ダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置
【課題】発電部に高濃度のメタノールを供給するとともに二酸化炭素の排出量を増大させることができるダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置を提供すること。
【解決手段】メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体15のアノード側に供給する燃料供給チャンネル20が形成されたプレート18を備えたダイレクトメタノール型燃料電池1の燃料供給装置において、前記膜・電極接合体15と、前記プレート18との間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜22が挟まれて設けられていることを特徴とする。
【解決手段】メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体15のアノード側に供給する燃料供給チャンネル20が形成されたプレート18を備えたダイレクトメタノール型燃料電池1の燃料供給装置において、前記膜・電極接合体15と、前記プレート18との間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜22が挟まれて設けられていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池に燃料を供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸素との電気化学反応のエネルギを電力に変換する装置である。そのため、燃料電池は、バッテリと異なり、燃料および酸化剤である酸素の供給が継続されている間は、発電を継続することができる。特に、常温で液体のメタノールを燃料として用いるダイレクトメタノール型の燃料電池(以下、DMFCと記す。)は、その動作温度が他の燃料電池に比較して低温であり、また、発電効率が高いことから、今後、小型携帯機器用電源として有望視されている。
【0003】
DMFCは、アノードにおいて下記の(1)式に示したように、触媒を介してメタノールが酸化されてプロトンと電子とを生成し、そのプロトンと電子とが外部回路および電荷質膜を透過してカソードに到達し、そのカソードにおいて下記の(2)式に示したように、触媒を介して酸素の還元反応を生じることにより発電をおこなうように構成されている。
【0004】
アノードにおける触媒反応
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e− …(1)式
【0005】
カソードにおける触媒反応
3/2O2 + 6H+ + 6e− → 3H2O …(2)式
【0006】
ところで、DMFCは、燃料の供給方法によって、液体供給型と蒸気(気体)供給型とに大別することができる。液体供給型のDMFCは、液相のメタノール水溶液を直接、膜・電極接合体に供給するように構成されている。そのため、メタノールのクロスオーバー現象を低減させるために、予め定め低濃度に調整されたメタノール水溶液を供給する必要があり、また、発電量を向上させるためには、ポンプなどを用いて供給量を増大させる必要がある。その結果、低濃度かつ多量のメタノール水溶液を貯留するための燃料タンクおよびポンプなどが必要になり、装置が大型化する虞がある。
【0007】
一方、蒸気供給型のDMFCは、加熱して蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給するように構成されている。そのため、この蒸気供給型のDMFCは、液体供給型のDMFCに比較して、高濃度のメタノールを膜・電極接合体に供給することができる。またこれにより、蒸気供給型のDMFCは、液体供給型に比較して上記の(2)式に示す反応が増大して、その発電量を向上させることができる。しかしながら、蒸気供給型のDMFCは、燃料であるメタノールを蒸気化させるための構成および蒸気化したメタノールを膜・電極接合体に輸送するためのブロアなどの構成が必要であり、結果的にその装置構成が複雑になり、また、装置が大型化する虞がある。
【0008】
したがって、その構成を簡素化することが従来検討されており、その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、膜・電極接合体の燃料極に隣接して設けられた燃料蒸気化層に液相の燃料を毛管力によって供給し、その液相の燃料を蒸気化させて膜・電極接合体の内部に導入するように構成された発明が記載されている。
【0009】
また、特許文献2および3には、選択的にメタノールを透過させる膜を用いてメタノール水溶液を濃縮し、その濃度が高められたメタノールを蒸気化して膜・電極接合体に供給するように構成された発明が記載されている。
【0010】
さらにまた、DMFCの周辺技術として特許文献4には、膜・電極接合体とメタノールを蒸気化させる蒸気化部との間にシャッターを設け、このシャッターの開閉により、膜・電極接合体に供給する蒸気化させたメタノールの供給量を制御するように構成された発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6447941号明細書
【特許文献2】米国特許第7407721号明細書
【特許文献3】米国特許第6630266号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0202291号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献1に記載された発明によれば、蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給できる。しかしながら、特許文献1に記載された構成では、メタノールを蒸気化させる蒸気化層の他に、この蒸気化層に毛管力によって液相のメタノールを供給する構成が必要である。これらの構成は各セルユニットにそれぞれ設ける必要があり、したがって、DMFC全体の構成が複雑になる虞があり、この点で改良の余地があった。
【0013】
また特許文献2および3に記載された発明によれば、選択的透過膜を用いることによって、膜・電極接合体に供給するメタノールの濃度を増大させることができる。しかしながら、特許文献2および3に記載された構成では、選択的透過膜によってメタノールを濃縮し、その後、蒸気化させて膜・電極接合体に供給するので、その構成が複雑になる虞があり、この点で改良の余地があった。
【0014】
さらにまた特許文献4に記載された発明によれば、シャッターの開閉を制御することにより、膜・電極接合体に供給するメタノールの供給量を制御できる。しかしながら、特許文献4に記載された構成では、DMFC全体の大型化を招く虞があり、この点で改良の余地があった。
【0015】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、装置を大型化させずに、蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給し、発電量を増大させることができるダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体のアノード側に供給する燃料供給チャンネルが形成されたプレートを備えたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、前記膜・電極接合体と、前記プレートとの間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜が挟まれて設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子により形成された合成高分子膜を含むことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【0018】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記合成高分子は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンを含むことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、膜・電極接合体と燃料供給チャンネルが形成されたプレートとによって気液分離膜が挟まれて設けられている。そのため、燃料供給チャンネルを流動する液相のメタノールが膜・電極接合体の熱で蒸気化されると、もしくは、気液分離膜の表面で液相のメタノールが蒸気化されると、その蒸気化されたメタノールのみが、気液分離膜を透過して膜・電極接合体に供給される。すなわち、濃縮されたメタノール蒸気が膜・電極接合体に供給されることになるので、発電量を増大(向上)させることができる。また、膜・電極接合体におけるメタノールの酸化反応で生成した二酸化炭素は、気液分離膜を透過して燃料供給チャンネルに排出される。すなわち、膜・電極接合体のアノード側に気液分離膜を接触して設けることにより、二酸化炭素の排出を容易にでき、発電量を増大(向上)させることができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子によって形成されているから、気液分離膜を多層構造にするなどの設計の自由度を向上できる。また、コスト低減を図ることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、気液分離膜は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンであるから、耐薬品性、耐腐食性を備えた膜とすることができる。また、気液分離膜を延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンによって形成した場合には、その開孔径、膜厚、多層構造とするなど気液分離膜の設計の自由度(あるいは制御性)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る装置を適用した発電部の断面図を模式的に示す図である。
【図2】この発明に係る装置を適用したDMFCの構成例を模式的に示す図である。
【図3】気液分離膜の構成例を模式的に示す図である。
【図4】気液分離膜の他の構成例を模式的に示す図である。
【図5】メタノールと水との蒸気圧曲線を模式的に示す図である。
【図6】図1のように構成された発電部の作用を説明するための模式図である。
【図7】三方向バルブの切り替えパターンを模式的に示す図である。
【図8】図1に示したように構成したDMFCの実験機に、100wt%メタノール溶液を供給した場合の発電特性を模式的に示す図である。
【図9】図1に示したように構成したDMFCの実験機に、70wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電特性を模式的に示す図である。
【図10】従来構成のDMFCを模式的に示す図である。
【図11】セルを4つ直列に組み合わせたDMFCの実験機に、40wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。図2に、この発明に係る装置を適用したDMFC1の構成例を模式的に示してある。この発明に係るDMFC1は、相対的に高濃度のメタノール水溶液を貯留する高濃度燃料タンク2と、相対的に低濃度のメタノール水溶液を貯留するとともに発電部3から排出される二酸化炭素および不可避的に生じる未反応メタノールを分離する気液分離装置4とのいずれか一方から、燃料供給管路5を介して発電部3に燃料が供給されるように構成されている。
【0024】
この燃料供給管路5には三方向バルブ6が介装されており、三方向バルブ6の流路を切り替えることによって、発電部3に供給する燃料の供給源が切り替わるように構成されている。すなわち、三方向バルブ6の三つのポートは、それぞれ高濃度燃料タンク2、気液分離装置4、燃料供給管路5を介して発電部3に接続されている。また、三方向バルブ6には、その流路を切り替えるバルブ制御装置7が設けられており、DMFC1の発電量の変化もしくは所定の時間間隔に基づいてその流路を切り替えるようになっている。
【0025】
三方向バルブ6よりも下流側の燃料供給管路5には、言い換えれば、三方向バルブ6よりも発電部3側の燃料供給管路5には、燃料フィルタ8が介装されており、燃料に混入した微小な異物もしくは各構成部材などから生じる微小な異物を除去するようになっている。この燃料フィルタ8は、従来使用されている任意のもの(例えば、多孔質材料)であってよく、要は、メタノールに対する耐薬品性、耐腐食性を有し、発電部3における電気化学反応を阻害する微小な異物を除去できるものであればよい。
【0026】
燃料フィルタ8よりも下流側の燃料供給管路5には、マイクロポンプ9が介装されている。このマイクロポンプ9は、従来使用されている任意のものであってよく、要は高濃度燃料タンク2もしくは気液分離装置4に貯留された燃料を発電部3に送液できるものであればよい。
【0027】
マイクロポンプ9と発電部3との間の燃料供給管路5には、燃料供給源の切替により、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化を最小化するための燃料濃度緩衝装置10が介装されている。この燃料濃度緩衝装置10は、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化が所定範囲に収まるようになっており、具体的に説明すると、その内部には、ある程度希釈されたメタノール水溶液が貯留されており、例えば高濃度燃料タンク2から高濃度のメタノール水溶液が供給された場合に、そのある程度希釈されたメタノール水溶液によって高濃度メタノール水溶液を希釈して発電部3に供給するようになっている。要は、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化を緩衝(抑制)するようになっている。
【0028】
発電部3に供給されたメタノール水溶液は前述した(1)式および(2)式に示す電気化学反応をおこなって発電し、二酸化炭素および水を生じる。また、これらの電気化学反応は、その反応効率が100%になることは殆どないため、不可避的に未反応メタノール(いわゆる、オフメタノール)を生じる。これらの反応生成物および未反応メタノールは、排出口12から発電部3の外部に排出され、循環管路13を流動して前述した気液分離装置4に導入されるようになっている。
【0029】
気液分離装置4では、前述したように、二酸化炭素と未反応メタノールとが分離されるようになっており、具体的に説明すると、気体である二酸化炭素および液体である未反応メタノール(水を含む)は、気液分離装置4の内部に貯留された水に接触させられ、未反応メタノールを水に補足(溶解)させるようになっている。また、気液分離装置4の内部には、液体に比較して気体の透過性が高いePTFE膜のような分離膜(図示せず)が設けられており、この分離膜によって二酸化炭素が分離され、その分離された二酸化炭素は図示しない排気口からDMFC1の外部に排気されるようになっている。そして、補足された未反応メタノールは三方向バルブ6を介して発電部3に供給されるようになっている。また、発電部3には、ファン14が設けられており、酸化剤である酸素を発電部3のカソード側に強制的に供給できるようになっている。
【0030】
したがって、気液分離装置4から燃料(メタノール)が供給されるように三方向バルブ6を制御した場合には、未反応メタノールを含む低濃度メタノール水溶液が燃料供給管路5を流動して発電部3に供給され、すなわち、未反応メタノールが再利用するように循環回路が形成され、新たな燃料(高濃度メタノール水溶液)を追加せずに、発電を継続できるようになっている。
【0031】
図1に、前述したこの発明に係る装置を適用した発電部3の断面図を模式的に示してある。発電部3は、実質的な燃料電池に相当する部分であり、高分子電解質膜と電極とを一体化した膜・電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下、MEAと記す。)15を挟んでその両面側に集電板16,17がそれぞれ設けられており、これらをバイポーラープレート(燃料電池用双極板)18,19によって挟んで構成されている。
【0032】
バイポーラープレート18,19は、例えば合成樹脂もしくは合成樹脂と繊維との複合材料によって構成されるいわゆる繊維強化プラスチック(FRP)などによって形成されている。バイポーラープレート18,19の一方の面には、複数の蛇行した細溝形状の燃料供給チャンネル20が形成されており、その燃料供給チャンネル20にポンプ9によって送液されたメタノール水溶液を流動させ、MEA15にメタノールを供給するようになっている。また、他方の面には、互いに平行な複数の細溝形状の空気供給チャンネル21が形成されており、この空気供給チャンネル21にファン14を用いて空気を流通させてMEA15に酸化剤である酸素を供給するようになっている。
【0033】
したがって、バイポーラープレート18,19は、MEA15において、前述した(1)式および(2)式に示す電気化学反応にともなって生じた熱が伝達される位置に設けられるとともに、その一方の面に形成された燃料供給チャンネル20が、MEA15のアノード側に対向して配置されるようになっている。また、空気供給チャンネル21が形成された面が、MEA15のカソード側に対向して配置されるようになっている。
【0034】
MEA15とMEA15のアノード側に配置されたバイポーラープレート18との間に、言い換えれば、MEA15と燃料供給チャンネル20とに挟まれて、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜22が設けられている。気液分離膜22の一方の面はMEA15のアノード側に直接、接触して設けられており、他方の面は、燃料供給チャンネル20が形成されたバイポーラープレート18に直接、接触して設けられている。
【0035】
この気液分離膜22は、例えば延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)もしくはシリコン、ポリエチレンなどによって膜(フィルム)状に形成されている。また、この気液分離膜22は、疎水性を有していてもよく、その撥水作用によって液相の水およびメタノールを弾くようになっている。要は、液体よりも気体の透過性が高くなるように構成されている部材であればよい。
【0036】
図3に、気液分離膜22の構成例を模式的に示してある。図3に示した気液分離膜22は、液体に比較して相対的に気体の透過性(透過率)の高い膜22aを挟んでその両側に、その膜22aに比較して気体の透過性(透過率)が低い、もしくは高い膜22bが設けられている例を示してある。すなわち、気体透過性の異なる膜を用いて三層構造にすることにより、液体および気体の透過性を調整できるように構成されている。
【0037】
また、図4に、気液分離膜22の他の構成例を模式的に示してある。図4に示した気液分離膜22は、液体に比較して相対的に気体の透過性(透過率)の高い膜22aの一方の面に、その膜22aに比較して気体の透過性(透過率)が低い、もしくは高い膜22bが設けられている例を示してある。すなわち、図3および図4に示す構成によれば、気体の透過性が異なる膜を貼り合わせる(複合する)ことにより、気液分離膜22の液体および気体の透過性を調整できるように構成されている。言い換えれば、液体および気体の透過性が異なる膜を複合することにより、気液分離膜22を透過してMEA15に供給されるメタノール蒸気の供給量を調整できるように構成されている。
【0038】
図5に、メタノールと水との蒸気圧曲線を模式的に示してある。実線はメタノールの蒸気圧曲線を示しており、破断線は水の蒸気圧曲線を示している。DMFC1は、前述したように、アノードにおいて(1)式に示す触媒反応よってプロトンと電子とを生じ、これらがカソードに到達して(2)式に示す触媒反応を生じることによって発電をおこなうように構成されている。また、(1)式および(2)式に示した電気化学反応は、発熱反応であるから、DMFC1は発電にともなって熱を生じる。DMFC1の動作温度は、一般的に、40℃から80℃である。この一般的なDMFC1の動作温度範囲では、図5に示したように、水の蒸気圧はメタノールの蒸気圧に比較して低い。言い換えれば、この一般的なDMFC1の動作温度範囲では、メタノールは蒸気化されやすいが、水の蒸気化は生じ難い。
【0039】
図6は、前述した図1のように構成された発電部3の作用を説明するための模式図である。なお、図6に示す例は、前述した図1に示す構成の一部を変更したものであり、したがって図1に示す部分と同一の部分には図6に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
MEA15のアノード側とバイポーラープレート18の燃料供給チャンネル20との間に、前述した気液分離膜22が設けられている。バイポーラープレート18は、前述したように、電気化学反応にともなって生じた熱が伝達される位置に設けられている。そのため、発電にともなって生じた熱が燃料供給チャンネル20を流動するメタノール水溶液に伝達されると、前述した図5に示したように、蒸気圧の関係でメタノール水溶液中のメタノールが水に比較して、相対的に多く蒸気化される。その結果、高濃度化(濃縮)されたメタノール蒸気が、気液分離膜22を透過してMEA15に供給される。またあるいは、気液分離膜22は、MEA15に接触して設けられているので、その気液分離膜22でメタノール水溶液中のメタノールが蒸気化し、MEA15に供給される。
【0041】
さらにまた、MEA15では、前述した(1)式の触媒反応にともなって二酸化炭素が生じる。この二酸化炭素は、気液分離膜22を透過して、燃料供給チャンネル20に到達し、液相のメタノール水溶液の流動にともなって発電部3から排出される。発電部3から排出された二酸化炭素は、気液分離装置4に導入され、気相の二酸化炭素と液相の水および未反応メタノールとに分離され、二酸化炭素はDMFC1の外部に排出される。
【0042】
したがって、MEA15と燃料供給チャンネル20との間に気液分離膜22を設けることにより、気液分離膜22は、燃料供給チャンネル20から、もしくは気液分離膜22の表面から蒸気化されたメタノールをMEA15に供給できるとともに、発電にともなって生じた二酸化炭素を燃料供給チャンネル20に排出することができる。また、DMFC1の動作温度と、メタノールおよび水の蒸気圧の関係とにより、気液分離膜22は蒸気化されたメタノールを濃縮するように作用し、相対的に高濃度化されたメタノール蒸気をMEA15に供給することができ、DMFC1の発電性能を向上させることができる。
【実施例】
【0043】
図2に示したDMFC1の実験機を作製し、その発電量を評価した。高濃度燃料タンク2には、蒸留水で希釈した50〜100wt%のメタノール水溶液を貯留し、高濃度燃料とした。気液分離装置4には、蒸留水で希釈した0〜50wt%のメタノール水溶液を貯留し、低濃度燃料とした。気液分離膜22は、厚み200μmのシリコンフィルム(膜)を用いた。
【0044】
MEA15は、従来知られている構成のものを用いた。より具体的には、高分子電解質膜に、パーフルオロスルホン酸系高分子膜であるNafion112(登録商標)を用いた。電解質膜を挟んで、カソード側の触媒層(膜)には、白金を主成分として構成されたものを用いた。アノード側の触媒層(膜)には、白金と酸化ルテニウムとの等量混合物によって構成されたものを用いた。
【0045】
これらの触媒層における前述した電解質膜とは反対側の面には、それぞれガス拡散層としてカーボンクロスを配置した。カーボンクロスには、厚み1.0mmのものを用いた。
【0046】
各ガス拡散層における電解質膜側とは反対側の面に、それぞれ集電板16,17を配置した。この集電板16,17には、厚み0.5mmのチタン製のメッシュ構造体に白金メッキが施されたものを用いた。そして、これらの各層および集電板16,17を重ね合わせてホットプレス機で加熱加圧することにより、一体構造化した。MEA15のカソード側に、前述した気液分離膜22を配置し、これらをバイポーラープレート18,19によって挟んで、一体構造化して発電部3を形成した。
【0047】
図7に、前述した三方向バルブ6の切り替えパターンを模式的に示してある。図7に示したように、この三方向バルブ6は、直流電圧の正負を切り替えることによって、その流路を切り替えるように構成されている。より具体的には、図2に示したように構成したDMFC1の三方向バルブ6に正の直流電圧(+5VDC)を印加した場合に、高濃度燃料タンク2から高濃度のメタノール水溶液が発電部3に供給され、負の直流電圧(−5VDC)を印加した場合に、気液分離装置4から低濃度のメタノール水溶液(未反応メタノールを含む)が発電部3に供給されるようになっている。なお、高濃度のメタノール水溶液を供給する時間は0.1〜1.0秒に設定し、低濃度のメタノール水溶液を供給する時間は20〜300秒に設定した。
(評価)
【0048】
図8に、前述したように構成したDMFC1の実験機に、100wt%メタノール溶液を供給した場合の発電特性を模式的に示してある。DMFC1の実験機は、室温で稼働(発電)させた。図8において、実線aは、DMFC1から取り出す電流を変化させた場合におけるDMFC1の温度変化を示している。DMFC1から取り出す電流にかかわらず、DMFC1の温度がほぼ一定であることが認められた。すなわち、安定して発電(電気化学反応)が生じていることが認められた。また、実線bは、DMFC1の電流電圧特性を示しており、電流の増大とともに電圧が低下することが認められた。実線cは、DMFC1の出力特性を示しており、100%メタノール溶液を供給し、その動作温度が50℃の場合に、約23mW/cm2の出力が認められた。
【0049】
図9に、前述したように構成したDMFC1の実験機に、70wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示してある。気液分離膜22には、厚み50μmのシリコンフィルムを用い、室温で稼働(発電)させた。図9において、実線dは、DMFC1の温度変化を示しており、長時間連続して発電させてもその動作温度がほぼ一定であることが認められた。実線eは、実験機の発電量を示しており、長時間連続して発電しても、出力電力の低下が認められなかった。破断線fは、図10に示す従来構成のDMFC1の発電量を示しており、その出力電力が次第に低下することが認められた。これは、クロスオーバー現象が生じることにより、発電効率が低下し、またクロスオーバー現象に伴う発熱により、ある程度短時間で触媒が劣化するためである。すなわち、気液分離膜22をMEA15のアノード側に接触して設けることにより、高濃度に濃縮されたメタノール蒸気をMEA15に供給できるとともに、二酸化炭素の排出量を増大させることができ、その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電特性を向上できることが認められた。
【0050】
図11に、DMFC1のセル(MEA15に相当する)を4つ直列に組み合わせた実験機に、40wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示してある。気液分離膜22には、平均孔径3.5μm、厚み50μmのePTFE膜を用いた。実線gは、実験機の発電量を示しており、長時間連続して発電しても、出力電力の低下がほとんど認められなかった。破断線hは、気液分離膜22を除いた従来構成の4セルDMFC1の発電量を示しており、時間の経過とともにその発電量が低下することが認められた。これは、クロスオーバー現象が生じることにより、発電効率が低下し、またクロスオーバー現象に伴う発熱により、ある程度短時間で触媒が劣化するためである。すなわち、気液分離膜22をMEA15のアノード側に接触して設けることにより、高濃度に濃縮されたメタノール蒸気をMEA15に供給できるとともに、二酸化炭素の排出量を増大させることができ、その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電特性を向上できることが認められた。
【0051】
したがって、この発明によれば、液相のメタノールに比較して気相のメタノールの透過性が高い気液分離膜22が、MEA15のアノード側と燃料供給チャンネル20との間に設けられるので、蒸気化されたメタノールのみをMEA15に供給でき、また、発電にともなって生成した二酸化炭素を気液分離膜22を透過させて燃料供給チャンネル20から、発電部3の外部に排出することができる。言い換えれば、高濃度のメタノールを供給でき、また、二酸化炭素の排出量を増大させることができる。その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電量を向上させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…DMFC、 3…発電部、 15…膜・電極接合体(MEA)、 18…バイポーラープレート、 20…燃料供給チャンネル、 22…気液分離膜。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池に燃料を供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸素との電気化学反応のエネルギを電力に変換する装置である。そのため、燃料電池は、バッテリと異なり、燃料および酸化剤である酸素の供給が継続されている間は、発電を継続することができる。特に、常温で液体のメタノールを燃料として用いるダイレクトメタノール型の燃料電池(以下、DMFCと記す。)は、その動作温度が他の燃料電池に比較して低温であり、また、発電効率が高いことから、今後、小型携帯機器用電源として有望視されている。
【0003】
DMFCは、アノードにおいて下記の(1)式に示したように、触媒を介してメタノールが酸化されてプロトンと電子とを生成し、そのプロトンと電子とが外部回路および電荷質膜を透過してカソードに到達し、そのカソードにおいて下記の(2)式に示したように、触媒を介して酸素の還元反応を生じることにより発電をおこなうように構成されている。
【0004】
アノードにおける触媒反応
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e− …(1)式
【0005】
カソードにおける触媒反応
3/2O2 + 6H+ + 6e− → 3H2O …(2)式
【0006】
ところで、DMFCは、燃料の供給方法によって、液体供給型と蒸気(気体)供給型とに大別することができる。液体供給型のDMFCは、液相のメタノール水溶液を直接、膜・電極接合体に供給するように構成されている。そのため、メタノールのクロスオーバー現象を低減させるために、予め定め低濃度に調整されたメタノール水溶液を供給する必要があり、また、発電量を向上させるためには、ポンプなどを用いて供給量を増大させる必要がある。その結果、低濃度かつ多量のメタノール水溶液を貯留するための燃料タンクおよびポンプなどが必要になり、装置が大型化する虞がある。
【0007】
一方、蒸気供給型のDMFCは、加熱して蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給するように構成されている。そのため、この蒸気供給型のDMFCは、液体供給型のDMFCに比較して、高濃度のメタノールを膜・電極接合体に供給することができる。またこれにより、蒸気供給型のDMFCは、液体供給型に比較して上記の(2)式に示す反応が増大して、その発電量を向上させることができる。しかしながら、蒸気供給型のDMFCは、燃料であるメタノールを蒸気化させるための構成および蒸気化したメタノールを膜・電極接合体に輸送するためのブロアなどの構成が必要であり、結果的にその装置構成が複雑になり、また、装置が大型化する虞がある。
【0008】
したがって、その構成を簡素化することが従来検討されており、その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、膜・電極接合体の燃料極に隣接して設けられた燃料蒸気化層に液相の燃料を毛管力によって供給し、その液相の燃料を蒸気化させて膜・電極接合体の内部に導入するように構成された発明が記載されている。
【0009】
また、特許文献2および3には、選択的にメタノールを透過させる膜を用いてメタノール水溶液を濃縮し、その濃度が高められたメタノールを蒸気化して膜・電極接合体に供給するように構成された発明が記載されている。
【0010】
さらにまた、DMFCの周辺技術として特許文献4には、膜・電極接合体とメタノールを蒸気化させる蒸気化部との間にシャッターを設け、このシャッターの開閉により、膜・電極接合体に供給する蒸気化させたメタノールの供給量を制御するように構成された発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6447941号明細書
【特許文献2】米国特許第7407721号明細書
【特許文献3】米国特許第6630266号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0202291号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献1に記載された発明によれば、蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給できる。しかしながら、特許文献1に記載された構成では、メタノールを蒸気化させる蒸気化層の他に、この蒸気化層に毛管力によって液相のメタノールを供給する構成が必要である。これらの構成は各セルユニットにそれぞれ設ける必要があり、したがって、DMFC全体の構成が複雑になる虞があり、この点で改良の余地があった。
【0013】
また特許文献2および3に記載された発明によれば、選択的透過膜を用いることによって、膜・電極接合体に供給するメタノールの濃度を増大させることができる。しかしながら、特許文献2および3に記載された構成では、選択的透過膜によってメタノールを濃縮し、その後、蒸気化させて膜・電極接合体に供給するので、その構成が複雑になる虞があり、この点で改良の余地があった。
【0014】
さらにまた特許文献4に記載された発明によれば、シャッターの開閉を制御することにより、膜・電極接合体に供給するメタノールの供給量を制御できる。しかしながら、特許文献4に記載された構成では、DMFC全体の大型化を招く虞があり、この点で改良の余地があった。
【0015】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、装置を大型化させずに、蒸気化させたメタノールを膜・電極接合体に供給し、発電量を増大させることができるダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体のアノード側に供給する燃料供給チャンネルが形成されたプレートを備えたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、前記膜・電極接合体と、前記プレートとの間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜が挟まれて設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子により形成された合成高分子膜を含むことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【0018】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記合成高分子は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンを含むことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、膜・電極接合体と燃料供給チャンネルが形成されたプレートとによって気液分離膜が挟まれて設けられている。そのため、燃料供給チャンネルを流動する液相のメタノールが膜・電極接合体の熱で蒸気化されると、もしくは、気液分離膜の表面で液相のメタノールが蒸気化されると、その蒸気化されたメタノールのみが、気液分離膜を透過して膜・電極接合体に供給される。すなわち、濃縮されたメタノール蒸気が膜・電極接合体に供給されることになるので、発電量を増大(向上)させることができる。また、膜・電極接合体におけるメタノールの酸化反応で生成した二酸化炭素は、気液分離膜を透過して燃料供給チャンネルに排出される。すなわち、膜・電極接合体のアノード側に気液分離膜を接触して設けることにより、二酸化炭素の排出を容易にでき、発電量を増大(向上)させることができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子によって形成されているから、気液分離膜を多層構造にするなどの設計の自由度を向上できる。また、コスト低減を図ることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、気液分離膜は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンであるから、耐薬品性、耐腐食性を備えた膜とすることができる。また、気液分離膜を延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンによって形成した場合には、その開孔径、膜厚、多層構造とするなど気液分離膜の設計の自由度(あるいは制御性)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る装置を適用した発電部の断面図を模式的に示す図である。
【図2】この発明に係る装置を適用したDMFCの構成例を模式的に示す図である。
【図3】気液分離膜の構成例を模式的に示す図である。
【図4】気液分離膜の他の構成例を模式的に示す図である。
【図5】メタノールと水との蒸気圧曲線を模式的に示す図である。
【図6】図1のように構成された発電部の作用を説明するための模式図である。
【図7】三方向バルブの切り替えパターンを模式的に示す図である。
【図8】図1に示したように構成したDMFCの実験機に、100wt%メタノール溶液を供給した場合の発電特性を模式的に示す図である。
【図9】図1に示したように構成したDMFCの実験機に、70wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電特性を模式的に示す図である。
【図10】従来構成のDMFCを模式的に示す図である。
【図11】セルを4つ直列に組み合わせたDMFCの実験機に、40wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。図2に、この発明に係る装置を適用したDMFC1の構成例を模式的に示してある。この発明に係るDMFC1は、相対的に高濃度のメタノール水溶液を貯留する高濃度燃料タンク2と、相対的に低濃度のメタノール水溶液を貯留するとともに発電部3から排出される二酸化炭素および不可避的に生じる未反応メタノールを分離する気液分離装置4とのいずれか一方から、燃料供給管路5を介して発電部3に燃料が供給されるように構成されている。
【0024】
この燃料供給管路5には三方向バルブ6が介装されており、三方向バルブ6の流路を切り替えることによって、発電部3に供給する燃料の供給源が切り替わるように構成されている。すなわち、三方向バルブ6の三つのポートは、それぞれ高濃度燃料タンク2、気液分離装置4、燃料供給管路5を介して発電部3に接続されている。また、三方向バルブ6には、その流路を切り替えるバルブ制御装置7が設けられており、DMFC1の発電量の変化もしくは所定の時間間隔に基づいてその流路を切り替えるようになっている。
【0025】
三方向バルブ6よりも下流側の燃料供給管路5には、言い換えれば、三方向バルブ6よりも発電部3側の燃料供給管路5には、燃料フィルタ8が介装されており、燃料に混入した微小な異物もしくは各構成部材などから生じる微小な異物を除去するようになっている。この燃料フィルタ8は、従来使用されている任意のもの(例えば、多孔質材料)であってよく、要は、メタノールに対する耐薬品性、耐腐食性を有し、発電部3における電気化学反応を阻害する微小な異物を除去できるものであればよい。
【0026】
燃料フィルタ8よりも下流側の燃料供給管路5には、マイクロポンプ9が介装されている。このマイクロポンプ9は、従来使用されている任意のものであってよく、要は高濃度燃料タンク2もしくは気液分離装置4に貯留された燃料を発電部3に送液できるものであればよい。
【0027】
マイクロポンプ9と発電部3との間の燃料供給管路5には、燃料供給源の切替により、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化を最小化するための燃料濃度緩衝装置10が介装されている。この燃料濃度緩衝装置10は、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化が所定範囲に収まるようになっており、具体的に説明すると、その内部には、ある程度希釈されたメタノール水溶液が貯留されており、例えば高濃度燃料タンク2から高濃度のメタノール水溶液が供給された場合に、そのある程度希釈されたメタノール水溶液によって高濃度メタノール水溶液を希釈して発電部3に供給するようになっている。要は、発電部3に供給するメタノール水溶液の濃度変化を緩衝(抑制)するようになっている。
【0028】
発電部3に供給されたメタノール水溶液は前述した(1)式および(2)式に示す電気化学反応をおこなって発電し、二酸化炭素および水を生じる。また、これらの電気化学反応は、その反応効率が100%になることは殆どないため、不可避的に未反応メタノール(いわゆる、オフメタノール)を生じる。これらの反応生成物および未反応メタノールは、排出口12から発電部3の外部に排出され、循環管路13を流動して前述した気液分離装置4に導入されるようになっている。
【0029】
気液分離装置4では、前述したように、二酸化炭素と未反応メタノールとが分離されるようになっており、具体的に説明すると、気体である二酸化炭素および液体である未反応メタノール(水を含む)は、気液分離装置4の内部に貯留された水に接触させられ、未反応メタノールを水に補足(溶解)させるようになっている。また、気液分離装置4の内部には、液体に比較して気体の透過性が高いePTFE膜のような分離膜(図示せず)が設けられており、この分離膜によって二酸化炭素が分離され、その分離された二酸化炭素は図示しない排気口からDMFC1の外部に排気されるようになっている。そして、補足された未反応メタノールは三方向バルブ6を介して発電部3に供給されるようになっている。また、発電部3には、ファン14が設けられており、酸化剤である酸素を発電部3のカソード側に強制的に供給できるようになっている。
【0030】
したがって、気液分離装置4から燃料(メタノール)が供給されるように三方向バルブ6を制御した場合には、未反応メタノールを含む低濃度メタノール水溶液が燃料供給管路5を流動して発電部3に供給され、すなわち、未反応メタノールが再利用するように循環回路が形成され、新たな燃料(高濃度メタノール水溶液)を追加せずに、発電を継続できるようになっている。
【0031】
図1に、前述したこの発明に係る装置を適用した発電部3の断面図を模式的に示してある。発電部3は、実質的な燃料電池に相当する部分であり、高分子電解質膜と電極とを一体化した膜・電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下、MEAと記す。)15を挟んでその両面側に集電板16,17がそれぞれ設けられており、これらをバイポーラープレート(燃料電池用双極板)18,19によって挟んで構成されている。
【0032】
バイポーラープレート18,19は、例えば合成樹脂もしくは合成樹脂と繊維との複合材料によって構成されるいわゆる繊維強化プラスチック(FRP)などによって形成されている。バイポーラープレート18,19の一方の面には、複数の蛇行した細溝形状の燃料供給チャンネル20が形成されており、その燃料供給チャンネル20にポンプ9によって送液されたメタノール水溶液を流動させ、MEA15にメタノールを供給するようになっている。また、他方の面には、互いに平行な複数の細溝形状の空気供給チャンネル21が形成されており、この空気供給チャンネル21にファン14を用いて空気を流通させてMEA15に酸化剤である酸素を供給するようになっている。
【0033】
したがって、バイポーラープレート18,19は、MEA15において、前述した(1)式および(2)式に示す電気化学反応にともなって生じた熱が伝達される位置に設けられるとともに、その一方の面に形成された燃料供給チャンネル20が、MEA15のアノード側に対向して配置されるようになっている。また、空気供給チャンネル21が形成された面が、MEA15のカソード側に対向して配置されるようになっている。
【0034】
MEA15とMEA15のアノード側に配置されたバイポーラープレート18との間に、言い換えれば、MEA15と燃料供給チャンネル20とに挟まれて、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜22が設けられている。気液分離膜22の一方の面はMEA15のアノード側に直接、接触して設けられており、他方の面は、燃料供給チャンネル20が形成されたバイポーラープレート18に直接、接触して設けられている。
【0035】
この気液分離膜22は、例えば延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)もしくはシリコン、ポリエチレンなどによって膜(フィルム)状に形成されている。また、この気液分離膜22は、疎水性を有していてもよく、その撥水作用によって液相の水およびメタノールを弾くようになっている。要は、液体よりも気体の透過性が高くなるように構成されている部材であればよい。
【0036】
図3に、気液分離膜22の構成例を模式的に示してある。図3に示した気液分離膜22は、液体に比較して相対的に気体の透過性(透過率)の高い膜22aを挟んでその両側に、その膜22aに比較して気体の透過性(透過率)が低い、もしくは高い膜22bが設けられている例を示してある。すなわち、気体透過性の異なる膜を用いて三層構造にすることにより、液体および気体の透過性を調整できるように構成されている。
【0037】
また、図4に、気液分離膜22の他の構成例を模式的に示してある。図4に示した気液分離膜22は、液体に比較して相対的に気体の透過性(透過率)の高い膜22aの一方の面に、その膜22aに比較して気体の透過性(透過率)が低い、もしくは高い膜22bが設けられている例を示してある。すなわち、図3および図4に示す構成によれば、気体の透過性が異なる膜を貼り合わせる(複合する)ことにより、気液分離膜22の液体および気体の透過性を調整できるように構成されている。言い換えれば、液体および気体の透過性が異なる膜を複合することにより、気液分離膜22を透過してMEA15に供給されるメタノール蒸気の供給量を調整できるように構成されている。
【0038】
図5に、メタノールと水との蒸気圧曲線を模式的に示してある。実線はメタノールの蒸気圧曲線を示しており、破断線は水の蒸気圧曲線を示している。DMFC1は、前述したように、アノードにおいて(1)式に示す触媒反応よってプロトンと電子とを生じ、これらがカソードに到達して(2)式に示す触媒反応を生じることによって発電をおこなうように構成されている。また、(1)式および(2)式に示した電気化学反応は、発熱反応であるから、DMFC1は発電にともなって熱を生じる。DMFC1の動作温度は、一般的に、40℃から80℃である。この一般的なDMFC1の動作温度範囲では、図5に示したように、水の蒸気圧はメタノールの蒸気圧に比較して低い。言い換えれば、この一般的なDMFC1の動作温度範囲では、メタノールは蒸気化されやすいが、水の蒸気化は生じ難い。
【0039】
図6は、前述した図1のように構成された発電部3の作用を説明するための模式図である。なお、図6に示す例は、前述した図1に示す構成の一部を変更したものであり、したがって図1に示す部分と同一の部分には図6に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
MEA15のアノード側とバイポーラープレート18の燃料供給チャンネル20との間に、前述した気液分離膜22が設けられている。バイポーラープレート18は、前述したように、電気化学反応にともなって生じた熱が伝達される位置に設けられている。そのため、発電にともなって生じた熱が燃料供給チャンネル20を流動するメタノール水溶液に伝達されると、前述した図5に示したように、蒸気圧の関係でメタノール水溶液中のメタノールが水に比較して、相対的に多く蒸気化される。その結果、高濃度化(濃縮)されたメタノール蒸気が、気液分離膜22を透過してMEA15に供給される。またあるいは、気液分離膜22は、MEA15に接触して設けられているので、その気液分離膜22でメタノール水溶液中のメタノールが蒸気化し、MEA15に供給される。
【0041】
さらにまた、MEA15では、前述した(1)式の触媒反応にともなって二酸化炭素が生じる。この二酸化炭素は、気液分離膜22を透過して、燃料供給チャンネル20に到達し、液相のメタノール水溶液の流動にともなって発電部3から排出される。発電部3から排出された二酸化炭素は、気液分離装置4に導入され、気相の二酸化炭素と液相の水および未反応メタノールとに分離され、二酸化炭素はDMFC1の外部に排出される。
【0042】
したがって、MEA15と燃料供給チャンネル20との間に気液分離膜22を設けることにより、気液分離膜22は、燃料供給チャンネル20から、もしくは気液分離膜22の表面から蒸気化されたメタノールをMEA15に供給できるとともに、発電にともなって生じた二酸化炭素を燃料供給チャンネル20に排出することができる。また、DMFC1の動作温度と、メタノールおよび水の蒸気圧の関係とにより、気液分離膜22は蒸気化されたメタノールを濃縮するように作用し、相対的に高濃度化されたメタノール蒸気をMEA15に供給することができ、DMFC1の発電性能を向上させることができる。
【実施例】
【0043】
図2に示したDMFC1の実験機を作製し、その発電量を評価した。高濃度燃料タンク2には、蒸留水で希釈した50〜100wt%のメタノール水溶液を貯留し、高濃度燃料とした。気液分離装置4には、蒸留水で希釈した0〜50wt%のメタノール水溶液を貯留し、低濃度燃料とした。気液分離膜22は、厚み200μmのシリコンフィルム(膜)を用いた。
【0044】
MEA15は、従来知られている構成のものを用いた。より具体的には、高分子電解質膜に、パーフルオロスルホン酸系高分子膜であるNafion112(登録商標)を用いた。電解質膜を挟んで、カソード側の触媒層(膜)には、白金を主成分として構成されたものを用いた。アノード側の触媒層(膜)には、白金と酸化ルテニウムとの等量混合物によって構成されたものを用いた。
【0045】
これらの触媒層における前述した電解質膜とは反対側の面には、それぞれガス拡散層としてカーボンクロスを配置した。カーボンクロスには、厚み1.0mmのものを用いた。
【0046】
各ガス拡散層における電解質膜側とは反対側の面に、それぞれ集電板16,17を配置した。この集電板16,17には、厚み0.5mmのチタン製のメッシュ構造体に白金メッキが施されたものを用いた。そして、これらの各層および集電板16,17を重ね合わせてホットプレス機で加熱加圧することにより、一体構造化した。MEA15のカソード側に、前述した気液分離膜22を配置し、これらをバイポーラープレート18,19によって挟んで、一体構造化して発電部3を形成した。
【0047】
図7に、前述した三方向バルブ6の切り替えパターンを模式的に示してある。図7に示したように、この三方向バルブ6は、直流電圧の正負を切り替えることによって、その流路を切り替えるように構成されている。より具体的には、図2に示したように構成したDMFC1の三方向バルブ6に正の直流電圧(+5VDC)を印加した場合に、高濃度燃料タンク2から高濃度のメタノール水溶液が発電部3に供給され、負の直流電圧(−5VDC)を印加した場合に、気液分離装置4から低濃度のメタノール水溶液(未反応メタノールを含む)が発電部3に供給されるようになっている。なお、高濃度のメタノール水溶液を供給する時間は0.1〜1.0秒に設定し、低濃度のメタノール水溶液を供給する時間は20〜300秒に設定した。
(評価)
【0048】
図8に、前述したように構成したDMFC1の実験機に、100wt%メタノール溶液を供給した場合の発電特性を模式的に示してある。DMFC1の実験機は、室温で稼働(発電)させた。図8において、実線aは、DMFC1から取り出す電流を変化させた場合におけるDMFC1の温度変化を示している。DMFC1から取り出す電流にかかわらず、DMFC1の温度がほぼ一定であることが認められた。すなわち、安定して発電(電気化学反応)が生じていることが認められた。また、実線bは、DMFC1の電流電圧特性を示しており、電流の増大とともに電圧が低下することが認められた。実線cは、DMFC1の出力特性を示しており、100%メタノール溶液を供給し、その動作温度が50℃の場合に、約23mW/cm2の出力が認められた。
【0049】
図9に、前述したように構成したDMFC1の実験機に、70wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示してある。気液分離膜22には、厚み50μmのシリコンフィルムを用い、室温で稼働(発電)させた。図9において、実線dは、DMFC1の温度変化を示しており、長時間連続して発電させてもその動作温度がほぼ一定であることが認められた。実線eは、実験機の発電量を示しており、長時間連続して発電しても、出力電力の低下が認められなかった。破断線fは、図10に示す従来構成のDMFC1の発電量を示しており、その出力電力が次第に低下することが認められた。これは、クロスオーバー現象が生じることにより、発電効率が低下し、またクロスオーバー現象に伴う発熱により、ある程度短時間で触媒が劣化するためである。すなわち、気液分離膜22をMEA15のアノード側に接触して設けることにより、高濃度に濃縮されたメタノール蒸気をMEA15に供給できるとともに、二酸化炭素の排出量を増大させることができ、その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電特性を向上できることが認められた。
【0050】
図11に、DMFC1のセル(MEA15に相当する)を4つ直列に組み合わせた実験機に、40wt%メタノール水溶液が供給されるように調整した場合の発電量を模式的に示してある。気液分離膜22には、平均孔径3.5μm、厚み50μmのePTFE膜を用いた。実線gは、実験機の発電量を示しており、長時間連続して発電しても、出力電力の低下がほとんど認められなかった。破断線hは、気液分離膜22を除いた従来構成の4セルDMFC1の発電量を示しており、時間の経過とともにその発電量が低下することが認められた。これは、クロスオーバー現象が生じることにより、発電効率が低下し、またクロスオーバー現象に伴う発熱により、ある程度短時間で触媒が劣化するためである。すなわち、気液分離膜22をMEA15のアノード側に接触して設けることにより、高濃度に濃縮されたメタノール蒸気をMEA15に供給できるとともに、二酸化炭素の排出量を増大させることができ、その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電特性を向上できることが認められた。
【0051】
したがって、この発明によれば、液相のメタノールに比較して気相のメタノールの透過性が高い気液分離膜22が、MEA15のアノード側と燃料供給チャンネル20との間に設けられるので、蒸気化されたメタノールのみをMEA15に供給でき、また、発電にともなって生成した二酸化炭素を気液分離膜22を透過させて燃料供給チャンネル20から、発電部3の外部に排出することができる。言い換えれば、高濃度のメタノールを供給でき、また、二酸化炭素の排出量を増大させることができる。その結果、従来構成のDMFC1に比較して、発電量を向上させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…DMFC、 3…発電部、 15…膜・電極接合体(MEA)、 18…バイポーラープレート、 20…燃料供給チャンネル、 22…気液分離膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体のアノード側に供給する燃料供給チャンネルが形成されたプレートを備えたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、
前記膜・電極接合体と、前記プレートとの間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜が挟まれて設けられている
ことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項2】
前記気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子により形成された合成高分子膜を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項3】
前記合成高分子は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンを含むことを特徴とする請求項2に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項1】
メタノール水溶液を燃料とし、そのメタノール水溶液を膜・電極接合体のアノード側に供給する燃料供給チャンネルが形成されたプレートを備えたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、
前記膜・電極接合体と、前記プレートとの間に、液体に比較して気体の透過性が高い気液分離膜が挟まれて設けられている
ことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項2】
前記気液分離膜は、疎水性を有する合成高分子により形成された合成高分子膜を含むことを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項3】
前記合成高分子は、膜状に形成された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンもしくはシリコンあるいはポリエチレンを含むことを特徴とする請求項2に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−129431(P2011−129431A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288228(P2009−288228)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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