)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】
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